著者
白波瀬 達也
出版者
福祉社会学会
雑誌
福祉社会学研究 (ISSN:13493337)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.51-64, 2017

<p>第二次世界大戦が終わるまで,Faith-Based Organization(FBO:信仰に基づく組織)は日本の社会福祉領域において大きな役割を果たしてきた.第二次</p><p>世界大戦後,社会福祉は国家責任となった.それによって,日本の宗教組織は社会福祉領域から排除されがちになった.</p><p>しかしながら,福祉国家の危機を背景に社会福祉における国家の役割は大きく変わってきた.こうした文脈においてFBO は社会福祉領域への再参入し始めるようになっている.</p><p>特にホームレス問題など,新しい社会問題において大きな存在感を持っている.ホームレス支援をする際に布教を積極的におこなう組織がある一方で,</p><p>両者を明確に切り分けて活動をおこなう組織もある.</p><p>本稿ではホームレスを支援するFBO に焦点を当て,それらの活動の社会的役割を筆者が考案した4 象限マトリックスを用いて説明する.</p>
著者
片山 善博
出版者
日本福祉大学社会福祉学部
雑誌
日本福祉大学社会福祉論集 = Journal social Welfare, Nihon Fukushi University (ISSN:1345174X)
巻号頁・発行日
no.140, pp.21-38, 2019-03-31

岡村は,自身の地域福祉の思想の根底に和辻の哲学(倫理学)があることを示唆している.そして和辻の哲学は,岡村理論の大枠を規定している.筆者は,岡村理論が和辻の哲学からどのように影響を受け,またそれをどのように批判的に継承しているのかを,和辻の哲学にさかのぼって,検討した.その上で,岡村が人間理解や共同体理解にとって重要とみなした「主体性」「生活者」「多元主義的社会」などの概念が,現代の社会福祉の人間理解や共同体理解にとっていかに重要な視点を持つのかを明らかにすると同時に,こうした概念に対する批判についても検討した.また岡村は,人間理解の方法として,和辻の書物を通して理解した「解釈学」の方法を採用するが,昨今,「現象学」の方法が見直される中,改めて「解釈学」の方法の意義を説明した.ただし,岡村の「主体性」や「共同体」論には,<他者性>の契機が弱い.承認論の視点を組み入れることで,岡村理論が現代的有効性を持ちうることを示した.
著者
木村 幹夫
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.62, no.9, pp.378-384, 2012-09-01 (Released:2017-04-18)
参考文献数
3
被引用文献数
3

東日本大震災時にメディアが果たした役割を実証的に検証した。被災3県の地上波テレビ,ラジオは,津波からの避難時には放送の停波がほとんどなく,大津波警報や余震情報をリアルタイムで放送した。震災当日から特番編成を立ち上げ,以後CMなしの24時間放送を数日間継続し,被災状況に加え,ライフライン情報,生活関連情報,安否情報,避難所情報などを放送した。また,被災地では津波からの避難時および直後の時期にラジオを筆頭にマスメディアが大きな存在感を示した。東京など周辺地域ではSNSやストリーミング・サイトなどネット系メディアの役割も注目されたが,被災3県についてはマスメディアの貢献度,評価は,ラジオを筆頭にネット系メディアのそれをはるかに上回っていたことが実証された。
著者
中野 俊雄
出版者
公益社団法人 日本鋳造工学会
雑誌
鋳造工学 (ISSN:13420429)
巻号頁・発行日
vol.77, no.12, pp.857-862, 2005-12-25 (Released:2015-01-10)
参考文献数
27
著者
鳥海 不二夫 吉田 光男
出版者
Webインテリジェンスとインタラクション研究会
雑誌
Webインテリジェンスとインタラクション研究会 予稿集 第12回研究会 (ISSN:27582922)
巻号頁・発行日
pp.27-32, 2018 (Released:2022-11-07)
参考文献数
15

本研究では,2017年に行われた衆議院選挙の政党公式アカウントのツイートの拡散力について分析を行った.まず,公式アカウントのフォロワーとそのソーシャルネットワーク,選挙期間中の公式アカウントのツイートの拡散状況を収集した. 本研究では6政党の公式アカウントを含む61,462,601ユーザの503,648,217ツイートを収集し,当該データを用いて分析を行った.まず,各政党のツイートがどの程度のユーザまで到達した可能性があるかを拡散カと定義し,各政党の拡散力を評価した.その結果,フォロワー数と拡散力は必ずしも一致せず,最もフォロワー数が多かった立憲民主党よりも自民党のアカウントの方が高い拡散力を持つことが明らかとなった.次に,フォロワー数と拡散力の強さが一致しなかった要因の分析を行った. その結果,フォロワー同士のソーシャルネットワークと,公式アカウントのツイート内容が拡散力に大きく影響を与えていることが明らかとなった.自民党の公式アカウントは,フォロワーのフォロワーに政党をフォローしていないユーザが多いこと,政治的なツイート以外をほとんど行っていないことの二点が高い拡散力を持っている要因であることが明らかとなった.一方,立憲民主党のアカウントではフォロワー同士のつながりが強く,また公式アカウントが多数の非政治的ツイートを行っており,ネット選挙における戦略の違いが拡散力の差につながっていることが明らかとなった.
著者
橋内 武
出版者
桃山学院大学
雑誌
国際文化論集 (ISSN:09170219)
巻号頁・発行日
no.37, pp.193-215, 2007-12-10

What are the languages used in Malta ? What is the state of language education in the Republic of Malta ? This paper is an attempt to answer these questions. A Mediterranean archipelago, Malta, is located 93 km off the southern coast of Sicily. This Republic gained independence from Britain in September, 1964, and joined the European Union in May, 2004. With about 400,000 inhabitants, it forms a bilingual, if not trilingual, society. More than 90% of citizens follow the Roman Catholic religion. Most people speak Maltese as their mother tongue, but some elite families bring up their children in English. There are two official languages: Maltese and English. These two languages make up the society diglossia with English as the high variety and Maltese as the low variety. Clearly the third language is Italian due to its historical and geographical affinity. Italian TV channels can be received throughout the archipelago. Thus the most popular modern language taught at school is Italian, followed by French, German and Spanish. Although the Maltese language, written in Roman alphabet, is derived from Arabic, standard Arabic is unpopular among the Maltese, partly because of very different scripts, and partly because of its association with Islam. Since tourism and manufacturing are the two major industries, the demand for English and other European languages is strong. The current school education is based on the National Minimum Curriculum, which follows a bilingual education policy. Students are expected to use both Maltese and English depending on the subject, and learn at least one foreign language as well. At primary school, Maltese is the main medium of instruction with some use of English, while at secondary school, Maltese is used for teaching Maltese, History, and Religion, and English is used for Maths, Science and ICT. The emphasis placed on language education in secondary schools varies. Independent schools tend to put greater weight on modern language education, whereas national and church schools give less time to languages other than Maltese and English. At the tertiary level, English becomes the dominant language for academic purposes except in the case of Maltese Language and Literature, and foreign languages.
著者
田中 秀磨 滝澤 修 山村 明弘
出版者
一般社団法人 画像電子学会
雑誌
画像電子学会誌 (ISSN:02859831)
巻号頁・発行日
vol.34, no.2, pp.147-155, 2005 (Released:2011-03-10)
参考文献数
6

ディスプレイなどの映像端末からノイズとして放射される漏洩電磁波を傍受することにより,表示画面を再現する実験を行った.パーソナルコンピュータを対象とし,以下の三つの手段を用いて表示画面の傍受を試みた.(1)近磁界プローブを端末に接触させた場合.(2)離れた場所からアンテナを用いた場合.(3)端末の電源ケーブルにインジェクションプローブをはさんだ場合.(1)の結果から,画面傍受が可能なだけでなく,ビデオ信号の同期周波数に関する個体ごとの僅かなばらつきによって,ターゲットの弁別が可能であることを示す.(2)の結果から,VCCIで規制対象となっている1GHz以下の周波数でもターゲットから4m離れた場所から画面傍受ができること示す.(3)の結果から,ACアダプタとプローブの位置関係が実験に影響を与えることを明らかにし,ターゲットから30m離れた電源ケーブルから画面傍受ができることを示す.
著者
宇佐美 真一
出版者
一般社団法人 日本耳科学会
雑誌
Otology Japan (ISSN:09172025)
巻号頁・発行日
vol.30, no.3, pp.149-158, 2020 (Released:2021-04-05)
参考文献数
33
被引用文献数
3

現在,残存聴力活用型人工内耳(EAS: electric acoustic stimulation)は低音部に残存聴力を有する高音障害型難聴患者に対する標準的な医療として定着している.本総説では聴力温存手術の現状とともに,聴力温存に関与するいくつかの因子(手術アプローチ,電極の種類,長さ,挿入深度,電極挿入スピード,ステロイドの使用,年齢,蝸牛長,蝸牛容積,遺伝的要因)について我々のデータを中心にこれまでの報告と合わせ検討を行った.EAS手術の際には,聴力温存に関与する因子を踏まえ,その患者にとって最適な治療,デバイスの選択をすることが重要である.EASの基本にある残存聴力温存(hearing preservation)の概念は,内耳の構造保存(structure preservation),聴神経(ラセン神経節細胞)の保護という観点からもすべての人工内耳に通じる考え方として重要である.
著者
渡辺 悌二 深澤 京子
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.71, no.10, pp.753-764, 1998-10-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
21
被引用文献数
4

黒岳周辺の登山道の荒廃の軽減を図るために,黒岳七合目から山頂区間の登山道に,1989年に排水路と土止め階段が設置された.これらの排水路や土止め階段が設置された当時には,板の上端まで土壌があったと考えられるが,現在では土壌侵食によって,かなりの板が露出している.調査地域に設置された板製の排水路の67%と板階段の67%が機能を失っており,57%の階段の周辺で土壌侵食が生じていた.登山道の幅は,7年間で平均72.5cm拡大していた.さらに,5地点での土壌侵食速度は,54~557cm2/年であった.この地域の既存の排水路や土止め階段はいくつかの問題を抱えており,登山道の荒廃を軽減するためには,(1)適切な設置角度の排水路の数を増やし,(2)排水路や土止め階段の長さを長くし,(3)登山道表面の整地作業を頻繁に行う必要がある.