著者
新納 浩幸
出版者
情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.41, no.4, pp.1046-1053, 2000-04-15
被引用文献数
1

本論文では日本語文章中に生じる同音異義語の誤りを検出する手法を提案する.基本的にはYarowskyの提案した決定リストを利用する.さらに表記されている単語の情報({?bf 表記情報}と呼ぶ)をdefaultの証拠として導入することで,誤り検出のF値を向上させる.同音異義語の誤りを検出するには,同音異義語問題を解けばよい.そして同音異義語問題は語義選択問題と等価であるために,語義選択問題に対する種々の統計手法を利用して解くことができる.ただし同音異義語問題は語義選択問題とは明確に異なった面も持っている.それはほとんどの場合正解となる判別結果がすでに表記として現れていることである.同音異義語問題では表記されている単語を選択すれば判別の正解率が非常に高くなる.しかし,表記されている単語をつねに選択すれば誤り検出をまったく行わず,誤り検出システムとしての意味をなさない.同音異義語問題の手法の評価は判別の正解率ではなく,誤り検出の正解率と再現率を考慮したF値で行うべきである.本論文では,F値を向上させるように,表記情報を利用する.具体的には統計手法として決定リストを利用する.そして表記情報をdefaultの証拠として決定リスト内に導入する.この表記情報の予測力の値は,訓練コーパスにおいてF値を最大にする値から得る.In this paper, we propose a method of detectingJapanese homophone errors in Japanese texts.Our method is based on a decision list proposed by Yarowsky.We improve the original decision list by using written words as the default evidence.The improved decision list can raise the F-measure of error detection.In order to detect homophone errors,we only have to solve the homophone problem for the homophone word.The homophone problem is equivalent tothe word sense disambiguation problem.Consequently, we can solve the homophone problemby using various statistical methods proposed for the word sense disambiguation problem.However, the homophone problemhas a distinct difference from the word sense disambiguation problem.In the homophone problem, almost all of the answers are given correctly.Therefore, the choice of the written word results in high precision.However, the method to always choose the written wordis useless for error detection becauseit doesn't detect errors at all.The method for the homophone problemshould be evaluated by the F-measure tocombine the precision and the recall.In this paper, we use the written word in order to raise the F-measure of error detection.To put it concretely,we use the written word as the default evidence ofthe decision list.The identifying strength of the written word is obtained by calculating the strength that gives the maximum F-measurein the training corpus.
著者
田中 久男
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

フレドリック・ジェイムソンの地政学(Geopolitics)という文化研究概念を援用して、人種(民族)と地域との構造化された複合的な絡まりを究明することによって、アメリカ文学におけるエスニシティ表象の特徴をかなりの程度明らかにすることができた。
著者
今井 猛嘉
出版者
法政大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
2000

1.今年度もEUに見られる刑事実体法・手続法の統合への動きをフォローし、その理論的意義を検討した。2.手続法の分野では、EU加盟国相互での手続の統一化を目指す動きが加速されており、重要な進展が見られた。具体的には、EUROJUSTが設置されるとともに、ヨーロッパ共通逮捕状の新設も合意された。後者はEU域内でのテロ対策として、特に、2001年9月11日のアメリカにおける同時多発テロを受けて議論され、提案されたものである。ヨーロッパ共通逮捕状の実施条件に関する最低限の情報は集めたので、今後は、この具体化をフォローしたい。合わせて、ヨーロッパ検察設立の動きについても、理論的な検討を開始した。3.実体法の分野でもEU統一刑法にむけた動きに進展が見られ、個別の重要な犯罪に即して統一を図っていくという現実的なアプローチが特徴的であった。2001年度に確認された、EU実体刑法に関する重要な点は、次のとおりである。(1)EUの財政的利益保護を図るため、EUに対する詐欺罪(fraud)の処罰が、各国レベルで要請されている。それを受けて、例えば、ドイツでは、刑法264条(補助金詐欺罪)が新設され、既にその運用が始まっている。(2)賄賂罪(corruption)に対する各国の政策を統一する動きも進んでいる。これは、EUがOECDの勧告を尊重する形で、EU加盟各国に相当の対処を要求しているものである。賄賂罪の実体的要件を各国で統一するには至っていないが、賄賂罪の実行に付随して犯されやすいマネー・ロンダリングの防止については、つい最近、EUが、統一的な犯罪構成要件の提示を行った。今後の動向が注目される。(3)(1)、(2)を包括する形で、統一したEU刑法典を作ろうという動きも数年前から生じており、刑法学者のグループにより、Corpus Jurisが発表されている。これは、各国の伝統的な理解を超える提案も含んでおり、注目される。例えば、その13条は、法人処罰を規定するが、ドイツでは法人は処罰されず、OwiG[一種の行政刑法]によって課徴金が科せられるに止まる。しかし多国籍企業の違法活動には各国レベル、少なくともEUレベルでは統一した処理が望ましいから、ドイツにおいても法人処罰に踏み切るべきではないかが議論されている。近時、政府の諮問機関は、法人処罰に反対する旨を表明したが、今後の政策変更もありうるようであり、引き続いた検討が必要である。(4)以上のように、EU全般にわたる実体刑法の領域では、fraud, corruption, money-launderingが主たるtopicsとなり、可能な限りで加盟各国の犯罪構成要件を統一しようとする動きが具体化していることが確認された。我国も、この三つの犯罪につき、国際標準に合致した条文を作ることが要請されているので、本研究で得た知見を立法論的提言にまとめたいと考えている。4.以上から理解されるように、EU刑事法は、この二年間でかなりの進展が見られたが、昨年の米国多発テロ後に急進展した分野も多く、今まさに、関連情報が入手可能となりつつある。そのため、研究年度中に一定の結論を見出すことは困難であった。2002年度においても、鋭意、研究を継続していく所存である。
著者
寒川 恒夫 杉山 千鶴 石井 昌幸 渡邉 昌史
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

全4年度研究の最終年度に当たる本年度は、東アジアにおける民族スポーツの観光化変容補充調査及び、本研究の目的である"民族スポーツに観光化変容をもたらした要因の分析"及び、本研究活動を報告書にまとめる作業にあてられた。補充調査は、日本にあっては、北海道最大規模の観光イベントであるよさこいソーラン祭り、また沖縄県最大規模の観光イベントである那覇祭りの民族スポーツ(大綱引き、エイサー)、韓国においては忠清北道忠州市の忠州世界武術祭と慶尚南道の晋州闘牛、中国においては新彊ウイグル自治区ウルムチの少数民族民族スポーツ、また広東省広州市で2007年11月に催された第8回中国少数民族伝統体育運動会、それに北京市及び河南省温県陳家溝の武術について実施された。民族スポーツの観光化変容については、当該地域の経済活性化が最大要因として指摘されるが、担い手が少数民族である場合、経済要因に加え、民族の存在主張・文化主張の動機が無視し得ない。また、観光化に当たっては当該地の行政が大きく関与する事も全体的に認められる。特に中国の場合、1990年代の改革開放政策後に民族スポーツの観光化変容が開始するのが、その良い例である。それまで中国の民族スポーツは当該民族の伝統文化保存と健康という目的に存在根拠が求められていたが、改革開放後は「文化とスポーツが舞台を築き、その上で経済が踊る」のスローガンのもと、全国的規模で民族スポーツの観光化が進行して現在に至っている。観光化する民族スポーツの種目は多岐にわたるが、今回の調査で、これまではもっぱら修行や教育の枠内で展開し、経済や観光とは無縁であった武術に観光化の熱いまなざしが注がれていることが大いに注目される。
著者
柿崎 京一 矢野 敬生
出版者
早稲田大学
雑誌
早稲田大学人間科学研究 (ISSN:09160396)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.71-89, 1991-03-25

The Bay of Tokyo was once full of fishery resources and there used to be a number of fishing villages along the coast. Since 20th century, however, because of the overdevelopment of the seaside industrial zone and the expansion of urban area, the environmental pollution has gotten worse and the reclaimed land over the sea has steadily progressed. Because of the worsened environment for fishing ground, the inshore fishery has rapidly declined, along with disappearance of these fishing villages, as a result. This research was conducted in Kaneda district in Kisarazu City, Chiba Prefecture and that is the only fishing village area along the Bay of Tokyo where people still depend their living mainly on fishery. We particularly chose Nakano rural community located inland area. We mainly look through the conflict with other fishing villages around that community, considering some of the incidents after the mid-19th Century and describe the historical development and analyze it. To be more concrete, we would like to examine the historical process of Nakano rural community from two aspects. 1) The change of the land reform projects concerning the farm land and the water for irrigation. 2) The process of how the Fishing Cooperatives were developed. In addition, we would like to make clear of the structure of the changing fishing village by analyzing the self-government organization and social stratification of the rural community.
著者
鈴木 峰生
出版者
一般社団法人映像情報メディア学会
雑誌
映像情報メディア学会技術報告 (ISSN:13426893)
巻号頁・発行日
vol.26, no.7, pp.19-24, 2002-01-25

人の表情はコミュニケーションの手段として重要な役割を担っている.この表情についての研究は古くは心理学などの分野でなされていたが,最近は医療分野やCGの分野でも工学的な観点から表情を分析したり再現したりする研究がなされつつある.本研究ではこの表情を自動生成することを目的としており,これにより表情の数量化が可能になる.今回は笑い顔の表情の生成に続き,解析手法として有限要素法を用いて怒り顔の表情の生成を試みた.その結果,解析計算結果の変形形状で程度の異なる怒り顔を表現することができた.これにより有限要素法の解析計算結果で様々な表情を表現できることが確認できたと考えている.
著者
飯田 直樹
出版者
(財)大阪市文化財協会
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

本研究は、現代人にとってもっぱら相撲興行というスポーツ娯楽を提供する存在としてしか認識されていない相撲集団が、歴史的には様々な社会的役割を果たしていたことを、大阪相撲という相撲渡世集団に即して明らかにした研究である。天満青物市場など市場社会や蔵屋敷(各藩が大坂に年貢米などを販売するために設けた施設)、さらにはそこで荷役労働に従事した仲仕と呼ばれる肉体労働者、賤民身分(穢多・非人)などと大阪相撲との関係を具体的に明らかにした。
著者
杉本 厚夫
出版者
京都教育大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

スポーツの世界は実力だけが評価される世界であると一般的には考えられている。しかし、日本では、選手を選ぶとき、あるいは組織をつくるときには、人的ネットワークであるOB会の影響を受ける。つまり、一見メリトクラシー(実力主義)社会のように見えるが、その背景にOB会組織が機能しているのである。また、スポーツ選手としてのメリトクラシーから撤退した人によって、身体的な能力を問われない新たな代替的な場所として、OB組織が存在し、そのなかで、そのスポーツへの関わり方を強め、再びその中での上昇志向をしていこうとする。あるいは、スポーツ関連の協会でのある一定の地位に付けなかった人によって、新たな地位を確保する集団として、OB会がその対象となることもある。つまり、その世界での権力構造から排除されて人によって、作られるOB会組織という点からして、これらは「代替的加熱」というにふさわしいものである。精確に言えば、スポーツ集団の中で形成された階級文化としての年功序列が、OB会組織の基盤であるといっても良い。さらに、経済的な側面から、OB会の援助に依存することから、そこに権力構造が生起しやすい。しかし、欧米では、OB会は日本の大相撲の「タニマチ」と同じように、パトロンとして存在し、サポーターとして、権力関係を構築することはない。プロ野球では、監督コーチにその球団のOBが多いが、米国のそれは、まったく関係がない。メジャーリーグの選手でなくとも、監督コーチとしての専門的な実力が認められるとなれる。その意味で、日本のプロ野球の組織は、OB会の権力構造を有していると言える。しかし、Jリーグは歴史も浅いこともあり、地元密着型を指向していることもあって、あまり偏ったOB組織を持っていない。今後は各種のスポーツ種目団体のOB会の権力構造について研究していく必要がある。
著者
小川 裕充 板倉 聖哲 桝屋 友子 田中 秀隆 朴 亨國 大田 省一 羽田 正 秋山 光文 浅井 和春 後小路 雅弘
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2004

設備備品につては、「西洋人アジア旅行記」5,663点(マイクロフィッシュ16,453枚)、「西洋人アジア伝道旅行記」231点(マイクロフィッシュ1,585枚)を一括購入し、ヨーロッパの世俗・宗教両面から伝統アジアを捉える旅行記を基本研究資料として公開している。絵画班:小川は、平成17年度、シンガポール亜州文明博物館新収の中国絵画コレクション50数点の悉皆調査を行った。また、板倉・田中・五十嵐とともに、オーストラリア所在中国・日本絵画調査を実施し、オーストラリア絵画のディジタル・ファイルを購入した。18年度は・板倉とともに、東アジア・東南アジア所在中国絵画調査を実施した。調査対象は台湾:石允文コレクションなど3個所、シンガポール:呉起駒コレクションなど2個所、香港:香港中文大学文物館・香港藝術館、計7個所であり、撮影作品数無慮7百点に上る。彫刻班:浅井・朴は、東京国立博物館収集東南アジア仏教彫刻スライド資料2万点のディジタル画像化、及びプリントアウトをすべて完了し、資料整理の基礎となる基本カード作成もほぼ半数の1万点に及ぶ。また、東博資料のデータの不備を解消し、画像資料をさらに充実させるべく実施した、インドネシア調査(17年度)では、調査撮影対象は、ボロブドゥル遺跡など約70個所、作品4千点に上り、データを再点検し、ディジタル画像資料3万点を追加した。タイ・マレーシア・カンボジア調査(18年度)では、調査撮影対象は、バンコク国立博物館など、約10個所、ディジタル画像資料1万6千点、作品数約2千5百点を追加した。絵画班・彫刻班の調査作品は、個人研究とは別に、班として目録を収載する。なお、絵画班:西・後小路・桝屋・井手、建築班:羽田・大田は、別途、調査研究を進めたため、基盤Aの研究成果としては、研究成果報告書に論文1点を全文掲載し、他は本概要にリストアップするにとどめる。
著者
水井 真治 笹 健児 日比野 忠史 永井 紀彦 清水 勝義 富田 孝史
出版者
広島商船高等専門学校
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

港湾計画においては構造強度や海洋環境など様々な観点から多面的に検討されるが,その中でも最も重要な指標の一つに港内静穏度,特に波浪や風による影響の検討がなされる.瀬戸内海など外洋に面していない海域の港湾の場合,波浪条件が静穏であることから外洋性港湾ほど詳細な安全性の検討がなされているとは言い難い.しかし,著者らは瀬戸内海における港湾において,強潮流時にも船舶が運用困難となる事例から潮流による運用困難な影響も詳細に検討する必要性を示した.当初は潮流による船体運動への影響評価として,静止した船舶が潮流を受けた場合に移動する距離を潮流条件ごとに比較検討した.しかし,実際には船体が桟橋に着桟する局面では舵とプロペラの力を用いて姿勢制御を行う操船方法であり,これらの影響を考慮した船体運動の数値解析法は検討できていない.潮流が卓越する中で運用せざるを得ない港湾の運用限界を定量的に評価するため,舵とプロペラによる操船制御の動作を考慮した船体運動の解析手法へ改良する必要があると考えられる.瀬戸内海の船舶運航者を対象に潮流下での運用の困難度をアンケート調査で把握し,港湾運用の現状を改めて整理した.これをもとに前報で対象とした潮流影響が顕著な離島航路のフェリー港湾まわりの潮流・水質調査を大潮日に数回実施した.さらに潮流中における着桟操船時の船体運動について,舵力,プロペラ推力,ポンツーン衝突時のエネルギー吸収などの影響を再現できる数値計算法の開発を実施し,再現精度を検証するとともに強潮流下における港湾での新たな運用限界の検討方法を提案した.この結果,実際の着桟局面での船体運動を定量的に評価することが可能となり,強潮流が卓越する港湾での運用の困難度を評価する一手法を確立することができた.
著者
李 常慶
出版者
社団法人情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.59, no.12, pp.597-603, 2009-12-01

清朝の末,中国における近代的図書館が誕生してまもなく,最初の図書館規則が作られた。民国時代になると,図書館の設立が盛んになり,図書館法制度も大きな進展を見せるようになった。だが,新中国成立後の最初の30年間,イデオロギーや政治闘争が優先されたことで,図書館法制度の整備が軽視され,図書館法制度は大きく後退した。1980年代からの改革開放路線により,図書館は大きな発展を遂げただけでなく,図書館法制度も整備されるようになった。しかし,これまでの中国における図書館法制度の整備は,主に行政府部門の主導で制定し公布した「条例」や「規程」などの形によってなされ,立法機関が制定した正式な図書館法がいまだに存在しない。これは,中国社会における図書館の低い影響力や国家法制度確立の遅れ,異なる官僚組織に所属する図書館組織構造の問題および経済を最優先する現実主義的な考えなどによるところが大きいと思われる。
著者
新井 邦二郎 飯田 浩之 藤生 英行
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1998

子どもの自己決定権意識の構造を解明するために,小学生(5年生),中学生(2年生),高校生(2年生)と小学生・中学生の保護者(親)を対象に質問紙調査を行った.調査内容は,自己決定権意識(子どもが自分のことは自分で決定してよいと考える程度),自己決定欲求(自分で決定したいと考える程度),自己決定能力(自分で決定する自信の程度),自己決定環境(自分に決定が任されている程度)の4つである.その結果,次のような結果が見い出された.【子どもの結果】1 小学生・中学生・高校生とも,自己決定権意識よりも自己決定欲求のほうが高いレベルにある.(2)小学生・中学生・高校生とも,自己決定能力を自己決定欲求よりも,低く認知している.中学生・高校生は自己決定能力を自己決定権意識よりも低く認知している.(3)小学生・中学生・高校生とも,自己決定欲求や自己決定権意識よりも,自己決定環境を低く認知している.自己決定能力との関係では,小学生は自己決定能力よりも自己決定環境を低く認知し,中学生ではそれらを同レベルに捉えるが,高校生では自己決定能力よりも自己決定環境を高く認知している.【保護者の結果】(1)小学生・中学生の保護者は,子どもの自己決定権意識よりも自己決定欲求を高めに認知している.(2)小学生・中学生の保護者は,子どもの自己決定能力を自己決定欲求よりも低く,自己決定権意識とほぼ同レベルに認知している.(3)小学生・中学生の保護者は,子どもの自己決定欲求や自己決定権意識ならびに自己決定能力よりも,自己決定環境を低く認知している.以上のように,日本の小・中・高等学校の子どもに自己決定欲求が特に日常生活上の身近な出来事について高く見られるが,自己決定権意識はそれほどの高さではなく,自己決定能力は低く認知されている。このような結果をふまえて、小学校高学年までに放任ではなく指導的観点から自己決定環境を用意し,自己決定能力を身につけ,この自己決定能力とバランス(調和)のとれた自己決定権意識を発達させることが重要と思われる。
著者
品田 裕 大西 裕 曽我 謙悟 藤村 直史 山田 真裕 河村 和徳 高安 健将 今井 亮佑 砂原 庸介 濱本 真輔 増山 幹高 堤 英敬 平野 淳一
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010

本研究は、国会議員を主とする政治家と有権者の関係、あるいは政治家同士の関係がどのように変容しつつあるのかを調査し、その変化の要因を実証的に解明することを目的として開始された。その結果、本研究では、選挙区レベルの詳細な観察・データを基に、実証的に現代日本の選挙政治の変容を明らかにすることができた。取り上げた研究対象は、集票活動・有権者と政治家の関係・政治家同士の関係・議員活動・政治家のキャリアパス・政党下部組織など、多岐にわたった。これらの分析から得られた成果を基礎に、さらに、国会のあり方や選挙制度にまで分析を進めることができ、現代日本の選挙政治理解に一定の貢献を果たすことができた。
著者
西村 則昭
出版者
仁愛大学
雑誌
仁愛大学研究紀要. 人間学部篇 (ISSN:21853355)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.23-32, 2009-12-30

本稿(1)(2)では,かつてユング心理学の観点から解釈が行なわれた,ドイツ・ロマン派の作家ホフマンの『ブランビラ王女』(西村,1997)と統合失調症の臨床事例(西村,1998)が,今回はラカンの精神分析の観点から再解釈が試みられた.『ブランビラ王女』の主人公ジーリオも事例も,若い男性で,誇大妄想をもっていたが,その背後にはユングのいうアニマ(心の深層の女性的存在)の問題と絡んでラカンのいう「父の名」の問題が横たわっていたと考えられた.幼少期,父の名が体得されることによって,主体は象徴界(言語活動の次元)に組み込まれ,欲動を制御しつつ,このわれわれの共同の現実世界を生きていくことが可能となる.本稿(1)では,『ブランビラ王女』の再解釈までを載せる.主体(ジーリオ)は去勢を是認して父の名の体得をやり直すという課題に直面した.その際,父の名は,主体の側と,<他者>における言語の側に分裂した.主体は,主体の側にある父の名の片割れの援助を受けつつ,アニマ像に導かれ現実界へと接近し,鏡像段階以前の,現実界の中の主体,物自体としての主体,根源的主体に立ち返った.そして根源的主体は,それに相応しい大いなる<私>のイメージに包まれ匿われ守られ,いわば誇大妄想の状態で,父の名の体得のやり直しを果たした,と考えられた.
著者
安藤 剛寿 関谷 好之 上原 貴夫
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会総合大会講演論文集
巻号頁・発行日
vol.1997, no.1, 1997-03-06
被引用文献数
1

各プレイヤは, 自分のハンドの他に, パートナのハンドのイメージと, パートナから見た自分のハンドのイメージを持つ. 私はつぎのビッドを決めるために, パートナのビッドを観察して, アブダクションによりパートナのハンドのイメージ (ビッドをした理由を説明できる仮説) を作る. ところが, パートナのビッドが, 彼女の持つ私のハンドのイメージによって決定されたものならば, 彼女が私のビッドからアブダクションによって作った私自身のハンドのイメージについても知る必要がある. さらに, 彼女の持つ私のイメージにも私が持った彼女自身のイメージが含まれる. このように, 各プレイヤはビッドのシーケンスを逆に辿って再帰的にアブダクションを行い, 観察したビッドのシーケンスを説明できるハンドのイメージを得ると考え, これをビッドを行うプレーヤのモデルの基本とした. このプレーヤがオークションにおいてパートナと協力して良いコントラクトに到達するかどうかは, ニ人の用いるビディングシステムによって左右される. 本研究では, よく知られたChales Gorenの本にあるビディングテーブルに従っている. しかし, このテーブルは最初の3つのビッド (オープニング, レスポンス, リビッド) しか決められないので, その後のビッドは常識的な判断に従うようにした. 例えば, 自分のハンドの点とパートナーのハンドのイメージにおける点の最小値を合計して24点以上, 31点以下ならばゲーム (4ハート, 4スペード, 3ノートランプ) をビッドする.