著者
大谷 雅人
出版者
独立行政法人森林総合研究所
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

対象樹種のうち個体数が多く,花序へのアクセスが容易なテリハハマボウとアカテツについて,在来昆虫相の崩壊が進んでいる父島・母島,在来昆虫相が保持されているがセイヨウミツバチが侵入している兄島,在来昆虫相が保持されている西島・向島において計6地点の調査地を設け,調査地あたり10~20母樹を選定した。6月および8月に,前者については母樹あたり10~30花,後者については100~200花を目安として標識し,2月までに結実を確認できた果実は採取した。しかし,ネズミ等による食害,フェノロジーの差異,台風などの影響により,多くの花が追跡不可能となった。未標識の果実も採取の対象としたが、遺伝解析に十分な数の確保には至らなかった。対象樹種のひとつオガサワラビロウに関しては,予備的調査において生態的・形態的に異なる種内系統が複数存在する可能性が示唆された。このことは進化学的・保全生物学的にも興味深い事象であり,また本プロジェクトの目的である種子生産,種子の遺伝的組成,花粉流動パターンの島間比較のためには,事前にこうした系統を把握しておく必要があるため,遺伝構造の解析,植物体の形態比較,開花フェノロジーの調査などを行った。核SSRマーカーによる解析および核・葉緑体DNAの配列多型から,遺伝的に分化した2つの種内系統、すなわち父島列島各島、母島と多く,幅広い環境に生育し,大型の植物体を有する系統Iと、聟島列島と母島列島南部属島に多く,海岸近くに偏って生育し,小型の植物体を有する系統IIが含まれることが示された。また,両系統とも九州や奄美群島の別変種とは遺伝的に大きく異なること,系統IIまたはその祖先系統から系統Iが分化した可能性が示唆された。両系統の中間的な遺伝的組成を有する成木や実生は稀であり,また開花フェノロジーが異なったことから,系統間の遺伝子流動は生じていないと推測された。
著者
岩月 啓氏 辻 和英 山本 剛伸 山崎 修
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

1.EBウイルス関連NK/T細胞増多症の疾患スペクトラム:本症の診断拠点施設としての役割を担ってきた。集積例の解析からそのスペクトラムを明確にし、悪性転化群の特徴を明らかにした(Arch Dermatol 2006,Eur J Dermatol 2006).皮膚リンパ腫登録制度を発足させ、EBウイルス関連リンパ腫の実態把握を開始。2.非侵襲的診断法および細胞内遺伝子発現解析:痂皮を用いた非侵襲的EBウイルス潜伏感染診断法を開発し(J Microbiol Methods 2007),国際特許申請中(PCT/JP2006/317851)。他のヘルペスウイルス感染にも応用し、ウイルス遺伝子産物とともに細胞内シグナルを解析(Eur J Dermatol投稿中)。3.ウイルス再活性化の証明と潜伏感染パターン変化:重症型では、病変内におけるEBウイルス再活性化シグナル(BZLF-1 mRNA)が明らかになった。一方、軽症の種痘様水疱症では、再活性化ではなく、皮膚病変内での潜伏感染IIへの移行がみられた。4.EBウイルス感染細胞株解析:樹立EBウイルス感染NK/T細胞株にて,PMAおよびある種のサイトカインによって潜伏感染から溶解感染への誘導ができた(論文準備中)。5.宿主免疫応答解析:ウイルス遺伝子発現と反応性CTLを解析して本症の主たる病態を明らかにした。6.治療への取り組み:腫瘍抗原に対する免疫応答誘導を確認し(Int J Cancer 2007),同時に免疫機構からの回避現象を解析した(Cancer Immunol Immunother 2008).EBウイルス感染細胞がHDAC阻害薬に感受性があることを見出した。EBウイルス関連疾患における免疫・薬物療法展開にとって貴重なデータを得た。7.EBウイルス関連リンパ腫を含めた診療ガイドラインを作成した。
著者
佐久間 路子
出版者
白梅学園短期大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

本研究は幼稚園5歳児,小学校1年生,2年生の3学年を対象に,2年間にわたり縦断追跡的に自己理解インタビューを行い,小学校への移行期における自己概念に関して(1)子どもの自己描出の量的・質的分析に基づき横断的に把捉された平均的な発達パターンと,縦断追跡的に捉えられた個人内の連続性と変化のパターンの差異を明らかにすること,(2)年齢要因と小学校へ移行という環境要因が自己発達の連続性に及ぼす影響を検討することが目的である。2005年度の第1回目調査(2006年1月〜3月実施)に引き続き,第2回調査を2006年8〜9月に都内の公立小学校2校で行った。対象児は,小学校1年生60(22)名,2年生56(54)名,3年生65(42)名,計181(118)名である(括弧内は縦断調査人数)。質問内容は,(1)現在の自分(いいところ等),(2)1学年前の自分(どんなところが変化したか等),(3)1学年後の自分(どんなところが変化するか等)についてである。さらに前回調査を行った子どもには,前回の調査を振り返る質問(前回次の学年になって変化すると思ったところは変化したか等)を行った。その結果,(1)横断的に把捉された平均的な発達パターンは,これまでの自己概念に関する知見とほぼ同様であり,縦断追跡的に捉えられた個人内の連続性は,3年生でより明確に見られた。(2)第1回目調査と比較した結果,5歳児から1年生への変化では,小学校への移行という大きな環境面での変化があったため,幼・保との違いや,勉強面に関する回答が多く見られたが,1年生から2年生の変化では,環境面の変化に関する回答は減り,性格・態度や能力の変化に関する回答が多く見られたこと,3年生では勉強に関する具体的能力と性格に関する回答が多く見られ,学校生活において勉強での能力の重要性が増加していることがうかがわれた。以上より,子どもの自己概念は,環境変化の多大な影響を受け,学校生活と密接な関連があることが明らかになった。
著者
小島 昭 佐藤 義夫 上野 信平 古川 茂 上石 洋一 白石 稔 OZAWA Tatuki NOBUSAWA Kunihiro 信沢 邦宏
出版者
群馬工業高等専門学校
雑誌
地域連携推進研究費
巻号頁・発行日
2000

炭素繊維が示すプランクトン集積機能、産卵促進機能を確認し、既存魚の再生産促進システムの開発を行った。(1)淡水(榛名湖)で着卵効果を確認(群馬高専) 榛名湖に各種炭素繊維編織品製人工藻を設置し、それへの産卵及び着卵現象を調査した。解析因子(水深、人工藻場の種類、形態、形状、岸からの距離等)と藻場の様子、固着微生物の観察、水質、藻場遊泳魚の種および数の確認を行い炭素繊維による再現効果を確認。(2)炭素繊維へのメダカの優先的産卵の確認(群馬高専) 実験室内水槽に炭素繊維製及び各種プラスチック製人工藻を設置し、メダカによる藻への産卵状況を調査した。メダカは炭素繊維藻と人工藻とを明確に識別することを確認した。(3)榛名湖でのワカサギの生育場の確認(群馬高専)(4)海洋での再生産可能な人工藻場の構築(東海大学) 駿河湾内に炭素繊維編織品製人工藻を3500本設置した人工藻場を構築。魚のい集機能、魚類群集の構造、系の形成が見られ、産卵場および幼稚仔の成育場機能を確認。(5)炭素繊維への貝類捕集による水質浄化現象の確認(東海大学) 清水湾内に炭素繊維品製人工藻を設置。人工藻に多数の貝類が固着し、水質浄化を確認。(6)既存魚再生促進用炭素繊維製人工藻の耐久性評価(群馬県繊維工業試験場)(7)ワカサギの着卵材としての炭素繊維の検討(群馬県水産試験場) 各種炭素繊維編織品で作製した着卵材を赤城山覚満川に設置。炭素繊維編織品の形状、構造、密度などによって、遡上するワカサギの着卵数、孵化数の差を検討。
著者
松田 厚範 片桐 清文
出版者
豊橋技術科学大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

本研究では、交互積層法を応用し、無機物質と有機物質がナノレベルで積層されたラミネートコア-シェルハイブリッド粒子および中空カプセルを作製し、その機能探索を行った。今年度は、以下の3点について研究を推進し、重要な成果を得た。【物質輸送放出機能】: 高分子電解質とSiO_2-TiO_2の多層膜からなる中空粒子や、高分子電解質とSiO_2およびWPAの多層膜からなる中空粒子の作製プロセスを確立した。得られた中空粒子の内包物放出挙動や化学的安定性の評価を行い、さらに磁場応答材料の設計について研究を進めた。【ナノリアクター機能】: 多孔質基板上に、交互積層法を用いて電子伝導性高分子、酸化チタン光触媒、プロトン伝導性高分子電解質、白金ナノ粒子、さらに電子伝導性高分子を積層し、マイクロ・ナノリアクターの構築を行った。紫外光照射によって、燃料として多孔質基板側から供給されたアルコールが酸化チタンの光触媒効果によって酸化され発電することを確認した。【プロトン伝導・センサ機能】: イオン性液体を内包するカプセル粒子を作製し、誘電率変化によって、吸着化学物質を検出する新規化学センサや金属ナノ粒子交互積層法によって電極基板上に形成したレインセンサの構築を試みた。得られた薄膜素子が有機物の吸着や水滴の付着によって誘電率が変化する容量検出型センサとして機能することを明らかにした。
著者
宮崎 由子
出版者
武庫川女子大学短期大学部
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1995

第3次健康食品ブームと言われている今日、健康維持に役立つ食品としてきのこが注目を集めている。特に最近、きのこ由来の多糖体が脂質代謝に関与したり、免疫促進作用を示すことが報告されているので、筆者はきのこに含まれる糖脂質に着目し、数種きのこの糖脂質について構造解析し、その生理活性について検討した。今回は、マイタケ(Grifora frondosa:新潟産)を用いて、Folch法に従い脂質を抽質した。抽出脂質はクロロホルム:メタノール:水(65:25:4by vol)及びクロロホルム:メタノール:酢酸(65:25:10by vol)の展開溶媒にて二次元薄層クロマトグラフィー(TLC)を行い、アントロン試薬で糖脂質を、Dittmer-Lester試薬でリン脂質を、ニンヒドリン試薬でアミノ脂質を各々検出した。総脂質をアルカリ加水分解しTLCで分画後、糖脂質を単離精製しIR分析及びFAB/MS分析により構造を同定した。総脂質の主成分は、カルジオリピン(CL),フォスファチジルエタノールアミン(PE),フォスファチジルコリン(PC),フォスファチジルセリン(PS)の各リン脂質と3種類の糖脂質(MGL-1,2,3)を検出した。単離した糖脂質について構造解析を行なった結果、MGL-1はグルコースを構成糖とし、d_<18:0>の長鎖塩基を持ち、脂肪酸として2-ヒドロキシステアリン酸を含有する質量数m/z742(M-H)^+のセラミドモノヘキソシドであることを確認した。しかし、MGL-2,MGL-3については構造を明確にはできなかった。さらに、MGL-1,2,3について生理活性を検討するために免疫の指標となるヒト好中球に対する貧食活性を調べた。ヒト末梢血よりmonopoly resolving meduimを用いて好中球を分離し、coverslip上にて90分前培養を行い、その好中球に各MGL-1,2,3をコートした黄色ブドウ球菌死菌体を加え60分培養した。その後メチレンブルーで染色し顕微鏡下で観察し、好中球内に貧食している菌数をカウントした。その結果MGL-2において貧食活性の促進が認められた。しかし、MGL-1およびMGL-3では変化はなかった。今後、MGL-2について、貧食細胞内での殺菌作用についても検討するつもりである。
著者
山口 信夫
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

十七世紀後半に祖国フランスを迎えられたデカルトの思想は、十八世紀にはその影響力を失ったとされる。このこと自体は間違いないのだが、デカルトの思想がこの時期において死に絶えたわけではない。十九世紀フランスにおいて、デカルト・ルネサンスといべき事態が生じた。そうであるとすれば、十八世紀フランスにおいて、デカルト主義が何らかの形で継承されていなければならない。どのようにデカルトの思想が継承されたかという問題を、デカルト神話の形成と発展を検討しながら論証する。1) フォントネルに継承されたデカルトの批判的方法の展開。十八世紀フランスにデカルト思想を伝達したフォントネルの思想文献にどのようにデカルトの方法にある批判性が継承され、具体的な問題に適用されたかを検討した。2) デカルト神話と称される場合の神話概念の検討。ロラン・バルトやギルバート・ライルなどの神話概念を批判的検討を通して、十八世紀フランスにおけるデカルト主義に関する思想史的研究におけるデカルト神話という概念を定位した。3) これまでの研究成果の再検討と補正。十八世紀フランス思想史に関する研究を参照し、本研究の充実を図った。例えば、デカルトとフェミニズムの問題は、エリカ・ハースの『デカルト的女性と旧体制における合理的言説の変異と転倒』(1992)によって、再検討した。4) デカルト・ルネサンス。十九世紀から二十世紀に復興したデカルト思想をデカルト神話という視点から概観した。5) 文献目録。これまでのデカルト神話に関する研究の網羅的文献目録を作成し、また本研究の資料を整備した。
著者
石川 遼子
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

太陽観測衛星「ひので」によって発見された短寿命水平磁場について以下の研究を遂行した。第一の研究は、大きさ1000km以下の微細な短寿命水平磁場と大規模対流構造の関係についてのものである。私は、短寿命水平磁場が4000-8000km程度の中間粒状斑と呼ばれる対流構造の沈み込みの部分に密集していることを発見した。この結果は、短寿命水平磁場が1000km程度の粒状斑だけでなく、より大きな対流構造にも影響を受けることを示しており、対流と磁場の相互作用に関して新たな知見をもたらした。この成果はアストロフィジカルジャーナルレター誌にて発表した。第二の研究は、短寿命水平磁場と「ひので」以前からその存在が知られていた垂直磁場との関係についてである。私は水平磁場と垂直磁場の空間分布に着目し、これらが密接な関係にあることを発見した。さらに、垂直磁場は中間粒状斑とさらに大きな対流構造である超粒状斑の両方の沈み込み部分に密集しているのに対し、水平磁場は中間粒状斑の沈み込み領域のみに密集していることも明らかにした。私は、これらの観測結果から、太陽静穏領域磁場を統一的に理解するための新たな描像を得た。この成果はアストロフィジカルジャーナル誌に発表した。
著者
安部 恵美子 吉本 圭一 小方 直幸 稲永 由紀 白川 佳子 安部 直樹 SAKANE Yasuhide TERANISHI Akio TAKASHIMA Chuhei FUKUMOTO Yuji YAMAMOTO Magobe NARUSHIMA Hiroshi TANAKA Masaaki YAMAFUJI Kaoru 吉武 利和 MIKI Kazushi 藪 敏晴 SHOUNO Chiduru MIYAUSHI Jun 石原 好宏 MUTO Reiji ITOU Tomoko KOJIMA Eiko
出版者
長崎短期大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

本科研は、短大ファースト・ステージ論の現実的可能性を探り、短大教育の成果(アウトカム)を明らかにすることを目指している。まず、短期大学教育の成果とは、卒業生の多様な活躍の実態と、彼らの短大教育に対する評価であるとの仮説を立てた。この仮説を立証するために、卒業生を対象とした調査を実施し、その分析結果からは、短大教育の長所と短所が読み取れ、また、教育の点検と評価に活用された。本報告書は、「第1部研究の課題と背景」「第2部卒業生調査の分析」「第3部卒業生調査から短大教育の点検、改善へ」で構成されている。(本研究から得られた代表的知見)1.短期大学卒業後の職業や進学キャリアの形成に関する学科や卒年間での相違は顕著であった。卒業生全体では、卒業直後に正規職を得ることや、短大での専攻分野を活かした職業を継続することに困難な状況が見られた。2.卒業生調査の分析では、各短大の教育の点検・評価活動を実りあるものにするために、教育のアウトカム指標に関する7つの標準的な説明モデルを提示し、各短大のアウトカムと、規定要因モデルをもとに各短大で達成しうるアウトカムのレベルとを比較した。(今後の研究課題)1.短大卒業生調査の二次分析(大学・専門学校卒業者との比較などを中心に)2.短大卒業生に対するインタビュー調査の実施3.卒業生の採用先・社会活動状況に関するインタビュー調査の実施
著者
横田 理
出版者
日本大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2006

本研究では、まず眼圧の測定原理をヒントにして測定方法を考えた。これを基に柔らかさ試験機の実用化を目指して、我々が提案する柔らかさの定義と測定方法について、実際に柔らかさ試験装置を開発し、空気噴射力による軟体物やうさぎの臓器等の被測定物表面に発生させたくぼみを計測して、それぞれの柔らかさを調べた。さらに、粘弾性測定ができるように装置の改良を行っている。本試験装置は、被測定物に流体(空気)を吹付けるノズル、ノズルに流体を送り込むコンプレッサ、流体を等速度で被測定物に噴射させるレギュレータとそのときの圧力を測定する圧力センサ、噴射された被測定物表面のくぼみを測定する形状検知装置、コンプレッサおよびレギュレータを制御する制御部、および表示部より構成されている。噴流により被測定物表面を圧平する力は、デジタル荷重計により予め求めておく。ノズル先端から被測定面までの距離1を設定したときに噴射力Fは決まるので、被測定物表面に生じたくぼみ深さh、およびくぼみ直径dは形状検知センサで計測する。被測定物の柔らかさ(Pa)は、被測定物に働く力Fをくぼみの表面積πdhで除した商より求められる。(1)圧縮空気を吹付けてくぼみを発生させ、そのときの空気圧、くぼみの直径と深さを計測する簡単な方法である。(2)本装置は柔らかさと粘弾性特性(クリープおよびクリープ回復)の測定が可能である。(3)本試験機は比較的簡単な方法でかつ迅速な計測であり、非接触・非破壊試験方法のため、衛生的であり、高い安全性をもつ。
著者
佐々木 良子
出版者
京都工芸繊維大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

20世紀初頭の初期合成染料の利用に焦点を当て、京都工芸繊維大学美術工芸資料館所蔵品を中心にその技法を調査・研究した。旧来の天然染料に代替した合成染料の使用により、染色技術が大きな変貌を遂げた。合成染料導入における友禅染の技術革新の状況をこの時期に開発された種々の友禅染の技法を収蔵品から確認した。次に、20世紀初頭の染織品に用いられた初期合成染料について、微量分析手法を開発し、資料に用いられた合成染料の同定を試みた。合成染料の場合、化学構造が類似した数多くの染料が合成されている。また、単離精製されている場合と、よく似た性質の染料が混合物のままで市販されている場合がある。更に、同じ化学構造の染料でも製造会社によって異なる名前がつけられる場合や、同じ名前でもヨーロッパと日本では異なる染料を示す場合がある。従ってこれまで構築してきた天然染料の分光分析手法をそのまま適用する事は困難である。そこで、天然染料に於いても化学構造の類した染料同士の分析に用いてきた質量分析を初期合成染料の分析に適用した。宮内省の下命により、京都高等工藝学校が秩父宮殿下御成年式の式服を作成し、1922(大正11)年3月に上納した。当時染色加工を担当した色染科の担当者が書き残した『式服加工仕様書』(AN.2517-2)によると、ほとんどの資料は酸性染料を用いて染色し、幅だしや裏糊加工を行っている事が会った。この秩父宮殿下御成年式式服等の残り裂、試し織資料(AN.2520)から、紅地資料(AN.2520-1)を選び、裂地端より微量試料を採取し、染料を抽出、質量分析に供した。その結果、『式服加工仕様書』に記述のあるMethanil Yellow(acid yellow 36)及びPalatine Scarlet(現在は市販されていない)と同じ分子イオンM/Z 352及び435が観察された。
著者
村田 忠男 伊原 睦子
出版者
九州工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

日本語の連濁に関する村田(1984)をスタート地点とし、21年後に伊原・村田(2006)で再立ち上げを行った研究は、さらに、発展を続け、Ihara, Tamaoka and Murata(2008)及びTamaoka, Ihara, Murata and Lim(to appear)その他と進化かつ深化した研究論文となった
著者
野口 高明 中村 智樹 木村 眞 木村 眞
出版者
茨城大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

4年にわたり、総計約400kgの雪を南極より日本に持ち帰ってもらい、その雪から地球外起源の塵を約200個発見した.その中から、従来、成層圏でしか捕集できなかった彗星起源塵を約10個同定できた.彗星起源塵には、炭素質コンドライトという隕石に特徴的な構成要素と鉱物学的にも同位体化学的にも区別のつかない物体が含まれることを発見した.さらに、彗星起源の塵と小惑星起源の塵には、炭素質物質の骨格構造的に違いがあることがラマンスペクトルの解析から分かった.
著者
今泉 祐治 大矢 進 山村 寿男 戸苅 彰史
出版者
名古屋市立大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

脳神経等の興奮性細胞では、強い刺激と興奮により細胞にCa^<2+>負荷が生じた場合、自己防衛的にスパイク発生頻度を減じてCa^<2+>過負荷による細胞障害を回避するシステムが存在する。特にCa^<2+>活性化K^+チャネルはその活性化により、過分極を介して電位依存性Ca^<2+>チャネル活性を低下させるため、多くの興奮性細胞において最も基本的な[Ca^<2+>]_i負帰還調節機構を担う重要な分子と認識されている。本研究はCa^<2+>活性化K^+チャネルの分子制御機構の解明を基盤とした創薬研究を目的としている。研究期間内に以下の事柄を明らかにした。(1)脳血管内皮細胞に発現している小コンダクタンスCa^<2+>依存性K^+(SK)チャネルがアストロサイトなどから遊離されたATP刺激による内皮細胞増殖促進機構において、極めて重要な機能を果たしていることを発見し、創薬ターゲットとしての可能性を示した(JBC,2006)(J Pharmacol Sci,104,2007)。(2)型リアノジン受容体(RyR2)異型接合性欠損マウス膀胱平滑筋を用いて、[Ca^<2+>]_i負帰還調節機構へのRyR2と大コンダクタンスCa^<2+>活性化K^+(BK)チャネルの寄与を明らかにし、尿貯留・排泄調節という膀胱機能発現において生理的に重要であることを示した(J Physiol,2007;J Pharmacol Sci,103,2007)。(3)電位感受性蛍光色素として創薬探索に汎用されているオキソノール化合物がβ1サブユニット選択的なBKチャネル開口作用を有することを発見し、BKチャネルβサブユニット選択性のある初めての化合物として創薬シーズの可能性を示した(Mol Pharmacol,2007)。(4)本態性高血圧症モデルラット(SHR)の大血管において細胞外液酸性の状態で収縮が著しく増強されることが知られていたが、高血圧の補償として発現促進されたBKチャネル機能更新と酸性時に活性が抑制される特有の機構が主な原因であることを見出した(Am J physiol,2007)。
著者
前野 正夫 鈴木 直人 田中 秀樹 田邊 奈津子 田邊 奈津子 田中 秀樹
出版者
日本大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

ニコチンとLPSが,歯肉上皮を浸透して骨芽細胞および破骨細胞前駆細胞に作用することを想定し,本研究を企図した。ニコチンとLPSは,骨芽細胞に対して破骨細胞形成を促進する種々の因子の発現を増加させるとともに,骨芽細胞による類骨層のタンパク代謝を分解系に傾けた。破骨細胞前駆細胞に対しては,骨基質タンパク分解酵素の発現増加を介して骨吸収能を上昇させた。これらの結果,歯槽骨吸収が促進されて歯周病が増悪する可能性が示唆された。
著者
鈴木 明子 一色 玲子
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

生活実践への自己効力感の下位項目「数的処理」「分析的思考」等 と家庭科布ものづくり学習への好意度との間に小中学生で相関がみられ,小学生では一般性自己 効力感の因子項目と同好意度との間にも相関がみられたことから,布ものづくり学習への好意度 が増せば,生活実践への自己効力感や一般性自己効力感の向上につながることが示唆された。ま た中学校の二つの授業を分析することによって,製作過程で思考を深める場面を設定することが,「技能への自信」等の生徒の自己評価を高め,製作活動への好意的意識をもたせることに効果的 であることが明らかになった。
著者
田中 真介
出版者
京都大学
雑誌
特定領域研究(A)
巻号頁・発行日
1999

本研究では、幼児群4〜6歳児計43名、及び障害者群として授産・更正施設で共同生活する成人期の28名を対象として、幼児期の自己認識の深化が中間概念の形成とどのように関連しあって発達するかを調べた。その際、(1)中間概念の形成水準を1)系列円描画課題と2)七つのマル・テストで推定した。(1)系列円の描画:「小さいマルからだんだん大きいマル」を、たくさん及び7つ描かせたあと、最小と最大のマル、次いで「真ん中」はどれか、そして中央の判断理由を問うた。(2)自己認識の水準を自己全身像描画課題(三方向描画)と「真ん中」の判断理由から推定した。三方向描画では「自分の顔と体を、前、後ろ、横から見たところ」を描くよう指示した。また(3)新版K式検査で発達年齢(DA)を推定した。3歳から6歳に、中間項の認識のしかたと自画像の描き方から5つの発達過程が区分できた。横顔描画が確定する発達過程4に到るのは幼児群ではDA5歳後半であったのに対し、障害者群ではDA7歳半ばだった。自己概念の形成不全が個別諸機能の発達を制約していることを示す重要な結果である。両群間で「真ん中」の判断理由が顕著に異なっていた。幼児群は、(1)「真ん中と思ったから」「わかったから」など、自分自身の思考の働きを意識した答え方、及び(2)「真ん中みたいだから」「中ぐらいだから」「ちょっと〜だから」など自らのイメージや見立ての上に対象を重ねた判断の仕方を示し、間を刻む精細な対象把握ができていた。幼児群では5歳後半以後の20名中12名(60%)が上記のいずれかの答えだったのに対し障害者群では14名中3名(21%)のみがこのような答えだった。自分自身の思考活動を対象化することによってそれが学童期以後にどのようにして自己を客観的に見る力につながり、自他そして集団や社会に共通する普遍的な価値を見い出すに到るのか。その解明が今後の課題である。
著者
石田 博幸
出版者
愛知教育大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

本研究は,日・タイの小・中学校の生徒の環境意識調査に続き,環境意識と向社会的行動との関連性へと進んできた。結果は,環境行動と向社会性行動には,弱い正の相関があることが証明された。ただ,環境教育の成果が出ている反面,教育で受けた知識と実際の行動の間に相違が出てきており,知識が行動に直結するようになるには少し時間が要るように思われる。3年間を通して何度かタイ教育省関係者およびタイ人共同研究者を招聘し,環境教育関連討論会を開き討論した。2年目の5月には日本環境教育学会で,7月には,WCCI国際学会で日・タイの児童の向社会性意識と環境意識の関係について発表した。また,メコン川環境破壊状況を調査し,共同研究者と討論し指導した。11月に愛知教育大学で開催された地域教育シンポジウムへタイの環境教育学者を招聘し講演してもらった。同じく11月にラチャパット大学(複数)を訪問し,研究交流について討論した。12月には,チェンライラチャパット大学の大学設立記念式典で招待され記念講演を行った。12月末におきたスマトラ沖地震はタイの児童の環境意識に大きな影響を与えたと推測される。その調査の準備のため3月に訪タイした。最終年度は,当県で開催された愛・地球博が,環境問題解決には重要であると考え,タイ人共同研究者を招聘し,研究してもらった。その成果は,彼らを通じてタイの環境教育に大きく寄与をする。さらに,スマトラ沖の地震・津波の児童・生徒の環境意識への影響の調査をした。結果は,タイの児童・生徒は,その甚大な被害にもかかわらず,宗教と科学に対する信頼を維持していることがわかった。世界中からの救援や科学鑑定が科学への信頼を増したと思われる。宗教心が薄く,なおかつ,科学への信頼が薄れてきている日本の子どもたちと比較し,注目すべき結果であり,今後,学界や社会へ発表して行く予定である。
著者
鈴木 孝明
出版者
香川大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

本研究では、MEMS製造システム技術のフレキシブル化・ハイスループット化を目的として、駆動機構を有する複数の機能を集積化したマイクロシステムを単一マスクパターンからアセンブリフリーで作製する方法を開発した。本技術の特徴は、複雑に流路が入り組んだマイクロ流体システムの作製と、さらにその内部に磁気駆動素子を組み込むことをアセンブリフリーでできる点にある。作製方法として、独自の加工技術である単一マスク回転傾斜リソグラフィにより、(1)フォトレジストを塗布して流路構造を作製し、(2)さらに(1)とは逆型のフォトレジストに磁気微粒子を懸濁し、流路内に導入して同じマスクを用いて露光することによって、磁気駆動素子をマイクロ流路内に作製・同時設置する方法を提案した。
著者
益子 幸江 佐藤 大和 峰岸 真琴 降幡 正志 岡野 賢二
出版者
東京外国語大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

本研究では、強調の機能をイントネーションがどのように表すことが可能かを、タイプの異なる複数の言語について、音響音声学的データに基づいて検討した。言語タイプとして、音の高低を用いる声調言語と高低アクセント言語、音の強弱を用いる強弱アクセント言語を取り上げた。声調言語ではイントネーションは通常は用いられないのに対し、他のタイプの言語ではイントネーションが用いられることがわかった。また、発話における声調のピッチパタンは声調ごとの典型的なパタンからの逸脱(調音結合)では説明できず、声調の組合せからなる形態統語論上の単位に付与される動的パタンと考えられることが明らかになった。