著者
杉村 使乃
出版者
敬和学園大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

第一次世界大戦終結から第二次世界大戦下のイギリスにおける文学史を考える上で、この間に出版された文学作品に表れる女性の表象、およびその文化背景について考察した。表象の分析おけるポイントは、女性の「労働」が社会でどのように迎えられたか、「ホームフロント」、そして女性の「市民意識」はどのように描かれているか、である。研究期間のほとんどは、第一次世界大戦終結〜第二次世界大戦下の文学を考える上で必要な作品・資料の収集・精読に費やされた。この研究計画のキーワードである女性の「労働」、「市民意識」について考えるために、1860年以降の女性運動、二つの世界大戦における女性の役割についてレイ・ストレイチー、ヴァージニア・ウルフの著作を中心に精読、分析した。本年度の研究では、特に若い女性の表象において社会が大いに関心を持ち、その「労働」と「市民意識」の変化について確認された。研究計画当初は、すでに文学史上取り上げられてきた作品はもちろん、第一次世界大戦〜第二次世界大戦下のイギリスで出版された若い女性向け雑誌で連載された大衆文学の収集と精読を通し、そこに表れる女性の表象について考察することを研究計画に入れていた。しかし、実際には女性が「市民意識」と「市民」としての権利を持つにいたるまでの歴史、そして女性の労働の実態について、ひとつひとつ確認しながら進む必要があることに気づき、これに大きな時間が費やされた。今後はこれまでの研究をもとに、すでに18年度に試みた女性雑誌の連載小説の分析のように、大衆文学における女性表象の考察に今後、力を入れていきたいと考えている。
著者
白川 仁 駒井 三千夫 後藤 知子
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

高等動物の組織内で変換・生成されるビタミンK(メナキノン-4、以下MK-4)の変換機構と生理的意義の解明を目的として、MK-4の新しい作用(抗炎症効果、性ホルモン産生調節)とビタミンK3からMK-4への変換の分子機構を解析した。MK-4処理によって炎症シグナルを仲介する分子の活性化が阻害され、性ホルモン産生を活性化させるリン酸化酵素の活性化が明らかになった。また、MK-4変換には昨年報告のあった酵素の必須性が再確認された。
著者
三原 誠 吉村 浩太郎 朝戸 裕貴
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

われわれの研究グループは、毛包由来培養細胞移植による毛髪再生医療を究極的な目標として研究している。本研究課題の目的は、これまでわれわれが経験してきた3次元培養皮膚モデルを応用して、ヒト細胞を用いたin vitro毛包再生モデルを新たに開発し、特定の条件操作を加えて分析することにより、ヒト毛包再生にまつわる分子基盤・細胞間相互作用について研究することである。毛包由来細胞のうちの2系統である毛乳頭細胞と角化細胞を混合培養することにより、毛包を3次元的に模倣した構造を作成することを試み、結果としてスフィア培養法を開発できた。このスフィアはin vitroにおいて顕微鏡下に経時的観察可能であり、in vivoへの移植も可能であった。このスフィアにおいて毛包誘導であるWnt 10bが発現していることが示され、この発現を増強する因子の検索を行ったところ、特定の有望な候補物質を見出すことができた。このようなin vitro毛包再生モデルを開発することにより、従前のin vivoモデルでは不可能(または多大な労力が必要)であった、毛包再生にまつわる遺伝子・蛋白レベルの解析や、移植細胞の遊走・分化についての詳細な観察がさらに進展する見込みが得られた。またヒト毛包由来細胞を用いた毛髪再生治療を実現する上で不可欠であろう、毛包上皮系幹細胞の単離、および毛乳頭細胞の毛包誘導能に関連する遺伝子解析をおこなった。ヒト毛包上皮系幹細胞はCD200やCD34の表面抗原だけでなく、細胞の大きさも利用することで、コロニー形成能の高い細胞群を生きたまま分取することが可能であることがわかった。また培養ヒト毛乳頭細胞におけるTGF-β2の発現および生体内で機能することが毛包再生において重要であることが示された。これらの結果は、将来的な毛髪再生治療の開発において、基盤となる研究結果であると考えられる。
著者
佐藤 忠信 小長井 一男 堀 宗郎 澤田 純男 本田 利器 盛川 仁 張 至鎬 濱田 政則
出版者
神戸学院大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

本研究では、エジプト側研究協力者が主体となりナイルデルタを取り巻く地震活動資料の収集を行った。また、過去に発生しカイロ市に被害を及ぼした地震の断層破壊過程を明確にするとともに、将来発生する地震のシナリオを作成した。日本側研究分担者はエジプト側研究者の協力の下にカイロ市を取り巻く地域の詳細な地盤調査の資料収集を行った。収集した資料の内容は以下のようである。1.ボーリング調査(PS検層、サンプリングを含む)と室内試験2.微動調査および屈折法探査(板叩き)による地盤構造調査3.重力異常による深層地盤調査4.RI(ラジオ・アイソトープ)コーン貫入試験による浅層地盤物性調査さらに、得られた資料からカイロを含むナイルデルタ地帯の地盤構造をモデル化するとともに、エジプト側の研究協力者と共同して、ナイルデルタ地帯の地震危険度マップを作成した。特に、今年度は最終年度であるので、平成18年9月にエジプト国立天文台・地球物理学研究所を研究分担者全員と研究協力者1名の合計6名で訪問し、研究の途中経過発表会をエジプトで開催するとともに微動観測点の選定を行なった。また、カイロ内の特定構造物の耐震性能を評価するために用いる動的解析用の入力地震動のシミュレーション方について議論した。特定地点を選定し微小地震の観測を継続するためのプロジェクトを立ち上げた。そのために必要な予算措置をエジプト国家地震局に申請すると共に、エジプト国立天文・地球物理学研究所の地震観測網を利用してナイルデルタにおける微小地震活動を評価した。
著者
細貝 良行
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

本研究では放射線治療時における照射線量をシンチレータとして人工ルビーを使用し、リアルタイムでモニタリング可能なシステムの構築を行ってきた。ルビーからの光を光ファイバーで道光しフォトンカウンタに取り込み解析を行う。光量を定量化するために核医学的手法を応用し、X線CTの3D画像から体内に分布する臓器の距離・形状を把握し、光の吸収を補正することで可能とした。本研究期間中に特許の出願を行った。
著者
駒野 淳
出版者
国立感染症研究所
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2009

GPCR多量体化は小胞体からの脱出、細胞膜輸送、リガンド依存的/非依存的エンドサイトーシス等に関与するといわれている。多量体化の生物学的意義は、GPCR単量を作成してその機能を野生型タンパク質と比較するのが最も直接的である。実際いくつかのGPCRでは単量体GPCRを作出する事に成功し、多量体化が小胞体からの脱出やエンドサイトーシスに重要であることが判明した。しかし、全てのGPCRに共通した普遍的な多量体モチーフは同定されていない。我々はGPCRの一種であるCXCR4が多量体化することをBRET/BiFCにて実証した。これに加えて細胞質ドメインC末端付近のアミノ酸343-346が欠損すると多量体化効率が顕著に低下する事を明らかにした。本研究ではこれを基礎としてCXCR4単量体誘導体を作出して、多量体化の生理的意義の解明を試みた。その結果、厳密な意味での単量体CXCR4作出は困難であった。しかし、多量体化レベルと機能の相関を解析することにより、CXCR4多量体化の生理学的な意義の一つは細胞表面におけるタンパク質発現レベルの制御であることが判明した。これは定常的エンドサイトーシスの効率により決定される可能性が示唆された。欠損変異体のリガンドへの反応性は増強していた。これは細胞レベルのCXCR4のC末端欠損によって引き起こされる遺伝的疾患WHIM症候群の表現型と非常に良く似ていた。以上よりCXCR4の多量体化はリガンド依存的/非依存的エンドサイトーシスと機能的に関連することが示された。本研究結果はCXCR4多量体化の制御法開発、WHIM症候群の病態理解と治療法開発に示唆を与えるものと思われる。
著者
大平 茂輝
出版者
名古屋大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

本研究では、映像記録の事後処理としてではなく、映像中の事象が発生している瞬間に現場にいる人間の自然な行動から、映像アノテーションの一部となるメタデータを抽出することを目指している。具体的には、試合会場(スタジアム等)における観戦者の視線方向や身体動作に関する情報を、スポーツ観戦メタデータとして携帯情報端末等を用いて抽出し、観戦中に撮影した画像と関連付けることで観戦コンテンツを作成した。方位センサ情報から観戦者のフィールド上の視点を検出する手法について検討し、視線方向や身体動作を含む観戦コンテンツを活用したスポーツ中継映像の視聴システムを試作した。
著者
小佐野 重利 京谷 啓徳 諸川 春樹 浦 一章
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2001

北イタリアのヴェローナ市とその近郊に残る14-16世紀の壁画と美術館や公私収集に所蔵される板絵作品のうち、ヴェローナ地方画家たちの活動に関連する作品の写真撮影調査を行ない、特に、少なくとも13人の画家と1人の木彫家を輩出した芸術家一族バディーレ家に関する包括的な研究を実施した。報告書では16世紀中葉からヴェネツィア派絵画の巨匠となるパオロ・カリアーリ、通称ヴェロネーゼを誕生せしめたヴェローナの約2世紀に亙る絵画史研究にとり基礎的な資料となる成果を刊行する。写真撮影されたのは、ヴェローナ内外の12聖堂の壁画、ヴェローナ市立カステルヴェッキオ美術館所蔵のバディーレ一門の作品と1財団と1個人の所有する板絵である。それに基づく成果として、ヴェネツィア大学セルジョ・マリネッリ教授のバディーレ一族に関する包括的検討にはじまり、ヴェローナ市内サン・ピエトロ・マルティレ聖堂とサンタ・マリア・デッラ・スカラ聖堂のバディーレ一門に関する論考を小佐野重利、郊外ではブッソレンゴのサン・ヴァレンティーノ聖堂身廊壁画、エルベのサンタ・マリア・ノヴェッラ聖堂アプスの壁画、ティーネの教区聖堂サン・ヴィンチェンツォ聖堂内陣壁画について、それぞれ論考を諸川春樹、小佐野重利、京谷啓徳が執筆し、ヴィチェンツァ大聖堂およびナントの2新出壁画の修復中間報告をヴェネト地方歴史美術文化財局監督官キアラ・リゴーニが公刊する。研究資料編として、浦一章によるジョヴァンニ・バディーレ関連古文書の一部邦訳と解題のほか、現場での調査記録および撮影写真の目録を掲載する。新知見については、小佐野がイタリア語論文をVerona Illustrata, No.16(2003),pp.13-16にも掲載した。
著者
杉本 恒美
出版者
桐蔭横浜大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

超磁歪振動子を用いて浅層地中内に時間的に周波数を変化させたチャープ波を発生させ、受振波形にパルス圧縮法を適用することで分解能の飛躍的改善を図った。最初にシミュレーションにより期待される分解能の検討を行なった後、実際に屋外で確認実験を行なってシミュレーションと同等の分解能が得られることを確認した。従来のハンマー法による分解能約50cmと比較すると約半分以下の約20cmの分解能を実現することが出来た。
著者
溝口 敏行 松田 芳郎 松本 俊郎
出版者
一橋大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1987

東アジア諸国のうち, 日本・台湾・韓国の戦後の経済発展には,(1)高い経済成長率が達成されたこと,(2)工業化に必要な技術導入がスムーズにおこなわれたこと,(3)工業化にともない生じがちな所得分布の不平等化が他地域と比較して大きくなかったことが知られている. 一方, 本研究代表者等による戦前期の台湾・朝鮮の経済発展に関する統計整備の結果, 戦前期の両地域の経済成長率は, 日本のそれとほぼ同じであり, 当時の国際水準として非常に高かったことが判明している.この研究の第一の目的は, 最近時点の分析にかたよりがちな台湾・韓国経済の分析に, より広い視野をあたえる目的から, 戦前期・戦後期のデータを連結し, 長期経済発展モデルを作成することである. 同時に第二の目的として, これらの地域の所得分布が比較的平等に保たれた理由を追求しようとするものである. 後者の研究は, 他の発展途上国へ, 貴重な情報となり得るものである.本年度実施した作業は以下の通りである.1.戦前期朝鮮の国民経済計算(完成済)を韓国領域分に分割する.2.台湾・韓国戦前期の推計分を, 名目によび実質レベルで1955年以降のデータに接続する.3.1, 2のデータをテープに入力する.4.日本・台湾・韓国の経済発展の比較分析これらの成果は, 当重点領域の他の研究者へ配布を予定しており, これらの研究の基礎資料となることが期待できる.
著者
平田 大二 新井田 秀一 山下 浩之 田口 公則 笠間 友博 小出 良幸
出版者
神奈川県立生命の星・地球博物館
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

1.自然史リテラシーの育成を目指した学習プログラムの開発と実践自然を総合的、能動的にとらえ、自然に接する能力や態度をもつことができるような自然史リテラシー育成の取り組みを行うとともに,市民の自然に対する知的好奇心と知的ニーズに応えるため,「誰もが,いつでも,どこでも,いくらでも」利用できる学習システムの運用と実践を行った.さらに地域の自然と実物標本からなる各種データベースの構築し、ネットワークを活用した自然を理解するための学習プログラムを展開した。2.インターネットを活用した人と博物館のネットワークの構築遠隔地の博物館同士、あるいは博物館と利用者とが相互交流できるインターネットを活用した双方向型ネットワーク・システムの構築し、実践と評価を行った。また、小中学校における授業や課外活動での連携、博物館活動におけるボランティアや友の会との連携などの活動を展開し、児童生徒から社会人、研究者まで多様な階層を交えたネットワークの構築を試みた。3.データベースの拡充すでに公開しているデータベース「地球のからくり」、「神奈川の大地」、「地球地学紀行」、「人と大地と」に加えて、神奈川県および周辺地域を対象とした地球科学分野のデータベース(DB)「神奈川の地球誌」の構築を進めた。さらに火山灰DBと神奈川の川DBの構築、地球科学文献DB、丹沢山地の地形・地質DB、航空写真DB、の補完、愛媛県西予市城川地質館と周辺地域を対象とした地形地質DBの補完を行った。
著者
佐々木 高弘
出版者
京都文化短期大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1997

1、 蛇聟入・苧環型の昔話および伝説の資料収集:本年度は『日本伝説大系』『日本昔話大成』に加えて『日本昔話通観』に基づき、鳥取県・宮城県・大分県・鹿児島県・岩手県・福岡県・福井県・石川県の各県立図書館および市町村立図書館において資料調査を行った。伝説が伝承されている地域については、当該地域の市町村誌および関係地図等を市町村役場、教育委員会において購入した。結果、上記の『日本伝説大系』『日本昔話大成』『日本昔話通観』において簡略化されて上げられている事例を全文確認し、さらにそれらを上回る数の文献を得ることが出来た。また昔話として挙げられている事例のいくつかが、実際は伝説であることも確認出来た。更に今年度は本説話の古典資料および海外の類似説話も収集した。2、 伝説の現地調査:本伝説で語られる場所を具体的に地図上において確認するため、現地における資料調査および聞き取り調査を行った。現地調査を行い伝承される場所の確認が出来たのは、大分県佐賀関町・臼杵市・津久見市・大野町・緒方町、福岡県二丈町、岩手県雫石町・宮城県本吉町・中田町・志津川町、鹿児島県宇検村・大和村・喜界町、福井県今庄町・永平寺町。伝承地の明治期の地籍図撮影をし、フィルムスキャナーで判読加工作業が出来たのは、鳥取県用瀬町大字金屋(明治27年)・日南町大字多里・河原町大字湯谷・牛戸(明治24年)である。なお撮影された地籍図の保存にはMOドライブを使用した。3、 データベースの作成:前年度および今年度の収集資料のデータベースを作成した。昔話については「蛇の棲家/娘の家/解決/儀礼/話型/来訪男/教訓」、伝説については「蛇の棲家/所在地/記念物/娘の家/所在地/記念物/解決/儀礼/来訪男」の項目を立てて分類し、一覧表および分布図を作成した。
著者
増子 正
出版者
仙台大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

平成12年に施行された社会福祉法で、平成15年以降、市町村における地域福祉は、地域福祉計画に基づいて推進されることになった。策定する地域福祉計画を具現化したり、策定された地域福祉計画の達成度を評価するための進行管理と計画の達成度を評価、モニタリングすることが重要になる。全国社会福祉協議会は、行政機関の政策評価で採用しているベンチマーク方式の積極的な活用を推奨しているものの、ベンチマーク方式に関しては、わが国でもアメリカ・オレゴンベンチマーク方式を活した行政機関の政策評価に関する研究が近年行われているものの、福祉領域での研究はほとんど行われていないのが現状である。政策評価で多く用いられる4つの象限を用いたベンチマーク方式の評価では、各象限にプロットされた事業の、取り組みの詳細な優先順位付けに限界があることから、本研究では医療分野で有用性が確立されている分布関数分析の手法を用いて詳細な事業の優先順位付けを試みた。また、策定された計画の達成状況を評価するために、地域福祉事業については、その性質上、スケールメリット効果を定量的に測定することが困難なものも多く存在するが、本研究では定量的に評価が可能であると考えられる事業の目標値の設定と評価指標の検討を行って、実際のフール度でその妥当性を検証た結果、本研究の手法が宮城県柴田町社会福祉協議会の地域福祉活動計画策定段階に採用され実用化に寄与することができた。
著者
三井 斌友 齊藤 善弘
出版者
同志社大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

本研究では, 数学定数であり超越数でもある円周率πの数値表現を, 擬似乱数生成に用いる提起を行い, その実現のため数値的な検証を行った. πの超多数桁10進表現を適宜な桁数ごと区切ったのち規格化し, [0,1]区間に分布する一様乱数とみなしたとき, 他の生成法と比較して統計的優劣があるかどうかを検定した. この結果, πを用いる方法は他の方法と比較して決して劣ることはなく, むしろいくつかの優位さが見られることを示した.
著者
新庄 文明 川崎 浩二 林田 秀明 吉田 治志 久保 至誠 久保田 一見
出版者
長崎大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

N県下の歯科保健に関する地域格差や課題を明らかにするため、4つの調査と分析を行った。(1)受療調査:全歯科診療所における平成16年7月第2火曜日の受診者全数17,117人(女性57%)の年齢区分は小学生相当年齢に最初のピークがあり、55-64歳が最大であった。訪問診療は1.2%を占めたが、全受診者の25%が受診した県庁所在市19地区のうち3地区、および別の1市が全訪問診療の75%を占めており、これらの地区で訪問診療が全診療に占める割合は、11%、2.4%、1.3%、3%と、特定の地区で集中的に実施されていた。(2)歯科医師の活動調査:県歯科医師会全会員を対象とする保健活動の実情調査では、回収数25%の時点で訪問診療実施経験なしが22%、52%は訪問診療のみを実施、26%が居宅療養管理指導、摂食機能療法などを併せて実施していた。(3)幼児の生活とう蝕の関連:3歳児う蝕有病者率を市町村別にみると離島、および島原半島南部が有病率が高く、また、「近隣に歯科医院がある」、「できるだけ遅くまで甘味食を与えない」という回答者の多い地区では、う蝕有病者率が低かった。(3)離島住民の口腔保健:平成14年〜16年に離島で歯科健診を実施した1343人の約4割が未処置う蝕、15%が2本以上の未処置う蝕を有し、年齢差はなかった。65歳以上の3割以上が義歯を必要としつつ義歯を使用せず、歯が原因で不快な思いをしたことのある人の割合は歯数が少ないほど多かった。(4)児童相談所健診:N県下2箇所の児童相談所において、平成16年5月下旬以降の被虐待児を含む一次保護対象者の口腔診断査を行い、10月までの対象者70名の41%に未処置歯あり、20%に痛い歯があり、14%は「歯で困った時、我慢する」と回答した。以上の結果より、離島や歯科医療の希薄な地域、保健習慣不良、被虐待児など重点的に取り組む対象者がうかびあがり、訪問診療などの実施状況にも地域格差のあることが明らかとなった。
著者
田口 まゆみ
出版者
大阪産業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

研究の目的:表題の研究を進めるにあたり、特にMS Pepys 2125,Magdalene College Cambridge, and MS G.31,St.John's College, Cambridgeを対象とした。成果[Pepys 2125]-1:"Dimitte me, Domine,..."(item 3)の校訂が完了し、国際的学術雑誌Mediaeval Studies(Toronto University)に掲載が決まった。本エディションには詳細な注を付し、Introductionでは、Pepys2125写本全体の考察、本文の内容、筋立て、またどのような読者を対象にいつ書かれたものか、原典となった文献や類似した素材を扱った関連文献などについて論じている。成果[Pepys 2125]-2:中世の文献はオリジナリティより、過去のオーソリティを継承することが重要であったが、換骨奪胎、複数の文献からの抜粋の組み合わせ他自由な書き換えが常套的であった。"Against despair"という1つの作品を材料に、このような創作過程を実例によって考察した。使用した写本はMS Pepys 2125(item 12,"Teaching of St Barnabas"),MS Hopton Hall, Keio University, and MS Additional 37049,British Library, London.成果[St John's College, G.31]:G.31は、『創世記』の中世英語訳である。主にウルガタ聖書をもとにしており、Peter ComestorのHistoria scholastica、その中仏語訳La Bible historiale、Peter RigaのAuroraなどからの引用と、訳者自身の加筆を加えた自由でこなれた訳となっている。14世紀末Wyclif派によって聖書の英語訳が初めて試みられたが、教会はWyclif派を弾圧して、1408年、一切の聖書の翻訳、またそれを使用したり保有したりすることを厳しく禁じた。弾圧は宗教改革まで続いたことを考えると、15世紀半ばにこのような自由な聖書訳が上梓されたことは驚異に値する。本テキストの校訂本(エディション)は、Middle English Textsシリーズ(Heidelberg University)から、出版が決まり、編集部と準備を進めている。エディションは英語テキストと、及びウルガタ聖書、Historia scholasticaの対応箇所を並列段組で示し、La Bible HistorialeはAddendumとして巻末に付す。Introductionでは時代背景、作品のスタイル、原典についての論述、創作年代、対象などについて論じ、詳細にわたる注とglossary, bibliographyを付ける。準備の一環として、Wyclif派と15世紀イギリスの英訳聖書、また本テキストとWyclif聖書との関連を論じた論文を学会で発表した。
著者
須藤 斎
出版者
名古屋大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

これまでEocene/Oligocene(E/O)Boundary以後において海生珪藻類が急増した結果,ヒゲクジラなどの大型海生哺乳類の進化が促されたという事実のみが知られていたが,どのような原因でこれが起きたかは未解明であった.また,どのような珪藻が主に急増したのかを示すような研究は行われてこなかった.そこで,本研究では,海洋一次生産の25%を担い,沿岸湧昇流域に多産するがこれまでほとんど研究がなされてこなかった海生珪藻Chaetoceros属の休眠胞子化石を,過去4000万年間の北部・赤道太平洋,赤道大西洋域,北極域の堆積物サンプルを用いて分析した結果,以下のような湧昇流変遷史と陸上環境変遷にも関連した海洋生物進化の原因を明らかにした.1)E/OBoundaryにおいて極域の寒冷化が進み,当時の沿岸湧昇の季節性が崩れた結果,Chaetoceros属が多様化・急増化した.さらに,現在のヒゲクジラ類の餌となるカイアシ類の一部は本属をはじめとする珪藻類を捕食・増殖することから,本属の急増により動物プランクトンが増加し,その結果ヒゲクジラ類をはじめとする大型海生哺乳類の多様化が進んだ.2)約850万年前に,北太平洋広域において,本属の休眠胞子化石が同時に急増した.これらは,海洋水循環の変動により太平洋域の沿岸湧昇が発達し,富栄養化したことを示唆している.この時代には,アジア域の乾燥化やヒマラヤ山脈の上昇などによる鉄・シリカなどの栄養素が大量に運搬された事実と呼応しており,それに合わせるように,昆布・ウニ・魚類・ハクジラ類などが増加・多様化した.これらの結果から,約4000万年以降に,沿岸湧昇域の性質が大きく変化し,それに伴ってChaetoceros属や他の珪藻類,藻類が急増・多様化し,これらを餌とする小型・大型捕食者の進化が促された可能性が大きいことが明らかとなった.
著者
赤石 義紀
出版者
東京大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1990

^4_ΣHと^4_ΣHeの束縛状態の存在可能性を私たちは4体計算によって理論的に示した。^4_ΣHeは、スピン・パリティO^+でアイソスピン1/2(99%)の束縛状態であり、結合エネルギーが3.7〜4.6MeV、幅が4.5〜7.9MeVであった。1989年、早野氏たちは、静止K^-吸収実験によってシグマ・ハイパー核の束縛状態が存在しうる証拠を得た。それは、上の理論計算と良い一致を示した。^4_ΣHeの束縛状態は間違いなく存在するのか?これはDalitz博士によって投げかけられた問いである。これに答え切るには、新たなデータが必要である。私たちは、450MeV/cの飛行K^-吸収のデータをとるのがよいと指摘した。早野氏たちはブルックヘブン国立研究所で600Meiの実験を行い、^4_ΣHeの存在について肯定的な結果を得つつある。シグマ・ハイパー核の存在が軽い核の領域に限られるのか、或いは、もっと普遍的であるかは、興味ある問題である。重い核とシグマ粒子の間のポテンシャルを調べてみると、核表面近傍に付力の山が現われるという特異な振る舞いをしている。この付力の山は、もともとのΣN相互作用の付力と引力の強さが均衡していることから来るもので、重い核から軽い核まで普遍的にあらわれることが分った。^<208>Pb核におけるh_<11/S>のシグマ粒子は、クーロン引力と遠心力とで核表面付近に閉じこめられその上に特異な形の強い相互作用を受ける幅の狭い状態として存在しうることを私たちは示した。飛行K^-吸収反応が無反跳の条件で行われれば、この状態が強く励起される。このように私たちは、重いシグマ・ハイパー核の存在は可能であることを示した。
著者
磯部 彰 真鍋 俊照 新宮 学 金 文京 藤本 幸夫 山田 勝芳
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

東アジア社会の構造及び将来のあり方を考える時、意志疎通、情報の伝達、文化の共有に多大な影響と役割を果たした出版文化は文化・政治・経済・宗教等の基本をなした。本研究は、中国・朝鮮・日本等の近世出版システムと文化形成との関係を解明すべく立案され、文学・歴史学・思想宗教学・書誌文献学・言語学・美術史学等の多方面から成る研究者を研究分担、もしくは研究協力者として結集し、十数回に及ぶ小地区会議、三回の全体会議を開催して検討した。その結果、近い将来、特定領域Aに企画案を申請することとし、今回なお検討を要する問題は継続検討課題とする一方、東アジア諸国における出版文化研究の現況成果を知るため、更に企画案に盛り込むべき外国調査、共同研究を実施することとし、明年の国際学術研究に申請することを計画した。研究の大綱は、次のように決定した。○研究会名称:東アジア出版文化研究機構○総括機構 五大地区・計画研究代表から組織五大地区・計画研究双方を統合して、一般市民も含めた研究シンポジウム・出版展示会・特別講演を指導する。総括機構に直属する情報図書インフォメーション支構を通して、インターネットで資料・情報・文献の提供を図書館・研究所に対して行う。○研究期間は5年間○地区は東北・京浜・京阪・中国・九州の5ブロック○計画研究は(1)出版交流研究、(2)出版形成・機構研究、(3)出版文化論研究、(4)出版環境研究、(5)出版政策研究、(6)出版物の研究の6本を基幹研究のもとに2〜3件づつ設ける。○公募研究は(1)〜(6)基幹研究(計画研究)の下でそれぞれ公募し、約八十の個別研究を計画研究の支柱とする。○外国研究機関との共同研究・調査も実施し、例えば中国では社会科学院文学研究所と共催で北京出版文化研究シンポジウムを開く。○事務局を総括機構に設ける。
著者
勝村 哲也 古勝 隆一 木島 史雄 金文 京 松原 孝俊 矢木 毅 小林 博行
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1998

朝鮮渡来漢籍の調査を行うのが目的であるが、今回は特に対島の宗家が所蔵し、厳原の長崎県立対島民族資料館に寄托されている漢籍と朝鮮版漢籍の調査をおこなった。その結果これらの典籍は、17世紀の中葉約50年間の間に渡来したものであり、ことにこの時期に朝鮮で出版された漢籍が集中的かつ良好に保存されている、極めてめずらしいケースであることが判明した。続いて建仁寺の両足院に保存されている対島府中の以酊庵(いていあん)関係文書(朝鮮との外交文書)・地図と南禅寺金地院文書(以酊庵に輪番として派遣された五山僧の記録)の全貌を把え、全文書を撮影した。これは研究者にとって極めて貴重な基礎資料となるものである。続いてカリフォルニア大学バークレイ校の東アジア図書館で調査し、旧三井文庫(新町三井)等わが国から当地に流出した資料約3000点を見出した。折りよく在外研究にめぐまれた九州大学の松原孝俊教授に紹介し、同教授によって調査が進められている。その結果も本研究に反映しうる。次にこうした資料をウェブによって公開利用に供するためのシステムを開発した。現在島根県立大学で試験的に運用しているウェブ・リトリーバル・システムがそれであって、このシステムによって、内外の諸機関のデータベースと相互に検索を行い、ウェブ上で検討に付することが可能になった。これも研究による大きな成果である。そのURLは以下である。http://ekanji.u-shimane.ac.jp/webusers/jsp/xmlweb/databases.jsphttp://nohara.u-shimane.ac.jp/dicl 204/dic-index.html