著者
瀬田 益道 中井 直正 山内 彩
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2007

近年の技術発展でサブミリ波からテラヘルツ帯での天体観測が現実的となった。ところが、この帯域は大気の吸収が強く観測可能な地は限られていた。我々は寒冷な高地である、南極大陸内陸部に着目してきた。サイト調査として、南極ドームふじで220GHzの大気透過率を測定したところ、地上最良と思われ大型干渉計ALMAの建設の進むチリ北部の砂漠地帯よりも優れていることを示した。ドームふじでの天体観測用に30cm望遠鏡を開発した。500GHz受信機を搭載し、天の川の一酸化炭素及び炭素原子の観測を行う。実験室での評価試験を経て、スイスアルプス及び南米のチリで試験観測を行った。
著者
川田 和正
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

当該研究課題では、中国チベット自治区羊八井(ヤンパーチン、標高4300m)に設置されているチベット空気シャワー観測装置の地下2.5mに大面積の地下プールから成る「水チェレンコフ型ミューオン観測装置」を新たに設置し、超高エネルギー(VHE=Very High Energy)ガンマ線に対するバックグラウンドノイズを大幅に低減して感度を劇的に向上させる計画である。そして、この新しい観測装置を用いて我々の住む天の川銀河からのVHE宇宙ガンマ線を、超低ノイズ・広視野という利点を生かし世界で初めて観測することを目指す。前年度迄に、合計で約四千平米の地下ミューオン観測装置の躯体の建設が完了している。当該年度においては、完成したミューオン観測装置への20インチ光電子増倍管(PMT)等の観測設備のインストール及び建設のため撤去されていた地上部分の空気シャワーアレイ検出器の回復作業を行った。今年度の5月から、空気シャワーアレイの回復を行い、その後、プール内壁への防水材の塗装及び高反射素材(タイベックシート)の接着を行った。また、光センサーである20インチPMTを地下ミューオン観測装置内にインストールし、データ収集装置の調整を行った。さらに、約100平米のミューオン観測装置のデータを用いて、ガンマ線と宇宙線バックグラウンドノイズを区別し、銀河面からの200TeV以上のガンマ線の探索を行った。約80%のガンマ線信号を残しつつ約90%の宇宙線バックグラウンド除去に成功した。その結果、有意なガンマ線信号は見つからなかったが、銀河面からの拡散ガンマ線に対する上限値を得た。この結果は2011年に北京で開催された宇宙線国際会議(ICRC)で発表された。
著者
内山 秀樹
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

天の川銀河中心領域の「すざく」による大規模観測データの系統的解析を行った。銀河拡散X線放射の3本の鉄輝線を分離した上で、銀河中心・リッジ・バルジにわたる2100×700光年の領域での強度の空間分布を初めて取得した。その結果、高階電離鉄輝線の空間分布が赤外観測による星質量分布と互いに異なることを示した。水素・ヘリウム状鉄輝線強度比が中心領域とリッジ領域で有意に大きい一方、中心領域とバルジ領域では両者に差は見られなかった。輝線強度比は高温プラズマの温度を反映する為、銀河拡散X線放射の起源解明の鍵となる。更に、熱的成分の寄与を取り除いた中性鉄輝線の等価幅が中心領域よりリッジ領域で小さいことを明らかにした。これは中性鉄輝線の起源も中心領域とリッジで異なる可能性を示唆する。本研究は「すざく」による高エネルギー分解能を活かし銀河中心・リッジ・バルジにおける鉄輝線の差異を明確にした点で、銀河拡散X線放射の起源解明の新たな手がかりとなるものである。また、データ中から新たなX線天体Suzaku J1740.5-3014を発見した。強い3本の鉄輝線、432.1sの自転周期と見られるパルスを検出し、強磁場激変星候補であることを突き止めた。この天体は、欧米のX線衛星では深い観測が無い、中心とリッジの中間に位置し、この領域でのX線点源、特にGDXEの起源の候補天体と目される激変星(白色矮星連星)のサンプルとして貴重である。
著者
信川 正順
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

我々の太陽系が含まれている天の川銀河の中心領域(以後、銀河中心領域)は多数の天体群が密集する高エネルギー現象の宝庫である。近年のX線観測から銀河中心領域の分子雲から強い中性鉄輝線(中性状態の鉄からの特性X線)が放射されていることが分かってきた。分子雲は高々100ケルビン程度の低温なので、自らX線を放射することはなく、その背後に高エネルギー現象が存在することを示唆する。これまでに私を含め、様々な観測結果から中性鉄輝線を放射するためには、外部からの強いX線によって分子雲が照射され、内部の鉄原子を電離していると考えられている。しかし、これまでに照射天体を決定的に示す観測的証拠は得られていなかった。そこで、私はX線天文衛星「すざく」を用いて、銀河中心の射手座B2領域の観測を行った。2005年の観測データと比較し、2つの分子雲からの中性鉄輝線と連続X線の強度が4年間で相関して減少していることを明らかにした。この観測結果から分子雲を照らすX線照射天体候補は太陽程度の質量の天体では不可能な光度を持っている必要があることを解明し、唯一の候補が太陽の400万倍の質量を持つ銀河中心ブラックホールであることを明らかにした。銀河中心ブラックホールは数100年前に少なくとも100万倍以上の活動性であったことが分かったのである。さらに、私が前年度までにも明らかにしたように銀河中心領域にはこの他にもX線を放射する分子雲が多数存在している。これらのX線放射の起源も巨大ブラックホールの過去のX線フレアである可能性を初めて示した。
著者
南方 久和 安田 修 梶田 隆章 梶田 隆章
出版者
首都大学東京
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

スーパー神岡実験によって質量とフレーバー混合が存在することが発見されたニュートリノという素粒子が未知の非標準的相互作用(NSI)をもつ可能性について研究した。NSIが存在する系におけるニュートリノ振動の全般的性質を明らかにし、全く新しいタイプの多重解の存在を見いだした。ニュートリノファクトリーを用いるNSI探索における積年の問題である1-3角とNSIとの混同の問題の解決方法を提示し、NSIの最も感度の高い探索方法を明らかにした。さらに、ミュー・タウニュートリノチャンネルにおける非標準的相互作用の探索には数年前に提唱した神岡・韓国2検出器系が有利であることを指摘し、この感度評価を行った。
著者
木舟 正 吉越 貴紀 吉越 貴紀
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

約半世紀にもわたる努力の結果、最近になって漸く確立した超高エネルギーガンマ線による宇宙観測の全体像を把握すべく考察を試みるために、これまでに検出されたガンマ線天体についてのレビユー論文を作成し、宇宙の超高エネルギー現象についての今後の発展方向を展望した。銀河系内超高エネルギーガンマ線源の位置、広がりの大きさなどについて、ガンマ線強度の観測データが銀河河円盤内宇宙線による拡散ガンマ線などによって受ける影響の大きさ、データの取り扱い方の違いが解析結果に与える不定性があることを示した。
著者
永山 貴宏
出版者
名古屋大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

近赤外線観測により、銀緯<±5°のグレートアトラクター領域に37. 5平方度に対して、銀河サーベイを行った。その結果、4360個の銀河を検出した。この領域にはABELL3627、CIZA1324. 7-5736といった大銀河団が存在していることが知られていたが、本研究においては、これらに匹敵するような新たな銀河団を発見することはできなかった。光度関数の比較の結果、Ksバンド10等付近に銀河数の超過を見出した。この銀河数超過を質量に換算すると、~1015太陽質量に相当する。この値は、近年のHIやX線での観測に基づき示された値と矛盾しないが、当初、示されたグレートアトラクターの質量の約10分の1である。
著者
中嶋 大
出版者
大阪大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

次期X線天文衛星ASTRO-H搭載X線CCDカメラ(SXI)の信号処理用アナログASICを開発した。CCD素子行とASICとを接続して試験を行った結果、現在軌道上のX線天文衛星搭載のCCDカメラに匹敵する低雑音性能を実現した。軌道上での長期正常動作を保証するために放射線耐性試験を行った。ガンマ線・陽子ビーム・鉄イオンビームを用いた試験の結果、蓄積効果については軌道上で約200年分の放射線を浴びた後でも正常に動作することを実証した。一方確率的現象については、破壊的な損傷を受けることはなかったが、データの一部が異常値を示した。この結果を受け、確率的現象に対する耐性を向上させたASICを試作した。今後この新しいASICを用いて、さらに詳細な放射線耐性試験を行う予定である。X線天文衛星すざくを用いて、天の川銀河内にある超新星残骸(SNR)「はくちょう座ループ」を観測した。SNR中心部に近い領域において、星間物質が掃き集められたと考えられる比較的低温なプラズマと、超新星爆発を起こした恒星の内部物質と考えられる比較的高温なプラズマの2つの成分でX線放射が説明できることを示した。特に後者のプラズマにおいて、はくちょう座ループの他の領域に比べてケイ素や硫黄といった重元素が多く分布していることを発見した。また視野内のX線放射強度が明らかに非一様を示しており、はくちょう座ループの超新星爆発における非対称性を示唆する結果を得た。
著者
中川 貴雄 塩谷 圭吾 小谷 隆行 GUYON Olivier
出版者
独立行政法人宇宙航空研究開発機構
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2007

太陽系外惑星(系外惑星)の直接観測は、惑星の誕生から進化、多様性、また究極的には地球外生命の兆候にも迫る、人類の宇宙観に関わる重要な研究テーマである。しかし、主星光と惑星光のコントラストが極めて大きいことが直接観測の障壁となっている。大気の影響のないスペースから、コントラストの点から有利となる赤外線領域で、我々の太陽系外の惑星を直接検出することを目指して、ステラー・コロナグラフの開発に取り組んだ。その結果、今までにない高いコントラスト達成の実証実験に成功し、波面補償の基本アルゴリズムを開発し、赤外線実験用環境を構築し冷却実験に成功するなどの成果を上げられた。これらの成果は、将来のスペースからの系外惑星観測の貴重な基礎技術獲得となる。
著者
田中 隆昭 陣野 英則 新川 登亀男 小林 保治 吉原 浩人 高松 寿夫 蔵中 しのぶ 松浦 友久 丹羽 香
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

2000年12月、研究所発足。2001年3月、周以量氏(現在中国首都師範大学副教授)、林忠鵬氏(現在客員研究員)を招聘、田中所長が加わり、早稲田大学で講演会。参加者約50名。2001年9月、二日間にわたり国内・海外研究員全員と北京大学の韋旭昇氏、北イリノイ州立大学のジョン・ベンテリー氏等を招聘して早稲田大学にて国際シンポジウム「古代日本・中国・朝鮮半島文化交流の新展開」。参加者約150名。この成果は近刊の『交錯する古代』(勉誠出版)に反映される。2002年7月、シンポジゥム「21世紀に向けての日中比較文学」を中国・長春市にて東北師範大学で共催。研究発表者日本側20名、中国側28名。参加者約200名。この成果の一部が2003年2月の『日本学論壇』に反映された。2002年11月、二日にわけて王宝平氏(浙江大学)・高文漢氏(山東大学)・孟慶枢氏(東北師範大学)・林嵐氏(東北師範大学)を招聘して、田中所長と石見清裕氏(教育学部)が加わり講演会。参加者約80名。こうした海外との学術交流と平行して、毎月一回『日蔵夢記』講読会を開催。本文整理・訓読・語釈・現代語訳を確定。この成果に関連する学術研究論文を加えて、近刊の『日蔵夢記大成』(勉誠出版)に反映される。また一方では日中比較文献目録の作成も進めているが、まもなく一定の成果を公表することが可能である。
著者
藤岡 穣 古谷 優子 森實 久美子 鈴木 雅子 三田 覚之 山口 隆介
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

日本の仏教美術に関する研究は、従来、絵画や彫刻といったジャンル別の研究が主流であった。本研究は、それに対して、異なるジャンル間の相互の影響関係、ジャンルによる表現の異同の様相などを明らかにしながら、ジャンルの枠を超えた総合的な研究を目指すものである。こうした研究は、短期間のうちに容易に達成されるものではなく、本研究ではまさにその端緒に着いたばかりであるが、今後も引き続きジャンルごとの研究成果の共有化をはかり、より総合的な研究を目指していきたい。
著者
井上 哲夫 森 篤史 柳谷 伸一郎 鈴木 良尚
出版者
徳島大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2004

平成18年度はPbS(赤外線検出素子)、ZnS(発光材料)、CuCl(シンチレーター)、タンパク質をゲル成長させ、磁場の影響について研究した。ゲル成長を行う場合、そのプロセスは大きく二つに分けられる。一つは成長の場となるゲルの作成段階(プロセス1)、もう一つはゲルの中で実際に結晶を育成する段階(プロセス2)である。そこで磁場の印加時期も、プロセス1においてのみ(Case 1)とプロセス2のみ(Case 2)、およびプロセス1と2の全プロセスに亘って印加する場合(Case 3)の3種類を試みた。また磁場下でゲルを作成したとき磁場がゲル構造に及ぼす効果を計算機シミュレーションにより研究した。得られた結果は以下のようである。1.PbS:無磁場下では正8面体であったのが、磁場印加(Case 1)すると、八方に角の生えた形状(骸晶)になった。またCase2の場合には球晶となった。2.ZnS:磁場の有無にかかわらず、球晶が成長した。しかし球晶のサイズは磁場印加(Case 3)により大きくなった。透過電子顕微鏡(TEM)によると、球晶は5nm位のナノ球晶から構成されていることがわかった。これらの球晶の光吸収スペクトルの短波長端はバルク結晶よりも短波長側へシフトしており、サイズ効果が観察された、3.CuCl:無磁場下では正四面体であったのが、磁場印加(Case3)すると、長い針状結晶へと変化した。4.タンパク質(リゾチーム):リゾチームの配行に磁場が影響することがわかった。無磁場下ではランダムに配向するが、磁場下ではc軸が磁場に平行に配行する傾向があった。しかし、この傾向はリゾチームの濃度が高くなるにつれ弱くなった。また磁場効果として核精製頻度や成長速度を抑制することが分かった。5.計算機シミュレーション:磁場が強くなるにつれ、ゲルネットワークは平行方向に長く伸びる(セルの形状が細長くなる)傾向があった。
著者
小林 圭 山田 啓文 桑島 修一郎
出版者
京都大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2006

本年度は、カンチレバーを用いた周波数検出型バイオセンサーにおいて、その最小検出質量を決定する周波数ノイズを定量的に予測するモデルを考案し、また実際にノイズ評価を行うことで、その妥当性を評価した。従来、カンチレバーの共振周波数を検出する周波数検出型のバイオセンサーでは、その変位を検出する変位検出系のノイズによって周波数ノイズが決定されると考えられてきた。つまり、周波数変調(FM)通信と同様に取り扱われてきたのである。しかしながら、実際にバイオセンサーで用いられるカンチレバーの機械的Q値は非常に低く、しばしば10以下となるため、そうした取り扱いが妥当であるかについては疑問視されてきた。我々は、変位検出系のノイズが自励発振ループ内で発生することを考慮に入れた、カンチレバーの周波数ノイズを定量的に予測するモデルを考案した。これにより、低Q値のカンチレバーの周波数ノイズも正確に予測することができるようになった。また、この妥当性を実際に液中で自励発振させたカンチレバーの周波数ノイズを計測することにより確認した。一方、カンチレバーの変位検出系の低ノイズ化対策をさらに進め、10fm/√Hz以下を達成した。また、このように十分に変位検出系を用いた場合、カンチレバーの変位をセンサー出力とする変位検出型のバイオセンサーにおいて、本研究課題で提案した多重反射方式のカンチレバーセンサーは平行レーザ光を用いれば、感度の向上に大きく寄与できることを示すことができた。
著者
黒野 弘靖 菊地 成朋 伊藤 裕久
出版者
新潟大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

日本の伝統的な街路や水路沿いの景観である、上越市高田の「雁木通」、柳川市の「掘割水路」、国分寺市の新田村「並木道」を対象とし、その景観を、住まいと公的空間との間で利用と所有の関係が調整された結果もたらされたものと捉え、それが現在まで持続してきた住み手の側の論理を把握した。屋敷地の利用、建物や樹木の配置に、住居と共用空間の相補関係が表れている。
著者
小松 和彦
出版者
大阪大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1989

今回の調査研究の目的は、高知県香美郡物部村に伝承されている陰陽道の末流「いざなぎ流」の宗教者たちの諸儀礼とくに村野年中行事としての性格をもつ儀礼およびかれらの日常生活を調査するとともに、その様子を映像に記録することであった。「いざなぎ流」の宗教者たちは調査されることを嫌うという傾向が強かったが、その態度が、この数年大きく変わり、積極的に調査を期待するようになってきていた。今回の調査は、これに応える形で計画されたものであった。宗教者たちの協力もあって、当初から予定していた「七夕まつり」と「盆行事」については、その一部始終をビデオに収録することができ、また、宗教者たちの日常生活についても、同様の成果を上げることができた。さらに、「七夕の祭文」など多くの祭文や年中行事についての聞き取り調査も、十分に行うことができ、その様子もビデオに収録した。しかしながら、調査を予定していた村内の高坂山の「峰入り」行事や旧家で行われるとされていた「家祈祷」については、残念ながら、目的を達成することができなかった。いずれも祭りが行われなかったことがその理由であるが、前者について言えば、昭和天皇の病気による自粛として一昨年の祭りが中止となったあと、諸般の事情で祭りの廃絶に至ったからであった。この背景には高度成長以後始まった過疎化がいまや最末期の状況を迎えて、集落の消滅や高年齢化したという事情がある。いざなぎ流の宗教者たちが調査に協力的になったのも、「いざなぎ流」が近いうちに消滅することを感じ取っているからである。「いざなぎ流」の諸儀礼が行われる機会は、ますます減るであろう。その消滅を目前にして、諸儀礼の映像記録の作成は、急務の課題であろう。ここしばらく、引き続き調査・研究を行っていくつもりである。なお、これまでの調査で集積した映像記録は、編集のうえ、来年度の映像民族学の会の年会で、発表する予定である。
著者
杉浦 隆
出版者
岐阜大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

酸化チタンは、光触媒などの光機能材料として様々に応用されている。以前の研究において焼結体や単結晶の酸化チタン電極にフォトエッチング処理を行うことで結晶配向に依存した特徴的なエッチングパターンが形成されることを見出している。しかしその場合、表面処理の効果は数百マイクロメートルの厚さの電極の表面のみに限られ、薄膜電極をフォトエッチング処理できれば、光触媒などへも応用も可能となると考えられる。そこで本研究では、酸化チタン薄膜を作製する方法としてチタン板を熱酸化する方法を試み、薄膜の評価を行った。さらに作製した酸化チタン薄膜電極にフォトエッチング処理を行い、その表面構造や光誘起親水特性を評価することで酸化チタン薄膜の作製条件が及ぼすこれらの特性への影響についての検討を行った。フォトエッチング処理をした電極の表面SEM像から、薄膜電極の場合においても酸化チタンの結晶配向に依存したエッチングパターンが形成可能であることを見出した。フォトエッチング処理前後の電極の光誘起親水特性評価を行ったところ、ブラックライト照射下でフォトエッチング処理前の試料は2500分間の照射で限界接触角が70°であったのに対し、処理後の試料は120分間の照射で0°と超親水性を示し、短い照射時間で限界接触角が大きく減少したことがわかった。これはフォトエッチング処理により光誘起親水化しやすい酸化チタンの(100)面が選択的に露出したためであると考えられた。
著者
内田 吉昭 足利 正 鳥巣 伊知郎
出版者
山形大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

1.内田は(1)三次組み紐と三橋結び目上分岐する三次元球面分岐被覆空間を結び目のダイアグラムを利用しで決定ずる方法を発見した。そしてそれらの空間がそれぞれレンズ空間L(n,1)とL(n,m)となる事を示した.(2)三次元球面内のトーラス結び目上分岐する分岐被覆空間の研究で次の結果を得た.非正規三重分岐被覆空間を持つトーラス結び目はT(2x,3y)(x,yは互いに素な整数)の型であり、その被覆空間はザイフエルトファイバー空間になる.そして、2xβ_2+3yβ_1=±1となる整数β_1とβ_2に対して M(β_1/2x,β_1/x, β_2/y) となるザイフェルトレファイバー空間が被覆空間となる事を示した.また、トーラス結び目T(2,x)、T(3,x)の族に対しては結び目のダイアグラムだけを使用する証明方法でM(β_1/2x,β_1/x,β_2/y)となる事を示した.2.足利は(1)リーマン面の退化族の局所不変量、位相モノドロミー、分裂族やLefschetz fibrationの大域的性質に関する進展についての概説を論文にまとめた.(2)退化代数曲線束のファイバー芽に対するエータ不変量を経由する局所符号数に対しては、その安定還元芽め持つ同種の符号数との比較公式を与えだ.(3)負型連分数を用いてDedekind和を明示する新公式を提示し、これからDedekind相互律が導かれることを示した.3.鳥巣は(1)Howards-Lueckの定理を絡み目に拡張した. また、二橋絡み目のstrong trivialityについて研究を行い、(自明でない)すべての二橋絡み目はn≧1に対してstrongly n-trivialとならないことを示した. (2) strongly 1-trivial Montesinos結び目の族を与え、もし、有名なSeifert surgery予想が有効ならば、この族はすべてのstrongly n-trivial Montesinos結び目を含む事を示した.また、(3)Legendrian twist knotの分類、写像類群とcontact open bookなどの研究を行った.
著者
土井 健司 宍戸 栄徳 柴田 久
出版者
香川大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

本研究では、成果論文「都市基盤整備におけるコンフリクト予防のための計画プロセスの手続的信頼性に関する研究」において、先ほど最高裁判決の出された小田急線高架化事業取消請求事件を事例検証している。さらに都市基盤整備を巡る訴訟判例の経年的整理よりコンフリクトを巡る問題の構図が明らかにされている。特に小田急線問題に象徴される環境アセス手続主体間の独立性を巡る課題やコンフリクトの象徴を明らかにし、長い計画期間を有する都市基盤整備が留意すべき公益性とリスク評価の捉え方を提示している。結論として、実体関係に基づく手続審査とソーシャルキャピタル論からの手続的信頼性の意義を再考し、アセスメント手法などの改善の必要性を示している。これに基づき成果論文「イギリスの政策評価におけるQoLインディケータの役割と我が国への示唆」において、コンフリクト予防のための政策アセスの取り組みについて先進事例を紹介している。またコンフリクト予防に対する実践的研究として、成果論文「QoL概念に基づく都市インフラ整備の多元的評価手法の開発」を行い、生活の質(QoL)の向上という長期的な目標設定と、市民の価値観の多元性を組み込んだQoL評価(総合アセスメント)の仕組みについて、その重要性が示唆されている。ここでのQoL評価は、総合アセスの骨格に過ぎないものの、相互の価値観の違いをQoL要素の重みの違いと理解したうえで、共通利益としての公益を探ることこそが市民相互の互酬性を育み、ソーシャルキャピタルの醸成、さらに結果として都市基盤整備をめぐるコンフリクト予防に繋がるという論証結果が一連の研究成果として示されている。なおこれらの研究活動は、土木計画学研究委員会 政策重点課題プロジェクトの研究成果として位置づけられるものである。
著者
古屋 充子 田中 玲子 米満 吉和 木村 定雄
出版者
横浜市立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

炎症性背景をもつ発癌モデルとして内膜症と明細胞腺癌とにおける炎症性微小環境変化を解析した.G蛋白質共役受容体CXCR3を解析したところ,3つの変異体がヒト組織で確認された.定性解析の結果,CXCR3Aは内膜症,癌両者で上昇していた.CXCR3-altは癌で特異的に発現し,CXCR3Bは抑制されていた.CXCL11,CXCL4の発現パターンは各々CXCR3-alt,CXCR3Bと相関した.局在解析では,CXCR3-altは腫瘍血管に,CXCR3Bは正常血管や内膜症血管にシグナルが認められた.以上の結果,G蛋白質共役受容体CXCR3は変異体により発現組織・細胞が異なり,そのリガンド環境も疾患によって異なることが示唆された.CXCR3Bでは抑制性,CXCR3-altでは亢進性シグナルが作動すると予想された.今回期間内では変異体依存性シグナルと4回膜貫通蛋白(TM4)との関連を明らかに出来なかったが,今後は細胞レベルでG蛋白質共役受容体シグナルを介した浸潤・移動能調節機構にインテグリン/TM4がどう応答するか解析する予定である.
著者
島田 弦
出版者
名古屋大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

強力な行政権と著しく限定された政治参加を特徴とする権威主義体制において、法による権力の制限を内容とする「法の支配」が、民主化運動とどのように結びついたのか、また1998 年に始まる民主化以降、「法の支配」を支える制度がどのように変化したのかについて研究を行った。そして、立憲主義を通じた行政権の制限を担保する制度として憲法裁判所に関する論文、および、市民社会の側からの「法の支配」を基礎とする民主化運動について、法律扶助運動に関する論文を発表した。また、関連研究として、東ティモールの平和構築における司法制度の役割に関する論文、災害復興行政に関する学会報告を行った。また、イスラム法に基づく統治と国家法制度の緊張関係に関する論文を執筆中である。