著者
西川 真子
出版者
名古屋外国語大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

中華民国時期以降の歴史を見れば、孫文と宋慶齢、周恩来と〓頴超、梁思成と林徽因等のように、ともに高い教養を身につけ、知的な営みを共有する夫婦が少なからず存在する。あるいは、胡適の場合のように、親の決めた婚約者が旧式の教育しか受けていなかったため、自分の妻に知識を得て教養を磨くことを強く望んだ例も存在する。妻にも高い知的好奇心を求める--この志向性は中国の知識人階層の中に途切れることなく継承されている。先年亡くなった銭鐘書とその妻楊絳女史の場合も、夫妻とも著名な文学研究者、作家として切磋琢磨しながら知識人として洗練の度を加えていった。民国期以来の中国で何故このような知識人同士の夫婦関係が生まれることになったのか。本報告書では、清末から民国時期にかけて中国の知識階級でおこなわれた、家庭と夫婦のありかたに関する議論を振り返って中産階級の家庭観を考察した。特に胡適とその妻江冬秀に関しては2002年7月13日関西中国女性史研究会等主催のシンポジウム「ジェンダーからみた中国の家と女」において「民国時期知識人の家庭観-胡適の結婚」と題して研究発表をする機会を得た。同じ視点から梁思成と林徽因夫妻の事例について考察した成果は論文「民国時期中国知識人夫婦における知の共有-梁思成と林徽因」(『名古屋外国語大学外国語学部紀要』23号)にまとめた。銭鐘書と楊絳夫妻の事例は、彼らの民国時代から解放後文化大革命を経て1980年代に至る長期の活動を俯瞰し、知識人家庭における夫婦間の知の共有のありさまと、家族をつなぐ媒介としての知識と教養のありかたについて考えた。
著者
門田 功
出版者
東北大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2003

昨年に引き続き、赤潮の原因毒であるブレベトキシンBの合成研究を行った。デオキシリボースを光学活性源として、BC環部に相当するα-クロロスルフィドとFG環部アルコールをそれぞれ合成した。両者を銀トリフレートを用いて縮合し、O,S-アセタールを合成した。さらに数段階でアリルスズを導入して分子内アリル化反応のための基質を合成した。この化合物を銀トリフレートで処理したところ84%の収率で環化反応が進行し、目的の化合物が立体選択的に得られてきた。得られた化合物に対し、Grubbs触媒による閉環メタセシスをおこなってB-G環セグメントを得ることができた。さらに数段階を経てA環を構築し、A-G環部とした。これをJK環部に相当するカルボン酸とエステル縮合し、さらに数段階を経て環化前駆体を合成した。この化合物に対して先ほどと同様に分子内アリル化と閉環メタセシスをおこない、ブレベトキシンBのポリエーテル骨格を得ることができた。この化合物に対してラクトン化、脱保護、アリルアルコールの選択的酸化を行い、ブレベトキシンBの全合成を完了した。合成品の各種スペクトルデータは天然のものと完全に一致した。また、同様の方法論を用い、イェッソトキシンおよびアドリアトキシンのFGHI環部の収束的合成に成功した。これらの化合物は下痢性貝毒の原因毒として、二枚貝養殖に多きな被害を与えており、ブレベトキシンBと同様深刻な社会問題となっている。本研究により、これら海産毒の活性発現機構に関する研究が進展するものと期待される。
著者
生田 茂
出版者
大妻女子大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2008

「音声や音をドットコード化し,画像やテキストとともに編集し,カラープリンタを用いて普通紙に印刷する」ソフトウエア技術と,「印刷されたドットコードをなぞって,音声や音を取込んだそのままに再生する」ハードウエア技術を活用して,子どもたちや先生の「生の声」を用いて教材を作成し,これまでは不可能だった「新しい」教育実践活動に挑戦した。外国人英語指導員とともに取組んだ新学習指導要領のもとで始まる小学校の英語活動用の副読本の制作と教育実践,英語活動だけでなく,道徳や社会,国語などでも使える副読本作りの活動と実践,音声の入ったシートを活用して子どもたちが楽しく集う図書室づくりを目指した取組み,多摩川の河岸で生きるおばあさんのメッセージを子どもたちに伝える音声入りのシートや壁新聞を用いて,大都市東京における多摩川の果たす役割や多摩川と人々との関わり,おばあさんの生き様を学びあう活動などを展開した。また,子どもたちの社会科見学や学芸会などを振り返る活動のシートづくりと実践,1992年のリオデジャネイロの地球環境サミットで行なわれた12歳の少女のスピーチ(思い)を子どもたちに伝えるための教材づくりと実践などを行なった。特別支援学校に続いて取組んだ通常学校における「音声や音を活用した教育実践活動」は,これまでは不可能だった「目の前の子どもたちや担任の先生の声,そして,学校の回りの自然の音を教材化する取組み」であり,課題を抱えた子どもたちをも巻き込んだ楽しい取組みを展開することができ,新しい教育活動の可能性を示すことができた。
著者
安田 輝男 岡本 明 長岡 英司 生田目 美紀 井上 征矢
出版者
筑波技術大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

1.19年度の実績・成果を踏まえ、20年度はさらに精度を高めた立体ポスターの制作とその展示、調査を積極的に行った。また、有効なサポート情報としての音声情報(聴覚情報)の開発も行った。2.立体ポスターの原画にあたるポスター制作に関しては、本年度も本学デザイン学科の学生を指導して制作。二科展デザイン部等へ応募して、入選・準入選等の成果を得た。3.「触って観る」アート(立体ポスター)は、つくば西武ホール(20年1月)、二科茨城支部展(20年5月)、二科展(20年9月)、筑波技術大学く日韓デザイン学術研究交流大会〉(20年7月)、いばらきデザインセレクション2008(20年10月)、筑波大学(20年10月)結城信用金庫(20年10月)、第23回国民文化祭・つくば美術館(20年11月)、水戸医療センター(20年12月)等で展示され、随時アンケート調査も実施。昨年に引き続き、展示場に訪れた鑑賞者からは深い理解を頂き、社会貢献の意義からも資するところ大であった。4.音声による画像情報支援システムによる「触って聴く」ポスターも随時展示し、強い関心を得た。(*協力:東京カートグラフィック(株)・(財)テクノエイド協会)。5.本研究チーム制作の「触って観る」ポスターとその活動に対して、第23回国民文化祭くつくば市議会議長賞〉、いばらきデザインセレクション2008知事選定、二科茨城支部感謝状が贈られた。6.本研究をまとめた小冊子「『触って観る』アートプロジェクトの歩み」(A5版28頁/英訳付き3000部)を出版。各方面に配布し、本研究の理解促進に供している。
著者
樋口 直宏 石井 久雄
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

本研究では、小中一貫教育における4-3-2学年制が児童生徒の学力および態度形成にどのような影響を及ぼすかを明らかにした。そのために、授業観察、「お世話活動」や合同部活動といった異学年交流の参与観察、児童生徒に対する質問紙調査、教職員に対する聞き取り調査等が行われた。教師と生徒は4-3-2学年制の学校生活において、互いに「中1ギャップ」への対応を図ろうとする様子が見出された。
著者
飯田 剛史 玄 善允 山口 健一 金 希姃 宮本 要太郎 小川 伸彦 片岡 千代子 石川 久仁子 李 定垠 北村 広美 田島 忠篤 金 賢仙 渡辺 毅 池田 宣弘 藤井 幸之助 稲津 秀樹
出版者
大谷大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010-04-01

研究成果報告書『民族まつりの創造と展開』(上巻・論考編 287頁:14名の寄稿者による13編の論文と7本のコラム、 下巻・資料編 350頁:9編の資料)を作成した。学会報告を行った(研究連携者 田島忠篤「戦後北海道における民族マツリの展開」、韓国日本近代学会)。民族まつり実施団体および研究者のインフォーマルネットワークを形成し、今後の民族まつりの実施および研究上の連携にそなえた。
著者
多賀 茂 中川 久定 中川 久定 多賀 茂
出版者
京都大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
1999

多賀-18世紀においてもフランスでは、いまだ自国の文学を固有の伝統を持つ一つの集合体として見る考え方は一般的ではなかった。いわば「フランス文学史」という観念はいまだ一般的には成立していなかったのであり、古代ギリシア・ローマの古典とそれに対するヨーロッパ近代の古典という図式のほうが支配的であった。ところが、史上初めて「フランス文学史」と名乗った文献は17世紀にまでさかのぼる。エリート的学問層の集団であり、批評術的歴史研究の中心であったベネディクト派修道会によって編纂が開始されたフランス文学史がそれである。ただしここには、文学史をさまざまな美的価値が連続的に現れては消える過程と見なす考え方はない。彼らにとって文学史とは、フランス語で書かれた文書のうち詩・小説・歴史・思想などの領域に属するものすべてが形成する集合体のことであった。中川-18世紀のフランス社会において、ギリシア・ラテンの古典はいったいどのような役割を果たしたであろうか。ディドロ・ダランペール編『百科全書』、パンクーク編『百科全書補遺』の初校目の分析を通して、次のようにこの問題の解明を行った。古代から18世紀にいたるヨーロッパにおいて生み出されたさまざまな著作のうち、「古典的」という修飾語を冠するに足りるものはどれであるかについての合意が成立したのは、18世紀半ばであった。他方、18世紀のフランス社会は、ギリシア・ラテンの古典を同時代的状況に適用する試みを多数生み出すことにも成功していた。たとえば、プラトンの『ソクラテスの弁明』は、ヴォルテール、ルソー、ディドロの3人によって、当時の状況に適応するような形で、独自の仕方で読み直され、解釈された。こうして、18世紀フランス社会は、古典を媒介とすることによって、ヨーロッパ文明の連続性を継承しつつ、しかも同時に自己革新をはかることに成功した特異な世紀であった。
著者
菅井 勝雄 黒田 卓 西端 律子 前迫 孝憲 三宅 正太郎 山内 祐平 黒上 晴夫
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1999

初年度(平成11年度)は、総合学習における本研究テーマをめぐって、理論的検討を実施した。すなわち、J.Deweyの「児童中心」教育を中心に、近年の社会的構成主義、文脈主義、研究方法論やアプローチなどを討議した。その結果、総合学習における設計と評価では、「コミュニティにおける協同活動」や、「ポートフォリオ評価」などが理論上重要であることが確認され、論じられた(菅井)。また、試行期間にある総合学習の実践校として、大阪府下の2校をはじめ、研究分担者がそれぞれの地域校で研究を開始することにした。第2年度(平成12年度)は、密接な打ち合わせと連絡のもとに研究を推進したが、大阪府下の中学校と大阪大学との間で連携の試みをスタートさせるとともに、大阪大学(前迫)と富山大学(黒田)との間で、情報ネットワークを利用した交換指導の試みを実施した。このような経緯の結果、最終年度(平成13年度)の3年間にわたる研究成果報告書には、下に示す研究成果を公表することができた。(1)総合学習における児童・生徒の学習意欲と授業設計との関わりについて、調査法を用いて明らかにした(三宅)。(2)総合学習における小・中学校の情報活用能力をめぐるカリキュラム編成法や評価法を探求し、併せて自然環境の中での生徒の体験活動とメディア利用の実践を展開し、ひとつのモデルを提示した(黒田)。(3)総合学習との関連で、学校図書館の捉え直しが論じられ(森田)、メディアリテラシーのアプローチが探求された(山内)。(4)最近の脳研究から総合学習の基礎研究が試みられ、興味ある知見が得られた(村井)。(5)中学校と大学の連携のモデルが示された(西端)。
著者
馬嶋 正隆 藤田 朋恵 林 泉
出版者
北里大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2004

マウス皮下組織にsarcima-180あるいはNFSA腫瘍細胞株を接種するとゆっくりとした腫留の形成が認められる。これらの動物にACE阻害薬のリジノプリルあるいはAT1受容体格抗薬のTCV-116を投与すると、血管新生および腫瘍増殖は強く抑制された。腫瘍周囲ストローマを含む試料でAT受容体サブタイプの発現解析を行うと、AT2およびAT1bは全く検出されず、AT1aのみ検出された。免疫組織化学でAT1の組織内発現を調べると、AT1を発現しているのは腫瘍細胞ではなくむしろ腫瘍周囲めストローマであった。致死量の放射線をWTのC57BL/6に照射し、WTあるいはATlaノックアウトマウスめ骨髄細胞を尾静脈より移植し、その後LLCを接種すると、AT1aノックアウトマウスの骨髄細胞を移植したマウスで、腫瘍増殖および血管新生の著しい抑制がみられた。AT1aノックアウトマウスには、欠損する遺伝子にLacZ遺伝子を導入しているので、β-galの免疫組織化学をおごなうと、確かにAT1aノックアウトマウスの骨髄細胞を移植したマウスで、ストローマ部位で陽性像が認められた。さらに同部位でVEGFの発現を調べると、AT1aノックアウトマウスの骨髄細胞を移植したマウスで、減少していることが判明した。骨髄より間質に浸潤するストローマ細胞のAT1aを選択的にノックアウトすることで、がん依存性の血管新生、増殖が抑制され、遺伝子を改変した骨髄細胞移植が固形腫瘍の治療になりうることを示すことが出来た。
著者
中塚 映政 谷口 亘
出版者
関西医療大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

アストロサイトから放出される伝達物質のひとつであるD-セリンは脊髄後角ニューロンにおいてNMDA受容体活性を増強するとともにグリシン受容体も活性化することが判明した。しかし、末梢神経障害モデルではこのD-セリンの活性化が疼痛増強に作用する様に変化することが判明した。さらに神経根性疼痛の障害部位の違いによる疼痛発現の違いには脊髄後角ミクログリアの活性化が関与している可能性があることが判明した。
著者
早川 貴之 菅野 孝史 森下 昌紀 岩瀬 順一
出版者
金沢大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

3次元端末特異点の特異点除去および因子収縮に関して以下に述べる研究を行った.(1)指数mが2以上の3次元端末特異点につぶれる既約例外因子の食い違い係数が1/mの因子収縮を繰り返すことにより,指数が1の端末特異点しか持たない代数多様体からの双有理射を具体的に構成した,その結果として指数が2以上の3次元端末特異点の上空にある食い違い係数が1以下の既約因子をすべて決定した.(2)3次元端末特異点について,食い違い係数が1未満(または以下)となるような因子だけすべてを例外因子としてもつような部分的特異点除去が存在するかというM.Reidの問題(経済的特異点解消の存在)に対して,元々の問題にある形では経済的特異点解消は一般には存在しないことを示した.さらに経済的特異点解消が存在するためにどのような特異点を許せばよいのかについて考察し,必要な修正の後に経済的特異点解消が存在することを示した.(3)既約因子を指数2以上の3次元端末特異点につぶす因子収縮のうち,その既約因子の食い違い係数が1となるものについて,4次元または5次元の巡回商特異点の中への埋め込まれ方および因子収縮を得るための重み付きブローアップの重みを具体的に定めることにより,すべて決定した.(4)指数が1の3次元端末特異点につぶれるものについて,とくにcD型およびcE型の端末特異点につぶれるような因子収縮のうち,食い違い係数が1であるようなものに明示的な記述を与えた.
著者
松原 みゆき 梯 正之 河野 敬雄 梯 正之 河野 敬雄
出版者
日本赤十字広島看護大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

終末期看護の主体的意思決定場面において, 患者と看護師の二者関係では問題状況(葛藤やジレンマ)場面では, ゲーム理論の"両性の戦い"で説明可能であった. 患者・家族・看護師の三者関係については, 社会学者Simmel の3人協力ゲームに依拠し分類した. R.J.オーマンが例示した, 共通の確率発生装置を用いて非協力ゲームのよりよい均衡点(相関均衡)を得るモデルを, 看護師が介入する医師-患者間の非協力ゲームに適用し再定式化した.
著者
田村 毅 市村 彰英 加藤 吉和 岸田 泰子 久保 恭子 中村 正 田崎 知恵子 倉持 清美 及川 裕子 伊藤 良子
出版者
東京学芸大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

子育て家族の追跡調査から、子育て家族システムの特徴、特に里帰り出産、祖父母の役割について明らかにした。また、海外在住の子育ての課題について明らかにした。児童虐待が発生する家族システムの特徴とそれを支援する福祉システムの困難さと課題について明らかにした。ジェンダーの視点から男性が子どもを虐待するメカニズムを解明し、虐待関係にある家族への支援の方策として父親グループ活動のプログラムを開発した。
著者
市川 正敏
出版者
京都大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

本研究は、細胞膜に代表される脂質二分子膜に於ける局所的な変形形状に働く力を、主に細胞サイズの小胞を実験系として用いて解明するのが目的である。脂質膜上に局所構造を作る一つの手段は相分離現象を利用する事である。相分離した膜面は条件によってはマイクロメーターサイズの凸凹を作る。相分離現象は一般に2成分以上の混合系で観察される。この膜面の相分離現象は生命現象に関わるラフトと関係が深いと言われており、基礎的な膜の物理を理解する事で生命現象の理解に貢献できると期待できる。本研究では、膜をレーザートラップによって直接的に力を測定する実験も実施し、直接的に測った力とベシクルの形態や局所構造の観察の両面から、局所構造が生む力を解明した。平成21年度は、前年度に構築した実験系を用いて行った混合脂質脂質ベシクルの伸張実験に続いて、相分離する混合脂質の伸張実験を行い両者を比較した。荷電混合脂質においては荷電密度が上昇すると共に表面張力係数が上昇し、曲げ剛性率はほとんど変化が無かった。一方で、相分離混合脂質系では、伸張時に相分離が誘起、進行させられる事が観察された。相分離が進行中に測定された力学プロファイルは荷電混合脂質でも得られた通常のプロファイルとは大きく異なり、相分離の進行や誘起を力学測定から検知する事が可能である事が明らかになった。これは、蛍光プローブ等を用いた観察的手法だけでなく、力計測からも相分離を測定できることを示すものである。この結果を論文として報告した。また、構築した装置を用いて脂質分子以外のソフトマテリアルの力学測定を行い、特徴的な力学的性質を明らかにした。
著者
武内 謙治
出版者
九州大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

本研究は、少年司法における「未決」段階の身体拘束に関する刑事政策上・国際人権法上の関心が高まるなか、現在それが果たしている機能とあるべき像を探ることを目的とした。本研究に取り組む中で公表した論文・学会報告・図書では、国際人権法上指摘されてきた日本の問題点は近時なお深まりを見せていること、それを解決するためのひとつの法策には国選付添人制度の拡充があることを示した。
著者
下崎 敏唯
出版者
九州工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

熱電変換材料に求められる性質は、大きいSeebeck係数と大きい電気伝導率、小さい熱伝導率である。異常に大きいSeebeck係数と電気伝導率に比較して異常に小さい熱伝導率を持つNaCo2O4は熱電変換材料として極めて優れた特性を有しているが、この高効率性は単結晶の特定の方向でみで実現されており、作成の困難さ、コストなどあらゆる面で多結晶体での高効率化が望まれている。これまで多くの研究者によってNaCo2O4多結晶の高効率化が研究されているが、最大で単結晶の性能の50%程度で、通常10〜20%にとどまっている。本研究では種々の方法(固相反応法、プラズマ焼結法、溶融法、大気中加圧法、ホットプレス法など)で多結晶NaCo2O4の熱電特性の高効率化を試みた。熱電材料の高効率化には異種相や空洞などの欠陥の混在を皆無とし、結晶粒界の弱結合を無くすことで電気伝導度の増大が先ず重要である。本研究ではプラズマ焼結法、ホットプレス法で緻密化を試みたが、粉末の焼結と同時に反応ガスが生成し、緻密化しにくいこと、これらの方法では試料が還元雰囲気となり、原材料が反応してNaCo2O4を生成するためには酸素を必要とすることなどの理由から、緻密で高効率な焼結体の作成は困難であった。このため、酸素の供給が可能な大気中加圧法を考案し、極めて緻密な焼結体の作成に成功した。しかしながら、この焼結体の熱電特性は粉末焼結法で得られたものに比べて、10〜20%程度、性能が向上するに過ぎなかった。加熱中のNaの飛散が原因と考えられ、加熱中、Na2CO3やNaCo2O4と同じ組成を持つ粉末を周辺に添加して解決を試みた。試料の緻密化は可能となるものの性能の向上は認められない。逆に、Naの供給過剰となっている可能性がある。今後、この点の確認、Na濃度の適切な制御を行い、高性能化を試みる。一方、溶融法では種々の問題を克服して、局所的にではあるが緻密で結晶粒が特定の方向に配向した組織が得られた。更なる検討を行う予定である。
著者
高橋 純一 山根 久典
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

本研究では,酸化物系新規熱電変換セラミックス材料として一次元結晶構造・一次元組織を有するカルシウムコバルト酸化物Ca_3Co_2O_6系単結晶材料を創製し,室温から約1100Kの温度範囲における熱電特性を測定するとともに材料の次元性と特性の関係を明らかにした.Ca_3Co_2O_6はCoO_6八面体とCoO_6三角プリズムが面共有で交互積層した[Co_2O_6]_∞鎖とCa^<2+>イオン列が結晶構造のc軸方向に並行配列した擬一次元結晶構造を持つ.K_2CO_3を融剤としたフラックス法により長さ7mm,太さ0.7mm程度で一次元的な柱状形態を呈するCa_3Co_2O_6単結晶,および,(Ca,Bi)_3(Co,M)_2O_6単結晶(M=Fe,Cu)の合成に成功した.単結晶X線ラウエ写真およびプリセッション写真より,これらの結晶の伸張方向がc軸であることを確認した.大気中での電気抵抗率(ρ),および,ゼーベック係数(S)の温度依存性から,Ca_3Co_2O_6単結晶(c軸),および,(Ca,Bi)_3(Co,M)_2O_6単結晶(c軸)はp型半導体であることが示された.Ca_3Co_2O_6単結晶の出力因子S^2ρ^<-1>は測定温度範囲で温度の上昇に伴い単調増加し,1000Kにおける出力因子値は2.33×10^<-4>Wm^<-1>K^<-2>であった.この値は比較として測定した多結晶Ca_3Co_2O_6(1.02×10^<-5>Wm^<-1>K^<-2>)と比べて一桁高い.また.(Ca,Bi)_3(Co,Fe)_2O_6単結晶(c軸),および,(Ca,Bi)_3(Co,Cu)_2O_6単結晶(c軸)の出力因子はドープされていないCa_3Co_2O_6よりも2〜4倍高くなることがわかった.
著者
徳田 博美 長谷川 啓哉
出版者
三重大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

わが国の二大果実である柑橘とリンゴにおける産地マーケティングの実態と課題について、実態調査などにより調査分析した。その結果、柑橘では産地の自然的・社会的立地特性に基づいた産地棲み分け戦略が展開するとともに、園地流動化などの産地再編戦略にも積極的であるのに対し、リンゴでは生産規模による産地序列に規定されながら、量販店などとの関係性マーケティングが指向されていることが明らかになった。
著者
平 伸二
出版者
福山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

P300による虚偽検出は情報検出であり,検査時点で犯行時の記憶を再認できるかどうかが重要である。実務では,犯行から1ケ月以上経過後の検査が約半数を占めており,長期間経過後の検出可能性を検討する必要がある。そこで,本研究では,模擬窃盗課題から1ケ月以上経過後に検査を受ける1ケ月後群,1年以上経過後に検査を受ける1年後群を設けた。さらに,検査直前に模擬窃盗課題を行った部屋の映像を見る犯罪場面群と,大学内の風景を見る大学風景群に分け,記憶の文脈効果から犯罪場面群のP300振幅の増大が認められるかを検討した。特に,模擬窃盗の中心的項目(盗んだ指輪)と周辺的項目(指輪の横にある文具)を裁決刺激とした条件で,P300振幅の違いが認められるかを検討した。平成18年度の1ケ月後群に続き,平成19年度は1年後群を対象とした実験を行った。P300振幅は,1カ月後と1年後のどちらの時期においても,非裁決刺激よりも裁決刺激の方が有意に大きくなったが,条件(中心・周辺)及び群間(犯罪場面・大学風景)の主効果は認められなかった。つまり,映像による事前呈示の有効性は,中心条件でも周辺条件でも見出せなかった。本実験の結果からは,映像の事前呈示や刺激の種類が,明確にP300による虚偽検出の精度に促進効果をもたらすとは結論できなかった。しかしながら,裁決刺激に対するP300振幅は,1ケ月後群,1年後群ともに非裁決刺激よりも増大しており,事件発生から1ケ月以上経過後の検査が約半数をしめている犯罪捜査への適用を促進する結果となった。今後,映像の事前呈示の効果については,複数事件実行犯の特定事件に対する記憶活性化による検出率の向上が期待できることから,累犯(連続窃盗など)に対する検査有効性を検討していく予定である。
著者
黒木 和彦
出版者
電気通信大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

量子力学によって支配される粒子である「電子」は波としての性質を持ち、その周波数と波長(あるいは逆数である波数)の間には一定の関係(分散関係)がある。波の分散関係は一般にそれが伝わる媒質によって異なるが、物質中では電子の分散関係が「バンド構造」となって現れ、物質の性質に重要な影響を及ぼす。一方、物質中には多くの電子が存在し、お互いに反発力(相互作用)を及ぼしあいながら運動している。本研究課題においては、物質が持つ「特異なバンド構造」と電子間の「相互作用」が協力しあうことで生み出される興味深い電子の伝導現象について、その起源と、そこで得た知見をベースにした新機能性物質開発のための設計指針についての理論的研究を行った。