著者
金田 亮 高橋 俊広 滝口 正康 土方 元治 伊藤 浩志
出版者
公益社団法人 精密工学会
雑誌
精密工学会学術講演会講演論文集 2017年度精密工学会春季大会
巻号頁・発行日
pp.35-36, 2017-03-01 (Released:2017-09-01)

高密度ポリエチレン(HDPE)は,汎用の半結晶性プラスチックであるが,赤外線システムの集光レンズ用の材料としても使用されている。射出成形によって生産されているが,赤外線透過率が低いため一部のシステムに使用が限定されている。本研究では,流動性の異なるHDPEを用いた薄肉射出成形を行い,白色状態を維持して高い赤外線透過率を得ることが可能な成形条件の実験的検討を行った。
著者
戸原 玄 才藤 栄一 馬場 尊 小野木 啓子 植松 宏
出版者
一般社団法人 日本摂食嚥下リハビリテーション学会
雑誌
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌 (ISSN:13438441)
巻号頁・発行日
vol.6, no.2, pp.196-206, 2002-12-30 (Released:2020-08-20)
参考文献数
38
被引用文献数
1

現在,摂食・嚥下障害の評価法では嚥下ビデオレントゲン造影(Videofluorography;以後VF)が gold standardとして広く認知されている.VFは誤嚥の有無のみならず嚥下関連器官の形態・機能異常すなわち静的および動的異常を観察でき,信頼性の高い摂食・嚥下障害の診断を可能とする有用な検査法であり,設備を持つ施設においては摂食・嚥下障害が疑われる患者に対しほぼルーチンに行われている.しかし実際にはVFに必要な設備を持たない施設は多く,問題があれば経管栄養を選択せざるを得ず,摂食・嚥下障害の評価,対応が適切になされているとは言い難い.このため,医療,福祉の現場からはVFを用いない簡便な臨床的検査法を求める声が高かった.平成11年度厚生省長寿科学研究「摂食・嚥下障害の治療・対応に関する統合的研究(主任研究者:才藤栄一)」において,改訂水飲みテスト,食物テスト,および嚥下前・後レントゲン撮影といった臨床検査の規格化とそれらを組み合わせたフローチャート,および摂食・嚥下障害の重症度分類が作成された.何らかの摂食・嚥下障害を訴えた63名の患者に対し,VFと各臨床検査を行い,食物を用いた直接訓練開始レベルの判定が本フローチャートにより可能であるかについて,実際のVF結果との比較検討を行った.各臨床的検査のカットオフ値は妥当であり,フローチャートの感度,特異度,陰性反応的中度,一致率は極めて高かった.よって直接訓練開始可能レベルの判定において,フローチャートは有用であると考えられた.また安全性も高く特にVFを持たない施設において有用であると結論できた.
著者
鬼頭 孝佳
出版者
日本女性学研究会
雑誌
女性学年報 (ISSN:03895203)
巻号頁・発行日
vol.44, pp.23-39, 2023-12-16 (Released:2023-12-16)
参考文献数
47

本稿は、吉田松陰『武教全書講録』「子孫教戒」における“女子教育”の提唱が、儒学と兵学の文脈において、武家男性による社会編成の“問題”としてどのように位置づけられ、女性が主体的に生きるうえでどのような課題を含んでいたのかを問うている。第2章では、過去の先行研究の多くが、松陰を「良妻賢母」論の枠組みでとらえることにより、『武教全書講録』全体の性格をあまり問題にしていないことを指摘した。続く第3章では、『講録』が基本的には武家男性における文武の統名としての「武」に関わる「修身」を問題としていることを明らかにした。また、女性教育に関する叙述を含む「子孫教戒」も、基本的には統名としての「武」、もしくは戦闘に直接または間接に関わる「武」に関連させてしか読み得ないということを改めて確認した。そのうえで第4章では、「子孫教戒」の女性教育論に着目し、松陰が対内・対外情勢に関する危機意識から、「パクス・トクガワ―ナ」(徳川の平和)への過渡期に編まれた山鹿素行の叙述を、夫に対する殉死に関わる死の先験的自覚として“昇華”することにより、女性集団が自発的に夫(と夫が忠を尽くす天皇=国)の望む「節烈果断」の徳(と将来の子孫創出)を果たす主体=従属形成を目指す社会編成論として読み替えたと結論した。女性が自ら「決断」し、女性によって教育される教育制度の確立が必要だと松陰が述べている以上、松陰の議論には結果的に女性の教育機会を広げ、女性解放に資するところがあったという可能性まで否定はできない。だが少なくとも松陰の社会編成に関わる意図に関する限り、形式的には女性個人の解放のように見えそうな「手段」ではあっても、実質的には女性集団に対する男性集団の支配を、より洗練させた側面が否めず、その影響は社会貢献と権理承認を引き換えに実現してきた“銃後”の日本人女性の今日までの社会進出にも深く影を落とし続けているのではなかろうか。
著者
楊 芳溟
出版者
日本女性学研究会
雑誌
女性学年報 (ISSN:03895203)
巻号頁・発行日
vol.44, pp.3-22, 2023-12-16 (Released:2023-12-16)
参考文献数
49

日本に赴任する夫に随伴、ないし日本在住の夫と結婚するために日本に移住した中国人女性は、言語・慣習・法律など多くの障壁ゆえに日本社会において周縁的な位置に置かれ、社会的孤立などの困難を経験しやすい。本稿の目的は、こうした女性らによるインフォーマル経済としての私人「代理購入(以下、代購)」活動に焦点を当てることで、この活動が彼女らの社会経済的位置および自己認識にどのように影響するかを解明することである。こうした変化は、移民女性についての従来の視点、すなわち、下方移動論とエスニック・ビジネス論では捉えきれないものであり、また、私人代購をもっぱら経済活動としてのみ捉える視点からも見えてこないものである。 日本に随伴・結婚移住した中国人女性7名の調査を通じて、私人代購には経済活動として収入を得るという経済的価値があることがまず明らかになった。それだけでなく、私人代購を社会的行為として検討してみると、日本での生活のなかで疎外感と孤独感を感じた女性らにとっては、私人代購には日本社会と接点を持つ手段としての側面はもちろん、母国の人との関係を保つ手段としての側面があることがわかった。また、女性らは消費者との相互作用のなかで、他者から必要とされることを通じて自分の価値を見出しており、私人代購には承認獲得行為としての側面もあることが確認できた。しかし、中国人を対象に行う母国向けの経済活動の多くは中国語でおこなうことができるため、日本社会への統合の側面から見ると私人代購には限界もあることを指摘しなければならない。
著者
久田 隆基
出版者
日本教科教育学会
雑誌
日本教科教育学会誌 (ISSN:02880334)
巻号頁・発行日
vol.5, no.3, pp.153-165, 1980-07-30 (Released:2018-01-07)
被引用文献数
1

本稿では,現行の中学校理科教科書(3社)の中で用いられている,程度や量を表すことば(大きい,多い,高い,強いなど)の使われ方についての調査結果と,それらの意味・用法についての分析結果を報告する。調査の結果,事象の程度や量は,大半のものが「大きい・小さい」とその他の形容詞との両者で表されるということ,一部のものは「大きい・小さい」のみで表されるということ,また。一部のものは「大きい・小さい」以外の形容詞で表されるということがわかった。さらに,同じ1つの事象の程度や量を表す場合,いく通りもの表現が見られる用例もいくつかあることがわかった。用例の分析から判断すると,中学校理科教科書においては,これらのことばの使い方については注意が払われていないように思われる。程度や量を表すことばを科学用語とからめて検討することの必要性を指摘した。
著者
田熊 一敞
出版者
大阪大学大学院 大阪大学・金沢大学・浜松医科大学・千葉大学・福井大学連合小児発達学研究科
雑誌
子どものこころと脳の発達 (ISSN:21851417)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.26-33, 2021 (Released:2021-10-14)
参考文献数
33

自閉スペクトラム症(ASD)は,社会性・コミュニケーションの障害,興味の限定・反復的な常同行動を特徴とする発達障害の1つである.近年,母親の妊娠中のウイルス感染,薬物摂取やビタミン不足などによってASDの発症リスクが増大することが示され,薬物摂取に関しては,2000年代後半に「妊娠中の抗てんかん薬服用により出生児のASD発症リスクが増大する」との臨床報告がなされている.本稿では,著者の研究グループがこの臨床知見に着目して作製・確立した“バルプロ酸の胎内曝露によるASDモデルマウス”において見いだした知見を中心として概説し,ASDの病態解明ならびに薬物療法の開発に向けた今後の展望と“基礎研究”の課題について考察する.
著者
栗本 鮎美 粟田 主一 大久保 孝義 坪田(宇津木) 恵 浅山 敬 高橋 香子 末永 カツ子 佐藤 洋 今井 潤
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.48, no.2, pp.149-157, 2011 (Released:2011-07-15)
参考文献数
30
被引用文献数
195 213

目的:高齢者の社会的孤立をスクリーニングする尺度として国際的に広く使用されているLubben Social Network Scale短縮版(LSNS-6)の日本語版を作成し,信頼性および妥当性の検討を行った.方法:総合健診を受診した地域在住高齢者232名に面接式質問紙調査を行い,日本語版LSNS-6とともに,基本属性,主観的健康感,運動機能,既存のソーシャルサポート質問項目,日本語版Zung自己評価式抑うつ尺度(日本語版SDS),自殺念慮等に関するデータを得た.日本語版LSNS-6の内的一貫性についてはCronbach α係数,繰り返し再現性についてはSpearman相関係数,評価者間信頼性については級内相関係数を用いた.構成概念妥当性の検討には先行研究の結果との比較,併存妥当性の検討には日本語版SDSおよびソーシャルサポート質問項目との関連を検討した.結果:Cronbach α係数は0.82,繰り返し再現性に関する相関係数はr=0.92(P<0.001),評価者間の級内相関係数は0.96(95%信頼区間0.90~0.99)であった.日本語版LSNS-6の平均得点は同居世代数が増えるほど高く(P=0.033),自殺の危険性がある群で低く(P=0.026),主観的健康感不良群で低下する傾向(P=0.081)を認めた.日本語版LSNS-6の得点は日本語版SDSと有意な負の相関を示し(P<0.001),ソーシャルサポートに関する5つの質問項目のうち4項目において,ソーシャルサポート「あり」群で日本語版LSNS-6の平均得点は有意に高かった(P<0.05).結論:日本語版LSNS-6の信頼性と妥当性は良好であった.我が国における高齢者の社会的孤立のスクリーニングに日本語版LSNS-6が有用である可能性が示された.
著者
森田 智 村上 綾 平地 治美 渡邊 悠紀 中口 俊哉 越智 定幸 奥平 和穂 平崎 能郎 並木 隆雄
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.74, no.2, pp.175-179, 2023 (Released:2023-11-23)
参考文献数
12

短時間の鍼灸実習が与える教育効果を明らかにするため,病院実習中の医学部5年生112名を対象に,体験を含む1時間の鍼灸実習および実習前後でのアンケート調査を実施した。全10項目のうち8項目において,実習後に「はい(思う)」の割合は有意に大きく,ポジティブな変化が得られた。実習前と後の変化幅が大きく現れた項目は,「科学的だと思いますか?(実習後に+47.4%)」,「全般的に,どのようなイメージをもっていますか?(+39.3%)」,「将来,鍼灸を取り入れたいと思いますか?(+39.3%)」であった。伝統医学を学ぶ機会はさらに確保されることが望ましいが,時間や人員が有限であるという問題点も改善策が必要となる。本調査により,短時間の実習で有益な教育効果が示されたことは,鍼灸実習実施の重要性を示しており,他の医学部学生や医療系学部の学生に対しても同様に期待できる可能性を示している。
著者
井尻 篤木 吉木 健 根本 洋明 田中 浩二 嶋崎 等 前谷 茂樹 峯岸 則之 中村 晃三 森本 陽美記 堀 あい 米富 大祐 中出 哲也
出版者
獣医麻酔外科学会
雑誌
獣医麻酔外科学雑誌 (ISSN:09165908)
巻号頁・発行日
vol.41, no.2, pp.53-57, 2010 (Released:2011-04-09)
参考文献数
9

MRIで嚢胞性髄膜腫と診断した犬3例をその画像所見から人医療のナタの分類より、タイプ別に分類し、手術を行った。タイプIIIの症例1、2は造影されている充実性の腫瘍のみ摘出し、タイプIIの症例3は造影されている嚢胞壁と腫瘍の両方を摘出した。その結果、全症例において症状の改善がみられ、症例1は嚢胞の内容液の分泌能が低下し、症例2、3は嚢胞が消滅した。症例3は腫瘍が新たに摘出部位の反対側から発生したが、3年生存している。
著者
菊地 夏野
出版者
日本女性学会
雑誌
女性学 (ISSN:1343697X)
巻号頁・発行日
vol.29, pp.12-22, 2022-03-31 (Released:2023-04-01)
参考文献数
11

本論は、ポストフェミニズム論がどのようなものなのか概略を示し、日本の文脈で読解することを目指した。まず英米のポストフェミニズム論の概要を整理し、加えてネオリベラル・フェミニズム概念を紹介した。次に、ポストフェミニズム論でいう「ネオリベラル・ジェンダー秩序」を日本の政治経済において具体的に考察した。さらに、ポストフェミニズムの状況が変化し、「新しいフェミニズム」と言われている社会現象を分析した。最後に、そのようなポストフェミニズム状況を変革し乗り越えるために求められる視座を「99%のためのフェミニズム」を例として構想した。
著者
杉田 翔 藤本 修平 小向 佳奈子
出版者
一般社団法人 日本地域理学療法学会
雑誌
地域理学療法学 (ISSN:27580318)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.21-30, 2023 (Released:2023-03-31)
参考文献数
41

【目的】安価な簡易的徒手筋力計(ハンドヘルドダイナモメーター)の有用性として,膝伸展筋力測定の精度および信頼性を担保するための測定条件を調査した.【方法】測定者は,理学療法士5名とし,健常成人の膝伸展筋力を測定した.信頼性の指標として,検者内および検者間の級内相関係数を求めた.また,信頼度指数を算出し,信頼性の担保される測定条件を求めた.【結果】検者内の級内相関係数は男性で0.88,0.92,0.94,女性は0.71と0.82であり,5名中4名が0.8以上の完全一致を示した.検者間では,測定者5名では0.36,男性では0.89,女性では0.32であり,男性でのみ良好な値を示した.信頼性が担保される測定条件は,男性測定者1名で1回以上であった.【結論】安価な簡易的徒手筋力計における膝伸展筋力の検者内信頼性は,男性測定者で良好であり,女性測定者では低い信頼性となった.信頼性には,測定者の握力や徒手固定力が影響している可能性があり,測定前に測定者自身の徒手固定力を把握する必要がある.
著者
石川 遥至 内川 あかね 風間 菜帆 鈴木 美保 宮田 裕光
出版者
日本マインドフルネス学会
雑誌
マインドフルネス研究 (ISSN:24360651)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.15-26, 2020 (Released:2022-02-22)
参考文献数
29

近年,マインドフルネス瞑想のプログラムは,欧州などを中心に小中学校を含む教育現場に応用されており,日本への導入も検討されている。大学の多人数講義における瞑想実践の効果に関して,量的な検討は少ない。本研究では,大学学部生を対象とした1学期間の講義の冒頭で,5分間の集中ないし観察瞑想を実施し,講義終了時における気分および動機づけ状態を含む心理的効果を検討した。その結果,5分間瞑想を実施した講義回では,実施しなかった回よりもリラックスの得点が有意に高かった。また,瞑想の出来に関する自己評定が高い学生は,自己評定が低い学生よりも,リラックス,講義への集中度,理解度,興味の得点がいずれも有意に高かった。これらから,講義冒頭における瞑想の実践は,講義時間中を通して望ましい心理的効果を持つことが示唆される。一方,瞑想の出来に対する自己評価と瞑想の種類も,これらの効果に関連しているかもしれない。
著者
西郡 仁朗
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.172, pp.18-32, 2019 (Released:2021-04-26)
参考文献数
15
被引用文献数
1

高齢化社会が進む日本において,介護福祉分野の人材が不足していると言われて久しい。このため日本政府は様々な形態で介護福祉の分野への外国人の受け入れを進めている。しかし,これは日本だけの問題ではなく,アジア各国での社会経済・医療福祉の発達,人口動態の変化などにより,国際的な問題となりつつあり,日本が人材の受け入れを進める際にも国際的な施策や配慮が必要である。また,介護福祉の分野は,介護する側と利用者との日本語でのコミュニケーションが非常に重要である。 本稿ではここ十年,著者を含む日本語教育者が学会・研究会活動や公学連携活動などを通じて取り組んできた外国人介護福祉士受け入れの改善に関わる運動や,介護福祉分野で必要な日本語能力の分析,特に「介護のCan-doステートメント」などについて概説する。また,2019年4月から開始される「特定技能」制度での介護の日本語教育の問題についても触れる。
著者
西北 健治 井尻 朋人 鈴木 俊明
出版者
一般社団法人 日本摂食嚥下リハビリテーション学会
雑誌
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌 (ISSN:13438441)
巻号頁・発行日
vol.25, no.3, pp.222-228, 2021-12-31 (Released:2022-05-11)
参考文献数
21

【目的】本研究は,体幹傾斜角度と頸部の角度を変化させたリクライニング車椅子姿勢と嚥下困難感との関係を明らかにすること,また顎舌骨筋と胸骨舌骨筋の座位姿勢の筋活動量と嚥下困難感との関係を明らかにすることを目的とした.【方法】対象は健常成人10名とした.課題は ① 姿勢保持の筋活動の測定,② 9パターンの姿勢での嚥下動作,③ 各姿勢での嚥下困難感の回答とした.座位姿勢は頸部屈曲20°,中間位,伸展20°の3 パターンと体幹傾斜80°,70°,60°の3 パターンを組み合わせた9 パターンを設定した.嚥下困難感は安静座位(頸部中間位,体幹鉛直位,股関節,膝関節共に屈曲90°,足底は床面接地)での嚥下を基準として,10 が最も飲み込みやすいとした0~10 で回答させた.筋活動の測定は顎舌骨筋と胸骨舌骨筋とした.【結果】頸部屈曲20°,中間位,伸展20°いずれにおいても,体幹傾斜60°が80°より有意に嚥下困難感の値が低値であった.そして,体幹傾斜60°かつ頸部伸展20°は他の肢位と比べ嚥下困難感の値が最も低値であった.またリクライニング車椅子座位姿勢時の顎舌骨筋,胸骨舌骨筋の姿勢時筋電図積分値相対値と嚥下困難感に有意な負の相関を認めた.顎舌骨筋はr =-0.50,胸骨舌骨筋はr =-0.54 であった.【結論】体幹傾斜60°かつ頸部伸展20°は,他の肢位と比べ嚥下困難感の値は低値であり,その要因として,姿勢保持時に顎舌骨筋と胸骨舌骨筋の筋活動の大きさが関係すると考えられた.嚥下困難感を生じさせないためには,顎舌骨筋と胸骨舌骨筋の筋活動が少ないポジショニングを検討することも一つの指標になると考えられた.
著者
小川 綾乃 浅井 さとみ 宮澤 美紀 髙梨 昇 下野 浩一 梅澤 和夫 宮地 勇人
出版者
一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会
雑誌
医学検査 (ISSN:09158669)
巻号頁・発行日
vol.70, no.3, pp.448-455, 2021-07-25 (Released:2021-07-28)
参考文献数
4

診療のために多用されている超音波検査は,感染対策を怠ればアウトブレイクの原因につながる可能性があり,超音波検査用ゼリー(以下,ゼリー)の衛生管理は院内感染防止のために重要である。本研究は超音波検査実施におけるゼリーとゼリーウォーマ(以下,ウォーマ)の衛生的使用状況を明らかにするため,細菌学的な環境調査を行い,結果に基づく衛生的使用方法について検討した。ゼリーボトル使用開始から終了まで,始業時と終業時にゼリーおよびウォーマから培養検査を行った。その結果,検出された細菌はいずれも環境中またはヒトの常在菌であり,著明な細菌の増殖は確認されず,衛生的な運用がなされていると考えられた。しかし,易感染患者の検査の実施ではより衛生的に使用することが望まれる。リスク低減のため検査開始時には汚染の危険性のあるボトル先端部のゼリーを破棄することや,終業時にはウォーマを清掃・消毒することも有用であると考えられた。
著者
LAI SHANGYU 于 濰赫 池田 真利子
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2023年度日本地理学会春季学術大会
巻号頁・発行日
pp.233, 2023 (Released:2023-04-06)

日本統治時代を経験した台湾・韓国には,現在でも数多くの有形・無形の関連遺構が存在する。戦後,両地域の政府は戦後体制の確立のなか,日本統治時代の遺構の撤去・破壊を行った。一方で,1990年代にはこの撤去・破壊に対する市民運動が発生し,これを機に日本統治時代の遺構を文化財として認識する機運が高まり,以降,これらの遺構は「遺産化」されるようになった。また,2000年代以降の登録文化財制度の新設により,日本統治時代の遺構の文化財指定・登録は一層進み,工場や旧官僚社宅のような「大型の日本統治時代遺産」を中心に積極的な活用が行われるようになった。台湾ではイギリスの文化創造政策の影響を受けた「文化創意園区」が統治時代遺産で発展し(于・池田,2020),また群山・木浦・大邱等を例とし,韓国の地方都市では観光資源として積極的に活用される場合もある。これらの文化遺産を巡る視点は,双方の国の戦後体制において流動的に変化し,また1990年代の台湾本土化運動では台湾のアイデンティティの一部として受容され,新たに意味付けられる側面も確認される。 さて,日本統治時代遺産に関する文献や先行研究は複数あるが,これらは大型の日本統治時代遺産に注目したものが主体であり,また,地権者が民間・個人に帰属するため,保存・活用の難しい「リトルビルディング遺産」を扱った文化遺産学的研究はない。また,文化遺産を巡る視点が絶えず変化し,せめぎあうなかで,「リトルビルディング遺産」の利用者は,なぜ,どのような視点に基づき,どのようにそれらを利用しているのか等,関係主体へのヒアリング調査が極めて意味を有する一方で,台湾・韓国においてもこれらの研究は不足する。 したがって本稿の研究目的は,台湾・韓国における日本統治時代遺産を対象として,その形成背景と保存の経緯を概観するとともに,なかでも延べ面積が100坪以内であり,住宅用途以外で使用される「リトルビルディング遺産」に焦点を当て,利用の現状を明らかにすることである。 本研究は,文献調査(先行研究や報告書の現地入手),データベース作成(各文化省データベースのほか,書籍,Web情報),現地調査の順に行った。また現地調査では,計14件の半構造化インタビュー調査(所要時間40分~1時間程度)を行った。本研究対象地域は,いずれも旧日本人高級住宅街として形成された台北の旧御成町・旧幸町,およびソウルの厚岩洞(以下,旧三坂通)である。 本研究では,台湾,次に韓国で日本統治時代遺産の保存・活用の体制が整備されたこと,そしてこれらは大型の日本統治時代遺産に顕著であるのに対し,リトルビルディング遺産は民間において都市開発の回避や景観条例の制限等の結果,消極的かつ偶発的に残されていること,またこれらを使用する動機として日本統治時代の遺構であることは弱く,同様に流動的な対日感情がこれらの利用に影響を与えてはいないこと等が明らかとなった。論争的な側面を有する植民地遺産の一例は,保存・活用を自明のものと捉える態度に疑問を投げかける。他方で,これら有形の遺構は,日常的に使用されることで結果的に残され,過去の歴史的記憶の参照を可能とする。