著者
葛西 誠也
出版者
北海道大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2011

無秩序に動き回る電子集団から一方向性の流れ(=電流)を生み出す電子ブラウンラチェットは、生体の仕組みをとりいれた素子であり、低エネルギーでの電子輸送を可能にする。本研究の目的は、化合物半導体の1次元構造であるナノワイヤに非対称ゲートを周期的に設けることで電子ブラウンラチェットを実現し、動作実証することである。ラチェット動作の鍵となる鋸歯状ポテンシャルを内包する構造をGaAsナノワイヤにくさび形の金属ゲートを配置した構造で実現した。本素子によりブラウンラチェット動作モードの1つであるフラッシングラチェット動作に成功した。半導体フラッシングラチェットの室温動作は世界初の成果である。
著者
小野 芳朗 小野 芳朗 水藤 寛 毛利 紫乃
出版者
岡山大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2004

化学物質の影響は、子供が感受性が高い。その曝露シナリオのモニタリング指標として、子供の集積する小学校の桜の葉を選んだ。桜はほとんどの小学校に植えられている。岡山市内19の小学校に許可を得て、4月から11月までの間、桜葉を採取した。得られた葉を、ひとつはチトクロームP450誘導を知るEROD活性を測定した。これらの測定に係わり、葉中の繊維を溶かすなどのテクニックを導入した。EROD活性は概して道路近傍の小学校に多い傾向がみられたが、有意な差をみることは難しかった。そこで、多環芳香族炭化水素類(Poly Aromatic Hydrocarbon : PAH)を測定した。対象とした小学校は、岡山市内を横断する国道2号線(片側3車線)をはじめ、主な国道沿いの立地や、市南部の工場地帯の立地、山間部の立地など特性をもたせた。その結果、概して道路近傍の小学校の桜葉は、PAHに汚染されていることがわかった。また南部工場地域の小学校のPAHが最も高く、移動発生源である自動車よりも国連発生源である工場の影響が強いことが示唆された。また、PAHの由来をオイルと燃料由来に分けて検討した結果、燃料由来の比量が大きく、大気中の排ガス発生源のものを桜葉が吸収していたことが明らかになった。さらに、これら桜の葉との相関をとるために、桜木の下の土壌、当該小学校における大気をサンプラーによって収集かつ近傍道路において道路近傍の大気、じんあいを採取し、これらのPAHと桜葉中のPAHの相関を求めたが、明確な相関はでず、桜葉中のPAHは、これら複数の要因の複合により形成されていることが示唆された。
著者
久保田 富夫 大嶋 伸雄
出版者
埼玉県立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

健常成人男性19名、女性10名(19〜31歳,平均20.9歳)を対象として、連続した2晩の午前0時から7時までの7時間,ビデオ撮影により睡眠姿勢を録画した。録画終了後,睡眠時姿勢は28パターン(頭部,胸部,腰部)に分類した。アンケートは睡眠時姿勢の習慣や好みについてと起床時の睡眠感(PSQI, SMH)について行った。こられについて、1夜目と2夜目の夜間睡眠姿勢特性に変化や関連があるか検討した。その結果、男性19例における睡眠時姿勢変化パターンの数と平均回数は1夜目7.79±0.54パターン、2夜目7.05±0.42パターンであった。相関係数は0.63(p=0.004)であった。睡眠時姿勢変化の平均回数は1夜目が32.42±3.22回、2夜目が33.58±2.67回であった。相関係数は0.69(p=0.001)であった。女性10例における睡眠時姿勢変化パターンの数と回数は1夜目6.30±0.65パターン、2夜目6.70±0.68パターンであった。相関係数は0.89(p<0.001)であった。睡眠時姿勢変化の平均回数は1夜目が23.60±4.76回、2夜目が24.0±3.73回であった。相関係数は0.91(p<0.001)であった。これらのことから、今回実験に参加した健常成人被験者において、睡眠姿勢変化回数の出現数や個人の睡眠姿勢パターンの数に個人差が認められるが、同一個人では、記録夜ごとの変動はあまりないことがわかった。さらに、寝返り回数が極端に少ない健常成人女性1名について、体圧分散メカニズムを明らかにすることで、褥瘡予防に役立つのではないかと考えその徐圧方法の検討をおこなった。その結果、頭部や膝の曲げ伸ばしにより、徐圧していることがわかった。これらの方法を応用することで現在より睡眠感を悪くせずに他動的に体位変換が可能となる可能性が示唆された。
著者
樋口 重和 北村 真吾
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

本研究では、光の強度、波長、照射方法がヒトの生理心理反応に及ぼす影響を調べると同時に、夜勤時の光によるメラトニン抑制を軽減する方法について検証した。その結果、以下のことがわかった。1)網膜の鼻側は耳側に比べて光刺激に対する瞳孔の縮瞳量が大きいが、メラトニン抑制に関しては違いがなかった。2)青色光は赤色光に比べて、瞳孔の縮瞳量および後頭部の総ヘモグロビン濃度の増加量が有意に大きかった。3)夜勤時の光によるメラトニン抑制を防ぐ方法として赤色バイザーキャツプの着用または仮眠が有効であった。
著者
泉池 敬司 羽鳥 理 真次 康夫 古谷 正 高木 啓行 林 実樹広
出版者
新潟大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2001

H^∞のイデアル構造とその上の作用素の研究が目的で、代表者は次の結果を得た。1)H^∞の極大イデアル空間の自明点の集合に関するはスアレスの問題の解決。2)素イデアルに関するゴルキンとモルチイーニの問題の解決。極小のκ-hullに関するゴルキンとモルチイーニの問題の解決。極大イデアルの共通部分で表せるイデアルの十分条件を与えた。3)互いに特異な測度の特異性、および測度の絶対連続性が極大イデアル空間に表現できることを示しH^∞+Cでの割算問題に応用した。4)表現測度の台が極大となるための十分条件を与えた。この証明の方法は応用範囲が広いことがゴルキン、モルチイーニ氏との共同研究で分かった。また可算性の研究の1つとして、QC-level集合、非解析集合を研究した。5)合成作用素の空間の本質ノルムによる連結成分を決定した。6)中路、瀬戸氏とトーラス上の逆シフト不変部分空間の研究を行ない、自然に得られる作用素が可換になるときの部分空間を決定した。7)Yang氏とはトーラス上で、逆シフト作用素が縮小的な部分空間を決定した。研究分担者の古谷氏は長氏とlog-hyponormal作用素を研究し、Riemann-Hilbert問題に1つの解を与えた。またω-hyponrmal作用素のkernelに関するAluthge-Wangの問題の解答を与えた。真次氏はn次元空間の単位球上の関数空間の研究を行い、荷重バーグマン・プリバロフ空間に対して、Yamashita-Stoll型の特徴付け及び等距離写像の決定を行った。羽鳥氏は可換Banach環上の環準同形写像の表現定理を与え、環準同形写像が線形写像となるための十分条件を与えた。高木氏は関数環上の荷重合成作用素の次の性質を明らかにした。1.閉値域 2.本質ノルム 3.Hyers-Ulam stability定数。
著者
岡部 大介
出版者
東京都市大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2014-04-01

様々な履歴を持った人々がゆるやかにつながるファン・コミュニティにおいては,コンテンツの消費だけではなく,生産活動が重視される.本研究では,日米のファン文化を対象に,どのようなコミュニケーションを通して,創造活動が促進されるのかをエスノグラフィックに記述した.具体的には,情報ネットワーク化された社会に「足場掛け」られながら促進される学習と,様々な道具や知識,情報の「密猟」を介したものづくりについてフィールドワークとインタビューを行い,質的データ分析手法を用いて分析した.結果,つくることを通したネットワーキングのありようや,インフォーマルな学習がどのように調整されるかを見ることができた.
著者
濱中 春
出版者
法政大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

1800年前後のドイツ語圏における気象学史を、リヒテンベルク、アルニム、ゲーテの気象学との取り組みを通して見直した。気象学の近代化に際しては、観測機器の改良や観測網の構築と並んで、天気記号やグラフ、等値図などの視覚的な表象も考案されたが、当初はそれらの科学的な意味自体が省察の対象となるとともに、それらの表象の利用方法も確立されていなかった。このように、1830年頃まで気象学は、数学的な抽象化と視覚的な具体化とのはざまで揺れ動いていたことを明らかにした。
著者
浜渦 辰二 中村 剛 山本 大誠 福井 栄二郎 中河 豊 前野 竜太郎 高橋 照子 備酒 伸彦 竹之内 裕文 竹内 さをり
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010

医療,看護,リハビリ,介護,福祉,保育,教育まで広がる「北欧ケア」を,哲学・死生学・文化人類学といったこれまでこの分野にあまり関わって来なかった研究者も参加して学際的に,しかも,実地・現場の調査により現場の人たちと研究者の人たちとの議論も踏まえて研究を行い,医療と福祉をつなぐ「ケア学」の広まり,生活中心の「在宅ケア」の広まり,「連帯/共生」の思想が根づいていること,などが浮かび上がってきた。
著者
小川 佳宏
出版者
東京工業大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2011-04-01

チップ増強レイリー散乱法では、試料表面にコンタクトしたAFMチップ(Ptコート)に入射角20-30度方向から励起光を入射すると、チップによる空間対称性の低下により試料表面上に発生した近接場光が散乱される。散乱光強度は、AFMチップー試料間距離に対する非線形性から、Tapping周波数(Ω~70 kHz)の高調波成分を含んでいて、本実験ではチップのArtifactを除くために、その第二高調波(2Ω)を検出した。音響光学素子(AOM)を用いてω’(~40 MHz)だけ周波数シフトさせた参照光を、散乱光と干渉させる。高周波ロックインアンプでω’-2Ω成分を検出すれば、散乱光の振幅Esigと相対位相φsig-φrefを求めることができる。ここで重要なことは、2位相高周波ロックインアンプの振幅と位相がそのまま光の振幅と位相に対応することである。このようにして、金ナノ構造に光照射した際に発生する構造体近傍の電場の振幅と位相の同時検出を行った。その結果ナノ構造体には双極子型の電場分布が出来ており、FDTD法を用いた計算結果と一致することがわかった。また、チップ増強法の起源の解明を行った。チップ増強法は、チップ先端での電場増強効果の他に、Purcell効果に由来する発光効率の増大、チップ金属で熱になる損失の3つの効果が関係しているため、いまだにチップ増強法の明確な起源は明らかとなっていない。そこで、チップ増強発光法とチップ増強ラマン散乱法を用いて、これらの効果がそれぞれどの程度寄与しているかを調べた。試料としてGaAs、ZnSe, GaSe, CdSe量子ドットを用いて増強度と発光寿命の変化を測定した。その結果、いずれの試料においても、電場増強効果による寄与が最も大きいことがわかった。
著者
木内 久美子
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

今年度は特にベケットとジョイスとの関係に焦点をあてて「言語の起源」としての「幼児期」の形象を分析した。四・五月には昨年に引き続き文献学的調査をおこなった。特に「幼児」の形象に焦点を絞り、一九二〇年代前半から三〇年代後半にかけて書かれた両者の草稿・ノート・書簡・著作を比較検討した。その結果、両者がマウトナーの著作『言語批判に寄せて』とヴィーコの『新しい学問』に影響を受けていることが明らかにされた。六月から九月にかけてはマウトナー・ベケット・ジョイスの関係の解明に取り組んだ。文献学的作業によって「隠喩・擬人化批判」が三者に共通する問題意識として取り出された。マウトナーを参照することによって、ジョイスの『フィネガンズウェイク』言語の中心課題が「擬人化批判」として明確化され、それを「直接的言語」と評したベケットの意図も照射されることとなった。その研究成果の一部は七月に行われた日本サミュエル・ベケット研究会例会にて発表された。年度の後半ではヴィーコ『新しい学問』を読解し、ベケットとジョイスに共通する「隠喩・擬人化批判」がヴィーコの「幼児」や「子供」の形象に媒介されていることを解明した。ヴィーコは既知の隠喩を未知の対象に適用しようとする隠喩使用を「幼児」や「子供」の形象に代表させている。その能力は未発達であるため認識を獲得できず、むしろ認識に失敗する。これを出発点にしてジョイスとベケットのヴィーコ受容を比較分析し、二者の差異を解明した。この研究経過は第四回表象文化論研究集会において発表された。以て「幼児」形象の分析を介して、ベケット的なエクリチュールに向かう自伝文学の系譜の起源にヴィーコ的な幼児言語(認識の失敗)とマウトナー的な言語批判(行為としての言語使用)が見出されることとなった。
著者
小松 美彦 大谷 いづみ 香川 知晶 竹田 扇 田中 智彦 土井 健司 廣野 喜幸 爪田 一寿 森本 直子 天野 陽子 田中 丹史 花岡 龍毅 的射場 瑞樹 皆吉 淳平
出版者
東京海洋大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

米国で誕生し日本に導入されたバイオエシックスの特性を検討した。すなわち、文明論、歴史、メタ科学、経済批判、生権力の視点が稀薄ないしは欠落していることを剔抉し、日本の生命倫理の改革の方向性を検討した。成果は共著『メタバイオエシックスの構築へ--生命倫理を問いなおす』(NTT出版、2010)にまとめた。また、バイオエシックスが導入された1970~80年代の日本の科学・思想・宗教・政治状況を、文献輪読やオーラルヒストリー調査などを通じて考察した。以上は、国内外の研究にあって初の試みであり、書評やシンポジウムなどで高く評価された。
著者
柳澤 悠 井上 貴子 杉本 良男 杉本 星子 粟屋 利江 井上 貴子 杉本 良男 杉本 星子 粟屋 利江
出版者
千葉大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

本研究は、耐久消費財の浸透など消費パターンの変化が、インド農村の下層階層においても生じていること、変化は単なる物的な消費財の面に限らず、教育、宗教活動などに広がっていること、消費の変化は階層関係など社会関係の変容や下層階層の自立化によって促進されていること、またその変動は1950-60年代から徐々に生じていると推定されること、農村消費の変化が産業へ影響を及ぼしていることなどを、明らかにした。
著者
椿 美智子
出版者
電気通信大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

サービス・サイエンスの考え方に基づき,学生の学習の異質性(個人差)を考慮した上での教育効果を測るためのモデルや方法論を色々な角度から提案し,実際に先生方が教育効果を分析できるシステムを開発した。具体的には,タイプ別教育・学習効果分析システム開発,学生の学習の異質性に基づく1対多の教育・学習コミュニケーションの効果とトレードオフ,T法(1)の教育効果測定のモデルへの拡張,自己調整型問題解決力向上支援システム開発,理工系大学生の就職・生涯キャリア支援システム開発,及び有用性の検証を行った。
著者
戸高 七菜
出版者
一橋大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2009

自傷行為経験者へのインタビュー調査により、行為者は二つの目的をもって自傷行為を行うことがわかった。自傷行為の第一の目的は不快気分の解消である。自傷行為によって、現実感が喪失しているように感じられる離人感や抑鬱感などを、軽減するために行うものである。二つ目の目的は、他者との関係に変化を起こすことである。自傷行為の原因についてはまだ明らかになっていないが、幼少期にトラウマ体験に遭遇している場合が多い。
著者
小宮山 淳 上松 一永 小池 健一
出版者
信州大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1996

NK細胞異常症の病態と障害部位を解明するとともに、殺細胞障害の原因遺伝子の解析を進めてきた。1.家族性NK細胞異常症(1)詳細な表面マーカー検索によって、CD56^+細胞はすべてCD3^+CD56^+であり、T細胞系に属する細胞であった。したがって、この疾患は、本質的にNK細胞欠損症であることが判明した。(2)NK細胞の数的減少の原因解明を目的に、NK細胞の分化成熟能を検索した。骨髄細胞をstromal layerとIL-2、またはstem cell factor、IL-7、TNF-α、IL-1βの存在下で培養し、培養細胞についてflow cytometryを行った。その結果、CD3^-CD56^+は検出できず、さらに詳細な検討が必要となった。(3)キラーT細胞ではパ-フォリンmRNA発現機構は正常であった。2.チェディアク-東症候群(1)NK細胞活性はK562細胞に対しては著減していたが、Jurkat細胞に対しては認められた。Jurkat細胞に対する殺細胞機能はTNF-αに基づくものではなかった。(2)パ-フォリンmRNA発現機構は正常であり、蛋白レベルでも正常に存在した。(3)Fas-Fasリガンドを介するアポトーシス系の殺細胞機構を検索した。その結果、Fas mRNA発現は正常であり、機能も正常に発揮された。3.血球貧食症候群、全身性エリテマトーデス、チェルノブイリ原発事故汚染によるNK細胞不全などでも同様に検討した。
著者
小椋 秀樹
出版者
立命館大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究は,現代語表記のゆれの実態について,『現代日本語書き言葉均衡コーパス』に収録された複数のレジスターを対象にした調査から明らかにするものである。現代語表記のゆれの実態として,次のようなことが明らかとなった。(1) 統語的複合動詞の後項動詞の表記の変遷を調査したところ,漢字表記が増加する傾向が観察された。(2) 外来語については,長音の表記に関するゆれが多く見られた。具体的には,語末長音のゆれと,原語の二重母音[ei]の表記のゆれが観察された。
著者
西永 頌 HUO C. GE P. NIE Y. 成塚 重弥 田中 雅明 NIE Yuxin GE Peiwen HUO Chongru HUO C GE P NIE Y
出版者
東京大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1995

平成7年度から平成9年度の3年間にわたり、中国科学院物理研究所と東京大学工学系研究科との共同研究により、微小重力下で化合物半導体GaSbの融液成長に関する研究を行った。本研究においては、平成4年において、中国の回収型衛星を用いて融液成長法により成長させた結晶を評価する研究より開始した。評価法としては、化学エッチングによる転位の評価および、空間分解フォトルミネッセンス法によるTe不純物分布の測定を行った。前者の結果から、転位は種結晶から宇宙で成長した結晶部分に移る所で一度は増加するが、次第に減少し、ついには0になることがわかった。宇宙では融液柱および成長結晶は浮遊しており、管壁に接しないので歪みが発生しない。このため非常に高品質の結晶が成長したことが判明した。次に空間分解フォトルミネッセンス法によりTeの分布を調べた所、宇宙で融液が浮遊し、自由表面が出ていたにもかかわらず、不純物分布は拡散支配となっていることが判明した。このことは、宇宙ではマランゴニ対流が発生しなかったことを意味しており、非常に興味深い結果が得られた。次に同じく日中の共同研究によりNASAのGASプログラムを利用し、スペースシャトルにおいてGaSbの融液成長を行う計画を立てた。そのため中国側では電気炉を作製し、日本側はGaSbの結晶を加工整形し石英アンプル管に封入する作業を行った。中国側では、6分割電気炉を設計試作し、これに一定の温度勾配をつけ、この分布を上下に変化させることによりGaSbの結晶を融解・固化するようプログラムを作製した。日本側ではTeをドープした直径10mm長さ10cmのGaSbを石英管に真空封入し中国側に渡し、中国側でこれ等をGAS容器にセットしNASAに送った。実験は二度程延期となったが、平成10年1月末スペースシャトルSTS-89号で行われ、現在GAS容器は中国に搬送中である。この間、実験を行う上での打ち合わせを中国、日本と各3回行い準備を進めるとともに、中国回収衛星で行った融液成長実験の解析および討論を行った。
著者
谷津 裕子 佐々木 美喜 千葉 邦子 新田 真弓 濱田 真由美 山本 由香 芥川 有理
出版者
日本赤十字看護大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

20代女性の出産に対するイメージを当事者への聞き取り調査を通じて明らかにした。20歳代未婚女性33名に非構成的面接法を行い、得られたデータを質的に分析した結果、20代女性の出産イメージを示す10の特徴が抽出された。20代女性が出産に現実味を感じにくい背景には、就労状況の過酷さや職場や地域社会における家族中心施策の未整備,ロールモデルの不在、ライフデザイン教育の不十分さ等が存在し、これらの問題に取り組むことが少子社会における出産環境の創出に向けた喫緊の課題と考えられた。
著者
森岡 周
出版者
畿央大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

本研究は、まず健常者の道具操作および観察・イメージ時の運動関連領域の脳活動をNIRS-EEGシステムを用いて検出し、それから得た脳活動を基に閾値を設定し、その閾値を超えると視覚フィードバックを与えるニューロフィードバック装置を開発した。なお全ての対象者において左運動前野の活動が明確であったため、その領域の活動に焦点を置いた。この装置を用いて、脳卒中後に上肢運動障害を呈した10名の患者に対して2週間の介入を行った。結果、道具操作観察・イメージ時に左運動前野の閾値を超える活動を認めた6名は、介入によって有意な機能改善を認めた。一方、閾値を超えなかった4名は介入によって著明な効果が見られなかった。