著者
菅野 菜々子
出版者
首都大学東京
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2011

【研究目的】細菌は自然生態系の中で分解者・生産者という重要な役割を担っている。自然環境中では栄養資源の量が変動するため、栄養源が豊富な時には細菌は分裂増殖し、それ以外の期間は分裂しない状態で生きのびていると考えられる。しかし非分裂条件下で、細菌細胞が生きのびるために必要なエネルギー量や何にエネルギーを使用しているのかの詳細はよくわかっていない。本研究では細菌の非分裂条件下での生存機構をエネルギー(ATP)との関係から明らかにするために、光エネルギーからATPを獲得できる光合成細菌を利用して非分裂条件下でATPを消費している生理活性とATP維持に関わる細胞状態を特定する。【平成25年度研究計画】25年度は、これまでの研究で紅色光合成細菌の中でも非分裂条件下・暗条件および浸透圧・熱ストレス条件下で生存性が高いことがわかっているRhodopseudomonas palustris CGA009株を材料として、非分裂条件下・生子性の異なる細胞の網羅的転写角析、非分裂条件移行過程における代謝動態、非分裂条件下でのATP生産能力解析を行った。【25年度研究成果】非分裂条件下でのATP生産能力解析から、非分裂条件下では光の有無にかかわらず光合成によるエネルギー獲得能力を維持しており、非分裂条件下で生き残るために光合成をエネルギー源として頼りにしている可能性が示唆された。暗条件でも他の細菌種に比べて生存性の高かったR. palustrisでは非分裂条件下での代謝・転写状態はエネルギー供給量によって大きく異なり、エネルギー供給のあるときはタンパク質回転が積極的に行われていると示唆された。一方でエネルギー供給量が制限される条件では供給量の高いときとは異なる代謝・転写状態であり、非分裂条件を生きのびるための生存機構は細胞内のエネルギー量によって異なる可能性が示された。
著者
河合 秀樹
出版者
室蘭工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

固液混相流や固気混相流における最適な攪拌・混合法を見つけることは, 化学装置やバイオリアクタ, あるいは鉄鋼炉の設計等において重要な指針を与える. 本研究では攪拌混合が比較的緩やかなTaylor vortex flow(TVF)に注目し, 微生物などの増殖率の増加効果や濾過装置への応用を視野に入れた流れの解析に主眼をおいた. TVFは単純な装置であり, 乱流へも段階的に遷移する(スペクトル遷移)ため, カオス混合など, せん断力に弱い微生物や細胞の効果的な混合法の開発に大きく発展すると思われるが, 未解明な点も多い.本研究では, アスペクト比が小さく(Γ=3), 上下境界端効果を有するTVFを用いて, その固液混合特性を可視化法, 並びに超音波流速分布計測法を用いて解析した. この結果, 渦モードによってカオス混合への遷移状況が大きく異なり, 渦自身が自励振動する場合や, 渦と渦の界面が振動する場合など, そのメカニズムが大きく異なることが明らかになった.また, このTVF装置を利用した光合成微生物増殖用バイオリアクタを試作し, 培養実験を行った. 光合成微生物が強いせん断流れによって破壊された場合の定量的な検出法を開発し, これを用いてTVFの効果を調べたところ, Re=30,000までの速い流れでも微生物は破壊されることなく順調に増殖した. ただし, Re>60,000では細胞破壊が検出される場合が観察され, 不安定な挙動を示した.
著者
安住 薫 岸 玲子 佐々木 成子 岩野 岩野
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

本研究では、胎児期の環境化学物質曝露が臍帯血のIGF2/H19領域、LINE1のDNAメチル化に及ぼす影響について検討した。札幌の一産科病院で2002年-2005年にリクルートし同意を得た妊婦514名のうち、臍帯血の得られた267名を対象とし、パイロシークエンス法を用いてIGF2/H19、LINE1領域の臍帯血DNAメチル化について定量を行い、環境化学物質との関連について重回帰分析にて検討を行った。交絡因子で調整後、PFOA曝露によるIGF2メチル化の有意な低下、MEHP曝露によるH19メチル化の有意な低下、水銀曝露によるLINE1メチル化の有意な増加が認められた。
著者
滝沢 広忠 河崎 佳子 鳥越 隆士
出版者
札幌学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

1.聾学校、身体障害者更生相談所、精神病院で聴覚障害児・者に対してどのような心理検査が使用されているか、また施行法はどうか実態調査を行った。その結果、ウェックスラー式知能検査(特に動作性検査)が比較的よく使用されていること、実施にあたって、コミュニケーション方法で苦慮していること(口話、手話、指文字、身振り、筆談などさまざまな方法がとられている。)が明らかにされた。このことから、聴覚障害児・者に実施可能な視覚や動作を主とした心理検査の開発の必要性が示唆された。2.ろう学校で具体的に知能検査(WPPSI)がどのように実施されているか聞き取り調査を行なった。指文字と手話を主たるコミュニケーション手段としたトータルコミュニケーション教育を行っている奈良県立ろう学校教員の協力によるものである。この調査から、聴覚障害児を対象とした知能検査作成の具体的な課題が明確にされた。3.WISC-IIIの動作性検査にみられるろう学校生徒の特徴を明らかにした。ここでは絵画配列および符号問題を取り上げた。この結果、(1)絵画配列は聴児と比較して有意差は認められなかった。(2)符号問題は学年が上がるにつれ得点が低くなる傾向がある。(3)絵画配列より符号問題の得点が高い群は、手話をコミュニケーション手段とする人が多いことが分かった。このことから手話の意義が示唆された。4.WISC-IIIの動作性検査の手話翻訳版を作成した。これは手話を用いた知能検査のモデルとなるものである。
著者
江角 朋之
出版者
徳島文理大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

6α, 7α および 7α, 20-ジヒドロキシアノネンは神経栄養因子増強作用を有することから,抗アルツハイマー病薬や学習改善薬開発のためのリード化合物として多くの研究者から期待されている.我々はキラルオキサゾリジノンを不斉補助基に持つα,β-不飽和カルボン酸へのジビニル銅試薬の1,4-付加反応が高いジアステレオ選択性で進行し,テトラアルキルキラル四級炭素を構築できることを見いだした.続けてSHMDSで処理したのち,ヨードメタンと反応させ,α-メチル化を行うと高ジアステレオ選択的に隣接位に不斉中心を導入できることも見いだした.
著者
永井 史男 秋月 謙吾 持田 信樹 岡本 正明 西村 謙一 籠谷 和弘 小林 盾 菊地 端夫 砂原 庸介 安部 鶴代(船津鶴代)
出版者
大阪市立大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2009

タイ、フィリピン、インドネシアの 3 カ国で、地方自治体の政策の優先順位、予算配分等がどのように決まるのか、質問票を使って社会調査を実施した。抽出した基礎自治体数は、フィリピン 300 カ所、インドネシア 112 か所、タイ 1500 カ所で、回収率はそれぞれ 100%、93%、25%であった。平成 25 年 1 月初めにはこれらの調査結果をもとに、明治大学駿河台キャンパスで国際シンポジウムを開催し、英文報告集を取りまとめた
著者
大泉 俊英
出版者
山形大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

耐糖能と感染性呼吸器疾患発症の関連について検討した。舟形町全住民対象の糖尿病検診の5つのコホートを対象に感染性呼吸器疾患発症と耐糖能との関係を、アンケート調査により発症を分析し、耐糖能3群について検討した。有効回答総数は2575名(男性1104,女性1471)、回答時年齢・男性67.2歳±12.4SD,女性69.2歳±13.2SD。年間の急性上気道炎発症回数はNGT群(平均0.70±0.024SE)に対しDM群(平均0.72±0.08SE)で有意差なく (p=0.764 Fisher's PLSD)。その他疾患(肺炎、尿路感染症、胆道系感染症)の発症についても、有意差は認められなかった。
著者
米田 信子 中島 久 小森 淳子 竹村 景子 米田 信子
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

本研究では「スワヒリ語圏」におけるスワヒリ語すなわち「超民族語」(民族を超えた共通語)と諸民族語の相互の影響を明らかにするために,東アフリカにおいてスワヒリ語と各民族語に関する社会言語学的調査および記述言語学的調査を行なった。スワヒリ語圏には異なるタイプの言語接触の状況が存在するが,各地域での調査結果を比較しつつ網羅的に言語状況を捉えたことにより,スワヒリ語圏の言語文化的な動態をより正確に記述することができたと思われる。
著者
齋 治男
出版者
東京大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2007

研究実施に際しては、まず安全作業を行うための非接触駆動機構の試作・確認を行った。ミーリングによる穴あけおよび切削において、手動送りによる加工を行い脱調による危険回避が出来るか確認を行った。結果として、過負荷や送り速度超過でネオジウム磁石の駆動トルクを超えた時に脱調(空回り)し、過度な切り込みや工具破損を防げることが判った。脱調のタイミングは駆動側と従動側の駆動磁石の間隔を調整することで変動できる。しかし、常に同じトルクや送り速度で脱調が起きるようにすることは難しかった。そこで、非接触駆動機構と数値制御駆動を併用することで、確実な危険回避と加工精度の向上を目指した。駆動用モータ軸と回転工具ツール軸に磁石を取り付け非接触駆動機構とし、数値制御加工機(マシニングセンタ)の主軸に取り付け加工を行った。手動加工と同様に、危険回避には有効であるが、磁石駆動トルク内でも脱調が起きる場合があり、特に切削加工では送りを速くすると目的位置到達前に脱調が起き切削効率が悪化した。次に、旋盤工具台に非接触駆動機構を取り付け、リュータ型の回転装置による工具回転で切削(ドリリング)研削・放電加工を試みた。旋削加工での表面改質および仕上げ加工を同一機械上で実現出来・特に砥石割れ事故の回避に有効と考える。今後は、加工効率・加工精度をいかに向上させるかが課題である。
著者
島村 英紀 MARKVARD Sel 末広 潔 金沢 敏彦 岩崎 貴哉
出版者
北海道大学
雑誌
海外学術研究
巻号頁・発行日
1987

本研究では, 1988年に予定されている「本調査」を主な調査として, いまだナゾである大西洋中央海嶺の北部にあるプレート・テクトニクス研究の空白の部分について, すでに多くの研究の実積のある日本の海底地震計を使って, 日本とノルウェーの共同研究として, 精密な地下構造の探査と高感度の自然地震観測を行う. 1987年に行われた「予備調査」では, この研究の一環として, プレートの境界として, 日本のそれとは対照的な「受動的な境界」の精密な地下構造探査を, 世界で初めて, フィヨルドの底に海底地震計を並べて人工地震を行うという研究手法によって行った.この一連の研究によって, 海底から大陸にかけての地殻と上部マントルの『精密な地下構造』が初めて明らかになることと, 微小地震の活動を調べることによって, この付近の『プレートの現在の動きを知る』ことができ, 地球科学上, 大きな貢献をすることが期待される. なお, 海底地震計の設置と人工地震には, ノルウェーの大学の観測船が使われる.実験は海底地震計の場所を変えて二回繰り返され, 合計2万4千本もの地震記録を得ることができた. 解析には約半年を要するが, 記録の質は, もっとも遠い観測点でも良好なので, これらの記録を解析することによって, 同地域でいままでに得られたうちでも, もっとも精密な地殻構造が得られるものと期待されている.また, 次年度以下の本調査の実施についても, 明るい見通しを得ることができた.本調査に使うノルウェーの観測船と, 人工地震のための機材をテストするとともに, 共同研究者であるノルウェーの地球物理学者と共同して, 本調査で行う全体の地殻構造調査のいわば「東の端」である調査を, ノルウェーの大西洋岸で予備調査として行った.具体的には, ノルウェーの大西洋岸から直角に内陸に開けている, 同国最長のフィヨルドであるソグネフィヨルド(長さ200km)の中で, ベルゲン大学の観測船『ホーコンモスビー』(490トン)をつかって, 日本から運んだ海底地震計6台を設置し, ベルゲン大学の所有する大型エアガンで人工地震を行って, ノルウェー大西洋岸の地殻構造を求めるための一連の実験を行った. ノルウェーの大西洋岸は, 「受動的なプレート境界」として地球物理学では重要であるにもかかわらず, フィヨルドが縦横に走るほか, 山岳地帯に阻まれて, 通常の地震探査が行いにくかった. このため, 海底地震計とエアガンをフィヨルドの中で使うというのは, いままでだれも行っていなかった, 地下構造を調べるための効果ある手法なのである.
著者
辻村 清也
出版者
京都大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2004

(1)バイオアノード電極と酵素の直接電子移動反応に基づいたアノード極の作成を目指し,電極表面および構造の改良を行い,電流密度を従来報告されている系の100-1000倍に向上させることに成功した.酵素としては酢酸菌由来のフルクトースデヒドロゲナーゼ,グルコン酸デヒドロゲナーゼに注目した.また,酸化生成した難酸化性有機酸を二酸化炭素まで酸化し,さらに燃料として利用するために,微生物細胞(本研究では大腸菌)の代謝経路の利用を検討し,適切なメディエータを導入することで,例えば酢酸の電気化学的酸化に成功し,そのメカニズム,制御機構について検討した.(2)バイオカソードアノードと同様に,よりシンプルな電池設計を目指したマルチ銅酵素と電極間の直接電子移動に基づくカソード構築に向けて検討した.細孔を制御した多孔性炭素の利用などによる電極構造の改善,大腸菌由来CueO,白色腐朽菌由来ラッカーゼなどの新規酵素の検討により,酸素の拡散律速となるバイオカソードを作成することができた.また,電位をコントロールした変異体酵素を用いその電極反応解析を行い,変異導入が酵素活性に及ぼす影響を考察した.さらに,電気化学測定と水晶振動子マイクロバランス測定とを組み合わせることにより電極上への酵素の吸着および活性挙動の解析・評価を行い,酵素修飾電極の改善に向けた指針を明確にした.(3)バイオ電池フルクトースデヒドロゲナーゼ,ラッカーゼをそれぞれアノード極,カソード極の電極触媒として用い,酵素電極間の直接電子移動反応を利用したシンプルな無隔膜型(一室型)果糖-酸素バイオ電池の作成に成功した.起電力は0.8Vであり,1平方センチメートルあたりおよそ1mWの電力を得ることに成功した.また,果実から直接電力を得ることに成功した.
著者
松田 純 山下 秀智 浜渦 辰二 上利 博規 田中 伸司 森下 直貴
出版者
静岡大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

・本研究は,21世紀を「生命ケア文化再構築の時代」ととらえ,個の自己決定と社会的な相互扶助の両者のバランスがとれた,わが国の文化風土にあったケア文化のあり方を探求してきた。西洋と東洋の死生観の相違がしばしば問題にされるが,それはいずれかが勝っているというのではなく,分析や合理性を重んじる西洋的思考と,総合や直観を重んじる東洋が互いに学びあう必要がある。一方で,文化の差を自覚しつつ,同時に,文化ナショナリズムに陥ることなく,いのちをめぐる諸問題の国際化にも対応していかなければならない。「アジア的」とか「日本的」といった類型化・固定化に陥ることなく,西洋のケア文化の歴史的深みと現代的展開の意味も十分に理解しなければならない。21世紀の生命ケア文化再構築は,グローバル化のなかで,比較文化論的視点に立った柔軟な発想で進めていく必要がある。以上のような研究成果を,国際シンポジウムを開催するなど,国際的に開かれた討議空間のなかで検証してきた。・臨床学的アプローチのなかでは,<施設から在宅へ>が後戻りできない流れであり,それを支えるコミュニティ・ケアとスピリチュアル・ケアが極めて重要となってきていることが明確になった。・21世紀ケア文化を担う新しい世代に対しては,「いのちの大切さ」を漠然と教えるのではなく,いのちが向かう先にある<いのちの美しさ>を芸術作品などを通して感得しこの世に在ることへの大きな信頼を取り戻し生きる力を高めるような生命ケア教育が必要である。例えば理科教育のなかでも,自然の奥深い構造を示すとともに,それらについての科学的知見と技術的応用が社会にもたらす影響についても具体例に即して考える教育プログラムと授業展開が必要であろう。以上のような成果を研究成果報告書,ホームページや著書,公開講座,授業展開などの形で発信してきた。
著者
柏木 宣久
出版者
統計数理研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

東京湾に於ける水質の長期変動の推定、ダイオキシン類の発生源寄与率の推定、熱帯降雨観測衛星搭載の降雨レーダにより得られるレーダ反射量に基づく降雨量の推定等を題材に、ベイズ的方法を用いたデータ解析法を開発すると共に、その応用について研究した。東京湾に関しては、ベイズ型時空間季節変動調整法を開発すると共に、水温、塩分濃度、COD、DO、窒素、隣等の測定データを解析し、湾内全体の水質の長期変動および季節変動を明らかにした。特に、水温については冬季に上昇し夏季に下降する傾向を見出し、併せてその原因が湾内への外洋水の流入量の増加にあるのを指摘し、窒素および隣については近年に於ける低減傾向が鈍化し、併せてCODの改善も鈍化しているのを指摘し、DOについては底層における低酸素水塊の月毎の消長を明らかにすると共に、その長期拡大傾向を指摘した。これらの成果を国際会議および関係雑誌に発表し、特に「The 5th International Conference on the Environmental Management of Enclosed Coastal Seas」では「The Best Effort Award」を受賞した。ダイオキシン類については、発生源寄与率を推定するための関数関係解析に基づくChemical Mass Balance法を開発すると共に、研究協力者が収集したデータを解析し、様々な媒体に存在するダイオキシン類の発生源の同定と寄与率の推定を行った。熱帯降雨観測衛星については、レーダ反射量から降雨量を推定する際の基盤となる雨滴粒径分布の同定について考察すると共に、NASAで運用している降雨量推定プログラムの改善に尽力した。その他、比較遺伝子地図を用いた未マッピング遺伝子の染色体予測法の開発や、疫学データの解析も実施した。
著者
西別府 元日
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011-04-28

奈良時代の交通システムの要である駅家制が衰退した平安時代中後期にも、国司による任国内の交通機能が維持されていた。公的な旅行者が朝廷から派遣されると、国司は、任国内の地方豪族や、国司の政務執行機関である国衙に出仕する役人(在庁官人)に、命令を下し、旅行者に食事と宿泊施設の提供(これらを供給という)を命じた。こうしたシステムを駅家雑事という。この駅家雑事を担う人びとは、食事を提供し宿泊をする施設を提供することによって一定の権益を獲得したものと考えられる。その実態については、史料的制約もあって、明確にしがたいが、こうした施設が恒常化することによって「宿」の原初的施設が誕生したと考えられる。
著者
菊田 弘輝 泉 孝典 吉川 真弓 白石 洋平 畑中 壮大 今井 綾子 伊藤 匡貴
出版者
北海道大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

水方式による躯体蓄熱暖冷房システムは,高断熱建物における室内負荷の顕熱成分に対応するシステムである.CASBEEの最高ランクS に相当する建物を対象に,本システムのコミッショニング及びシステムチューニングを実施し,快適性・省エネ性・経済性の向上を確認した.また,低温温水による輻射暖房ならびに高温冷水による輻射冷房の可能性を示唆し,本システムと併用する形で,ダブルスキンにおける省エネルギー効果,トップライトボイド空間における各階の日射負荷の分配率を明らかにした.
著者
秋川 卓也
出版者
日本大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-28

これまで返品制はSCMの障害として認識されてきた。しかし、返品は需要と供給の2つが数量と時間の点から整合しないことから発生する。SCMの本質を需給管理と考えるならば 、SCMを返品抑制の機構と捉えることもできる。以上の点を踏まえ、本研究は2つの研究目的を有する。第一に、SCMで製造業者および流通業者が返品を削減・抑制した事例を考察し、返品削減をSCMで実現する方法論についての知見を提示する。第二に、SCMと返品制の関係性についての実証研究を行う。SCMが返品削減の取り組みとして有効であるかを実証する。
著者
野口 定久 埋橋 孝文 後藤 澄江 原田 正樹 武川 正吾 牧里 毎治 大橋 謙策 杉岡 直人 井岡 勉 上野谷 加代子 宮城 孝 和気 康太 金 成垣 沈 潔 金 貞任 韓 榮芝 包 敏 徐 明?
出版者
日本福祉大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2009

包摂型福祉社会の推進をリードする地域福祉専門職養成の方法論を共有化し、各国・地域(メゾ)レベルにおいて両側面の好循環システムを構築することであった。ソーシャルキャピタルの概念を用い、日本・韓国・台湾における地域福祉拠点型及びコミュニティ型の調査を実施した。基礎的作業として「日中韓台における社会保障・社会福祉の制度比較研究」一覧表の改定版を作成し、さらにこれまでの研究成果を6本の報告書にまとめた。
著者
橋口 昌治
出版者
立命館大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

「若年非正規労働者の労働組合の特質および意義に関する労働社会学的考察」という研究課題に対し、21年度はまずフリーター全般労働組合とフリーターユニオン福岡の調査を主に行った。フリーター全般労働組合に対する調査では、結成に関わった人々や現在の活動に関わっている組合員に対してインタビューを行った。そして、結成当初からの問題意識の変遷や組合の形成する運動文化、集合的アイデンティティと組合員の持つ個人的アイデンティティの葛藤のあり様などを明らかにした。フリーターユニオン福岡に対する調査では、結成当初から関わっている組合員に対し結成過程や問題意識の変遷などに関する聞き取りを行った。また、結成後に加入した引きこもり経験のある組合員に対しては労働運動に参加する動機などを尋ね、労働市場において周辺的な立場に置かれた人々が労働組合に何を求めているのかを明らかにした。そして2008年末から09年年頭において現れた「年越し派遣村」をめぐる背景を分析した上で、「『労働運動の社会運動化』と『社会運動の労働運動化』の交差-『若者の労働運動』の歴史的位置づけ」と題した論文にまとめ、『生存学』第2号で発表した。そして20年度から蓄積してきた成果を、「『若者の労働運動』の社会学的考察」と題する博士学位請求論文として提出した。一方、立岩真也・村上慎司・橋口昌治『税を直す』(青土社、2009年9月)では、「第2部第2章『格差・貧困に関する本の紹介』」を担当した。そこでは、2000年代以降に出版された格差問題や貧困問題に関連する国内外の文献500冊程度の文献を紹介した。こうした研究成果は、2000年以降の日本において重大な社会問題となっている格差や貧困、若年者の労働問題と労働運動に関して、実態と言説、マクロな変動とミクロな動向について総合的な把握を行っており、非常に重要な意義を有する。
著者
馮 忠剛 中村 孝夫 梅津 光生
出版者
山形大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

本研究では、従来の細胞組織工学的な手法による構築したコラーゲンゲル足場での心筋再生組織を基づいて、新しい技法・改進を開発・実現し、生体心筋組織拍動特性を有する心筋再生組織を作った。3年間の研究活動によって、以下の成果を得た。1.体外培養ラット胎児心筋細胞の遺伝子発現の比較実験によって、培養心筋細胞における心筋細胞の分化・成熟に係る重要な伝写因子であるSRFとmyocardinおよび心筋組織介在板の構成を司るN-cadherinとconnexin43の発現低下を示した。この知見に基づき、遺伝子転移技法によって、N-cadherinの強化発現を促す、心筋細胞間の相互作用を強化することを試みた。2.3次元コラーゲンゲル足場の添加物による高浸透性化、並びに培養液供給と老廃物代謝の改善を実現した。4種類の添加物に対して、それぞれの混入実験を行い、その内heparinとalbuminが足場のglucose透過係数を約2倍に上がることから高浸透性に最も有効であることを判明した。3.心筋再生組織構築の各々の過程により詳細な検討・最適化を行った。その内二つ重要な処理は:i)心筋採取および組織構築におけるコラーゲンナーゼの残留効果を無くすために培養液にcysteineの添加が有効である;ii)ゲル形成の過程に、ゲルに埋め込む心筋細胞の沈殿による不均等性を防ぐためにゲル形成直後のゲル反転が必要である。4.新型電気一応カバイオリアクタを開発した。従来のバイオリアクタと違って、新型における応力の印加は外部から能動的な方式ではなく電気刺激による再生組織の収縮に伴う収縮応力と収縮ひずみの自然登生である。これによって、より実際の心筋組織収縮に模擬することができ、電気刺激と応力印加の協調も自然に解決された。5.再生心筋組織の拍動特性を解明するために、独自の拍動変位一拍動力解析法を開発した。6.以上の方法によって、構築した3次元心筋再生組織はその拍動力が約16倍に向上させ、最大収縮ひずみ速度と最大収縮力が対応する生体内の心筋組織拍動特性と似た特性を有している。
著者
須田 年生 鄒 鵬
出版者
慶應義塾大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

昨年度はp57による造血幹細胞静止状態維持の分子機構を詳細に検討するために、ノックアウトマウス胎生期の肝臓由来の造血幹細胞を用いて、放射線照射したマウスに移植するin vivo実験系で解析した。1)p57の欠損に従って、p27が造血幹細胞の細胞質における発現が特異的に増加することがわかった。その結果より、造血幹細胞のp57が欠損する場合、その静止期維持における機能はp27が代償する可能性が考えられる。2)静止期造血幹細胞のcyclin Dの転写活性は高いレベルを維持することを見出した。また、新規p57結合タンパクHsc70がcyclin Dタンパクの局在を制御することによって、造血幹細胞の細胞周期制御に重要な役割を果たしていることが示された。3)Hsc70のinhibitorデオキシスパガリン(DSG)を用いて実験では、DSGは造血幹細胞の静止期での維持を阻害することがわかった。この結果より、p57とhsc70、およびcyclinD三者の相互作用が造血幹細胞の細胞周期制御において重要な働きをしていると考えられる。4)CDK inhibitorであるp27もHsc70と結合し、Hsc70/cyclin D複合体を細胞質に安定化させることによって、幹細胞の静止期維持に働くことがわかった。p57とp27は単独に一つでも存在すると静止期維持の機能できるが、両者の発現がともに抑制される場合、Hsc70/cyclin D複合体が核内に排出され、幹細胞静止状態の維持ができなくなることが証明された。