著者
谷田 創
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

近年「食育」の重要性が指摘されるようになり、全国各地で乳幼児から高齢者まで様々な年齢層を対象とした食育が試みられている。米作り、イモ掘り、野菜の栽培など、農業体験を通して子ども達に食生産の大切さを学ばせる試みは以前から行われており、小中高の学校教育に「総合的な学習の時間」が取り入れられたことで再び脚光を浴びているが、これらは一過性の体験に留まっており、体系的な教育とはなっていないのが現状である。また、子ども達が生きた家畜に触れたり、見たりする機会は大幅に減少している。広島大学附属農場では、遠足や社会見学など地域の幼児及び児童を広く受け入れているが、家畜に触りたがったり、餌をやりたがったりする子どもがいる一方で、触りたいけれども恐くて手が出せなかったり、牛の大きさに驚いて泣き出してしまったり、畜舎に入ろうとしない子どもなど、家畜を見る体験が初めてという行動を取る園児がほとんどであり、「農」や「家畜」との分離を目の当たりにしている。本研究は、食材から食事までを扱う「食育」に加え、家畜を介在した教育を効果的に組み合わせることで、幼児に「食」「食材」「食を支える家畜」の関係性を認識させることを目的とし、そのための基礎的データを収集した。その結果、幼児に対する家畜を介在させた食農教育(家畜介在型食農教育プログラム)を実践することで、一般社会の食農リテラシーを高めることが可能となり、人と家畜との関係性も向上することが示唆された。今後は、様々な教育機関で実践可能な家畜介在型食農教育プログラムを開発することで、人及び家畜の福祉の向上、食の安全性の向上につながるものと考えられた。
著者
名久井 孝義
出版者
仙台電波工業高等専門学校
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

この報告書では,研究課題に関して以下の観点から日本の明治期における女性スポーツ(主にボールゲーム,体操,柔道,戸外運動<アウトドア・スポーツ>)の性差について歴史的事実の掘り起こしと言説分析を行った.その1つは,生物学的性や性差を形成してきた医学・衛生学的言説と女性性や性差の社会規範を形成してきた社会・教育的言説の対峙性と相補性に着目した.2つ目は,体操を含めた欧米スポーツと日本的スポーツ,さらに国内外の戸外運動と女性性・性差の創造や変革との関連性に着目した.しかもその分析は,制度的資料以上にスポーツする側の女性が立ち現れる教育現場(ローカルな資料)の資料に基づいた.この論文では,既存の制度史研究での知見を補う女性スポーツの歴史的展開を提示した.研究の結果,女性スポーツにおける女性性や性差の創造と変革には,医学・衛生学的言説(科学的知)と社会・教育的言説(思想・実践的知)が時系列的に対立物の統一となって立ち現れた.しかも社会・教育的言説による女性性・性差(いわばジェンダー)の変革の転機は,前世紀初頭の国民国家形成期に胎動し,高等女学校の制度化と連動していた.明治期の女性スポーツでは,欧米女性スポーツと日本的スポーツが,「稽古の思想」「技術化の思想」という形で発見・創造され,両者が文化習合するなかで女性性を「品性=淑女=レディ」を育む教育方法として位置づけられて展開した.加えて,女性の自転車乗り(サイクリング)・登山(遠足を含む)などの戸外運動がステータス・シンボルとなり,女性へのスポーツ解放を促進した.
著者
守口 絵里
出版者
明治鍼灸大学
雑誌
若手研究(スタートアップ)
巻号頁・発行日
2007

軽度発達障害、なかでも行動に障害を有するADHDをもつ子どもの集団生活における安全管理あるいは見守りという点でのICタグの有用性を検討するために、本研究では、疾患の有無を問わず一般の保育園に通う子どもを対象としてICタグシステム(RFID)を用いた実験を行った。実験の結果、保育士の背後にいる子どもが離れた際に保育士がその情報をすぐにキャッチできるという点で本システムは有用であった。ICタグシステムに対する保育士のニーズとしては、遠足のようにさらに大きい集団を引率する必要がある場合に、子どもの活動範囲も拡大するため有効であろうとのことであった。ただし、本実験のように研究者が同行しない状況下で使用するためには、アンテナを簡易に保持できることが求められる。ADHDを幼児期から鑑別することは難しい例が非常に多い。本研究の対象者にはADHD児は含まれておらず、多動性のみられる子どももいなかったため、ADHD児にとってのRFIDシステムの有用性についての確認はできなかったが、アラーム信号の頻度から多動性を推測し、経時的に子どもの行動をフォローアップすることは可能であると考える。
著者
三俣 昌子 江角 眞理子 楠美 嘉晃 安孫子 宜光 東 浩介
出版者
日本大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

第一に血流下における内皮の増殖と粥状硬化発症の関連を検討した。層流性ずり応力に比べ乱流性ずり応力は内皮の増殖と単球接着を増加させた。内皮の増殖を抑制するp21^<Sdi/Cip/Waf1>(p21)は乱流による単球接着増加、内皮のTXNIP,VCAM-1,CCL5,CXCL10,L-selectin発現を抑制した。血流下でp21は単独で、または内皮の増殖抑制を介して、内皮のレドックスバランスを抗酸化状態へ導き、接着や遊走因子発現を阻止し、単球接着を抑制して抗粥状硬化性に作用すると思われる。第二に、粥状硬化発症への歯周病菌(Pg)の関与を検討した。ヒト大動脈のAtheromaのマクロファージにPg由来r40kDa蛋白が存在し、Fatty streak,DIT、冠動脈のAtheromaには認めなかった。Pg由来LPSで刺激した単球の培養上清は内皮のTLR2 mRNAを発現させ好炎症性に作用した。
著者
中村 卓司 SZASZ Csilla
出版者
国立極地研究所
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

本研究では、北半球中緯度で最も高性能な流星レーダーとして稼動できる京都大学の大気観測用大型レーダーであるMUレーダーを用いて、種々の散在流星ソースの流星フラックスの変化を明らかにするとともに高緯度のEISCATその他のレーダーの結果と合わせてグローバルな流星数の季節変化分布を明らかにすることを目的としている。本年度は下記のように極めて順調に研究が進展した。1)データ解析とデータベース化 前年度から継続して、MUレーダーによる毎月24時間のキャンペーン観測を実施した。集積した流星ヘッドエコーデータは1年分以上にのぼり、これを解析し輻射点の天球上のマップの年周変化を得ることに成功した。すなわち、ソース(太陽、半太陽、向点方向など)毎の季節変化とその特性を明らかにした。また、光学観測との比較から流星エコーの対応する光度と質量範囲を推定した。散在流星の他、ヘッドエコー観測による群流星は希少であり詳しく解析した。とくに、10月のオリオン座流星群については2009年のアウトバーストを捉えることに成功し、レーダー散乱断面積とエコーの空間分布から、レーダーの観測空間範囲を精密に推定し、流星フラックスを求めることに成功した。オリオン座流星群は、2010年も観測時間を拡大して観測し、現在解析中である。以上のデータは、光学観測データとも合わせてデータベース化している。2)EISCAT他のレーダーとの比較検討 特別研究員がこれまで解析研究たEISCATはじめ種々の緯度(高緯度、低緯度)のレーダー観測データとMUレーダーの結果、性能を比較した。また、南極域初の大型大気レーダーとなるPANSYレーダーでのヘッドエコー観測が南天を含めた全天の流星をカバーする上で重要であることを示した。以上の研究結果は国際会議で発表し好評を得ており、論文誌に投稿(改訂)中である他、継続して数編を執筆中である。
著者
橋本 隆
出版者
奈良先端科学技術大学院大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

γチューブリン環状複合体gTuRCは酵母、動物から植物まで保存されており、γチューブリン2分子とGRIPモチーフをもつGamma-tubulin Complex Protein 2(GCP2)とGCP3それぞれ1分子ずつから成るキャップサブユニット小複合体とさらにGCP4,GCP5,GCP6,GCP-WD(NEDD1)が追加された環状複合体が存在する。我々はアラビドプシスのGCP2とGCP3に蛍光タンパク質を融合させてゲノム制御領域を用いてmCherry-TUB6微小管標識アラビドプシス植物体で発現させ、微小管重合開始点をin vivoイメージングした。大部分のgTuRCは表層微小管上に出現する。そのうち約半分のgTuRCは短時間(5秒以内)に消えるが、残りの約半分は微小管上に出現してから5秒以内に新たな微小管を形成する。新生微小管の6-7割は約40度の角度で伸長するが、それ以外は既存の微小管に沿って伸長し、束化が起こる。カタニン変異株ではgTuRCは重合開始点に留まり、新生微小管が既存の微小管から切り離されることはなかった。従って、カタニンがgTuRCと新生微小管のマイナス端の間付近の構造を認識して、表層微小管の重合開始点からの切り離しを行っていると推測される。アラビドプシスにはEB1a,EB1b,EB1cの3種類のEB1があるが、EB1a,bは主に間期の微小管に局在し、EB1cは核内に局在し分裂期の微小管の機能を制御している。eblc変異株では紡錘体微小管とフラグモプラストの配向が乱れており、微小管薬剤に対して高感受性を示す。EB1cの分裂期微小管制御機能にはその特徴的なC末端が必須であり、EB1a,bでは代替できなかった。
著者
廣島 文生 伊東 恵一 寺本 恵昭 島田 伸一 廣川 真男 松井 卓
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

平成17年度-19年度科学研究費申請時に掲げた研究目標(a)-(e)にそって研究成果の概要を述べる.(a)基底状態の縮退度の評価:埋蔵固有値の縮退度の上からの評価を与える一般的な方法を構築した.またスピンを含む場合には対称性から基底状態の縮退度が少なくとも2以上であることを示した.スピンを含むハミルトニアンが生成する熱半群を「スカラーな積分核」で表現し,新しいエネルギー不等式を発見した.(b)基底状態の高次regularityと非存在:新井,廣川との共同研究で任意次数のregularityを示した.また赤外発散があるときには個数作用素の1/2乗の定義域に含まれる基底状態が存在しないことを示した.(c)Gibbs測度の確率論的解析:確率2重積分を含む連続パス空間上の確率測度の族のtightnessをV.Betzとの共同研究で示した.(d)くりこみ理論:場の理論の模型には有効質量が定義される.結合定数で展開したときの係数の発散のオーダーの物理的な予想は対数発散であるが伊東との共同研究で多項式的に発散することを示した.(e)全運動量を固定した模型の解析:ハミルトニアンを汎関数積分表示して解析した.全運動量=ゼロでの基底状態の存在が知られている.我々はこの基底状態が一意的であることを証明した.スピンがある場合には非連続なパス空間上の測度をつかった汎関数積分表示をJ.Lorincziとの共同研究で得た.その結果ある種のエネルギー不等式を示した.またその応用としてスピン-ボゾン模型の基底状態の一意性を廣川と共同で示すことが出来た.
著者
石井 健一朗 杉村 芳樹
出版者
三重大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

本研究により、TGFβ/BMPシグナルの活性化が前立腺間質において筋線維芽細胞様の分化誘導に働くことを示した。よって、TGFβ阻害剤により筋線維芽細胞への分化誘導を阻止することが出来れば、肥大症結節の発生や癌細胞の悪性化を抑える新たな治療法や分子標的薬剤の開発に結びつくと考えられた。
著者
赤星 軌征
出版者
秋田大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

硫黄を含むメチオニンをシステインに代謝する経路の2酵素Cystathionine β-synthase (CBS)とcystathionine γ-lyase (CSE)の欠損は,前者は重篤な病態だが,後者は顕著な症状はない。マウスでは両酵素は肝臓や腎近位尿細管に強く発現するが,本件は不明点の多い腎での生理的役割を探索した。CBS欠損マウスでは毒性の高いメチオニンの尿中排泄の効率が低いのに対し,CSE欠損マウスではCBSによる代謝物の排泄効率が高く,両者の病態差に関わると考えられた。また一見正常なCSE欠損マウスでも妊娠高血圧腎症様の病態があった。両酵素は血管弛緩因子の硫化水素を産生するが,腎内の硫化水素は両酵素の発現部位に高濃度に存在しており,病態への関与が考えられた。
著者
荒瀬 尚
出版者
大阪大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2010

マラリアの制御には宿主免疫応答が非常に重要な役割を担っている一方、マラリア原虫には様々な免疫制御機構が存在すると考えられている。一方、我々は、持続感染するヘルペスウイルス等のウイルスには抑制化レセプターを介した免疫逃避機構が存在することを明らかにしてきた。しかし、ウイルスと同様に宿主免疫機構と密接な相互作用をするマラリア原虫に同様な分子機構が存在するかどうかは明らかになっていない。そこで、本研究では、マラリア原虫による抑制化レセプターを介した新たな免疫逃避機構を追求した。その結果、マラリア原虫感染赤血球に抑制化レセプターのリガンドが発現していることが明らかになった。さらに、リガンド分子の同定を試みたところ、マラリア原虫由来の分子がリガンドであることが判明し、マラリア原虫の新たな免疫逃避機構であると考えられた。
著者
駒込 武 冨山 一郎 板垣 竜太 鳥山 敦
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010-04-01

本研究では、近代日本において「辺境」とされた地域において空間的移動と社会的移動の可能性がどのように開かれていたのか、その中で学校教育がどのような役割を果たしたのかを解明した。具体的には、奄美諸島の経験を基軸としながら、かつて日本の「植民地」とされた台湾・朝鮮や、「内国植民地」と称された琉球諸島・北海道を含めて、これらの地域に生きる人びとが高学歴の取得を通じて脱「辺境」を志向しながらも、その試みが挫折したプロセスを分析した。また、いわば「法制化された不自由」が存続した時代に構築された資本格差が、「法制化された不自由」撤廃後の不平等を存続させるための重要な因子としての役割を果たしたことを指摘した。
著者
岩崎 仁 萩原 博光 坂東 忠司 安田 忠典 中瀬 喜陽 土永 浩史 土永 知子
出版者
京都工芸繊維大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

驚異的な「博物学的知識」が南方熊楠の第一の特徴であるが、一方で彼は日本の先駆的自然保護活動家として評価されている。本研究によって、彼の自然保護活動は、熊野地方を対象とした緻密な自然生態系調査、特に1900~1904 年の那智における植物標本採集を中心としたフィールド調査を絶対的な基礎としていることが明らかとなった。さらに、この時期の植物・生態学的な研究活動が、後に形成される熊楠の思考体系全体、民俗学や宗教学的側面にまで深く影響していることがわかった。
著者
田村 孝
出版者
千葉大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

今年度は、ペルガモン王国の遺した遺物(美術品)について、集中的な研究を行った。第一に、8月にベルリンのペルガモン美術館を再訪し、ここに所蔵されている「ゼウスの大祭壇」に施されている浮彫の実見と写真撮影をおこなった。この王国がいかなる意図をもってこのような巨大な浮彫を造り、公衆の目に触れるところに展示したのかは、王国のおかれた国際的な立場や国王権力の大きさを表象していると考えられるが、そうした意義を深く追求かつ考察するためにも、まず実見が重要なのである。さらに平成19度の訪問した際に見られなかったペルガモン国王「アッタロス一世」の頭像も実見・撮影した。第二に、同じ調査旅行でローマ国立博物館所蔵の「妻を殺して自害するガリア人の首領像」、「アッタロス二世全身像」、またヴァティカン美術館に所蔵されている「ガリア人頭像」、「戦うペルシア人像」、カピトリーニ美術館所蔵の傑作「瀕死のガリア人像」、ナポリ国立考古学博物館に所蔵されている「エウメネス二世青銅頭像」、「フィレタイロス頭像」などペルガモン彫刻の傑作(あるいはその模刻像)を実見し撮影に成功した。第三に、J.J.Politt, Art in the Hellenistic Age, Cambridge, 1986(2008) ; F.Queyrel, L'autel de Pergame, Paris, 2005を始めとするヘレニズム時代の美術史(彫刻史)関係の著作を精読した。これらは古代東地中海世界のヘレニズム諸王国がおのれの政治権力を内外に広く知らしめる表彰として、神話世界における大征服物語に関する浮き彫りを施した巨大記念建築物を造りあげたことを詳述した著作で、ヘレニズム時代における一王国が戦乱の相次いだ時代をどのようにして生き抜いていったのかを考察する上で極めて重要な意義をもつものなのである。
著者
小濱 靖弘 三村 務
出版者
大阪大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1992

魚類由来ACE阻害ペプチドtuna AIの血管内皮細胞機能への作用を牛大動脈内皮細胞(BAEC)培養系を用いて解析した。アンジオテンシン11産生-BAEC培養系におけるアンジオテンシンIからIIの産生を多形核白血球(PMN)の遊走法(Boyden法)で測定したところ、tuna AIはこの系におけるアンジオテンシンII産生を抑制した。遊走、増殖-血管損傷や血管新生時に最初に起こる現象の遊走、増殖について、テフロンフェンスで接触阻害したBAEC培養系を用いて調ベた。Tuna AIは内皮細胞の遊走、増殖を増強した。また、tuna AIはBAECにおけるインターロイキンI産生およびマイトーゲン(PDGF,c-myc)のmRNAの発現量を増加し、これらの作用は遊走、増殖の増強につながる変化と考えられた。しかし、tunaAI自身は増殖因子活性及びプロテアーゼ阻害活性を示さなかった。抗血栓性- ^3H-アラキドン酸を取り込ませたBAECからのアラキドン酸及び抗血栓性PGI_2の遊離に対して作用を示さなかった。血管トーヌス-内皮細胞が産生する最も強力な血管収縮物質エンドセリンの産生を有意に抑制した。一方、弛緩物質のNOの産生に対して作用を示さなかった。血管内皮細胞に備わっている様々な生理機能の傷害ならびにそれにともなってもたらされる細胞膜等の構造破壊は動脈硬化や心筋硬塞の初期病変として注目されている。また血管平滑筋やコラーゲン繊維等の基底膜を含めた血管壁における様々な液性因子による機能調節機構が次第に明らかとなってきている。今夜、食品ペプチドの血管内皮細胞に対する作用のメカニズムの解析とともに食品の第三次機能因子としての有用性についてさらに研究を進めて行きたいと考えている。
著者
緒形 康 嘉指 信雄 田中 康二 樋口 大祐 濱田 麻矢
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

具体的内容 3年間の研究成果をまとめた学術論文集の執筆を中心とした活動を行い、緒形康編『一九三〇年代と接触空間-ディアスポラの思想と文学』双文社出版、2008年3月を出版した。意義 一九一四年から四五年における神戸の文化研究を進める中で、仁川、釜山、ソウル(韓国)や青島、上海、広州、台北(中国・台湾地域)等と神戸が有したネットワークが、複数文化の共生の技法を生み出す上で重要であることが明らかになった。本書は、そうした東アジア海港都市のネットワークが大きな社会的・文化的な役割を担った一九三〇年代を取り上げ、総力戦・戦時動員体制・ファシズムといった様々な位置付けがなされてきたこの時代を新しい視点から再考した点に学術的意義がある。重要性 一九三〇年代における亡命やディアスポラは、既存の国家や共同体からの離脱という形だけではなく、共同体内部の再編、あるいは個人の内面における転向や共同幻想の再編という形でも出現した。その先に現れるのは、様々な背景を持つ異文化間の「接触空間」(contact zone)である。本研究の重要性は、異文化の対立と衝突を超えて共生し合い、領有化された新たな接触空間の可能性を、亡命とディアスポラという政治的・文化的背景の中に探ろうとしたことである。
著者
遠藤 泰弘
出版者
松山大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

従来必ずしも本格的な研究対象とはされてこなかった、第二帝政期ドイツの穏健的自由主義思想を、積極的な政治秩序構想の1つとして評価できることを示した。具体的には、ドイツ団体思想の大家オットー・ギールケ(1841-1921)と、その弟子でありヴァイマル共和国憲法の起草者であったフーゴ・プロイス(1860-1925)の国家論を、同時代の支配学説との対比において理解し、「不徹底」と評価され続けてきたギールケ国家論は、まさに「不徹底」であるがゆえの絶妙のバランスを保っていたのであり、この点をむしろ政治構想としての強みとして積極的に評価しうることを明らかにした。
著者
秋山 弘之 山口 富美夫
出版者
兵庫県立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

(1) 屋久島の蘚苔類相については, 新種2種を含む, 蘚類44科160属, 355種1亜種18変種2品種, 苔類37科87属304種2亜種2変種, ツノゴケ類1科5属6種が屋久島から報告されていることを確認した.我々の調査手法により, 68年ぶりに生育を確認されたフウチョウゴケに代表されるように, 多数の絶滅危惧植物の屋久島における分布状況が把握された. その一方, 20年前には豊富に産していた葉上着生苔類の減少が著しいことが明らかと成った.(2) 屋久島における蘚苔類の種多様性は, 淀川小屋周辺の林内にあることがわかった. 一方, 屋久島低地亜熱帯林から報告されている種については, 今回の調査でも確認することができない種が少なくなく, この地域での保全活動が緊急であることが示された.(3) 屋久島産ケゼニゴケには, 2倍体と3倍体の集団があり, それぞれ低地と高地にすみわけを行っていた.また, 屋久島3倍体は本州の3倍体集団に較べ, 琉球地域の2倍体集団に遺伝的により近いことがわかった.
著者
田中 規夫 湯谷 賢太郎
出版者
埼玉大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

本研究は(1)ヒメガマとマコモの刈取り後の生長特性の比較と、(2)ダメージを受けたヨシとオギの競合優位性の変化の解明、の2点に大きく分けられる。ヒメガマの地上器官に対する水面上時期別刈取りを2003年5,7,8月に,マコモの7月刈取りを2003年に実施した。刈取りの影響は刈り取った後の葉の再成長特性,地上部・地下部バイオマス,芽の特性,地上部・地下部中のTNC含有率の動態により,両種の戦略の相違を把握した。2003年7月刈取りの影響を同年12月における地下茎量で調査したところ,ヒメガマは刈取らない場合より約30%減少したのに対し,マコモはほとんど減少しなかった。ヒメガマは茎の根元に形成される芽の構成率を拡大に関連する芽に比して大きく減少させたのに対し,逆にマコモは増加した。刈り取られたシュートを急激に再成長させるヒメガマとは対照的に,マコモは一次シュートの再成長に加え,その場の占有を高める二次シュートを多数成長させ地下茎量を維持している。生長モデルの応用に関連して、ダメージを受けたヨシとオギの優位性の変化を解析した.オギ・ヨシともに折れる規模の洪水を導入した場合,洪水導入間隔1年であれば両種とも群落の維持が危うくなる.洪水導入間隔が2〜5年程度であれば,混成群落が続く可能性があり,洪水間隔が大きくなると,オギの優位性が回復しヨシはオギに駆逐される可能性がある.そして自然再生を図る上で洪水導入を検討するのであれば,洪水間隔2〜5年が適当であり,ヨシのみが折れる規模の洪水導入は避けるべきであるといえる.
著者
松村 寿枝
出版者
奈良工業高等専門学校
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究では,音声分析を用いた疲労検出システムの開発を目的にシステムの構築を行った.まずVDT作業後の音声データを収集し,音声分析を行い,基本周波数,パワー,継続時間長を求めた.結果,疲労時には約55.6%のデータで,基本周波数の低下,平均パワーの低下,継続時間長の増加がみられた.次に上記の特徴量を用いた疲労検出システムを構築した.その後10名の被験者で使いやすさの評価を行い,その評価を参考にシステムの改良を行った.結果,本システムは使いやすさが向上した.
著者
中澤 篤史
出版者
一橋大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2009

日本固有のスポーツのあり方である運動部活動は、いかなる構造の中で存立している/してきたのか。本研究では、運動部活動の存立構造を明らかにするために、ボランティアとしての教師の積極性に注目し、なぜ教師が運動部活動へ積極的にかかわるのかを、質的・歴史的アプローチから明らかにすることを目的とした。質的アプローチからは、中学校運動部活動へのフィールドワークで得られたデータを下に、顧問教師の運動部活動への意味づけ方を考察した。歴史的アプローチからは、戦後から現在までの運動部活動そのものと顧問教師のかかわり方の変遷を考察した。