著者
許 南浩 阪口 政清 片岡 健
出版者
岡山大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

REIC/Dkk-3発現アデノウイルスベクター(Ad-REIC)のスキルス胃癌への適用スキルス胃癌は進行が早く腹膜やリンパ節に転移しやすい難治性のがんの一つである。現在、本がん種を標的とした有効な治療法がない。本年度では、Ad-REICのスキルス胃癌への有効性を検討する目的で、胃がん腹膜播種動物モデルを新規に開発した。Ad-REICを服腔内に投与したところ、胃がん細胞株の腹膜播種の有為な抑制が観察された。これは、Ad-REICの直接効果(がん細胞特異的細胞死誘導)とAd-REICにより誤標的された正常細胞を介した間接効果(正常細胞がIL-7を産生してNK細胞の活性化を誘導)によることが明らかとなった(論文準備中)。Ad-REICの改良Ad-REICによるアポトーシス誘導作用を高めるために、強力な遺伝子発現システムを独自に開発した。結果、従来のプロモーター(CAGやCMV)を用いた遺伝子発現システムに比較して顕著な遺伝子発現増強効果(各種遺伝子で、100倍から1000倍)が達成された。このシステムをAd-REICに組み込むことにより、現存のAd-REICを上回る治療効果が期待できる(論文準備中)。分泌REIC/Dkk-3タンパク質の機能の解明分泌型REIC/Dkk-3も免疫系を介した間接的抗腫瘍効果を示す。REIC/Dkk-3の発現組織と分泌されたREIC/Dkk-3を積極的に取り込む細胞の同定を行ったところ、分泌されたREIC/Dkk-3は末梢血単球の樹上細胞様細胞への分化・増殖を制御している可能性が示唆された。REIC/Dkk-3ノックアウトマウスの作製癌抑制遺伝子REIC/Dkk-3の主要ドメインであるEXON 5、6を全身性にノックアウトしたマウスの作成を行っていたが、2009年10月に、ホモノックアウトマウスの作成に成功した。
著者
河村 公隆 渡辺 興亜 中塚 武 大河内 直彦
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1997

本研究では、グリーンランド(Site-J)で採取した氷床コア中に生物起源の脂肪酸を検索し、炭素数7から32の脂肪酸を検出した。海洋生物起源の脂肪酸(C_<12>-C_<18>)の濃度は、1930-1950年代に高く1970年代にいったん減少した後、1980年代に増加することがわかった。濃度増加が認められた時代は、温暖な時期に相当しており、この時期には海氷の後退と低気圧活動の活発化によって海水表面からの大気への物質輸送が強化されたものと考えられる。また、シュウ酸(炭素数2のジカルボン酸)から炭素数11までのジカルボン酸を検出した。ジカルボン酸の炭素数分布の特徴は、コハク酸(C_4)がほとんどの試料で優位を示したことであったが、19世紀以前は優位でなかったアゼライン酸(C_9)が20世紀になって急激な濃度増加をし、1940年代に大きなピークを示した。アゼライン酸は生物起源の不飽和脂肪酸の光化学反応によって選択的に生成される有機物であることから、この結果は、海洋生物由来の有機物の大気への寄与がこの時期に大きく増加したことを示すとともに、それらが大気中で光化学的に酸化されたことを意味する。南極H15アイスコア中にUCM炭化水素やPAHを検出したことにより、人為起源物質が南極氷床まで大気輸送され、保存されていることが明らかとなった。これらの濃度は1900年以降増加しており、この結果はグリーンランドアイスコアの傾向と一致した。このことから、1900年代以降、全球的に大気中の人為起源物質が増加したことが示唆された。不飽和脂肪酸や低分子ジカルボン酸の組成比から推定された大気の酸化能力は、過去350年間において大きく変動したと考えられる。アゼライン酸とその前駆体である不飽和脂肪酸の濃度比は、1970年代以降急激に増加しており、南極における対流圏の光化学的酸化能力が、1970年代以降、成層圏オゾン濃度の現象に対応して増大している可能性が示唆された。
著者
千秋 博紀
出版者
東京工業大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2004

本研究では、天体衝突によって作られた蒸気の塊(以下衝突蒸気雲と呼ぶ)の内部で進行する化学反応系を、数値的にシミュレーションし、どのガス種が、どれだけ作られるのかを求める。衝突蒸気雲は、形成直後はきわめて高温・高圧だが、急激に膨張・冷却する。高温・高圧の条件下では化学反応の速度は速く、容易に化学平衡が達成される。これに対し、膨張・冷却が進むと、化学平衡はもはや達成されなくなる。従来の研究では、膨張過程のある瞬間で化学反応がクエンチ(停止)すると考え、単純に衝突蒸気雲の膨張のタイムスケールと、ある化学種がかかわる反応のタイムスケールとの比較から、膨張・冷却後の衝突蒸気雲の組成を見積もってきた。本研究では昨年度までに、開発した1次元球対称モデルを用いて得られる結果について、ガス成分の種類や量について議論を重ね、論文の準備を行ってきた。しかし一連の議論の中で、蒸気雲中の化学反応ネットワークは、系全体がサブシステムに細分化されてゆき、サブシステムの中で局所平衡が達成されるように進むことが明らかになってきた。この描像は従来考えられていたものとは異なっており、この性質をうまく使うことでガス種同士の相対存在度から逆に衝突条件を求めることができるようになるかも知れない。ただし、どのガス種組合せでサブシステムを構成するようになるのかは、温度圧力条件(衝突条件)だけでなく、初期組成にも依存する。本研究では今後も、衝突蒸気雲が地球システムに与える影響を議論するための、幅広いパラメタ空間でのシミュレーションなどを続けてゆく。
著者
高橋 庸哉 佐藤 昇
出版者
北海道教育大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2005

1.「雪」に関するコンテンツの拡充セスナー機から撮影した流氷写真・ビデオ、クリオネや降雪粒子のビデオ、ヒグマなどに関するページを制作した。また、「降ってくる雪」中の「ルーペで見てみよう!」コーナーを視覚的なものに改良した。2006年度のトップページアクセス数は11万4千余件であった。2.学校教育現場での実践と内容の妥当性検討雪に関する関するコンテンツを利用した授業等を行い、その内容妥当性の検証を進めた。また、前年度に制作したLAN対応リアルタイム気象データモニタリングシステムを市内小学校4校に展開し、実地試験を進めた。2006年12月に札幌市内小学校の研究授業を行った。3.教育現場でのコンテンツ利用の促進方法の実施雪の学習に関する教員向けセミナーを実施し、全道各地から53名の参加があった。雪たんけん館を活用した模擬授業及び授業作りワークショップ、雪たんけん館やITをどう生かすかをテーマとした討論・講演などを行った。事後アンケートによると、セミナー内容に関する満足度は5段階評価で4.5、参加者の98%が教室ですぐに使える情報があったと答えた。また、天気情報と大気の実験に関する小学校教員ワークショップを企画・実施した。4.コンテンツ利用状況調査札幌市内小学校(209校)を対象としたアンケートを行い、次の結果が得られた:a)Webページ「北海道雪たんけん館」を使った実践を行った学校が12%あった,b)「雪」を教育素材として、どう思うかも問いに対して、70%は取り上げるべきと答えた。また、これまでに4回実施した雪の学習研究会参加者のうち小学校教員にコンテンツ利用状況に関するアンケートを実施した。31%が北海道雪たんけん館を授業で使ったことがある、あるいは同僚が使っているのを見たと答えた。実際に授業で活用し得るコンテンツであることが示された。
著者
川田 邦夫 小林 武彦 船木 實 酒井 英男 広岡 公夫
出版者
富山大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1987

南極氷床などに見られる火山灰を含む汚れ層は、しっかりした自然残留磁化をもっていることが知られており、その磁化の獲得機構を明らかにしようとするのが、この研究である。このため一方で、雪粒子に磁性をもつ岩石粉末を混ぜ、低温室に保持しながら地球磁場による磁化獲得の過程を時間毎に磁化測定と顕微鏡観察を行って調ベ、他方、北アルプス立山にある比較的古い氷体を残す雪渓の雪氷試料について自然磁化獲得の実際を調ベた。実験室の研究では自然雪や人工的にふるい分けした雪などに各種磁性物質の粉末を混入したものを初期試料とし、約-20℃、-10℃、-2℃等の条件下で保持したものを調ベたが、磁性粒子を含む雪氷の磁場方向への磁化獲得の機構は雪氷の変態に伴って磁性粒子がある時期に向きの自由度を持ち、その過程で磁場方向に向いた状態で定着するものという結果を得た。乾雪の場合、雪粒子の結合が丈夫になっていく過程では焼結によって変態が進行するが、最初無方位に弱く付着していた磁性粒子は水分子の表面拡散や昇華による結合部への移動に伴い、雪粒から離れて向きを変える機会を得、外部磁場による力を受けた状態で再付着したり、結合部のくびれた部分などに集まり気味に固定される。このことは少し厚めに製作したアニリン固定法による雪氷試料の薄片観察により確認できた。湿雪の場合、ざらめゆきへの変態となるが、雪粒子表面にある水膜によって磁性粒子は容易に自由度を得る。そして凍結・融解のくり返される中で雪粒同士の結合部のくびれや凹部に強く集合した状態で磁場方向に配向気味に固定されることがわかった。野外の雪渓で採取された試料は中緯度にある氷河や雪渓で見られる湿雪の変態によって氷化に至ったものと考えられる。現段階で詳細な結論までには至っていないが、汚れ層の部位に磁化の集中化が現われていて、氷体の流動に関わる知見を得る可能性をもつ。
著者
永野 元彦 小早川 恵三 政池 明
出版者
福井工業大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2000

超高エネルギー宇宙線を観測する方法として、超高エネルギー宇宙線が大気中で作る空気シャワー中の電子が窒素分子を励起して発する蛍光を、遠く離れた場所に設置した望遠鏡で観測する方法が実施されている。また観測有効面積をより大きくするため、国際宇宙ステーションに望遠鏡を設置し観測するEUSO計画が日、欧、米の共同研究として推進されている。これらの観測で宇宙線のエネルギーを決定するには、大気中での電子による窒素分子の発光効率が基本であるが、十分なデータは存在しなかった。本研究は大気を模したチェンバー内で、電子による発光効率、発光時間の気圧依存性を測定することを目的とする。実験は、放射性同位元素^<90>Sr→^<90>Y→^<90>Zrのβ崩壊を利用して行った。N^+_2及びN_2の主な発光波長315,337,357,381,391,400nmを中心としたバンド幅10nmの干渉フィルターをとりつけた6波長領域で測定をおこなった。本測定中に乾燥空気中の値が従来の結果とかなり差があることが判明したため、乾燥空気中での再測定をおこない、結果をAstroparticle Physicsに投稿した。主な結果は以下のとおりである。(1)バンド幅中に2本のラインが入っている場合には、それぞれの観測光子数と発光時間の気圧依存性から、二成分解析をおこない、計7本のラインにつき発光効率及びその密度、温度依存関数のパラメータを決定した。(2)宇宙線観測に必要な300-410nmでの発光光子数は1気圧、20℃の大気中で、1電子、1mあたり3.75±0.15である。この値はこれまで実験で使用されていた値より17%大きい。(3)この結果を使うと、Fly's EyeやHiRes実験で決めた宇宙線のエネルギーは平均10%大きく見積もっている。
著者
竹野 忠夫 中村 祐二 朱 学雷 西岡 牧人
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1998

現在,大きな環境問題の原因として挙げられるすすに関して,その生成機構および抑制方法は見つかっておらず,未だ不明な点が多い.すすはNOxと並ぶ2大燃焼排出物であり,火炎中のその生成機構を理解することは我々人類にとって重要な課題である.これまでの研究報告によれば,すすはその前駆物質であるPAH(多環芳香族炭化水素)からできるとされているが,PAHの生成機構さえも十分に理解されていない部分が多い.そこで本研究では,対向流拡散火炎中を対象として,数値計算および実験を通じてPAHの生成機構を理解することを目的とする.まず平成10年度においては,約100種の成分と正逆500組の素反応を考慮したHai-Wangにより開発された化学反応機構を用いた数値計算により,PAHの中で最も重要な働きを示すベンゼン生成に関する知見を得た.その結果,C3系の反応物がPAHの基であるベンゼン環の生成に最も顕著であることがわかった.平成11年度においては,対向流拡散火炎中のベンゼンおよびその生成に関わると言われているC3系およびC4系の成分に着目し,それらの濃度測定をGC/MS(ガスクロマトグラフィー/質量分析計)を用いて行った.また得られた実験結果と数値計算で得た知見との比較・検証を行った.その結果,数値計算ではベンゼンおよびC3,C4系炭化水素の量を約半分以下にしか見積もらないことがわかった.また,ベンゼン生成領域は数値計算よりも定温領域に移り,それがすす発生に関係した影響であることも指摘できた.しかしGC/MSで得られる情報もまだ十分ではないので,上記で推測されたすす生成に関する物理を確実に述べるには,実験装置の工夫,または数値計算において別の反応モデルを用い,より総合的な評価をする必要がある.
著者
和田 直也
出版者
富山大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2001

1.前年度得られた成果を、本年度ソウルで開催された国際生態学会で口頭発表した。2.本年度は、周北極植物チョウノスケソウの開花結実繁殖様式を調べる予定であったが、調査地における開花個体数が例年に比較して非常に少なかったため、当初の調査予定を変更し、チョウノスケソウを除くバラ科高山植物の花粉発芽の温度依存性を明らかにすることを第一の目的とした。次に、少数ながら採取できたチョウノスケソウの種子を用い、同科雪田植物のチングルマの種子と比較することで、両種の発芽特性と温度依存性を明らかにすることを第二の目的とした。富山県立山山地で採取したサンプルを実験室内の恒温器で培養・栽培し、以下に示す結果を得た。3-1.周北極植物ではないが、チョウノスケソウと同所的に生育しているバラ科の風衝地高山植物、ミヤマダイコンソウおよびミヤマキンバイと同科雪田植物であるチングルマについて、花粉発芽の温度依存性を調査した。その結果、花粉の発芽率および花粉管の伸長量ともに、風衝地植物であるミヤマダイコンソウは最適温度がともに低く10℃〜15℃であった。それに対し、同科雪田植物であるチングルマは、前年の結果と同様に最適温度が20℃であることが確かめられた。風衝地にも雪田地にも生育しているミヤマキンバイでは、前記両種の中間的なパフォーマンスを示した。これらのことから、風衝地に生育している植物は周北極植物に限らず、花粉の発芽と花粉管伸長の最適温度が雪田植物よりも低く、開花時の低温環境に適応している可能性が示唆された。3-2.周北極植物・風衝地植物であるチョウノスケソウは、低温湿潤処理を行わなくとも種子が発芽することが分かった。チングルマは低温湿潤処理を行わなければほとんど発芽しなかった。また種子の最適発芽温度はチョウノスケソウの方が5℃低かった。30℃以上の高温環境では、チングルマの種子の方が耐性が高かった。以上のことより、花粉および種子の発芽ともに、風衝地植物はより低温環境に雪田植物はより高温環境に適応していることが示唆された。従って、温暖化がそれぞれの種の繁殖成功に及ぼす影響も異なることが予想された。
著者
ブランディ シェリル・リン 内藤 明子
出版者
愛知医科大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2001

1.今年度の調査期間:平成15年6月2.対象者及びデータ収集:今年度は、本研究の最終対象者である私立病院看護部長1名に面接調査を行った。前年度同様、電話連絡及び依頼文書を郵送し、了解を得た後、半構成面接を行った。面接はテープに録音され、研究者によりフィールドノートが記載された。約2年間の調査期間に合計16名の面接調査が終了し、データ飽和状態となり、調査を終了した。3.データ分析及び結果:シャッツマンのグラウンデッドセオリーテクニックをデータ分析に用い、複数のステップを経て中核次元を導いた。次いで、ディメンションの有する特性あるいは特徴について分析し、各次元と特性が、全体像を表す概念(その他すべてを説明しうる性質をもつ次元)になる要件を有すかどうか吟味した。最後の分析段階で、データを、内容、条件、行動、結果からなる説明表に整理した。各次元あるいは概念は、対象者からの実際のデータ、及び看護・管理・フェミニストの文献から詳細に説明可能、且つ支持可能である。本研究を代表する全体概念は「自己評価」及びその特性である「自信」であった。J.B.ミラーの「真実性(authenticity)」の概念が、本研究の全体概念の理解に最適であり、日本の女性看護管理者が、仕事へ取り組みながら真実性を見出した経緯を理解することが、今後の日本の看護管理実践と教育の向上に役立つと考えられる。4.研究成果の公表:本研究の初期の結果は、2003年11月3日に、カナダ・トロントで行われた第37回シグマ・セタ・タウ国際大会において、ポスター及び口演発表で報告された。最終結果については、2004年4月30日〜5月4日に、カナダ・バンフで行われる健康に関する質的研究学会において、口演発表される予定である。なお、米国の『看護管理学雑誌』への投稿準備中である。
著者
伊藤 俊一
出版者
名城大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

・室町幕府は、設立当初より寺社本所領や遠隔地武家領の保護という土地所有秩序の維持・再建を目指していたが、内乱の継続により、前線の守護に権限を与えざるを得ず、政策が実施されないという問題を抱えていた。・守護の在京は南北朝内乱期当初より断続的に見られるが、貞治年間以降の在京は、在京が継続すると共に、在京奉行人の登場に象徴される守護の在京政務機構の整備を伴っており、それ以前とは質が違う。・在京奉行人は、人夫や兵根米の徴収、役夫工米や即位段銭の徴収、寺社本所領をめぐる紛争処理などの業務を担当した。・在京奉行人の登場により、寺社本所領主はこのルートを通じて、所領・所役の問題を直接に守護へ訴えることができるようになる。守護関係者と寺社本所関係者との間の日常的な接触も増える。・守護の在京政務機構の登場により、室町幕府の命令が守護によって遵行されないという問題に一定の解決がもたらされ、室町期荘園制の秩序が安定した。・守護在京制の確立により、京都は幕府を中心に、寺社・貴族などの諸権門、各地方への足がかりを持つ守護とその配下が集住し、利害を調整する場となった。そのような「在京人」社会を統御する存在として「室町殿」が立ち現れたと考えられる。・以上の成果は、室町期荘園制の成り立ちと室町幕府の性格を再考する重要な契機と成り得る。
著者
佐藤 和夫 井谷 惠子 橋本 紀子 木村 涼子 小山 静子 片岡 洋子
出版者
千葉大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

本研究では、日本が男女共同参画社会をめざすためには、男女共学、共修がどのように実施されるべきかについて、高校を対象に分析検討を行った。男女共学、共修は男女平等教育にとって必要な基礎的条件ではあるが、隠れたカリキュラムにおけるジェンダーに無自覚なまま共学、共修を実施しても、共学、共修がただちに男女平等教育には結びつかない。そのため、男女共学や共修の現状を明らかにしながら、男女平等をつくるための共学、共修とはどうあるべきなのかについて、以下の3つの調査領域における研究において析出した。1,福島県の男女共学化および共修の現状調査福島県は、男女共同参画社会の実現のための施策の一環として、長らく残っていた別学高校をすべて共学化した。その共学化実現過程や高校の現状について、聞き取りと観察および質問紙調査を組み合わせて分析、考察した。2,関西(大阪)の私立高校の共学化戦略と共学、別学の現状調査福島県とは対照的に公立高校はすべて共学だった大阪府では、私立高校が別学校を提供してきた。近年、共学化が進んでいる大阪の私立学校での別学、共学の経営戦略および生徒への質問紙調査によって、共学、別学の比較検討を行った。3,高校での体育共習の指導場面の観察調査男女共修の高校の体育の授業場面において、教師の声かけが生徒が男子か女子かで異なること、そこに教師のジェンダー観があらわれ、ジェンダーの利用と再生産が行われていることなどについて、授業観察の分析を行った。
著者
堀 準一 小椋 正
出版者
東京大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1990

日本人一般小児に顎関節症がどの程度の発症頻度があるかを鹿児島大学のグループが1984年に調査した結果によると9.8%(10〜18才)であった。すなわち,10人に1人の割合で三大症状(顎関節雑音,顎関節部疼痛,開口障害)のうちどれか一つの症状があることが解った。また,顎関節症の初発症状は顎関節雑音であり,初発期は中学生で高校生になると激増することも解った。その後,多くの研究者による顎関節症の発症頻度についての報告がなされ,この疾患が増加傾向にあるといわれているが,調査の方法(アンケート調査,問診,臨床診査など)や症状(前期三大症状の他,頭痛や異常顎運動など)の取り扱い方の違いなどのため比較出来るものがなく,増加しているかどうかは解っていなかった。そこで今回著者らは,顎関節症の発症頻度が日本人一般小児において8年前より増加しているかどうかを同一の方法論によって確かめることにした。また,顎関節症の発症頻度に地域差や環境差があるかどうかを確認するために,東京都と8年前に調査した鹿児島市において行った。その結果によると,小学生(5,6年生)2.0%から8.0%,中学生8.1%から12.5%,高校生12.0%から17.2%へと全てにおいて増加していることが解った。さらに,顎関節症の発症頻度は東京都内中学生11.9%に対し,鹿児島市内中学生12.5%で,東京都内高校生17.6%に対し,鹿児島市内高校生は17.2%と殆ど差がなかった。しかし,東京都内と鹿児島市内の中学生,高校生ともに顎関節症の発症頻度は男子よりも女子が高頻度を示したが,統計的な有意差は示さなかった。以上のように,若年者顎関節症は地域差はないものの増加傾向にあることが確認されたことを考えると,この疾患の予防法を早期に確立する必要に迫られている事が解る。今後,この研究を継続し予防法を確立する予定である。
著者
亀田 温子 池谷 寿夫 遠藤 恵子 入江 直子
出版者
十文字学園女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

1 公立高校の男女共学進行状況の動向研究・戦後の男女共学制度実施の中で、現在も公立高校の男女別学率が高いのは、宮城県、福島県、群馬県、栃木県、埼玉県など、北関東、東北地方の県である。しかし、1990年代以降15歳人口減少期に入り高校再編成計画のなかで、男女共学化への動きが具体的に進行している。本研究では、その実態をとらえた。・福島県については、1994年から始まった公立高校の男女共学化10年計画により2003年で、すべて男女共学校となった。その背景、実施のプロセス、推進に向けた市民運動の力、を分析。・宮城県、群馬県については、教育委員会の明確な方針と指導により学校再編計画により共学化進行計画が進みつつある。全部ではないが、いわゆるエリート校の共学計画も進んでいる。・埼玉県については、苦情処理委員会への苦情から「共学推進」の勧告が出される形で、問題が顕在化した。同窓会などを中心に強い共学反対運動が展開した。高校再編計画でも実質的に女子高が統廃合になるケースはあるものの、共学方針は出されぬまま、戦後50年を経てもエリート校の男女別学を存続する「現状維持」体制としている。2 大学共学化把握のための資料作り戦後の大学に見る男女共学化、近年共学化の動きをとらえる資料作りをおこなった。3 ドイツ・アメリカの動向研究・ドイツについては、新たな男女共学ついての動きをドイツの男女共学の中心的研究者であるヴィーラントの協力を得、現地調査を行うことから現在の状況をとらえた。・アメリカについては共学大学における女子学生の支援プログラムから、実際の動きを捉えた。
著者
手塚 甫
出版者
北里大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1998

本課題の根本史料たる小学校教員養成学校卒業生の成績証明書に関し.昨年度その所在を確認しておいたが、本年度、現地に赴き、ウイーン市の小学校男子教員養成学校及びヴィーナー・ノイシュタット市の小学校教員養成学校に関し、1880年から1905年に至る全史科の写真撮影を完了した。合計約6000枚に及び、目下、その現像作業と平行して、鋭意整理を進めており、間もなく完了する。予定である.本卒業成績証明書には、卒業成績の他、出身地、信仰、父親の職業、奨学金取得の有無及びその額も記されており、これらを分析することによって、本課題の解明に大きな手懸りを得るものと期待している。なお数量的分析のみでなく、数人の指導的人物については、これまで伝記的に不明だった部分のいくつかを明らかにすることも出来た。尤もウィーン市の女子教員養成学校における当該期間の史料は、第二次大戦時の戦火によって焼失してしまったため完璧を期し得ないのは甚だ遺憾である。当面史料の分析を急ぎ出来るだけ早い機会にその成果を発表する予定である。なお、この分野に関する研究は、オーストリアに於ても手がつけられていないので、機会が得られれば是非ドイツ語でも発表したいと思っている.
著者
坂東 健二郎 松口 徹也 大西 智和 柿元 協子
出版者
鹿児島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

Renin-Angiotensin系(RA系)は血液量と血圧を正常に保つシステムであるが、一部の器官では局所でACE(Angiotensin converting enzyme)がAII(Angiotensin II)を産生し、近傍のAT1(Angiotensin II type 1)受容体に働く組織RA系が存在している。我々は、骨芽細胞で組織RA系に必要な機能的AT1受容体、AT2受容体とACEの発現を確認した。骨芽細胞や軟骨芽細胞をAIIで刺激すると骨分化への影響は認められなかったものの、ERK、AMPK、Sykなどの細胞内シグナル分子が影響を受け、ケモカインの発現が促進された。骨組織中でAIIの局所濃度が高まれば、骨組織RA系が働くと考えられる。
著者
五十嵐 誠 望月 優子 高橋 和也 中井 陽一 本山 秀明 馬場 彩 望月 優子 高橋 和也 中井 陽一 本山 秀明
出版者
独立行政法人理化学研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

研究成果の概要:南極ドームふじ基地において掘削された氷床コアおよそ100m分についてイオン濃度分析を実施し、硝酸イオン濃度プロファイル中の十数箇所に超新星爆発起源と思われる高濃度スパイクを検出した。本研究ではこれらの発現年代を正確に推定するため、ドームふじ氷床コアの硫酸イオン濃度測定結果と大規模火山噴火年代との関連性を考慮して、誤差1年以内の氷の堆積年代(深度と年代の関係)を求めた。
著者
森 陽太
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

バテライト形炭酸カルシウムはその熱力学的不安定性から自然界にはほとんど存在しない。しかしながら100nm程度の一次粒子が凝集して二次粒子を形成していることから多孔質体であることが期待されている。材料利用を視野に入れた場合、生成メカニズムや粒子径の制御などその基礎的物性を知ることが重要になる。昨年度はこれらの基礎的物性について引き続き検討を行った。天然セルロースに対しTEMPO触媒酸化を適用することでセルロースミクロフィブリル表面にカルボキシル基を導入することができる。この試料に対し軽微な機械処理することで出発物質に応じた径を有するセルロースナノファイバーゲルが得られる。このセルロースナノファイバと形炭酸カルシウムを複合化についても研究を行った。複合化処理としては未乾燥のナノファイバーフィルムに塩化カルシウム水溶液と炭酸カリウム水溶液を交互に通過させることにより試料の作製を行っている。この試料ではフィルム表面での若干の炭酸カルシウム生成が確認されている。また、セルロースナノファイバーゲル中で緩やかに炭酸カルシウムを結晶成長させた場合、他の高分子ゲル中では見られない200μm程度の特異的な形状を有する結晶が得られた。この花弁状の結晶はセルロースナノファイバの径には依存せず、セルロースナノファイバのような高結晶性で商アスペクト比を有するゲル中で物理的拘束を受けることで特異的に生成すると考えられる。これらの詳細な生成メカニズムについては現在検討中である。
著者
亀山 慶晃 工藤 岳
出版者
東京農業大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

高山生態系では雪解け時期を反映した連続的な開花現象が認められ、傾度に沿って花粉媒介者や近縁他種との関係が変化する。北海道大雪山系におけるツガザクラ属植物では、雪解け傾度に沿って雑種第一代が優占する広大な交雑帯が形成されており、雑種と親種の間で花粉媒介者を巡る競争が生じていた。親種の受粉成功は開花時期や年によって大きく変動し、繁殖成功(他殖率)に多大な影響を及ぼしていた。
著者
千森 督子 谷 直樹
出版者
和歌山信愛女子短期大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

目的(1)「主屋の平面構成を通して住生活の特性と変容を明らかにする」は、今まで明確にされていなかった地域独特の平面型も含め、複数の型の分布を把握し、住生活を含めた地域特性、変容を捉えることができた。目的(2)「自然風土条件でも台風や横殴りに降る風.から家屋を守るための建物の特性と変容を明らかにする」では、.除け板や石垣、生垣などの地域独特の防風.対策や屋敷構えと家屋との関係性を掌握し、変容を明らかにした。
著者
掛田 崇寛
出版者
川崎医療福祉大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

本研究は、代表的な甘味物質である蔗糖が誘発する鎮痛効果について探求することを目的に実施した。従来、蔗糖の甘味を利用した痛み抑制効果の検討は新生児領域では多く行われているに対して、それ以外の対象ではほとんど検討されていない。本年度は昨年に引き続き、成人を対象に、実験的疼痛による侵害受容刺激に対する蔗糖溶液の効果を検証した。実験的疼痛には、冷水を用いて痛みを誘発する方法、Cold Pressor Test (CPT)を用いた。被験者は2℃に維持された冷水中に手を浸すことで、痛み(冷痛)を感じた。使用溶液には24%蔗糖溶液と蒸留水(control)を用いて、各溶液による痛み反応の違いを検討した。各溶液はクロスーバーデザインを用いて被験者に無作為に割り付けた。その結果、蒸留水に比べて、蔗糖溶液を口に含んでいる時の方が有意に痛覚潜時(冷水中に手を浸けて痛みとして感じてまでの時間(秒))が延長した。また、蔗糖溶液は蒸留水に比べて、その味が有意に心地よいと評価されていた。よって、蔗糖の甘味刺激による鎮痛効果は新生児同様、成人でも一時的ではあるが得られることが明らかになった。また、この鎮痛機序には甘味による心地良さ、つまり情動への影響が鎮痛に関与している可能性がある。今後は成人を対象に得られた鎮痛効果が、どのような機序によってもたらされるかを検討する。また、甘味以外の味質を用いて、味刺激による痛みへの影響を検証する。以上から、本研究申請時における目標は全て達成された。