著者
奥谷 公亮
出版者
鹿児島大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2021-08-30

鳥インフルエンザウイルス (AIV) は8分節のRNAをゲノムに持ち、遺伝子再集合により、性状の異なる多様なAIV株が出現する。そのため、野鳥における流行株の性状を把握するためには、AIVの全遺伝子分節の解析が重要である。本研究は、AIV全遺伝子分節を標的にした迅速な塩基配列解読法を確立し、流行株の性状変化をリアルタイムに検出する系の構築を目的とする。確立した手法により、AIV分離株の全遺伝子分節を解析し、疫学調査としての有用性を検証する。
著者
八坂 哲雄 麻生 茂 宇田 暢秀 西田 迪雄 安倍 賢一 田中 卓史 永山 邦仁 室園 昌彦
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2003

惑星探査機の搭載機器能力を大きく向上させる方式として、惑星周回軌道に投入する際にアエロブレーキを用いることを目的とし、その基本技術として、地球周回軌道で小型人工衛星を用いた実証をすること、水素を主成分とする惑星大気の力学を極めることを柱として研究を行ってきた。最終年度には、地球周回実証機の打ち上げ機会が得られなかったので、フライトモデルにプログラム書き換え機能を付与すること、ユニットの統合などによる軽量化を計ることなどの高機能化を行った。非火薬分離機構の研究では、切り離し実験を進め、実用システムとしての可能性を見出した。釣竿を利用した伸展ロッドは環境試験を実施して実用の確認をした。姿勢・軌道の制御ではテザーの運動を利用して効果的な軌道制御を実現する理論を確立した。気体力学では、水素極超音速希薄流の解析を行い、水素分子の回転緩和、振動緩和、解離反応を考慮し、木星大気を対象としたエアロキャプチャーが実現できる見通しを得た。実験的にはデトネーション駆動型イクスパンションチューブを用いて水素極超音速流の発生を試み、8km/sを達成した。また、炭素系アブレータをアーク加熱空気流に曝し、分光分析によりCN Violet、C_2 SWANバンドをアブレータの上流側で観測し、スポーレーションの発生を確認した。さらに、惑星大気に突入したときの強い衝撃波を含む非定常大規模乱流を解明するため、精度向上を達成できるLES/RANSハイブリッド乱流モデルを検討し、新たなモデル表式を確立した。
著者
金子 惇
出版者
横浜市立大学
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2020-04-01

本研究の目的は目的①:わが国の保健医療分野で使用可能なへき地尺度を開発する目的②:へき地尺度を用いたへき地医療に関する臨床研究ネットワークを構築するの2点である。へき地と都市部における疾患や患者層の比較、医師、看護師などの医療従事者を確保するため人的・経済的支援の分配などはいずれも重要な検討課題だが、「へき地」に含まれる地域は多様であり、段階的かつ客観的なへき地尺度に基づいて検討する必要がある。保健医療分野におけるへき地尺度の開発は本邦初であり、既存の医師偏在指標と補完的に用いることにより、へき地医療の可視化、政策立案に必要な臨床研究の促進に繋がると考えられる。
著者
梶 達也
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2000

クロマグロを含めたサバ科魚類は,水産業上の重要魚種を多く含むにも関わらずその初期発育については断片的な知見があるにすぎなかった。本研究では,通常は入手がきわめて困難なサバ型魚類仔魚を複数種利用できるという利点を最大限活用し,その初期生残戦略を明らかにすることを目的とした。昨年度に東京都葛西臨海水族園において行った実験から得られたハガツオ仔魚の胃内容物を精査した。その結果,本種仔魚は摂餌開始の翌日に速やかに魚食性へと移行するが,摂餌開始日の1日のみ動物プランクトンに依存するという食性を示すことを明らかにした。また,マサバとサワラの飼育実験と,昨年までに得ていたクロマグロ,キハダ,スマのデータから,これらサバ型魚類の魚食性・高成長という初期生残戦略の多様性は特化した消化系の発達過程に良く対応することが示された。昨年度に発見した卵白添加による海産仔魚の浮上へい死防除を,三重県科学技術振興センター水産研究部尾鷲水産研究室においてクエおよびマハタ仔魚に適用した。小規模実験の結果,両種にも卵白添加法はきわめて有効であることが明らかとなった。さらに中規模の試験結果から,本手法は量産規模へ応用できる可能性が高いことが示された。以上の研究のため,国内旅費を必要とした。昨年度の飼育実験による成果を平成14年度日本水産学会において口頭発表した。また,同学会で催されたシンポジウム「サバ型魚類の資源・増殖生物学」においてサバ型魚類の初期発育をとりまとめレビューを行った。さらに,投稿論文を2編発表した。
著者
内山 巌雄 谷川 真理 東 賢一 東 実千代 青野 明子 萬羽 郁子
出版者
公益財団法人ルイ・パストゥール医学研究センター
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2020-04-01

化学物質に対する過敏状態の解明は、臭い負荷による脳機能イメージング研究によって、外的ストレスに対する大脳辺縁系を介した作用機序に焦点があてられてきた。本研究では、随意的な眼球運動に関与する大脳の領域が前頭前皮質の前頭眼窩野にもあり、サルの実験では嫌悪刺激への応答がみられることに着目し、臭い負荷による脳機能イメージング研究で得られた知見をもとに、臭い負荷による滑動性追従眼球運動(SPEM)検査との関係を把握する。SPEM検査は簡易であることから、簡易検査法の開発に寄与する基礎データを得る。また、認知(行動)療法や運動療法等を含む介入効果についても臭い負荷SPEM検査法で客観的に検証する。
著者
石井 啓義 寺尾 岳
出版者
大分大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

リチウムの抗自殺効果に注目して、疫学調査を行った。九州全域の118 市を対象に、 297 ヶ所において水道水中に含まれるリチウム濃度を測定し、 さまざまな要因で補正しながら、自殺率との相関を検討した。その結果、大分県、佐賀県、長崎県の 3 県において、女性の自殺率と水道水リチウム濃度の間に有意な負の相関を認めた。
著者
川添 和義
出版者
徳島大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1998

1.各産地におけるArtemisia annua及びArtemisia apiaceaに含まれるアルテミシニンの含有率について,さらに評価を続けた.昨年開発を行った固層抽出法とGC-MSを組み合わせた分析法により,台湾産(高雄市場品)について分析を行った結果,黒竜江省で採集したA.annuaに匹敵する含量を認めた.今年度はさらにHPLCによる分析を行い,著者が開発したアルテミシニンの分析法を評価した.すなわち,昨年分析を行った大阪市場品,北京市場品,陜西省市場品,黒竜江省採集品,雲南省採集品の各石油エーテルエキスを作製し,それらをHPLCで分析したところ,GC-MSを用いた結果とほぼ一致することがわかった.さらに感度はGC-MSの方が数万倍上回ることから本方法の有用性が明らかにされた.2.ヨモギ属植物の評価をさらに国内産のヨモギについても行った.今年度はヨモギ,ワタヨモギ,リュウキュウヨモギなど国内に自生するヨモギ属植物13種について栽培し、その生物活性成分を検討した.その結果,日本において絶滅危惧とされているワタヨモギのアルコール抽出エキスに強い抗MRSA活性のあることが判明した.そこで,本エキスについて種々のカラムクロマトグラフィーを用いて分離精製を行い活性成分を単離した.本化合物については現在その構造を解析中である.抗MRSA活性を有するヨモギ属植物はワタヨモギ以外にも確認されており,今後さらに検討を続ける予定である.
著者
山田 修司 中西 康剛
出版者
京都産業大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2001

結び目理論においては、近年、量子不変量と呼ばれる一連の不変量が発見され、精力的に研究されている。また、結び目理論は、低次元幾何学特有の複雑な現象が見られる分野でもある。当研究では、その複雑な現象と不変量とを暗号理論に結びつけて、新しい公開鍵暗号システムを構築することにあった。公開鍵暗号システムを構築するには、逆関数は存在しているが、その計算は非常に困難であるような、落とし戸関数と呼ばれる関数が必要となる。当研究においては、その関数を結び目の複雑性に求めた。研究成果として、研究代表者は、結び目ダイアグラムおよび組み紐群を用いた、新しい暗号システムの素案を考え出した。結び目ダイアグラムを用いたものは、ダイアグラムを表すコード列である、P-dataと呼ばれるものを暗号化のためのデータとして用いるものである。平文のデータを用いてP-dataを作り、それに適当な交点情報を付け加えてできる結び目ダイアグラムをライデマイスター変形を行うことにより、暗号化を行う。また、組み紐群を用いた暗号システムには、韓国の研究者グループが先鞭を打っているが、当研究においては、彼らの実績をふまえつつ、暗号化手続きにさらに複雑な手順を施し、暗号の保守性を高めたものを考案した。しかしながら、どちらの暗号システムにおいても、暗号化のための効果的なアルゴリズムの存在と、暗号の保守性とを両立させるものを構築するには、至らなかった。
著者
北條 優 重信 秀治
出版者
琉球大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

キノコを栽培するシロアリであるキノコシロアリ(タイワンシロアリ)について、主に西表島、沖縄島、台湾島におけるフィールド調査およびDNA解析から、その栽培菌であるオオシロアリタケ属菌の地理的分布パターンを明らかにした。また日本ではこれまで知られていなかったオオシロアリタケ属菌の子実体を発見した。タイワンシロアリの行動解析では、大小2型のワーカー間に菌園管理における分業が見られることが明らかになった。タイワンシロアリの全カーストを用いた遺伝子の網羅的発現比較解析では、セルロース類の消化や菌園管理に関わる可能性のある遺伝子を特定した。
著者
奥村 大介
出版者
慶應義塾大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

平成24年度は、昨年度に続いて放射線の概念史・文化史的研究を行なった。とくにロシア生まれの生物学者グールヴィチ(1874-1954)とオーストリア生まれの精神分析家・社会思想家ライヒ(1897-1957)の生体放射概念についての論考「生体放射の歴史」を『生物学史研究』に寄稿した。ライヒのいわゆるオルゴンエネルギー説については平成23年度以来の調査を継続し、新たな成果は「宗教と精神療法研究会」(吉永進一・舞鶴高専准教授主催)で報告した。この研究会では神秘思想、宗教思想の研究者との交流により、<科学と神秘>という本研究課題のなかでも重要な位置を占める問題系についての議論が深まった。また、平成24年度は西欧の遠隔作用概念についての概念史的背景をなす「不可秤量流体」についての調査・分析をおこなった。その西欧的文脈についての調査から派生した近代日本における不可秤量流体概念の歴史を、さきのグールヴィチ/ライヒの生体放射概念と比較しつつ、明治期の医師・明石博高(1839-1910)と昭和初期の霊術家・松本道別(1872-1942)を主要な対象として研究した。その成果は「人体、電気、放射能―明石博高と松本道別にみる不可秤量流体の概念」として『近代日本研究』に投稿され、査読を経て掲載された。この論考は単に明石と松本の思想を紹介・分析するにとどまらず、不可秤量流体概念を通じた19世紀~20世紀初頭の目・欧・米の比較科学文化史、さらに<近代日本科学>、すなわち<近代における><日本で><科学をいとなむ>とはそもそもいかなる歴史的現象なのかを問う議論を含む長大な論考となった。研究最終年度としていくつかのテーマが調査・分析のなかばで残ったが、他方で、当初、西欧近代をその射程としていた当研究は、日本近代の史料をもコーパスとすることで、より重層的・多面的なものへと拡大した。
著者
田中 良之 金 宰賢
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

まず、記紀にあらわれるモガリは期間に長短があること、また、古墳主体部の墓墳周辺の存在する柱穴が「殯屋」であるこという見解が一部で定説扱いされていることを確認した。このうち、古墳主体部周辺の柱穴については、柱穴が墓墳に切られた例もあり、墓墳内に石棺を囲んで掘られた例もあることから、造墓前や埋葬前の「結界」である場合があると考えた。この他にも、古墳築造時の作業用の覆い屋であるとの指摘もあることから、少なくとも「殯屋」は否定されることが明らかになった。次に、松山市葉佐池古墳1号石室出土人骨付着のハエ蛹を実態顕微鏡下で観察した。その結果、ハエの種はニクバエ属とヒメクロバエ属のものであることが明らかとなった。この両者のハエの生態が、前者は死後すぐに死体にたかり産卵する一般的なハエであるのに対して、後者は死体が腐敗した後にたかり産卵する種であることから、葉佐池古墳1号石室出土人骨は、死後少なくとも1週間前後は、ハエが活動するような明かりのある場所に置かれており、埋葬されていなかったことが明らかとなった。また、えびの市島内地下式横穴墓において、埋葬後腹部に発生したガスによって骨盤腔外に排出された便が検出されたことから、ガスが腹腔内に充満する期間、おそらくは2〜3週間の間にはモガリを終えて埋葬されたことがうかがえた。以上から、古墳時代のモガリは、古墳上で行われたものではなく、1週間前後以上で2〜3週間以内の間行われるのが通常であった可能性が高く、香川県宮ヶ尾古墳線刻壁画のような小屋状の施設が、これらの所見に最もふさわしい「殯屋」のあり方であると考えられる。また、記紀に記載されたモガリ期間の長さは、死者の階層の高さに基づく墳墓築造と葬送儀礼の長さを反映したものと考えられる。
著者
中井 昭夫
出版者
武庫川女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

発達性協調運動障害(Developmental Coordination Disorder:DCD)が子どもの発達に与える影響、自閉症スペクトラム障害など他の神経発達障害との関連、DCDの神経基盤の解明として内部モデル、視覚-運動時間的統合能、身体性(身体所有感、運動主体感)、模倣などを検討、病態モデルの構築を行い、ニューロリハビリテーション法、ニューロモデュレーターとしての薬物療法など介入方法の開発とその効果検証を行った。
著者
長田 佳子 林 一彦
出版者
鳥取大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

Epstein-Barr virus (EBV)はほとんどの成人に潜伏感染している。本研究で我々はEBVの潜伏先であるB細胞が、EBVの再活性化に伴い形質細胞へ分化して抗体産生を行う際に、活性化誘導シチジンデアミナーゼ(AID)が誘導されること、そしてもともとB細胞上にあるIgMからクラススイッチしたIgG, IgEさらにはIgG4も産生されることを示した。EBV再活性化ではバセドウ病の原因自己抗体であるTSHレセプター抗体(TRAb)も産生される。我々は骨髄・胚中心を通らずにTRAbが産生され、バセドウ病の発症・増悪に関与すること、さらに診断法として利用できること(特許取得)を示した。
著者
篠原 久枝 藤井 良宜 武方 壮一
出版者
宮崎大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2003

(1)アンケート調査の実施小学校、中学校における身体性の統一した名称を探るために、2004年度は幼稚園から中学校の保護者(関東、中国、九州地区)、小学生(関東、中国,九州地区)、中学生(九州地区)、高校生(関東、九州地区)、大学生(関東、近畿、中国、四国、九州地区)を対象にアンケート調査を実施した。調査に先立ち、2003年度の小学校教科書検定により今までの小学校保健の教科書で多く採用されていた「ペニス」「ワギナ」が文部科学省の学術用語集に準拠していないとの理由で、「陰茎」「膣」になったとの情報を得た。発達段階に相応しい名称として、男性名称は保護者回答では就学前〜小学校中学年で「おちんちん」、小学校高学年以上で「ペニス」が多くなっていたが、中学生回答では、小学生では「おちんちん」、中学生では「ペニス」が多くなっていた。女性名称については、保護者回答では就学前、小学校低学年で「おまんまん」「おまた」が多く、小学校中学年以上では「ワギナ」「膣」が多くなっていた。中学生回答では小学生、中学生ともに「大切なところ」「性器」が多くなっていた。自由記述として「名称1つで恥ずかしさを持つか、大切に思うか変わるので、自分の身体に責任をもてきちんと向き合える外性器やプライベートゾーンが良い」などの意見が見られた。(2)第2回アジア性教育学術交流会参加(2004年8月20日〜25日、台湾高雄市)日本、台湾、中国、香港、マレーシア、アメリカ、オーストラリアから約300名の参加があり、性教育の実践プログラムのみならず、「性と医療」「日本におけるDV加害者プログラム」などの幅広い知見を得ることが出来た。特に台湾の発表では、「政府による2つの性教育実践モデル」(エネルギー分布モデルと濾過器モデル)、「SAR(Sexual Attitude Restructuring)の応用」、「全年齢における全方位科学的性教育の概念」などの新しい試みが紹介された。
著者
菅沼 克昭 金 槿銖 根本 規生 中川 剛
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2009-04-01

すずウィスカは、衛星の機器故障を引き起こし深刻な問題となっているが、未だにメカニズムが未解明であった。本研究では、 過去に取り組み例の無い真空中の温度サイクル環境におけるウィスカ形成を調べ、大気中よりも真空中に於いてウィスカが細く長く成長することを明らかにした。さらに、すず表面の酸化膜の存在が影響することを突き止め、真空中ばかりで無く、大気中における温度サイクル・ウィスカ成長メカニズムを解明した。
著者
蒲生 俊敬
出版者
東京大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

前年度製作の可搬型高精度ガス分析システムに改良を加えつつ,フィールド観測への応用を図り,沿岸及び外洋海水中に溶存する水素の分析データを蓄積した。水素の供給源や消費速度について他の気体とも比較しつつ考察を進めた。平成20年5月19日〜5月26日,および同年10月20〜22日にかけて,東京大学海洋研究所附属国際沿岸海洋センター(岩手県大槌町)に本システムを持参し,大槌湾内および大槌川河口域での観測を実施した。河口域において大気平衡時濃度の95倍という極めて高濃度の溶存H_2を観測した。大槌湾における溶存H_2,COおよびCH_4濃度は,塩分との関係からみて,濃度の高い河口域の水,濃度の低い大槌川の水,および外洋性の海水の混合によって決まると推定した。また,大槌湾表層水の溶存H_2はすべて過飽和(136〜9478%)であり,このことから大槌湾表層水から大気への明確なH_2の放出を明らかにした。溶存H_2とCOは類似した挙動を示すことから,同一の供給源すなわち有機物の無機的な光分解に由来する可能性のあることを示したなお,大槌川河口域では高濃度の溶存CH_4が検出されたことから,還元的な微小環境の存在が示唆され,そこでH_2も生成する可能性がある。さらに,外洋域でもデータを取得するため,6月24日から7月4日にかけて,学術研究船「淡青丸」KT-08-14航海に参加し,相模湾・伊豆黒潮周辺海域における溶存H_2およびCO濃度の観測を行った。黒潮海域ではクロロフィル濃度極大と溶存H_2濃度極大の深度が合致することを見いだした。H_2濃度極大(過飽和)をもたらすプロセスとして,(1)有機物の非生物的な光分解,(2)微小還元環境での嫌気性バクテリアによる有機物の発酵による生成,および(3)海洋シアノバクテリア等の窒素固定に伴う生成,の可能性を指摘した。9月17日〜9月19日に開催の日本地球化学会年会および日本海洋学会秋季大会において中間発表を行ってレヴューを受け,平成21年3月までに最終結果を取り纏めた。
著者
大田 浩
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2019-04-01

精子や卵子の元となる細胞は胎生期に発生する始原生殖細胞に由来するが、ヒトを含めた霊長類では実験的に研究が困難なことから不明な点が数多く残されている。本研究ではヒト多能性幹細胞から誘導した始原生殖細胞を卵母細胞へ分化させることが可能な実験系を確立する。本研究計画が達成される事により、胎児医学、ヒト発生学、生殖医療など、幅広い分野において重要な知識基盤を形成する事が可能となる。
著者
大谷木 正貴
出版者
慶應義塾大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2020-09-11

アルツハイマー病(AD)はアミロイドβやリン酸化Tauの脳内凝集が特徴的な病理変化であり、病変部には活性化したグリア細胞に加え、種々のT細胞の浸潤がみられる。従来の脳内炎症研究は、活性化グリア細胞が中心であり、免疫応答の抑制的制御を司る制御性T細胞(Treg)の関与については未だ明らかになっていない。近年、Tregは組織の恒常性・再生にも積極的な役割を担っていることが報告されており、本研究では、ADモデルの脳Tregを包括的に解析することでAD病態におけるTregの意義を明らかにし、脳Tregと神経細胞やグリア細胞との関連、脳Tregの自己抗原の同定など新たな知見や治療戦略への導出を目指す。
著者
齋藤 梓 岡本 かおり
出版者
目白大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

本研究では,性被害後の援助要請行動を促進するため,促進および阻害要因,性被害時の被害者心理等について明らかにすることを目的に,定性的調査および定量的調査を行った.その結果,被害時に身体が動かなくなることや,抵抗できなかったことにより,被害者が自分の身に起きた出来事を被害だと認識することが難しく,相談が困難であることが分かった.本研究の結果から,性被害に直面したときの被害者の状態や被害プロセスについて社会に伝えていき,被害者が自責感を抱かず,自分の身に起きたことを被害だと認識できること,また周囲もそれを被害だと認識できることが重要であると考えられた.
著者
井上 岳彦
出版者
北海道大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

本研究は、ロシア帝国の仏教外交がチベット仏教の枠を超えて南アジア・東南アジアの仏教圏にまで展開し、そこにロシア帝国内のチベット仏教徒が深く関与し、現地の民族知識人とのあいだに相互作用が生じる過程を、歴史学的に解明するものである。とくに、19世紀末から20世紀初めにおけるロシア東洋学者とロシア国内の仏教徒の動向について、ロシアの未公刊史料の収集・分析によって読み解き、南アジア・東南アジアの仏教徒社会への関与のありようを検証した。