著者
徳山 孝子 打田 素之 木谷 吉克 笹崎 綾野 中村 茂 森田 登代子 藤田 恵子 山村 明子 刑部 芳則
出版者
神戸松蔭女子学院大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

礼服・軍服などの男子服意匠の導入に関わる幕末から明治維新期にかけての日仏間の交流の経緯と実態の一端を明らかにした。①明治天皇の御正服の意匠とAICP校に現存する絵型の比較検証から、礼服などの男子服意匠の導入がフランス支援による事が判った。②訪仏した日本人との交流が深かった洋裁店「オゥギャラリードパリ(S・ブーシェ)」は、男子服の発祥経路の一つとして指摘できた。③ナポレオン3世から徳川慶喜に贈呈された軍服、軍帽等の軍装品に関して、仏軍が定める詳細な仕様書などの資料が得られた。④The Tailor’s guideの技法は『西洋縫裁(裁縫)教授書』を介して伝えられたことが判った。
著者
徐 勝
出版者
立命館大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

本研究では、東アジアにおける深刻な人権侵害をテーマに韓国と台湾に焦点を当て、調査と比較研究を行い、東アジアにおける問題の性格と構造を明らかにした。また、本研究では韓国での現地調査、台湾での現地調査を通じて基礎資料を収集した。まず研究報告としては2000年6月30日に金貴玉(ソウル大社会発展研究所)による、「朝鮮戦争前後とする民間人虐殺」が、2000年11月19日には、企順泰(韓国放送通信大)の「『済州4・3特別法』をめぐる諸問題」、姜慶善(韓国放送通信大)の「韓国の『民主化運動関連者名誉回復・補償法』の成立と実施をめぐって」が報告された。研究のまとめとして、2001年<シンポジウム>「東アジアにおける国家暴力・重大な人権侵害からの回復-韓国と台湾」のテーマの下に、(1)朱徳蘭(台湾中央研究院)「台湾『白色テロ』関係文献探索」(2)韓寅燮(ソウル法科大学)「韓国の国家暴力に対する法的処理の基本原則とその適用」(3)徐勝(立命館大学)の「東アジアの国家暴力の被害からの回復-韓国と台湾の比較」の三本の報告が成された(この報告の加筆訂正されたものは、科研報告書所収)。各報告論文に加えて、徐勝が「台湾「戒厳時期叛乱曁匪諜不當審判案件補償條例」の研究-その成立と改正をめぐって-」を執筆し、また現地調査などを通じて、報告書の付録所収の(1)処置叛乱犯相関法令一覧表(2)台湾地区戒厳時期国家暴力與人権侵害関係資料目録(以上、2件は朱徳蘭研究協力員による)(3)韓国民間人虐殺関係資料目録(研究補助者を使い徐勝が作成し、全資料を確保)などの基礎資料を作成した。本研究は、韓国と台湾の民主化の過程で、冷戦下独裁政権による深刻な人権侵害(gross human rights violation)の犠牲者の回復において、韓国と台湾の特殊性が反映されているが、普遍的な原則が比較的貫徹されており、特に韓国の光州特別法は、世界的に優れた立法事例である事を明らかにした。今回の研究で蓄積された成果・資料は今後の研究の跳躍台として貴重なものである。
著者
跡部 真人
出版者
横浜国立大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2012-04-01

微小な流路内で化学反応を行うマイクロリアクターは、様々な分野で応用が期待されている反応デバイスであり、これを利用した研究は1990年代初頭から分析化学の分野で、また、最近は有機合成化学の分野でも大きな成果を挙げている。とくに大きな比界面積を有し迅速な溶液混合が可能といった特徴は、均一系反応よりもむしろ固-液不均一系界面での反応のほうが効率化できるなど利点が多く、典型的な固-液界面での反応である電気化学反応においても大変魅力的なものと言える。さらに、電気化学測定・分析の領域のみならず、電解合成の分野においては、マイクロリアクターの利点はこれだけではない。電極間距離がマイクロオーダーであり、「電解液の流れがリアクター内で厳密に制御されている」といった特徴を最大限に活用すれば、従来のバッチ式反応容器(フラスコやビーカー)では決して実現できなかった全く新しい電解合成反応や電解合成システムが構築できることも予想される。このような着想に基づき、平成25年度はマイクロリアクターを利用した「連続的レドックス反応システムの開発」に着手した。具体的には連続的レドックス反応によるハロゲン化フェノール誘導体からのジアリールエーテル合成をモデルに選定し、従来のバッチ式反応容器(フラスコやビーカー)では決して実現できなかった全く新しい電解合成システムが、マイクロリアクターの活用により構築できることを検証した。
著者
谷 正和 田上 健一
出版者
九州大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2016-04-01

平成29年度は、前年度までに作成した暫定的な鉄骨の編年の妥当性を検証するため、建設年代が分かっている建築の部材を分析した。分析対象は、バングラデシュ・ナラヤンガンジ県のパナムナガール地区の建造物群である。パナムナガールは綿布の輸出を扱う裕福な商人がおよそ1870年から1930年代にかけて多くの邸宅を建設してきた地区であり、49棟が残存する。ここに残る建築物を対象として、平成29年9月に鉄骨部材の形状的特徴と建築物の建築年代を調査した。調査の結果、10棟の建物で鉄骨が用いられていた。その鉄骨の刻印から確認できた製鉄会社は、GLENGARNOCK IRON & STEEL、FRODINGHAM IRON & STEEL、CARGO FLEET IRON Co、DORMAN, LONG & Co Ld、TATA STEEL IRON & STEEL Co Ld の5件であり、これらの会社に関する文献と照合することで年代特定を行い、鉄骨の製造時期が明らかとなった。そして1887年から発刊されたDORMAN LONG社とイギリスの工業規格であるBritish Standard のカタログを用いて、実測した鉄骨断面の寸法とカタログに掲載された鉄骨の型番を照合することで、製造年代の範囲を特定することができた。一方、実建築物に残された銘板からわかる建設年と、鉄骨の製造年代特定の結果が一致しない建物があり、建物の改修時に鉄骨が導入された可能性が示唆された。このことから、鉄骨の状態や建物の図面・文書から、建設の際に構造部材として用いられたと判断できた鉄骨を、建物の年代特定の手がかりとして建物の編年方法の確立を進めていく必要があるという課題も明らかとなった。また、ケーススタディとして、イギリスから一定量の鉄骨が輸入されたと考えられる旧英領インド東部の港湾都市チッタゴン(バングラデシュ)を対象として、英領期バナキュラー建築物の分布を把握した。
著者
住吉 朋彦 堀川 貴司 河野 貴美子 小倉 慈司 陳 捷 金 文京 佐藤 道生 大木 康 高橋 智 山田 尚子 上原 究一 永冨 青地 會谷 佳光
出版者
慶應義塾大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2012-04-01

近世以前の日本における学術の基礎を提供した漢籍(中国の古典)について、宮内庁書陵部の蔵書を実地に調査し、伝存する原本の意義と、日本文化への貢献について考察するための基本情報を整理し、学術的検討を加えた。上記の研究に伴い、23名の研究者による、のべ759日間、626部7232点の原本調査を実施し、172部8705点について書誌データの定位を行う一方、229部9145点、279123齣に及ぶ全文のデジタル影像データを作成した。これらの研究成果を共有するため、最重要文献138部8054点を選び、書誌と全文影像のデータベースを統合する、デジタルアーカイブ「宮内庁書陵部収蔵漢籍集覧」をウェブに公開した。
著者
岩崎 仁 萩原 博光 小泉 博一
出版者
京都工芸繊維大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

平成15年度は、国立科学博物館植物研究部保管の南方熊楠菌類図譜の調査とスキャニングによるデジタルファイル化をおこない、その結果3,800点余となった。同時に図譜記載英文の調査と翻字作業をおこなった。平成16年度はまず、1901年から1911年にかけて描かれた菌類図譜デジタルデータ130点ほどを中心に、図譜記載英文テキストおよび当時の日記テキストを関連づけて組み込んだ公開用画像データベース(試作版)を構築し、龍谷大学オープンリサーチセンター展示「南方熊楠の森」(平成16年6月7日〜8月1日開催)において一般公開した。南方熊楠旧邸保管の写真類、画像関連資料についてもおおむねデジタルファイル化を終了した。さらに、書簡類および日記についても早急なデジタルファイル化の必要性を感じたため平成16年度の後半はこの作業に力を注いだ。特に土宜法竜との往復書簡については新資料が大量に発見されたこともあり、この作業が今後の熊楠研究に寄与するところは大きいと考える。また、図譜記載英文については現在3,200点ほどについてテキストファイル化が終了したが、その後も京都工芸繊維大学工芸学部と国立科学博物館植物研究部の両者で進行しており、その完了は当分先になる見込みである。インターネット上での公開については菌類標本の所有・管理者である国立科学博物館、平成18年4月に開館が予定されている南方熊楠顕彰館を運用する和歌山県田辺市、および研究代表者の三者で環境を整えるための協議をおこない、龍谷大学人間・科学・宗教オープンリサーチセンターホームページにて公開用画像データベースを近々公開することが決まり、現在その準備中である。このように、菌類図譜デジタルデータは、その範囲を全ての菌類図譜へと拡大した画像閲覧データベースの整備がほぼ終了し、今後はテキストファイルと連携した統合型の南方熊楠データベースへと発展させる予定である。
著者
瀬谷 貴之
出版者
神奈川県立金沢文庫
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究は、現在の奈良地方(南都)で古代以来行われた、利益や奇跡をもたらす仏像である霊験仏への信仰が、その模刻などを通して全国各地へ広まりヽ日本彫刻史に大きな影響を与えていることを明らかにした。また特に鎌倉時代初期に活躍したヽ我が国で最も著名な仏師でもある運慶の造像活動が、実はこの南都を中心とした霊験仏信仰とも密接に関わっていることも明らかにした。研究成果の一部は、神奈川県立金沢文庫の展覧会においても広く一般に公開することが出来た。
著者
谷 幸太郎
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2012

公衆を対象とした内部被ばく評価手法及び核燃料再処理施設を対象とした内部被ばく評価手法の高度化を目的として、安定ヨウ素剤服用時及びキレート剤投与時の体内動態解析をそれぞれ実施した。体内に摂取した放射性ヨウ素の甲状腺への取り込みは、安定ヨウ素剤の服用によつて抑制できることが知られている。本研究では、放射性ヨウ素摂取時及び安定ヨウ素剤服用時の体内動態モデルを使用し、日本人を対象とした^<131>Iの急性吸入摂取に対する甲状腺残留率を解析した。安定ヨウ素剤服用時に解析にあたつては、安定ヨウ素を過剰に摂取した場合に一時的に甲状腺ホルモンの合成が阻害されるWolff-Chaikoff効果の影響を新たに考慮した。解析した安定ヨウ素剤服用の有無に対する甲状腺残留率を比較することにより、^<131>Iの甲状腺取り込み抑制効果を評価した。その結果、抑制効果は2日前の服用で約50%、1日前から直前までの服用で80%以上であった。一方、^<131>Iを摂取した後に遅れて安定ヨウ素剤を服用した場合には抑制効果は急激に減少し、12時間後で約20%、1日後で7%未満であった。核燃料再処理施設で取り扱うプルトニウムを体内に摂取した場合には、キレート剤によって尿中への排泄を促進することができる。本研究では、代表的なキレート剤であるDTPAを投与した場合の体内動態モデルを解析し、過去のプルトニウムによる体内汚染事例で測定された個人モニタリングデータとの比較・検証を実施した。また、Ca-DTPAによる治療を実施した場合の骨格及び肝臓へのプルトニウムの沈着抑制効果を評価した。その結果、硝酸プルトニウムの吸入摂取後の抑制効果は、10-50日までの治療によつて約25-30%、300日までの治療は約60%であった。
著者
今井 哲司
出版者
星薬科大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

がん疼痛成分の多くを占める神経障害性疼痛については、非ステロイド性抗炎症薬のみならず、モルヒネなどの麻薬性鎮痛薬も効きにくい場合が多く、その治療に難渋することが臨床上非常に深刻な問題となっている。これまでに研究代表者らは、慢性炎症性疼痛動物モデルにおいて麻酔下でfunctional MRI(fMRI)法に従い画像解析を行い、脳内疼痛関連部位の活性化が引き起こされることを明らかにしている。そこで本研究では、fMRIを用いて、脳内の神経活動の変化を指標に"痛みを可視化"し、それらの手法を基軸として薬効スクリーニングを行った。まず、我々は坐骨神経結紮による神経障害性癖痛における脳内疼痛関連領域の神経活性化について、fMRIのblood oxygenation level dependent (BOLD)シグナルを指標に評価を行った。その結果、神経障害性疼痛下では、疼痛シグナルの脳内中継核である視床や痛みの認知などに重要である前帯状回(CG)および一次体性感覚野(S1)領域での著明な神経活動の亢進が認められた。このような条件下、抗てんかん薬および帯状疱疹後神経痛治療薬であるガバペンチンあるいは抗てんかん薬、躁うつ病治療薬および三叉神経痛治療薬として使用されるカルバマゼピンについて、fMRI法に準じ、同様の検討を行った。その結果、神経障害性痔痛を有意に抑制する用量の両薬物を前処置した群においては、坐骨神経結紮による神経障害性疼痛における脳内疼痛関連領域の神経活性化は完全に抑制された。以上本研究より、fMRI法を用いて、神経障害性疼痛の発症ならびにその維持に関連する脳部位を特定し"痛みを可視化"することに成功した。また、神経障害性疼痛の治療において、ガバペンチンおよびカルバマゼピンが有効な薬物であることが明らかとなった。本研究のように、"痛みの可視化"を基軸とした薬効スクリーニングは、疼痛治療における優れた薬物選択アルゴリズムを確立するうえで有用であると考えられる。
著者
飯高 哲也 中井 敏晴 定藤 規弘 二橋 尚志
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

社会的コミュニケ-ション機能の低下などを含む自閉性傾向は、健常者と疾患の間で連続性があることが知られている。このようなこころの働きの脳機能および脳形態的基盤を研究することは、自閉性障害の理解に貢献するものである。このために機能的磁気共鳴画像(fMRI)と拡散テンソル画像(DTI)を30名の被験者で行い、同時に自閉性尺度であるAutism-Spectrum Quotient(AQ)も施行した。顔認知に特異的な扁桃体と上側頭回の領域をfMRIで同定し、それらの領域を結ぶ神経線維をDTIで描出した。この神経線維の体積は被験者のAQ得点と有意な正の相関(Spearman rank order correlation,ρ=0. 38, p<0. 05)があった。この結果は健常者の中でも自閉性傾向の強い者は、顔認知に関わる脳領域間の結合性が高まっている可能性を示唆している。
著者
友安 洋子
出版者
昭和大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

本研究の目的は、成長ホルモン受容体遺伝子のSNPsとアクチバトールの治療効果に関連がある否かを検討するために、成長ホルモン受容体遺伝子のSNPsの解析を行うことである。本研究では、顎整形機能的矯正装置の効果と成長ホルモン受容体遺伝子のSNPsとの関連について統計学的な関連は見出されなかった。
著者
西井 準治
出版者
北海道大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2013-04-01

大気圧コロナ放電によるリン酸塩ガラス中へのプロトンの導入に挑戦した。耐候性に優れたNa2O-Nb2O5-P2O5系ガラスを溶融法によって作製し、0.5mm厚に研磨した後に、400℃の水素雰囲気中でコロナ放電処理を行った。約50時間の処理を継続したところ、0.5mm厚全域が変質することを見出した。しかしながら、初期含有量の50%のNa+がガラス中に残留した。原因はNb5+の一部がNb4+に還元され、電子伝導が優先したためである。よって、還元されにくい元素で構成される組成の開発が必要であることが分かった。
著者
小寺 悦子 武田 義明 青木 務
出版者
神戸大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1993

研究の目的を,1.年齢計数可能な樹種の範囲の拡大 2.立木の年齢計数の実施に設定し,その基礎としての木材(樹木)の弾性的性質(音速,減衰定数など)の測定,年齢計数の実行を目標とした。1)青木は,各種木材の打音の周波数,時間特性測定と官能評価の相関性および材質評価との関連性を調べ,木材の吸湿度,表面加工(ラッカー塗装)が周波数分布,減衰特性に影響すること,樹種による違いを明らかにした。2)武田は,西宮市の標高300m付近における森林の生態解析の際,95〜130年の6本のアカマツの年齢計測を従来の方法で行い,成長特性を(年輪半径)^2で表現できることを示した。3)小寺は,ベイマツ材からの超音波パルスエコーの波形解析を行い,ノイズ部分が1MHz成分を多く含むのに対し,木を伝播した後受信される反射波の周波数分布では,1MHzよりずっと低い位置にピークを持つことを明らかにし,より内部の年輪からの反射波をノイズから分離して計測できるようにした。しかし,ベイマツ材の場合では1年輪からの反射ごとに超音波の音圧は約1/3に減衰するので,13年輪を透過した超音波は(1/3)^<13>(124dB)に減衰し,市販の超音波探傷器の最大増幅度程度となる。超音波探傷器のパルスエコー検出限界の改善を行ったとしても,百年輪の検出には不十分であると予想されるが,1MHz程度の超音波の減衰定数の文献値には大きなばらつきがあるので今後は更に樹種の検討を必要とする。また,研究の方向の変更も考え,1本の木について各所で年輪を検出し,そのデータの総合の結果として樹齢を求めること,これまでの超音波による年齢計測で得られた蓄積を利用して木材(樹木)の物性研究に利用する方向を積極的に模索することを予定している。
著者
小川 朝生 内富 庸介
出版者
国立研究開発法人国立がん研究センター
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

抑うつ状態はがん患者の30%と高頻度に認められる精神症状である。抑うつ状態は、精神症状自体ががん患者の療養生活の質(Quality of Life: QOL)を下げるのみならず、全身状態の悪化を通して生命予後にも影響する。その対応が要請されているが、その原因を含めて検討が十分になされていなかった。そこで我々は、包括的アセスメントをベースに臨床背景因子、生活習慣、精神症状、血液、癌組織を含めて、抑うつの背景因子を探索的に検討を進めた。リクルートの後、解析に進み、他のデータベースと統合して関連遺伝子のリストアップを検討した。
著者
山本 真也
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

今年度は採用初年度であり、チンパンジーを対象に互恵性・利他性および他者理解にかんする実験研究をおこなうとともに、論文執筆作業をおこなった。実験は、月曜から金曜の週5日、午前・午後の2コマに、チンパンジー8個体を対象としておこなった。これまでにない新たな試みとして、視線検出装置(Tobii)を用いてチンパンジーの視線運動を計測した。この最新機器を利用して、他者理解の中心命題となっている「心の理論」の研究に取り組んでいる。自分とは違う心的状態を他者がもっていることを理解するかどうかをテストする「誤信念課題」において、近年、言語教示を使わない課題が開発された。視線検出装置を用いることにより、この課題をチンパンジーでも応用できると考えられる。まず第一段階として,チンパンジーが他者の行動を予測するかどうかを検討した。その結果、目の前を動く人にかんしては途中障害物に隠れても進む先を予期的に見ることがあったが、衝立に隠れた手が2つの穴のどちらから出てくるかといったことにかんしては予期的な視線運動がみられなかった。目の前の存在している事物への対処はヒトと同様であるが、見えないものへの反応にはヒトと違いがみられると考えられる。今後、この仮説の検証をより詳細に詰めていくとともに、チンパンジー初の「誤信念課題」を成功させたい。また、放飼場での観察も適宜おこなっている。チンパンジーにおける集団での協力行動を観察研究の対象としている。これまで、視線検出実験をはじめとする1個体実験、実験室での個体間交渉を調べた2個体実験を中心におこなってきたが、今後は集団全体を対象とした実験にも取り組みたい。個体・個体間・集団というさまざまなレベルでの社会行動を調べることにより、より包括的にチンパンジー社会への理解を深めたい。
著者
内藤 晶 西村 勝之 川村 出
出版者
横浜国立大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

カルシトニンはアルツハイマー病に見られるアミロイド繊維を形成するアミロイド形成タンパク質と認識されている。このカルシトニンの線維形成現象を解明するため、固体高分解能NMRの手法を用いて線維形成と反応速度、線維の二次構造決定を行い、線維形成の分子機構を明らかにする研究を行った。さらに、細胞内の条件に近づけるため、脂質二分子膜の存在下で起こる線維形成の分子機構を明らかにする研究を行った。ヒトカルシトニンに関して、繊維成長の経時変化からこの線維形成は線維核形成と線維伸長の2段階自己触媒反応機構により形成することが判明した。この線維形成機構で生じる中間体は球状の形状をもち、線維に転移することが電子顕微鏡により観測された。ヒトカルシトニンのF16L, F19L変異体については繊維伸長速度が遅くなったので、芳香族アミノ酸であるPhe-16, Phe-19が線維成長に重要な役割をしていることが判明した。アミロイド線維形成阻害物質について検討したところ、電荷をもつアミノ酸は繊維核形成阻害効果のあることが判明した。またポリフェノールのクノクミンを加えると繊維がまったく形成されなかったので、大きな阻害効果のあることが判明した。グルカゴンについては脂質二分子膜の存在下で線維形成を行ったところ、水溶液中で形成する線維はN-端側とC-端側がβ-sheet構造を形成するのに対し、脂質二分子膜存在下ではN-端はα-helixを形成したままであることが分かった。また、脂質二分子膜存在下では水溶液中に比べて核形成速度は速くなり、線維成長速度は遅くなることが分かった。グルカゴンは脂質膜に結合して濃縮されるので、線維核形成は速くなると考察できる。
著者
鈴木 俊幸
出版者
中央大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

本研究は、近世から近代初頭にかけての時代、信濃地域に対象を絞り、書籍・摺物に関わる一連の文化的事象の証跡を網羅的に収集し、当時における文化状況を立体的に復元することを目的とした。すなわち、信濃において製作・発行された書籍・摺物、また信濃人蔵版書の網羅的な調査に基づき、藩版・町版・寺院版を含め信濃における出版活動、書籍流通、享受の全貌、またそれらの連関について明らかにしようとしたものである。そのための基礎作業として、まず、明治20年を下限に、信濃において製作・発行された出版物の調査を行った。さらに、貸本屋や小売専業の本屋は、地域における書籍文化の環境のきわめて重要な要素であると考え、仕入印・貸本印、また、明治初頭の書籍に付された売弘書肆一覧記事から信濃地域の書商の記事を抽出し、信濃地域における書商とその営業内容のリストを作成した。これらは、これまでまともに研究されてこなかった書籍流通の実態をも浮き彫りにしうる基礎データである。次に、信濃地域における彫工、活版印刷業者等業者を洗い出した。摺物所や製本業者も調査対象に加えた。これらはいずれも地域における印刷・出版の前提となる要素である。また、藩・代官、寺社、個人篤志による出版書、また施印本も地域の書籍文化を考える上で逸することができないものであり、これについてのデータ収集も行った。寺社境内図等の名所絵図類は、一枚摺の片々たるもので、見落とされがちな分野であるあるが、地方における出版文化の雄である。これらについては特に意を用いてデータ収集を行った。上記の作業に、寺院・旧家の蔵書等書籍享受に関る資料調査も平行して行い、それらを総合して信濃における書籍文化の具体相について考察してきた。また、書籍を研究対象とする研究者間の情報疎通促進をはかる目的で『書籍文化史』という雑誌を年一回のペースで第一集から第四集まで発行した。
著者
柳下 和夫 若林 宏明
出版者
金沢工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1995

本研究は海に近い砂漠に雨を降らせようというものである。その方法は砂漠に近い海の表面に黒色物質を浮かべる。これが太陽光を全部吸収し海面の温度が上昇する。すると海水の蒸発が増える。一方砂漠にも黒色物質を撒いておくと太陽光が全部吸収される。すると地面の温度が上昇し空気は膨張し軽くなる。そして上昇気流となる.その下は低気圧になる。そこへ海上の水蒸気が流れ込んでくる。すると上昇気流に引きずられて上昇する。そして上空で断熱膨張し、温度が下がり雲ができて雨が降るというのである。海に浮かべる物質としてどんなものが良いかいくつかの材料をテストした。水道水と塩水で差はあるが黒色物質を浮かべると最高41%も蒸発が加速されることが分かった。一方砂漠の上にも黒色物質を撒くとどれくらい太陽光熱が吸収されるかを調べるために、世界各国の砂漠の砂を入手し光の反射率を測定した。その結果砂の色にもよるが1/3ないし2/3の反射率であった。これを黒く塗れば吸収されるエネルギーは1.5倍ないし3倍増え、その分だけ余計に空気を暖めることができる。また一度砂漠緑化に成功すれば、植物からの蒸発水分により、自然の雨が降って緑化が持続するかどうかを,好塩性植物によるシミュレーションしたところ雨量が増えることが分かった。上昇気流を起こすものとして,大火や雨乞いがあるが、その後雨が降ったかは定かではない。この方法で砂漠に雨を降らせば良いこと尽くめかというと、マイナス面もある。そこでテクノロジーアセスメントを行ない、問題点を抽出した。海の生態系に対する配慮が必要なことなどが分かった。海と砂漠の距離がどれくらい離れていても水蒸気が移動するかについては,実験に失敗し分からなかった。
著者
谷川原 祐介 西 弘二 西牟田 章戸
出版者
慶應義塾大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

抗がん剤の効果にみられる個人差はがん治療における大きな課題のひとつである。本研究は、タンパク質を介する応答を分析するプロテオーム解析と細胞内代謝を介する応答を分析するメタボローム解析という最新手法を用いて、癌に対する化学療法薬の作用機序と耐性メカニズムの解明を目的とした。薬理作用と耐性に関与する細胞内応答解析によって、抗がん剤反応性の個人差(有効または無効)を予測しうるバイオマーカー分子を複数見出し、個別化投薬へ展開するための基礎的知見を得た。
著者
水野 知昭
出版者
信州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

エッダ詩の代表作品「巫女の予言」について、生と死および運命を司る,月の古代思想を探った。古ノルド語veroldや古英語woroldその他のゲルマン諸語の同系語は、みなそれぞれ「人間」(古ノルド語verr)と「時代、生涯、世代」(old)から成る複合語であり、単に空間概念としての「世界」(英語world、ドイツ語Welt)を意味するばかりか、「人がある時代を生き、老いて死にゆきながらも次々と世代が生まれ代る領域」をさし、時間概念をも包括していた。生と死、創造と破壊、没落と再生のテーマが脈打っている本詩の根底には、古ゲルマン的な運命観と月の信仰が潜んでいる。別稿にて、同作品が円環詩法の原理に基づき、対応する表現要素が幾つもの同心円を描きつつ、中核の主題を取り巻く構成になっていることを実証した。「異人来訪」という根本テーマがその円環を貫通し、直線的な連鎖となって語りの進展を支配している。印欧神話の三機能体系に対応する「三つの罪を犯す戦士」というG.デュメジルの図式を適用すれば、イェーアト王国(5-6世紀)の戦士ベーオウルフも三つの罪を犯していることが分かるが(水野1999)、王権・戦士・平和(または愛)に係わる三つの罪は、実はこの勇者が討ち果たした三種の水界の怪物たちの所作と特性のなかに反映されていた。また「異人的な勇者」に武器を供与し、殺害を教唆する「賢者たち」の群像に探りを入れた。後者は例えば、王の顧問官ウンフェルス、または最高神オージンの「友」ロキ等であり、王権ないしは神権を維持するための知恵と予言ひいては謀略をも司っている。そしてギリシア・北欧・日本の神話に共通する、「川を渡る神々と勇者たち」の特性を究明した。川の徒渉は一種の「異人の禊ぎ」であり、その後に「求愛」の行動が続くが、その愛の成就を阻む宿敵は必ず血祭り(犠牲または追放)にあげられている。また、ノアの洪水説話を皮切りに、ギリシア・北欧・日本の神話において、洪水の終わりに出現する鴉(烏)の関連モチーフを追究し、うつぼ舟漂流譚と「異人来訪」のテーマを抉出した。