著者
井田 哲雄 南出 靖彦 MARIN Mircea 鈴木 大郎
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

ウェブソフトウェア検証の事例研究として, WebEosの核となる部分の形式化と検証を行った.幾何と代数の基本的な部分にMathematicaの計算結果を援用することで, 効率的な検証が可能となった.文字列解析による検証において, 正規表現マッチングの正確な解析を可能とした.また, データベースとの連携の解析を導入し, 蓄積型XSS脆弱性検査を実現した.ポジションオートマトンを利用した正規表現の貪欲マッチングアルゴリズムの設計と実装を行った.
著者
古川 龍彦 秋山 伸一 住澤 知之
出版者
鹿児島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

2デオキシ-D-リボースはチミジンホスホリラーゼ(TP)によるチミジンの代謝物の一つである。これまで我々は2デオキシ-D-リボースが血管新生活性を持っていることを見いだしてきた。初年度までに、2デオキシ-D-リボースの光学異性体である2デオキシ-L-リボースを作用させると、TPあるいは2デオキシ-D-リボースがもつin vitroの血管内皮細胞の管腔形成の促進、牛大動脈内皮細胞の遊走能の亢進、血管新生活性の作用を抑制することを見いだして、今年度はさらにTP強制発現ヒト癌細胞を移植したヌードマウスにデオキシ-L-リボースを経口投与して、対照群に比べて有為に腫瘍の増殖を抑制すること、また、脾静脈からTP強制発現ヒト癌細胞を肝転移させる転移実験モデルで転移病巣を有為に低下させることを明らかにした。これらのことから2デオキシ-D-リボースの構造を認識する分子を介して、多彩な機能を発揮させていることがさらに裏付けられた。また、2デオキシ-L-リボースが持つTPの生物活性を抑制作用を利用して新たな抗腫瘍薬剤として用いることができる可能性が示された。TPの発現細胞において低酸素に対して抵抗性であることを見いだしていたがさらに詳細に検討した。デオキシ-D-リボースを加えることで低酸素下でのHIF1αの安定化されるが妨げられること,p38MAPキナーゼの活性化が抑制されることを見いだした。現在、デオキシ-D-リボースが直接に作用する分子が何かを検討中である。TPのノックアウトマウス(TPKO)とTP/UP(ウリジンホスホリラーゼ)ダブルノックアウトマウス(TP/UPKO)を作成した。これらのマウスは雌雄とも妊娠可能で、形態的異常、体重減少などは見られない。TPKOにおいては肝臓でのみTP活性が失われていた。UPKOにおいては肝臓以外のすべての組織でTP活性が欠失していたTP/UPKOマウスでは各臓器ともTP活性が検出されなかった。血中のチミジン濃度は野性型と比較しTPKOは約2倍、TP/UPKOは約5倍であった。1999年にNishinoらはTPがヒトの神経筋疾患であるMNGE(Mitochondrial NeurogastroIntestinal Encephalomyopathy)の原因遺伝子であると報告した。10ヶ月齢の野性型マウスとTP/UPKOの骨格筋ではMNGIEに特徴的所見られなかったが、脳ではTP/UPKOにMRIのT2強調画像で高いシグナルが認められ、また、電顕写真での変化を見いだしており、TP/UPKOはTPの生理的役割の解析とともに、白質脳症のモデルマウスとして病因の解析に有用である可能性がある。
著者
伊藤 寛 中西 俊介 伊藤 稔
出版者
香川大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

光学緩和過程には結晶,非晶質,液体,気体等の物質の状態に応じて種々の緩和メカニズムが考えられる。物理的にはこれらはゲスト分子と熱浴との電子格子相互作用として扱われる。特にこの研究では将来的には生体物質中の熱緩和・熱伝導の解明を目的として,その手始めとして生体中の水との関係を考慮し親水性アモルファス系の光学緩和のメカニズムの解明を目的としている。具体的には,ポリビニールアルコール(PVA)をホストとして,その中に溶かし込んだ色素の電子状態の位相緩和を観測することにより,ホスト-ゲスト間の電子格子相互作用の様子を調べる。特にPVA分子中に含まれるOH基やCH基或いはC-C結合などの固有振動の大きさにより,この相互作用がどのように変化するかを調べる。このことにより,PVA中の分子振動の緩和速度或いは伝搬速度などを理解することができる。この場合色素はあくまでホスト分子の熱緩和過程を見るためのプローブである。実験は(1)色素としてサルファローダミン640を使い,これをPVAに封入し4.2Kの温度に保ったものを使った。この試料にシリコニット発熱体からの赤外線を照射しながら,四光波混合信号を観測する。さらに,この赤外光を分光器で分光しOH基に共鳴する3200cm-1を中心に2000cm-1から4000cm-1の範囲の波長を照射しながら測定した。四光波信号の測定には,色素系の緩和時間に対して十分な時間を保証するために10Hzの色素レーザーを使用した。(2)チタンサファイアレーザー励起光パラメトリック発振器(OPO)の発振波長をOH基の固有振動に同調し試料に照射しながら同様な四光波信号を測定した。今後,このような測定法でホスト分子の緩和過程を解明する事が可能である事の糸口を得た。今後振動の励起用および緩和測定用に同期したフェムト秒パルスを用い時間領域での緩和の検出実験を行う。
著者
奥乃 博 尾形 哲也 駒谷 和範 高橋 徹 白松 俊 中臺 一博 北原 鉄朗 糸山 克寿 浅野 太 浅野 太
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2007

音環境理解の主要機能である混合音の音源定位・分離・認識技術を開発し,ロボット聴覚ソフトウエアHARKとして公開し,国内外で複数の講習会を実施した. HARKを応用し,複数話者同時発話を認識する聖徳太子ロボット,ユーザの割込発話を許容する対話処理などを開発し,その有効性を実証した.さらに,多重奏音楽演奏から書くパート演奏を聞き分ける技術,実時間楽譜追跡機能を開発し,人と共演をする音楽ロボットなどに応用した。
著者
竹村 剛一
出版者
横浜市立大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

ホインの微分方程式とは、確定特異点が4点となる2階のフックス型微分方程式の標準形である。ホインの微分方程式やこれの拡張とみなせる微分方程式に対して、可積分系の考え方を用いて解のモノドロミーの様相を研究した。とくに、ミドルコンボルーションと呼ばれる微分方程式系の変換を用いることでホインの微分方程式においてこれまで知られていなかった解を発見し、そのモノドロミーを調べた。また、第六パンルベ方程式の初期値空間とホインの微分方程式との関係を鮮明にした。
著者
桜井 弘 安井 裕之 吉川 豊 廣村 信 小嶋 良種
出版者
京都薬科大学
雑誌
特別推進研究
巻号頁・発行日
2004

糖尿病(DM)は、インスリンの絶対的または相対的不足による疾患であり、それぞれインスリン依存性の1型およびインスリン抵抗性による2型DMとよばれている。前者は、1日に数回のインスリンの皮下注射が唯一の治療法であるため、患者に精神的・肉体的負担を与えるのみならず、自己抗体を産生してインスリンの作用が表れなくなることがある。後者の治療には、いくつかの経口合成薬剤が開発されているが、それらを長期に服用すると強い副作用が現れるのみならず、体がインスリン合成を不要と判断するため、やがてはインスリン注射に頼らざるを得なくなることも知られている。このような状況の下で、インスリン注射や合成薬剤に代わりうる新しい薬剤の開発が世界的に要望されている。本研究は、金属錯体による1型および2型糖尿病の治療を目指して行われた。脂肪細胞および実験動物を用いて得られた主な成果は、以下の通りである。(1)細胞を用いるインスリン様作用の評価系(グルコースの取り込み促進と脂肪酸放出抑制)を確立した。(2)バナジル(VO^<2+>)-ピコリネートをリード化合物として11種類の錯体を合成して、構造活性相関性(SAR)を研究し、配位子の置換基の位置が重要であることを明らかにした。(3)バナジル-およびジンク(Zn)-3-ヒドロキシピロネートをリード化合物としてそれぞれ5〜8種類の錯体を合成し、SARを研究し、アリキシン関連配位子の錯体は1および2型DMを治療できるのみならず、メタボリックシンドロームを改善できる新事実を見出した。(4)これらの錯体の作用機構を研究し、バナジルおよびジンク錯体は主としてインスリンシグナル伝達系に存在する各種の酵素のリン酸化を促進し、最終的にグルコース輸送体を細胞膜表面に移動させる新知見を得た。(5)バナジウム化合物や錯体の新しいドラックデリバリーシステムを考案した。(6)以上の結果にもとづいて、臨床応用を目指すいくつかの錯体の構造式を提案した。
著者
津久井 亜紀夫 青木 智子
出版者
東京家政学院短期大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

平成16年度から平成19年度の研究成果を纏めた。1.有色馬鈴しょ主要アントシアニン(AN)の推定構造はインカレッド(IR)がペラニン、インカパープル(IP)がペタニンであり、その他IPから3種の構造を推定した。2.有色馬鈴しょ主要ANの構成比率はペラニンが74%、ペタニンが60%であり、耐熱性試験による残存率はIRANが59%、IPANが36%であった。耐光性試験の残存率はIRANが67%であったが、IPANはほとんど退色されていた。3.新鮮紫蘇葉から濃赤紫色灰汁梅酢液、濃赤紫色灰汁除去梅酢液、精製ANを60日間貯蔵した結果、濃赤紫色灰汁梅酢液及び濃赤紫色灰汁除去梅酢液に含まれるANは安定であり、利用可能であった。このことから有色馬鈴しょANは梅酢漬けの着色に利用できると示唆された。また赤キャベツ漬物熟成法がAN色素製剤として利用できることを認めた。有色馬鈴しょも同様に乳酸発酵法を利用し、色素製剤を製造できる可能性が示唆された。4.有色馬鈴しょANのアルコール発酵及び有色馬鈴しょ粉末の糖化・アルコール発酵を行った。糖化ではANの変化はないが、発酵により二酸化炭素の影響でANが急激に減少し、発酵が終了するとANの増加が認められた。5.有色馬鈴しょからジャムを製造した。赤肉色系及び紫肉色系のジャムとも色調と嗜好度の評価が優れていた。6.有色馬鈴しょANは胃癌細胞より抽出したDNAを断片化し、この色素成分がアポトーシス誘導を認めた。さらに胃癌発症モデルラットの試験により、蒸煮馬鈴しょにおいても胃癌発症を抑制することが観察された。7.有色馬鈴しょANは他のANに比べ赤肉色系餌及び紫肉色系ANとも高いアンギオテンシンI変換酵素阻害活性を認めた。
著者
津田 正史
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

マクロリド化合物Amphidinolide類は、海産扁形動物ヒラムシ(Amphiscolops sp.)の体内に共生する渦鞭毛藻Amphidinium sp.が生産するマクロリドであり、培養腫瘍細胞に対して強力な細胞毒性を示すことが知られている。これまでマクロリド生産能をもつAmphidinium sp.の検出・同定は、藻体抽出物を化学的に分析することにより行ってきた。しかし、Amphidinium sp.のマクロリド生産性が高くないことに加えてAmphidinium sp.自体の増殖速度が遅いことから、細胞を分離してから検出し、大量培養を行うまでに半年以上を要していた。そこで今回、目的とするAmphidinium sp.をより迅速に探索する方法論を検討した。当研究室で保有するAmphidinium sp.5株について系統解析を行ったところ、マクロリドを生産する株としない株は、異なる系統に属することが分かった。そこで、これらの18S rDNA配列を比較し、マクロリド生産能をもつ株に特異的なBELAU2-BELAU9プローブ、それと同位置を増幅させ、生産能をもたない株に特異的なCARTE2-CARTE9プローブ、および両株に共通する部分を増幅させるBC2-BC9プローブの3種を設計し、各種分析法を用いて迅速探索法を検討した。渦鞭毛藻Amphidinium sp.(Y-71株)の培養藻体のトルエン可溶画分より、新規マクロリドAmphidinolide C2を単離し、スペクトルデータの解析に基づいて化学構造を帰属した。一方、沖縄県恩納村真栄田で採取した無鳥類ヒラムシAmphiscolops sp.より、単細胞分離した渦鞭毛藻Amphidinium sp.Y-100株を大量培養し、得られた藻体のトルエン抽出物より、培養腫瘍細胞に対して強力な殺細胞活性を示す新規マクロリドAmphidinolide B4とB5を単離した。スペクトルデータの詳細な解析に基づいてこれらの化学構造を帰属した。抗腫瘍性を示す26員環マクロリドAmphidinolide Hの結晶構造は、21位水酸基とエポキシ酸素との間で水素結合を形成した、全体として長方形な分子形状を有しており、同じく26員環マクロラクトン構造をもつAmphidinolide Bの結晶構造と極めて良く似た結晶構造であることが知られている。Amphidinolide Hの構造活性相関と活性発現の分子機構解明の一環として、本化合物の溶液中での安定配座を検討した。
著者
中島 寛
出版者
九州大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

本研究では、界面層制御した高品質な絶縁膜/Ge構造形成技術を確立すると共に、Ge-On-Insulator (GOI)チャネル層の物性を解明することを目的としている。平成21年度は、(1) 絶縁膜/Ge構造形成、(2) GOIチャネル層の結晶性評価、の研究を実施し、以下の成果が得られた。(1) Ge-MOS構造として、Ge表面をSiO_2/GeO_2の2層膜でパッシベーションする手法を検討した。GeO_2及びSiO_2膜の役割はそれぞれGe表面のダングリングボンド終端化及びGeO_2中への不純物(水や炭化水素)混入防止にある。この2層パッシベーション膜を大気暴露無しで形成する手法を開発した。この新規な界面層形成手法を用いれば、低い界面準位密度(4×10^<11>cm^<-2>eV^<-1>)のMOS構造が実現できる。この独自技術は良質なGe-MOS界面構造形成のための手法として有用であることを実証した。(2) Ge濃度が15~90%のSiGe-On-Insulator (SGOI)およびGOIを酸化濃縮法で作成した。これらの試料にリン(P)を固相拡散してソース/ドレインを形成し、バックゲート型MOSFETを作成した。試料の電気特性から閾値電圧を求め、イオン化アクセプタ濃度(NA)を算出した。その結果、NAのGe濃度依存性は、Hall効果法で求めた正孔濃度(p)の依存性と異なることを示した。即ち、低Ge濃度領域では、NAが10^<16>cm^<-3>以上であるのに対して、pは約2桁低い。一方、高Ge濃度領域では両者はほぼ一致する。この相違は、酸化濃縮過程で生じる欠陥が深いアクセプタ(A)として働き、Ge濃度の増加に伴い、Aのエネルギー準位が価電子帯側ヘシフトする事で説明できる。このエネルギーシフトをホール効果の温度依存性から明らかにした。
著者
堀 憲次
出版者
九州大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1995

本研究では、モデル化合物N-formylaziridine及びそのプロトン付加体に関して極限的反応座標(IRC)を含めた詳細な非経験的分子軌道(MO)計算を行い、1-アシルアジリジンの異性化反応機構を理論的に検討することを目的とした。これに関連して、N-formylaziridineと同じくアミド部分を有するアジリジン誘導体、1-(R)-α-methoxy-α-trifluoromethylphenyl-acetyl-(S)-2-methyl-aziridineにおいて実験を行い、MO計算結果と比較検討を行った。その結果以下のことが判明した。(1)強い求核種が存在しない反応条件では、低い活性化エネルギー(38.9kcal mol^<-1>)の遷移状態(TS)を経て反応は進行する。このTSを経る反応は、反応前後でアジリン環の不斉炭素の立体を保持するS_Ni機構であることが、IRC計算により確認された。(2)スキーム1に示す反応では、メチル基ヲ持つC-N結合が選択的に解裂する。このモデル反応えは、28.2kcal mol^<-1>、置換基の無いC-N結合の解裂には、39.8kcal mol^<-1> の障壁があると計算された。両者の結果は良い一致を示している。(3)強い求核種(本研究ではCl^-をモデルとした)によるアジリジン環の開環と線型中間体の生成反応の活性化エネルギー(14.0kcal mol^<-1>)は、S_Ni機構のそれに比べて小さいと計算された。従って、強い求核種の存在下では、線型中間体の生成がS_Ni機構に優先して進行する。しかしながら、カルボニル酸素による2回目のS_N2反応は、高い活性化エネルギーを有する(45.4kcal mol^<-1>)と計算された。この結果は、実測された最終生成物の遅い反応速度と良い一致を示している。
著者
大堀 研
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

地域デザインの一環としての環境政策の形成および展開過程を、岩手県葛巻町、福井県池田町を対象に社会学的・実証的に検討した。社会課程の相違点として、開発政策の有無など初期条件の違いにより、展開される政策内容に違いが出ることが明らかとなった。また、両町に共通の要素として、町の特性を意識した環境政策の展開、柔軟な住民参加手法の採用の二点を把握することができた。
著者
潮村 公弘
出版者
信州大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2003

平成15年度の成果を踏まえた上で、新たに、少数派側条件に割り当てられる人物にはサクラ(実験協力者)を用いる。サクラは、ディスカッション場面において予め定められた行動(2条件:性役割分業を肯定する発言、性役割分業を否定する発言)をとる、という実験操作を加えた実験研究を遂行した。性別混成状況下での自己意識・自己ステレオタイプ化については、複数の競合仮説が存在し、依然として解決をみていないテーマである。本研究では、ディスカッションが公的な状況としてなされる条件と私的な状況としてなされる条件も設定された。従属変数としては、意識的で顕在的な測度(評定尺度)と、非意識的で潜在的な測度の両者を用いた。非意識的な測度としては、IAT (Implicit Association Test)技法群に属する新しい測度であるGNAT (GO/No-go Association Task)を採用した。この手法は、複数の概念に対する潜在的な選好を各々の概念ごとに独立に測定できる新しい手法である。主たる知見としては、自己に対する顕在的なステレオタイプ化測度については、ディスカッションが公的な状況としてなされる条件においては、男性実験参加者も女性実験参加者も自己の女性性を反ステレオタイプ的に自己評定していたことが見出され、創られた性差として捉えうるような回答パターンが男女いずれにおいて示されていた。その一方、潜在的な測度の結果は高度に複雑なパターンを示した。このことは、ディスカッション場面という伝統的な区分での男性的特性が発揮されやすい傾向にある場面において、性別分業を肯定する/あるいは否定するという明確な主張を向けられることが、少なくとも大学生実験参加者にとっては複雑性の高い課題であったことが関係していよう。
著者
宇佐美 繁
出版者
宇都宮大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1995

農家世帯員である女性達の就業形態が、明確に分化してきた。a農作業に全く関与しない純粋勤労者(または専業主婦)型、b農業以外の勤務先を持ちながら、農繁期だけ手伝う兼業型、c経営主等の下で無償の従業員として農作業に関わる従属的農業専従型、d配偶者等と対等なパートナーとして経営に関わっている自立的農業専従型、e経営の一部門を責任をもって担当する独立的農業専従型の五類型である。cは伝統的タイプで、戦後自作農経営を代表し、三ちゃん農業時代の担い手でもあった。今日最も一般的な類型はbであり、二十代から五十代に及んでいる。二十代から三十代にかけては、a類型が急速に広まっている。d,eは90年代にはいってから注目されるようになった類型であり、家族経営協定、女性による起業は、この類型を中心に進展した。近年農村を活気あるものにしている直売所等のグループ活動も、リーダーはこうした類型の女性達である。若い時から家族に気兼ねすることなく、地域の様々な活動に参加してきた女性農業者に多い。後継者を確保している農家は、絶対数ではc類型におおく、家産価値の大きい農家ほど定着している。d,e類型の農家では大半の農家で農業跡継ぎを確保している。女性が誇りと喜びをもって農業経営に参加している農家は、農業経営自体が魅力的であるだけでなく、家族関係も風通しがよく、若者にとっても就業しやすいためである。しかし職業選択についても寛容であり、長男を含めて他産業を選択する場合も少なくない。そこでの後継ぎ問題は、家族関係の領域を越える。
著者
井関 正久
出版者
中央大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2003

平成17年度は、平成15-16年度に「地球の友・インターナショナル」アムステルダム本部、「地球の友・ヨーロッパ」ブリュッセル本部、ドイツ環境自然保護連盟BUND(「地球の友・ドイツ」)のベルリン連邦本部、ハンブルク州支部、リューベック地区支部、そしてウィーンの「グローバル2000」(「地球の友・オーストリア」)で収集した一次資料、および各団体の活動家や職員に対して行なったインタヴューを、昨年度から引き続いて整理・分析し、論文執筆に取り組んだ。そして、上述した「地球の友」とその加入団体を事例に、欧州におけるNGOの国際ネットワークの形成過程とその国際政治への影響に重点を置いて、実証的な論文を作成した。論文執筆の際、NGOを含む市民運動・社会運動全般、そしてそれを取り巻く国際関係について考察し、さらに理論的に吟味するために、政治学・社会学・歴史学等に関するさまざまな和書・洋書を購入した。それとともに、上述の各団体の現状について追加調査するため、インターネットを駆使して、各NGOのニュースレターや活動報告をはじめとする最新資料も収集した。このため、図書やコンピューター機器類・消耗品類といった物品購入費が、今年度の主要経費となった。研究成果をまとめた論文は、「欧州における環境NGOの国際連携-『地球の友』およびその加入団体を事例に」という題目で、日本国際政治学会編の政治学雑誌である『国際政治』に投稿し、論文は当雑誌の第142号に掲載された。さらに、平成18年3月20日、中央大学ドイツ学会研究会にて、「ドイツ環境NGOの国際連携プロセス」という題目で研究発表を行ない、とくにドイツの事例に焦点を当ながら、研究成果の一部について報告した。
著者
八木 正
出版者
金沢大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1988

建設産業は今まで、その主要な労働力として出稼ぎ労働者と寄せ場日雇労働者に依存してきた。しかし最近では、出稼ぎ労働者は高齢化などにより激減しており、その分だけ寄せ場日雇労働者への依存率を高めつつある。しかも若者の間に、「危険、汚い、きつい労働」への忌避が広まっている現状では、大型プロジェクトを遂行するためには、いやが上にも寄せ場労働者に対する需要は高まらざるをえない。全般的な「人手不足」時代を迎えたこともあって今、「寄せ場」は空前絶後の好景気に沸きかえっている。このような有利な諸条件の中で寄せ場労働者の賃金は高騰し、かつて出稼ぎ労働者との間にあった賃金格差は完全に逆転している。現状では、日雇労働者の賃金相場が、出稼ぎ賃金をリ-ドしている。その結果、高齢の出稼ぎ労働者の中には、企業の雇用条件が悪いために、日雇労働者となって働いているという注目すべきケ-スも表れてきている。このような状況から、部分的には出稼ぎ労働者と寄せ場労働者との関係が逆転している現象もあるが、基本的な地位関係までも覆しているわけではない。出稼ぎ労働者を主要に雇用している中堅企業と、日雇労働者を主要に雇用している零細企業との間にレベルの格差があるからである。また一般に建設企業は、寄せ場労働者と較べると相対的に安定している、勤勉な出稼ぎ労働者の雇用を優先させ、比較的安定した労働条件を与えるからである。「飯場」は今や、少なくとも表向きには完全に死語と化している。今では、「作業員宿舎」と呼ばれている。その実態もかなり変化している。地価の高騰もあって、大型化すると共に、個室化が進んでいる傾向が見られる。この面でも、出稼ぎ労働者の宿舎個室の改善は目覚ましく、中には冷暖房のついている部屋を用意しているところもある。ちなみに、出稼ぎ労働者の賃金は、需要供給の関係から「東高西低」型となっている。
著者
松岡 久和 木南 敦 潮見 佳男 藤原 正則 平田 健治 川角 由和 中田 邦博 森山 浩江 多治川 卓郎 油納 健一 渡邊 力 山岡 真治 廣峰 正子 吉永 一行 瀧久 範 村田 大樹
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2008

各人がおびただしい数の関連業績を研究成果として挙げ、それを基礎に共同研究として、民商法雑誌に2度の特集を組んだほか、ヨーロッパにおける不当利得法の比較の概観につき飜訳を発表した。こうした比較法の動向の研究をふまえ、日本私法学会第75回大会において、シンポジウム『不当利得法の現状と展望』において、成果を学会に問う形でまとめた。
著者
能見 勇人
出版者
大阪医科大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

マウスアロ臓器移植モデルからマクロファージ(Mφ)抑制実験の正確な結果を得るためには予想以上の時間的を要することが判明したため、有効な結果を得るため、まず細胞レベルの移植モデルで解析を先に行った。C57BL/6マウスにCTL抵抗性の細胞であるMeth A腫瘍細胞(MA)を3×10^6個、腹腔内移植するとアロ腫瘍細胞であるMAは約14日で完全に拒絶される。この急性拒絶に働く腹腔浸潤細胞の細胞傷害活性の中心はアロ活性化Mφ(AIM)であことは以前にも報告した。今回ドナー側にGFP蛍光蛋白のトランスジェニックしたC57BL/6マウス(GFPマウス)を使用し、GFPマウス由来のAIMが標的細胞を噛み切るように傷害する様子を蛍光顕微鏡下に撮影し動画的に連続撮影することに成功した。(GFP-AIMは蛍光を発するため、ドナー側の細胞であることが容易に確認できる。)GFP-AIMにより噛み切られたMA細胞は細胞内容を細胞外に噴出するように破壊され、細胞膜が遺残物のように残ることが判明した。Mφがアロの細胞を噛み切るように傷害することは画期的な発見でこれを明確に裏付けできた。しかし、このAIMの攻撃が、アロに対する攻撃効果であるのか、MAが腫瘍であるから攻撃しているのかを鑑別する必要であることが判明したため、まだ断定的なことが言えない状態である。このため、腫瘍に反応するAIMを除いた後、残ったAIMにおいて現在噛み切り機構ににつき再度観察を繰り返している。並行して、このGFP-AIMは癒着性の高い細胞であることから、(1)癒着性の高い細胞を取り出し、これがターゲットMAを攻撃することにより、変化する様子を蛍光下に各14時間以上連続撮影して、精査中である。またMφの活動を抑制すると考えられるトラニラストを各濃度(3μM~300μM)存在下にAIMの変化を(1)と同様に観察しているが、これに関しても今のところは決定的な効果の検出には至っていない。推測ではトラニラストは活性化された後のAIMに作用するのではなくAIMが活性化段階に作用するものではないかと考え次に調査する予定である。
著者
能見 勇人
出版者
大阪医科大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010-04-01

アロ拒絶のeffector細胞は、キラーT細胞(CTL)やNK細胞であるとされてきたが、CTLでは説明がつかない事象も報告されている。我々は、マクロファージ(Mφ)が活性化されeffectorとなることを示してきた。マウス腹腔内にアロ移植したMeth A腫瘍細胞が拒絶される際のEffector細胞の分画がNK1.1陽性よりMφの表面マーカーとされるMac1陽性分画に細胞障害活性が高いことを確認した。また、Meth A細胞に対する抗体をin ivtroで追加するとアロ移植後の腹腔浸潤細胞の細胞障害活性がやや高くなることからもMφがeffector細胞であること示唆する結果を得た。
著者
菅 弘之 入部 玄太郎 毛利 聡 荒木 淳一 實金 健
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1997

我々は丸ごと心臓における総Caハンドリング量を推定する方法を考案し、正常心のCa動態を明らかにしてきた。不全心においては、筋小胞体から漏れ出たCaが収縮に関与せずに興奮収縮連関に用いられる酸素消費量だけを増加させる(無駄サイクル)ため、従来我々が用いていた方法では、総Caハンドリング量を推定することはできなかった。そこで、我々はこのような無駄サイクルをもつ不全心の総Caハンドリング量を推定する方法を考案し、三種類の不全心に適応して、その方法の是非を検討した。1.ナノモル単位のリアノジンを冠血流に投与すると、左心室のCaハンドリング消費量は減少せずに収縮性が低下する。リアノジン投与後の無駄サイクルは、筋小胞体を介して収縮に関与するCa量の約1.4倍と推定された。2.我々はCa過負荷不全心を作成した。左心室収縮性は40%に減少し、Caハンドリングに費やされる酸素消費量は30%に減少した。しかし、収縮性の酸素コストに変化はなかった。このCa過負荷不全心では筋小胞体を介するCaハンドリング量が増加していることが明らかとなった。そして、無駄サイクルが増加しているか、正常時に比べてトロポニン結合Ca量が左心室収縮性に反映されなくなっている(Caリアクティビティの低下)か、その両方であるかの可能性が示唆された。3.虚血後再灌流心(スタンド心)では収縮性が低下し、収縮性の酸素コストは2倍であった。筋小胞体を介するCaハンドリング量は減少しており、無駄サイクルとCaリアクティビティ関係から、Caハンドリングに費やされる酸素消費量は収縮性の増加を伴わず浪費される方向にシフトしていることが明らかとなった。これらの結果から、我々が考案した新しい方法は無駄サイクルをもつ不全心にも適応可能であることが示唆された。
著者
落合 俊典 赤尾 栄慶 梶浦 晋 後藤 昭雄 辛嶋 静志 衣川 賢次 デレアヌ フロリン STEFANO Zacchetti 金水 敏
出版者
国際仏教学大学院大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2000

平成12年度より開始され、平成15年度をもって終了した「金剛寺一切経の基礎的研究と新出仏典の研究」では、4ヶ年間に79回の現地調査を実施し、19回の新出仏典研究会で真摯な討論を重ねてきた。この他に諸機関・諸寺院等の調査はもとより、国内外での研究発表も行い活発な研究活動を展開した。その結果、金剛寺一切経の概要を示す目録(暫定版)を完成させ、新出仏典の翻刻とその資料的価値を確定させることができた。一切経の奥書から中世における河内長野近在の書写事業の一端が明かとなった。また書写する人々は奈良写経を尊崇していたことも分かってきた。本研究は従来の一切経調査では試みられなかった現行本との照合を行うとともに、今後の研究の一層の発展を期して一切経のカラーデジタル撮影に取り組んできた。かくして金剛寺一切経4,000余巻の内、1,123巻を撮影しDVD2枚に収録した。その数26,500コマである。この方法に基づいて多くの新知見が得られただけではなく、新たな新出仏典も発見された。その一つは中国の五世紀前葉、鳩摩羅什等によって翻訳された『十誦律』に基づく在家信者のための手引き書であり、これも新出安世高訳『十二門経』と並んで非常に貴重な資料となるであろう。