著者
田路 則子 新谷 優
出版者
法政大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究の目的は、スタートアップの成長要因を、経営資源、経営戦略の分類別に探ることである。調査は、地域性、業種の特性をコントロールするために、東京で展開するWEBとモバイル関連ビジネスに焦点を当てている。企業のウエブサイトをみることにより、2年後にどの程度成長しているかを確認した。戦略面では、市場規模、市場成長性、サービス新規性が成長性と関係あることが実証できた。さらに、他社と差別化するためには、製品の革新性と、一貫したビジネスアイデアを追求しながらも柔軟にビジネスモデルを変更することが有効であった。また、経営資源面では、立ち上げ時の創業チームと、シリーズAの資金調達が有効であった。
著者
藤井 亮輔 長岡 英司 呉 泰敏 李 宇寛
出版者
筑波技術大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究では日本の植民地政策下で朝鮮半島と台湾で展開された盲人への理療教育(鍼灸・按摩教育)の以下の実態を明示できた。朝鮮の理療教育は朝鮮総督府済生院の盲唖部(1913年)において官主導で開かれたのに対し台湾の按摩教育はWilliam Cambelによる台南慈恵院盲人教育部(1900年)や木村勤吾による木村盲唖教育所(1915年)など民間主導で行われた点に特徴がある。両者とも日本で公布された按摩術等に関する法令(1911年)に則った教育が実践されたことで、盲人の経済自立を可能にさせた日本の職業文化がこれらの地域にも形成された。その今日的意義は大きい。
著者
別府 哲 加藤 義信 工藤 英美
出版者
岐阜大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

自閉スペクトラム症の心の理論障害は、Perner(1991)によればメタ表象の問題である。しかしメタ表象を直接定義し測定した研究はほとんど無い。本研究では、工藤・加藤(2014)が開発した多義図形の1枚提示課題(メタ表象を必要)と2枚提示課題(メタ表象を必要としない)を用いてその特徴を検討した。定型発達児は4歳で2枚提示条件のみ正答率があがり、5歳で1枚提示条件も正答率が上昇する。それに対し、自閉スペクトラム症児は精神年齢4歳台で1枚提示条件はもとより、2枚提示条件も正答率が低かったことから、メタ表象の発達の遅れとともに、その発達プロセスが得意である可能性が示唆された。
著者
佐伯 仁志 大澤 裕 橋爪 隆 樋口 亮介 宇賀 克也 森田 宏樹 神作 裕之 白石 忠志 山本 隆司
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本件研究は、経済活動における違法行為に対する制裁手段の在り方について、刑事制裁と非刑事法的な規制手段とを比較しつつ、多角的な検討を加えるものである。具体的な研究成果としては、①刑事法上の過失概念と民事法上の過失概念の関係、②公務員の過失責任の限界、③銀行取引における違法行為の処理、④金融商品取引法における罰則の解釈、⑤独占禁止法におけるサンクションの在り方などの問題について、検討を加えることができた。
著者
吹田 浩 伊藤 淳志 西形 達明 西浦 忠輝 沢田 正昭 仲 政明 渡邊 智山 安室 喜弘
出版者
関西大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010-04-01

古代エジプトの遺跡で典型的な石造文化財であるマスタバ墓の保存状況、劣化の現状、エジプトの管理当局の保全対策をサッカラのイドゥートを事例にエジプト学、建築工学、地盤工学、保存科学、文化財修復技術の観点から、総合的に研究を行い、問題点を整理した。その際、3次元の精密な記録を作成し、情報リテラシーの観点から使いやすいデータベースの技術を開発した。エジプト革命(2011年1月末)後の政情不安のために、現地での調査ができずに、研究が遅れざるを得なかったが、代替のデータを使用するなど、可能な限り当初の目的達成をはかり、データベースの開発を達成した。今後は、各種のデータを入力し、活用していくことになる。
著者
鐸木 道剛
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

日本の大主教ニコライ・カサートキン(1836-1912)が育てた日本人イコン画家山下りん(1857-1939)の先駆者のような形で、アレウト・カムチャツカ・クリルの主教インノケンティ(1797-1879)が育てたワシリー・クリューコフ(c. 1805-c. 1880)というアレウト人画家がいる。今回の調査によって、クリューコフとその周辺のアラスカのイコン画家たちはロシアから将来された原画を忠実に模写したことが明らかになった。これは山下りんのイコン制作態度と同じであり、ニコライはイコン制作に関しても先輩のアジアへの正教会伝道師インノケンティのイコン観を受け継いだと考えられる。8世紀ビザンティンに由来する表象観念が、アラスカと日本に同様に伝えられたことになる。
著者
中川 貴之 南 雅文
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

ATPを脊髄くも膜下腔内に投与すると、持続時間の短い機械的痛覚過敏が惹起され(〜20分)、引き続き、投与15〜30分後にアロディニアが誘導され、その後3〜4週間持続する長期持続性アロディニアが惹起された。本モデルでの脊髄内グリア細胞の活性化の経時変化を検討したところ、ミクログリアは比較的早い時期(誘導〜移行期)、少し遅れてアストロサイトが活性化された(移行〜維持期)が、その後、アロディニアは持続しているにも拘わらず、どちらも定常状態に戻りつつあった。さらにミクログリアおよびアストロサイトの活性化阻害薬、および数種のMAPK阻害薬を用いた検討などから、それぞれの活性化状態を示す時期と対応してアロディニアの惹起に関与することを示した。これらは、脊髄内のミクログリアは主に慢性疼痛の誘導に、アストロサイトは慢性疼痛への移行に関与することを示している。また、主にアストロサイトに発現するグリア型グルタミン酸トランスポーターGLT-1は、炎症性疼痛モデルおよび神経因性疼モデルにおいて、その発現量あるいは細胞膜における局在量が減少していた。組込えアデノウイルスを用いて脊髄内にGLT-1遺伝子を導入すると、急性痛に対しては影響を与えないものの、炎症性疼痛や神経因性疼痛の発症をほぼ抑制した。これらの結果は、アストロサイトによるGLT-1を介したグルタミン酸取り込み機構の破綻が、慢性疼痛発症に重要な役割を果たしていることを示す。さらに、このGLT-1局在変化の分子機構を明らかにするため、GLT-1-EGFP融合タンパク質を導入できる組換えアデノウイルスを作成し、培養神経-グリア共培養系を用いてタイムラプス顕微鏡下でアストロサイトでのGLT-1の局在変化を解析した。その結果、グルタミン酸の処置によりGLT-1は1時間以内に細胞内に移行しクラスター状に集積すること、また、GLT-1を介したNa^+流入が必須であることを明らかにした。
著者
木内 貴弘 大津 洋 石川 ひろの 岡田 昌史 辰巳 治之
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2014-04-01

クリニックなど小規模医療機関等、治験や臨床試験に参加したいがシステム負担が大きく参加協力が難しかった施設においても本研究成果を利活用することにより従来に比較し容易に治験や臨床研究に参加できる環境を提供できる道が開けた。これにより疾患に依存して、その当該疾患の研究に、より適している施設に試験参加協力の上、臨床研究を効率的に推進可能な対象施設範囲が広がった。UMINセンターが持つ全国集計サーバーへ匿名化した臨床試験情報を安全かつ効率的に収集できる対象がこれまでの大規模病院のみならずクリニック等小規模医療機関まで広がった。
著者
金子 充 平野 寛弥 堅田 香緒里
出版者
立正大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

本研究では、イギリスにおける批判的社会政策論、すなわちマイノリティ等のヴァルネラブルな人々の差異・アイデンティティに配慮した社会政策を構想する研究潮流を支える視点および鍵概念(「普遍主義」「互酬性」「シティズンシップ」)の整理と再検討をおこなった。近年のわが国および先進諸国の社会政策(公的扶助制度や失業者・生活困窮者支援策)では就労自立を重視した政策展開がなされているが、これらは能力に応じて就労または活動への従事を求める給付としての性格が強く、限定的な意味での普遍性や、個人単位において権利と義務を対応させる互酬性に依拠した政策展開をしていることが考察された。
著者
玉蟲 敏子 相澤 正彦 大久保 純一 田島 達也 並木 誠士 黒田 泰三 五十嵐 公一 井田 太郎 成澤 勝嗣 野口 剛 畑 靖紀 吉田 恵理
出版者
武蔵野美術大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

朝岡興禎編『古画備考』原本(1850-51年成立、東京藝術大学附属図書館)に集成された書画に関する視覚・文字情報の分析によって初めて、自身の見聞や親しい人脈から提供された第一次情報に基づく出身の江戸狩野家、同時代の関東や江戸の諸派は詳細である一方、上方については一部の出版物に頼り、浮世絵も最新の成果が盛り込まれていないなどの偏向性が確認され、朝岡の鷹揚なアカデミズムの視点から、近代における美術史学成立直前の都市・江戸で開花した書画趣味の実態、価値観、情報の伝達経路を浮上させることに成功した。
著者
中島 啓光
出版者
横浜国立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

金属を高濃度で蓄積する地衣類ヤマトキゴケまたはオオキゴケを国内11府県で採集、金属分析を行い、黄砂の影響を調べるための基礎データが得られた。二次代謝物を分析したところ、ヤマトキゴケはCu濃度が高いほど二次代謝物濃度が低く、Cu汚染の影響を受けていることが示唆されたが、オオキゴケにはそのような相関が見られず、二次代謝物へのCu汚染の影響に違いが見られた。また、金属を高濃度で蓄積するコケ植物イワマセンボンゴケの金属分析の結果、Ca濃度とK濃度の間に負の相関関係が見出され、過剰なCaによるK取り込みの抑制が示された。以上から、これらのコケに対する金属汚染の影響についての理解が深まった。
著者
鹿島 美里
出版者
北海道大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

山東京伝の有力な後援者の一人であった松前藩主松前道広の弟、松前文京(俳号泰郷)の俳諧活動を調査・分析し、その俳諧活動を明らかにした。文京(俳号泰郷)は江戸座俳諧宗匠存義を師とし、弟の松前武広(俳号李井)とともに、大名子弟の俳人柳沢米翁・本多清秋・松平雪川・酒井抱一らと俳諧交友を行っていたことを解明した。これによって文京の江戸座俳諧活動が明らかとなり、山東京伝の係わった江戸文化圏の一端を解明することができた。
著者
竹村 明洋
出版者
琉球大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

サンゴ礁に棲息する魚類の多くは産卵期に月齢に同調した性成熟と産卵を繰り返す。この海域の魚が月の何を感じ、そして体内でどのような情報へと転換して月齢同調性を示すようになるのかについてはわかっていない。本研究では月が地球に及ぼす影響のうち月光の周期的変化に焦点をあて、沖縄のサンゴ礁に普通に棲息する月齢同調性産卵魚ゴマアイゴが月光を感受する能力を有するかどうかを調べた。本研究では明暗で変動するメラトニンに着目した。血中メラトニン量には明確な日周変動が認められ、暗期に高く明期に低い値を示した。満月時における血中メラトニン量は新月時のそれに比べて有意に低下していた。恒暗条件で飼育していた魚を新月・満月に暴露した時血中メラトニン量は急激に減少した。ゴマアイゴの松果体を生体外培養した結果、松果体からのメラトニン分泌に明確な明暗変動がみられた。松果体を月光に暴露することにより培養液中へのメラトニン分泌量は減少した。また、昼間光から引き続き夜間光へ移行した松果体でのメラトニン分泌量は、実験暗条件に比べて低かった。以上の結果からゴマアイゴの松果体に光受容能があり、夜の明るさを認識できることが判明した。自然条件で飼育したゴマアイゴは予定産卵日に産卵したが、人為的月光で予定産卵日1ヶ月前から飼育した場合は産卵しなかった。予定産卵日2週間前から人為的満月と新月で飼育した場合、新月では産卵したのに対し、満月では産卵しなかった。以上の結果は、月光の周期的変動が魚の成熟に関与している可能性があった。本研究で得られた結果は月光がゴマアイゴの同調的な成熟と産卵に関係している可能性を示すものである。月が地球に及ぼす周期的環境変動には様々あり、それらが複合的に関与し魚類の同調性リズムに関係している可能性がある。今後もアイゴ類をモデルとしながら、月と地球上の生物の生命活動との役割を明らかにしていきたい。
著者
牛山 佳幸
出版者
信州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

これまで一般に女性差別であると誤解されることの多かった、「女人禁制(女人結界)」という歴史事象について、主として「女人禁制」条項をを含む寺院法制文書(本研究でいう「女人禁制」文書)の網羅的な収集と分析という新しい手法を導入することにより、その成立事情と歴史的意義の解明を進めた。その結果、これが仏教の戒律(不邪淫戒)に本来的に由来するものであることに疑いの余地がないこと、したがって、従来一部で指摘されていたような我が国固有の習俗ではなく、中国など東アジアの仏教圏に共通してみられた慣行であったこと、さらに尼寺における「男子禁制」の事例も僅かながら存在していたことから性的差別とは言えないことなどが確認できたが、本研究の最大の成果は、上記の「女人禁制」文書の内容分析によって、我が国における「女人禁制」の時代的変遷や、寺院毎の相違などを明確にすることができた点にある。すなわち、「女人禁制」には、(1)寺内の持律僧の強い指導力によって保たれているもの、(2)住僧らの連帯意識により自主的に守ろうとしたもの、(3)檀那や為政者など外部からの規制で維持できたものの、三つのタイプに分類できるが、南北朝期頃までは(1)(2)の例が多く、この時期にはいわば自主規制としての意味を持っており、したがって、「女人禁制」を遵守できるかどうかは個別寺院の住僧らの持戒意識の有無にかかっていたと言いうる。一方、室町期以降、とくに戦国期になると(3)のタイプが目立つようになるが、これは破戒行為の横行によって、領主権の介入と規制が強化されるという事態を招いたことを反映している。また、各時代にわたり、高齢で身寄りのない女性には寺内居住を認めるといった、例外規定を設けていた例も多く判明し、そのことが「女人禁制」の形骸化に拍車をかけた点も明らかとなった。