著者
古山 富士弥
出版者
名古屋市立大学
雑誌
試験研究
巻号頁・発行日
1986

本研究は三つの部分から成っている。(1)高環境温度耐性ラットの系統開発すでにある程度まで育成していた高環境温度耐性ラットを、この三年間でさらに選抜と交配をくりかえして純化し、二十数世代をかぞえる近交系として確立した。この系統は、1982年および1988年に発表した約20系統のラットよりも、高温耐性であった。遺伝分析のために、既存の系統のうち最も高温非耐性であったACIラットとの間に、F1、F2、BCを産ませて、高温耐性を測定した。その結果、高温耐性はポリジーニックに決定されていることと、主要な数個の遺伝子が特につよく関与していることがわかった。(2)ハイブリッドの作出このF2をもとに数系統のリコンビナント・インブレッズを作出したが、途中で研究室の研究条件が一過性に悪化したときに、一系統を残してすべて殺した。その後、高環境温度耐性ラットと祖先を同じくする対照系が絶滅したために、残ったリコンビナント・インブレッズを高環境温度耐性ラットにBCして、対照系として育成しつつある。現在、研究条能が少し好転してきたので、再びリコンビナント・インブレッズを育成する準備をしている。(3)生理的機能の研究既存の系統では、高温耐性であるほど、唾液分泌が活発で、唾液分泌が長く持続し、体水分利用公立が高かった。高環境温度耐性ラットでは、唾液分泌はさらに活発で、さらに長時間持続したが、体水分利用効率は既存の系統のうち最高のものと同値であるにすぎなかった。高環境温度耐性ラットは、室温25℃での体温が約1℃ひくく、高環境温度へ暴露されると体温を40℃付近に設定した。
著者
渡部 瑞希
出版者
一橋大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

平成22年4月から8月は、近年のタメルの特徴に関する論文執筆を行っていた。その論文のための補足資料を収集するため、現地調査の計画を立て、平成22年12月5日から23年1月13日までの約1ヶ月間、ネパールで調査を行った。第一に、ネパールで、やり残していた市場調査を行った。具体的には、調査対象地域のタメルだけでなく、そこに隣接するローカル市場において、出自民族構成、店舗年数の調査を行い、タメルと比較したうえで、タメルの特徴を浮かび上がらせることを目的とした。その結果、ローカル市場では、カトマンズの先住民であるネワール族が民族講とカースト間の相互扶助に基づく、比較的安定した商売を継続して行っていることがわかった。第二に、カトマンズ居住民の婚姻儀礼や民族講の儀礼に参加し、商売と儀礼、商売の関係とそれ以外の社会的関係との繋がりを確認した。その一方で、タメルは、こうした社会的紐帯に基づく商売が行われる場ではなく、移民商人が入れ替わり立ち替わりする不安定な市場であるため、詐欺行為や裏切り行為が多発する市場であることを明らかにした。第三に、そうした詐欺行為が多発するタメルの宝飾商売において、2009年にタメルで起きた「詐欺を働いた宝飾商人の摘発」に関する情報を収集した。情報は現地の新聞やタメルの商人からのインタビューを通じて行った。こうした補足調査の結果は、詐欺行為をはたらくタメルの宝飾商人が人間関係を明らかにする基盤であるため、重要である。これらの調査結果は、既に執筆中の論文に反映させている。
著者
小池 栄一 保崎 則雄
出版者
神奈川大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1992

本研究は、近年内外を通じて必要性が強く叫ばれている日本語教育の中でも最も重要な学習者との相互作用に重きをおいた教材開発に焦点を絞った。まず、NHKの行った日本語教員に対するアンケート(1991)などをもとに、筆者らの米国での日本語教育、文化教育の経験(1980-1987)、担当した日本語教育(1982-1986)、教員養成(1988)の経験を加味し、この分野で望まれていて、手薄になっている教育内容を総合的に分析した。その結果、教材開発が望まれている分野を、文化に根差した日本語表現や文化の一面をインターアクティブなものとして、制作することに意義があると筆者らは判断した。具体的には、俳句を英語で紹介するという内容、非言語コミュニケーションのうち、日本文化特有の言い回しで日本語学習者が習得に困難を感じているものの2点に絞って教材を開発した。また、実際の教材の特徴を知るため、市販されている、あるいは研究所、大学などで開発されている日本語教材をいくつか実際に見、あるいは資料を取り寄せて調査してみた。これらの教材を日本語学習者、日本語母語者、研究者らを対象として数回にわたりフィールドテストした結果、以下のことが明らかになった。1)文化学習には映像、音声、文字の複合情報が効果的である。2)静止画の中に動画を適宜挿入することで学習効果を高めることが出来る。3)学習者と教材との相互作用の高い教材を若年学習者は好む傾向がある。今後の日本語教育の指針の一つとして、言語習得は人間教師が中心となって補助教材を効果的に組み合わせていくこと、そして習慣、文化の学習は映像、音声、文字にて効果的に学習し、その後実社会において失敗を恐れず、繰り返しながら強化していくという図式が考えられる。
著者
小川 康恭 圓藤 陽子 及川 伸二
出版者
東京慈恵会医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1995

平成7年より「化学物質の神経細胞毒性機構として、活性酸素が生成されアポトーシスもしくはプログラム細胞死を引き起こす」という仮説の基で研究を続けてきた。材料は、人間への影響をよりよく予測できるデータが得られることを期待して、株細胞ではなく初代培養細胞を用いることとした。平成7年度までに得られた成果は、(1)2,5-HexanedioneによりDNAの断片化が起こることを培養後恨神経節神経細胞により示したこと、(2)シスプラチンの場合、それだけではDNAに対する活性酵素の関与する毒性は発現しないこと等である。平成8年度においては(1)培養後恨神経節神経細胞に起こったDNAの断片化がアポトーシスそのものであること、(2)そのとき何らかの活性酸素種が発生していること、さらには(3)化学物質がアポトーシス進行過程のどの段階に作用しているのかを研究課題とした。平成8年度において以下の結果が得られた。(1)DNAラダー検出法を改善するために、神経細胞の収量を増大させ、鋭敏なDNA染色法の導入等を行ったとこと、ラダーの描出は可能となったが、依然として明確な像を得るには不十分な状態であるので更なる改善が必要である。(2)各種活性酸素消去剤により細胞死が抑制される結果が得られた。(3)DNAラダー検出系の感度及び安定性がまだ十分ではないためプロテアーゼが用いたアポトーシス進行過程での作用点解析はまだ進んでいない。このような結果に基づき、引き続きDNAラダー検出系の確立、発生している活性酸素種そのものの同定め、化学物質が働いているアポトーシスの進行段階の検討を進めている。
著者
丹羽 正武
出版者
名城大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

3年間の研究を通じて,1)化学成分研究,2)生合成類似化学反応,3)生物活性探索の3本柱を立て,創薬種を求め,遂行した結果の概要を以下に記す。1)巨峰の栽培農家からゴミとして排出したコルクおよび枝の化学成分研究の結果,1:多量のルパン骨格を基本とするトリテルペン類を単離・同定,2:多種類・多量の既知スチルベンオリゴマーを単離・同定,3:現在構造決定を進行中のものを含めて,多種類の新規スチルベンオリゴマーを単離し,それらの絶対構造を含めて化学構造を決定した。進行中のものについては,スペクトルの解析だけでは不可能と思われるため,化学反応による誘導体を調製し,結晶化させた後,X線結晶解析を行うことを検討している。2)生物活性試験に供する微量成分の供給を考慮して,比較的多量に巨峰コルクから得られたスチルベンダイマーの(+)-ε-viniferinを用いて,スチルベンオリゴマーへの生合成類似化学反応を検討した。(+)-ε-Viniferinを種々の酸で処理すると,酸の強さによって,選択的に(+)-ampelopsin B,に(-)-ampelopsin D,および(+)-ampelopsin Fに変換することに成功した。また,酵素を用いる酸化反応で,スチルベンテトラマーの(-)-vitisin B,(+)-vitisin C,(+)-hopeaphenol等に変換することに成功した。3)単離したスチルベン化合物の生物活性を探索するために,各地の大学・企業に依頼したところ,興味深い生物活性が見つかった。スチルベンダイマーの肝細胞保護作用やスチルベンテトラマーの肝毒性作用は以前から明らかであったが,今回,(-)-vitisin Bおよび(+)-vitisin C等のスチルベンテトラマーは強力な貝付着阻害作用および大動脈平滑筋弛緩作用を有することが明らかとなった。前者は船舶の航行に関わるエネルギー問題および海水汚染・環境ホルモン問題解決に重要なヒントを与えるものと理解している。また,後者はNO合成酵素を活性化する結果と考えられ,循環器病の治療薬および予防薬の創成に重要なヒント(創薬種)を提供するものと理解している。
著者
佐藤 一精
出版者
広島大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1996

本研究では、究極的にはパン様食品の教材化を目指し、まず学校の授業や家庭で簡便に作れるような電子レンジ加熱を利用したパン様食品の好ましい調製法の確立と、そば粉やはったい粉などの添加により嗜好性、栄養性、物性等に優れたパン様食品調製の可能性の検討を目的として検討を行った。得られた成績は以下の通りである。1.発酵パンのロールパンに準じて調製したドウを、電子レンジ加熱により膨化させ、続いてオ-ブン加熱操作を行い焼成した。オ-ブン加熱のみのものをコントロールとして膨化率を比較検討した結果、少量の重曹とヨ-グルトの添加で、嗜好性も、フレーバーも良好なものが得られた。大学生男女各17名で行い7段階の点数で評価した官能検査においてもその重曹とヨ-グルト添加のものに最高点が与えられた。2.本研究費で購入したクリープメーター物性試験システムを使用して硬さを測定し焼成後の変化を見たところ、やはり少量の重曹とヨ-グルトを添加して調製したものが最も硬化し難いことが判明した。3.はったい粉やそば粉の添加効果については、上記の最良の条件のものに50%まで小麦粉に置き換えて添加して調べたが、まだ検討は継続中である。そば粉の場合は、添加量に比例して膨化が促進され、10%添加のものが比較的良好であった。また、はったい粉の場合は、添加割合が多いほど膨化率は減少したが、10〜25%添加割合のものは、嗜好性も、フレーバーも良好であった。以上、十分実用に供しうると思われるパン様食品の調製法を確立することができた。この教材としての応用についても展望が開けたが、実践方法等の検討は今後の課題である。
著者
池田 寛子
出版者
広島市立大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究の最大の成果は『ヌーラ・ニゴーノル詩集』と『イェイツとアイリッシュ・フォークロア』の出版である。アイルランドで入手した資料を活用し、アイルランド語文学に焦点を当てつつ、英語文学との相関関係の解明に力を入れた。この研究が一貫して明らかにしてきたのは、アイルランド語は少数民族言語ではあるが、英語というグローバル言語による文学と密接にかかわりつつ独自性を持った文学で世界に貢献していることである。
著者
森山 義礼
出版者
東大寺学園中・高等学校
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2009

<目的>スライムは,岩石の性質をうまく表しており,スライムの変形を観察することにより,地球内部における複雑な岩石流動を視覚的にわかりやすくする。透明なスライムの気泡の形状から歪みを求めることもでき,そのまわりの気泡を使って粒子の動き(particle path)も確認できる。このようにスライムは,岩石内の変形構造を定性的に理解するのに適しており,ここに教材としてのスライム実験を報告する。<研究成果>地学Iの内容で,「地層の変形により褶曲と断層が形成される」ことを学ぶが,同じ圧縮場であっても褶曲ができる場合と断層ができる場合とがあり,生徒は一瞬理解に戸惑う。特に,岩石は固体で硬いというイメージが強く,岩石がやわらかく曲がるということに慣れていない。同様に,「マントルは固体だが流動的に動く」ということにも馴染みが薄い。これらの岩石の挙動を理解する助けになる教材として,スライムを用いた。厳密にいうとスライムは岩石の性質と大きく異なるが,定性的に一部の性質を視覚的に理解するために役立つ。また,透明なスライム中の気泡を観察することで,マグマの粘性とガスの含有量の関係も視覚的に理解させることができる。さらに高校の範囲を若干逸脱するが,岩石の変形プロセスを理解するための基礎知識である純粋剪断(pure shear)と単純剪断(simple shear)の粒子の移動(particle path)も視覚的に理解させることもできる。透明なスライム中の気泡は,歪み量に差はあるものの,全体の歪みの形状をよく表しており,particle pathもきれいに観察できる。上記の実験以外にも,粘性の異なる物質をスライム中に埋めたり,挟んだりすることで,様々な変形構造が作り出せると思われる。
著者
中谷 智恵
出版者
独立行政法人理化学研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2002

f MRI研究:BOLD指標を用い、シーンの認識にかかわる脳部位の特定を、正常視力の成人被験者を対象に行った。測定中被験者は経時的にCRTディスプレイに提示された2枚のシーン内の物体の位置の異動判断を行った。2枚のシーンは同一視点から見た場合と、異なる視点から見た場合があり、後者ではシーンの周りを歩いたように視点の角度を変えた刺激が用いられた。この課題に関与した脳皮質部位のは活動パターンによって3つに分類された。第1は、課題変数(視点の角度の変化量)に伴い賦活エリアの大きさが変わる部位、第2は課題変数に伴い賦活エリアおよび賦活レベルの変わる部位、第3は課題変数に左右されず一定の賦活レベルを保つ部位であった。第1の部位には、V1/V2、右半球後頭から頭頂にかけての諸回、右側頭葉下面の紡錘状回、両側下前頭回が相当し、視点の変化に伴う刺激の変形を処理していると考えられる。第2の部位は左半球後頭から頭頂にかけての諸回と帯状回前部が含まれ、第1の部位での処理結果の評価を行っていると考えられる。第3の部位は島で、賦活は基線レベル(注視点凝視)より低かった。この負の賦活はおそらく課題遂行全般にかかわる活動のダイナミクスを反映していると推測される。従って、これらの3つのシステムがシーン認識の基本ネットワークを形成していると考えられる。結果の一部は国際学会等で発表した。また現在論文を投稿準備中である。脳波研究:物体を認識中の脳波を眼球運動と同時に計測した。このデータは現在解析中である。
著者
犀川 哲典 WANG Yan
出版者
大分大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

不整脈の発生母地としてのイオンチャネルの異常発現を検討する実験動物では、多くの場合に電位依存性Na+チャネルが減少しており、そのために興奮伝導の低下が生じることが多い。その結果、興奮伝導の低下によってリエントリー回路が形成され易くなり、心房細動は停止は困難になる。我々は、心筋細胞をプロテアソーム活性化剤(SDS)存在下で長時間培養するとNa+チャネル電流は減少する予備データをよりどころに、Na+チャネルは心臓の発生に関わる転写因子GATA4他の初期分化関連転写因子の作用によって発現が制御されるという仮説を立てた。その検証として、遺伝子組換えアデノウィルスを以下の要領で作成した。次に、リニア化したTRE17-pAdTrack-CMVとウィルスのbackbone plasmid(pAdEasy-1)をcompetent cell(BJ5183)にco-transfectし環状ウィルスDNAを作成した。更に、リニア化したTRE17-pAdEasy-1をHEK細胞にtransfectしてウィルスを収穫した。通常のpAdEasyシステムを用いて遺伝子(MEF2C,Tbx5,SRF,FOG-2)組換えアデノウイルスを作成した。次に、新生ラット単離心筋細胞に、組換えアデノウイルス(MEF2C,Tbx5,SRF,FOG-2)をトランスフェクトさせ、2日間隔(あるいは4日、8日間隔)で順次導入して、細胞の心筋化誘導とイオンチャネルの発現を行った。トランスフェクト後にどのように心筋分化が誘導されるか以下の手順で評価した。その結果、1)転写因子GATA4の遺伝子導入後に心筋細胞の自動拍動が有意に増加することを確認し、2)膜電位固定法によって細胞の最大拡張期電位が有意に過分極することを明らかにした。
著者
河田 惠昭 河田 英子
出版者
京都大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2004

子供たちに研究成果を絵本の形で出版し、教育効果を挙げるためには、いろいろな工夫が必要である。本研究では、漫画によるマニュアル、伝承の漫画化およびマニュアルのイラスト化によって実現した。まず、漫画によるマニュアルは、平成17年に高知県で発行された「南海地震に備え」(家庭保存版、カラー)では、漫画家のやなせたかし氏の協力を得て、次の登場人物、すなわち「じしんまん」「つなみまん」「たいさくくん」「ヘルパちゃん」ら6人のキャラクターを登場させ、挿絵漫画の形式で全28ページの南海地震・津波防災マニュアルが完成し全戸配布された。大変評判がよく増刷を実施した。伝承の漫画化では、「歴史漫画:浜口梧陵伝」として、『津波から人びとを救った稲むらの火』を出版した。これは1854年の安静南海地震津波で起こったことを素材としたフィクションを漫画化したものであって、劇画のストーリーからなる本文と本研究者らによる架空防災対談『津波から身を守る』が巻末に掲載された形になっている。漫画によるマニュアルは『こども地震サバイバルマニュアル』が刊行された。キャッチフレーズは小学生から読める、親子ですぐとりくめるであって、必要な情報がもれなくイラストと文章で提示されている。
著者
坪井 良子 石川 ふみよ 平尾 真智子 奥宮 暁子 佐藤 公美子 村松 仁
出版者
山梨医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

研究期間を通して,国立国会図書館所蔵のGHQ/SCAP Recordsから公衆衛生福祉局(PHW),民間情報教育局(CIE),民間史料局(CHS)及び経済科学局(ESS)のSheetsから,看護改革に関連する英文書を検索・収集し,分析を行ってきた。平成13年度に翻訳したNursing Education Council(看護教育審議会)の第1回から第6回分(1946.3〜1946.6)の会議録,議事録を統合して,看護教育改革の経緯を明らかにした。さらには,Council on Medical Education(医学教育審議会)の翻訳も進め,両方の会議のあり方,審議内容,その経緯など,関連性を追究してきた。これら会議での決定方針を具現化した,看護のモデルスクールであるTokyo Demonstration school of Nursingにおける設立時の教育内容(カリキュラムを含む)を見出し,占領初期の看護教育改革の実施過程を明らかにした。また,占領当時GHQ/SCAPに関与した看護職や占領期研究者へのインタビューを行った。研究活動の主な成果は,医学・看護系学会の学術集会で発表してきた。そして,従来の日本側の看護改革研究にGHQ/SCAP文書からの視点を加えて,新たな知見を提言した。特に,看護教育の改革構想に影響を与えた参加者名及び発言内容を明らかにしたことで,GHQ/SCAP, PHWが遂行した看護改革の意図,目標及び目的,経緯が明らかになり,今後の研究発展のための基礎資料となった。
著者
小林 雅之
出版者
日本歯科大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1995

I.歯科医師の正立顔写真および倒立顔写真のテスト映像に対する小児の眼球運動をビジコンアイカメラ用いて測定した。そして,被験者を6歳未満の低年齢児群と6歳以上の高年齢児群とに二分して分析し,以下の結論を得た。1.年齢差を認めたのは,視線の走査した範囲,飛越運動の角度,視線の方向性,輪郭線を通過した回数などであった。2.低年齢児群は視線の走査する範囲が狭く,顔の内部に視線が集まり,高年齢児群は視線の走査する範囲が広く,顔の輪郭を越えて背景と顔とを視線が運動した。また,低年齢児群は水平方向に次いで垂直方向の視線の動きが多く,高年齢児群は水平方向に次いで斜め方向の視線の動きが多かった。II.歯科医師,歯科衛生士そして小児患者個々の母親が登場する診療室での小児の見えを再現したビデオ映像を作成し,さらに,そのビデオ映像に三者のことばかけを加え,テスト画像が視覚刺激から視聴覚刺激へと変化した場合の小児の眼球運動の変化について実験を行い,以下の結論を得た。1.視覚刺激での最終停留点の部位は,歯科医師48.9%,それ以外51.1%、母親21.3%,それ以外78.7%,歯科衛生士27.7%,それ以外72.3%であった。2.ことばかけ(視聴覚刺激)による視線の動きは,歯科医師走査群76.6%,非走査群23.4%,母親走査群63.8%,非走査群36.2%,歯科衛生士走査群51.1%,非走査群48.7%であった。3.最終停留点で歯科医師,母親,歯科衛生士の三者それぞれに停留した被験児の割合と,三者それぞれの走査群の場合とを比較すると,三者のいずれも話しかけにより走査群は増加し,視覚刺激が視聴覚刺激に変わると,小児は視聴覚刺激を多く見ることがわかった。
著者
笹尾 登 中野 逸夫 吉村 太彦 川口 建太郎 旭 耕一郎 酒見 泰寛 杉山 和彦 藪﨑 努 福山 武志 田中 実 志田 忠正 梶田 雅稔
出版者
岡山大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2009-04-01

本研究では、新学術領域全体「原子が切り開く極限量子の世界」の目標達成を促進するため以下の活動を行った。総括班会議を定期的に開催し(総計21回開催)各計画研究の進行状況を監督、必要に応じて評価・助言活動を行った。また理論・技術面から領域全体の方向づけを行った。総括班の監督のもとに国際会議「Fundamental Physics using Atoms」を毎年開催し (第4から第7回)、そのプロシーディングスを発刊した。異分野の共同協力を更に推し進めるため、研究者ネットワークの発展拡大を図った。全ての成果をウエッブや紙・電子媒体を活用して、広く国内外へ発信した。
著者
原 梓
出版者
東北大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

大迫コホート研究では、前年度の検診で収集した高血圧性臓器障害に関する検査結果からデータベースの更新を行なった。大迫コホート研究の55歳以上の一般地域住民309名を5.7年間追跡し、家庭血圧と頸動脈病変進展との関連を検討した。高血圧基準値として、家庭血圧135/85mmHgおよび検診時血圧140/90mmHgを用い、初回検診時と再検診時の血圧により,家庭血圧,検診時血圧のそれぞれについて対象者を「正常血圧維持群(正常→正常)」,「高血圧進展群(正常→高血圧)」,「高血圧改善群(高血圧→正常)」,「高血圧持続群(高血圧→高血圧)」の4群に分類し、頸動脈内膜中膜複合体厚の進展を比較したところ、家庭血圧を用いた場合,高血圧持続群の頸動脈内膜中膜複合体厚の進展は,正常血圧維持群に比べて有意に大きかった。一方,検診時血圧を用いた場合にはこのような群間差は認められなかった。また大迫研究の一環として毎年行われる家庭血圧測定事業時に、セルフメディケーションに関する調査項目を含むアンケートの配布・回収を実施し、約400名分回収されている。産科コホート研究では、対象者となる妊婦の登録を参加施設において連続的に行った。妊娠期間中の家庭血圧測定・脈波伝播速度測定・採血・尿検査・児の出生児調査、産後の家庭血圧測定を行い、データーベース化した。本コホートにおいて、妊娠・出産を経験した母体に郵送したアンケート調査を用い、現在回答が得られ、データベース化されている64名を解析対象者として、妊婦におけるサプリメントの摂取状況について検討を行った結果、47%の者が妊娠期間中にサプリメントを摂取しており、さらに、妊娠期間中最も摂取率が高いサプリメントは葉酸であり、妊婦全体に占めるその摂取割合は41%であった。
著者
柘植 あづみ 武藤 香織 洪 賢秀 熱田 敬子 岩江 荘介 八代 嘉美 粥川 準二 小門 穂 仙波 由加里 張 チョンファン 三村 恭子 渡部 麻衣子
出版者
明治学院大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

医療技術の開発/応用とジェンダーの関係を検討するために日本、韓国、アメリカ等での遺伝子技術、生殖技術、再生医療研究の患者/利用者、研究者への聞き取り調査を実施し、さらにインド、中国などの情報を収集した。そこから医療技術の開発/応用にジェンダー役割が無批判に受容され、それが技術を要請する根拠になることを示した。その上で新しい医療技術の規制を考える際にジェンダーの視点の必要性を指摘した。
著者
アムール=マヤール オリビエ
出版者
立教大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

この3年間では私は特に、次の3つの主たる目的を設定した。まず第一には国際シンポジウム「ミシェル・ビュトール-境界にて、あるいは移動の芸術」を開催することである。シンポジウムの目的は、ビュトール作品にみられる日本文化の影響を明らかにすることであった。研究の2つ目の目的は、フランス現代作家の作品にみられるアジア文化の影響、特に日本文化の影響について、書物を準備・刊行することであった(『ノマドのエクリチュール-フランス作家と極東』)。研究の3つ目の目的は、上記シンポジウムの成果に基づく、共著を出版することであった(『ミシェル・ビュトール-境界にて、あるいは移動の芸術』、ディジョン大学出版局)。
著者
深澤 克己 櫻井 万里子 河原 温 北村 暁夫 西川 杉子 篠原 琢 千葉 敏之
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

本研究は、ヨーロッパ史上に出現した諸団体の多くに通底してみられる宗教的・密儀的な性格の比較分析をとおして、長期的時間の視野のもとに、古代から現代にいたる団体・結社の組織原理および思想潮流の展開過程と系譜関係を解明することを目的として組織された。18世紀に急発展をとげるフリーメイソン団を比較分析の十字路としつつ、古代ギリシア、中世ドイツ・ネーデルラント、近世フランス・イギリス、近代チェコ・アイルランド、現代イタリア史の専門家を結集し、合計6回の研究会を組織して、研究報告と討論を積みかさねた。本研究の独自性は、まず第一に、従来の歴史研究では各々の団体の性格に応じて、宗教史・経済史・政治史などの分野で別個に研究したのに対して、機能を異にする諸団体間の連関・重複・継承関係を重視したこと、第二に、伝統的歴史学の重視する団体の制度的・機能的側面よりも、団体内部の友愛・連帯を支える儀礼的・象徴的側面を強調したこと、第三に、これらの儀礼や象徴に素材を与えた密儀・秘教思想を、従来のように哲学的・思想史的観点のみならず、歴史的・社会的視点からも研究しようとしたことにある。もちろん研究成果には対象により粗密の差があり、全体の整合的連関にも課題を残しており、すべての問題に解答できたわけではないが、今回の成果をもとにさらに共同研究を深めれば、ヨーロッパ文明の根底にある非合理的・神秘的世界観、およびその容器となった兄弟団・友愛結社の役割の解明をつうじて、現代世界の批判的理解と実践的な未来構想の一助となる歴史理解を構築することができると信じている。
著者
趙 宏偉 下斗米 伸夫
出版者
法政大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

日本国内での研究活動のほかに、中国、ロシア、台湾を訪問し、研究活動をこなし、主な成果物として『東アジア地域統合の歩み-文献・考察・年表』をまとめ上げた。東アジア地域は、狭義的には日本、中国、朝鮮半島、及び関連地域を指し、広義的にはそれに東南アジアのアセアン10力国を加える地域を指すが、2005年12月に開かれた第1回東アジア首脳会議に上記の諸国のほかに印度、オーストラリア、ニュージーランドも加わった。東アジア地域統合ないし東アジア共同体は、1990年12月にマハティールマレーシア首相が最初に呼びかけたとき、「夢物語」と思われるほどであったが、その15年後に前述したように現実のプロセスとなっている。東アジア地域統合のプロセスには、アセアン諸国が先頭に立ってきたが、日米中印露など大国の思惑も交錯してきた。例えば日本が米、豪、印との連携を作ろうとしてきたのに対して、中露は「新国際秩序」を唱えて印度を巻き込む中露印協調体制の構築を目指してきた。この研究は1990年12月〜2007年1月の東アジア地域統合のプロセスを詳しく調べ、文献・考察・年表という形に纏め上げた。趙宏偉は研究代表として指導、監修等を担当したほか、関連分野の論文及び発表等をも行った。趙ゼミの学部生8人は「現代中国と東アジア研究会」メンバーとして資料の収集、字習と研究、年表の作成を取り組んだ。上記のほか、ロシアで講演とロシア語の論文発表を行った。講演は中ロ印協調体制の始動とその後の紆余曲折について分析を行い、ロシア語論文は中国の外交理念という視点から上海協力機構、中ロ印協調体制、日中日ロ関係について論じた。
著者
津田 敏隆 NARUKULL VenkateswaraRao NARUKULL Venkateswara Rao
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

高度約60-150kmに位置する中間圏・熱圏下部領域(MLT:Mesosphere-Lower Themosphere)は大気流体から電離プラズマに基本特性が遷移する。MLT領域は地球環境の天井部であり、かつ惑星間宇宙との境界で、地球温暖化と太陽活動の影響を同時に受けている。本研究ではレーダー観測をもとに、MLT領域における風速の長期変動特性を研究した。MLT領域の中心高度(80-100km)における風速は、中波帯(MF)レーダーおよび流星レーダーで観測できる。本研究では、1992年よりインドネシアの政府研究機関(LAPAN)と共同で計5台のレーダー観測を継続してきた(ジャカルタ、西スマトラ・コトタバン、パプア・ビアク島の流星レーダー。西カリマンタン・ポンチアナと西ジャワ・パムンプクのMFレーダー)。また、南インドのティルネルベリのMFレーダー、および米国CoRAがハワイ・カウアイ島とララトンガで運用したMFレーダー、さらにオーストラリアのアデレイド大がクリスマス島で行ったMFレーダー観測データも入手した。1992年以降20年にわたる長期観測で蓄積された風速データを解析し、平均風の東西と南北成分の長期変動特性を解析した。東西風には半年周期振動が現れ、それが2-3年毎に極端に増大することが分かった。一方、南北風は規則的な1年周期があるが、その振幅が変動していた。さらに平均南北風に長期的トレンドがあり、かつ観測点による差違が認められた。これが、地球温暖化あるいは太陽活動11年周期の影響である可能性がある。また、短周期(20分~2時間)の大気重力波の強度が半年周期で変動することを明らかにした。一方、赤道域のMLT領域では東西風に半年周期振動が現れている。両者の相関が良い期間(2008-2010年)があり、大気波動を介した大気の力学的結合過程が示唆された。