著者
西田 生郎
出版者
埼玉大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2010

シロイヌナズナの変異株restricted sucrose export1(rsx1)は、ソース葉の葉脈篩部の二次原形質連絡(2°PD)形成が不全となり、糖転流が部分的に阻害される変異株である。RSX1は細胞壁中間層のペクチン酸層を分解して2°PD形成を促進すると考えられる。本研究では、RSX1の原形質連絡局在を、RSX1-EYFPに対する間接蛍光抗体法、アニリンブルーによる原形質連絡カロースとEYFPの共局在、および金コロイド免疫抗体法により証明した。また、高CO_2環境下(780ppm)でのRSX1発現量の増加を、RT-PCR法およびプロモータGUS活性測定から明らかにし、アニリンブルー染色により間接的に高CO_2環境下でのPD形成の強化を明らかにした。さらに、野生株種子は、糖を含まないMGRL培地で発芽できるがその後成長できず、高CO_2環境下(780ppm)でのみ発達できるのに対し、rsx1-2変異株は、通常CO_2環境下でも発芽・成長が可能であるという違いを明らかにした。以上の結果は、RSX1が2°PDの形成、糖転流経路の構築、および高CO_2環境応答に重要な役割を担っていることを示唆している。シロイヌナズナの糖転流経路にはまだ不明な点が多く、今後は、RSX1発現の組織特異性と糖転流能および原形質連絡形成との関係や、RSX1発現部位と篩部積み込み経路におけるシンプラスト経路構築の関係など、未解決の問題として残されている。
著者
笹木 義友 佐々木 利和 山田 哲好 三浦 泰之 東 俊佑 松本 あづさ 山本 命
出版者
北海道開拓記念館
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

本研究では、近世後期から近代初期にかけて、尊王攘夷派の志士、蝦夷地の〈探検家〉、書籍や地図の出版者、情報屋、書画骨董類の収集家などとして、さまざまな活動を行った松浦武四郎に焦点を当て、当該期における知識人ネットワークの具体的な様相について明らかにした。また、今後の松浦武四郎研究の新たな展開に向けての基礎資料として、松浦武四郎関係資料(特に松浦武四郎関係書簡)のデータベースを作成した。
著者
黒崎 靖
出版者
三重大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1988

昨年度に引き続き、セラミックス、ガラス等の硬脆材料に適用可能で、経済性・生産性に優れた新加工法(VM/AFMプロセス)の開発をめざして理論的および実験的検討を行った。本年度は、この手法の実用化および用途拡大の観点から、汎用加工機械にVM/AFMプロセスを適用できるようにしながら微細穴あけおよび異形穴あけを行うことを目標とした。得られた主な成果は次の通りである。1。ガラス板の微細穴あけまず、厚さ80μmのホウケイ酸ガラス板に直径300μmの単一微細丸穴を加工する問題を取り上げ、FEM解析を行ってVMの妥当性を検討した後、実験により本法の適用性を調べた。この結果、クラック抑制板を採用する手法が有効であり、ねらい通り穴あけを達成することができた。また、クラック抑制板の最適条件を明らかにすることができた次いで、同一材料に直径300μmの多数丸穴を1ショットで同時加工することを試み、穴あけに成功した。2。ガラス板の異形穴あけソ-ダ石灰ガラス板に異形形状の穴(三角穴および四角穴)をあける問題についてFEM解析を行った後、穴あけ実験を行い、VM/AFMプロセスが有効であることを確かめた。3。AFMプロセスによる加工穴の高精度化AFMプロセスを四角穴あけに適用してその効果を調べた結果、昨年度明らかにした丸穴の場合と同様に、加工穴精度および性状の改善に有効なことが分った。以上のようにして、硬脆材料に対する新しい穴あけ加工技術(VM/AFMプロセス)を開発し、ほぼ所期の目的を達成することができた。
著者
飯沼 賢司
出版者
別府大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

本研究は今年度最終年度を迎え、報告書の作成を行った。中心フィールドである大分県直入・大野郡域は、この3月31日をもって、竹田市と豊後大野市に再編合併され、両郡の郡名は失われた。その意味で、この4年間の研究は、結果として合併以前のこの郡域の市町村の古い資料、地図、地名等の発掘、記録化として意味を持つことになった。この調査では、この地域の特質を(1)阿蘇のカルデラの縁から張り出す台地地形、(2)くじゅう連山んから張り出した尾根とその側面に尾根の地下から染み出した水によって形成された迫(小谷)地形に特色づけられる地域、(3)祖母山系から流れ出す緒方川が形成した緒方盆地の三つに類型化し、(1)荻台地、(2)竹田市三宅、朝地町、(3)緒方町をフィールドに設定し、環境歴史学の方法論によって中世荘園の実像に迫ろうと試みた。その結果次のような調査・研究成果を得ることができた。【1】荘園の収取の単位であり、経営の単位でもある「名」(みょう)の構造を景観論の中でどのように位置付けられるのかを検討した。この地域では、地名型の「名」と仮名型の「名」があるが、前者が圧倒的に多い。後者は(3)の緒方荘域の緒方盆地の中に限定され、緒方川の水を利用した大規模灌漑の水系にその耕地が存在している。それに対して、前者も水田を編成する単位ではあるが、野や野地や畠が「名」を結びつけるものとなっており、同じ台地や同じ尾根を共有する地域を「名」の領域とする傾向が見られる。これは一見水系とは無関係なもので編成されているように見えるが、尾根は地下水が通っており、見えない同一の水系で編成されているともいえる。【2】この地域に見られる平安時代末の磨崖仏(宮迫・普光寺など)や神社、寺院は里と山の境界点に創られている。特に磨崖仏や神社は尾根の中を流れる水や川の水を意識し、水の恵み、開発の象徴としてこれらを創建している。これに対して、直入・大野郡に多い六地蔵塔は中世後期に領域が確定してくる後期型「名」の領域の境界点に建立される傾向がある。この他に、比較研究のために、東北、関東、紀ノ川沿い、山陰、中部地域で絵図のある荘園を取り上げ調査を行った。
著者
風早 竜之介
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

前年度にまとめた浅間山火山における長周期地震と火山ガスの関係性に関する論文が国際雑誌[Geophysical Research Letters]に掲載された。これは火山ガスと火山性長周期地震という異なる事象を結びつけ両者の関連性について言及した非常に重要な研究成果である。またこの成果は従来は火山活動のモニタリング等にメインに用いられてきた火山ガス研究が、他の地球物理的研究とのコラボレーションにより火山内部の知見を得る手法として、火山学として新たな可能性を示している事を意味している。また、上記の火山性地震と火山ガスの関係性を用いれば、地震を伴って火山から放出されるガス量と地震を伴わずに地表に放出される火山ガスの量の長期的な吟味が可能となる。これについて評価した結果、浅間山火山にて2009年2月に発生した噴火の前後で両者の比が大きく変化し、噴火後にはより地震を発生しながらガスを噴出しやすい機構に火山内部が変化したという事が示唆された。これは長期的な火山活動推移予測評価手法として直接的に役立つ研究であり、今後他の物理観測データとの比較・議論が期待される。この成果について国際学会IUGGにて発表を行った。また、二カ月間の間海外イタリアのカターニャに渡航し、火山ガス観測装置である紫外線カメラの装置開発及びこの装置の自動化に関する実験・シミュレーション技術の開発を行った。紫外線カメラは火山学において非常に重要な観測技術である。だが、紫外線カメラ観測は天候等の影響を受けやすく、良いデータを取ることはなかなか難しい。よって、この装置を用いた定常観測環境の実現が求められるが、まだ世界的にもこの装置の自動化を実現している研究例はない。また、同じく海外イタリア・エトナ火山にて上記装置を用いた火山ガス観測を行った。海外イタリア研究機関INGVのスタッフとも積極的に火山学に関する議論を行い、セミナー発表を行った。また桜島火山における火山ガス観測の成果をまとめ、雑誌火山桜島特集号に投稿した。また、上記を含む特別研究員3年間の研究成果を東京大学にて博士論文としてまとめ、発表した。
著者
小木曽 啓示 今野 一宏 後藤 竜司 高橋 篤史 角 大輝 藤木 明 臼井 三平 川口 周
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010-04-01

複素力学系及び双有理幾何学の融合により, 双方の未解決問題に貢献すること, 関係する新しい現象の発見が本研究の主目的である. 成果として, 正のエントロピーをもちかつ原始的正則自己同型を許容する3次元有理多様体, カラビ・ヤウ多様体の存在問題の肯定的解決, Wehler型と呼ばれる任意次元のカラビ・ヤウ多様体に対するKawamata-Morrison錐予想の完全解決, Ueno-Campaana問題の肯定的解決, Gizatullin問題の否定的解決, 正標数の代数幾何への複素力学系の応用などを得た. また, 成果が高く評価され, 2014年の国際数学者会議の招待講演者に選定された.
著者
大澤 雅俊 山方 啓
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

本研究は、固液界面で二次元的なパターンを形成しながら進行する反応(Chemical wave)を赤外分光法でリアルタイムに追跡する新しい手法を開発することを目的とした。他の光学顕微鏡と異なり、特定官能基の吸収の強弱をイメージ化すれば、時々刻々と変化する分子の分布と反応の広がりが観察できると期待される。ただし、対象は単分子以下の超微量であり、溶媒の吸収に妨害されるので、通常の赤外顕微分光では実現が難しい。本研究では、内部反射配置の表面増強赤外分光法(ATR-SEIRAS)でこの問題を解決することとし、光源、球面鏡2枚、波長可変赤外フィルター、チャンネルマルチチャンネルMCT検出器からなる最大限に簡素で明るい赤外分光イメージング装置を製作した。通常の透過条件での測定では何ら問題がないことを確認した。また、パターン化した電極を用いた固液界面の測定でも、20μmの空間分解能が得られた。これと並行して、Chemical waveがもっとも形成されやすいと考えられるPt電極表面でホルムアルデヒド酸化の(空間平均での)電気化学振動を高速スキャンFT-IRで検討し、振動がフォルメート種を中間体とする主反応経路と、被毒種COを経る副次経路の相互作用の結果生じることを明らかにした。この測定から、COが何らかの空間パターンを形成することが示唆されたので、最終段階として、製作した赤外分光イメージング装置を用いた電極表面の観察を行い、実際にPt電極表面上の吸着COが不均一な分布をしていることを見出した。ただし、装置上の制約のため、当初計画したビデオレートでの高速イメージングには到達できなかった。その他、イメージングの基礎として、基板となる電極の新しい作製法を開発した。また、その他種々の反応解析を行い、それぞれにおいて新しい知見を得たが、いずれも空間パターンの形成は認められなかった。
著者
山本 誠
出版者
東京理科大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

サンドエロージョンは,流体中に含まれる固体微粒子が壁面に繰り返し衝突し,壁面が機械的損傷を受ける現象であり,流体挙動,流体中の固体微粒子挙動,壁面形状変化が相互に干渉して起こる典型的なマルチ・フィジックス現象である.また,サンドエロージョンは,各種流体機械にとって致命的な現象として知られている.航空用ガスタービンでは,型式承認時に安全性確認のための砂吸い込み試験が課されており,一定量の砂を吸い込んでもエンジンが健全に稼動することを実証しなければならない.本研究は,航空用ガスタービンの遷音速ファン動翼におけるサンドエロージョン現象を数値的に再現することによって,その発生原因・物理的メカニズムを明らかにすることを目的としたものである.平成20年度は,ファン動翼とともに回転運動する衝撃波を微粒子が通過する際の挙動のモデル化および検証計算を実施した.平成21年度には,3次元動静翼干渉の再現のためにコードを作成し,3次元ファン動翼(NASA Rotor37)に対する検証計算を実施し,コードの健全性を確認した.平成22年度は,さまざまなファン運転条件におけるサンドエロージョン現象を数値予測し,サンドエロージョンの発生状況とサンドエロージョンによる翼性能の低下を明らかにした.
著者
江本 精 立花 克郎 堀内 新司
出版者
国際医療福祉大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

新たな癌化学療法の治療戦略であるメトロノミック化学療法は少量の抗癌剤を持続的に使用する方法であり、腫瘍血管内皮細胞をターゲットとする。我々はヒト子宮肉腫を対象として本療法の治療効果の増強を図る目的で、メトロノミック化学療法に低出力超音波照射を併用し、その相乗効果について検討した。抗癌剤は塩酸イリノテカンを使用した。子宮肉腫は人体に発生する腫瘍のなかでも最も悪性度の高い腫瘍の一つであるため、本研究には我々が樹立したヒト子宮肉腫株である FU-MMT-3 株を用いた。血管新生阻害作用の評価には circulating endothelial progenitor cells (CEP)を測定した。その結果、FU-MMT-3 株に対して in vitro 及び in vivo においてもメトロノミック投与量の塩酸イリノテカンに低出力超音波照射(2.0 w/cm,1 MHz, 4 分間週3回照射) を併用した治療群が最も腫瘍増殖抑制効果と血管新生阻害効果をもたらした。結論として、メトロノミック化学療法と低出力超音波照射の併用療法は新たな癌治療法として期待できうるものであることが示唆された。
著者
金田 安史 種村 篤
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010

我々は複製能を欠いた不活化 Sendai virus (HVJ envelope ; HVJ-E)が様々な抗腫瘍作用を有することを見出している。これを用いた癌治療の臨床研究も開始された。そこでさらに抗腫瘍効果を増強するため、HVJ-E に封入する分子を検討したところ、抗腫瘍免疫を増強できる分子として IL-12, IL-2 の有効性が見出された。IL-12 遺伝子を封入する代わりに、IL-12 蛋白質を表面にもつ HVJ-E はさらに強力な癌治療効果を示した。また抗がん剤(ダカルバジン)の効果を高めるために Rad51siRNA の封入が効果的であった。
著者
小野 文生
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

本研究の目的は、ドイツ・ロマン主義、W・ベンヤミン、J・デリダという3つの定点を設定し、これらの視角から人間の生成・変容のメカニズムとしての「ミメーシス概念」を分析すること、そして、このミメーシスという技法にかかわる思想を軸とした教育思想史を再構成しながら、新たな学習論・伝承技法を構想していくための思想的・哲学的基盤を提示することであった。当初の予定に従い、本年度は特にドイツ・ロマン主義とユダヤ思想の関連に着目しながら文献の蒐集・読解・分析を行い、神秘主義、聖書学、世紀転換期の政治神学にかかわる研究に重点をおいて進めた。具体的には、ドイツ・ロマン主義の中のユダヤ思想の影響に関して思想史的観点から文献調査し、またベンヤミンとデリダ哲学的試みに見られる神学的問題やミメーシス概念の読解・分析や彼らとかかわりのある思想(ショーレムとブーバー)について分析を加えた。また、ミメーシスの多様な側面について分析を加えるために、人類学など学際的領域における象徴や儀礼に関する研究到達点を調査・分析し、整理した。さらにドイツ短期滞在により、ドイツでの受入予定研究者だったCh・ヴルフ教授(ベルリン自由大学)と意見交換・指導を受けた。また、ヴルフ教授の共同プロジェクト「パフォーマティヴなものの諸文化」の研究員と意見交換し、国際シンポジウムに参加することで学際的・国際的なミメーシス研究の最前線を調査した。なお、年度途中での就職により以後の研究を辞退したため、全体の研究は計画通り完遂しなかった。特に18世紀のロマン主義に関する分析が比較的手薄になってしまったこと、またベンヤミンやデリダの思想が生まれてきた背景について、ミメーシスの認知科学的・心理学的側面における知の布置の変容にかんする分析は必ずしも十分に検討することができなかったことなどが課題として残された。個人的に研究自体は継続し、別の機会に論じたい。
著者
樹下 文隆 秋山 伸隆 石川 一 大知 徳子 五條 小枝子 菅原 範夫 西本 寮子 松井 輝昭 菅原 範夫 西本 寮子
出版者
県立広島大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

関ヶ原戦役後、毛利氏の支配を離れた芸備地域では毛利氏の文化遺産を継承していた。戦国毛利氏の後継である江戸期の萩藩も毛利氏の文化遺産の顕彰を行っていた。毛利元就・隆元・輝元時代の文芸資料は各地に伝播し、芸備では厳島関連の文芸資料、芸備以外では毛利元就関連の資料に特徴がある。江戸期の防長二国や芸備各藩では戦国毛利氏の文化政策を継承した収書活動が確認できた。戦国毛利氏の存在は、以後の芸備地域の文芸活動に大きな影響を与えたといえる。
著者
田村 雅紀
出版者
首都大学東京
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2004

昨年度に引き続き,「骨材回収型コンクリート」における油脂系改質処理剤を用いた改質処理効果(特許出願済)に関する応用的検討を行い,その結果なども踏まえ,骨材回収型コンクリートの運用方法についても考察した。以下に得られた知見の概要を示す。1.ZKT-206法による骨材回収型コンクリートのアルカリシリカ反応低減効果の迅速評価結果JIS A 1804 骨材試験法と比較し,コンクリート法の場合,調合の影響を考慮することができる。w/c=0.6で,普通骨材を用いた改質処理法(標準の3回塗布)で製造した供試体を,材齢2日で加圧装置にかけると,アルカリシリカ反応を示さない試料でも相対動弾性係数が低下する場合がある。w/c=0.4ではそのような結果は生じなかった。従って,ASR抑制効果を意図して改質処理をしても,迅速法の場合,調合によりその効果が十分に説明できない場合が生ずることが確認された。また,その結果により,同コンクリートの長期的な力学挙動(クリープ等)や耐久性について更なる検討が必要と考えられた。2.改質処理再生骨材を念頭に置いたモルタル部分の吸水率低減性実験再生骨材に改質処理を施して目的とする効果を得るために,吸水率低減効果を詳細に検討した。結果,モルタル部分のw/cが,0.2〜0.6範囲では,実験室結果では,3回までの処理で,吸水率を十分に低減できることが確認された。3.改質処理再生骨材コンクリートの耐久性油脂系の場合,中性化速度係数は無処理と比較して低下する(w/c=0.6の場合)。これは,再生骨材のプレウェッチングが不要となり,マトリックスが緻密になる効果が期待できるためと考えられる。乾燥収縮ひずみは,無処理よりも若干低減し,それはAIJの収縮ひずみ予測式で示される範囲の変化を示す。単位クリープひずみは一般的なコンクリートよりも増大する可能性があり,そのような物性を有するものとして位置づける必要があると考えられた。(本検討は,他の研究予算による支援も受けて実施した。)4.骨材回収型コンクリートの運用方法JIS規格(案)が検討されている再生骨材Mを対象とした技術的運用も含め,環境側面を再整理し,用途拡大の方策を検討した。そして運用面では,技術的問題以上に解決すべき問題があることが把握された。
著者
田中 庸裕 宍戸 哲也
出版者
京都大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

Nb205上に1-ペンタノールを吸着させ光照射したところ,77Kにおいてはアルコキシド種から水素原子が外れたアルケニルラジカルに同定されるESRが得られた。これは,アルコキシドからの脱水素によるアルデヒドは室温では速やかに起こるが,77Kではアルケニルラジカルが準安定状態で存在することを表す。Cu/Nb205触媒に1級及び2級アルコールを吸着させ77Kにて光照射を行いESRスペクトル測定を行ったところアルコキシド由来のラジカルに帰属されるシグナルは観測されなかった。一方,酸化反応が進行しない3級アルコール(tBuOH)を吸着させた場合はいずれの触媒においてもメチルラジカルに帰属されるシグナルが観測された。これは,光励起そのものはいずれの触媒においても同様に進行するが,Cu/Nb205上では光励起種からカルボニル化合物への移行が速いために77Kにおいても光励起種をESRによって捕捉出来なかったことを示唆している。種々の銅種とシクロヘキサノンとの相互作用についてFT-IRによって検討したところ,光生成したシクロヘキサノンはCu(I)上に生成することが分かった。また,軽い真空排気によりこの吸着シクロヘキサノンは容易に脱離した。銅の役割は,1)反応中に生成する電子を受容し電荷分離を促進すること,2)アルコキシドからの脱水素を促進すること,3)シクロヘキサノンの脱離を促進することが考えられる。Nb205上での反応速度解析の結果は,生成物であるシクロヘキサノンの脱離が律速段階であることであるが,Cu/Nb205上においては,光吸収が律速段階となっている。本触媒上においては,銅は,Cu(II)→Cu(I)のredoxを通して,光触媒反応を促進している。この場合,Nb205はアルコキシドと表面錯体を形成し,電子-正孔源となっているものと考えられる。
著者
許斐 亜紀 横井 克彦
出版者
愛知学泉大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2009

造血機構における亜鉛の作用メカニズムは不明である。そこで、亜鉛欠乏が腎臓中エリスロポエチン(EPO)濃度に与える影響について検討した。Sprague-Dawley系3週齢雄ラットを対照群(CON)、亜鉛欠乏群(ZD)、Pair-Fed群(PF)の3群に振り分け4週間飼育した。データはFisherのPLSDで統計処理を行い、有意水準は5%とした。血中EPO濃度はCONに比べZDが有意に低値を示し、PFが低い傾向を示した。腎臓皮質中EPO濃度はZDがPFに比べ低値を示し、有意差は見られなかった。PFはCONに比べ高い値を示した。腎臓髄質中EPO濃度には差は見られなかった。
著者
山越 智
出版者
国立感染症研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

サイトカインLECT2の関節リウマチにおける抑制作用を解析した。関節炎に関与しLECT2受容体を発現する細胞を同定した。滑膜細胞はLECT2受容体を発現していた。そこで、滑膜細胞の増殖、関節炎に関与する炎症性サイトカイン等各種遺伝子発現についてLECT2添加による影響を調べた。LECT2遺伝子欠損マウスを用いたマウス関節炎モデルにおいて、主要に働く炎症性サイトカインに支配される遺伝子を見出した。
著者
山本 博樹
出版者
大阪学院大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1996

情報化社会では、受け手に情報を「分かりやすく」伝達するにはどうすればよいかという問題が重視される。同時に、このような社会では、映像情報の重要性が高いため、映像情報をいかに「分かりやすく」伝えるかを考察することが急務である。これまでの研究から、理解を支援する画面構成については、受け手の認知過程に適合するような画面構成が重要であると考えられてきた。すなわち、物語を題材とした場合、主人公の目標構造を構造化するように画面を構成することが、受け手の理解を支援することが示されている。主人公の行為が物語の最終的な問題解決にどのように結びついているかは行為の重要度と呼ばれ、階層化されているが、階層の高い行為は基本動作であり、基本動作を踏まえた画面構成が物語の理解を支援すると考えられている。そこで、本研究では、基本動作を踏まえた画面構成が物語理解の構成過程に及ぼす効果について実験研究を行った。実験では、幼稚園を被験者にし、3群を構成した。課題として簡単な出来事について数枚からなる絵画物語を作った。それらは内容が同じであっても、基本動作として重要度の高い動作が描かれた基本動作条件と基本動作として重要度の低い動作が描かれた非基本動作条件、ならびに規範的な動作が描かれた規範動作条件の三つであった。理解テストとして、絵画をランダムな順序で提示し、それらが正順になるように配列させた。各条件が理解の構成過程にどのような効果を及ぼしているかを分析するために、絵画配列行動を下位行動を分析し、また、構成結果がどれくらい正順と相関しているかについても分析を行った。以上の結果から、重要度の高い基本動作に対応させて画面を構成することが理解を支援することが示された。
著者
伊藤 孝 熊江 隆
出版者
日本体育大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1995

本実験は、某大学の陸上競技部に所属し、平成7年度の箱根駅伝メンバーとして選抜された選手を対象とした。夏期合宿は、北海道を中心として平成7年7月23日〜8月26日の約1ケ月間行われた。また、合宿期間中の走行距離は、通常の練習の約2倍程度であった。採血は、合宿前、合宿中、合宿後の計3回、早朝空腹時に肘正静脈より行った。好中球の分離は、合宿中に行った採血に関しても実験室まで運搬してから行った。したがって、この際の移動時間による好中球機能の変化を考慮し、事前に採血直後、6時間後さらに12時間後における好中球機能の変化を比較検討した。その結果から、採血後6時間経過してから分離を始めても、被験者間における好中球活性の相互比較が可能なことが確かめられたため、3測定とも6時間後に好中球分離を行うこととした。測定に関しては、好中球機能の指標として活性酸素産生を微弱光画像解析システム(ルミボックスH-1000、マイクロテック・ニチオン社)を用い、オプソニン化ザイモザンを刺激物質としてルシゲニンおよびルミノール依存性化学発光法にて行った。活性酸素産生能の評価方法は、活性酸素の最大産生量を示す最大発光量(Peak Height)、および異物認識から活性酸素の最大産生量に至るまでの平均時間とされる最大発光時間(Peak Time)を指標として行った。今回の結果から合宿中においてはPeak Heightが高く、またPeak Timeも早くなり、活性酸素産生能が活性化する傾向が認められた。しかしながら、合宿後においてはPeak Heightは合宿前の値より若干低値であったことから、更に合宿中の活性酸産生能の活性化の原因を検討する必要があると思われる。本研究において得られた他の数値については現在検討中であり、今後さらに分析を進め検討を行う予定である。
著者
宮良 高弘
出版者
札幌大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1995

泉・蒲生らは、昭和25年に門別村の富浜、門別、賀張地区の漁業世帯の調査を行い、「北海道移住漁民の人類学的研究(一)-沙流郡門別村における漁村の成立とその生活-」において次のような結果を発表している。(1)漁民人口の50%がすでに三世によって占められている。(2)夫婦の出身県は青森、秋田、岩手、宮城、新潟、富山、石川、福井、三重、兵庫、広島、山口の12県に及び、父母の出身県が同一である夫婦が49.6%、夫婦の出身県が同一である者は17.5%である。(3)「世帯主夫婦とその子」の割合は83%、「その他の直系親族」は12%、「傍系親族」5%であるなどが報告されている。平成7年度の調査では漁村部に限らず、門別町の大部分を占める農村部にも及んだ。漁村部への和人の移住は、内陸部の農村よりも早い。それとの関連で、(1)の漁村部は昭和25年現在で三世であったが、農村部では平成現在で三世代目・四世代目に当たっている。(2)の漁村部は歴史が長く、12県に及ぶ移住者の血縁的混交が繰り返され、東北文化に彩られた函館地方との船による交易が行われる中で、文化の画一化が一層進展している。それに対して、農村部へは明治30年代に越中団体や越後団体は豊郷へ、石川団体は清畠へ、兵庫県淡路島出身者は庫富や幾千世へ多く入地し、移住当初は住み分ける傾向がみられる。農村部における先祖が共通する母村内婚率は、明治末期から大正生まれの移住二世代目の結婚期である戦前までは同県人同士が多い。産業構造の変化にもよるが、(3)との比較において、平成7年度の地域全体の家族形態は、単身世帯が35.6%、夫婦家族が22.5%、夫婦と未婚子が35.6%、直系家族が6%、複合家族が0.1%である。単身世帯は富川や本町などの市街地や牧夫を雇って軽種馬を営む平賀、福満、旭町、豊郷などに多い。夫婦家族は酪農、農業、漁業を営んでいる地域に多い。以上から、内陸農村部においては母村の生活文化は、戦後の昭和30年代まで家ごとに母村の習俗が受け継がれている。例えば、年中行事においては正月のオトシサン、雑煮の形態、七草の叩き菜、農業の予祝行事である地祭り、小正月の小豆粥、善哉などがみられる。更に、民間信仰では四国や淡路地方にみられる地神信仰が顕著であり、春秋の社日に五角形の石に刻んだ地神塔を祀っている。
著者
片長 敦子
出版者
信州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

非退化な斉次多項式で定義された超曲面単純K3特異点のリンクとして現れない実5次元多様体が,非退化な斉次多項式でない多項式で定義された超曲面単純K3特異点のリンクとして無限個実現できた.さらに,非退化な斉次多項式で定義された超曲面単純K3特異点のリンクの微分同相型は,例外集合として現れる正規K3曲面の特異点の構造と関連していることを明らかにした.また,ある複素3次元超曲面孤立特異点の実5次元リンクの実7次元球面へのはめ込みを,ある条件のもとで正則ホモトピーに関する分類を行った.