著者
藤吉 康志
出版者
名古屋大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1992

雪片を灯油中で融かすことにより、個々の雪片が融解する際に、どのような粒径分布の水滴を形成するかを測定した。その結果、平均的には、雪片の質量が増大するにつれて、ほぼ直線的に生成される水滴の個数が増大することが明らかとなった。これは、本研究によって世界で初めて明らかとなった事実である。雪片の質量の増加によって、急激に分裂する水滴の個数がふえるため、生成される水滴の平均粒径は、雪片の質量が増えるにつれて逆に減少することも明らかとなった。また、生成される水滴の粒径分布を調べると、質量の大きな雪片ほど相対的に小さい粒径の水滴を作りやすいことが示された。雪片の最大粒径、雪片の断面積、雪片の凹凸度、雪片のモーメントと生成された水滴の個数との関係をしらべると、数多くの水滴を生成する雪片は、最大粒径、断面積、凹凸度及び質量が大きいが、しかし、これらの値が大きいからといって必ずしも数多くの水滴が生成されるとは限らない(必要ではあるが十分条件ではない)ことが明らかとなった。各特徴量との間の相関を調べると、凹凸度と断面積、及びモーメントと質量との間にはほとんど相関が無いことが分かる。即ち、雪片がどの程度複雑な形をとり得るかは、雪片の大きさによらないということが分かる。言い換えれば、雪片が大きかろうと小さかろうと、その形は等しく複雑であると言える。また、重い雪片(あるいは大きな雪片)であるからと言って、中心部に質量が集中しているとは限らず、逆に、軽に雪片(あるいは小さな雪片)であるからと言って質量が一様に分散しているとは限らないことを意味している。モーメントも凹凸度も、何れも空中での雪粒子の併合様式に関係した値である。従って、雪粒子の併合様式は、その大きさや重さによらないランダムな現象であることが示唆された。
著者
鈴木 増雄 野々村 禎彦 羽田野 直道
出版者
東京大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1996

我々は「量子解析」と呼ばれる新しい数学を導入した。これは演算子の演算子による微積分学である。まず、Banach空間で演算子を引数とする関数を演算子で微分することから出発する。量子解析によると、Banach空間の演算子Aについてdf(A)=(df(A))/(dA)・dA (1)としたとき、この演算子微分は(df(A))/(da′)=∫^1_0f^<(1)>(A-tδ_A)dt (2)の形で表わされる。ここで、f^<(n)2>(x)は通常の意味での関数のn階微分、またδ_Aは内部微分で、次式で定義される:δ_AQ=[A,Q]=QA-QA.強調したいのは、式(1)においてdf(A)/dAは単に演算子dAを変形する超演算子ではなく、括りだされた形でコンパクトに式(2)のように表わされている点である。演算子微分を導入する方法は何通りかある。シフト演算子S_A(B):f(A)→f(A+B)を導入すると、代数学的に定式化することができる。この方法により、演算子の関数のLaurent級数を定義することができる。他にも、補助演算子{H_j}を導入する定式化もある。これを用いると、多演算子関数f({A_j})の微分も容易に定義できる。ここで、補助場演算子は以下の3条件を満足するように定める:(i)[H_j,H_k]=0,(ii)j≠kに対して[H_j,A_k]=0,(iii)[H_j,[H_k,A_k]]=0.我々はこの量子解析を、演算子の積公式を導くのに用いた。これにはlog(e^<zA>e^<xB>…)を自由Lie代数の要素(つまり交換関係)で展開するのが必要である。量子解析からこの展開係数があらわに計算できる。また、Dynkin-Specht-Weverの定理の拡張を与えた。この定理は上のような展開係数を求めるのに従来使われてきたが、その方法と我々の新たな方法との関係を明らかにした。このような議論は時間依存するハミルトニアンの時間発展演算子にも適用することができる。更に、量子解析をBanach空間だけでなく上に有界でない演算子についても定式化した。これを用いて、久保の線形応答理論やZubarevの非平衡統計力学の理論を新たな視点から再定式化した。非平衡散逸系のエントロピー演算子を自由Lie代数の要素で表わすことに成功した。
著者
野崎 中成
出版者
大阪歯科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

:分化ポテンシャルの高い幹細胞を利用して、自己の生体組織を再生修復する新しい治療法が試みられている。これら幹細胞を用いた再生医療は移植に代わる治療法として社会的なニーズがある。本研究課題では、幹細胞のソースとして歯髄に存在する幹細胞に着目し、幹細胞の多分化能を分子レベルで解析した。歯髄に存在する幹細胞の有用性を明らかにし、その可塑性を利用した再生医療のための基礎となる研究を展開した。
著者
八十島 安伸 小林 憲太
出版者
福島県立医科大学
雑誌
特定領域研究(C)
巻号頁・発行日
2001

運動制御における大脳基底核神経回路の間接路の役割を探るために、中継核の一つである視床下核(subthalamic nucleus,STN)に着目した。イムノトキシン細胞標的法を適用できるように、ヒトインターロイキン2受容体αサブユニット(IL-2Rα)タンパクをSTN細胞に発現する遺伝子変異マウス(NPIGマウス)を作製し、導入IL-2Rαを抗原として特異的に認識するanti-Tac-(Fv)PE38抗体(イムノトキシン、IT)をNPIGマウスの片側STNに微量注入したところ、STN細胞の特異的な脱落・破壊が認められた。NPIGマウス片側STNへのIT注入処理後、新奇環境に呈示すると、IT処理を受けた大脳半球の反対方向(破壊反対側方向)への自発的な回転運動が生じた。野生型マウスにIT処理を行っても、回転運動は生起しなかった。同一NPIGマウス群にドーパミン非選択的作動薬であるアポモルフィン(APO,2mg/kg)を皮下投与すると、回転方向が破壊同側方向(ipsiversive)へ逆転した回転運動を示した。片側STNにIT処理を行った同一NPIGマウス群を飼育室・ホームケージ環境で回復させ、IT注入操作の28日後以降に自発的な破壊反対側方向への回転量とAPO誘導性の破壊同側方向への回転量を測定すると、両者は有意に減弱することを認めた。また、自発的な定位運動・APO誘導性の定位運動も減少した。ドーパミンD1もしくはD2受容体の各選択的作動薬の単独投与では、APO投与時に認められた回転方向の逆転現象は認められなかった。STN選択破壊によるSTN機能不全は、ドーパミン刺激による運動亢進作用に対して障害が認められたことから、本研究は運動制御における大脳基底核の間接経路の独自機能の解明について示唆を与えると期待できる。
著者
権藤 克彦
出版者
東京工業大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2002

前年度まででスライサとビジュアライザの基本的な研究・開発は終了した.本年度は,我々が開発したANSI C用XMLマークアップ言語であるACMLの応用と,昨年度までの研究で判明した「XMLを用いたソースレベルのデータ統合方式」の欠点をより解明・解決する研究を行った.1.ACMLを用いたプログラム情報抽出システムAXESの設計.昨年度までで実現したスライサとビジュアライザをさらに進めた応用事例として,構文要素を用いたパターン(例えば,@if($exp=$exp){})を与えることで,ソースコードの一部を検索できるプログラム情報抽出システムの設計を行った.この機能は,例えば既存のクロスリファレンサ(例えば,GNU GLOBAL, LXR, SPIE, Cxref)にない機能であり,ソースコードに対するより高度で柔軟な検索を可能とする点で意義が大きい.2.DWARF2デバッグ情報を用いたバイナリレベル・データ統合方式の評価.ソースレベルのデータ統合方式は,コンパイラの独自拡張や規格の未規定動作への対応が困難であることが判明したため,昨年度からバイナリレベルのデータ統合方式の設計・実装を開始し,本年度は本方式を用いて実装したクロスリファレンサやコールグラフ生成系の性能や開発効率の評価を行い,本方式の有効性を明らかにした.特に,組込みソフトウェア分野など,本質的にC言語が必要なソフトウェアに対しても本方式が有効であること,一部に不完全なデータ統合を許す「軽量なデータ統合方式」が有用であることを示した.
著者
島内 節 清水 洋子 福島 道子 佐々木 明子 中谷 久恵 河野 あゆみ 田中 平三 亀井 智子 林 正幸 丸茂 文昭
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1998

平成10年度〜12年度にかけて「在宅ケアにおける基本的な日常生活行動の自立支援のためのケアプランと評価方法」について研究を行った。平成10年度に日常生活行動の自立を可能にする条件を分析した。結果は2ヵ月で改善可能な内容は着替え、服薬行動、痛み、介護者の心身の疲労であった。同年にケアプランの実施の有無とプラン修正によるニーズ解決を分析した。その結果、ニーズ解決率の高い順位は(1)ケアプランを必要に応じて修正し実施、(2)ケアプラン実施、(3)実施しない、の順であること、ケアプランの修正要因は利用者条件、サービス提供条件、ケアマネージャーの順であった。平成11年度には日常生活行動変化のアウトカム項目をアメリカ合衆国のメディケア機関で義務化されていたOASIS(The Outcome Assessment Information Set)を中心に我々が開発していた日本版在宅ケアアセスメント用紙を組み合せて、在宅ケアの評価を行い、それに基づきケアプランを5機関で行った。平成12年度にはアウトカム項目を確定し、自立度変化とケアプロセスの内容、満足度を評価し、プランを立てて実施後に再度アウトカムとプランを評価する方法の開発、サービス提供者の能力開発と組織力向上の評価方法を開発し、マニュアル化した。なお、利用者アウトカムに関しては、フィンランドとの共同研究を行った。
著者
菅村 玄二
出版者
関西大学
雑誌
若手研究(スタートアップ)
巻号頁・発行日
2008

抑うつ時に,直立または後屈の姿勢をとると,抑うつが低減するが,前屈の姿勢では低減しなかった。また姿勢は変えずに,視線のみを変えると,下向きは正面や上向きに比べて,抑うつ気分を増加させた。さらに,前屈は直立や後傾姿勢と比べて,感情状態もネガティブにさせるだけでなく,前頭前野の賦活度も低下させることが判明した。将来的にはうつ予防やうつに対する臨床的技法につながりうる成果であるといえる。
著者
上山 邦雄 かく 燕書 呉 在〓 張 淑英 王 振中 王 保林 金 基燦 金 顕哲
出版者
城西大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

日中韓研究者による本格的な研究体制を構築した上で、主として、日中韓3国の自動車および電機産業の工場や研究開発拠点を訪問し、競争力構造の現状を解明した。日本企業は、特に技術面では、依然として競争優位を保っているものの、ますます重要性を増している途上国市場への戦略構築に成功したとはいえない。それに対し、韓国企業はウォン安もあり確実にグローバル市場で存在感を高めており、中国企業は国内市場を中心とした競争力強化に成功しつつある状況を明確にした。
著者
金子 勇 稲月 正 町村 敬志 松本 康 園部 雅久 森岡 清志
出版者
北海道大学
雑誌
総合研究(A)
巻号頁・発行日
1993

現代都市で高齢化が進むにつれて、そこに生きる高齢者の多くかできるだけ長く社会との関わりを持とうとしている。それが自分自身の近未来の幸せであるという意識である。年金が遅く支給されることが高齢者を仕事に駆り立てるのではなく、主な理由は生きがいと健康のためにある。社会参加のキッカケとしての仕事から離れると、高齢者がそれを見付けることは困難なので、できるだけ自分を生かせるものならば何でも行なっているのが現状である。それは高齢者が「後期高齢者」の介護をすることまでも含む。調査結果からみると、高齢者のほとんどがとにかく熱心に社会との関わりを探すライフスタイルを採っていた。だから、退職の年齢になっても、高齢者はできるだけさまざまなルートで社会参加の道を探し、公的な雇用や伝統的な雇用関係にとどまらない。たとえその仕事が自分の現役時代のそれより評価が低くても、十分な満足が得られない報酬であっても、高齢者は一生懸命に探しだした仕事に取り組む。日本の都市では、自営業の経験は地域社会との関わりを必然的にもたらすので、この特徴を生かすことから地域社会での参加の方向を考え直すことができる。なぜなら、地域社会での役割活動の評価は特に高くはないが、ゆるやかで融通がきくことも長所に数えられるから。今回の高齢者ライフスタイル調査研究からは、その興味深い生活史に支えられたさまざまの人生観から多くの生き方が学べた。そのうえで、高齢者にとって、経済的な理由からの社会活動としての職業参加を超えて、健康の維持や生きがいさらには残り20年の積極的な人生のためにも、働く、役割をもつ、経験する、一緒に何かを行なうことなどの一連の行為の重要性が解明された。
著者
鶴田 滋
出版者
九州大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

通常共同訴訟や必要的共同訴訟の成立根拠とそれらの審判規律は密接に関連しているのではないかという視点から、日本民事訴訟法における共同訴訟の成立要件と手続規律を、ドイツ法およびオーストリア法と比較しつつ明らかにした。たとえば、通常共同訴訟は訴訟経済のためにあるため、通常共同訴訟全体に主張共通の原則を認めるべきではないこと、固有必要的共同訴訟における合一確定の必要性は、共同訴訟の必要性から生じるため、職権調査事項であり、それゆえ不利益変更禁止の原則に優先することなどを明らかにした。
著者
今村 展隆 ZHAVORONOK S 蔵本 淳 木村 昭郎 ZHAVORONOK Sergey v.
出版者
広島大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1993

1986年のチェルノブイリ原子力発電所事故により原子炉中の37エクサベクレル(EBq)の放射性物質の1/10、3.7EBq(約1億キュリー)が環境に放出され、その大半は^<133>Xeや^<85>Krなどの希ガスであり、従って広汎な環境汚染を招来した。現在の重要な被曝経路は、地上に蓄積された放射性物質からの外部被曝と、食品を通じて摂取する内部被曝で、主な核種は^<137>Csである。Vitebskはベラル-シの北西部に位置する地区であり、チェルノブイリ原子力発電所事故による放射能汚染が最も少ない地域とされている。又、ビテブスクには放射線に被曝し、避難した多数の人々が居住している。従って非汚染地区であるビテブスクにおいて、白血病発症の増加が認められる様になればチェルノブイリ原発事故に基ずくものと推考し得ると考え、本研究を実施した。ビテブスクにおいて、チェルノブイリ原発事故(1986年)前後の急性白血病発症率(人口10万名対)は3.29(81)、1.09(82)、2.45(83)、3.34(84)、1.09(85)、1.53(86)、1.61(87)、1.08(88)、2.60(89)、2.39(90)、2.05(91)、1.43(92)とほぼ同様で増加は認められていない。また慢性リンパ性白血病に関しても6.59(81)、5.92(82)、6.35(83)、8.14(84)、4.16(85)、8.09(86)、7.98(87)、6.48(88)、2.69(89)、2.21(90)、2.94(91)、3.13(92)とほぼ同様であった。多発性骨髄腫も2.0(81)、1.27(82)、1.36(83)、0.99(84)、0.81(85)、1.08(86)、1.26(87)、1.08(88)、1.53(89)、0.88(90)、0.62(91)、1.16(92)と同様であり、多血症も1.55(81)、1.18(82)、1.91(83)、2.08(84)、0.72(85)、2.43(86)、2.42(87)、2.16(88)、1.44(89)、0.44(90)、0.53(91)、0.99(92)と同様であったが、低形成性貧血は1.28(81)、0.73(82)、0.91(83)、1.27(84)、0.36(85)、1.08(86)、0.72(87)、0.72(88)、0.81(89)、0.53(90)、0.36(91)、0.18(92)と低下傾向を示した。一方、小児(14歳以下)の急性白血病発症率も4.1(81)、2.4(82)、3.8(83)、1.7(84)、2.7(85)、2.4(86)、4.8(87)、5.4(88)、5.0(89)、4.6(90)、1.6(91)、4.0(92)とほぼ同様であった。成人は1992年度に16名の急性白血病を発症しており、慢性白血病は35名の発症を見た。一方、小児(0-14歳)は1992年に13名が急性白血病を発症している。小児における白血病発生率は事故前の1979〜1985年で39、事故後の1986〜1991年で42(小児人口百万対)であった。ベラル-シ全体では各々40.7及び41.3であり、統計学的有意差は認められていない。又、最汚染地区であるゴメル、モギリョフにおいても事故前各々35及び48であったものが事故後40及び41であり、統計学的有意差は認められなかった。以上の事実より、放射線被爆により最も誘発されやすい小児の白血病発症率は現在までの所、チェルノブイリ事故によってほとんど影響を受けていないといえる。一方、ビテブスクに居住中の事故後の消火作業、放射性物質除去作業に従事した人々(Liquidator)においては、現在までに5名の急性骨髄性白血病(AML)症例及び1症例の真性多血症を確認した。FAB分類では3例のAML,M1、1例のAML,MO、1例のAML,M6であった。発症数は1988年2名、1989年2名、1990年、1991年各々1名であり全例死亡している。Liquidator数は年々増加し、1986年2914名であったが、1987年1289名、1988年561名、1989年608名、1990年60名ずつ移住しており、合計5441名である(1994年12月末現在)。発症率を人口百万対に換算すると、1988年420、1989年372、1990年184、1991年184と明らかに高率となっている。現在すべてのLiquidatorに関する資料を集積しており、各個人の健康診断を施行している。これらの集団の注意深い観察が必要と考える。
著者
野口 恵美子 内田 和彦
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

スギ花粉症発症および治療効果に関連する遺伝子タンパク質を同定する目的でマイクロアレイおよびプロテオミクスを用いて網羅的な遺伝子発現タンパク質解析を行った。マイクロアレイ解析ではIL17RBが花粉暴露時に花粉症患者で高発現となっていることを見出した。またスギ花粉症舌下免疫療法により特異的に増加するタンパク質としてアポリポプロテインA4を同定した。
著者
山本 晃士 松下 正 小嶋 哲人
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

肥満・糖尿病のモデルとして遺伝的肥満マウス(ob/obマウス)を用い、血栓傾向の分子メカニズムを検討した。肥満マウスでは、対照マウスと比較して血中PAI-1抗原量は数倍に上昇しており、組織におけるPAI-1 mRNAの発現増加も認められた。もっとも顕著だったのは脂肪組織で、血管平滑筋細胞、血管内皮細胞、脂肪細胞等においてPAI-1 mRNAの発現が著明に増強していた。また肥満マウスでは外因系凝固の起始因子であるTFの発現も亢進していた。このTF mRNA発現増加も脂肪細胞自体によることがわかったが、脂肪組織内の血管を構成する細胞(血管外膜細胞)においても発現の増強が認められた。PAI-1に加えてTFの発現増加が、肥満個体における凝固亢進状態を増幅しているであろうと推測された。さらに、脂肪組織におけるPAI-1およびTFの発現を強力に誘導するTGF-βの発現自体も、肥満マウスの脂肪組織では週齢依存的に増加しており、血栓傾向を増悪させるTGF-βのメディエーターとしての役割は非常に重要であろうと考えられた。一方、肥満マウスに心因性ストレスを負荷し、線溶阻害因子PAI-1の発現と組織内微小血栓形成について解析を行った。肥満マウスおよび対照マウスを50ml用チューブ内に閉じ込めて拘束ストレスを負荷すると、肥満マウスではストレス負荷2時間後に早くも著明な血中PAI-1抗原量の上昇と組織におけるPAI-1 mRNAの発現増加を認めた。特に、脂肪組織や心臓、腎臓におけるPAI-1 mRNA発現は対照マウスに比べて顕著に増加していた。この傾向は20時間という長時間ストレスでも同様であった。また、このPAI-1 mRNA発現は腎糸球体の内皮やメサンギウム細胞、心筋内微小血管内皮細胞、脂肪細胞等に一致して認められた。さらにストレス負荷後の肥満マウスでは腎糸球体微小血管内にフィブリン沈着を認めたが、対照マウスでは認めなかった。以上より、肥満およびインスリン抵抗性を有する個体ではストレス負荷によってPAI-1遺伝子発現が著明に亢進し、これが組織内微小血栓形成を促進するひとつの原因と考えられた。これらの研究成果は、肥満・糖尿病患者における血栓症発症の病因・病態を考える上で重要な知見と言える。
著者
西川 元也 高倉 喜信
出版者
京都大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2009

細胞を利用した治療法の効果増強を目的に、体外から投与した細胞の体内動態を精密に制御することのできる新規方法の開発を試みた。前年度までに確立した細胞の体内動態評価システムを用い、マウス線維芽細胞株NIH3T3の体内動態に及ぼす各種処置の影響について定量的に評価した。まず、投与経路・部位の影響について評価するために、細胞懸濁液を種々の臓器に注入し、その後の体内動態を経時的に追跡した。その結果、細胞の体内動態ならびに生存期間は投与部位に大きく依存することが示され、中でも脂肪組織や骨格筋に投与した場合に長期間生存することが明らかとなった。一方、マウスの全層皮膚欠損に対する細胞治療を目的とした検討では、NIH3T3細胞を損傷皮膚表面に滴下、あるいは近傍に皮内注射した場合には非常に速やかに消失した。また、GFPトランスジェニックマウス由来骨髄細胞を用いて同様の検討を行ったところ、骨髄細胞でも同様の傾向が認められた。このとき、静脈内投与でも損傷部位への集積が観察され、損傷が速やかに修復する傾向も認められた。組織内に注射により投与した場合には、投与された細胞近傍では血流が乏しく、酸素供給が不十分である可能性がある。低酸素条件下においては、低酸素誘導性因子HIF-1の安定化が生じたり、活性酸素生成が亢進することが報告されている。そこで、酸化ストレスの抑制を目的に、過酸化水素を消去するカタラーゼで細胞を処理したところ、移植後の残存細胞数が有意に増加した。従って、移植細胞の急激な消失を抑制するには、カタラーゼ誘導体などにより酸化ストレスを抑制することが有望であることが示された。
著者
野村 慎一郎
出版者
京都大学
雑誌
若手研究(A)
巻号頁・発行日
2007

本研究の目的は,環境条件による相分離を利用した新規リポソームDDS(薬剤送達システム)の開発である.研究代表者はリポソーム内で無細胞タンパク質合成を行わせることにより,目的のタンパク質のみを発現させたリポソームが構築可能であることを示してきている.最近,細胞間で相互の物質輸送を担う膜タンパク質・コネキシンをリポソーム膜に発現・提示しうるとの実験結果を得た.この結果を利用し,細胞へのDDSへの利用可能性を求めた.サイズおよび組成の異なるリポソーム環境で膜タンパク質を組み込み,培養細胞に水溶性蛍光色素を非破壊的に輸送することに成功した.またペプチド薬剤をモデルとして細胞内に輸送し,細胞内の遺伝子発現の制御が可能であること,異なるタイプのコネキシンの発現により標的選択性が得られることを示した.
著者
綾野 絵理
出版者
東京慈恵会医科大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

外部温度変化に応答し、その構造・性質を変化させる機能性ポリマー、poly(N-isopropylacrylamide)(PNIPAAm)と生分解性ポリマーであるPLA(ポリ乳酸)を用いて、薬物放出制御機能・ステルス性を備えた新しいナノ粒子製剤を開発した。ナノ粒子を細胞へ取り込ませたところ、相転移温度を境に取り込みのON-OFFが確認されたことから、人体に影響の無い程度のわずかな温度変化で取り込みの制御が可能であることが示された。このナノ粒子の実用化により、少ない投与量による副作用の軽減、高いQOLを目指せる製剤となることが期待される。
著者
横山 泰 生方 俊
出版者
横浜国立大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2007

フォトクロミズムに伴って生成する二つの安定な状態が、可視部に吸収を持たないような熱不可逆ステルスフォトクロミックシステムを、短段階の合成経路で合成した。さらに、100%のジアステレオ選択性で光環化するジアリールエテン、非常に高い量子収率で光環化するビスチアゾリルインデノン誘導体の合成を行った。また、スピロオキサジンの光着色体から無色体への熱戻り反応を架橋ポリシロキサンにペンダントして行うと、溶液中同様の速い速度で戻ることを示した。
著者
黒田 俊一
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2009

我々は B 型肝炎ウイルス(HBV)表面抗原 L タンパク質粒子が中空ナノ粒子であり、ヒト肝臓特異的に感染できる性質を有することを利用して、非ウイルス性DDS ナノキャリア「バイオナノカプセル(BNC)」を開発した。マウス静脈内に投与されたBNC は細網内皮系(RES)に富む臓器を避けつつ、標的組織まで効率よく到達することができた。本研究では、ナノ医薬品の表面をアルブミンでコートすることにより血中半減期を延長することができることから、我々は BNC 表層にある重合血清アルブミンレセプター(PAR)がマウス肝臓の RES を回避するのに有効であることを証明した。その結果は、BNC のみならず HBV が、本来 RES回避機構を有することを強く示唆していた。そこで、PAR ペプチドの表面修飾は、次世代ナノ医薬品の薬物動態および薬物力学の改善に貢献する新しい方法であるのかもしれない。
著者
佐藤 衆介 瀬尾 哲也 植竹 勝治 安部 直重 深沢 充 石崎 宏 藤田 正範 小迫 孝実 假屋 喜弘
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2004

1.行動変化を指標とした家畜福祉飼育総合評価法の開発:ドイツ語文化圏で使用されている家畜福祉総合評価法であるANI(Animal Needs Index)法を我が国の酪農及び肉牛生産に適用した。そして本法は、放飼・放牧期間に偏重していることを明らかにした。さらに、(1)改良ANI(Animal Needs Index)法並びに家畜福祉の基本原則である5フリーダムスに基づいた飼育基準を作成した。(2)評価法改良のため、身繕い行動並びに人との関係の指標である逃走距離に関する基本的知見を収集した。(3)福祉評価においては、動物の情動評価も重要であることから、ウマを使い、快・不快に関する行動的指標を明らかにし、それは飼育方式評価に有効であった。2.生理変化を指標とした家畜福祉飼育総合評価法の開発:ニワトリの脳内生理活性物質のうちエンドルフィン(ED)が快情動の変化を捉えるのに適していること、またEDがMu受容体を介してストレス反応の調節にも関与することを明らかとした。また、輸送時の福祉レベルを反映する免疫指標を検索し、末梢血のNK細胞数やConA刺激全血培養上清中のIFN-γ産生量が有用であった。3.家畜福祉輸送総合評価法の開発:RSPCAの福祉標準に基づき、我が国の家畜市場に来場する家畜運搬車輌を対象に、福祉性評価を実施した。また、国内における子牛の長距離輸送および肥育牛の屠畜場への輸送について、行動・生理・生産指標に基づくストレス評価を行った。RSPCAの標準に基づく評価では、国内の運搬車輌は概ね福祉的要件を満たしていたが、一部、積込路の傾斜角度とそこからの落下防止策に改善の余地のあることが明らかになった。国内輸送時のストレス評価では、明確な四季を有する我が国では、季節により牛に対して負荷されるストレス要因が異なることが確認され、季節に応じた福祉的配慮が必要であることが示された。
著者
藤井 讓治 杣田 善雄 中野 等 早島 大祐 福田 千鶴 堀 新 松澤 克行 横田 冬彦
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2006

本研究は、織豊期の主要人物、織田信長・豊臣秀吉・豊臣秀次・徳川家康・足利義昭・柴田勝家・丹羽長秀・明智光秀・細川藤孝・前田利家・毛利輝元・上杉景勝・伊達政宗・石田三成・浅野長政・福島正則・片桐且元・近衛前久・近衛信尹・西笑承兌・大政所・浅井茶茶・孝蔵主について、その居所と行動を、当時の日記と厖大に残されている多くは無年紀の書状をもちいて確定したものである。その成果は、この期の政治史・文化史研究の基礎研究として大きな意味をもつ