著者
小谷 朋弘
出版者
広島大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1987

本研究は、現代社会における紛争処理の能様について明らかにすることをネライとしており、主に3つの部分から構成されている。第1は、市民の法意識であり、ここでは法意識の方向と水準の2つの視点からアプローチされている。「方向」は、個人主義ー相互主義と公志向ー私志向の2つの尺度でとらえられ、「水準」は、規範主義ー順応主義の尺度でとらえられている。平民においては、相互主義が圧倒的に優勢であるが、公志向と私志向では私志向が優勢であり、平民はよりよい社会をつくることには賛成しているが、かといったそのために個人の権利まで放棄するものではないことがわかる。第2は、市民の紛争処理の態様である。ここでは紛争処理の志向と紛争処理の経験の2つの視点からアプローチしている。前者からは、市民が紛争処理にあたって、第1次的紛争処理機関よりも第2次的紛争処理機関の利用に傾斜しており、他方後者からは、実除に、恵2次的紛争処理機金の役割がきわめて重要な位置を占めることがわかる。第3は、紛争処理における弁護士と市民との相互の関係である。ここでは、弁護士職に対する職業行価、弁護士アクセス、弁護士職の職業構成の3つの視点からアプローチされている。前者からは、市民と弁護士の間にとくに弁護士職の安定性と高収入性の2点について認識の中カップが大きいことがわかる。中者からは、アクセス経路が困難的であり、かつまたクライアントの階層が上層に傾斜していることがわかる。そして後者からは弁護士職が員訴訟業務に特化していることが明からになっている。
著者
岩城 裕之 友定 賢治 日高 貢一郎 今村 かほる
出版者
呉工業高等専門学校
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2006

1 医療現場での方言をめぐる問題に地域差がみられること各地でのアンケートや臨地調査によって、方言を巡る問題に地域差があることが明らかとなった。具体的には、富山の場合、県内のごく狭い範囲で、体調を表す重要な語について使用・不使用があったり、意味が異なる場合が存在することが分かった。一方、青森では多くの語が難解であり、医療場面で想定されるすべての語彙、表現の記述が必要となることが明らかとなった。2 方言データベースの作成と公開青森、広島、富山、飛騨のデータを収録した方言データベースを作成、公開した。いわゆる聞き取りにくい方言について、検索する際に想定されるいくつかの入力パターンを調査し、いずれのパターンでも適切な候補を表示できるようなシステムを構築した。方言研究者であれば一定のルールの中で記述するが、医療関係者などの非方言研究者は、必ずしもそうではないことに配慮したためである。結果的に、使いやすい方言辞書を追求することとなった。また、現地で収録した音声を加工し、データベースの多くの語や一部の文例について、クリックすることで音声を聞くことができるようになった。揺れのある入カパターンから適切な候補を見つけ出すことのできる方言辞書やデータベースは、ほとんど前例がなく、ユニークな成果であると思われる。3 コミュニケーションマニュアルの作成青森県津軽において、いくつかの定型的問診場面を取り上げ、方言による対話例を作成した。しかし、共通語の問診と異なり、いわゆる日常の挨拶や雑談をはさむことが「方言的」であったため、マニュアルにはなじまないと考えられ、今後も研究を重ねていく必要があると思われる。
著者
北川 慶子 斎場 三十四
出版者
佐賀大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

本研究は平成11年度-12年度の2年間の研究であるが、平成11年度においては、佐賀県下における特別養護老人ホーム(特養)と老人保健施設(老健)の要介護高齢者に対し、施設での生活水準と長期ケアへの適応を捉えるために、身体機能(FIM)、QOL(SF-36),生活満足度調査(LSQ)を実施し、施設生活の再評価を行った。特養では、FIMとSF-36の相関は見られず、身体機能は低いがSF-36の値は高く、それはさらに老健よりも高く、生活面を重視したケアが中心の特養の要介護高齢者が身体機能の回復を重視し、家庭復帰を目指す老健よりも適応度が高いという傾向が見られた。平成12年度における研究の重点は、平成12年4月1日から施行された介護保険法に注目し、介護保険施行後再認定の時期(10月)にversion upした調査を特養、老健で実施し、施設における生活水準とと適応について分析することであった。生活水準のLSQの生活部分は「特別養護老人ホーム・老人保健施設のサービス評価基準」に準拠しているため、介護保険前後の両施設における高齢者の調査結果を比較分析することによって生活水準の評価を行うことができた。平成12年の調査では、FIMによる身体機能は特養と老健の格差が縮まり、SF-36によるQOL評価では老健で高得点化傾向が見られた。施設への適応度は、介護保険以前においては特養が高く老健が低いと評価されたが本調査によって、介護保険施行後はそれぞれの特異な差が一段と縮小していくのではないかと推測することができる。それは、老健が長期ケア型にシフトし、長期ケアについては特養との差異が見られなくなりつつあることが大きな要素である。特養のみならず両施設共に、Helsonの「適応レベル説(adoption level theory)」がより顕著に現れてくるのではないかと考えられる。本調査においても適応レベル説が適用できる初期的段階が窺われ、要介護高齢者の施設における長期ケアへの適応は、SF-36、FIMで測定した身体機能以外の要因が強く働いているといるということが分かった。すなわち、HRQOLを規定する要因としてSF-36、FIMの結果はあまり影響を与えず、期間と生活環境がHRQOLを変化させ、従って適応レベルが健康期、要介護期さらに年齢生活環境によって変化してきているものであることが本研究により明らかにされた。生活水準の主要な規定要因は、意思の表明とその受容の程度であり、それは、施設ケアを受ける期間の長短との密接な関連があることも本研究により得られた成果である。
著者
榎田 一路 LAUER J・J 前田 啓朗 磯田 貴道 田頭 憲二 阪上 辰也 鬼田 崇作
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

本研究では,大学英語教育において,ポッドキャストとウェブ型教材を,一斉指導,個別学習,およびICTを用いた協同学習に援用した。まず,ポッドキャスト教材及びウェブ型準拠教材を開発・配信した。次にこれらを利用して教室内指導と教室外個別学習を組み合わせた実践を行い,その結果を分析した。さらにデジタル・ストーリーテリングを通じてICTを協同学習に援用することの効果を探った。ポッドキャストを活用した一斉指導と個別学習の連携は,学習者の学習意欲を高め,英語学習の絶対量向上に貢献した。デジタル・ストーリーテリングは,扱った題材への理解を深めつつ,成果物を共有することによる学び合いを提供する点で効果があった。
著者
吉久 徹 遠藤 斗志也 遠藤 斗志也
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

tRNAの一生における細胞内動態の全貌を明らかにする目的で、出芽酵母より新たなtRNA結合タンパク質の生化学的な単離・同定を行った。Hsp70ファミリーに属すSsa2pが新規tRNA結合タンパク質として同定され、実際、栄養飢餓時に見られるtRNAの核内輸送因子であることが、in vivo、in vitroの実験で明らかとなった。併せて、RNAの3'末端を配列特異的に可視化できる手法を開発した。
著者
泉 孝一
出版者
宮崎大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2007

{目的}これまでに動物実験施設バリア区域での履物の微生物統御を安価で簡便に行う方法として光触媒酸化チタンを塗布したプレート(以下酸化チタン板とする)の下駄箱内の滅菌効果について検討してきた。その結果1)酸化チタン板の滅菌効果は照度に依存し、節電のため消灯している廊下では十分な効果が得られない事、2)板面の照度は、自然光や照明の条件に複雑に影響を受ける事が解った。そこで光の条件を制御して基礎データを集積し微生物統御の効果を客観的に検討することで、酸化チタン板の有効利用のための基本的な情報を獲得する事とした。{材料及び方法}照度が制御できる遮光箱を作成し、酸化チタン板に165〜15Lxの光を1週間照射し初日と1週間後の板面の一般細菌及び真菌の数の変化を計測する。測定は一般細菌用としてSCDLP寒天培地(日水製薬)を又、真菌にCP加サブロー寒天培地(日水製薬)を使用する。{結果及び考察}遮光箱を用いた1週間の試験の結果、酸化チタン板と光触媒酸化チタンを塗布してないプレート上の細菌数の増減で比較すると、一般細菌数は165Lxでは大差は見られなかった。80Lxでは酸化チタン板の方が塗布無しプレートより71.3%の減少、65Lxでは9%の減少、35Lxでは逆に25.4%の増加、15Lxでは77.4%の増加がそれぞれ記録された。一方、真菌数は165Lxでは酸化チタン板が塗布無しプレートより71.6%の減少が見られた。80Lxでは48.7%減少が見られた。65Lxでは44.6%の増加、35Lxでは21.2%の減少、15Lxでは逆に136.3%の増加がそれぞれ記録された。以上の結果から、1週間電球光を当て続けた場合、一般細菌は65Lx以上、真菌は35Lx以上で光触媒酸化チタンの効果が現れる事が解った。よって人工照明下では一般細菌、真菌の両方に酸化チタンによる滅菌の効果を得るためには65Lx以上の照度が必要であると判断した。
著者
吉久 徹
出版者
名古屋大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2007

本年度は、出芽酵母の小胞体ストレス応答(UPR)で非典型的細胞質スプライシングを受けるHAC1 mRNAとRNPを形成することがわかった酵母tRNA ligase Rlg1pの遺伝学的解析を中心に研究を進め、さらに組換えRlg1pを用いたin vitroでの解析へと展開を図った。まず、tRNA ligaseの持つ、tRNAのスプライシング酵素としての機能、HAC1 mRNAのスプライシング酵素としての機能、そして、HAC1 mRNAの翻訳制御因子としての機能が個別に異常となった変異が単離できるかを検討した。多数の温度感受性rlg1およびUPR欠損rlg1を単離・解析した結果、上記の3つのいずれかの機能にだけ欠損を示す変異をそれぞれ単離することができた。特にtRNAのスプライシングに欠損を示すrlg1変異には、単にligation反応が進まない結果としてエキソンが蓄積する変異だけでなく、イントロンを含んだ前駆体も蓄積するもの、さらには、切断されたイントロンも蓄積するものが得られ、Rlg1pがtRNAのスプライシングの複数の局面に必要とされる可能性が示された。また、UPR欠損変異には、明らかにHAC1 mRNAのスプライシングが低下しているものと、そこそのHAC1^i mRNAが生じているにも関わらず、Hac1^iタンパク質の合成できない変異が存在した。これは、Rlg1pが翻訳制御に特異的に働くドメインを持つことを示唆している。さらに、Rlg1p組換え体を用いたin vitroのpull down実験によって、Rlg1pがIre1pで切断される前のHAC1^u mRNAを直接結合することが確認できた。以上のことから、Rlg1pはtRNAやHAC1 mRNAとRNPを形成しつつ、そのスプライシングおよび翻訳制御に直接関わることが明らかとなった。
著者
佐藤 文博
出版者
東北大学
雑誌
若手研究(A)
巻号頁・発行日
2005

本期間においては,磁界を介したエネルギー伝送により複合型発熱素子の励磁加温を実現した.最終年度までの検討により,より実用化に近い励磁コイル形状として,平面型スパイラルコイルを用いて実験を行った.平面型スパイラルコイルは,素子の刺入を考えた場合の励磁方向への磁束の指向性の問題と平面型スパイラルコイルによる励磁での圧迫感の軽減や自由度の増加といった利点がある.これを用いて将来の生体応用を想定し,血流の存在するマウスにおいて,実際の腫瘍に対する効果の検証を行っている.動物実験に用いている腫瘍はB-16メラノーマである.このB-16メラノーマは細胞増殖が比較的早いことから選択した.マウスに植え込んだ腫瘍に素子を挿入してハイパーサーミアを行い1週間後の腫瘍のサイズとマウスの様子を確認した.何もしていないコントロールマウスと比べて,熱を加えたマウスは明らかに腫瘍サイズに差が生じた.温熱以外の作用は加えていない為,素子の発熱によって組織温度が上昇し,腫瘍組織を壊死させることが確認できたと考えられる.このように,複合型発熱素子の発熱による熱的効果によって腫瘍の縮退がみられ,ハイパーサーミアの有用性が実証できた.まとめにあたり,簡易自動治療システムの一連のプロトコルを考え,上記治療結果を得た事は大きな成果である.ハイパーサーミアは種々の方法で臨床応用されているが,どの方式が最適かというコンセンサスすら確立されていないのが現状である.そのため医師やがんで苦しむ患者に浸透していないのが現状である.上記成果より簡易的な治療法に一定の指針ができた事で,完全治癒可能なハイパーサーミアが現実に近いものになったと言える.
著者
熱田 裕司 後藤 英司 武田 直樹 松野 丈夫 佐藤 雅規 猪川 輪哉
出版者
旭川医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

今年度においてはin vivoにおいて神経根由来の異所性発火を観察できる実験モデルを作成し、以下に述べる2種類の検討を行った。実験にはラットを用い、除脳後に後枝腓腹神経より双極電極にて知覚神経を逆行する神経発火活動を導出記録した。この手法によって、腰部神経根が刺激されることに基づいて発生する異所性発火が評価できることを確認した。(1)実験1:髄核投与による異所性発火の発現ラットの第5、6腰部神経根を露出し、尾椎から摘出した髄核を留置した。その後1、2,4週において腓腹神経から異所性発火にもとづく自発性神経活動を導出し、発火頻度を測定した。無処置対照と比較していずれの時期においても発火頻度は有意に増大しており、2週で最大値をお示した。一方、馬尾刺激により坐骨神経で得られた誘発電位を用いて神経伝導速度を測定すると、その値に低下は見られなかった。これらのことから、髄核は神経根に作用して異所性発火を誘発するが、伝導障害を引き起こすことは無いと考えられた。(2)馬尾圧迫による一酸化窒素感受性変化ラット馬尾レべルにおいてシリコンチューブを脊柱管内に挿入し、1週間経過させた馬尾圧迫モデルを作成した。1週間後の観察において、腓腹神経の活動は有意に増大しており、異所性発火が発現していることが確認された。この動物において神経根に一酸化窒素やセロトニンを作用させると、著名な発火増大が見られた。このような変化は馬尾圧迫の無い動物では少なかった。以上の結果は坐骨神経痛の発生機序を理解する上で重要な、髄核の影響、ならびに物理的圧迫と化学的刺激の相互関係、を明らかとしたと考えられた。
著者
藤原 洋志
出版者
豊橋技術科学大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

本研究では効用関数の考え方を応用したオンライン最適化問題を考察する。ミクロ経済学では、次元の異なる量を組み合わせて効用関数が定義されている。しかし、アルゴリズムの性能評価尺度としてはほとんど使われてこなかった。我々は、制約条件として扱われていたものを目的関数に取り入れたり、性能評価尺度の期待値を目的関数としたりして問題再設定を行う。結果、一方向通貨交換問題に対しては、どのような効用関数の設定をするかに依存して最適戦略が大きく変わってくることを実証できた。また、オンライン・オフライン混合ジョブスケジューリング問題に対しては実用的かつ頑強なアルゴリズムが得られた。
著者
下村 匠 細山田 得三
出版者
長岡技術科学大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

本研究は、飛来塩分環境下におかれた構造物が受ける環境作用を実験室内において再現する装置を作製することを目的としている。平成19年度より製作に着手した実験装置が、平成20年度に完成し、予定通りの性能を発揮することが確認され、有効な実験を行うことができた。実験装置は、断面1m×1m、一周約10mの風洞の中に、プロペラ、塩水粒子発生装置を組み込んだもので、風洞内に設置したコンクリート供試体に、設定された量の飛来塩分を連続的に作用させることができる。このことにより、実環境下ではさまざまな不確定要因の影響を受けるため精度のよいデータの取得が困難であったコンクリートに到達する飛来塩分量とコンクリート内部へ浸透する塩分量との関係が、理想的な条件下で測定することができる。合理的で実現象をよく表す塩分浸透の境界条件の形式の検討、理想的な飛来塩分環境下におけるコンクリート中の拡散係数など、この装置により明らかになることは多いと期待される。水セメント比が40、50、60%のコンクリート供試体に、本装置により継続的に飛来塩分を作用させ、定期的に供試体内部の塩分量の分布を測定した結果から、ボルツマン変換を用いてコンクリート中の塩分拡散係数を塩分濃度の関数として求めた。塩分濃度が増加するにつれて拡散係数が小さくなる結果が得られた。塩分拡散係数のより的確な表現方法の検討は、本装置を用いた今後の継続研究課題である。また平成20年度には、本装置を用いた応用研究として、飛来塩分にさらされたコンクリート構造物の表面を高圧水で洗浄することにより塩分侵入抑制効果が得られるかどうかを実験的に検討した。洗浄頻度が多いほど、内部への塩分侵入を抑制する効果が認められた。
著者
松田 忠典
出版者
豊田工業大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

本研究の成果は、大きく分けて二つある。一つが、構造化特異値の計算法に関する成果、もう一つがロバスト安定な行列システム設計に関する成果である。2009年度は、これらの研究成果を大阪市で行われた国内学会「第38回制御理論シンポジウム」と米国で行われた国際会議「The Twelfth IASTED International Conference on Intelligent Systems and Control」で発表した。2010年度は、台湾・台北市で行われた国際会議「SICE2010 Annual Conference」、台湾・台中市の国立中興大学で行われたワークショップ「Workshop on Recent Advances in Control and Robotics」、そして大阪市で行われた国内学会「第39回制御理論シンポジウム」で成果発表を行った。さらに、構造化特異値の計算法に関する成果についての査読付き学術論文が2010年12月に「システム制御情報学会論文誌」に掲載された。
著者
寺崎 文生 藤岡 重和 河村 慧四郎
出版者
大阪医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

1.研究成果:末期的拡大不全心に対する治療として左室部分切除術が開始された。心臓移植の機会の少ない我が国の現状に於いて本手術に対する期待は大きい。現在の課題は手術適応基準と予後の検討である。本研究では左室部分切除術を施行された拡張型心筋症患者の切除心筋標本を用いて、心筋 in situ での免疫組織細胞化学的、ウイルス学的解析を行った。その結果、一部の拡張型心筋症の心筋において活動性炎症とエンテロウイルス(EV)持続感染が認められ、慢性心筋炎が一部の拡張型心筋症の病因・病態に関与することが明らかにされた。また、サイクルシークエンス法によるEVゲノムの核酸塩基配列の決定により、殆どがコクサッキーB群ウイルスであることが明らかになった。さらに、拡張型心筋症における炎症やEVゲノムの存在は、左室部分切除術に際して術後早期予後不良の因子になる可能性が示唆された。2.今後の展望:我々は拡張型心筋症患者の切除心筋を多数保有している。これを用いてin situ hybridizationによりEVゲノムの心筋内での局在を検討することで、ウイルスによる心筋細胞障害機序を明らかにできる。また現在、左室部分切除術をうけた患者数が増加し、術後の長期成績を明らかにする時期にある。切除心筋の免疫組織化学的、分子生物学的検索を継続し、それらと術後長期予後や臨床諸検査指標とを比較検討することで、左室部分切除術の適応決定に価値ある情報を提供することが期待される。
著者
天野 晃 松田 哲也 水田 忍
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

本研究では,臓器としての生物学的知見が豊富な心臓を対象として,近年急速に解明が進み実現されるようになった,タンパク分子機能に基づく精密な細胞モデルを元に,心筋細胞の配列,組織の微小循環,冠動脈血流,心筋組織の力学的特性に基づいた心臓の3次元拍動モデルの実現を目指した.まず,左心室3次元拍動モデルの編集ツールを実現し,シミュレーションアルゴリズムとして,心筋細胞のタンパク分子機能に基づいたモデルが生成する収縮力と,材料特性に基づく3次元形状の変形を精密に計算する連成シミュレーションアルゴリズムを提案した.次に,心臓拍動モデルの形式的記述と,実験プロトコルの形式的記述言語としてPSPMLを設計した.さらに,日々蓄積される生物学的知見を容易に導入し,有効性等を評価するシステムとして,形式的に記述された心筋細胞モデルを非専門家が安全に編集可能で,さらに実験プロトコルの修正も可能な編集システムを実現した.また,心臓拍動の精密な再現に不可欠な血管系のモデルとの連成計算を行うシステムを実現した.このシステムにより,様々な細胞モデル,左心室モデル,血管系を用いたシミュレーションにおいても,自由に組み合わせを変更して循環動態シミュレーションが可能となった.最後に,これらのシステムを用いて,左心室構造力学モデルにおける応力評価を行った.心臓は拍動に伴う能力や効率を最大化するため,収縮末期における応力分布が均等化するように細胞配列が最適化されているという仮説があるが,実際の心臓で心壁内部の応力が評価できないため,仮説の検証にはシミュレーションモデルが利用されるようになってきている.構築したシステムを用いて,収縮末期における心壁の応力分布を評価した.この結果,従来の報告で評価が困難であった心尖部において,明瞭な応力集中を確認できた.これは,バチスタ手術等の外科手術において,経験的に重要性が認識されている心尖部の重要性を示唆する結果であると考えることができる.
著者
黒澤 馨
出版者
東京工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

放送型暗号系においては、センタは加入者に復号鍵を配布する。しかし、不正な加入者はそれらから海賊版の復号器を生成し、非加入者に与えてしまうかもsれない。n人の加入者のうち高々k人が結託して海賊版の復号器を作ったとしても、その海賊版の復号器から犯人を割出せる方式を(k,n)閾値追跡可能暗号系と呼ぶ。筆者は、Eurocrypt'98という国際会議において、鍵サイズ、暗号文サイズの下限を導出すると共に、これらの下限を等号で満たす最適な方式を提案した。この方式に対し、Stinson and Weiは、SAC'98という国際会議において線形攻撃と呼ばれる攻撃法を示した。本研究では、まず、筆者のEurocrypt'98の方式に対し、新しい犯人追跡アルゴリズムを開発し、このようにすればStinson and Weiの攻撃のみならず、全ての攻撃に対し安全であることを示した。一方、ペイテレビ等においてセンタは、N人の契約者の内、受信料未納のc人の契約者には見えない様に、コンテンツを暗号化して放送したい。この様に、N人中c人以下のユーザを排除できる放送型暗号系を、(c,N)閾値排除可能暗号系と呼ぶ。本研究では、次に、cover free familyという組合せデザインを使うと、(c,N)閾値排除可能暗号系が得られることを示した。また、almost strongly universal hash関数を利用したoverhead=O(c^2)となる(c,N)閾値排除可能暗号系の構成法を示した。最後に、本構成法により得られる(c,N)閾値排除可能暗号系は、追跡可能暗号系としても優れていることを示した。
著者
中窪 裕也 野田 進 中内 哲 柳澤 武 矢野 昌浩 丸谷 浩介 吾郷 眞一 井原 辰雄
出版者
一橋大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

本研究は、わが国の雇用保険制度の現状と課題を考えるための素材として、失業保険制度の国際比較を行ったものである。対象国として、イギリス、フランス、ドイツ、アメリカ、中国の5か国を取り上げている。本研究において行った活動は、次の4点である。第1に、基礎的な作業として、わが国の雇用保険制度の内容を精査したことである。この間、雇用保険法の2007年改正も行われたが、それを含むいくつかの事項について、論考を発表した。第2は、本研究の本体にあたる、5か国の失業保険制度の研究である。各国について、書籍やインターネットで入手できる資料をもとに基本調査を行ったうえで、担当者が現地を訪問し、ヒアリング調査と資料収集を行った。その内容は、研究成果報告書の中に収められている。各国ごとに制度の様相はさまざまであるが、欧州諸国における早期再就職の促進に向けての失業認定や給付の再編、アメリカにおける州法の多彩な内容、中国における制度創設と定着の努力などが分析されている。第3は、関連事項として、日本および各国の最低賃金制度についても検討を行ったことである。両制度は、労働者にとって就労時の所得保障と失業時の所得保障という形で連続するものであるが、各国における最低賃金制度の概要を、上記の研究成果報告書の中に織り込んだ。第4は、以上を踏まえたうえで、わが国の雇用保険制度(および最低賃金制度)について、体系的な現状分析と将来の方向性の検討を行ったことである。これに関しては、日本労働法学会の114回大会のシンポジウムで報告する機会が与えられ、「労働法におけるセーフティネットの再構築-最低賃金と雇用保険を中心として」というタイトルの下に、6名が報告を行った。このときの報告内容とシンポジウムでの討論の模様は、日本労働法学会誌111号(2008年)に収められており、本研究の一部をなす。
著者
鬼木 甫
出版者
大阪学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

本研究の目的は、「既得権(vested interest)問題」を経済理論の立場から分析し、これを合理的に解決・処理するための経済システムを設計・提案することである。本研究ではまず、理論的基盤となるべき「既得権の経済モデル」を構築する。次いで具体的な分析対象として、多数種類の既得権のうち(1)電波利用、(2)土地所有と利用、(3)職位保持の3ケースそれぞれについて分析とシステム設計を行うこととした。前年度においては、上記のうち(1)電波利用にかかる既得権について研究成果を発表し、さらに(2)土地利用と所有にかかる既得権について文献調査をおこない、(3)労働者についての「職位保持」に関する制度の概要を調査した。これに引き続き、本年度においては、(4)電波利用に関する研究成果をさらに2件発表し(本様式p.2の#207、#210)、(2)土地所有に関する既得権について日本経済学会で招待講演をおこない(同上#210)、さらに(3)テレビ電波利用の既得権に関連して「アナログテレビ停止」についての研究を発表した(同上#211)。
著者
鈴木 秀美 山田 健太 砂川 浩慶 曽我部 真裕 西土 彰一郎 稲葉 一将 丸山 敦裕 杉原 周治 山本 博史 本橋 春紀 岩崎 貞明 笹田 佳宏
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

日本の放送法は, 放送事業者の自律を前提としているため, 放送事業者が政治的に偏った番組や虚偽の事実を放送して番組内容規制(番組編集準則)に違反しても, 放送法には制裁がなく, 電波法による無線局の運用停止や免許取消は強い規制であるためこれまでに適用されたことがない。結果として, 違反があると, 行政指導として, 実質的には行政処分である改善命令に近い措置がとられているが, このような手法には表現の自由の観点からみて重大な問題があることが明らかになった。日本では現在, 通信・放送の融合に対応するため通信・放送法制の総合的な見直しが行われている。本研究は, 現行法制が内包している憲法上の問題を新しい法制に積み残さないために, 問題点を整理・分析したうえで, ありうる改善策を提示した。
著者
谷川 朋範
出版者
筑波大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2003

非球形粒子の光学特性を考慮した放射伝達モデルを用いて,衛星観測に必要な積雪の双方向反射率について考察した.球形粒子を仮定した積雪放射伝達モデルを用いると双方向反射率パターンに虹が現れるが,現実の雪面に虹はほとんど出現しないため,この虹の効果が積雪物理量を推定する際に誤差を引き起こす可能性がある.そこで本研究では積雪の双方向反射率パターンに虹が現れる事を防ぐために,非球形粒子の光学特性と粒子の結晶表面にラフネス(凹凸)を取り入れた幾何光学モデルを開発し,粒子の形と結晶表面ラフネスの有無による双方向反射率の効果を理論計算と分光観測によって調べた.その結果,粒子の形に円柱及び回転楕円体を仮定し,結晶表面ラフネスを入れない場合,虹のパターンは消えたが不連続な双方向反射率パターンが出現した.一方,結晶表面にラフネスを入れた場合,新雪のときには双方向反射率の観測値は円柱粒子を用いた理論計算反射率パターンと可視域,近赤外域ともに良く一致し,また古雪(ざらめ雪)のときの観測値は結晶表面にラフネスをいれた回転楕円体粒子の理論計算値と可視域においてほぼ一致することが確認された.近赤外域では前方散乱側の双方向反射率において観測値と理論計算値の間に差があるものの,前方散乱側以外の双方向反射率においては両者ほぼ矛盾のない結果が得られた.これらの結果より,積雪の双方向反射率パターンは粒子の形と結晶表面のラフネスに依存することを数値計算と分光観測から明らかにした.