著者
長ヶ原 誠 石澤 伸弘
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

中高齢者の運動・スポーツ希望種目数に影響する要因は、対象者全体ではレジャー便益期待値、現在の運動・スポーツ実施頻度、健康自己評価レベルであった。次に、男性ではレジャー便益期待値と現在の健康自己評価レベル、女性では支援便益期待値と現在の運動・スポーツ実施頻度であった。最後に、中年期では現在の運動・スポーツ実施頻度、レジャー便益期待値、高齢者では現在の健康自己評価レベルと、レジャー便益期待値であった。
著者
馬嶋 正隆
出版者
北里大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1995

1)ラット尿中キニナーゼは、血中のそれと全く異なり、carboxypeptidase Y-likekininaseとneutral endopeptidaseであることが判明しているが、それぞれのキニン分解酵素のebelactoneBとthiorphanを、ラット高血圧モデルに長期間にわたり投与した。その結果、ebelactone B投与で高血圧の発症が完全に抑制された。その際には、心重量の減少、体内ナトリウムの貯留の解消、髄液・赤血球内ナトリウムレベルの低下が認められた。高血圧予防という新しい概念の抗高血圧薬のシ-ドコンパウンドになる可能性があることが判明した。2)上記のモデルに、リポゾーム化したcarboxypeptidase Y-like kininaseのアンチセンスオリゴヌクレオチドを、腎選択的にターゲッティングし、血圧と腎電解質の排泄を、経時的に測定した。処置後、アンチセンスオリゴを投与した例で、ランダマイズドコントロールオリゴ投与例に比べて血圧の低下が認められた。それに伴って、尿中ナトリウム排泄の増大が確認された。ジーンターゲッティングの高血圧治療への応用が考えられる。3)血中カリウムイオンを極くわずかでも増大させると、尿中カリクレイン分泌が増大することが判明しているので、カリウムイオンレベルをセンスするなんらかの機構が存在することが想定された。その機構の一つとして、ATP-sensitiveカリウムチャンネルが分泌に関与する可能性が判明した。グリベンクラミドのようなATP-sensitiveカリウムチャンネルブロッカーを使うと、カリクレイン分泌が高まる。尿細管細胞がゆっくりとした脱分極を起こして、細胞内カルシウムイオンを増大させ、分泌のためのサイトスケルトンの収縮のもたらすものと推定された。
著者
樋渡 さゆり
出版者
明治大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1997

「風景」と「言語」の問題を軸にして、18世紀から20世紀の英詩の特徴を探るという展望の中で、本年は主にテニスンを中心にヴィクトリア朝の文学について考察し、あわせて、ワーズワスらロマン派の文学との関連について考察した。研究としては(1)論文「『イノック・アーデン』と解釈学的な旅」、および(2)国際学会での口頭発表“Descriptive Sketches and the New Language"としてまとめた。従来、文学史としては記述されて来たが、今後の研究が期待される18世紀、ロマン派、そしてヴィクトリア朝の詩の関連について、および、それらと象徴主義や、小説における自然主義との有機的な関わりを明らかにする、という、長期的な展望の研究の一部である。最近のヴィクトリア朝研究の中で、とくに「神と自然」をめぐる自然科学史研究の成果をもとにテニスンの活動や作品を再評価すると、当時の英国文化の特徴は、さまざまな領域に渡る時間的・空間的なコミュニケーションの拡大であることがわかる。上記(1)では、テニスンの作品に特徴的なのは解釈学的なコードの間の「対話」であり、コミュニケーションと翻訳を中心的なテーマとしてヴィクトリア朝時代に特徴的なコミュニケーションのあり方を描いたことを示した。共通する視点から、「風景」や「牧歌」、「言語」のテーマに関わる「コード転換」というテーマから、ワーズワスの叙景詩を、18世紀のピクチャレスク美学との関連から考察したものが(2)である。本年度と同様、今後も、同時代の絵画、造園術、自然科学史、宗教、文化論など、重要な手掛かりになると思われる領域の研究を参考にして、ロマン派以降の英詩について考察を続ける予定である。
著者
澤田 敬司
出版者
早稲田大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
2001

日豪の演劇比較に関し、日豪演劇の違い、特に「ナショナル」なイメージが演劇にどのような形で反映されるか、を具体的に検証するため、日豪の演劇実践者に協力を仰ぎ、実験的なパフオーマンスを行った。それがオーストラリア先住民戯曲を研究代表者が日本語訳、そして日本の演出家、および俳優がリーディング上演を行うという試みだった。そこで得られた全く新しい知見は、一部国立民族学博物館の研究部会で報告したほか、日本人演出家和田喜夫、来日し当該パフォーマンスにも参加してくれたオーストラリア先住民の劇作家・演出家ウェスリー・イノックに対して行ったインタビューを材料に近く論文にまとめ、日豪いずれかの学会誌に投稿する予定でいる。資料収集・整理については、オーストラリアへの資料収集の時期は予定より遅れたが、収集された文献資料をデータベース化するためのフォーマット作りを、まず完成させた。その他、日豪比較演劇関連の研究成果としては、日本の天皇の戦争責任をあつかったオーストラリア劇作家テレーズ・ラディックをインタビューし、オーストラリアの日本観、天皇観、戦争観、国家観、現代史観などを掘り起こすと共に、日本演劇との交流の可能性についての指摘を行った論文『テレーズ・ラディック:オーストラリアから見た天皇制』が発表された。また、現代を代表するオーストラリア女性作家ジョアンナ・マレースミスの代表作『オナー』の日本語版の舞台を、日本の演劇実践者(演劇集団円)と議論しながら製作した。このテクストを用いての議論の過程で日豪演劇の相違が浮き彫りになり、その成果は実際の舞台となって表れている。また、このパフォーマンスについても、日本人の観客のリアクションも含めて、オーストラリアの演劇研究学術誌に報告の論文を投稿する計画がある。
著者
高橋 庸哉 新保 元康 土田 幹憲 佐藤 裕三 小笠原 啓之 割石 隆浩 神林 裕子 佐野 浩志 坂田 一則 細川 健裕 土門 啓二 松田 聡 本間 寛太 伊藤 健太郎 杉原 正樹 中島 繁登 吉野 貴宏
出版者
北海道教育大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

開発してきた雪に関するWebコンテンツの授業での普及を図るために、コンテンツの拡充と共に児童向けワークシート及び教員向け学習プラン集、教員研修プログラムの開発を行った。ワークシートを授業で利用した教員は5段階で平均4.8と高く評価した。教員研修プログラム後に参加小学校教員の45%はこのコンテンツを利用しており、プログラムが有効に機能した。また、コンテンツが授業に役立ったかについて5段階で4.5と答えており、Webコンテンツの内容妥当性も示された。
著者
飯田 明由 水野 明哲 金野 祥久
出版者
豊橋技術科学大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

トンボの飛翔を模擬した羽ばたき型MAVを開発し, 羽ばたき翼周りの流れと発生する流体力の関係を定量的に明らかにした. また, ヘリウムガスを用いてMAVの機体重量を調整することにより, 世界で始めて自由飛翔中のMAV周りの流れの非定常計測を行い, 自由飛翔中のトンボとMAV周りの流れが相似であることを定量的に示した.
著者
大野 健一 大野 泉 細野 昭雄 上江洲 佐代子 川端 望 木村 福成 ALTENBURG Tilman LEFTWICH Adrian KHAN Mushtaq GEBRE-AB Newai GEBREHIWOT Berihu Assefa 森 純一 PHAM Hong Chuong NGUYEN Thi Xuan Thuy
出版者
政策研究大学院大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2010-04-01

市場経済やグローバル化と矛盾しない産業振興を「プロアクティブな産業政策」と定義し、東アジアを中心にそのような政策事例を収集・比較したうえで、その具体的な内容、つくり方、組織、文書などを解説する英文・和文の書物を出版した。また研究成果を現実の開発政策に適用するために、本学が国際協力機構(JICA)等と共同で実施しているエチオピア政府およびベトナム政府との産業政策対話において、カイゼン、官民協力、行動計画のつくり方などにつき提言を行い、そのいくつかは実際に採用された。
著者
遠藤 伸彦 伍 培明 松本 淳
出版者
独立行政法人海洋研究開発機構
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

北ボルネオにおける降水特性と豪雨発現に関係する大気循環場の記述を行った.マレーシア国サラワク州の雨量計網データから,気候学的な降水量・降水強度・降水頻度の時空間分布を記述し,豪雨を定義した.またマレーシア国気象局のレーダーを用いて,冬季における北ボルネオで降水活動の日変化を解析した.北ボルネオに激しい豪雨事例をもたらす大気下層の循環場の特徴を明らかにした.
著者
池内 淳子
出版者
摂南大学
雑誌
若手研究(A)
巻号頁・発行日
2010

阪神・淡路大震災以降,災害医療への対策が整備され,昨今の地震災害時でも効果を発揮している.しかしこれらの地震災害は中山間地域で発生しており,都市部においても効果が発揮されるかを検証する事は難しい.そこで本研究では,阪神・淡路大震災の資料から「傷病者搬送状況」を抽出して人的被害想定とし,現在の阪神地域における災害拠点病院の「病院防災力」に対する机上シミュレーションを実施した.分析した「傷病者搬送状況」や「病院防災力」の情報は電子地図を用いて整理し,病院防災力については,すでに構築した病院防災力診断指標と国際評価指標とを比較した.
著者
高橋 誠一 野間 晴雄 橋本 征治 平岡 昭利 西岡 尚也 筒井 由起乃 貝柄 徹 木庭 元晴
出版者
関西大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

本研究は、南海地域における歴史地理的実体を多角的に解明することを主目的としたものであった。従来の地理学分野からの琉球研究は、都市、集落、民俗、交易活動などを個別的に扱い、かつ沖縄や奄美の一地方を対象としたものが多かった。しかしこれらの個別事例の蓄積のみでは、東シナ海や南シナ海全域にわたる琉球の実体の把握が困難であったことは言うまでもない。そこで本研究においては、中国沿海州・台湾・ベトナム・フィリピン、沖縄・奄美における現地調査を実施し、都市・集落景観、伝統的地理学観の影響と変容、伝統的農作物栽培の伝播過程、物流と交易活動、食文化の比較、過去と現在の当該地域における地理学教育に見られる地域差などに関して、立体的な分析を行った。以上の研究によって、琉球が果たしてきた重層的な歴史的役割の実態を、かなりの程度まで明らかにできたと考える。これらの成果の一部は各研究者による個別論文のほかに、2007年に沖縄県立公文書館において開催した国際研究集会報告書などにおいても公刊済みである。また全体的な成果の一部を報告書としても提示した。しかし、本研究によって解明できた点は、当初の目的からすれば、やはりまだその一部を果たしたに過ぎないと言わざるを得ない。すなわち南海地域における歴史地理的諸事象の伝播過程やその変容については、かなり解明したとはいうものの、本研究の成果は単方向的な文化事象の伝播や影響の摘出に終始したとの反省がある。文化の交流や伝播は、長い歴史的過程の中では、多方向的に複雑に錯綜することによって新しい様相を生み出すということができる。それらを明らかにすることによって、本究で対象とした地域に関する理解を深化することを今後の課題としたい。
著者
比屋根 照夫 前門 晃 赤嶺 守 渡名喜 明 仲地 博 森田 孟進 HIYANE Teruo 小那覇 洋子
出版者
琉球大学
雑誌
一般研究(A)
巻号頁・発行日
1992

本研究は、復帰後20年を迎えた沖縄の政治・社会変動と文化変容の実態を総括的、構造的に把握することを試みたものである。その結果、明らかとなった成果の概要は次の通りである。政治・社会(1)復帰後もなお基地が沖縄社会を特徴づけるものであり、今なお米国の東アジア戦略に規定されるという点が、復帰20年を含む沖縄の戦後の変わらない実態であることが明らかとなった。(2)復帰前沖縄の社会制度はさまざまな面で「本土」と異なっていた。本土化は画一化を意味するが、沖縄の歴史、文化との葛藤がさまざまな矛盾を生み、そこに新しい可能性も見出されうることが明らかとなった。(3)復帰の結果、沖縄への公共投資は急激に増加し、自然環境が大きく変化した。文化(1)米軍基地の存在は、沖縄の文化にも強い影響を残した。それは、住民の心理のありようにまで及んだ。米軍人と住民のコミニュケーションは、米国文化の受容をもたらし、復帰後もそれは沖縄の中に定着した文化となっている。(2)復帰後の急激な「近代化」のなかで、もっとも基礎的な土着信仰も変容しつつ、なお根強く生き残っている状況が明らかとなった。総体として言えることは、伝統的な文化と社会構造が、米軍占領によって大きな影響を受け、さらに復帰によって急激に変動したこと、それらを含み沖縄の特質は、本土を照射する地位を占めていることを本研究は明らかにしている。
著者
安井 弥
出版者
広島大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

miRNAの面から食道扁平上皮癌、胃癌の発生・進展機構を明らかにした上で、これらの癌に対する新しい個性診断系を確立することを目的として、最終年度となる本年度は以下のとおり実施した。1)胃癌および正常胃粘膜における網羅的miRNA発現解析と機能解析約250miRNAのプローブを搭載したマイクロアレイおよび188mRNAを解析できる繊維型マイクロアレイ(三菱レイヨンMICH07)を用い、胃癌および正常胃粘膜の新鮮凍結組織を材料としてmiRNAの発現を解析した。胃癌と正常とで有意に発現レベルが異なっていたmiR-21等について、定量的RT-PCRにより発現の検証を行なった。さらに、組織型との関連ではmiR-100,miR-105等が、進行度との関連ではmiR-100,miR-125b等が発現が異なっていた。2)胃癌におけるmiRNAの標的遺伝子の解析miRanda、 TargetScan、 PicTarを用いてその標的遺伝子の候補を検索し、miR-21ではBCL2,CDC25A,E2F3,MADH7,PTEN等を、miR-125bではE2F3,MKNK2,SP1,STAT3等を抽出した。これらについて、miRNAの発現抑制による発現変化の確認を行なっている。3)胃癌特異的miRNAのエピジェネティック発現制御の解析胃癌細胞株をヒストン脱アセチル化酵素阻害剤TSAで処理することにより、増殖・浸潤の抑制、p21等の発現の誘導がみられた。この細胞について、上記のマイクロアレイで発現が変化するmiRNAを解析し、1)で捉えた組織型や進行度、予後に相関するmiRNAリストと比較した。ここに得られたデータは、癌の個性診断、治療に直結した診断に有用な分子マーカーと考えられる。今後、これらを搭載した診断用miRNAミニアレイを作成し、診断の場に還元したい。
著者
加藤 内蔵進 青梨 和正
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1994

中国から直接入手した広域の日降水量や鉛直高分解能高層気象データ等や、人工衛星のマイクロ波放射計データ(SSM/I)から評価した降水量分布の解析等により、次の興味深い結果が明らかになった。1.1991年には、梅雨前線の長江・淮河流域での停滞が多く、特に淮河大洪水のあった7月前半には、位置もあまり変えずに半月も停滞した。その期間の前線帯は、約200kmの南北幅を持つ「広域大雨帯」(日雨量50ミリ以上)として維持されていた点が注目される。この期間は、前線帯の南側からの多量の水蒸気流入に対し北側からの流出は他期間に比べても小さく、前線帯スケールでの効率的な水蒸気収束と降水の集中化が示唆される。このような前線帯規模での降水分布の集中性は、過去35年ぐらいの中でも特に顕著であった可能性がある。2.日本列島で異常冷夏・大雨だった1993年には猛暑・渇水年の94年に比べて、梅雨前線帯でのSSM/Iで評価した総降水量の大変大きな期間が8月も含めて頻繁に出現し、また、台風に伴う降水の寄与も少なくなかった。このような状況は、1993年の梅雨前線帯では地上付近の南北音頭頻度が平年より大変大きく、南偏した上層の寒冷トラフの南縁と重なっており、また、60N以北の寒帯前線帯とは明瞭に分離した傾圧帯として維持されていた点が関連していたものと考えられる。SSM/Iにより算定した水蒸気量や降水量の情報は、日本周辺のメソ降水システムの数値予報モデルの初期値として、インパクトが大きいことがわかった。(1988年7月中旬頃の例)。4.1994年の中部・東日本では、秋には台風・秋雨前線により渇水が緩和されたが、95年には逆に秋に深刻化した。アノマリーの季節経過過程は、年によってかなり異なる可能性があり、今後解決すべき重要な問題が提起された。
著者
仙谷 和弘
出版者
広島大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

本研究では、胃癌や大腸癌における腫瘍進展に関連する新たな遺伝子を同定し、その臨床病理学的意義を明らかにすることを目的とした。細胞外基質蛋白lamininγ2はMMP-7とともに腫瘍進展過程で発現が増加したが、逆にギャップ結合構成蛋白connexin30は発現が減少する一方で、腸型粘液形質を示す分化型腺癌の新規分化マーカーであることが明らかとなった。さらにタイトジャンクション構成蛋白claudin-18は予後不良な大腸癌の新規診断マーカーであることが明らかとなった。
著者
矢野 友久
出版者
鳥取大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

ガラス室内に設置した計量型ライシメータ(直径1.5m,土層厚1.6m,海岸砂充填)を用いて,平成8年9月中旬から約1カ月間ならびに9年8月中旬から約1カ月半の間,オレンジを対象に塩水潅漑を行った.潅漑水はNaClとCaCl_2によって,2,000mg/lの塩分濃度(電導度:4.0dS/m)になるように調合した.潅漑は点滴潅漑方式によって毎日行い,毎日の潅水量は,前日の蒸発散量の1.2倍とした.日蒸発散量は水道水で潅漑した場合(対照区),最大4.2kg/day(ライシメータ面積を用いて水深に換算すると,2.4mm/day)であった.対照区の蒸発散量と計器蒸発量との間には相関係数0.955の強い相関があった.塩水潅漑による蒸発散量の影響は潅漑開始直後から表れ,2週間経過した時点で塩水潅漑条件下の蒸発散量は普通水潅漑条件下に比べて約20〜25%減少した.減少割合の変化はほぼ直線的であった.オレンジの根元から10,30,50cmの距離において,深さ10〜60cmの深さまで採土法によって実験終了後に測定した飽和抽出液の電導度は根元付近で高く,最大3.5dS/m,距離10cm地点の深さ10〜60cmで,1.4〜1.6dS/m程度の値を示した.従来の研究結果によれば,1.7dS/mの値まではオレンジの収量に全く影響がなく,3.3dS/mの値で収量が25%減少すると言われており,蒸発散量と収量の違いがあるが,本研究では塩水潅漑による生育への影響が大きいことを示した.有限要素法を用いて,塩水潅漑開始後ならびにリーチング潅漑開始後の土壌水分と土壌塩分の挙動に関するコンピュータシミュレーションを行った.理論解や他の公表プログラムとの比較によって,プログラムのアルゴリズムは正しいことが確認できたが,水分と塩分の実測値と比較すると,定量的には十分な精度が得られなかった.表面ならびに底部の境界条件,水分ならびに塩分移動に関するパラメータの値などの再検討が必要である.
著者
中西 正己 紀本 岳志 熊谷 道夫 杉山 雅人 東 正彦 和田 英太郎 津田 良平 大久保 賢治
出版者
京都大学
雑誌
総合研究(A)
巻号頁・発行日
1994

1993年の琵琶湖の夏は、記録的な冷夏・長雨だったのに対し、1994年は猛暑と渇水に見舞われた。この気候変動は、琵琶湖の微小生物生態系を大きく変化させた。1993年夏の琵琶湖国際共同観測(BITEX)に続いて、1994-1995年夏の本総合研究において、世界に先駆けて実施された生物・化学・物理分野の緊密な連携のもとでの集中観測結果は、琵琶湖の水環境を考える上での最重要部分である『活性中心』としての水温躍層動態の劇的な変化を我々に垣間見せてくれた。特に注目された知見として、1993年、1995年の降雨は、河川からの水温躍層直上への栄養塩の供給を増やし、表水層での植物プランクトンの生産を活発にしたのに対し、1994年は河川水の流入が絶たれたため、表水層での植物プランクトンの生産は低下し、キッセ板透明度も十数メートルと向上した。その一方で、躍層内での植物プランクトンの異常に高い生産が、詳細な多地点・沿直・高密度連続観測によって発見された。この劇的な理学の変化は、湖の生物・化学・物理全般にわたる相互作用として、従来指摘されていなかった新たな機構についての知見の一つである。
著者
坂田 祐介
出版者
鹿児島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

研究実績1.ミツバツツジ,クルメツツジへの耐暑性の導入:ミツバツツジ交配系統ではオンツツジ,ハヤトミツバツツジ,サクラツツジを,クルメツツジ交配系統ではマルバサツキをそれぞれ交配親にしたF_1を高温・高湿など不適環境下で生育させ,生存した個体群から耐暑性に富む個体を選抜した.2.ヒラドツツジへの四季咲き性の導入:キンモウツツジ×ヒラドツツジの交配で,当年9月から翌年1月にかけて高率で開花する四季咲き性の個体群(系統)を作出した.これらのうち9月もしくは10月中に早期開花する個体へヒラドツツジを戻し交雑し,BC1種子を得た.3.ミツバツツジへの常緑性の導入:常緑のサクラツツジを交配親に用いると,常緑性のF_1が100%得られることを明らかにした.4.クルメツツジ交配系統への二重咲き性の導入:二重咲き花のクルメツツジを花粉親に用いた交配で,F_1に二重咲き花が50%の割合で出現したことから,二重咲き性は優性形質で,この形質に関してクルメツツジはヘテロの遺伝子型を持つことを明らかにした.5.ミツバツツジ,クルメツツジ,ヒラドツツジの新花色の育種:ミツバツツジとクルメツツジ交配系統では,F_1にはいずれの組合わせも一方の交配親の持つ紫紅色が優位に出現した.多彩な花色を獲得するにはF_2の作出が必要で,F_1を自殖しF_2種子を得た.これに対しヒラドツツジ交配系統では,F_1には両親の花色を示す個体と両親の中間の花色を示す個体が出現した.HPLCによる花弁の色素分析の結果,優性に発現するデルフィニジン系色素生成に関わる遺伝子がヘテロ型で存在することを明らかにし,優れた花色の個体を選抜してそれらへのヒラドツツジの戻し交雑を行った.
著者
金山 亮太
出版者
新潟大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

サヴォイ・オペラの娯楽性の陰に隠れた影響の一つとして、19世紀末のイギリス人観客に帝国主義的発想を身近なものにしたという点が挙げられることを立証すべく、いくつかの作品に含まれる愛国的要素とそれの受容の様態について研究し、研究発表やシンポジウムの場で公表した。結果的に、この軽歌劇の持つ影響力の広さと深さが更に明らかになった。特に、サヴォイ・オペラは今日の英国の映像や活字メディアにおいて何らかの形で引用・言及されることが多いことが分かり、現代のイギリス人の中に息づいているイングリッシュネスは、この19世紀的価値観の延長上にあるのではないかという仮説を立てることに繋がった。また、ブリティッシュネスという人工的な概念ではなく、あくまでもアングロ・サクソン的なイングリッシュネスの方に親近感を感じる人々の中に潜む人種的な問題に関する動揺が、この軽歌劇に対する根強い愛着の背後にあるのではないかという仮説も生まれ、将来の研究テーマとして、ポスト植民地主義以降の新たな国家観という問題も浮上してきた。これらのテーマに基づき、さらなる科研費補助金の対象となる基盤研究(C)の方向性が定まった。