著者
寺崎 秀一郎
出版者
早稲田大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2003

2003年度、2004年度にホンジュラス共和国コパン県に位置するロス・イゴス遣跡、エル・アブラ遺跡、エル・プエンテ遺跡の3遺跡において発掘調査をおこなった。本研究における発掘調査の目的は、古典期(AD250〜AD900)に南東マヤ地域最大のセンターであるコパン遺跡の周縁部において、地方センターがどのようなプロセスを経て形成されていくのかを明らかにすることである。上記3遺跡は、コパン遺跡北東約60kmに位置するラ・エントラーダ地域に分布する8箇所の地方センターの一部であるが、発掘調査の結果、少なくともフロリダ谷に位置するエル・アブラ遺跡とエル・プエンテ遺跡の起源はほぼ同時期と考えられる資料を得た。一方、ロス・イゴス遺跡は斜面を利用して構築されていることから層位学的に良好なサンプルを得ることができなかったが、二次堆積層から原古典期の年代を示す放射性炭素年代測定結果が得られている。本年度は、現地において、出土土器資料の予備分類を現地スタッフを中心に進めた。予備分類については、メソアメリカ地域の考古学研究で広く採用されているタイプ・ヴァラエティ・システムに準じておこなうが、適宜、周辺地域では唯一土器編年が整備されているレネ・ヴィエルによるコパン編年を参考にしている。また、図面も現地スタッフの協力の下、データ化を進行中である。これらの成果の一部は、2005年12月に開催された古代アメリカ学会第10回研究大会において報告した。本研究では、地方センターの起源に重点を置いた発掘方法を採用したが、より詳細な都市形成過程の解明には建造物のシークエンス研究が必要不可欠であり、そのための集中的な調査が望まれる。本年度はこうした視点も含め、ホンジュラス国立人類学歴史学研究所所長リカルド・アグルシア氏と本研究が対象とするラ・エントラーダ地域での今後の考古学調査研究の展開についても協議をおこなった。
著者
河崎 善一郎 牛尾 知雄 森本 健志 高木 伸之 王 道洪 中島 映至 林 修吾 ARTHUR Jim MAY Peter CHRISTIAN Hugh WILLIAMS Earle HOELLER Hartmut
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2006

本研究では、オーストラリア・ダーウィン地域において、雷嵐観測網を構築し観測を実施した。稠密と広域観測装置を併用した観測網を展開し、豪気象局とも連携して、雷放電開始位置とその領域に存在する降水粒子の分布が時々刻々得られ、正負両極性の電荷が蓄積される領域の境界付近に放電開始点が多く分布し、更に稠密観測からその放電路が境界を沿うように進展し、やがて落雷に至る様子が再現された。中和電荷量推定も行い、積乱雲が世界で他に例を見ないほど高くまで成長する巨大積乱雲ヘクターにおいて、ヘクターの成長と共に中和される電荷の位置も上昇する現象が確認された。
著者
菅 磨志保
出版者
大阪大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

「共助」の中身は、支援者-受援者が取り結ぶ関係も含めて、単純に分解できるものではなく、現場の活動実践で重視されている価値観を尊重しながら、そこから汲みだされた概念をうまく活動実践に組み込んでいくことで、無理のない自然な関係に基づく支援関係が形成されることが分かった。また、将来志向の社会学的研究の方法論の提案として、活動実績データの分析という手法の標準化を試み、次のように整理した。(1)災害社会学の時間軸と社会的単位の枠組の設定、(2)個人のレベルと事業のレベルに分けて活動実績を整理、(3)それぞれのアウトプットと相互の関係性を分析する。
著者
石井 秀明
出版者
東京工業大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

本研究では,サーチエンジンにおける検索結果を的確にランク付けするページランク(PageRank)アルゴリズムに着目し,より効率的な計算手法の確立を目指した.とくにマルチエージェント系の協調制御の観点から,分散型確率アルゴリズムを構築した.エージェント間の通信制約を考慮した場合やグラフの集約化に基づく場合等,アルゴリズムの高速化・ロバスト化を図った.他方,一般的な有効グラフ上の平均合意問題に対しても成果を得た.
著者
渡辺 栄 合田 邦雄 谷 勝英 八木 正 大川 健嗣 羽田 新
出版者
明治学院大学
雑誌
総合研究(A)
巻号頁・発行日
1989

最近のわが国における出稼ぎ労働の動向にみられる特徴の1つは、供給地が次第に特定の地域に集約されつつあるということであり、そしてこれらの地域は、その多くが“辺地"としての性格を強く有しているということである。これらの地域では、その地域経済の虚弱性の故に出稼ぎ以外に生業の方法が稀少なところから、出稼ぎ労働の主要な供給地となりながら、自らの辺地性は依然として脱却しえないでいるのが現状である。わが国における出稼ぎ労働問題がこうした地域に集約化されてきている以上、地域の辺地性と出稼ぎとの関係を究明することは極めて重要な課題であるといえよう。そこでわれわれは、北海道と沖縄とを対象にして、この問題に対する実証的な研究を試みたのである。北海道では、恵山町御崎地区および椴法華村銚子地区を対象に調査票による面接調査を実施し、沖縄では、沖縄本島および宮古島を中心に関係機関や出稼ぎ労働者に対し面接聴取調査を実施した。北海道における出稼ぎ多発地は日本海側と渡島半島に集中しているが、いずれも漁業を生業とする町村が多い。対家地も同様であるが、地形的に平坦地が多くないため、零細な漁家においては漁閑期を出稼ぎに頼らざるをえない。うにとこんぶの採取期を除いて出稼ぎというかたちが多く、又、出稼ぎの専業化も進行している。沖縄の場合、全体的に地場産業の育成が十分に図れていないため、出稼ぎは必要不可欠のものとなっており、最近では実数も増加している。沖縄からの出稼ぎは若年層が多く、目的意識をいだいて出る者が多いといわれるものの、本土に定着することは少ない。その主な要因としては、本土との賃金格差と風土のちがいを指摘することができよう。
著者
柴川 敏之
出版者
福山市立女子短期大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2002

広島県立博物館での研究成果の記録とまとめ本研究は、広島県立歴史博物館所蔵の草戸千軒町遺跡の出土品と現代美術の柴川作品とのコラボレーションにより、美術の分野と歴史の分野をつなげ、領域を超えた新しい視点で現代社会を検証した。また、子どもから大人までを対象とした大規模なワークショップや、企画展示室と常設展示室を連動させるワークシートの作成等による参加体験型の展覧会を行った。平成15年の夏に展覧会を実施し、多くの学校等の参加と市民のボランティアの協力により、地域に密着した新しいタイプの展覧会となり、全国的にも話題を呼んだ。本年度はその内容と研究成果について記録集にまとめた。今後の美術館、博物館教育の新しい取り組みの参考資料として役立ててもらうため、各地の美術館、博物館等に記録集の寄贈を予定している。「2000年後の冒険ミュージアム」記録集 柴川敏之編著(A5サイズ、272頁、フルカラー 平成17年3月31日発行)内容(目次)は、テキスト(柴川敏之、広島県立歴史博物館草戸千軒町遺跡研究所所長 篠原芳秀氏、大原美術館プログラムコーディネーター 柳沢秀行氏)、展覧会の配置図及び関連アイテム、図版(展覧会の会場風景)、草戸千軒町遺跡に関する資料、柴川敏之に関する資料、ワークシート、ワークショップ、ボランティアスタッフ、2つの関連企画、展覧会データ(入館者数データ、アンケート集計結果等)、みなさんの言葉(館長、子ども、保護者、先生、ボランティアスタッフ、大学関係者、歴史関係者、美術関係者、マスコミ関係者等の様々な立場の方々から寄せられた文集)等。
著者
日野原 啓子
出版者
千葉大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1998

本年度は、昨年度に行った学会発表にて得られた示唆をもとにデータ収集方法及び概念の修正を行いながら、継続して縦断的・前向きなデータ収集を積み重ねた。しかしながら、自然死産・早期新生児死亡後の次子妊娠出産までの追跡には至らず、今後も継続してデータ収集を行う必要性が示唆された。自然死産・早期新生児死亡を経験した母親は、児の喪失後きわめて早期に次子の妊娠出産を痛切に願う時期が共通してみられていた。しかし、1〜3か月が経過すると次子妊娠出産への希望は一度小さくなる傾向があった。その後、その母親なりに亡くなった児の存在や、亡くした体験を成長へのステップとして意味づけ、亡くなった児との時間を過ごすことに満足ができると、改めて次子の妊娠を現実的に考えるに至っていた。そのような考えの変化が起こる時期として、亡くなった児の出産予定日が過ぎた頃、100か日を終えた頃、お盆を過ぎた頃などがあった。児の喪失直後の次子妊娠出産への希望は、亡くした子どもの代償として、あるいはとにかく子どもが欲しいと、次子を望む傾向が見られていた。しかし、数か月が経過してからの次子妊娠出産への希望は、喪失直後と異なり、自分や夫、(亡くなった児以外の生存している)他の子どもにとって、次子の誕生がどのような意味を持つのか、ライフサイクルの中でいう次子を持つことが家族全員とってよいのかを考慮した上で、「いつ頃次の子どもが欲しい」と考えるように変化していた。また、このような現実的な希望を抱くようになると、母親は自分の健康を維持するようなセルフケア行動をより積極的にとるような変化も見られた。基礎体温を測定する、体重コントロールを心がけるなど、できる限り次子の妊娠をよりよい健康状態で迎えることができるような行動であった。
著者
森 一代
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

平成22年度は、タイ在住のラオス人労働者と村落社会を結ぶ多様な互助実践について参与観察をおこなった。2002年以降、タイと国境を接するラオスの調査村では、タイの携帯電波を受信できるようになり、出稼ぎ労働者と家族らの国内通話が可能になった。これによって、送金といった経済活動に留まらない、電化製品や衣料品などの取り置き、仕事の紹介、タイを訪問時の宿泊提供に関する事前の打ち合わせなどが可能になった。またパクター郡の調査村では、内戦期を北タイのフエイルックで過ごした住民が多く、現在も緊密な交流が見られる。とくにフエイルック寺では調査村から見習僧を継続的に受け入れており、調査村での祭祀には必ず僧侶を派遣していることが、聞き取り調査から明らかになった。このように、タイに居住する村出身者が、自らの生活圏にあるものを活かすことで、送金に見られるような直接的な経済活動とは異なった範疇で、村落社会をタイに取り込ませていく外延化の様態が見られた。しかしながら、互助関係はさらに外延に拡大する渦中にあることが明らかになった。フエサイ郡での二度目の生業調査では、養豚の出荷先がラオス人から、県北の中国人コミュニティに代替され、豚の種類も、タイから入荷していたランドレース種から、安価かつ飼育が容易な在来種の黒豚に変更されていた。この変化に対し、住民らは現金一括払いによる大量の子豚を購入を、互助実践のひとつとして肯定的に捉えていた。中国経済の浸透による村落社会の変容は、ラオスの農村研究において、土地利用や経済的側面からの分析が中心である。規範の面から中国人の経済活動を評価する本事例は、新たな示唆に富み、今後の検討の余地を大いに残すものである。
著者
那谷 雅之 井上 裕匡
出版者
三重大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

高温多湿環境下ラットの心筋及び脳幹における遺伝子発現量を定量した。心筋では直腸温上昇と共にHSP70 発現量は増加する一方で、42℃-44℃上昇間に Bcl-2/Bax は減少、β-MHC は増加した。脳幹では、直腸温上昇に伴いHSP70 は増加する一方で、iNOSは低下した。Bcl-2/Bax は37℃から42℃までは明らかな変化を示さなかったが、42℃-44℃間では有意に低下した。過度の体温上昇は心臓・脳幹の形態学的・機能的障害を引き起こす可能性を示唆していると考えられた。
著者
桑澤 保夫
出版者
東京大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1997

近年、地球環境に対する関心の高まりから省エネルギーの叫ばれることが多くなってきた一方で、高齢化社会を迎えるにあたって快適・健康的な環境に対する要求も大きなものがある。そのような状況を念頭に置いて、これまでにも変動風の影響について検討を行ってきたが、被験者を用いる実験である温熱環境に対して心理・生理的な応答を得るためには比較的時間のかかることや、装置や実験室の都合上同時に1人のみに対する実験しかできないといった状況から、これまでに蓄積されたデータでは解析上必要とされる数にはおよんでいなかった。そこで、今年度は風向は前方からの場合のみに絞りデータ数の充実を当面の目標として研究を行った。実験は、椅座位の被験者に前方より0.4〜1.0m/s程度の定常風、また周波数特性や振幅を変化させた変動風を暴露し、そのときの環境条件として気温、風速など、生理量として皮膚温、心理量として温冷感、快適感をそれぞれ測定した。いずれも皮膚温の経時変化をリアルタイムでモニタして、ほぼ定常となったことが確認されるまでで最低でも15分間以上暴露した。被験者は20歳前後の健康な男性9名を用いた。解析では既往の実験結果も併せて用いてより信頼性の高い値を求めることとした。その結果、測定された環境条件と皮膚温をもとに、風速と平均対流熱伝達率の関係式を求めた。次に、ある条件における平均皮膚温と、そのときの温冷感申告値が「どちらでもない」よりも暑い側、もしくはさらに快適感申告値が「どちらでもない」よりも不快側となる比率の関係は、probit modelで仮定できるとして、モデル中の平均値および標準偏差に相当する数値を、実験結果をもとに同定した。
著者
梅村 孝司 朴 天鎬 喜田 宏
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

鞘内免疫(脳脊髄液に抗原を接種し、脳脊髄液に特異抗体を誘導する免疫法)によって脳脊髄液に誘導された特異抗体は脳で産生されていること、鞘内免疫は狂犬病およびオーエスキー病に対し完全なワクチン効果を発揮すること、鞘内免疫は狂犬病の治療にも応用可能であることを示した。また、インフルエンザ脳症の原因はIFV感染が引き金となって起こった高サイトカイン血症/IFV感染と菌体内毒素血症の重複である可能性を示した。
著者
高塚 尚和 松木 孝澄 飯田 礼子 伊保 澄子
出版者
島根大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

本研究補助金(平成17年度〜平成19年度)での研究成果は以下の通りである。1. 熱中症モデルマウスの作製とその病態解析まずマウスを用いて熱中症モデルを作製することができた。より高い環境下にマウスを暴露させると、マウスは熱中症を短時間で発症し、極めて短時間で死亡した。その際、TNF-α、IL-1β、MIP-2などのサイトカイン及びケモカインmRNAの発現は、より短時間で発現する傾向があったが、その発現の程度は、必ずしも温度とは相関しなかった。熱中症の死亡原因としては、高サイトカイン血症がその一つとして考えられているが、高温環境下においては、体温調節中枢の非可逆的変化及び高度の脱水等がより重要な役割を演じていると考えられた。なお、この研究結果については、現在投稿準中である。2. 短いDNA断片が、炎症性サイトカインを誘導するメカニズムの解析熱中症の重症化し、敗血症が引き起こされる過程において、細菌菌体そのものにより炎症が惹起されるのみではなく、細菌等が崩壊して形成された短鎖DNAによっても炎症が誘導され、その過程において重要な役割を演じているIFN-αの発現やスカベンジャーレセプターの機能をブロックすれば、熱中症の重症化を軽減できるのではと考えられた。3. 急性重症膵炎を合併した熱射病症例の臨床病理学的研究熱射病では、急性膵炎を合併することは一般的ではないが、炎天下での激しいスポーツを行うことは、熱射病を発症しやすくなるばかりではなく、腹部臓器への循環障害が引き起こされ、急性膵炎等の重篤な疾患が惹起される危険性が示唆された。この結果から、炎天下において激しいスポーツを行う際には、急速や水分補給を十分に行い、体調の変化に十分気をつける必要があると考えられた。
著者
芹澤 知広
出版者
奈良大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1998

本年度は前年度に引き続き、大阪、名古屋、東京、福岡においてアジアの大衆文化の普及状況についての実地調査を行い、文化人類学・社会学・カルチュラルスタディーズの分野を中心に文献を調査し研究動向・展望を俯瞰することを行った。またその間、日本においては、5月の日本民族学会第33回研究大会における分科会「文化を売る/売ることの文化:ポピュラーカルチャーの人類学」を組織し、香港においては、12月の香港大学日本研究学科主催・国際交流基金後援のワークショップ「Japan in Hong Kong/Hong Kong in Japan:Systems of production、Circulation、and Consumption of Culture」に参加して、とくに「同人誌」の問題を扱った研究報告を口頭で行った。本年度も香港芸能専門店など、大衆文化の生産・流通・消費の結節点となる場所や商品、集団に注目して調査研究を行ったが、「同人誌」(「ミニコミ誌」ともいう)はそのなかでも興味深い研究対象である。それは、「おたく」や「コミケ」ということばで紹介される1980年代以降の消費社会の成熟と市場の多様化、消費者の生産・流通への積極的な関与にかかわる現代的な事象である。しかしながら、日本の「同人誌」ブームの歴史は1950年代の市民運動に遡ることができ、「アジア」ブームについては「反米帝国主義」としてのベトナム戦争反対など1960年代から70年代にかけての「アジアの民衆」の発見と自由旅行ブームなどとも関係がある。「香港」がいわば歴史的な場所となった今日の状況も踏まえ、「アジア文化」、「中国語圏」、「香港」などが歴史的にどのように日本人に受容されてきたのかということについて実証的なデータを積み重ねることで、今後もこの研究を深めていくことを考えている。
著者
高木 博志
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

明治維新と京都文化の変容というテーマのもと、以下の諸点を明らかにした。(1)賀茂別雷神社所蔵の「日次記」(17世紀から20世紀まで)をはじめとする文書の分析を通じて、賀茂祭が、前近代の「宮中の儀-路頭の儀-社頭の儀」といった流れの「朝廷の祭」から、東京の皇居とは切れた「神社の祭」へと変容する過程を研究した。(2)近世の東山や嵐山、あるいは公家町の桜の名所が、由緒や物語とともにあったのが、近代のソメイヨシノの普及により、ナショナリズムと結びつけられて考えられ、また新たな名所が形成された。(3)近世の天皇のまわりには、陰陽師・猿回し・千寿万歳などの賤視された芸能者や宗教者の存在が、不可欠であった。そのことを正月の年中行事の言祝ぎや、天皇代替わり儀式の陰陽師の奉仕などから検証した。近代になってそうした雑種賤民は東京の皇居から排除され、天皇には近代の聖性が獲得される。またそれに照応して、京都御所、伊勢神宮・橿原神宮・賀茂社から全国の神社に至る神苑などの清浄な空間が連鎖して生みだされる。(4)古都京都と奈良の文化財保護政策の展開や、国風文化・天平文化といった「日本美術史」の成立について深めた。(5)近世の九門内の内裏空間は、人々の出入りが自由な開かれた場であり、公卿門(宜秋門)前は観光スポットであり、また京都御所の中にも、節分やお盆や即位式の時に、庶民が入り、年中行事をともに楽しむことがあった。今回、翻刻した『京都御所取調書』上下(明函193号)は、その研究の過程で出会った史料であり、近世の京都御所の場の使われ方・ありようをリアルに伝える。
著者
野間 晴雄 野中 健一 宮川 修一 岡本 耕平 堀越 昌子 舟橋 和夫 池口 明子 加藤 久美子 加納 寛 星川 和俊 西村 雄一郎 鰺坂 哲朗 竹中 千里 小野 映介 SIVILAY Sendeaune 榊原 加恵 SOULIDETH DR.MR. Khamamany BOURIDAM MS. Somkhith ONSY Salika CHAIJAROEN Sumalee 岡田 良平 的場 貴之 柴田 恵介 瀬古 万木 足達 慶尚 YANATAN Isara 板橋 紀人 渡辺 一生
出版者
関西大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2006

東南アジア大陸部に位置する天水田農業を主体とした不安定な自然環境における平原地帯(東北タイドンデーン村とラオスのヴィエンチャン平野ドンクワーイ村)における多品種の稲や植物,魚介類や昆虫など様々な動植物資源の栽培・採集・販売などの複合的な資源利用の実態とその変化の態様を地域の学際的・総合的共同調査で明らかにした。両村ともグローバル市場経済の影響が認められるが,ドンデーン村ではかつて存在した複合的な資源利用が平地林の消滅や都市近郊村落化によって失われており,ドンクワーイ村はグローバル化や森林伐採で変容を遂げつつあるが,インフラの未整備によって伝統は保持されている。
著者
塩月 義隆
出版者
東和大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1994

昨年度行ったヒアリング調査結果に基づいてアンケート項目を整理・検討し、福岡市立全小学校のクラス担任教諭に対して、夏季の教室環境に関するアンケート調査を実施した(144校を対象として9月中旬に実施する、配布数2,648票、回収数1,569票)。また、用途地域、建設年度、教室の方位、空調の有無等を考慮して6校の小学校を対象として、夏季の教室環境に関しての実測調査を行った。教室内に形成される夏季の温熱環境を要約すれば以下のようである。1)夏の授業中の教室では日射の有無にかかわらず教室全体は暑いが、日射遮蔽と通風によって窓際の厚さはかなり改善される。しかし、雨や強風によって窓が開放できないという問題がある。2)窓からの直射の有無によって、窓側と廊下側では明るさに大きな差を感じている。実測の結果、教室の昼光率分布は大きく、窓際では8%程度であるが、廊下側では1%以下の場所もある。3)カ-テンは日射を防ぐ意味で必要ではあるが、教室の風通しや明るさの点で問題が生じている。4)結露は冬季だけでなく、夏季にも生じており、衛生面だけでなく歩行するのにも危険である。5)通風を得るために窓を開放しているので、教室内の気温分布は小さいが、グローブ温度は窓際の方が廊下側より3℃ほど高い。室内湿度は、外気とほとんど変わらない。6)北東向きの教室は午前中に直射が侵入するため、南向き教室より温熱環境は不利である。7)開口部が大きいので通風は良好であるが、窓の方位や開閉状況によって、室内気流分布が生じる。8)パッシブを基本とする学校建築では、通風・換気を促進し日射熱を排除することが、良好な熱環境を得るために必要であり、窓の方位や大きさが重要な因子となることを明らかにした。
著者
金城 尚美 加藤 清方
出版者
琉球大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

本研究では、「危ない表現」の使用意識を調べることを目的として、国内および海外で調査を実施した。調査は、相手を罵倒したりののしったりするような11の場面、例えば、列に割り込んだ人に対してどう言って反応するか等を4コマ漫画で視覚的に明示し、台詞を挿入する自由記述形式で行った。また各場面で発話者が男性または女性の場合の視点を設定した。さらに大人と子ども、上司と部下、夫婦等、上下等の人間関係の設定にも変化を持たせた。調査票は、日本語、タイ語、中国語(中国本土・台湾)、韓国語6種類を作成し、日本(東京・沖縄等)、韓国、(釜山・ソウル・光州)、タイ(バンコク)、台湾(台北・台南)、中国(大連)の各国でデータを収集した。その結果、日本語と比べて韓国語、中国語、タイ語のデータは、異なる社会・文化的背景により、卑下する対象となる用語の異なりの分布や使用環境及び用語の豊富さなどが顕著であることなどが明らかとなった。今後、データのサンプル数を増やし、日本語と各国語をそれぞれの社会・文化的背景とのつながりを詳細に記述し、あぶない用語の社会言語学的かつ語用論的分析をさらに深化させることが必要である。
著者
西野 浩明
出版者
大分大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1996

平成7年度に開発した「大分大学工学部の3次元ウォークスルー機能」をもとに,以下の項目に関して設計,プロトタイプシステムの開発および実験・評価を行い,その有効性と実用性について実証的研究を行った。1.3次元モデルの分割定義および処理方式の開発:立体視用の液晶シャッターメガネと,視点検出のための磁気センサを利用し,描画対象物の形状と視点からの距離に応じてモデルを分割し,階層的に定義する手法を開発した。さらに本手法を,ネットワークを通して複数利用者間で共有し,使用するマシン性能やグラフィックス描画性能,ネットワークの帯域幅や同時利用者数等に応じて,動的に性能最適化を行うことができる分散仮想環境フレームワークとして拡張した。2.プロトタイプシステムの開発:上述の分散仮想環境フレームワークを実現するソフトウエアを設計・開発した。さらに,ネットワーク上で実験および評価を行うために,新作打上げ花火の設計,試作,製造および花火大会実施までの全プロセスを,仮想環境で行う事が可能な「3次元仮想打上げ花火システム」を,分散仮想環境フレームワーク上に実現した。3.インターネット上での実験と評価:3次元仮想打上げ花火システムのインターネット上での利用実験を行い,本研究で開発を行った手法が,従来のサーバ・クライアント型情報検索のみでなく,対等な関係にある複数ユーザ間での協同作業に有効であることを検証した。以上の研究成果を1996年7月のVRST'96(香港),1996年9月のVSMM(岐阜)および1996年11月電子情報通信学会「マルチメディア・仮想環境基礎研究会」(大分)にて発表した。今後は,大規模ネットワーク環境での評価および本システムの改良を行う予定である。
著者
宇津宮 孝一
出版者
大分大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

生産現場では,バーチャルリアリティ(VR)技術を用いて,設計・製作対象の共有や3次元的操作,臨場感のある3次元表示.模擬実験等を通じて,現場と同じ感覚で「もの」を創造できる,情報通信技術に基づいた仮想作業場の提供が,新製品早期開発のために強く要請されている。一方,構想設計段階で人間の両手が「もの」を表現・制作する過程は重要である。高精度センシング機能や触覚機能をもつ電子グローブ装置を用いて,手本来の表現能力を生かし,非専門家でも「体感経験」しながら「もの」の制作ができる人間指向インタフェースが求められている。本研究課題では,仮想環境でVRの空間インタフェース技術を用いて,もの造りを現実と同等に試行でき,その結果が実生産に直結できる協創型仮想ワークベンチの構成法に焦点を当てて,次の研究を実施した。(1) 実仮想統合設計生産モデルとその構成法遠隔地の人々が,高速ネットワークやVRの技術を用いて,現実には製作困難な製品などを仮想環境内で協同で創造し,実生産に継ぎ目なく移行できる実仮想設計生産モデルとその構成法について,打上げ花火の設計・製造過程を題材として取り上げ,VRを基盤にして研究を行った。(2) 3次元仮想造形用感覚機能統合型インタフェースの実現法人間が両手で行うのと同様な方法で,両手電子グローブを用いて仮想物体の造形と3次元物体の形状入力を直観的操作で行うための手法とその実現法について,主としてジェスチャインタフェースの研究を行った。(3) 協創型仮想環境の構築法両手ジェスチャインタフェースや象形的手振りを用いた大型画面上の3次元仮想環境を構築した。そして,現実世界では困難な作業を複数の人間が協同してやっていくことが可能な協創的な環境を試作し,幾つかの題材を用いて,試作した環境の有効性や効果について考察した。