- 著者
-
竹村 明洋
- 出版者
- 琉球大学
- 雑誌
- 基盤研究(C)
- 巻号頁・発行日
- 2002
サンゴ礁に棲息する魚類の多くは産卵期に月齢に同調した性成熟と産卵を繰り返す。この海域の魚が月の何を感じ、そして体内でどのような情報へと転換して月齢同調性を示すようになるのかについてはわかっていない。本研究では月が地球に及ぼす影響のうち月光の周期的変化に焦点をあて、沖縄のサンゴ礁に普通に棲息する月齢同調性産卵魚ゴマアイゴが月光を感受する能力を有するかどうかを調べた。本研究では明暗で変動するメラトニンに着目した。血中メラトニン量には明確な日周変動が認められ、暗期に高く明期に低い値を示した。満月時における血中メラトニン量は新月時のそれに比べて有意に低下していた。恒暗条件で飼育していた魚を新月・満月に暴露した時血中メラトニン量は急激に減少した。ゴマアイゴの松果体を生体外培養した結果、松果体からのメラトニン分泌に明確な明暗変動がみられた。松果体を月光に暴露することにより培養液中へのメラトニン分泌量は減少した。また、昼間光から引き続き夜間光へ移行した松果体でのメラトニン分泌量は、実験暗条件に比べて低かった。以上の結果からゴマアイゴの松果体に光受容能があり、夜の明るさを認識できることが判明した。自然条件で飼育したゴマアイゴは予定産卵日に産卵したが、人為的月光で予定産卵日1ヶ月前から飼育した場合は産卵しなかった。予定産卵日2週間前から人為的満月と新月で飼育した場合、新月では産卵したのに対し、満月では産卵しなかった。以上の結果は、月光の周期的変動が魚の成熟に関与している可能性があった。本研究で得られた結果は月光がゴマアイゴの同調的な成熟と産卵に関係している可能性を示すものである。月が地球に及ぼす周期的環境変動には様々あり、それらが複合的に関与し魚類の同調性リズムに関係している可能性がある。今後もアイゴ類をモデルとしながら、月と地球上の生物の生命活動との役割を明らかにしていきたい。