著者
信濃 卓郎 和田 敏裕
出版者
公益社団法人 日本アイソトープ協会
雑誌
RADIOISOTOPES (ISSN:00338303)
巻号頁・発行日
vol.69, no.1, pp.31-42, 2020-01-15 (Released:2020-01-15)
参考文献数
35
被引用文献数
1 1

東京電力福島第一原発事故に由来する福島県を中心とした農地,陸水域及び海域の放射性セシウム汚染から8年が経過し,これまでの取組と現状,今後の対策についてまとめた。農業現場では放射性セシウムの移行抑制対策として長期的な土壌のカリウムの適切な管理が求められる。水産現場では,海面・内水面漁業ともに放射能汚染に起因する様々な課題を抱えており,今後,中長期的視点に基づく漁業活動の再生や復興支援が重要となる。
著者
久保 雅義 バーテル フォルカー
出版者
公益社団法人 日本航海学会
雑誌
日本航海学会論文集 (ISSN:03887405)
巻号頁・発行日
vol.87, pp.47-58, 1992

船型の増大に伴い,ターミナルは水深の大きな沖合いに建設されている。その結果,船は大きな波を受け,この時の船体動揺が安全荷役や安全係留に影響を与えている。そこで船体動揺を抑え,係留施設の最も安全な利用のあり方を検討することが重要となる。係留船の運動や係留索力のシミュレーションを行う方法としては数値計算による方法と水理実験による方法とがあるが本研究では水理実験により船体運動低減化の方法について議論を行っている。得られた結果を要約すれば次のようになる。(1)サブハーモニック波による長周期運動はサージとスウェーで卓越し,一方ヒーブ,ロールそしてピッチは一次の波成分により引き起こされている。ヨーは長周期と短周期の両方で応答する。(2)サージとヨーの長い固有周期は堅い係留索(ティルロープ付きワイヤー)を用いることによりかなり容易に変えることが出来る。もしサージとヨーの固有周期を一次の波とサブハーモニック波の卓越周波数の谷間に来るように設定すれば,長周期船体運動はかなり低減することができる。(3)長周期船体運動を低減するための第1の方法として固有周期の制御が試みられるべきである。第2の方法としてダッシュポット・システムが有効である。(4)係留索とフェンダーの係留力の非対称性のためにスウェーはサブハーモニック運動を起こす。係留索のバネ定数を堅くすることは非対称性の程度を減少させ,その結果としてスウェーを減少させる。(5)係留索のバネ定数を変えることによって,ロール,ピッチそしてヨーの短い固有周期を変えることは難しい。この場合にはダッシュポット係留索が船体運動の低減に有効である。
著者
Kohta Koenuma Akinori Yamanaka Ikumu Watanabe Toshihiko Kuwabara
出版者
The Japan Institute of Metals and Materials
雑誌
MATERIALS TRANSACTIONS (ISSN:13459678)
巻号頁・発行日
vol.61, no.12, pp.2276-2283, 2020-12-01 (Released:2020-11-25)
参考文献数
31
被引用文献数
13

The deformation of an aluminum alloy sheet is affected by its underlying crystallographic texture and has been extensively studied using the crystal plasticity finite element method (CPFEM). Numerical material test based on the CPFEM enables the quantitative estimation of the stress-strain curve and Lankford value (r-value), which depend upon the texture of aluminum alloy sheets. However, the application of CPFEM-based numerical material test to the optimization of aluminum alloy texture is computationally expensive. In this paper, we propose a method for rapidly estimating the stress-strain curves and r-values of aluminum alloy sheets using deep learning with a neural network. We train the neural network with the synthetic crystallographic texture and stress-strain curves calculated through the numerical material tests. To capture the features of synthetic texture from a {111} pole-figure image, the neural network incorporates a convolution neural network. Using the trained neural network, we estimate the uniaxial stress-strain curve and in-plane anisotropy of the r-value for various textures that contain Cube and S components. The results indicate that the application of a neural network trained with the results of numerical material test is a promising method for rapidly estimating the deformation of aluminum alloy sheets. This Paper was Originally Published in Japanese in J. JSTP 61 (2020) 48–55.
著者
一如 等注
出版者
図書出版
巻号頁・発行日
vol.巻第1−14, 1902
著者
飯田 マリ 大澤 義明 小林 隆史
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 = Papers on city planning (ISSN:1348284X)
巻号頁・発行日
vol.46, no.3, pp.385-390, 2011-10-25
参考文献数
10

世界の観光地で活躍している2階建てオープンバスは、屋根がなく、視点が高い場所に位置する特徴から、歩行や自動車とは異なった景色を楽しむことができる。本研究では、様々な都市で適用できるように、数理的モデルを用いて、2階建てオープンバスからの景観評価を次の二つの観点を用いて行った:(1)街並み全体を「面」で眺め、その構成要素を徒歩の場合と比較することで、どれだけ「非日常的な景色」が見られるか。(2)東京スカイツリーなど街並みの中の「点」に注目し、バス移動に伴い変化する視線方向を分析することで、首振りによる「視対象の見やすさ」がどう変化するか。主要な分析結果は以下の2つである:(1)高い視点場を持つ2階建てオープンバスは走行車線を工夫することで、効果的な非日常的な景色を演出できる。(2)進行方向の決まっているシークエンス景観であることから、カーブでの首振りが観光スポットへの注目の妨げになる。以上より、複数車線を持つ、カーブの少ない観光都市は2階建てオープンバスの導入に適しているといえる。
著者
鶴 鉄雄 菅原 正博 西村 治彦
出版者
日本感性工学会
雑誌
日本感性工学会論文誌 (ISSN:18845258)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.117-126, 2019 (Released:2020-02-28)
参考文献数
13
被引用文献数
1

The objective of our studies is the inquiry into data set of the silhouette styling by machine learning for the luxury brands. The computer vision meets the visual fashion for the long years. Recently, computer vision techniques has been employed in algorithm of fashion recognition. But the aim of the computer vision is that the computer vision meets fashion but not that fashion meets computer visions. The luxury fashion consumer expects the favorite own beautiful silhouette styling, not simply the computer pictures. Therefore, silhouette learning of clothing by Neural Network Console needs to meet the personal professional styling knowledge.
著者
野崎 貴博 本多 一平 相良 優太
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会 九州ブロック会
雑誌
九州理学療法士学術大会誌
巻号頁・発行日
vol.2019, pp.52, 2019

<p>【目的】当院では、2017年より医師、理学療法士らが中心となり小・中学生ソフトボール・野球競技者に対して、投球障害予防フォーラム(以下フォーラム)と称し医学知識の啓発、メディカルチェック、コンディショニング指導などの障害予防活動を行っている。そこで今回、中学野球選手に対して障害実態の把握を行い、今後の障害予防の啓発活動に役立てる事を目的にアンケート調査を実施した。</p><p> </p><p>【方法】対象は2017年と2108年の12月に当院で2度実施したフォーラムに参加した中学野球選手100名(13.4歳、全例男性)、保護者74名(41.7±5.2、男性34名、女性40名)の計174名とした。方法は集団調査法を用いた記名方式でのアンケート調査とした。選手に対しては投球数と練習頻度・時間、疼痛部位及び対応・報告相手を、保護者に対しては疼痛発生時の活動休止期間や対応、試合への出場判断、医学的知識の必要性について調査し、選手の障害の実態と保護者の障害認識を調査した。</p><p> </p><p>【結果】</p><p>①中学野球選手における障害の実態</p><p>フォーラムに参加した選手100名中、複数回答による疼痛部位は肘関節が47%と最多であった。疼痛時の対応として「練習を継続する」と回答した者は56%であり、痛みがある事を誰かに伝えたかの質問に対して「親に伝えた」の回答が45.1%であった。1日の全力投球数で70球を超える者は7%にみられ、練習時間・頻度は5.5日/週、平日2.26時間であった。</p><p>②保護者の障害認識</p><p>選手の疼痛発生時の対応として、「医療機関を受診させる」と回答した者が62.7%であり、その第一選択として「病院」が77%であった。痛みがある時の試合出場についてでは「ポジション変更」「子どもの希望があれば」「無理にでも」などの疼痛を有したまま出場させている者が47.1%であった。また、トレーナーの必要性を感じるかの質問に対して98.6%が「感じる」という回答であった。</p><p> </p><p>【考察】入江らは、中学野球選手の障害調査において2260名中41.1%に肘痛がみられたと報告し、平山や竹中らは投球障害の発症要因として投球数増加や練習時間の過多などを報告している。今回の調査において、肘痛保有者が47%と入江らの報告と類似した結果であった。また、投球数や練習時間の制限が順守されていた一方、56%の選手が疼痛を有したまま競技を継続していた。保護者の対応として医療機関の受診を促すものの、試合の出場に関しては疼痛を有したまま出場させていた。これらの問題は医学的病態理解の乏しさや現場での障害状況判断の困難さによるものではないかと推測している。</p><p>今後の課題として、医学的観点からの安静・休止と現場での活動休止の認識共有が必要であると考えられる。そのためには、保護者や指導者に対し障害に対する正しい知識と理解が求められ、中学生の指導現場においても医学的知識を持った理学療法士の介入が疼痛保有者の症状慢性化を予防できるものと思われた。</p><p>【倫理的配慮,説明と同意】</p><p>本研究はヘルシンキ宣言に基づき対象者の保護には十分留意し、チームの指導者及び対象者の保護者に本研究の主旨を書面で説明し同意を得た。また本研究への参加は自由意志によるものとし、同意を得た後でもその撤回が可能であり、たとえ同意しなくとも不利益を被ることがない旨を説明した。</p>
著者
中西 佳世子
出版者
京都産業大学
雑誌
京都産業大学論集. 人文科学系列 = Acta humanistica et scientifica Universitatis Sangio Kyotiensis (ISSN:02879727)
巻号頁・発行日
no.50, pp.231-244, 2017-03

ナサニエル・ホーソーンの故郷セイレムを舞台とする『七破風の屋敷(The House of SevenGables)』(1851)は過去と現在の連続性を前面に出した作品である。その序章の語り手は,本体の物語が代々のピンチョン家にふりかかる災いを描く「呪いの成就」の物語であると予告する。しかし,実際の物語は「機械仕掛けの神」を用いたかのように,ピンチョン家の末裔に唐突に訪れた幸運な結末で閉じられる。こうした序文と本体の矛盾および不自然な物語の結末は,この作品の欠陥とされてきた。しかし,物語におけるセイレムの噂をする「群集」の存在,ならびに物語を通して継続的に行われるプロヴィデンスへの言及に注目すると,ホーソーンが「呪いの成就」と「呪いの解体」という,相反する方向に進むプロットを巧妙に組み込んでいることが分かる。物語の語り手は,噂をする「群集」の側の視点で「呪いの成就」のプロットを展開させる一方,その「群集」とは距離をおき,彼らには知り得ないプロヴィデンスの計画があることを示唆しながら「呪いの解体」のプロットを展開させるのだ。本論は『七破風の屋敷』の噂をする「群集」とプロヴィデンスへの言及に注目することで,相反するプロットを持つ物語の二重構造を明らかにし,そこに提起される「個人」と「集団」の問題,および,作家と社会の関係性を考察するものである。

1 0 0 0 IR 悲劇の系譜

著者
庄司 俊之
出版者
専修大学人間科学学会
雑誌
専修人間科学論集. 社会学篇 (ISSN:21863156)
巻号頁・発行日
no.7, pp.109-124, 2017-03

「悲劇」という語は、現代では、繰り返してはならないもの、未然に防止すべきものというように、一義的にネガティブな意味が与えられているが、語源としての悲劇、演劇としての悲劇はそうではない。それはかつてポジティブな意味をもっていた。このコントラストを念頭に、本稿では、古代の『オイディプス王』からシェークスピアの4大悲劇を経由して現代の『ゴドーを待ちながら』における「悲喜劇」にいたるまでの、ひとつの系譜を追いかけていく。そこでは悲劇の古典的図式が変容し、失効し、現代になると悲劇がそのまま喜劇であるような作品が出現するという道筋が見通されることになるが、こうした演劇作品における変容のプロセスは、その背後にある社会変容の対応物と見なすことができるだろう。そして、演劇はたしかに芸術のなかでもマイナーな領域に降格してしまったけれど、しかしマイナーだからこそ、語源としての悲劇から遠く離れてしまって一義的にネガティブに捉えられるようになった現代の「悲劇」的状況に対して現代演劇における「悲喜劇としての悲劇」は一定の示唆を与えうるものになっていると考えられる。本稿が『オイディプス王』の分析を通じて提示する悲劇の古典的図式とは、一個の真理、循環する王権の安定した社会、安定ゆえに「逆転」が効果的な意味(カタルシス)をもつということである。それに対してシェークスピアの4大悲劇では、真理と虚偽が振動し、神々の不死ではなく生き続ける亡霊が世界を攪乱し、物語の結末が悲しみで終わるか喜びで終わるか、つまりその作品が悲劇なのか喜劇なのかは偶然が決定するようになる。死後の生、不死の世界が否定されると今度は「死」が特権化され、物語に最終的な意味を与える機能を「死」がもつことになるのである。そしてチェーホフを経由してベケットの『ゴドーを待ちながら』になると、それが悲劇なのか喜劇なのか、そうした区別そのものが消失する。詩的な表現は無数の無駄話のなかに配置されなければならず、悲劇的なシーンは必ずコメディータッチの演出をともなわなければならない。提示されるのは一個の悲劇的な真理ではなく、その「図」を成り立たしめる「地」を含みこんだ世界全体なのだ。『オイディプス王』以来、「自己への問い」は物語に組み込まれており、それはシェークスピア作品でも展開されていたが、『ゴドーを待ちながら』では作品が純粋な媒体と化し、すべては世界と対峙する自己へと折り返されることになる。本稿末尾では以上を踏まえ、「悲劇的」とされるウェーバー解釈、「イマームを待望しながら」を書いた晩年のフーコー、超高齢社会のなかベッドサイドで待ちつづけるひとびとのすがたについて附言する。
著者
佃 貴弘
出版者
北陸大学
雑誌
北陸大学紀要 = Bulletin of Hokuriku University (ISSN:21863989)
巻号頁・発行日
no.49, pp.37-56, 2020-09-30

近年、ネットワーク環境の充実化により、大量の個人情報を収集され、プライバシーの保護がおろそかになるというリスクも生じている。このような状況においては、侵襲がないため、伝統的な不法行為プライバシーでは対処できなくなっている。また、プライバシー・ポリシーを熟読せず同意しているため、プライバシーの自己管理も困難である。 その問題を解決するために、本稿では、アメリカにおけるPrivacy as Trust 論に着目し、この議論が登場した近年の社会背景とその理論的前提を整理する。
著者
熊谷 武久 瀬野 公子 渡辺 紀之
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 : Nippon shokuhin kagaku kogaku kaishi = Journal of the Japanese Society for Food Science and Technology (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.53, no.3, pp.179-184, 2006-03-15
参考文献数
16
被引用文献数
1 1

乳酸菌添加液に玄米を浸漬することによる乳酸菌の付着性を検討した.<BR>(1)米及び米加工品より分離した<I>L. casei</I> subsp. <I>casei</I> 327を乳酸菌スターターとして,コシヒカリ,ミルキークイーン及びこしいぶきの玄米を用い,玄米浸漬液にスターターを添加して37℃,17時間発酵することにより,乳酸菌の増殖が浸漬液及び玄米で見られた.16SrRNA遺伝子塩基配列により当該菌が増殖したことを確認した.<BR>(2)発酵処理した玄米のpHはおおよそ6であり,炊飯後の米飯の食味に影響を及ぼさなかった.<BR>(3)発酵温度の低下により発酵処理玄米の<I>Lactobacillus</I>数が低下し,玄米と浸漬液の配合比及びスターター量の変化では,大きな影響はなかった.<BR>(4)乳酸菌を添加しない区では,乳酸菌以外の菌数が増加し,<I>Enterobacteriaceae</I>が主要な菌であった.<BR>(5)5菌種,7菌株の乳酸菌,全てで発酵液及び発酵処理玄米の<I>Lactobacillus</I>数の増加が見られ,<I>L. acidophilus</I> JCM1132<SUP>T</SUP>のみ生育が悪く,<I>L. casei</I> subsp. <I>casei</I> 327が最も増殖効果が高かった.
著者
安田 みどり 松田 智佳
出版者
一般社団法人 日本家政学会
雑誌
一般社団法人日本家政学会研究発表要旨集 59回大会(2007年)
巻号頁・発行日
pp.107, 2007 (Released:2008-02-26)

目的 緑茶に含まれるカテキンは強い抗酸化活性を示し、様々な疾病の予防などに効果があることで知られている。しかしながら、茶の飲用は食事や薬からの鉄などの吸収を妨げるといわれている。これは、カテキンと金属イオンとが錯体を形成するためであると考えられている。本研究では、電気化学的手法を用いて、カテキンと金属イオンとの反応のメカニズムを解明することを目的とした。 方法 サイクリックボルタンメトリー(CV)および電気化学検出器(ECD、750mV)を装備したHPLCを用いて、カテキンの酸化電位および酸化ピーク面積値に与える金属イオン(Fe2+、Fe3+、Cu2+)の影響を調べた。カテキンは、緑茶に含まれる主要なもの((-)-エピカテキン(EC)、(-)-エピガロカテキン(EGC)、(-)-エピカテキンガレート(ECG)、(-)-エピガロカテキンガレート(EGCG))を使用した。 結果 CVの結果から、金属イオンは、カテキンの酸化電位に影響を与えることが明らかになった。特に、pH7以上において、EGCGの酸化ピークはFe2+やCu2+の添加によってほとんど消滅した。また、HPLCの結果、ECは金属イオンの影響をほとんど受けなかったが、他のカテキン、特にEGCGは金属イオンの添加により著しい濃度の減少が認められた。これは、pH7以上で起こりやすく、金属イオンの濃度に依存することがわかった。以上のことにより、EC以外のカテキンは、酸化活性部位において金属イオンと錯体を形成するか、もしくは金属イオンによりカテキンが酸化分解されることが示唆された。
著者
金 榮心
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.46, no.12, pp.12-21, 1997

『源氏物語』において<悪后>とならざるを得なかった弘徽殿女御物語の根源には儒教理念を規範とする<律令秩序体制>がある。その体制は弘徽殿女御の<身体>と<性>を抑圧していくものであった。弘徽殿女御物語の結末も「男」中心の社会秩序に吸収される形になる、しかし、差別・抑圧を経験した弘徽殿女御は呂后のようなエネルギーを持って「男」中心の社会と格闘する。そのような弘徽殿女御物語は光源氏中心ではなく、弘徽殿女御に視点を合わせることによって見えてくるものである。
著者
小林 好和
出版者
札幌学院大学人文学会
雑誌
札幌学院大学人文学会紀要 (ISSN:09163166)
巻号頁・発行日
no.83, pp.123-136, 2008-03

物証文の理解における中心的課題の一つとして,前向き推論,逆向き推論を合むような読み手の推論過程があげられる。本研究では,推論をテクストから省かれた重要な部分的情報を読み手が既有情報をもとに予期することと仮定する。本研究の目的は物語作品『ごんぎつね』を用い,その「一次読み」の過程における推論の特質を検討することである。国語科教材であるこの作品を用いた調査を小学校3年生141名に対して実施した。そのうち,この物語を初めて読む児童は79名(56%)であり,本研究は彼らに限定し分析を行なった。方法として物語の結末を削除したテクストを用い,彼らの理解内容,物語の結末の作証(予期推論),彼らの推論の物語展開への統合に関するQ/A法によるプロトコルデータを得た。本研究の結果から以下のことが示唆された。この作品の"一次読み"において,3年生では主人公(ごん)の視点に固定して読もうとすること,したがって「同情の枠組み」をもとにしてこの理解を構成する傾向が示された。その上で,彼らの多くが主人公(ごん)はもう一人の登場人物(兵十)と最後には仲良くなるという予期推論をおこなった。したがって,原文の結末(兵十がくりを待ってきたごんを撃つ)を彼らが構成した理解に直ちに統合することは容易ではなかった。そこで授業場面においては,「兵十はごんをどうみていたか」といった他の登場人物(兵十)の視点をとるような読みの方略を示す必要があると推察された。
著者
李 春草 Syunsou Ri
出版者
同志社大学国文学会
雑誌
同志社国文学 (ISSN:03898717)
巻号頁・発行日
no.87, pp.41-53, 2017-12

本論は南京の都市イメージを分析しつつ、それが物語の舞台とされた理由を明らかにした。また登場人物と『板橋雑記』(清・余懐)のそれとの類似性などから、『板橋雑記』が「人魚の嘆き」の新たな典拠であることを指摘した。さらにヒロイン‐‐人魚の実像を解明する上、彼女が純粋な西洋美の象徴であることを論述した。最後に東洋的要素の役割や物語の結末を検討し、作家の意図や小説のモチーフを探ってみた。
著者
家森 信善
出版者
日本保険学会
雑誌
保険学雑誌 (ISSN:03872939)
巻号頁・発行日
vol.2015, no.630, pp.630_139-630_159, 2015-09-30 (Released:2016-07-27)
参考文献数
6

わが国の学校現場における金融・保険教育の実情について知るために,社会科や家庭科など金融教育を実際に担当している教員を対象に様々な調査がこれまで行われてきた。しかし,金融教育の重要性を学校現場全体に浸透させるには,他の教科を担当する教員の意識や能力を高めることも必要である。こうした問題意識から,筆者は,2015年3月に,全国の中学及び高校の教員に対する意識調査を実施した。その結果によると,金融関連科目以外の担当教員の間では,金融経済教育に対する認知度はまだ十分に高くなかった。金融・保険教育を学校現場全体に浸透させるためには,教員になる大学生に対して,金融や保険に関心を持ってもらえるような機会を提供することや,保険が教えられている主要科目である高校・家庭科の先生方は必ずしも金融知識が豊富ではないだけに,研修機会や補助教材の提供などの支援策の充実が望まれることなどが,明らかになった。
著者
張 自寛
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会学術総会抄録集 (ISSN:18801749)
巻号頁・発行日
vol.59, pp.3, 2010

はじめに中国は総人口のうち8億人が農民で占め、改革開放以来30年間、一貫して「三農(農民、農村、農業)」問題を最も重視し、農村の改革と発展を推進し、農村地域に大きな変化をもたらしてきた。1)人民公社を廃止し、農家が農業経営を請負う体制を確立した。2)二千年以上存続してきた農業税を廃止し、農家に食糧生産補助金を支給し、農民の負担を大きく軽減した。3)食糧生産は順調に伸び、農産物の供給が豊かになり、13億人口の食糧問題を中国独自の力で解決した。4)農村地域(郷鎮)に企業が続出し、農村の労働力は都市へ大規模に移動・就業し、億単位の農民が産業労働力の重要な構成部分となった。5)農民の生活は改善し、貧困から抜け出して小康状態までに転換しつつある。<BR><BR>中国農村経済社会の発展改革開放以来30年間、中国農村経済の発展は速かったが、2003年におけるSARSとの闘いの過程で多くの啓発を得た。その中で最も重要なことは、経済社会の発展が一方に偏ることなく全般にわたって計画し、経済社会の発展に見られるアンバランスの問題解決を早めなければならない。ここ数年、中国は農村経済を発展させると同時に、社会事業の発展および国民の生活改善をより一層重視し、以下のような民意が得られた幾つかの重要な事業を実施してきた。<BR> 1)2005年から9年制義務教育は全て無料とし、9年制義務教育に対する経費保障システムを国の財政によって賄い、授業料や雑費の免除と教科書の無料提供、同時に貧困家庭の寄宿生に対する生活補助政策を実施した。また経済社会発展に伴う技術者の需要に適応するため、中・高度の技術教育を大いに発展し、農村の貧困家庭出身者および農業を専門とする学生については無料化を図る。これらの事業は中国の教育体制において歴史的変革である。<BR>2)2003年から新型農村合作医療制度が創設された。先ず一人当たりの保険料が年間30元からスタートし、現在は120元になった。保険料の内訳は、国と地方政府の財政補助が2/3を占め、個人は1/3を納める。2009年末現在、加入者総数は8.15億人で、基本的には農村人口の全てをカバーすることができた。この制度は重病への保障を主とし、特に非感染性疾患、例えば、悪性腫瘍、心疾患、脳血管疾患等に対して重点的に保障する。農業税の廃止と9年制義務教育の無料、また新型農村合作医療の実施等により、「農業税を納めなくてよいこと、無料で学校へ行けること、受診料が高くないこと」といった8億の農民が待ち望んでいた夢を、いまや実現することができた。<BR>3)2007年から全国の農村において最低生活保障制度が創立された。現在、約5千万の農村人口がこの制度に組み入れられ、一人当たり月80元の政府補助金が交付されている。衣食不足の農民にとっては、まさに「雪中に炭を送る」こととなった。<BR>4)経済が発展した沿海部の幾つかの省・市において、農民基本養老保険制度を先ず試行し、その上で2009年から新型農村養老保険制度の試行を全国的に展開した。昔から中国農民の間では、「子を養って老を防ぐ」という考えを持っていた。現在、養老保険制度の試行県では60歳以上の農民全員が、国の財政による最低標準の基礎養老年金を全額享受し、農民も社会保障を受けられて老後への不安が取り除かれた。従って、前述した「農業税を納めなくてよいこと、無料で学校へ行けること、受診料が高くないこと」に、「老後への不安がないこと」を加えるべきであろう。<BR>これらの制度は、いずれも農民に大きな利益を与え、現実的、歴史的意義が深い。しかし、現段階では国の財政に限りがあり、中国における社会保障水準は比較的低いが、今後、経済の発展に伴い、社会保障水準も更なる向上が期待されよう。<BR><BR>農村医療の新しい進展最近の中国における農村衛生事業は著しい進展をみせた。2003年のSARS発生後、政府は農村事業を重要な議事に位置づけ、国務院は常務会議を毎年開き、農村衛生事業について討議を重ねてきた。中央政府および地方政府は、ともに農村衛生への財政投入を年々増大することによって、農村医療ネットワークの建設、医療衛生サービスに、以下のような新たな進展がみられた。
著者
松尾 宗次
出版者
公益社団法人 日本金属学会
雑誌
まてりあ (ISSN:13402625)
巻号頁・発行日
vol.46, no.4, pp.284-289, 2007-04-01 (Released:2011-08-11)
参考文献数
23