著者
松下 光範
出版者
関西大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

本研究の目的はテーブルを囲む少人数参加者の合議に焦点を当て、知識の非対称性を有する参加者間のコミュニケーション様態と議論結果との関連性を明らかにすること、及びその協同を円滑に支援するためのテーブル型システム実現のためのデザイン指針を明らかにすることである。そのために、対面協調作業参加者の間のコミュニケーション行為に着目し、そこで行われるインタラクションの特徴を3つの実験を用いて観察した。実験の結果、(1)反射的応答を必要とする課題では、指を用いた直示行為の利用可否が発話内容と課題達成度に影響する、(2)熟考することが求められる課題では、他の参加者の非言語モダリティの参照可否は課題達成度に大きな影響を及ぼさない、(3)発話長や発話頻度は課題のタイプや非言語モダリティの利用可否に影響を受けない、(4)結合型課題では、グループ全体の効用が参照可能な状況下、かつ全ての参加者の代替案集合に対する評価が静的である場合に、より参加者全体にとって効用の高い案で合意できる可能性がある、ということが観察された。
著者
荒井 茂夫 田村 慶子 加納 寛 福田 和展 田中 恭子 レオ スリヤディナタ 賢 強
出版者
三重大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

調査表回収率は全体で5割ほどであった。458部は十分とは言えないが、丁寧な聞き取り調査によって数値を補うことができた。インドシナ諸国華僑華人の移動は政治的混乱と戦争が最大の要因で新概念による分類が必要となった。従来は旧華僑・華人、新華僑の2分類であったが、難民華僑という分類である。彼らは受け入れ国、脱出国、中華文化の三者に濃淡差のあるアイデンティティを持つ点が他地域の華人と異なる点である。また欧米の難民華僑社会は民族・文化的共通の通信回路を持つエクスターナル・チャイナ的領域の拡大と見ることもでき、ワン・ガンウの理論は合致するが、移動に関して華僑大衆は生活次第で定住する傾向があり、難民華僑成功者も受け入れ国に資産を置きながらだ出国に帰国投資するもので、一族挙げて戻ることはない。この点ワン氏の理論は問題はあるが、都市間の移動という点では当てはまる。
著者
井ノ口 馨 岡田 大助 大川 宜昭 鈴木 章円 Shehata Mohammad 鈴木 玲子 西園 啓文 野本 真順 横瀬 淳 村山 絵美 趙 埼 北村 貴司
出版者
富山大学
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2011-04-01

「記憶のアップデート機構」は知識の形成を通じて精神活動の基盤となる。記憶のアップデートは記憶同士の連合により行われるが、そのセルアセンブリレベルのメカニズムは不明であった。本研究では、二つの記憶情報が連合する回路レベルのメカニズムを明らかにするために、(1)CS-US連合(2)行動タグ(3)高次の連合のそれぞれについて、記憶が連合(相互作用)するセルアセンブリレベルのメカニズムを解析した。その結果、記憶が連合(相互作用)する際には、それぞれの記憶の対応する神経細胞集団の同期活動によるオーバーラップが重要な役割を担っていることが示され、記憶がアップデートされる脳内メカニズムが明らかとなった。
著者
田中 克明
出版者
大阪市立大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

全身麻酔下にラットの側坐核にマイクロダイアライシス用ガイドカニューレを留置し、反対側の側坐核に貼り合わせ脳波電極を留置して覚醒させた。意識下動物において経時的に同部位の脳内局所麻酔薬濃度を定量し、なおかつ局在的な脳波を記録するモデルを確立した。ヒトにおいては、局所麻酔薬を硬膜外カテーテルより持続投与し、静脈内投与された麻薬性鎮痛薬が脳波(Bispectral Index : BIS)に与える影響を検討した。局所麻酔薬投与1時間後には安定した脳波が得られ、局所麻酔薬と麻薬の効果部位濃度が定常状態に達したことを反映する知見が得られた。
著者
有賀 哲也 奥山 弘
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

固体表面上に形成された低次元金属においては、電子と電子の間の相互作用、電子と格子の間相互作用、あるいはラシュバ型スピン軌道相互作用によって、さまざまな興味深い低次元物性が発現する。本研究では、将来の半導体スピントロニクスの基盤となる半導体表面上低次元金属において、さまざまなタイプのラシュバ型スピン偏極状態を発見した。また、ケイ素表面上の低次元インジウム単原子層における金属-絶縁体相転移が擬一次相転移であることを明らかにした。
著者
内村 裕 名取 賢二
出版者
芝浦工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

自律的に移動する複数の移動ロボットによって無線通信を中継することで、無線ネットワーク網を構築し、探索ロボットの活動範囲を拡張すると共に、探索ロボットの移動に追従して動的に配置を最適化するための制御系の開発を目的に研究を行った。このなかで、中継を行う各ロボットの最適な配置位置に制御するため、電波強度とロボットの位置関係を考慮した手法を考案した。また、中継時に発生する遅延を含むシステムの性能を向上するため、性能劣化の要因となる保守性を軽減した制御法を考案した。本研究において製作した複数の移動ロボットを使用し、電波が阻害される屋内環境において検証実験を行い提案手法の有効性を確認した。
著者
南雲 泰輔
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

本年度は、まずは昨年度取り組んだ研究成果を口頭報告および論文として発表することから始めた。第一に、第8回日本ビザンツ学会において口頭で報告を行なった21世紀以降の「古代末期考古学」の動向分析を学界動向として論文化し、『古代史年報』8号(2010年)に発表した。第二に、ローマ帝国西部の武官スティリコに関する研究成果の一部を、第60回日本西洋史学会大会(2010年5月30日、別府大学)において口頭で報告し、この口頭報告を基にした論文を『古代文化』62巻3号(2010年)に発表した。この論文は、後期ローマ帝国において「蛮族」という属性が持った意味について、近年主流となっている考え方とは異なる視角から解明を試みたものであり、詩人クラウディアヌスのラテン詩等の分析に基づき、皇帝家と「蛮族」出身の武官スティリコとの間で形成された姻戚関係に着目して考察を行なった,続いて本年度は、ローマ帝国西部における当時の代表的元老院貴族クイントウス・アウレリウス・シュンマクスの著作を中心とした考察を新たに進めた。予定通り、2010年9月に英国・ロンドン大学古典学研究所および大英図書館において集中的な文献調査・資料収集を行ない、国内では入手・閲覧の困難な多数の関連資史料を参照・収集することができ、これによって現在までの研究状況とその問題点とを概ね把握しえたことは大きな成果であった。また、この文献調査・資料収集の結果、本年度の当初の研究計画は部分的に修正する必要が生じ、とりわけ分析の中心となる同時代史料については、シュンマクスの残した『書簡集』のみならず『陳述書』をも視野に含めることとして、それぞれの史料の読解を進め、これを検討した。
著者
原口 智和
出版者
佐賀大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2004

作物生産において水と養分は不可欠な要素であるが,水資源は逼迫し,かつ肥料による水環境の汚染が問題となっている.このような現状に鑑み,灌漑水と肥料の有効利用に資するため,必要最小限の灌漑水と肥料による作物栽培技術を確立すること目的として本研究を行った.作物が必要とする水および養分の量を,1個体あるいは数個体程度の小さなグループ毎に判断し,それらに必要な分のみを与えれば,圃場全体における灌漑水量および施肥量を最小限に抑えることが可能と考える.ここでは,作物生長を妨げない程度(必要最小限)の水分や養分が土壌中に存在しているかどうかを,作物の近赤外線画像から判定することを試みた.実験では,ビニールハウス内において,ワグネルポットにプロッコリおよびキュウリを栽培し,6種のバンドパスフィルター(550,650,680,750,780,800nm)を取り付けたデジタルカメラで葉および個体を撮影してその画像を解析した.土壌水分および養分の異なる条件で栽培した作物体について全体を撮影し,輝度(各波長光線の反射率)の分布と土壌水分・養分欠損との関係を調べた.その結果,葉が全方向に広がっているブロッコリについては,葉による蒸散量(抵抗)の違いは微小であり,また,「近赤外領域(780,800nm)の画像において,土壌水分の欠損によって輝度(対象領域内平均値)が増加する」ことが,個体全体を対象とした解析によって示された.一方,キュウリについては,葉の枚数が少ないため,葉の位置によって蒸散量(抵抗)や光の反射率の差が大きく,個葉を対象とした撮影・解析がふさわしいことが明らかとなった.
著者
久保 智之 馮 蘊澤 早田 輝洋
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

研究代表者の久保智之は、満洲語口語(中国新疆ウイグル自治区のシベ語と、同黒龍江省で話されている満洲語口語)について、特に音韻論的、形態論的な側面において、満洲語文語との異同を研究した(シベ語も満洲語口語と言ってよいが、ここでは黒龍江省の満洲語口語と区別するため、便宜的に黒龍江省の満洲語だけを「満洲語口語」と呼ぶ)。シベ語、満洲語口語とも、語幹と接辞の間の母音調和が消失している。シベ語はそれが、語幹と接辞の間の子音の調和にとってかわられている。シベ語は、/k/と/q/、/g/と/G/、/x/と/X/の対立をもっている(おそらく満洲語文語とおなじ)が、満洲語口語は、それらの対立を失なっているようである。満洲語口語は/r/と/l/の対立も失なっている。総じて、シベ語に比べて満洲語口語のほうが、満洲語文語との隔たりが大きいように思われる。研究分担者の早田輝洋は、『満文金瓶梅』の電子化テキストを使用し、満洲語文語の研究を進めた。満洲語文語の母音について考察を進め、5母音とするのが妥当であるという結論を得た。また、『満文金瓶梅訳注第十一回-第十五回』を公刊した。満文のローマ字転写及び訳注から成る。さらに、標準的でない語形を多く含む『大清全書』の電子化テキストを作成し、索引と共に公刊した。満洲語の音韻論的研究に裨益するところ大であろう。同じく研究分担者の馮蘊澤(平成11年度〜12年度に参加)は、早田の作成になる『金瓶梅』崇禎本のデータベースを用いて、文法形態素「得」に関わる統語現象の分析を進めた。現代語との比較対照も行なった。
著者
橋村 隆介
出版者
崇城大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

当研究は、開放性海域および閉鎖性海域に面する沿岸構造物(施設)を対象とした波浪および高潮による被害規模の予測法の開発と各沿岸の耐台風力の評価を行うシステムを確立し、防災事業・業務上における海岸管理、沿岸構造物(施設)の設計、および沿岸住民の安全確保を行うことを目的としている。現在まで、4つの予測法の開発を行った。すなわち、1.台風の中心付近の最大風速を用いた最大風速による予測法、2.台風の中心付近の最大風速と強風域の大きさを組み合わせたマグニチュードを用いた、台風のマグニチュードによる予測法、3.波高の影響だけでなく周期の影響を考慮できる換算波エネルギーを定義し、この換算波エネルギーを用いた換算波エネルギーによる予測法、さらに4.高潮の影響を考慮した被害予測法の開発においては、台風の中心気圧の影響は重要なパラメータであるので、台風の中心気圧を用いた中心気圧による予測法を開発した。つぎに、開発した4つの予測法を用いて、甚大な被害をもたらした1998年の台風9918号によって発生した被害を対象として、予測法の適用性の検討を行った。この結果、台風が来襲する以前に来襲したときの各沿岸で発生する被害規模を、これらの4つ予測法によってある程度の精度で予測できることを明らかにした。これらの予測法の開発により、台風のコース毎の各沿岸の危険度、台風の沿岸への影響度、沿岸構造物の耐台風力を示すことができた。この結果、台風が来襲してくるときの各沿岸の被害規模の予測も可能になり、沿岸住民の早期避難と生命・財産に対する安全対策にも役立てることができる。
著者
岡本 徹 枡富 龍一
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2009-04-01

高移動度シリコン2次元電子系に対して、磁場に対する角度をその場制御しながら磁気抵抗効果の測定を行った。非整数のランダウ準位充填率においてランダウ準位交差を行ったところ、電子局在に相当する縦抵抗の明瞭なディップが観測された。直流抵抗で金属的温度依存性を示す同系に対して、低温下でサイクロトロン共鳴の測定を行った。緩和時間は、直流抵抗から得られるものと同様の温度依存性を示した。GaAs劈開表面に形成したPb単原子層膜における超伝導を調べた。実験結果は、大きなRashba分裂を持つ2次元金属に対して予想されていた空間変調を有する超伝導状態によって説明された。
著者
佐藤 圭子 阿部 康二
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

近年、神経細胞の新生が成体脳でも確認され、新しい神経回路付加に関与することが示されている。本研究では、てんかんおよび神経可塑性のモデルであるキンドリングで、発作発展および全般発作反復による神経幹細胞の増殖とmigrationおよび神経可塑的変化を検討した。ラット扁桃核にテタヌス刺激を1日1回加え、BrdUを6-8回目の刺激前に投与した。部分発作群(PS群)、全般発作3回群(3GS群)と全般発作30回群(30GS群)を作成し、BrdUとPSA-NCAMの免疫組織染色を行った。BrdU陽性細胞数は、PS群では、側脳室下帯(subventricular zone : SVZ)で増加したが、海馬歯状回(dentate gyrus : DG)では有意な変化はなかった。また、SVZのBrdU陽性細胞数は、3GS群と30GS群では対照レベルより有意に減少していた。PSA-NCAM陽性細胞数の増加は、3GS群と30GS群でDG、SVZ、梨状葉においてみられたが、PS群では有意な増加は認められなかった。DGにおいて3GS群では対照群の約2倍に増加し、30GS群では陽性細胞数はさらに増加したが、3GS群に比べ有意差は認められなかった。陽性細胞は、対照群ではDGの顆粒細胞層深部に限局していた。3GS群で陽性細胞の顆粒細胞層内への移動や陽性神経突起の伸長が若干みられたが、30GS群ではより顕著となった。一方、側脳室下帯(SVZ)のPSA-NCAM陽性細胞数は3GS群で対照群の約4倍に増加し、30GS群では3GS群に比較し有意な増加がみられた。てんかん脳で新生神経細胞の増殖やmigrationおよび神経可塑的変化が発作活動依存性に誘導されることが示された。また、神経可塑的変化に加え、新生細胞が形成する神経回路が、てんかん脳の機能変化や神経再構築に関与する可能性が示唆された。
著者
小畑 秀文 増谷 佳孝 佐藤 嘉伸 藤田 廣志 仁木 登 森 健策 清水 昭伸 木戸 尚治 橋爪 誠 目加田 慶人 井宮 淳 鈴木 直樹 縄野 繁 上野 淳二
出版者
東京農工大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2009-07-23

本申請課題においては、5年間にわたる研究成果のとりまとめと、研究成果を社会・国民に発信することの2つが目的であった。第一の目的である研究成果のとりまとめにおいては、計算解剖学の目的、研究組織、計画班および公募班それぞれの研究成果(著書・論文のリスト、特許を含む)と共に、計算解剖学という新たな領域としての状況、計算解剖学主催による学術研究集会およびアウトリーチ活動、諮問委員による研究評価、などを含め、研究成果報告書として取りまとめて印刷・製本した。また、同報告書の内容に研究成果をより理解しやすいように一部の動画をも含めてCDも作成した。これらは関係研究機関に配布した。第二の目的である研究成果の社会・国民への発信に関しては、2つの取り組みを行った。一つは、「3Dプリンタで臓器モデルを作ろう!」と題した中学・高校生向け講座である。これは日本学術振興会主催の「ひらめき☆ときめきサイエンスプログラム」の一つとして2014年8月21、22日の2日間にわたって名古屋大学にて開催したもので、CT画像から臓器を抽出し、それを3Dプリンタで打ち出すまでを体験させた。次代を担う世代に計算解剖学の成果の一端を分かりやすく紹介したものである。二つ目は東京農工大学にて開催した「計算解剖学」最終成果報告シンポジウムである。計算解剖学プロジェクトで新たに開発された基礎から応用(診断・手術支援)までの研究成果を関連分野で活躍する研究者・技術者に対して広く紹介した。また、専門的・学術的な立場から計算解剖学の現状評価と今後の方向性や課題を議論し、次のステップへの礎とした。
著者
白鳥 則郎 菅沼 拓夫 北形 元
出版者
東北大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

最終年度である本年度は,下記テーマ(A),(B),(C)については,19,20年度の研究成果をもとにさらに詳細化と実装を進め,完成度を向上させた.また(D)については,20年度の検討をもとに詳細設計と実装を進め,プロトタイプシステムによる評価実験を行った.さらに最終年度のとりまとめとして(E)を実施した.本年度の各テーマの具体的な研究成果は以下の通りである.1.テーマ(A):ネットワーク情報の収集技術の実装とバージョンアップを進めた.また,ネットワーク情報を利用者に分かりやすく可視化して提示する表示支援システムを構築した.2.テーマ(B):NDNの具体的なモデルの構成とアーキテクチャの詳細設計をさらに進めた.3.テーマ(C):(A)の成果を用い,NDNの自律的な制御・管理技術の設計と実装を進めた.4.テーマ(D):(A)-(C)の成果を用いて評価用アプリケーションの詳細設計と実装を行った.また,実際の災害を想定したシミュレーション実験を行った.5.テーマ(E):(A)-(D)の成果を統合し,本提案の総合評価を実施した.本年度は特にテーマ(D)の推進に力を入れた.具体的には,近い将来発生が予想される宮城県沖地震など,実際に発生する災害時のコミュニケーションやネットワーク障害を想定し,NDNの挙動をシミュレーション実験により観測することで,その効果を検証した.以上の成果を,国際会議や国内学会等で発表した.以上より本研究は,ほぼ計画通りの進捗であると言える.
著者
岡本 泰昌
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

うつ病はネガティブな情動刺激に対する自己関連付けをおこなう特徴を有する。これまでの画像研究の結果から、自己関連づけ処理と内側前頭前野(MPFC)と前帯状回(ACC)の機能の関連が指摘されているが、うつ病を対象としたこれらの機能異常は明らかになっていない。そこでわれわれはいくつかの検討を行い、以下のような知見を得た。ネガティブ刺激の自己関連付けにおいてうつ病患者の内側前頭前野・前帯状回の活動は対象健常者より有意な活動上昇が認められた。さらに、うつ病患者を対象として認知行動療法(CBT)後には、ネガティブ感情語の自己関連付けにおいてCBT後に内側前頭前野、腹側前帯状回の活動が有意に低下することが明らかになった。われわれの研究の結果は、CBTによって自己に対するネガティブな認知に関わる脳機能が変容することによりうつ病の症状が改善することを明らかにした。
著者
南部 智憲 松本 佳久 湯川 宏
出版者
鈴鹿工業高等専門学校
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

Pd系水素透過合金膜の耐久性に及ぼす遷移金属元素の添加効果を系統的に調査した。Pd合金膜に鉄粒子が付着するとガスリークの原因となる膜劣化を生じる。この問題について、周期表第5・6族金属、ZrおよびRe添加により、鉄粒子付着による膜劣化を防止できることがわかった。このような膜劣化防止元素をPdに添加すると、合金中の空孔形成エネルギーを増大し、原子拡散が生じにくくなり、膜劣化の原因であるケーケンダルボイドの形成が抑制されると理解できる。また、W添加はPd合金膜の強靭化にも有効である。これら元素の必要添加量はわずか1mol%であり、Pdの水素透過能を維持しつつ膜劣化を防止できることを明らかにした。
著者
西 荒介 吉原 照彦 南川 隆雄 橋本 隆 茅野 充男 大山 莞爾
出版者
富山医科薬科大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1990

本研究は2つのグル-プの協力によって進められた。第1のグル-プは植物のシンク機能に関係する遺伝子の構造と発現調節を調べ、第2のグル-プは同機能の発現に影響する生理活性物質の解明を目的としている。第1グル-プの大山は光合成細菌の形質転換系を用い、ゼニゴケ葉緑体の未知遺伝子と相同性を示す遺伝子のクロ-ニングを行った。たん白や酵素遺伝子の発現調節機構を検討するため、南川はマメの種子の数種のたん白や酵素について、新名は西洋ワサビのペルオキシダ-ゼについて、それぞれの遺伝子の構造を解析すると共に、そのプロモ-タ-領域をレポ-タ-遺伝子につないで異種植物に導入し発現の様子を調べた。小林はシロイヌナズナの組織やカルスを用い、光合成遺伝子の転写活性とDNAのメチル化の関係を調べた。。庄野は細菌型インド-ル酢酸合成経路の少くとも後半の部分は植物にも存在することを確め、その生理機能の検討を進めている。第2のグル-プで吉原はキクイモからツベロン酸外数種の塊茎形成物質を単離、またタマネギの鱗茎形成物質を追求している。一方、山根は鱗茎形成抑制物質と考えられるジベレリンの作用を検討するため、その分布と変動を調べた。橋本はヒヨシアミン水酸化酵素の抗体を用い、細胞免疫化学的に同酵素の分布を調べ、根の内鞘での特異的発現を認めた。茅野はダイズ貯臓たん白の遺伝子を得て、それを異種植物に導入し、栄養による発現調節がダイズと同様におこることを確めた。西はニンジンのファイトアレキシンの生合成経路を明らかにし、またエリシタ-の刺激伝達に関係するとみられる各種の要因を調べた。上野もエンバクのファイトアレキシンに関し、その化学合成に成功すると共に組織内分布を調べ、抵抗性との関係を検討している。坂神はエンドウで種子のみに存在するオ-キシン、4ーCLーIAAの量的変化を種子の成熟段階を追って測定し、その集積機能における役割を調べた。
著者
日渡 良爾
出版者
一般財団法人電力中央研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011

核融合エネルギーでは水素の同位体である重水素とトリチウムを燃料に利用する.自然界に存在しない燃料(トリチウム)を利用するため,核融合エネルギー開発の課題の一つに初期装荷用トリチウム燃料の入手が挙げられている.ここでは,重水素による僅かな核融合反応を利用しトリチウムを徐々に増殖し,定格運転までの出力に到達するという初期装荷用のトリチウム燃料を必要としない炉心プラズマ運転方法について詳細化し,プラズマの立ち上げ期間をできるだけ短くするといった観点から炉概念の最適化に向けた検討を行うことにより,初期装荷用トリチウム燃料の入手課題解決に貢献する.
著者
中沢 信明
出版者
群馬大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

本研究では,嚥下障害の予防を目的として,高齢者のための顔面体操トレーニングシステムの開発を行った.筋レベルから顔面体操の検討を行った結果,口を閉じた状態での“頬の膨らまし運動”が他の運動に比べて口輪筋の筋活動が活発になることが見出された.また,唾液の分泌促進を目的とした顔面の“指圧運動”に着目し,指先変位量と指先力の関係から,顔面の指圧部をばね要素でモデル化することで,肌の柔らかさを推定した.これらの物理量を指圧運動中に算出し,使用者に対して,指圧の達成度合いを視覚的に表示させることで,フィードバック型の支援システムの構築を行った.
著者
成廣 隆
出版者
独立行政法人産業技術総合研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011

本研究では、白川郷合掌造り家屋の床下で営まれていた「焔硝生産」の土壌遺構に生息する未知硝化微生物を分子生態解析による解明を目指した。16S rRNA及びアンモニア酸化酵素遺伝子を標的とし、最新の高速シークエンサーを利用した分子生態解析を実施した結果、Nitrosospira属やNitrososphaera属に近縁のアンモニア酸化微生物が検出された。得られた群集構造データと、土壌試料の物理化学的パラメータとの関連性を調べた結果、土壌のpHや有機炭素濃度がアンモニア酸化微生物の多様性に影響を及すことが示された。これらの結果から、床下土壌遺構に生息する硝化微生物の多様性を解明することができた。