著者
森迫 昭光 武井 重人 松本 光功
出版者
信州大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2000

本研究は、磁気異方性の大きな材料であり、化学的に安定な酸化物である六方晶フェライト薄膜を高密度垂直磁気記録媒体として、低雑音化・高記録分解能化のために磁性粒子の微細化を主な目的として行ったものである。具体的にはバリウムフェライトやストロンチウムフェライト薄膜に注目して、添加元素や下地層に関する検討を行ったものである。その結果、バリウムフェライト薄膜にビスマスを添加することにより、結晶化温度の低減化可能であり、しかも粒子の微細化が可能であることが明らかになった。保磁力は3.7kOe程度と比較的大きな値ではあるが、今後の高密度記録媒体としては不十分な値であった。従来は、バリウムフェライト薄膜の下地層としては基板界面における拡散層の影響をさけるため、非晶質層を用いていた。ここでは磁化容易軸である六方晶系のc軸配向を促進する目的で、ヘテロエピタキシ効果を期待できるc軸配向した窒化アルミ層を下地層として用いた。その結果、c軸配向性に優れ、粒子サイズも40〜60nmまで抑制された、バリウムフェラィト/窒化アルミ2層膜を形成できた。そして保磁力も4.5kOeと高保磁力化が可能となった。しかしながら下地層の窒素の拡散に問題点が見いだされた。そこで、下地層として非晶質の酸化アルミ薄膜を用いた場合、観察される粒子の大きさは20〜40nmにまで微細化が可能であった。これを磁気力顕微鏡で観察した結果40nm程度のクラスターとして観察された。粒子間の磁気的な結合は主に静磁結合であった。ビスマス添加のバリウムフェライト薄膜ハードディスクについては、記録分解能をD5Oで評価すると、210〜230frpiと高密度記録の可能性をが明らかになった。
著者
池田 昌之
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

中生代三畳-ジュラ系遠洋性層状チャートの層厚変動がミランコビッチサイクルと呼ばれる地球軌道要素変動に伴う日射量分布変動を反映した事を明らかにした(Ikeda et al., 2010a EPSL : 2010b ESF).今年度は,ミランコビッチサイクルが層状チャートの堆積リズムに反映されたメカニズムを解明するため,チャート・頁岩単層単位で連続的に元素分析を行い,層厚変動の要因を検討した.その結果,チャート層厚は生物源シリカの埋没速度を反映したことを明らかにした.さらに,層状チャート中の生物源シリカの全球的な堆積速度を推定した.その結果,現在の全海洋に堆積する生物源シリカの堆積速度と同程度から倍以上にも相当した.海洋に堆積する生物源シリカは溶存シリカの主要シンクであるため,この結果から,中生代以前においては層状チャートが海洋の溶存シリカの主要シンクであることを示した.一方,海洋の溶存シリカの主要ソースは陸域のケイ酸塩風化速度変動であるため,これが層状チャート中の生物源シリカの埋没速度の変動要因であった可能性を示唆した.天文学的周期におけるケイ酸塩風化速度変動は夏モンスーンに駆動されることが気候モデル(Kutzbuch,1994,2008)により示されている.これらのことから,天文学的周期における夏モンスーン強度変動でケイ酸塩風化速度が変動し,海洋への溶存シリカの供給量が変動した結果,層状チャートとして堆積する生物源シリカの埋没速度が変動し,層状チャートの堆積リズムが形成されたというモデルを提唱した.このモデルをペルム紀末大量絶滅からの回復過程にあたる下部-中部三畳系に適用した。その結果,前期三畳紀の生物源シリカの埋没速度は異常に高く,その後,中期三畳紀にかけて減少したことから,回復過程において陸域ケイ酸塩風化速度が徐々に弱まった可能性を示した.さらに,地層の周期を年代目盛としてサイクル層序を構築すると共に,長周期日射量変動と古環境変動,生物多様性変動との関連性の検討,およびその日射量変動の周期変調から太陽系惑星運動のカオス的挙動の意義について研究している.
著者
紅野 謙介 GO Young Ran
出版者
日本大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2004

昨年に引き続き、日本と韓国の国会図書館に所蔵されているSCAPの朝鮮と日本での検閲資料を調べた。その成果の一部を韓国と日本の全国学会で発表した。韓国日語日文学会 夏季国際学術大会(韓国、国立全北大学、2005・6・18)で、「占領とマイノリティをめぐる言説編成-『新日本文学』における「眼の色」論争」について発表した。韓国では、東アジアの冷戦構図を露呈させて朝鮮戦争と五〇年問題の渦の中で、SCAP(アメリカ)への対抗を共通の基盤として持っていた共闘の言説について、歴史的な過程を見すえることなく、抵抗する主体・共闘する主体のみを浮上させることの危険性について議論した。本研究は、日本と韓国の研究の死角になっていた「在日の朝鮮人」、特に金達寿・許南麒ら朝鮮人文学者は、日米講和条約への反対運動で見いだされた被圧迫民族としての日本人の表象を模索する過程の中で誕生したことを明らかにした。また、SCAPの検閲のモデルだといわれる日本帝国の検閲システムと文学の関係について調べた。その中でも、1930年前後の植民地朝鮮のハングルの書物が、日本帝国の支配地域別の検閲制度の差異を利用し、上海や東京などで出版され朝鮮へ輸入されていったことがわかった。その代表的な例として、中野重治「雨の降る品川駅」(『改造』一九二九・二)と、その朝鮮語訳が掲載された雑誌『無産者』(同年五月、東京で発行されたハングル雑誌)に注目した。この調査の成果は、日本近代文学会秋季大会(國學院大學、2005・10・23)「フィクショナルな禁止-ジェンダー・セクシュアリティ・民族表象をめぐる抵抗と共犯」というパネルで「戦略としての「朝鮮」表象」というタイトルで発表した。
著者
川那部 浩哉 西平 守孝 甲山 隆司 阿部 琢哉 和田 英太郎 東 正彦
出版者
京都大学
雑誌
総合研究(B)
巻号頁・発行日
1994

地球の温暖化や生物多様性の喪失など、地球環境問題の深刻化に伴い、生態科学が答えるべき社会的課題は大きくなっている。そこで「生物と佳境と相互作用」、「多様な生物間の複雑な関係」、「生物の進化と多様性」など、マクロなレベルでの生命現象の解明をめざすと共に、生態科学の立場から環境問題の解決に貢献できる体制を作る第一段階として、京都大学の生態学研究センターが1991年に設置された。さらにこれを発展させるべく、1992年に日本生態学会は国立生態科学研究所構想第7次案をまとめた。本研究は7次案の主な課題である「Center of Excellence」、「人事の流動と活性化」、「人と情報のネットワーク」、「国際的高等教育機関」、「本格的な共同研究を推進できる体制」などを全く新しいタイプのネットワークの構築を通して実現する道を提示することを目的として行われた。具体的な方法としては、研究会を開いて以下の項目を検討した。1)具体的な当面の最大の共通テーマ2)本格的な共同研究を推進するための、コアとなる組織と研究機関のネットワークの全体構造3)人事の流動化と活性化を促進メカニズムに関する斬新なアイデア4)共同利用を必要とする、これからの生態科学にとって最も有用な研究施設5)研究機関のネットワークの具体化6)生態学研究の飛躍的発展のためのPost Doc層の最大活用化7)国際対応できる生態科学における大学院教育のカリキュラム作成8)国際共同研究推進と有機的に連動した大学院生の国際交流検討結果を整理し、「国立バイスフィア研究ネットワーク構想」としてまとめた。この構想案は、生態学の研究を有効に進める新しい研究機関の設立を含めた、研究機関のネットワークを実現化するひとつの具体的な道のりを示すものである。
著者
松井 伸也 柳沢 卓
出版者
北海道情報大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

粘性流体を記述する基礎方程式Navier--Stokes方程式の特異摂動を研究するため,Navier--Stokes方程式の構造の解析およびその特異摂動方程式としてのPrandtl方程式の構造の解析を計画した.共同研究者の柳沢先生(奈良女子大学)とは,Prandtl方程式の特異解・(非圧縮性)Navier--Stokes方程式の解の微分可能性・圧縮性Navier--Stokes方程式のゼロ粘性極限について,様々な議論を行った.具体的な論文にはならなかったが,Prandtl方程式についてのお互いの認識,特に非定常Prndtl方程式の解の存在定理の予想しうる形について等,を新たにしたものがあった.また儀我先生(北海道大学),石村先生(一橋大学)とも共同研究を行い次の結果を得た.儀我先生とは,有界な初期値から始まるNavier--Stokes方程式の解について,今まで知られていなかった解の時間的局所存在・一意性・2次元の時間的大域解の存在を示した.さらに半線形放物型方程式のBlow up rateを複雑なBoot strap methodを使い計算した(準備中).直接流体とは関係のない方程式であるが,この研究が放物型方程式の解にたいする特異性解析の解析手段を得ることに役に立つ事は疑いようの無いことである.石村先生とはPrandtl方程式の自己相似解(Blasius解)が爆発する場合を取り扱い,詳しいBlow up rateを計算した(投稿中).なお投稿中の論文は(with N.Ishimura) On blowing--up solutions of the Blasius equation である.準備中の論文は(with Y.Giga and T.Sasayama) Blow up rate for a semilinear heat equation with subcritical nonlinearityである.
著者
関口 博之 八村 広三郎 崔 雄 古川 耕平
出版者
立命館大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

布の表現モデルとして今日広く用いられている、「バネ=質点モデル」の妥当性を検証するとともに、新しい布表現モデルの検討を行った。サテン、縮緬(ちりめん)、日本舞踊衣装(今回は振袖生地を使用)の3種類の生地について、モータとソレノイドを用いて外力を加えたときの布を動きを、光学モーションキャプチャシステムを用いて取得した。それぞれの生地の実際の動きと、バネ=質点モデルを用いて生成した布の動きを、生地に付けた反射マーカーの座標値をもとに比較した。その結果、縮緬のような薄く、柔らかな生地に対しては質点質量やバネ係数の変更によりバネ=質点モデルでほぼ近似することが可能であることがわかった。一方、我々がターゲットとする、振袖のような厚みのある固い生地に対しては、この種の生地で生じる、部分的な折れ曲がり現象を再現できず、従来のバネ=質点モデルによるシミュレーションには限界があることがわかった。そこで、このような生地に対する新しいモデルの開発に着手した。基本的なアイデアとして、従来モデルのように布全体を質点の集合として表すのではなく、不定型な剛体の集合体として表すことを考えた。これを検証するために、まず、互いにリンクさせた剛体の動作検証プログラムをマリオネットを題材として作成した。次のステップでは、このプログラム上で、布を剛体のリンク構造として表したモデルの動作シミュレーションを行い、その挙動を見ながらモデルの改良をを進めていく。
著者
上田 一夫 三野 たまき 河村 まち子 間壁 治子
出版者
共立女子大学
雑誌
一般研究(A)
巻号頁・発行日
1993

従来より、衣服の着心地の定量化が望まれていた。我々は、本研究の中で新しい衣服圧計測システム(液圧平衡法)を確立した。このシステムで計測した衣服圧は着心地感とよく対応することがわかった。そこで、この衣服圧と皮下脂肪、体表の粘弾性、官能評価との関連を調べた。超音波診断装置を用いて腹部の皮下脂肪の厚さを調べたところ、ウエストベルトを装着すると、ベルト下では皮下脂肪の厚さが減り、ベルトの上下の体部位では厚くなった。これらの結果から、ベルト圧に皮下脂肪の厚さが寄与する割合を求めると、約30%であった。一方ベルト圧に体表の応力が寄与する割合は約65%であった。履き心地の良い紳士の靴下圧は、口ゴム部で10mmHg、足首では5〜10mmHgであった。好まれる成人婦人用ハイソックス圧は、静立時の下腿において5〜10mmHgであった。同一衣服素材を用いて作製したウエストベルトとウエストニッパーを着用した場合、ウエストライン上に発生した圧は、前者より後者を装着した時の方が高かった。浴衣を着た時、おじぎに伴う着くずれは、主として胸元、帯の上端、おはしょりの下端および右脇線上の4部位に生じた。静立位で1部位当たり20mmHg以上の圧が生じるように腰紐を結んだ場合、圧値が高くなる程ずれ量が増した。おじぎに伴うおはしょりのずれ量と圧の変化率の間には、ベキ法則が成り立つことが分かった。浴衣を着慣れる(50回着用する)と、腹部に発生する浴衣圧の値は、どの被験者でも着用回数の増加に伴って、7mmHg/部位に収束した。衣服による圧迫がいかに自律神経系の機能に影響を与えるかを考察した。例えば、種々の強度の上腕圧迫の影響を手掌の皮膚温応答を指標として調べたところ、むしろ弱い圧迫刺激(8mmHg程度)によって皮膚温が顕著に下降することが分かった。
著者
有本 昌代
出版者
関西学院大阪インターナショナルスクール
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2009

○研究目的 日本の公立学校に在籍する外国人児童生徒の数が増加し、特に教科学習に必要となる日本語の習得に課題を抱えている。しかしながら十分な教材がないため、本研究では年少者が教科学習へ移行するためのカリキュラム「JSL内容重視クロスカリキュラム」と、それに基づく4つのテキスト『環境問題編』『文化編』『生活編』『社会編』の作成と編集を行った。○研究方法 2006年に開発した教材を配布しフォードバックを得て教材の改善に取り組んだが、印刷物として教材を配布したためコスト面、配布面において非効率だったためホームページからダウンロードできる体制をとることで改善を試みた。インターネットを活用することで、教材試用に関するアンケートの回収も効率的に行えると考えた。○研究成果 2009年4月より教材の内容を編集し、2009年11月に「年少者のための日本語教育」に関するホームページを開設し、海外における年少者の言語教育、「JSL内容重視カリキュラム」の概要、同カリキュラムに関する教材のダウンロードのページを設けた。同ホームページを年少者の日本語教育に携わるメーリングリストに配信し、教材試用の協力者を募った。結果43人からの問い合わせがあり、20人からのフィードバックを得た。年少者(特に中学生)の日本語指導の教材はいまだ数が少なく、教科学習へつなげるための教材がないという現状において、本ホームページは成人の日本語教育とは異なる年少者の日本語教育の必要性を提案し、ホームページ上でその教材例をダウンロードできるという点において意義がある。しかしながら、初級レベルの日本語指導は指導文法が定まっているのに対し、教科学習へつなげるための日本語指導の場合、外国人生徒の国籍や日本滞在年数、教科学習の既習知識にかなりの幅やばらつきがあり、なかなか日本語の学習語彙や表現、教科の指導内容を限定することは難しく、また取り出し授業や放課後の日本語指導という体制のため、日本語指導の時間が不規則かつ、不十分な状況にあり、短期間で誰でも使えるよう本教材の内容の縮小化を試みる必要がある。全体として協力者からはこのような形で教材をダウンロードできるホームページはなく、非常に意義のある研究であったと評価を得た。
著者
斎藤 拓
出版者
東京農工大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

高分子フィルムの超臨界流体下における応力測定を可能にさせ、二酸化炭素圧力が高くなりフィルムへの含浸量が増加するのに伴い応力や弾性率が低下して延伸しやすくなることを定量的に明らかにした。ポリプロピレンを二酸化炭素雰囲気下の低温で熱延伸するとサイズが数十nmの微細なナノ空孔が形成され、超臨界二酸化炭素雰囲気下の高温で熱延伸すると結晶化度を著しく増大することを見出し、それらの高次構造形成メカニズムに関して小角X線散乱測定の解析結果などに基づいて明らかにした。このような結晶高次構造制御により多様な物性を有する材料が得られた。
著者
吉良 佳子
出版者
熊本大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

本研究は自己集合性脂質のキラル会合構造をもとに,その超分子特性やナノ繊維構造を生かした機能性材料の開発を目的としており,本年度はω-アミノアルキル化およびω-ピリジニルアルキル化L-グルタミン酸誘導体の優れた両親媒性や分子会合特性を評価し,これらのカチオン性自己組織化分子のキラルなホストとしての機能性およびテンプレートとしてのホスト機能性の評価を実施した。従来のL-グルタミン酸誘導体にはない優れた両親媒性はω-アミノアルキル化によって促進され,これはナノチューブやヘリックスなどの繊維状会合体を形成することで分散していると考えられる。一方で,ω-ピリジニルアルキル化では水やアセトニトリルなどの極性溶媒にのみ溶解するが,有機溶媒でもナノチューブを形成する珍しい例である。また,高次キラル会合体であることから溶媒環境によって特有のキラリティーを示すだけでなく,アキラル分子にも二次的にキラリティーを誘起でき,その機能性はアルキルスペーサー長によって異なる挙動を示した。さらに,ω-ピリジニルアルキル化L-グルタミン酸誘導体は水中で二分子膜構造からなるナノチューブを形成するため,膜内部の疎水性場にモノマーを取り込ませ,これを光照射で重合することでテンプレート剤としての機能性を評価している。このように,本研究で用いた両親媒性L-グルタミン酸誘導は不斉材料だけでなくナノ構造材料として十分に期待される。
著者
佐藤 竜一
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

本研究は,渓流食物網における窒素(N),リン(P)フローを生態学的化学量論の観点から解明するため,様々な底生動物種について,1.食物資源の元素比とその変異,2.栄養素要求(NとPのどちらにより生存,成長,発育が影響されやすいか),3.発育段階及び食物条件による体組織元素比の可塑性,4.回帰する栄養塩の特性(NとPの回帰速度),さらに5.栄養塩添加に対する,落葉リター,微細有機物,藻類のN:P比変化,6.渓流における各発育段階の底生動物種についてのバイオマスの季節変化を明らかにすることを目的とする。渓流における底生動物(シュレッダー)について,食物資源である落葉リターの元素比が,樹種や分解過程によって異なり(目的1),体組織の元素比との比較から,シュレッダーはPよりもNに対する要求度が高いことが示唆された(目的2)。またN:P比の異なる落葉リターを用いた飼育実験から,シュレッダーの元素比可塑性は食物条件よりも発育段階によるところが大きく(目的3),Pの回帰速度はその要求度が規定している可能性が示された(目的4)。さらに,栄養塩の添加によって落葉リターのN:P比,特にP含有率は変化した(目的5)。渓流食物網のエネルギー源として落葉リターが支配的であることから,シュレッダーから他の摂食機能群へのPフローの重要性が示唆されたため,本年度は目的6の達成とともに,シュレッダーについての追加実験を行うことでサンプル数を増やすこと,他の底生動物(コレクター,グレイザー)のそれぞれ数種についてもシュレッダーと同様に栄養素要求の特性について明らかにすることを目的とした。しかしながら,記録的な豪雨による調査地河川の大出水などにより底生動物群集が大きな攪乱を受けた影響で,これらの目的は十分に達成できなかった。
著者
竹内 望
出版者
千葉大学
雑誌
若手研究(A)
巻号頁・発行日
2006

アジア内陸部天山山脈のウルムチNo.1 氷河の雪氷微生物の調査を行った.その結果,氷河表面には3種のシアノバクテリア,2種の緑藻の繁殖が明らかになった.上流部で採取したサンプル分析の結果,春から夏の融解期に緑藻が繁殖し,さらに融解が激しい年にはシアノバクテリアが繁殖することが明らかになった.この季節変化の要因は主に融解量で,大気降下物として供給される窒素も関与している可能性があることが示唆された.
著者
稲垣 照美
出版者
茨城大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

本研究は,赤外線センシングの利点を地雷探査に応用して,探査・除去作業に関わる危険を低減する技術の可能性について,数値シミュレーションとモデル実験の観点から探査に付随するメカニズム,探査限界,および探査に付随する影響・因子などについて総合的に検討を加えたものである.その結果,以下のことが明らかになった.なお,数値シミュレーションは,実際に取得した自然環境条件に基づいている.・提案した物理モデルは,従来の金属探知機などで探査しにくいプラスチック製地雷を想定しているが,実際の地雷探査を実施する上で有効であることを一連の数値シミュレーションから明らかにした.・太陽放射や自然環境条件を援用した赤外線センシングによる地雷探査では,地表面放射率や日照時間帯などにより探査に最適な条件が存在する.すなわち,太陽光エネルギーを最も受け易い時間帯及び日没後に熱エネルギーの方向が変化する時間帯が最も赤外線探査に適している.・赤外線センシングによる地雷探査では,地雷が地中深くに埋設されているほど難しくなる.すなわち,太陽放射や自然環境条件に基づいた探査を実施する場合,砂漠における赤外線探査の限界埋設深度は,地雷構成物質・物性などに依存するものの,100mm以下である.・地中に地雷が埋設されていない箇所でも,地中に大小の木片・石片などの混在物が存在したり,地中に水分含有率の差異が存在したり,地表面の放射率が周辺より特異であったりした場合,赤外線探査が困難になる場合がある.本手法のデメリットは,放射率が種々に変化している地表面や周辺土壌中に様々な混入物が存在する場合に探査が難しくなることである.また,ジャングル地帯の地雷探査などでは,地表付近に生育した草木などが障害物となる.これに対して放射率を特定し易い砂漠地帯では,赤外線地雷探査が比較的容易であろう.
著者
石田 英夫 重里 俊行 奥村 昭博 佐野 陽子
出版者
慶応義塾大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1987

金融機関といっても、機関によって特性の異なることも確認された。本研究では、(1)銀行、(2)保険、(3)証券、(4)外資系、と4つに分けた。金融全体で見ると私たちがすでにおこなった化学・エネルギ-大企業の本社事務職男子に比べて、総じて仕事の満足度が高いことがわかった。とくに、昇進、能力発揮、給与について満足しているが、労働時間や心身疲労では化学・エネルギ-より不満が多かった。定着性向、つまり定年までいるかという問いに、化学・エネルギ-は、59%がイエスであった。金融平均はそれより低いが、銀行は64%、外資系は11%という開きがあり、機関別に大きな差があることがわかる。HRMの重要な成果たる帰属意識についても、興味深い結果がえられた。内部化ともっとも関係の深いと思われる「運命共同体型」と「安定志向型」は、銀行がもっとも多く、次いで保険であった。反対に「希薄型」は、外資系と証券に多い。しかし、証券には「モ-レツ型」も多いし、外資系は「安定型」と「運命共同体」も多いというように、二分化の傾向が見られるから、単純に1つのモノサシで4つの機関の色分けはできないだろう。製造業を対象とした他の研究と比べると、革新型の帰属意識は見られず、金融機関の伝統的な意識構造の傾向が見られる。金融機関の給与が高いことも、従業員の定着や帰属意識に作用しているが、これは「支払能力」にあずかるところが大きい。しかしそれは、長期勤続者に大きく傾斜した高給与が多いから、利潤分配の性格があるだろう。さらにまた、銀行、証金、保険の各社は、1社のみ突出するのをきらうから、企業間のバランスという「相場」要因も重要である。この「相場」というのは、企業の「格」と言いかえることができる。このような所得配分メカニズムは、金融の特徴ではなく日本の大企業における中核的労働力に共通なものと思われる。
著者
唐木 清志 山田 秀和 森田 真樹 川崎 誠司 桑原 敏典 橋本 康弘 吉村 功太郎 渡部 竜也 桐谷 正信 溝口 和宏 草原 和博 桐谷 正信 溝口 和宏 草原 和博 磯山 恭子 藤本 将人
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

アメリカ社会科で展開されるシティズンシップ教育の動向を, 理論レベルと実践レベルから多面的・多角的に考察し, その現代的意義及び日本社会科への示唆を明らかにした。具体的な研究成果としては, 2009年3月に刊行された最終報告書に載せられた13名の論文と, 2009年1月13日にミニシンポジウムを開催したことを挙げることができる。研究を通して析出された「多様性と統一性」や「争点」といった分析枠組み(本研究では「視点」という言葉を用いている)は, 今後日本の社会科においてシティズンシップ教育を推進するにあたっても, 重要なキーワードとなるであろう。
著者
孫 仁俊
出版者
九州大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

近年,強ひずみ加工であるECAP(equal-channel angular pressing)処理によりAlの結晶粒をサブミクロンあるいはナノレベルまで微細化して,強度および延性等の機械的特性を改善することが注目されている。一方,Al合金は,通常,耐食性,硬度等を改善するため陽極酸化(アルマイト処理)を施して使用されることが多い。しかし,陽極酸化したAl合金の耐食性に及ぼすECAP処理の影響については,これまでに報告されていない。そこで本研究では,代表的な高張力Al合金であるAl-Cu合金およびその陽極酸化膜の耐孔食性に及ぼすECAP処理の影響を調べた。Na_2SO_4 0.1mol/L+NaCl 8.46mmol/L(300ppm Cl^-)およびAlCl_3 0.2mol/Lの水溶液における分極曲線およびAlCl_3 0.2mol/L水溶液における腐食速度の測定結果より,Al-Cu合金の耐食性に及ぼすECAP処理の影響はほとんどないことが分かった。Al-Cu合金にはAl_2Cu,Al_2CuMg,Al-Cu-Si-Fe-Mn系金属間化合物が析出しており,腐食はAl_2Cu,Al-Cu-Si-Fe-Mn系,Al-Cu-Mg系析出物の周辺で生じていた。これらの析出物はECAP処理により分断され,サイズが減少したものの,純Al,Al-Mg合金の場合に比べ数が多いため,耐孔食性は向上しなかったと考えられる。一方,陽極酸化したAl-Cu合金においては,孔食が発生するまでの時間は,ECAP処理を行った方が明らかに長くなっており,ECAP処理により耐孔食性が改善されることが分かった。Al-Cu合金には合金元素からなる第2相析出物が存在しているが,この析出物はECAP処理により分断され微細となった。析出物の中でもAl_2Cu,Al_2CuMgは陽極酸化の際に溶解して消失したが,SiおよびAl-Cu-Si-Fe-Mn系金属間化合物は陽極酸化の際に酸化されず酸化膜中にそのまま存在し,欠陥部を形成していた。陽極酸化したAl-Cu合金の孔食は,この析出物の周辺から開始した。ECAP処理を行なうと析出物が分断され微細になることから,ECAP処理により陽極酸化Al-Cu合金の耐孔食性が改善されたのは孔食の起点になる析出物のサイズが減少したことによるものと考えられる。
著者
野村 雅一 樫永 真佐夫 川島 昭夫 藤本 憲一 甲斐 健人 玉置 育子 川島 昭夫 藤本 憲一 甲斐 健人 玉置 育子 小森 宏美
出版者
京都外国語大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

老後と呼び慣わされる人生の段階に至っても、青年・壮年期に形成された個々人のアイデンティティの連続性は保持される。それが若い世代のライフスタイルを受容する文化伝達の逆流現象が生じるゆえんである。認知症の患者には、錯誤により、女性は若い「娘」時代に、男性は職業的経歴の頂点だった壮年期の現実に回帰して生きることがよくある。人生の行程は直線ではなく、ループ状であることを病者が典型的に示唆している。
著者
井上 健 菅原 克也 杉田 英明 今橋 映子 モートン リース 劉 岸偉
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

近代東アジアにおいて異文化はいかに受容され、各文化圏の相互影響のもといかなる近代的諸概念や訳語を生み出していったのか。こうした問題意識に立脚して、まずは、近代日本における訳語の成立、近代的諸概念の成立に焦点をあて、調査、考察を試みた。近代日本の翻訳文学を戦前と戦後の連続と非連続の相においてとらえることによって、あるいは、日中、日韓の文化交流の諸相を具体的に辿ることによって、こうした視座の有効性が確認できた。
著者
田中 俊明 亀田 修一 高 正龍 吉井 秀夫 井上 直樹 東 潮 井上 直樹 東 潮
出版者
滋賀県立大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

古代史料が極端に不足する韓国古代史を再構成する上で、出土文字資料の重要性は極めて高い。木簡・石碑も新たな発見がつづくが、ここでは文字瓦をとりあげ、歴史資料として使用に耐えうるかたちで集成・提示し、またそれを利用した研究をめざした。特に百済圏において、王都のみならず、地方山城からも刻印瓦が出土するが、それを中心に、可能な限りで網羅的に調査し、刻印の目的や瓦の製作時期を考察した。それ以外の文字瓦についても、現物調査を進め、個体に関する新知見を得るとともに、総体として文字瓦の資料化をはかった。ただし多くは報告書にもとづく検討であり、当初の課題であるデータベース構築のための予備的な研究を終えて、今後、実際調査しえたものとあわせ、データベースとしての作成・公開をめざしていきたい。
著者
伊藤 耕介
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

台風の強度に関する研究は,防災上の観点からはもちろんのこと,温暖化に代表される気候変動によってインパクトがどのように変化するのかを評価するという意味でも重要性を増している.中でも,台風状況下の海面付近の観測は限られるため,本研究では,観測可能な物理量の情報と数値モデルを用いて,海面から大気に渡される運動量フラックス・熱フラックスの影響を調べる研究を進めてきた.本年度は「運動量・熱フラックスを修正した場合の台風強度変化に関する詳細な物理プロセスの解明」及び「3次元モデルへの本スキームの適用」についての数値実験を行った.前者については,台風の最大接線風速をターゲットとして,アジョイント方程式を用いた後方時間積分によって感度解析を行い,最大風速変化に寄与する物理場を過去にたどることとした.この感度解析の結果,海面付近の擾乱成分が1時間以内というごく短時間スケールで台風の最大風速を強めるというプロセスが存在することが新たに明らかとなった.本研究の成果については,国際学会で発表を行ったほか,論文にまとめて国際誌Journal of the Atmospheric Sciencesに投稿し,すでに受理された.後者については,非静力学メソ4次元変分法データ同化システム(JNoVA)に本スキームを導入して,運動量フラックス及び熱フラックスの推定に関するスキームが動作するかについて調べた.結果として,運動量交換係数は元の値に比べ,台風の進行方向右側前方で大きく,左側後方で小さくなるように修正されれば,観測値との整合性が高められることが分かった.本研究で行った海面フラックスの最適化により,台風予報性能向上することが貢献することが期待される.本研究の結果は,国際会議において既に口頭発表済みであり,現在,国際誌への投稿を準備している段階にある.