著者
高坂 哲也
出版者
静岡大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

本研究は科学研究費補助金(基盤研究(C))により種々の知見を得た。以下にその主要な成果を記す。ブタ精子へのリラキシン蛋白の暴露処理により、精子の生存率は平均77%ど高い割合を示し、クロロテトラサイクリン(CTC)法による精子の受精能獲得および先体反応の割合は、いずれも平均40%ときわめて高い誘起率を示したことから、リラキシン蛋白は高生存率かつ高効率でブタ精子の受精能獲得及び先体反応を誘起させる確証を得た。このようなリラキシン暴露処理精子においてタンパクチロシンキナーゼ(PTK)活性はインキュベーション時間の経過とともに上昇し、4時間後には10U/10^8 cllsときわめて高い値を示した。さらに、ウェスタンブロット法による解析から、暴露処理精子では約30kDaの位置に特異的なリン酸化タンパク質のバンドを見出すことができた。次に、約30kDaの付近に存在するリン酸化タンパク質の2次元電気泳動・プロテオーム解析の結果から、精子の受精能に関与する興味深いタンパク質である可能性が示唆され、基質分子の塩基配列決定に資する知見を得た。さらに、このリン酸化標的分子のcDNAクローンを鋳型として、pMALC2プラスミドに導入して発現ベクターを構築し、MBP(マルトース結合蛋白)との融合蛋白として発現さたることができた。この組換え体を抗原としてウサギに免疫し30kDaの基質分子のみを特異的に認識する抗体を得ることができた。この抗体を用いて光学顕微鏡レベルで精子のタンパクチロシンリン酸化部位を調べたところ、精子先体と中片部に局在していた。
著者
安東 宏徳 服部 淳彦 西村 正太郎
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

本研究の目的は,単一LH細胞を用いてLHの合成と放出のバランスをとる分子メカニズムを明らかにすることである。まず始めに,溶血プラークアッセイ法を用いてサクラマスの下垂体初代培養細胞から単一LH細胞を同定すると共に,LH放出活性の定量系を確立した。また,単一LH細胞のLH合成活性を測定するため,LHβサブユニットのmRNA定量系をリアルタイムPCR法を用いて確立した。最小検出感度は約100コピーであり,単一細胞中のLHβサブユニットmRNAの定量には十分の感度を持っていた。また,遺伝子の転写活性を測定する系として,ヘテロ核RNAを検出するリアルタイムPCR系を検討した。単一細胞のヘテロ核RNAの測定には最小検出感度に近いレベルでの精度のよい測定が必要であることが分かり,より精度よく安定して測定できるようにさらなる条件検討を行うことが必要である。サクラマスを非産卵期と産卵期前に採集し,単一LH細胞の合成と放出の解析系を用いて性成熟段階の異なる魚におけるバランス制御系の機能の違いを調べた。溶血プラークアッセイによって同定されたLH細胞の数は,非産卵期の魚は産卵期前の魚に比べて少なく,放出活性が低かった。また,リアルタイムPCR法によって測定したLHβサブユニットのmRNAも非産卵期では低かった。しかし,GnRHに対する反応性を調べると,非産卵期ではGnRH投与により放出と合成の活性が上昇したが,産卵期前では放出は高まったが合成は変化しなかった。産卵期前ではLHβサブユニット遺伝子の発現調節に関わる細胞内シグナル伝達系のGnRH応答性が変化することが示唆された。次に,ディファレンシャルディスプレイ法の一つであるGeneFishing法を用いて,両時期のLH細胞の間で発現量の異なる遺伝子の探索を行ったが,これまでのところ候補遺伝子は得られていない。使用した任意プライマーの数が少ないためと考えられる。
著者
木村 和弘
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

未妊娠の雌マウスにおいて肥満が乳腺発達異常(導管径の短縮と分岐数の減少、筋上皮細胞層の欠失とコラーゲン層の肥厚)をもたらすことを明らかにし、その異常の一部は脂肪細胞分泌因子レプチンに因ることを強く示唆した。一方、イヌ乳腺腫瘍組織より得た不死化細胞5株の増殖はレプチンにより影響されず、癌化に伴う応答性の変化が示唆された。さらに導管形成を促進する成長因子HGFの脂肪細胞における発現調節機構などについて検討した。
著者
畑 俊明 増田 好治 須見 尚文 松永 泰弘 紅林 秀治 江口 啓 碇 寛
出版者
静岡大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2005

(1)児童生徒自身でつくる「手作りセラミックス磁石」の創造的思考力に及ぼす効果児童は、石ころが磁化装置の中で簡単に磁化される状況に接すると、今までの磁力は絶対的なものであるという概念が一瞬にして崩壊し、磁力が付加できるものであるという概念が構築されると、磁力についての新しいイメージができあがり、磁石に異常に関心をもつようになる。本年度は、この実践を科学の祭典静岡大会、富士サイエンスプロジェクト、日本未来館での研究成果展示会などのイベントに参加し積極的に活動した。しかし、あくまでも、授業実践が主体であるので、静岡市の長田東小学校5年生を対象に、方位磁針を作成する授業を実践し手づくり方位磁針の製作を通して、子供達の独創性を刺激した。この創造的思考力が付く過程を脳科学的解析により解明すべく、他の脳科学者との交流も深めた。(2)児童生徒自身でつくる「手作りセラミックス磁石」利用での創造的思考力に及ぼす効果セラミックス磁石を応用したものづくり学習法は種々考えられるが大きくは2領域に限定する。それは、電気領域でのものづくり学習と、機械領域でのものづくり学習である。電気領域を担当するのは増田好治、江口啓で、増田・江口は、セラミックス磁石を用いたモータとそれを利用した発電機を教材化し、機械領域を担当する須見、松永は、磁気ライントレース型ロボットの教材化に取り組んだ。手づくりペットボトルモータの実践は、富士サイエンスプロジェクト、科学教育学会、静岡大学共通教育で実践し、子供たちの創造性を高めることに成功した。また、磁気ライントレース型ロボットでは、児童生徒が自分自身で「手作りセラミックス磁石」を作製しこれをレールとして利用し、その磁力を感知する新しいアイデアでのロボコン製作を行う教材を開発した。これらについて、紅林は教材としての価値について総合評価を行い優れていると判定している。
著者
松本 金矢 森脇 健夫 根津 知佳子 後藤 太一郎 中西 良文 滝口 圭子 上垣 渉 廣岡 秀一 八木 規夫
出版者
三重大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

医学教育において実践されてきたPBL教育を,教員養成学部において展開するための基礎的な研究を行った.教育周辺領域の様々な現場においてPBL教育を実践し,コンテンツの開発を行った.特に,学生・院生に旅費を支給し,大学より離れた現場でのPBL教育を実践することができた.現場での実践を大学において省察し,学生が教員からのアドバイスを受けるためのネットワークシステムとしてmoodleを用い,そのための専用サーバを立ち上げた.例えば美術教育において学内・外のデザイン製作を学生と教員が協働して手がけるなど,教科の専門性を活かした活動や教科を超えた協働活動を展開した.また,先端的な取り組みを行っている他大学研究機関・学会の調査のために,海外視察を4回,国内視察を5回行った.これらの視察では,学生・院生を引率し,他大学の学生との交流も実現した.特に,秋田大学,愛媛大学とは双方向での視察・交流を果たし,moodle上で恒常的な交流の場を設置した.PBL教育の教育効果を明らかにするために,評価方法の開発にも注力している.日本教育大学協会研究助成プロジェクト(カルロス研究会)との協働により、パフォーマンス・アセスメント(PA)を用いた評価法の開発を推進し、そのためのマニュアル作成を行った。このようなPBL教育の成果を学内外に発信・共有するために、学内で開催された4回の公開研究会と4回のボスターセッションにおいて発表し,愛媛大学・島根大学とのジョイントシンポジウムを1回開催した。また、これらの成果を学会において論文・紀要等により発表した。開発されたすべてのコンテンツはデータベース化し、専用ホームページを通して公開している。
著者
伊藤 尚 藤本 浩 長井 浩 藤本 浩 長井 浩
出版者
徳山工業高等専門学校
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

まず,小型で安価な風況調査用データロガーの開発を行った。その際,SD カード記録方式の更なる安定化および風況調査以外のアナログセンサー入力を考慮しての回路設計変更およびソフトウェアの改良を加えた。また,普及を推し進めるためのリーフレットも配布しながら,市場調査を行った。その結果,国内外で大手の風力開発企業や地元建設企業からの引き合いもあり,様々な環境下での風況調査試験が行われ,得られたデータの信頼性について検討を加えた。実際の教育応用について,再生可能エネルギー利用促進のための教育プロジェクト実例として,千葉県内の風力発電の盛んな地帯にある中学校において,環境教育の積極的な推進を展開するためにデータロギングを継続した。その結果,地域環境問題と地球環境問題を正しく理解させれば,風力発電施設の増設を希望する結論が得られた。データロガーを用いての環境エネルギー教育の有効性を示したものと考えられる。
著者
笠原 一人
出版者
京都工芸繊維大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

明治期に5回にわたって開催された内国勧業博覧会や大正期と昭和期のいくつかの大規模な博覧会を事例として資料を収集し、博覧会が都市の観光化に及ぼした事例を調査した。その結果、1895年に京都で開催された第4回内国勧業博覧会と平安遷都千百年紀念祭の開催時に都市の観光化が進められ、またその後の博覧会でも同様の手法が用いられたことが明らかになった。その手法は多彩で、道路整備や都市施設整備も見られるが、鉄道のネットワークの活用や観光案内書や錦絵、広告など、広義のメディアを駆使したイメージ戦略が目立つものであった。
著者
梶川 浩太郎 大内 幸雄
出版者
東京工業大学
雑誌
特定領域研究(A)
巻号頁・発行日
1999

近接場領域での非線形分光を実現することは、短時間で高感度な検出が可能な光学系が求められる。そのため、前回我々が報告したように近接場領域における非線形光学の観察には繰り返し周波数の高い超短パルスレーザーが用いられてきたが、数10ヘルツ程度の繰り返し周波数で10ナノ秒程度のパルス幅を持つレーザー光を用いた近接場領域における非線形光学の観察例はほとんどない。本研究では10ナノ秒程度のパルス幅を持つTiSaレーザーを用いた近接場光学顕微鏡を構築した。超短パルスレーザーでは問題となる光ファイバ中におけるパルス光のひろがりなどの問題が気にならないこと、イルミネーションモードを用いることが可能であること、レーザーの単色性がよく広い波長領域(λ=690-1000nm)でレーザー発振が安定であるため分光測定に適していること、レーザーの構成が単純であり光学系に特殊な技術を必要としない、などの利点がある。実験に用いた光源はNd:YAGレーザー励起のTiSa:レーザーを用いた。パルス幅は約10-15nsであり繰り返し周波数は10Hzと非常に低いため、SHGによる近接場光学顕微鏡像は難しい。そのため、試料形状はHeNeレーザー光などを用いて通常の線形光学像として観察をおこない、注目した領域をSHG観察する構成である。ナノ秒程度のパルス幅を持つレーザー光を用いることには以下の利点がある。この顕微鏡の構築が終了し、その性能を確かめるために有機色素分子の集合体の観察を行っている。
著者
伊藤 正 枝松 圭一 村松 宏 松村 宏
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1999

近接場光学顕微鏡(SNOM)のナノスケール分光と高機能化を研究した。1.ポリスチレン微小球配列結晶の近接場効果(1)結晶のフォトニックバンドに共鳴する波長をはさんで、SNOM透過光像が反転した。長波長側は球の周辺部、短波長側は球の中心部が明るい。共鳴付近では全体に広がった。この様子は計算でも再現できる。(2)照射モードと集光モードにおけるSNOM像は一致した。計算との比較によると、SNOMプローブは2次元面内に平行な偏光成分を主に検知している。(3)微小球の直径、プローブの開口径、光波長の3つの要素により、SNOM像は大きく変化するので、プローブの解像度を知る方法として有効である。(4)反応性イオンエッチングによって配列位置は変えずに微小球の大きさを削ると、フォトニックバンド幅が減少した。微小球に固有なWGモードの球間重なり積分の変化が原因であり、結晶中の電子のバンド構造形成と類似ている。2.高機能化(1)プローブの縦方向の位置制御用に水晶振動子を用い、非光化プローブを作製した。(2)クライオスタット内にSNOM装置を設置し、試料を熱伝導で約100Kまで冷やした。(3)ストレートタイプのプローブを用いて、偏光度測定の感度を向上させ、サブミクロンサイズのペリレン微結晶の方位を決定した。(4)石英ファイバープローブを用いた紫外光近接場測定や、バネ定数の小さなプローブにより基板に密着力の弱い微結晶試料の測定を可能とした。3.ナノスケール光加工(1)ペリレン微結晶表面への近接場光照射により直径100nm以下、深さ数10nmの穴を光加工できた。光生成された表面励起子が表面分子の蒸発又は光分解を引き起こすものと解釈される。(2)加工後の微結晶表面形状に経時変化が見られる。AFM観察により室温における表面分子の平均拡散速度は2-3nm/minと求まった。
著者
寺尾 日出男 石井 一暢 野口 伸
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1998

本研究はマシンビジョンで検出できる様々な情報の中でもとりわけ重要なものの一つである作物生育情報を検出することを目的とし,具体的には葉色測定による作物のクロロフィル濃度の推定,植被率算出による作物物理量の推定を行なった。開発したセンシングシステムを産業用無人ヘリコプタに搭載して,グランドベースセンシングよりも飛躍的に高効率なリモートセンシング法を考案した。リアルタイムビジョンシステムの開発 リアルタイムでセンシングを可能にする作物生育診断システムを構築した。マシンビジョンとしてDuncan Tec製MS2100を供試した。葉色予備実験や屋外での圃場実験を通してMS2100を用いた作物生育情報の検出手法を考案した。取得できた作物生育情報は葉色値LCI,植被率VCRであり,特にVCRに関して高いセンシング精度が見られた。この2情報を用いて実生長量指数RGIIという空間に存在するクロロフィルの絶対量を推定する指標を導入し,収量調査の結果と比較した。RGIIと収量である雌穂正味重量との相関はR^2=0.684となり,7月末の段階で収量を予測することができた。ヘリコプタをプラットフォームにしたセンシングシステム 無人ヘリコプタに搭載されたイメージングセンサMS2100から画像を取得し,GISでマッピングできるシステムを開発した。機体のロール角,ピッチ角,ヨー角の計測には,供試ヘリコプタに内蔵されている慣性センサを用いた。ポジショニングセンサとしてRTK-GPSを採用し,画像取得のためにイメージングセンサを機体下に搭載した。ヘリコプタの姿勢変化に伴い,画像に外部歪が生じるが,3次元の回転変換及び地表面への透視変換による座標変換を行うことで解決できる。画像データを座標変換し,マッピング精度を評価した。変換誤差は29cm以内であった。これは作物情報をセンシングする上で十分な測位精度と判断できる。
著者
鈴木 信雄 田畑 純 和田 重人 近藤 隆 近藤 隆 和田 重人
出版者
金沢大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

これまで超音波の骨に対する作用を解析した研究は、骨芽細胞の株細胞を用いたin vitro の研究が主流であり、骨芽細胞と破骨細胞の相互作用を解析する良いモデルがない。また歯の形成に対する作用においても、in vivo の系が主流であり、in vitro の良いモデル系が求められている。その機構を解析する硬組織モデルとして魚類のウロコとマウスの歯胚を用いて、低出力超音波パルスの影響を解析した。その結果、ウロコを用いて低出力超音波パルスの最適な条件を見出した。その条件では、歯胚の特に象牙質の形成に効果があり、ウロコを用いたGeneChip 解析により超音波に対する破骨細胞のシグナル伝達経路を初めて明らかにすることができた。さらに新規化合物の骨に対する作用も解析して、骨疾患の治療に有望な化合物を見出した。
著者
坂本 竜哉
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

本研究は、魚類の浸透圧調節ホルモン、特に昨年初めて鉱質コルチコイドの存在が示唆された副腎皮質ホルモンの作用を世界に先がけアップデートすることを目的としている。広塩性魚類の浸透圧調節器官の一つである消化管を用いる。消化管は海水中では上皮透過性が高まり水の吸収能が増大する。食道の分化におけるコルチゾルの作用機序を検討するため、器官培養系を確立した。分子レベルの解析のため遺伝子基盤の最も整った広塩性魚のメダカを選定した。アポトーシスはヌクレオソーム単位に断片化したDNAの酵素免疫法による測定から定量した。また、細胞増殖は代謝活性測定により定量した。血中濃度を反映した1〜1000nMのコルチゾルの効果を調べた。アポトーシスは10nMコルチゾル添加8日後に有意に誘導された。しかし、高濃度の100、1000nMでは効果が消えた。一方、細胞増殖はコルチゾルの濃度に依存して誘導され、1000nMの添加8日後で有意であった。これらの作用はいずれもGRのアンタゴニストによりブロックされた。また、DOCの効果は見られなかった。すなわち、コルチゾルは食道においてGRを介して、低濃度でアポトーシスを、高濃度で細胞増殖を誘導している。一方、DOC-MRの関与は少ない。従って、魚類ではミネラルコルチコイド系が同定されているが、グルココルチコイドが浸透圧調節の重役を担っていると思われ、副腎皮質ホルモン作用の進化の上で極めて興味深い。GRを介した双方向の作用は、コルチゾル-GRの標的遺伝子がコルチゾルの濃度により違うことによると思われる。現在メダカのオリゴヌクレオチドアレイによりその遺伝子の同定を進めている。
著者
斉藤 昇 島田 清司 塚田 光
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

鳥類の水分代謝機構の基礎的な解明と軟便などの家禽産業での問題点に対する解決策への応用として本研究を始めた。初めに、鳥類の抗利尿ホルモンであるアルギニンバソトシン(AVT)の遺伝子発現の機構を明らかにするために、急速な塩水投与を行い転写因子等の遺伝子発現等を解析した。その結果、AVT mRNAレベルは塩水投与後3時間に意な増加を示した。他に、c-fos mRNAレベルなども3時間後に増加した。それに対し、転写因子TonEBP mRNAレベルは、塩水投与後1時間に有意な増加を示した。この結果をもとに、TonEBPのアンチセンスを作成し、塩水投与前に前処理として脳室内に投与したところ、視床下部AVTの遺伝子発現は増加しなかった。しかし、c-fosの遺伝子発現には影響しなかった。この結果から、TonEBPがAVTの遺伝子発現調節に重要な転写調節因子であることが明らかになった。また、このようなAVT等の遺伝子発現機構が、塩水投与によりブロイラーでは影響が見られなかった。しがたって、ブロイラーで軟便が生じ易い理由が、AVTの遺伝子発現と関係がある可能性が示唆された。次に、腎臓における水の再吸収機構を解明するために、アクアポリンの遺伝子発現を調べた。AQP1、AQP2、AQP3、AQP4、AQP7、AQP9の6つのタイプで腎臓における発現が観察された。さらに、塩水投与により血中浸透圧が上昇した時における遺伝子発現の変化を調べたところ、AQP1、AQP2、AQP3のタイプのみが上昇し、他のタイプは、変化が見られないか減少した。したがって、ニワトリの腎臓における水の再吸収には、AQP1、AQP2、AQP3が主に関与していることが明らかになった。
著者
林 尚吾 桑島 進 HAYASHI Shogo
出版者
東京海洋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

船舶においてレーダを用いる場合には雑音とみなされる海面からの反射は、それをリアルタイムに除去するための方法はまだ確立されていない。実現のためには、船舶レーダの信号に含まれる波浪の特徴を詳細に検討し、波の向き、高さなとの状況を考慮した信号処理の開発が必要となる。視点を変えれば、レーダ信号から波に関する情報が得られる可能性もある。これまでは各研究者独自に大きな労力を払って収集してきたレーダのデータを、ここでは、個々の目的に応じた信号処理に利用できるデータのセットとしてまとめた。統一フォーマットでまとめることにより、各研究者の信号処理アルゴリズムの定量的な比較・評価にも利用できるものである。観測は新潟県上下浜周辺および弥彦山周辺、静岡県御前崎周辺および駿河湾、神奈川県相模湾および東京湾、富山県新湊周辺、千葉県九十九里浜、茨城県霞ヶ浦などで行なった。さまざまな気象・海象状況において、波に対する向きおよび海面からの高さなどを変えて収集・記録した。レーダ信号の記録と同時に、気象・海象情報、波浪状況の記録も行なっている。レーダ信号は方位方向に約0.1度間隔、距離方向に15cm間隔を基本として収集したため膨大な量のデータとなったが、バイナリーデータでCR-RあるいはDVDに記録することにより比較的容易に提供可能な形式とすることができた。また一部のデータはインターネットによる公開、配布も可能である。
著者
岡室 博之 港 徹雄 三井 逸友 安田 武彦 高橋 美樹 堀 潔 原田 信行 本庄 裕司 福川 信也 土屋 隆一郎 加藤 雅俊 濱田 康行 村上 義昭 鈴木 正明 柴山 清彦 島田 弘 池内 健太 西村 淳一
出版者
一橋大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2008

2007年1月以降の新設法人企業に対して、2008年11月以来4回の継続アンケート調査を実施し、特に研究開発型の新規開業企業の創業者の属性や資金調達・雇用、研究開発への取り組みと技術成果・経営成果等について独自のデータセットを構築した。それに基づいて、新規開業企業の研究開発に対する創業者の人的資本の効果(資金調達、技術連携、イノベーション成果)を計量的に分析した。さらに、政府統計の匿名個票データを入手して自営開業について統計的分析を行い、アンケート調査に基づく分析を補完した。また、知的クラスターに関するアンケート調査と訪問調査を実施し、クラスター政策と新規開業・イノベーションの関連等を考察・分析し、国際比較を交えて関連政策の評価を行った。
著者
藤本 正行 寿岳 潤
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

本研究の目的は、未だ発見されていない、われわれの宇宙の最初に形成された恒星=種族III星の探索の可能性について、理論的、観測的に検討を加えることである。これら恒星は、ビッグ・バンで合成された始原物質からなり、全く、炭素以上の重元素を含まず、また、宇宙史の極初期に形成されたので現在も核燃焼段階にあるのは、初期質量が太陽の約0.8倍以下の長寿命のものに限られる。これまで、種族IIIの低質量星は、ヘリウム燃焼が始まる段階で窒素過多の炭素星になることが知られているが、本研究では、連星系での質量交換も考慮に入れて、範囲を拡大した初期質量と初期金属量の関数として、進化の描像を求め、[Fe/H]<-2.5の超金属欠乏星は、金属量の多い若い種族と異なった、炭素星の形成機構を持つことを示した。この結果は、現存の金属欠乏星で炭素星の割合が増加することを説明する。理論的に、金属欠乏星の特性、その同定に必要な観測的な特徴を明らかにするとともに、この結果を踏まえて、これまでの観測で種族III星が発見されていないことがその不在を意味するのか否かについての批半的な検証を行った。明らかになったのは、現存の探索で用いられたカルシウムのH、K線は、種族III星の探索に効率が悪いこと、それに替わって、炭素と窒素の分子線を用いて窒素過多の炭素星の中に種族III星の侯補を探る新たな方法を提唱した。窒素と炭素の組成比を使えば、さらに、超金属欠乏星との識別も可能であることを示した。それと平行して、共同研究者と協力して、東京大学木曽観測所のシュミット望遠鏡で2KCCDを用いて試験観測を行い、それを通して、提唱した探索方法の実行可能性、優位性を証明することができた。
著者
山内 辰郎 阿部 フミ子
出版者
福岡大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1993

キョウチクトウ(Nerium indicum Mill.)葉には強心配糖体が高濃度に含有されており、葉を食草とするキョウチクトウスズメガ(Daphnis nerii L,以下D.nerii)の幼虫は強心配糖体を摂取し蓄積する可能性があるにもかかわらず、体色は明らかに保護色を呈している。幼虫が強心配糖体をいかに処理しているかを知るために、葉、幼虫、および幼虫の糞(以下frass)について強心配糖体の比較検討を行った。葉、幼虫、frassの抽出エキスのHPLCによる比較を行い、さらに各々のエキスについて通常のカラムクロマトを行って含有強心配糖体の単離、同定を試みた。葉においては主配糖体であるoleandrin gentiobiosideをはじめ、odoroside A,adynerin,D^<16>-adynerinなどがgentiobiose基を結合したtriosideとして得られたが、monosideとしても比較的少量のoleandrin,adynerin,odoroside A,D^<16>-adynerinなどが得られた。葉におけるoleandrinとadynerinの比は明らかにoleandrinが主配糖体であることが確認された。これに対し、幼虫およびfrassでは配糖体はすべてgentiobiose基が加水分解を受けてmonosideに移行している。またoleandrinは16位アセチル基も鹸化されてdeacetyloleandrinに変化していることが、oleandrinの減少、deacetyloleandrinの増加から明らかになった。この結果、幼虫およびfrassエキスでは、主配糖体は非活性のadynerin,次いでdeacetyloleandrinでありoleandrinは少なく、とくに幼虫のエキスではHPLCにおいても非常に低いピークが観察されるのみであった。したがって、虫体内の強心配糖体は質的にも毒性の弱い構成と考えられ、幼虫にとって保護色は必要と推定された。Frassから得られたadynerinの収量は異常に高い値を示し、幼虫におけるadynerinは、キョウチクトウ葉の成分中もっとも高い濃度で虫体から検出されたursolic acidとともに、その虫体における意義についてさらに検討する必要がある。
著者
川畑 義裕
出版者
鹿児島大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1999

報告者は現時点まで、1)歯周病関連グラム陰性菌のリポ多糖(LPS)、グラム陽性菌の口腔レンサ球菌全菌体、Micrococcus luteus全菌体あるいはその粗細胞壁画分などを、細菌細胞壁ペプチドグリカンの要構造に相当する合成ムラミルジペプチド(MDP)を前投与したマウスに静脈注射すると、アナフィラキシー様ショック反応を惹起する事実、2)LPSによって誘導されるショックの機序として、血小板の末梢血から肺への急激な移行と、血小板の臓器での凝集、崩壊に随伴した急性の組織崩壊が成立し、MDPは本反応を増強している事実を明らかにしてきた。さらに、3)抗補体剤を供試した実験から、本ショック反応には補体が関与していることを突き止めた。そこで、本研究の当初の立案した計画に基づいて、マンナンやラムノース、グルコースなどを構成多糖として含有する口腔レンサ球菌の細胞壁がレクチン経路により、補体を活性化し、血小板崩壊に続発して本アナフィラキシー様ショック反応が起こるとの仮説を提起し、その真相究明を手掛けた。口腔レンサ球菌の研究が進行していく中で、コントロールとしてのマンノースポリマー(MHP)を構造的に具備したKlebsiella O3(KO3)LPSに極めて強力なショック誘導作用が認められたので、当初の計画を軌道修正し、MHP保有LPSを供試する実験を実施した。その結果、1)MHP保有LPSが強力な血小板反応を惹起すること、2)MHP保有LPSは、ヒトマンノース結合レクチン(MBL)と結合して、血清中のC4を捕捉して、補体系を活性化することを証明し、論文にて発表した。
著者
大江 瑞絵
出版者
関西学院大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

平成19年度は、まず、メキシコ・ユカタン州ヤシュナ村で、ゴミ分別プロジェクトと合わせて、地域住民によるエコツーリズム産業について聞き取り調査を行った。また、文化や自然環境、遺跡を楽しむことを目的に村を訪れ、村のゲストハウスに宿泊した観光客へのアンケート票調査結果と聞き取り調査結果を分析し、村民と観光客の間で意識の差が見られること、村民がどう応えていけば良いかがわかっていないことなどが明らかになった。今後、経営の観点からもワークショップを行っていく必要がある。インドネシアでは、Micro Hydro Power (MHP)事業を展開する現地NGO IBEKAが、2004年にUN-ESCAP(国連アジア太平洋経済社会委員会)と行ったジャワ島中部のCINTA MEKAR村で現地調査を行った。IBEKAは、MHP事業を行う際、企画の段階から地元住民とワークショップを行い、住民同士が、状況や問題、事業に関する情報を共有する機会を設け、参加型開発を実践している。特に、この事例では、住民自らが話し合いを通じて、電力未供給家庭を明らかにすると同時に、電力会社へ電力を販売することによって得られる収入を組合で管理を行い、また、その使途についても意思決定を行っている。3年の間に、電力供給が進み、学校や医療施設に補助がされるようになり、村の状況も改善されつつある。聞き取り調査の結果から、当初の使途はより福祉に重きをおかれていたが、マイクロファイナンスなどの村民の経済的自立を支援する事業への配分の重要性が増していることが明らかになった。今後、村民間の過度な経済格差が生じないように配慮しつつ、経済的自立と社会福祉向上を達成していく必要がある。これらの研究から明らかになった要因をさらに分析し、地域型環境管理に参加型開発手法を取り入れたインドネシアの事例を、メキシコの事例に応用していく。
著者
高田 春比古 根本 英二 中村 雅典 遠藤 康男
出版者
東北大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1998

先に申請者らは、歯周病に深く係わるとされるPorphyromonas gingivalis,Prevotella intermedia等の黒色色素産生菌(BPB)のリポ多糖(LPS)をマウスに静脈注射すると、通常のLPSでは報告のない全身アナフィラキシー様反応を惹起する事を見出した。さらに、この反応の背景には血小板の末梢血から肺・肝等への急激な移行と、臓器での凝集・崩壊、それに続発する急性の組織破壊が起こる事を明らかにした。これらの反応の機序解明を目指して、補体系との係わりに焦点を絞って研究した。研究にあたっては、アナフィラキシー様反応惹起能が強いKlebsiella 03(K03)のLPS(愛知医大・横地高志教授より分与を受けた)を主として供試した。その結果、1.先天的に補体因子C5を欠くDBA/2マウスやAKRマウスではアナフィラキシー様反応や血小板の崩壊が起こらない。2.C5抑制剤K-75 COOHを予め投与されたマウスやコブラ毒素を投与して補体を枯渇させたマウスでも、アナフィラキシー様反応や血小板崩壊が起こらない。3.補体活性化作用が弱いKO3変異株のLPSでは、血小板の一過性の肺・肝への移行はみられるが、やがて血液に戻り、アナフィラキシー様反応も認められない。これらの知見はLPSによって惹起される血小板-アナフィラキシー様反応には補体活性化が必須がであることを示唆している。報告者は、K03 LPSの0多糖部のマンノースホモポリマー(MHP)がレクチン経路(近年解明された第3の補体活性化経路)を介して補体を強力に活性化して、集積した血小板を崩壊させ、アナフィラキシー様反応を惹起するとの作業仮説を立てた。実際、4.Esherichia coli 0111:B4にMHP合成遺伝子を導入した変異株のLPS(横地教授より分与)では、親株のLPSに認められない強力な血小板反応とアナフィラキシー様反応惹起作用が認められた。今後、歯周局所でもBPB LPSによって、同様の機序による急性炎症が惹起されている可能性を探究する予定である。