著者
木村 功二 藤井 滋穂 田中 周平 邸 勇 野添 宗裕
出版者
Japan Society of Civil Engineers
雑誌
環境工学研究論文集 (ISSN:13415115)
巻号頁・発行日
vol.45, pp.301-308, 2008-11-28 (Released:2011-06-27)
参考文献数
13
被引用文献数
1 1

本研究では、近年注目を集め始めている残留性有機フッ素化合物PFOS、PFOAおよびその類縁化合物6種類に着目し、粉末活性炭による吸着除去特性を検討した。単成分系での各物質の吸着特性は、炭素鎖が長いものほど高く疎水性による吸着である可能性が示唆された。吸着平衡定数KはPFOS: 198.19、PFOA: 64.97であった。8成分混合系ではPFDA、PFDoA、PFOSの3種類で吸着性が高く、単成分系と比較して吸着量が20%しか低下せず、他のPFHxA、PFHpA、PFOA、PFNA、PFHxSでは50-90%低下した。琵琶湖水を溶媒とした8成分混合系では、溶存有機物に吸着が阻害されPFOS、PFHxSで超純水中と比較して除去率が約60%低下し、PFHxA、PFHpA、PFOA、PFNA、PFDA、PFDoAでは不規則な濃度変化を示しほぼ除去されなかった。
著者
村上 晶子 井上 淳 吉川 周作 山崎 秀夫
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.110, no.1, pp.11-18, 2004 (Released:2005-01-07)
参考文献数
42
被引用文献数
5 5

大阪城外堀堆積物に含まれる微粒炭・球状炭化粒子 (SCPs) の分析と球状炭化粒子の表面構造の観察を行った. 微粒炭分析からは, 粗粒の微粒炭濃集層準を見出し, この層準が1945年大阪大空襲の火災であることを指摘した. 球状炭化粒子分析では, 球状炭化粒子の時系列変化の解読から, 化石燃料 (石炭・石油) 使用量の歴史的変化が解明できることを示した. 球状炭化粒子は堆積物中に極めて良好に保存され, 短時間・簡単に分析できる利点を持っていた. この球状炭化粒子は過去の化石燃料の燃焼を解読する上で重要な役割を果たすと考えられる. 今後, 球状炭化粒子に関する研究は, 産業革命以降を示す「Anthropocene (Crutzen, 2002)」の時代の地質学的研究を行う上で重要な指標となることを指摘した.
著者
長谷部 弘道
出版者
経営史学会
雑誌
経営史学 (ISSN:03869113)
巻号頁・発行日
vol.51, no.4, pp.3-27, 2017 (Released:2019-03-30)

In 1981, Sony announced the “Compact Disc” with co-development partner Philips. In the former studies, the strategic process of the CD was described as the great achievement of Norio Ohga (Sony's vice-president at the time), who seemed to have been the leader taking the initiative with the development of this product. However, in some publications written by certain engineers who actually developed Sony's digital recording technology, it is claimed that they had actually led the strategic process.According to the analysis of various engineers' interviews, articles of audio industry magazines, and such engineer's publications, this paper found that the main strategic leader of this process was Heitaro Nakajima, who provided the motivation for this project as middle manager.In fact, the very first digital recording equipment for consumer use (PCM-1) was gradually developed, promoted and approved by Heitaro Nakajima and his Sony Audio Technology Center (Sony Giken). Besides, from 1978, Sony Giken started technical sales and negotiations for approval of their digital recording format as a world standard by AES (Audio Engineering Society), which is the largest audio society in the USA. Through these activities, Sony Giken's engineers also identified new needs for a total digital editing support system. As a result, these activities prepared Sony's technological competence, which was especially welcomed by Philips.Notably, these activities were not led by top management, but by the middle management. When engineers in enterprises plan to develop new technology using the company's resources, it is required that they provide proof of its legitimacy. The actors in this case study were also required to do this over and over, and they made great efforts to find the best answer each time. They do not only handle solutions of their engineering problems, but also actually seek proper proof of the legitimacy of their technology in various ways, among others they also have to persuade top managers, promote their technology overseas, and so forth. Taking these factors into consideration, it can be concluded that this strategic process is a process led by engineers.
著者
牛山 美穂
出版者
日本文化人類学会
雑誌
文化人類学 (ISSN:13490648)
巻号頁・発行日
vol.81, no.4, pp.670-689, 2017 (Released:2018-02-23)
参考文献数
26

本稿では、「生物学的シチズンシップ」の活動のひとつの事例として、東京のアトピー性皮膚炎患者にみられる脱-薬剤化の現象について論じる。アトピー性皮膚炎の標準治療においては、通常ステロイド外用薬が用いられるが、これが効かなくなってくるなどの問題を訴える患者が一定数存在する。しかし、こうした患者の経験は「迷信」に基づくものと捉えられ、既存の医学知のなかでは適切な位置づけがなされていない。そのため、一部の患者は標準治療に背を向け、脱ステロイド療法と呼ばれる脱-薬剤化の道を選択する。 薬剤を摂取すること、そして薬剤から離脱することは、薬剤の成分を体内に取り入れる、またはそれを中止するということ以上の意味をもつ。薬剤化および脱-薬剤化は、それ自体、生物学的-社会的な自己形成の過程でもある。薬からの離脱は、患者の知覚の仕方を規定し、価値観や判断に影響を与える。そして、そうした判断がさらに身体や価値観を変化させていく。 本稿では、脱-薬剤化の現象がどのように患者に経験されるのかをミクロな視点から描き出すとともに、患者の身体的な経験がいかなる知として位置づけられうるかという点について考察を行う。標準治療を行うにしても脱ステロイド療法を行うにしても、アトピー性皮膚炎治療は患者の身体と生活を巻き込んだ生社会における実験という形をとって現われる。本稿では、薬剤化が進行していくなかで出現してきた脱-薬剤化を試みる患者のあり方を、実験社会におけるひとつの「現れつつある生のかたち」として描き出す。
著者
阿部 真也
出版者
情報ネットワーク法学会
雑誌
情報ネットワーク・ローレビュー (ISSN:24350303)
巻号頁・発行日
vol.19, pp.196-210, 2020-12-20 (Released:2020-12-25)

AIについては社会的に様々な論考がなされているが、AIの新規性は知的創作物を自身で創作できることであると思われる。その為、このAIが生成した知的創作物が何者に帰属するかは大きな課題である。知的財産推進計画2017年及び同2019年では、AIを道具的に使用した場合は著作権が発生する一方、AIによる自律創作(AI創作物)の場合は著作権が発生しないとされた。しかし、両者の境界は曖昧であり、また著作権が発生しないAI創作物においても著作権法以外の観点から、何者に帰属するかを定める必要性がある。本稿は、知的財産推進計画の内容に言及しつつ、先行研究を調査し、それらを主に行動の動機付けの面から考察して、知的財産推進計画への提言を行うものである。
著者
小野 義典
出版者
関西法政治学研究会
雑誌
憲法論叢 (ISSN:24330795)
巻号頁・発行日
vol.11, pp.69-86, 2004-12-20 (Released:2018-01-10)

This paper which is written at view of International law reviews some issues that conflict between domestic applicability of International Law and Constitutional Order. The issues have been understood in the Confrontation with the Monism or the Dualism. After the World War II, the issues have not consisted only on the Monism or the Dualism but also new theory -the Theory of Coordination. This new theory is supported by many Scholars of International Law today. I think it is noteworthy that the theory offers the key to understanding of the relation between International law order and Domestic law order.
著者
王 麗楊 用稲 栄 寒川 昌平 山田 佐知子 桑原 隆
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.103-107, 2018 (Released:2018-01-28)
参考文献数
16
被引用文献数
3

カルシウム (Ca) の生理学的効果は, イオン化Ca (iCa) 濃度によって決定されるが, iCaは日常的には測定されていない. 日本では血清アルブミン (Alb) 濃度を用いて血清総Ca (tCa) を補正した補正Ca (cCa) が広く用いられている. 今回われわれは, 低Alb血症の血液透析患者で現在用いられている補正式 (Payneの式およびKDOQI-1式, KDOQI-2式) が適切かどうかを検討した. 血液透析患者41名のうち, 血清Alb 3.7g/dL未満であった33名で, iCaとtCa, cCaの相関を比較検討した. AlbはBCP改良法で測定し, 測定値に0.3g/dL加えた値をBCG法の推測値として用いた. cCaとiCaとの相関係数はKDOQI-1式が最も高く, 次いでtCa, KDOQI-2式となり, Payneの式との相関が最も低かった. KDOQI-2式, Payneの式は低Ca血症の見逃しが多く, 偽性高Ca血症も2例認めた. 一方, tCaでは偽性低Ca血症を7例認めた. 低Alb血症患者のiCaに対応したtCaの推定にはKDOQI-1式によるAlb補正Ca濃度評価が勧められる.
著者
宮原 克典
出版者
一般社団法人 人工知能学会
雑誌
人工知能学会全国大会論文集 第37回 (2023) (ISSN:27587347)
巻号頁・発行日
pp.1K5OS11b04, 2023 (Released:2023-07-10)

2022年6月、Googleのエンジニアが、大規模言語モデルLaMDAには意識があり、一人の主体として扱われるべきだと主張した。Google社は主張を退け、多くの論客がそれに賛同した。大規模言語モデル(LLM)への主体性の帰属を否定する理由は、いくつかある。(1)LLMの内在的特性に関わる理由:LLMは意識も意図ももちえない。(2)LLMへの主体性の帰属の帰結に関わる理由:LLMを主体として扱うことは、より重要な問題から社会の注意や関心を逸らせる。(3)個人のウェルビーイングに関わる理由:LLMを主体として扱うことは、本人の社会的孤立につながりうる。本発表では、これらの理由を検討し、LLMを主体として扱うべきではないと断言するのが意外に難しいことを示す。また、ロボットの道徳的地位やフィクトフィリア(架空の存在への性愛)をめぐる議論を引きながら、LLMへの主体性帰属の正当性を判断するためのポイントを整理する。
著者
渕上 康幸
出版者
日本犯罪心理学会
雑誌
犯罪心理学研究 (ISSN:00177547)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.21-34, 2010-08-25 (Released:2017-09-30)
参考文献数
42
被引用文献数
2

ADHDから反抗挑戦性障害(ODD),さらに素行障害(CD)へ至るDBDマーチの経路の途中に,家族との関係性や共感性といった要因を媒介させた逐次的モデルが成り立つか否かを検討するため,DSMの診断基準項目やDavis (1983)の多次元共感測定尺度等を用いて,少年鑑別所入所者を対象とした横断的,回顧的な自己記入方式の質問紙調査を実施した。有効な回答を得られた1,842名(うち女子250名)について,男女別に構造方程式モデリングを行った結果,①ADHD傾向→ODD傾向→CD傾向といった因果関係の流れは大筋において支持された。②総じてADHD傾向が強いほど,放任や虐待といったネガティブな家族との関係性が認められた。ただし,ADHDの亜類型の違いにより,ネガティブな家族との関係性の有様は異なっていた(多動衝動→虐待,不注意→放任)。③放任や虐待はCD傾向を高め,非行初発年齢を引き下げるリスク因であった。④共感性の「視点取得」は非行初発年齢を引き上げる保護因であった。⑤男子では放任は「視点取得」を低下させるリスク因であった。⑥男子では不注意傾向を強く自認するほど,共感性の「視点取得」は低く,逆に「個人的苦悩」は高かった。
著者
松山 康成 沖原 総太 田中 善大
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.139-148, 2022-03-18 (Released:2023-03-18)
参考文献数
8

研究の目的 本研究では、授業開始時に授業準備行動を行う児童が少ない小学4年生の通常の学級に対して、授業開始時の授業準備行動(話の聞き方と準備物の用意)を対象として、集団随伴性を含む介入パッケージを実施し、その効果を検討した。研究計画 ABCDデザインを用いた。ベースライン期(A条件)に続いて、3つの介入(B条件、C条件、D条件)を実施した。場面 公立小学校通常の学級の授業開始時に介入を行った。対象者 公立小学校4年生1学級の31名(男児16名、女児15名)の児童であった。介入 B条件では話の聞き方の授業とステキな聞き方のルールの掲示を、C条件ではB条件に加えて準備物の授業と集団随伴性の手続き(「グーチャレンジ」),さらに担任の対応を、D条件ではC条件に加えてタイマーの表示を実施した。行動の指標 授業準備行動の指標として授業開始時の静かになるまでの時間を連続記録法によって、授業開始時の準備物の用意を産物記録法によって測定した。結果 静かになるまでの時間はB条件及びD条件の実施によって減少し、準備物の用意はC条件の実施によって増加した。結論 授業開始時の授業準備行動に対する集団随伴性を含む介入パッケージの効果が示された。
著者
矢守 克也
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.48-59, 2016 (Released:2016-10-06)
参考文献数
19
被引用文献数
3

本稿は,アクションリサーチにおける時間性について理論的に検討するものである。アクションリサーチを定義づける変化,目標状態,ベターメントといった特性が共通して前提にしているものこそ,時間だからである。ここで重要なことは,2つの時間系列,すなわち,人間的な実践の外的な枠組みとしての「客観的時間」と,「主体的時間」とのちがいである。「主体的時間」とは,たとえば,「まだ試験終了まで10分以上ある」など,「今はもう」,あるいは「今はまだ」といった,自分自身の営みにおける主体的な構えとともにある時間のことである。「主体的時間」は,既定性(ポスト・フェストゥム)と未定性(アンテ・フェストゥム)という2つの対照的な特性を生み,両者は逆説的なダイナミズムをなしている。さらに,この両者と「客観的時間」における過去・現在・未来とが構成する平面上で展開される〈インストゥルメンタル〉(媒介・手段的)な時間の総体と,それとは対極にある〈コンサマトリー〉(直接・享受的)な時間とが,別の逆説的なダイナミズムをなしている。アクションリサーチでは,これら2組の時間のダイナミズムを,研究者がどのように認識し,かつ自らがその中に巻き込まれつつ,それをいかに構想し運用していくかが重要である。
著者
島岡 萌 金 政一 倉渕 隆
出版者
公益社団法人 空気調和・衛生工学会
雑誌
空気調和・衛生工学会大会 学術講演論文集 令和3年度大会(福島)学術講演論文集 第4巻 通風・換気 編 (ISSN:18803806)
巻号頁・発行日
pp.101-104, 2021 (Released:2022-11-02)

新型コロナウイルスの感染拡大により学校では集団感染リスクへの対応が必要になっている。そのため、換気設備の設備容量が十分でない実際の教室を用いて、夏期における自然換気量の調査・CFDによるモデル解析を行うことにより、中間期・夏期の具体的な感染症対策に求められる窓・扉等による換気方法に関する知見を得る。
著者
松本 麻友子 山本 将士 速水 敏彦
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.57, no.4, pp.432-441, 2009 (Released:2012-02-29)
参考文献数
37
被引用文献数
10 8 4

本研究の目的は, 仮想的有能感といじめ加害経験, 被害経験との関連を検討することであった。高校生1,062名を対象に仮想的有能感, 自尊感情, いじめ加害経験, 被害経験(身体的いじめ, 言語的いじめ, 間接的いじめ)の尺度が実施された。その結果, 仮想的有能感と全てのいじめ加害経験, 被害経験との間に正の相関が見られた。同様に, 自尊感情との組み合わせによる有能感タイプといじめとの関連を検討した結果, 仮想的有能感の高い「仮想型」・「全能型」ではいじめ加害経験, 被害経験が多く, 仮想的有能感の低い「萎縮型」・「自尊型」ではいじめ加害経験, 被害経験が少ないことが示された。本研究の結果から, いじめ加害経験, 被害経験には, 自尊感情よりもむしろ, 仮想的有能感が強く関連していることが示された。
著者
新屋 良磨 山口 勇太郎 中村 誠希
出版者
日本ソフトウェア科学会
雑誌
コンピュータ ソフトウェア (ISSN:02896540)
巻号頁・発行日
vol.40, no.2, pp.2_49-2_60, 2023-04-21 (Released:2023-06-21)

言語Lが正規可測であるとは,Lに「収束」する正規言語の対の無限列が存在することを言う.本論文では,正規言語の代わりに正規言語の部分クラスである区分検査可能(Piecewise Testable (PT): 部分語の出現情報の Bool 演算で記述可能)言語および文字検査可能(Alphabet Testable (AT): 文字の出現情報の Bool 演算で記述可能)言語に焦点を当てその可測性を考察する.特に,正規言語に対するAT可測性はco-NP完全である一方,PT可測性は線形時間で決定できることを示す.
著者
佐藤 郁哉 Ikuya Sato
出版者
同志社大学商学会
雑誌
同志社商学 = Doshisha Shogaku (The Doshisha Business Review) (ISSN:03872858)
巻号頁・発行日
vol.70, no.2, pp.201-258, 2018-09-30

本論文では、2000年前後から日本の高等教育セクターにおいて頻繁に使用されるようになったPDCAという用語の普及過程とその用法について、特にこの用語が行財政改革の切り札として注目され、また高等教育界に導入されていった経緯に着目して検討を加えていく。その分析の結果は、業務の効率化を目指して導入されたPDCAの発想がその本来の意図とは正反対の極端な非効率と不経済をもたらす可能性があることを示している。また、(疑似)経営用語の借用それ自体がもたらす弊害について指摘した上で、PDCAなる用語の禁止語化を提案する。