著者
立花 宏文
出版者
九州大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1999

ヒト抗体産生細胞がカフェインや植物レクチンの刺激により、本来産生していた抗体軽鎖を消失し、代わりに新たな軽鎖を産生する細胞が高頻度に出現する軽鎖遺伝子の発現シフト現象(Light chain shifting)を見出した。Light chain shiftingを起こした細胞より産生された抗体は、いずれも本来の抗原結合性を大きく変化させていることを明らかにしてきた。そこで本研究課題では、Light chain shiftingの自己抗体産生機構としての可能性について検討を行った。自己免疫病では、その発症に抗DNA抗体や抗赤血球抗体などの自己抗体の産生が直接的な役割を果たしているが、その産生機構はほとんど明らかにされていない。Light chain shiftingの自己抗体の産生への関与が明らかになれば、その誘導機構を解明することで自己抗体の産生を伴うことの多い自己免疫疾患の原因究明につながる可能性がある。そこで、Light chain shiftingによって発現した抗体の性質(自己抗原との反応性や軽鎖遺伝子の構造)を明らかにするため、Light chain shiftingを起こし軽鎖遺伝子の発現を変化させた細胞を多数クローニングして、それぞれの細胞より抗体遺伝子を調製し、その構造解析を行った。その結果、自己反応性を示した抗体の軽鎖の多くは、その可変領域に組み換えの際に生じたN領域を有していることが明らかとなった。このN領域は、重鎖の可変領域にのみ存在するとされ、デオキシヌクレオチド添加酵素(TdT)の働きにより形成される。実際、Light chain shifting誘導性の細胞では、TdTの発現が見られることを確認した。また、自己反応性を有する抗体軽鎖は、特定のV遺伝子を利用した遺伝子組み換えによるものであることが明らかとなった。Light chain shiftingは、従来よりいわれていた抗体遺伝子の組み換え誘導条件であるRAG-1,2の発現と胚型転写の誘導という二つの条件では誘導されず、その誘導には第三の因子が関与していることが明らかになった。
著者
税所 玲子 広塚 洋子 小笠原 晶子 塩﨑 隆敏 杉内 有介 吉村 寿郎 佐々木 英基 青木 紀美子
出版者
NHK放送文化研究所
雑誌
放送研究と調査 (ISSN:02880008)
巻号頁・発行日
vol.71, no.3, pp.22-39, 2021 (Released:2021-04-20)

2021年、世界各国で新型コロナウイルスの予防接種が始まったが、感染力が強い変異ウイルスの出現もあり、感染の拡大は止まっていない。WHOによると感染者の数は1月末までに1億人に近づき、死者は200万人を超えた。世界のメディアは新型コロナやその感染予防策についてどのような発信をしたのか。報道を継続するために組織としてどのような対応をとったのか。浮かび上がった課題は何か。 2月号に続き、コロナ禍に対する海外のメディアの対応を報告する。ヨーロッパ、中東、アフリカの国ごとの動きに加え、メディアが直面した問題をテーマ別にまとめる。
著者
安藤 聖泰 菊地 秀彦
出版者
一般社団法人 映像情報メディア学会
雑誌
映像情報メディア学会技術報告 32.33 (ISSN:13426893)
巻号頁・発行日
pp.25-29, 2008-07-31 (Released:2017-09-20)
参考文献数
5

視聴者が参加できる3D仮想世界サービス「SecondLife」の中で,地上波テレビの番組制作・放送を行っている.本報告では,3D仮想世界を用いた新たな番組のコンセプト,制作手法,及び新しいビジネス展開について紹介する.
著者
江本 賢太郎 佐藤 春夫
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-03-10

短周期地震波は,地球内部の短波長不均質構造による散乱により複雑な波形を示す.例えば,エンベロープ拡大現象や,最大振幅の散乱減衰,コーダ波の励起などが挙げられる.これらを説明するには,ランダムな不均質媒質中での波動伝播を統計的に記述し,波形エンベロープを直接導出する方法が有効であり,ボルン近似を用いた輻射伝達理論や放物近似に基づくマルコフ近似理論が用いられてきた.手法の妥当性の検証には波動方程式の差分法計算との比較が必要であるが,3次元では計算コストの問題からこれまでほとんど行われていない.本研究では,地球シミュレータを用いた3次元差分法計算によりランダム媒質中のスカラー波伝播を再現し,その特徴を調べ統計的手法と比較する.ランダムな速度ゆらぎは指数関数型自己相関関数で特徴づけられるとし,ゆらぎの強さは5%,相関距離 a は1kmと5kmとした.差分法での解析対象周波数は1.5Hzとし,空間刻み0.08km,平均伝播速度4km/sとすると,1波長あたり33グリッドとなり数値分散の影響は無視できる.差分計算は空間4次・時間2次精度とする.計算領域は1辺307kmの立方体とし,中心からRicker波を等方に輻射する.観測点は伝播距離25, 50, 75, 100kmに各距離に20個配置する.この大きさのランダム不均質媒質を一度に作成するのは困難であるため,異なるシードで作成した小さなランダム媒質をなめらかにつなげて全体を構成する.同様に作成した計6個のランダム不均質媒質における計算結果をアンサンブルとして用いる.まず,差分トレースをスタックした平均2乗エンベロープを統計的手法と比較する.相関距離1kmの場合,ボルン近似を用いた輻射伝達理論は,立ち上がりからコーダまで差分エンベロープをよく再現することができた(計算にはモンテカルロ法を用いた).一方,相関距離5kmの場合,ピーク付近のエンベロープは改良マルコフ近似(Sato, 2016)でよく再現でき,コーダ部分はボルン近似を用いた輻射伝達理論で再現できることを確認した.中心波数をkcとすると,前者はakc=2.3,後者はakc=12であり,後者はボルン近似よりもマルコフ近似が適している領域である.次に,エンベロープを構成する差分トレースの2乗振幅分布を調べる.直達波到達直後は対数正規分布を示すのに対し,コーダ部分は指数分布に従うことが分かった.これは,エンベロープを構成する散乱波が,前方散乱波からランダムな分布へと変化していくことを示している.また,相関距離が小さいほど,指数分布へと変化するまでの時間が早くなり,相関距離1km,伝播距離100kmではエンベロープのピーク付近も指数分布となった.また,各観測点の周りに小さな3つの正12面体の頂点となるようにアレイを設置し,各時刻においてFK解析から散乱波の到来方向を調べた.震源方向を基準とした散乱波の入射角は,初動到達後から単調増加した.差分計算は経過時間50秒まで行ったが,この範囲内では,入射角のピーク値の平均は60°程度まで増加したが,等方的にはならなかった.つまり,エネルギーフラックスが等方的になる前から,2乗振幅は指数分布に従うことがわかった.相関距離が1kmの方が5kmと比べてコーダ振幅の励起量が多いが,入射角分布は両者に顕著な違いは見られなかった.

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著者
菅野 雅彦
出版者
愛知学泉大学
雑誌
愛知学泉大学コミュニティ政策学部紀要 (ISSN:13447939)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.7-23, 2004-12

14世紀のイギリスはあらゆる面で激動の世紀であった。ガワーが生まれて数年後、1337年にフランスとの間に戦争が始まった。この戦は「百年戦争」と呼ばれる。当時、イギリスには十字軍の余燼がまだ燻っていた。また、ローマ教会がローマとアヴィニヨンに分裂し、二人の法王が並立した。14世紀には、イギリスは三度も黒死病に襲われ人口の半分以上が死亡した。物価が高騰し、土地を捨てて逃走するものが多く出た。エドワード王が亡くなり、孫のリチャード二世が僅か十才で即位した。しかし、ガワーの期待は無残にも裏切られたので、彼はヘンリー四世に希望を繋ぎ平和を願って詩を書いた。
著者
甲斐 倫明 河野 孝央
出版者
プラズマ・核融合学会
雑誌
プラズマ・核融合学会誌 (ISSN:09187928)
巻号頁・発行日
vol.89, no.9, pp.622-628, 2013-09

放射線施設の放射線安全管理は基本的に法令に従って行われる.そのなかには,放射線計測を伴う規定もある.本講座では,そうした法令の根底にある放射線防護の考え方についてICRP勧告の経緯を参照しながら概説する.また国内法は,ICRPの新勧告を取り入れながら変遷してきた歴史をもつが,そうした法令の中から放射線障害防止法を紹介する.
著者
原島 博
出版者
公益社団法人 計測自動制御学会
雑誌
計測と制御 (ISSN:04534662)
巻号頁・発行日
vol.30, no.6, pp.478-484, 1991-06-10 (Released:2009-11-26)
参考文献数
16
被引用文献数
1
出版者
: 薮田 : 貞享5
巻号頁・発行日
1688
著者
市村 将太
出版者
東京海洋大学
巻号頁・発行日
2020

東京海洋大学博士学位論文 2020年度(2020年9月) 応用環境システム学 論文博士 乙第39号
著者
金 慶子 萩原 京平 梅野 太輔 斎藤 恭一 須郷 高信
出版者
日本膜学会
雑誌
(ISSN:03851036)
巻号頁・発行日
vol.34, no.4, pp.233-238, 2009-07-01
参考文献数
21
被引用文献数
1 2

An immobilized metal affinity porous membrane of a hollow-fiber form was applied to the purification of geneticallyengineered histidine (His)–tagged fusion protein. An iminodiacetate (IDA)group (–N(CH2COOH)2)was introducedinto the poly–glycidyl methacrylate chain grafted onto a polyethylene-made porous hollow–fiber membrane.Subsequently, nickel ions were bound to the IDA group before the permeation of a His–tagged green fluorescent pro-tein (GFP)solution through the porous membrane. The resultant immobilized nickel affinity porous membrane(immobilized Ni membrane)had a ligand density of 0.36 mol/kg and a phosphate buffer flux of 0.4 m/h at a perme-ation pressure of 0.1 MPa and 298 K. His–tagged GFP adsorbed to the immobilized Ni membrane was eluted by per-meating a 0.5 M imidazole solution through the porous membrane. From an SDS–PAGE analysis, the purity of theprotein was found to be improved from 35 to 97%.
著者
志賀潔 著
出版者
富山房
巻号頁・発行日
1940
著者
柳下 実
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.70, no.4, pp.343-359, 2020

家事労働研究は家事労働の分析を通して,世帯内労働の男女不平等を明らかにしてきた.特に量的な家事労働研究は,料理,皿洗い,掃除などのタスクに費やす時間や頻度から家事労働を把握してきた.しかし,これらの研究は世帯員の活動を滞りなく進めるためになされる世帯のマネジメントを見落としているという批判がある.本稿は上記の批判を発展させ,世帯のマネジメントには時間の捻出である生活時間のやりくりや,やりくりの可能性を考慮してスケジュールを構成する生活時間の組み立てが含まれると論じ,さらにそれらを女性が担っていると予想する.<br>そのうえで生活時間のやりくりを量的調査から捉える試みとして,世帯の構成が変化する結婚や子どもを持つことが生活時間に与える影響に着目し,探索的な分析をおこなった.働き方とライフスタイルの変化に関する全国調査を用い,固定効果モデルで結婚や子どもを持つことによって,男女の起床・家を出る・帰宅・就寝時刻にどのような変動が生じるのかを検討した.結果から,結婚により男女とも起床・帰宅・就寝が早くなっていた.子どもを持つことは男女ともに時刻へ有意な影響を与えていたが,女性への影響がより大きく,子どもを持つ女性は起床・帰宅・就寝が男性より有意に早い.本稿の知見から子どもを持つ際の活動のタイミングを動かすという労働の負担が,女性に大きいことが示唆された.
著者
岸保 鉄也 霜村 真一 久松 健一 中澤 勉 中島 司 野沢 出 村上 嘉彦
出版者
日本耳科学会
雑誌
Otology Japan (ISSN:09172025)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.90-94, 1994

In middle ear diseases including otitis media with effusion (OME), there are various lipids mediators such as leukotoriene C<SUB>4</SUB>, D<SUB>4</SUB> (LTC<SUB>4</SUB>, LTD<SUB>4</SUB>) and prostaglandin E<SUB>2</SUB> (PGE<SUB>2</SUB>) in the effusion of the tympanic cavity. Therefore, it is important to examine the effect of these mediators on middle ear clearance. We studied on the effect of LTC<SUB>4</SUB>, LTD<SUB>4</SUB> and PGE<SUB>2</SUB> on mucociliary transport of the eustachian tube both in vitro and in vivo. Healthy guinea pigs with normal Preyer's reflexes were used in vitro study. Normal ciliated epithelium was carefully obtained from the tubotympanium and incubated with RPMI solution in the from of tissue culture. The epithelial specimens were incubated with LTC<SUB>4</SUB>, LTD<SUB>4</SUB> and PGE<SUB>2</SUB> respectively, ranged at the concentrations of 10<SUP>-8</SUP>M and 10<SUP>-6</SUP>M. Ciliated cells of the specimens were observed under an inverted microscope. Ciliary activity of each ciliated cell was photo-electrically measured on a TV monitor. LTC<SUB>4</SUB> and LTD<SUB>4</SUB> inhibited ciliary activity at the concentrations of 10<SUP>-8</SUP>M and 10<SUP>-6</SUP>M in vitro. PGE<SUB>2</SUB> promoted ciliary activity at the concentrations of 10<SUP>-8</SUP>M and 10<SUP>-6</SUP>M. Healthy chinchillas were used in vivo study. The animals were free of middle ear infection and hearing loss as determined by otomicroscopy, tympanometry and auditory brainstem response (ABR). One ml each of 10<SUP>-5</SUP>M LTC<SUB>4</SUB>, LTD<SUB>4</SUB>, PGE<SUB>2</SUB> and the control solution (10<SUP>-3</SUP> ethanol/saline) was directly injected into the tympanic bulla with a 27-gauge syringe under anesthetization. The middle ears were examined by otomicroscopy, tympanometry and ABR across time. LTC<SUB>4</SUB> and LTD<SUB>4</SUB> inhibited mucociliary transport of the eustachian tube. However, there was no significant difference between PGE<SUB>2</SUB> and the control.