著者
松森 昭
出版者
京都大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1994

近年、血中TNF-αの測定が可能となり、各種の癌、感染症、膠原病において高値を示し、また、重症心不全において上昇することが報告され、心不全末期のカヘキシ-との関連が示唆された。研究者らは心筋炎、心筋症なとの血中サイトカインを測定し、急性心筋炎ではIL-1α,IL-1β,TNF-α,などの炎症性サイトカインが高値を示し、拡張型心筋症、肥大型心筋症でTNF-αが上昇することを発見した。また、マウスEMCウイルス性心筋炎モデルにおいて血中TNF-αが上昇し、抗TNF-α抗体の投与により心筋細胞障害が軽減することを明らかにした。本年度は、同モデルにおいてサイトカインの発現を経時的に検討した。4週令DBA/2マウスにencephalomyocarditis(EMC)ウイルスを接種し、1、3、7、14、28、80日後に屠殺、心臓を摘出し、RNAを抽出、cDNAを合成し、PCR法を用いIL-1β,IL-2,IL-4,IL-10,IFN-γ,TNF-αのmRNAおよびEMCウイルスRNAを半定量した。EMCウイルスRNAはウイルス接種1日後より検出され、7日後に最高となったが、80日後でも検出された。IL-1β,TNF-αは3日後から有意に発現が増強し、多くのサイトカインの発現は7日後に最高となり、すべてのサイトカインmRNAは80日後も検出された。近年開発された強心薬ベスナリノンは心不全の生存率を著明に改善することが報告され注目されているが、最近のわれわれの研究によりベスナリノンはIL-1,IL-6,TNF-α,IFN-γなどのサイトカイン産生を抑制することが明らかとなった。ベスナリノンはEMCウイルス性心筋炎の生存率を用量依存的に改善し、心筋細胞障害および炎症所見を改善した。しかし、ベスナリノンに抗ウイルス作用はなく、LPS刺激による脾細胞からのTNF-αの産生を抑制したことから、ベスナリノンはサイトカイン産生を抑制することにより心筋炎を軽減したと考えられた。
著者
角田 聡
出版者
大阪学院大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1993

組織が低酸素状態に陥ると、キサンチンオキシダーゼ(XOD)の活性化により活性酸素の生成が増大する。激しい運動中には生体内において低酸素状態が生じ、XODの活性化によるO2・が生成される。そこで本研究では、骨格筋の虚血・再灌流により、活性酸素の生成が増加するかどうかを、抗酸化物質であるビタミンEを過剰に投与したラットにおいて検討した。5週齢のSD系雄ラットを5日間予備飼育した後、2週間通常食群(C)とビタミンE(1000IU/kgdiet)食群(VitE)に分けて飼育した。実験は、疑似手術(Sham)群を加えて計3群とし、12時間以上の絶食後に行った。ラットをネンブタール麻酔下で開腹し、腹部下行大動脈の血流を阻止し、20分間の虚血後に血流を再灌流した。血流再灌流20分間後に下肢の筋肉をサンプリングした。氷冷した生理食塩水で振り洗いした後、水分をとり液体窒素に凍結保存した。大川らの方法によって筋肉のホモジネイトの過酸化脂質(MDA)を測定した。筋肉のMDAは、VitE群とSham群がC群に比べ、有意に低い値を示した。また、ビタミンEの濃度は、VitE群がC群よりも約20%程度有意に上昇した。筋肉の損傷の指標である血漿CK活性を測定したところ、VitE群が最も低い値を示した。さらに、活性酸素を発生させるFe^<2+>を2mM加え、37℃で1時間インキュベーションした結果、C群に比べVitE群が有意に低い値を示した。これらの結果から、骨格筋の虚血-再灌流は活性酸素の増加を促し、筋肉の酸化ストレスを増加させることが示唆された。また、骨格筋の虚血-再灌流による酸化ストレス、もしくは活性酸素発生物質に添加による酸化ストレスは、ビタミンE含量が高い状態で軽減することが明らかになった。さらに、ビタミンEがCKなどの血中逸脱酵素の上昇を抑える可能性も示唆された
著者
西田 みゆき 白幡 峰子 鈴木 紀子
出版者
順天堂大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

本研究の目的は、小児外科的疾患患者が「性」を含めて自身の疾病を理解しその子なりの自立した生活が送れるように支援することであった。その目的達成のために①「小児外科的疾患患者に対する性教育」について現状把握、問題の明確化、② 当該患者の性教育を中心とした疾患理解のニーズの抽出とプログラム骨子作成、③「小児外科的患者における性教育を中心とした疾患理解のためのプログラム」作成を行った。その結果、性教育を含め系統だった疾患の説明は受けておらず、早期からの病名告知を望んでいた。一方で、本邦における性教育の現状を調査し性教育に必要な要素を抽出した。この結果を踏まえてプログラムを作成した。
著者
室田 浩之
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

痒みは時に生活の質を大きく損なわせる皮膚症状の一つです。特に多くの方が経験する「温もると痒い」という症状の多くが治療に抵抗性を示します。温熱が痒みを誘発するメカニズムはまだ十分に理解されていないため、本研究では皮膚の温感に影響を与える神経栄養因子アーテミンが温もると痒い現象に関わるかを検討しました。本研究よりアーテミンの皮膚への蓄積は脳を興奮させ、全身の温熱過敏を誘発する結果、全身に温もると痒い現象を生じさせる、いわゆる「痒がる脳」のメカニズムの一旦が解明されました。この成果は「温もると痒い」症状に対する新しい治療の開発につながると期待されます。
著者
石岡 恒憲 峯 恒憲 亀田 雅之
出版者
独立行政法人大学入試センター
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

センター試験など大学入試レベルの短答式記述試験における自動採点および人間採点を支援する実用可能なシステムの試作および実装をした.自然言語における完全な意味理解はこの数年では不可能であるという判断のもと,採点は設問ごとに作題者が用意した「採点基準」に従った自動採点を基本とし,その結果を人間が確認・修正できるものとする.システムは「(予め用意された)模範解答」と「実際の記述解答」との意味的同一性や含意性を判定するほか,プロンプトと呼ばれる素材文と解答文との意味的近似性なども考慮する.また採点結果は多値分類であることから,サポートベクターマシンではなくランダムフォレストによる機械学習分類を使う.
著者
辻本 元 長谷川 篤彦 宮沢 孝幸 亘 敏広
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1997

日本全国各地における猫免疫不全ウイルス(FIV)env遺伝子の塩基配列を解析した結果、東日本ではサブタイプBが、西日本ではサブタイプDが主要なサブタイプであり、散発的にサブタイプAおよびCが存在することが明らかとなった。ヒトのHIVにおいて、ウイルスのco-receptorとして同定されているケモカインレセプターのリガンドであるCC-ケモカインおよびCXC-ケモカインについて、猫の遺伝子クローニングを行った。これらケモカインのうち、SDF-1βは、猫のTリンパ球におけるFIVの増殖を濃度依存的に抑制することが明らかとなった。さらに、CXC-ケモカインリプターと結合する物質として同定されたT22についてもFIV増殖抑制効果が確認された。一方、FIVによって誘導されるアポトーシスは免疫不全症の発症に重要な役割を果たしていることが明らかとなっている。そこで、抗酸化剤であるN-アセチルシステインおよびアスコルビン酸をFIVによるアポトーシス誘導系に添加して培養したところ、それらによるアポトーシス抑制効果が認められた。さらに、同様のFIVによるアポトーシス誘導系にIL-12およびIL-10を加えて培養したところ、IL-12はアポトーシスおよびFIV増殖を抑制する効果が確認され、その効果はIFN-γの発現を介していることが明らかとなった。IL-10にはそれら抑制効果は認められなかった。さらに、これらFIV増殖抑制剤およびアポトーシス抑制剤の生体内投与における効果を判定するため、FIV感染猫における血漿中ウイルスRNA量をQC-PCR法によって定量した。その結果、非症候性キャリアー期の猫では10^5コピー/ml以下の低いウイルス量を有する個体が多かったが、エイズ期の猫では10^7コピー/ml以上の高いウイルス量を有する個体が多かった。現在、このFIV感染猫におけるウイルスRNA定量系を用いて、ウイルス動態の解析および抗ウイルス薬の治療効果の判定を行っている。
著者
玉野 和志
出版者
首都大学東京
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

都市の成長ないし衰退の状況を分析するための基礎的な統計単位として,どこからどこまでの地理的範囲を当該の都市地域と設定するかについての方法論的な検討を行った.1㎞四方の範囲に含まれる人口量を示した国勢調査のメッシュデータを用いて,5000人以上の人口を有するメッシュ地域の集積を基本に,都市地域の設定を試みることで,従来の人口集中地区にほぼ相当する基礎統計単位の設定に成功した.この方法を太平洋ベルト地帯を中心とした地域に適用して19の都市地域を区分に,それにもとづく分析を行うことで,三大都市圏を中心とした都市の現状を把握することができた.
著者
橋川 裕之
出版者
静岡県立大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究は、東ローマ/ビザンツ帝国において展開した教会と修道院を対象とする改革運動を体系的に考察し、その特質を包括的に把握することを意図したものである。同時代の記述史料の分析と修道院遺跡の地誌的調査を同時に進めた結果、改革の多くの局面で、生活規律の強化ないし古代的伝統への回帰を追求する修道士集団が主導的な役割を果たしており、彼らの政治的理想が改革の範囲と方向を規定していたことを明らかにした。
著者
千葉 文子
出版者
千葉大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

死体の個人識別のために、年齢推定は重要であり、骨の観察は古くから年齢推定の手段として用いられてきた。しかし、骨の観察による年齢推定の確実な手段は、特に成人死体においては現在も確立されていない。法医学領域でCTの導入が進んでいるが、CT画像を用いた人類学的な骨の評価は現在研究が進められている分野である。本研究では、恥骨結合をCTで観察し、恥骨結合面の中央で、左右恥骨が平行になる部分が加齢に伴い増加する傾向にあることを示した。直線回帰分析による年齢推定式を求めたが、従来法より優れたものではなかった。また、通常の法医解剖では観察が困難である口蓋縫合の観察も試みた。
著者
田宮 寛之
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2018-04-25

本年度は昨年度Six3-mVenusノックインES細胞を用いて開発したSCNオルガノイド分化誘導系を Per2::LuciferaseノックインES細胞 (Tamiya, Sci Rep 2016) へ応用した. Six3-mVenusとは大幅に分化誘導条件を変える必要があったが, 最終的に免疫染色でのSCN終分化マーカーなどの密集発現が観察されるSCNオルガノイドを誘導することができた. また, 発光イメージングで, 時計遺伝子の10周期分以上の減衰しない同期振動が観察できたため, 機能的SCNが誘導できたと考えられる (Tamiya et al., in preparation). また, 共同研究で広視野発光イメージングをおこなった結果, 免疫染色と発光測定のSCNらしい部位は一致していた. また, RNA Seqも行い,半数程度の細胞塊は, トランスクリプトームの観点からもSCNを含んでいることが明らかになった. 総じて, マウスES細胞から三次元SCN組織 (SCNオルガノイド) の試験管内誘導法の開発に成功した. 現在京都府立医科大学との共同研究で, SCN破壊マウスへの移植実験を施行している. 予備実験では第三脳室内に, 成熟SCN組織が生着していた. 現在行動リズムが徐々に観察されつつある. 自然回復の可能性や測定条件の問題があり, 成否の判断はもう少し慎重になる必要があるが, 行動回復が少しずつみえてきている可能性がある.
著者
磯前 順一 小倉 慈司 苅田 真司 吉田 一彦 鍾 以江 Pradhan Gouranga 久保田 浩 山本 昭宏 寺戸 淳子 岩谷 彩子 小田 龍哉 藤本 憲正 上村 静
出版者
国際日本文化研究センター
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2019-04-01

西洋近代に由来する人権思想の世界的な普及にもかかわらず、当の西洋においても、あるいは日本などの他のさまざまな地域においても、差別(人種差別だけでなく、いじめや戦争、 テロまでを含む)が依然としてなくならないのは、なぜだろうか。本研究では、これまで「聖なるもの」と「俗なるもの」の二分法で説明されてきた「宗教」と「社会」とのありかたの理解を、日本宗教史と世界諸地域の比較宗教史との学問の蓄積からあらたに問いなおし、現代社会における公共性の問題と結びつけて検討する。そのことで、公共空間における差別と聖化の仕組みがあきらかになり、より具体的な公共性のあり方についての議論が可能になることが期待される。
著者
杉浦 健太
出版者
慶應義塾大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2018-04-25

2種の自由産卵を行う有性生殖クマムシ、Paramacrobiotus sp.とMacrobiotus shonaicusを用いて、雌雄配偶子とその接合子の観察を電子顕微鏡下で行った。その結果、Paramacrobiotus sp.の先体が極めて長く発達していること、両種の核がコイル状になっていることを見出した。また産卵直後の卵表面に精子が先体を介して結合している様子の撮影に初めて成功した。さらに交尾後のメスを解剖し、貯精嚢で精子の尾部が短縮化されることを確認した。これらの研究はクマムシの配偶子形態とその接合子を時系列に沿って明確に観察した初の研究であり、国際論文誌Zygoteに受理、公開された。精子の形態が種間で大きく異なることから、それらの形態が水中での遊泳に与える影響を調べるため、筑波大学下田臨海実験所の稲葉一男博士、柴小菊博士と共同で、交尾中の精子遊泳をハイスピードカメラにて撮影した。遊泳中は精子の頭部と尾部の結合点である中片を先頭として、直進と曲進を繰り返していることを明らかにした。また頭部、尾部ともに長いParamacrobiotus sp.の方がM. shonaicusに比べて遊泳速度が早かった。ソフトウェアによる解析では、遊泳中の頭部での運動はほとんどなく、尾部の運動のみを用いて遊泳していることが示唆された。交尾後15分経過したメスの総排泄孔を電子顕微鏡で観察すると、強く密集した精子が絡まりあって付着していたことから、長い頭部は遊泳よりむしろメス体内への移入まで総排泄孔に密集するために必要であると考えられた。これらの研究は2件の国内学会で発表し、現在国際論文誌への投稿準備中である。上記の研究に加えて、かねてより見出していたMilnesium属のクマムシ(オニクマムシ)の新種Milnesium pacificumと、タイプ種Milnesium tardigradumの日本初記録を論文としてまとめ、国際論文誌Zoological Scienceに受理、公開された。
著者
伊原 学 長谷川 馨
出版者
東京工業大学
雑誌
挑戦的研究(開拓)
巻号頁・発行日
2018-06-29

本研究では、「カーボン空気二次電池」という新しい概念の実現性や優位性を、固体酸化物型電気化学デバイス、二次電池双方のアプローチから検討し、さらにシステム全体を設計しその実現性、優位性を検討する
著者
稲葉 政満
出版者
東京芸術大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

耐久性のある良い和紙を選択し、使用することが、現在の資料を残すためだけではなく、過去の遺産の保存修理のためにも望まれている。和紙の主原料であるコウゾはアルカリ水溶液で煮熟され、繊維化される。アルカリとしては木灰、石灰、ソーダ灰(炭酸ナトリウム)、苛性ソーダ(水酸化ナトリウム)が使用されている。煮熟剤の違いがどのように紙の耐久性などの違いをもたらすのかついて直接検討した例はない。そこで、同一の高知産楮から作成した和紙の保存性に及ぼす煮熟剤の違い、漂白の有無による影響について、検討することとした。本研究では、煮熟方法の違う和紙に酸(ドウサ)を塗布して湿熱劣化試験を行った。ドウサ引きを行った苛性ソーダ煮の試料はpHが大きく低下し、劣化処理によって大きな強度低下や変色を招いた。木灰や炭酸ソーダのようなマイルドなアルカリで煮熟した試料中にはアルカリが残留し、ドウサ塗布によるpHの低下を抑えることから、劣化処理による強度低下が少なかった。ほぼ同一のpHにおいても、漂白試料は未漂白試料よりも劣化しやすかった。和紙中のセルロースの重合度は強いアルカリである苛性ソーダで煮熟した場合は他のものに較べて低く、煮熟中に繊維が損傷を受けていることが明らかとなった。また、繊維中の構成化学成分としては、木灰などのマイルドなアルカリの方がヘミセルロース残量が多かった。煮熟剤を替えて作成した和紙の濡れ特性には差は認められなかった。以上の実験結果から、マイルドなアルカリで煮熟すること、そして漂白しないことが保存性の良い和紙を製造するための条件であると結論できる。
著者
轡田 竜蔵 永田 夏来 阿部 真大 松村 淳
出版者
同志社大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2021-04-01

この共同研究のねらいは、拠点都市圏から離れた地域(=30万人以上の規模の都市雇用圏の圏外)に創出されている新しいライフスタイルや公共性について、これをオンラインや移動の広域化によって、都市を超えた社会が形成されているという観点を軸にして、社会学的に考察することである。京都府北部地域の20-40代を対象とし、当該課題に関する参与観察・インタビュー・質問紙調査を行う。
著者
田辺 浩介
出版者
国立研究開発法人物質・材料研究機構
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2021-04-01

大量のデータの収集と分析によるデータ駆動型研究の進展に伴い、データの効率よい収集や検索のために、実験データや計測データなど、研究活動において作成された実際のファイルと、それらのファイルの作成者や作成時刻、ファイルの属性などを記述したメタデータを関連付けた管理が求められるようになっている。本研究では、これらの研究データを複数の研究分野において管理・流通・再利用可能とするための「研究データパッケージング」の手法を検証・確立し、データ駆動型研究を円滑に進めるための枠組みを構築する。
著者
三上 恵里
出版者
早稲田大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2011

日本人トップアスリートの瞬発系パワー系運動能力を規定する遺伝子多型を明らかにするため、日本人瞬発系パワー系陸上競技選手211名(国際レベル62名、全国レベル72名、地域レベル77名)および一般の日本人649名を対象として、文献検索により選出した22種の核およびミトコンドリア遺伝子多型をTaqMan法にて解析した。その結果、6種の遺伝子(ACTN3,VDR,MT-ND1,AGT,CNTFR,TRHR)の多型が瞬発系パワー系アスリートステータスと関連しており、これら6種の多型から算出した合計遺伝子型スコアは、統計学的有意に国際レベルの瞬発系パワー系アスリートステータスを予測できることが明らかとなった。しかしながら、合計遺伝子型スコアのアスリートステータスに対する寄与率は10%程度であり、現場での応用を目指す場合にはより精度を高めていく必要がある。また、これら6種の多型の中で、最も貢献度が高かったCNTFR遺伝子多型は、CNTFR遺伝子の3側非翻訳領域(3'-UTR)に位置しており、Target Scan Humanを用いてシミュレーションしたところ、miRNA-675-5pのターゲット領域に存在することが推測された。このことから、CNTFR遺伝子多型はmiR-675-5pの結合に作用することでCNTFRタンパクの発現に影響を及ぼしていると仮説を立て、ルシフェラーゼ・レポーターアッセイを用いてこの仮説の検証を行った。その結果、miR-675-5pはCNTFR遺伝子の3'-UTRに結合することで、CNTFRタンパクの発現を制御している可能性が示されたが、解析したCNTFR遺伝子多型の有無によりmiR-675-5pの結合は影響を受けなかった。したがって、このCNTFR遺伝子多型は、miR-675-5p以外のメカニズムを介して瞬発系パワー系運動能力に影響を及ぼしていると考えられる。
著者
天野 晶子
出版者
首都大学東京
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2011

Senescence marker protein(SMP30)は加齢に伴い肝臓で減少する。SMP30は、多くの哺乳類の体内でビタミンC合成に必須の酵素グルコノラクトナーゼである。ヒトと同様に、SMP30遺伝子を破壊(ノックアウト)したマウス(SMP30-KOマウス)はビタミンCを生合成しない。SMP30-KOマウスはビタミンCの長期的な不足で寿命が短縮する。ヒトでは、血中ビタミンCが加齢で減少する。従って、老化とビタミンCの不足には、密接な関係が窺える。ビタミンCは、カテコールアミン(ドーパミン、ノルアドレナリン、アドレナリン)の生合成酵素、チロシンヒドロキシラーゼ(TH)及びドーパミン-β-ヒドロキシラーゼ(DBH)の活性化に補因子として必要とされる。ビタミンCの加齢に伴う減少により、カテコールアミンも減少する可能性が考えられる。カテコールアミンは脳や副腎で合成され、神経伝達物質やホルモンとして重要な役割を担うとされる。しかしながら、ビタミンCの生体内におけるカテコールアミン合成系への役割は不明な点が多い。そこで本年度は、ビタミンC欠乏状態のSMP30-KOマウスにおけるカテコールアミン濃度およびカテコールアミン生合成酵素の遺伝子発現の変化を調べた。結果、ビタミンCの欠乏した副腎においてアドレナリン、ノルアドレナリン濃度が減少した。従って、ビタミンCは生体内で確かにDBHの活性化に必要であることを明らかにした。本成果はEuropean Journal of Nutritionに投稿、受理された。更に、カテコールアミンが加齢依存的に生体内で減少するかを明らかにするため、野生型マウス副腎におけるカテコールアミン濃度、および合成酵素の遺伝子発現の加齢に伴う変動を調べた。本研究により、マウス副腎でカテコールアミン濃度およびアドレナリン合成酵素のフェニルエタノールアミンNメチルトランスフェラーゼの発現が加齢で減少することがわかった。本成果は、Geriatrics & Gerontology Internationa1に掲載された。
著者
笹川 英夫
出版者
名古屋大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1987

1.窒素固定活性発現機構の解析にあたり、ニトロゲナーゼおよびレグヘモグロビンの抗体調製を試みた。ダイズ根粒よりニトロゲナーゼMoーFeタンパク質およびレグヘモグロビンタンパク質を精製し、ウサギ抗体を調製した。これらの抗体を用いてクサネムの茎粒・根粒およびダイズ根粒におけるニトロゲナーゼ、レグヘモグロビンの相同性について調べた。クサネム茎粒と根粒におけるニトロゲナーゼは極めて相同性が高く、ダイズ根粒のそれとは部分的に相同であることが明かとなった。調製したレグヘモグロビン抗体とクサネム茎粒および根粒のレグヘモグロビンとのreactivityは極めて弱くそれらの相同性について確かな情報を得るにはいたらなかった。非マメ科植物根粒内ニトロゲナーゼはFrankiaの小胞体に特異的に局在することを免疫化学的電子顕微鏡法で明らかにした。2.茎粒形成に関わる温度、光、栄養など環境要因について調べた。外部より与えられた化合態窒素、菌接種部位の光の有無は茎粒形成にほとんど影響を与えなかった。これに対し温度は極めて重要であり、20℃において茎粒形成は著しく抑制された。また基部に近い節間および先端付近の節間では茎粒が形成されにくく、中央部の節間ではよく茎粒は形成された。茎粒の形成は皮目の発達と密接に関連していることが強く示唆された。3.いわゆるカウピータイプに属し、宿主を異にするリゾビウム(クサネム、セスバニア、ギンネム、ラッカセイ)を用い、それらの茎粒形成能力について調べた。セスバニア、ギンネム、ラッカセイからの分離菌はクサネムに対して茎粒形成能力は認められなかった。また有用マメ科作物への茎粒導入を試みるためラッカセイに対して上記リゾビウムを接種したが、いずれにおいても茎粒形成は認められなかった。
著者
沖田 美佐子 塚本 幾代 冨岡 加代子 川上 貴代 村上 泰子 横山 純子
出版者
奈良女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

ペグインターフェロンとリバビリンの併用療法中のC型慢性肝炎患者を対象にビタミンE、Cと併用した亜鉛やエイコサペンタエン酸の補給を行い、治療中における副作用の軽減を認め、栄養療法が補助療法として有用であることを明らかにした。また、非アルコール性脂肪肝炎(NASH)患者に対して魚類摂取の栄養指導を行うとともにビタミンE、Cの投与を行った結果肝病態の改善を認め、栄養療法の重要性を示唆した。