著者
石井 明子
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第43回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.S11-1, 2016 (Released:2016-08-08)

バイオ医薬品(組換えタンパク質医薬品)は,目的物質を発現する組換え細胞の培養,及び,細胞あるいは細胞培養上清からの目的物質の精製工程を経て,製造される.バイオ医薬品原薬の構成要素には,目的物質,目的物質関連物質の他,目的物質由来不純物,製造工程由来不純物が含まれる.目的物質由来不純物は,目的物質の分子変化体(前駆体,製造中や保存中に生成する分解物,凝集体,アミノ酸配列変異体等)で,生物活性,有効性及び安全性の点で目的物質に匹敵する特性を持たないものである.製造工程由来不純物には,細胞基材に由来するもの(宿主細胞由来タンパク質,DNA等),細胞培養液に由来するもの,あるいは細胞培養以降の工程である目的物質の抽出,分離,加工,精製工程に由来するもの(試薬・試液類,クロマトグラフ用担体からの漏出物等)がある.これらの不純物の評価・管理については,ICH Q6Bガイドラインに基本的な考え方が示されているが,具体的な許容値や管理値は示されていない.バイオ医薬品開発に際して,中間体,原薬,あるいは製剤を対象とした特性解析により,各種不純物の存在と残存量が明らかにされ,製剤中の不純物含量が安全性に影響のない値以下に管理できるよう,原材料の管理,工程パラメータ管理,工程内試験,規格及び試験方法等からなる品質管理戦略が構築される.不純物の管理値については,最終的には,臨床試験に用いたロットにおける不純物含量等をもとに決定されている.不純物の安全性への影響は,製剤の投与経路等によっても異なる場合があるので,各製品の意図した用途に応じた品質管理戦略が必要である.本講演では,バイオ医薬品に含まれる各不純物の特徴,不純物が問題となった事例,及び,不純物管理戦略の概要を述べ,不純物に焦点をあてたバイオ医薬品品質管理の現状と課題を考察したい.
著者
大西 秀之 オオニシ ヒデユキ Hideyuki ONISHI
出版者
総合研究大学院大学
巻号頁・発行日
2005-03-24

本論文が対象とするトビニタイ文化とは、異なる生計戦略に立脚するとともに形質的・遺伝的にも系統を違える集団によって担われたオホーツク文化と擦文文化が、北海道東部地域において接触・融合する過程で生起したとされる先史文化である。本論文は、トビニタイ文化という歴史事象を主体的に担った人々の系譜を明らかにした上で、周辺地域の広範な歴史的コンテクストに位置づけるなかから、同文化の成立から終末に至るプロセスや要因の解明を試みたものである。 まず第一章では、現在までの課題を明らかにすべく、先行研究のレビューをおこなった。その結果、オホーツク文化集団と擦文文化集団が接触・融合する具体的な状況やプロセスを解明するとともに、生計戦略を始めとする同文化の基本的な性格を把握する必要性を確認した。さらには、文献史学や第四紀学・環境科学などのデータや成果を参照するなかから、トビニタイ文化として顕在化する歴史事象を、生態環境から政治社会的要因までを含めた歴史的コンテクストから読み解く必要性を指摘した。 以上を踏まえ第二章では、トビニタイ土器分布圏の6遺跡から出土した「擦文式土器」を対象として13の技術的属性を抽出し、共伴して得られたトビニタイ土器や同時期の擦文文化圏の資料と比較した結果、そのなかにはオホーツク文化の末裔であるトビニタイ土器製作集団によって製作された模倣品が含まれていることを明らかにした。また、模倣品の時間位置や空間分布を検討すると、知床半島沿岸部や根釧原野などでは模倣品が製作される時期はトビニタイ後期(A.D.11世紀以降)に多くが偏り、その製作にはトビニタイ土器の技術が使用されている一方、斜里平野ではトビニタイ前期(A.D.10世紀以前)から擦文文化集団が持つ技術を導入して模倣品が製作され、トビニタイ後期になるとオリジナルの擦文式土器そのものと見分けがつかなくなる様相を捉えた。そして、この地域差を擦文文化集団との交流頻度の反映と想定することによって、知床半島沿岸部から根釧原野側の集団は擦文文化集団との接触が限られていたのに対し、斜里平野側の集団は擦文文化集団と非常に緊密で頻繁な交流を維持し、擦文文化集団の一部が同地域の集落に来訪し居住する状況が生起していた可能性を指摘した。 そこで、トビニタイ文化の集落に存在していた擦文文化集団の具体的な規模と、両集団間に取り結ばれていた社会関係を解明するために、同文化の住居址の属性分析をおこなった。この分析により、住居址に関わる属性の多くは、オホーツク文化の系譜に位置づけうるものであり、また擦文文化に典型的とされる属性もトビニタイ土器製作集団の側が段階的・部分的に受容したものであるという結論を得た。ここから、トビニタイ文化の主要な担い手は、オホーツク文化の末裔であると想定され、住居址から推察される居住形態に依拠するならば、接触・融合の一次地帯であっても、常態として擦文文化集団は単独で世帯を形成することなく、「婚入」などを通じてトビニタイ土器製作集団を主体とする世帯のなかに同居していたとの仮説を導いた。以上から、トビニタイ文化は、オホーツク文化の末裔が主体的に担っていたことを提示した。 次いで第三章では、トビニタイ文化の遺跡立地、遺物組成、動物遺存体を対象として、オホーツク文化や擦文文化との比較検討を試みた。その結果、同文化には、地域的・時期的な多様性が認められる反面、同文化を担った集団は共通基盤としてサケ漁に特化した生計戦略を保持していたことを指摘した。さらに、そうした生計戦略は、基本的にオホーツク文化の系譜に位置づけうるものであり、擦文文化の積極的な関与は認め難いことを確認する一方、同文化の成立以降、存続期間を通じて変容することなく、安定的に維持・経営されていたことを明らかにした。 いっぽう、トビニタイ文化には、擦文文化から受容されたと想定される資料が認められるが、それらは地域的に偏差をしめしつつも、時期を経るなかで増加する傾向を捉えた。だが、鉄器のみは、前段階のオホーツク文化の鉄器が大陸産であるのに対し、地域・時期に関係なく、一貫してすべてが擦文文化を仲介して入手された本州産であることを明らかにした。ここから、トビニタイ文化は、生計戦略を始めとして、基本的な要素をオホーツク文化から受け継いでいる反面、擦文文化との接触・融合が引き起こされた背景には、大陸産から本州産への鉄器入手ルートの転換があるとの想定を提起した。これらの想定を是認するならば、既存の「外圧説」と「内発説」は、トビニタイ文化の一側面のみを捉えたに過ぎず、両者は背反するものではなく相互に補完すべき見解であることを指摘した。 最後に第四章では、これまでの検討から得られた成果を、当時の歴史的コンテクストに位置づけ考察を加えた。その結果、サケ漁に特化したトビニタイ文化の生計戦略は、A.D.10世紀以降に到来する、「中世温暖期」のピーク後の再寒冷化に伴う生態環境の変動に適応するために、道東部のオホーツク文化集団が、海洋資源を中心とする「多品目依存型」から内水面の資源に比重をおいた「備蓄型」に転換したものであるという結論を導いた。他方で、擦文文化集団との接触・融合は、本州産鉄器の獲得を中心に促進されたものであり、その背景には律令体制の崩壊に端を発する、9世紀後半~10世紀の本州・東北北端部における鉄器生産地の出現・急増と中央のコントロールを受けない「化外の地」における物流体制の成立があることを指摘した。 以上から、トビニタイ文化とは、「中世温暖期」を中心とするグローバルな規模での環境変動と、律令国家の崩壊という政治体制の変容のなかで生起した、古代末から中世初頭に継起した社会生態環境のドラスティックな変化に対して、オホーツク文化集団が選択した生存戦略であるという結論を導いた。さらに、こうした生存戦略は、オホーツク文化集団のみに限定される事象ではなく、和人社会を中心とする商品経済・物流体制に巻き込まれてゆくなかで、中世併行期以降の「アイヌ社会」が形成される過程に位置づけうるものであった。このため、本論は、従来一系的に語られがちであった「アイヌ社会」の成立過程に対して、外来の渡来系集団によって担われたオホーツク文化もまた、北海道東部地域における「アイヌ社会」の形成に主要な役割を果たしていた、という新たな視点を提示するものとなった。
著者
北川 嘉野 武藤 崇 キタガワ カノ ムトウ タカシ Kitagawa Kano Muto Takashi
出版者
心理臨床科学編集委員会
雑誌
心理臨床科学 = Doshisha Clinical Psychology : therapy and research (ISSN:21864934)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.41-51, 2013-12-15

研究動向近年,瞑想などを取り入れたマインドフルネスに基づく心理療法が注目されている。マインドフルネスとは「意図的に,いまこの瞬間に,判断することなく注意をむけること」と定義される。本稿ではマインドフルネスとはいったい何なのか概要を示し,実際のマインドフルネスを促進する技法,そしてその効果やメカニズム解明に関する研究を紹介した。最後に,臨床研究・基礎研究の現状を踏まえ,マインドフルネスの促進困難への対応の指針を提案した。
著者
長谷川 由理 石井 慎一郎
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.A3O1023, 2010 (Released:2010-05-25)

【目的】我々は第44回日本理学療法学術大会において、スクリューホームムーブメント(以下SHM)と大腿骨前捻角度(以下FNA)の関係性について報告し、FNAの大きさにより大腿骨の運動方向、回旋量に違いが生じることを報告した。その中でFNAが大きいほど大腿骨の内旋、膝関節の外旋が大きくなるが、これらの回旋角度の増加が下腿や足部に及ぼす影響については、不明な点である。そこで本研究では、荷重位における膝関節伸展運動時の脛骨、足部の運動を調べ、FNAとの関係性を検討することを目的とした。【方法】対象は、下肢に既往のない成人男性4名、女性10名の計14名(平均年齢23.3±6.0歳)とした。測定課題は、自然立位から膝関節を約90°屈曲し、再び自然立位へと戻るハーフスクワットとした。計測には、三次元動作解析装置VICON612(VICON-PEAK社製)を使用した。赤外線反射標点を体表面上の所定の位置に計16個貼付し、課題動作中の標点位置を計測した。関節角度の算出はオイラー角を用いて、膝関節屈伸角度、大腿骨回旋角度、脛骨回旋角度、大腿骨と脛骨の相対回旋角度(膝関節回旋角度)、膝関節内外反角度を求め、さらに横足根関節回内外角度、前額面上での脛骨傾斜角度(脛骨傾斜角度)を算出した。角度の算出には、歩行データ演算用ソフトVICON Body Builder(VICON-PEAK社製)を使用した。またFNAの計測は、CTやレントゲン所見と相関が強いとされるcraing testにて行った。分析は、各被験者の屈曲60°から最終伸展位における大腿骨回旋角度、脛骨回旋角度、膝関節回旋角度、膝関節内外反角度、横足根関節回内外角度、脛骨傾斜角度を調べ、FNAと各角度の相関の程度をPearsonの相関係数を用いて検討した。統計学的有意水準は、危険率p<0.05とした。【説明と同意】本研究を行うにあたって、対象とした14名の被験者には、本研究の目的と方法について説明し、すべての被験者において同意を得られた。また年齢や計測結果などの個人情報は、本研究以外では使用しない旨を説明し、情報の管理に配慮した。【結果】膝関節伸展時、すべての被験者において膝関節は外旋し、SHMが生じた。FNAと正の相関が認められたのは、大腿骨回旋角度(r=0.62 p<0.05)と膝関節回旋角度(r=0.53 p<0.05)であり、脛骨回旋角度は相関が認められず(r=-0.18)、前回の報告と同様の結果を示した。またFNAと膝関節内外反角度、脛骨傾斜角度、横足根関節回内外角度との相関は認められなかった。しかし、膝関節内外反角度は、大腿骨回旋角度(r=0.79 p<0.01)、膝関節回旋角度(r=0.72 p<0.01)と正の相関を示し、脛骨傾斜角度は、大腿骨回旋角度(r=0.79 p<0.01)、膝関節回旋角度(r=0.60 p<0.05)、横足根関節回内外角度(r=0.56 p<0.05)と正の相関を示した。なお、膝関節伸展運動中、大腿骨は内旋、脛骨は外旋、外側傾斜、横足根関節では回外が生じ、膝関節は内反運動が生じていた。【考察】FNAは、立位姿勢における股関節アライメントを変化させる要因であり、FNAが大きいと、大腿骨頭中心が寛骨臼中心に対し前方に位置するため、大腿骨を内旋させて関節面の適合性を高めているものと考察する。また本研究結果から、大腿骨の内旋角度が大きいと、膝関節の内反、脛骨の外側傾斜が大きくなる傾向が確認された。従来の報告では、FNAが大きいと膝関節は外反外旋し、Knee-inする傾向にあると言われているが、脛骨の外側傾斜と膝内反が生じ、FNAが大きくても荷重位での膝関節伸展運動の最終局面では膝関節は内反することが分かった。それは、過剰な大腿骨の内旋運動が強要されると、膝関節の後内側関節包や内側側副靭帯、ACL、膝窩筋などの張力が増加し、大腿骨内旋が制動されるため、大腿骨と脛骨が連結した状態で、回転軸が膝から足部に移動したためであると考えられた。そのため、FNAが大きい被験者では、大腿骨の内旋運動に追従して、脛骨の外側傾斜、膝関節の内反が引き起こされたと考えられた。【理学療法学研究としての意義】FNAなどの形態は先天的なものであるが、長年の月日を経て二次的に変形性股関節症や膝関節症を引き起こす要因となりうるものである。今回得られた結果からも、FNAが大きいと膝関節内反、脛骨の外側傾斜が大きくなるため、内反変形を助長しやすい運動パターンであることが示唆された。二次的な機能障害の発生を予防していくためにも、閉鎖性運動連鎖を解明していくことが重要であると考える。

3 0 0 0 OA ICUAWの診断

著者
畑中 裕己
出版者
一般社団法人 日本臨床神経生理学会
雑誌
臨床神経生理学 (ISSN:13457101)
巻号頁・発行日
vol.48, no.3, pp.128-135, 2020-06-01 (Released:2020-06-01)
参考文献数
37
著者
村山 英晶 影山 和郎 成瀬 央 島田 明佳
出版者
公益社団法人 応用物理学会
雑誌
応用物理 (ISSN:03698009)
巻号頁・発行日
vol.71, no.7, pp.883-886, 2002-07-10 (Released:2009-02-05)
参考文献数
6

構造の状態を正確に把握することができれば,構造物の安全性を保証することが可能になる.さまざまな環境下で使用される実構造物のひずみや振動をモニタリングするためには,正確な測定ができるだけではなく,耐久性にも優れたセンサーが必要となる.酎久性に優れる光ファイバーセンサーは,近年,発展が著しく,既存のセンサーにはない優れた特駐を兼ね備えている.本稿では,世界的なヨットレースに出場した笈さ25mの競技用ヨットに光ファイバーを張り巡らせ,船体のひずみを測定した結果を示す.これにより,船体が設計どおりの剛性をもつことが確認され,また経時的な剛性の変化を評価することが可能となった.
著者
宮内 哲 上原 平 寒 重之 小池 耕彦 飛松 省三
出版者
認知神経科学会
雑誌
認知神経科学 (ISSN:13444298)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.1-7, 2012 (Released:2017-04-12)

磁気共鳴現象を利用して生体の断層像を撮像するために開発されたMRI 装置で脳活動を計測するfMRI の原理が確立されてから二十年が経った。この間fMRI は、特定の刺激やタスクに対する反応として一過性に賦活される脳領域を高い空間分解能で同定する計測法として用いられ、多くの知見が蓄積されてきた。近年になって、安静時の自発性脳活動のfMRI 信号から、離れた脳領域間の活動の相関を求めたり、グラフ理論により脳全体を情報ネットワークとみなして脳の状態を推定する研究が飛躍的に増大している(resting state network及びdefault mode network)。本稿ではfMRI を用いた脳研究の最近の動向として、安静時の自発性脳活動に関するresting state network及びdefault mode networkについて概説する。
著者
白山 映子
出版者
東京大学大学院教育学研究科
雑誌
東京大学大学院教育学研究科紀要 (ISSN:13421050)
巻号頁・発行日
vol.51, pp.363-375, 2011

During the Meiji Restoration, Japan adopted Western culture, ideas, education and technology, and even introduced new animal breeds from the West, including new varieties of rabbits. Cross-breeding with domestic varieties produced rabbits with unusual coloring, and around 1873 these became the target of speculative trading. This phenomenon is known as the "Rabbit Mania". In the same period, the genre Kaika-mono (lowbrow fiction) was popular among the ordinary people. Stories in this genre include "Seiyou Douchuu Hizakurige" (1870), "Aguranabe" (1871), "Bummei Kaika" (1873), "Kaika Mondou" (1874) and "Bummei Inaka Mondou" (1878). This paper discusses two stories belonging to this genre that deal with the "Rabbit Mania" : "Tori Gekka Mondou" and "Usagi no Mondou". The style of these stories is light and comical, and the former has a rather risqué flavor. The author explores the "Rabbit Mania" through an examination of the dialogue in these stories, and reports about the phenomenon in both English and Japanese newspapers. The paper also refers to related nishikie (colored woodblock print) parodies.

3 0 0 0 OA 雑芸叢書

著者
国書刊行会 編
出版者
国書刊行会
巻号頁・発行日
vol.第2, 1915
著者
福井 次郎
出版者
Japan Society of Civil Engineers
雑誌
土木史研究論文集 (ISSN:13495712)
巻号頁・発行日
vol.23, pp.165-175, 2004-06-15 (Released:2010-06-04)
参考文献数
9
被引用文献数
1

Jiun Masuda (1883-1947) was a bridge designer representing Japan who played an active part in the Showa period of prewar days from the end of Taisho period (1920th-1930th). However, few documents remain from that time, but Masuda has been known only to a small group of specialists. In Fall 2002, it became clear that many reports and drawings for bridges that Masuda designed are saved in the Public Works Research Institute. In this paper, the achievements of Masuda were reviewed through these new documents and the actual bridges he designed. The research clarified that besides the well known bridges, Masuda had designed about 20 more bridges, subway stations, docks, quay walls etc. Moreover, it was revealed that he worked with very capable staff, designed the bridge of a variety of structure types, etc. Finally, the future application of these documents was discussed.
著者
土場 学
出版者
The Japan Sociological Society
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.49, no.2, pp.302-317, 1998-09-30 (Released:2010-04-23)
参考文献数
23

女性研究と男性研究を統合するものとしてジェンダー研究というアイデンティティが確立しつつある。しかし, この女性研究と男性研究がどのような意味でジェンダー研究として統合できるかということは今のところ曖昧なままにされている。しかしながら, 女性/男性研究 (運動) を誘導する「解放のパラダイム」の基本的論理を明らかにすることによって, それらの関係を簡潔に整理することができる。すなわち, この解放のパラダイムは, 大きく三つのタイプ-ジェンダー統一化のパラダイム, ジェンダー分断化のパラダイム, ジェンダー相対化のパラダイム-に分類することができる。そして, まず, ジェンダー統一化のパラダイムのもとでは, 女性/男性研究は, それぞれそのパラダイムのレベルで統一化されることで, それぞれのアイデンティティで閉じるよりは, ジェンダー研究というアイデンティティを確立しうる。 また, ジェンダー分断化のパラダイムのもとでは, それぞれそのパラダイムのレベルで分断化されることで, それぞれのアイデンティティで閉じ, ジェンダー研究というアイデンティティは確立しえない。さらに, ジェンダー相対化のパラダイムのもとでは, それぞれそのパラダイムのレベルで相対化されることで, それぞれのアイデンティティで閉じることも, ジェンダー研究というアイデンティティを確立することもできない。また系譜的に見ると, 「ジェンダーからの解放」のパラダイムは, ジェンダー統一化のパラダイムのもとで自立化し, ジェンダー分断化のパラダイムのもとで自閉化し, ジェンダー相対化のパラダイムのもとで自壊化するという否定弁証法的なダイナミズムを展開してきた。そして今やそれは, その解放の理念の出発点に立ち戻ったと見なすべきであろう。
著者
土屋 久
出版者
島しょ医療研究会
雑誌
島しょ医療研究会誌 (ISSN:24359904)
巻号頁・発行日
vol.11, pp.10-15, 2021 (Released:2021-02-01)
参考文献数
7

伊豆諸島南部地域の医療習俗について,八丈島と青ヶ島の巫俗(ふぞく:シャマニズム)を中心に考察した.神懸かりするミコ(巫女)は神役として中心的存在であり,祭祀儀礼に携わる他に各種相談に当たる役割も兼ねている.あるミコが対応した健康相談の内容を民俗病因論上類型化し,先行研究と比較した ところ多くの点で符号していた. 該当しない内容は祭文・経文の中に共通項を見出すことができた.当該地域に暮らす人々の伝統的な病気観や健康観,治療観を考察する作業は,保健医療の現場における問題を考える上で有用と思われる.
著者
渡辺 和子
出版者
東洋英和女学院大学
雑誌
人文・社会科学論集 (ISSN:09157794)
巻号頁・発行日
no.38, pp.19-37, 2021-03

This article aims to contribute some material to the discussion on the Shamanism of Ancient Mesopotamia. A specialist, known as the āšipu, who belonged to some of the main temples, was responsible for treating most diseases in conjunction with other specialists who were organized under him. I believe that this āšipu should be regarded as a shaman in Mesopotamian society.This discussion will include a sample text (No.115) from a book by JoAnn Scurlock (2006) which outlines how the āšipu, in the first stage of his treatment, makes his diagnosis of a client based on their symptoms. When the āšipu ascertains that the disease has been inflicted on the living by a roving ghost (eṭemmu) that is assumed to dwell in the underworld, he organizes a treatment consisting of a series of ritual procedures which includes a set of recitations.In the second stage, he makes a clay figure of the ghost, sets up an offering table to the 'three great gods' (Ea, the god of wisdom and freshwater; Shamash or Šamaš, the sun god and Asarluhi or Marduk the son of Ea), and has the client recite a prayer that he (the āšipu) has prepared three times to the gods. In the third stage, the āšipu buries the figure of the ghost and pours water on it, presumably enabling the ghost to return to the underworld as the figure melts. In the final stage, he purifies the client with a censer and the flame of a torch and then sends the client home by a different path than the one he came by with instructions not to look back.In a case like this, where the disease was caused by a ghost, the healing ritual places great importance on the fact that the ghost is never attacked or made to perish, but is given proper care so that it can remain in the underworld and not venture out among the living again.Japanese people are quite familiar with this kind of understanding. Therefore, an insight into Japanese folk religion and its practices from the viewpoint of comparative studies of religion would shed much light on our understanding of Mesopotamian religion which, like Japanese folk religion, arose naturally over time (during ca. 3000-300 BC).
著者
土屋 久
出版者
島しょ医療研究会
雑誌
島しょ医療研究会誌
巻号頁・発行日
vol.11, pp.10-15, 2021

伊豆諸島南部地域の医療習俗について,八丈島と青ヶ島の巫俗(ふぞく:シャマニズム)を中心に考察した.神懸かりするミコ(巫女)は神役として中心的存在であり,祭祀儀礼に携わる他に各種相談に当たる役割も兼ねている.あるミコが対応した健康相談の内容を民俗病因論上類型化し,先行研究と比較した ところ多くの点で符号していた. 該当しない内容は祭文・経文の中に共通項を見出すことができた.当該地域に暮らす人々の伝統的な病気観や健康観,治療観を考察する作業は,保健医療の現場における問題を考える上で有用と思われる.
著者
河野 勝 三村 憲弘
出版者
日本政治学会
雑誌
年報政治学 (ISSN:05494192)
巻号頁・発行日
vol.66, no.1, pp.1_61-1_89, 2015 (Released:2018-06-10)
参考文献数
22

This paper explores the nature of human moral intuition which motivates us to assist others in hardship. Building upon the idea originally developed by Hannah Arendt, we distinguish “compassion” and “pity” as different mental sources, arguing that each entails a distinct pattern through which the institution is translated into or attitudes and behavior. More concretely, we hypothesize that two variables are particularly relevant in determining these patterns: the degree of familiarity with the environment in which the hardship is taking place, and the number of identifiable people who face the hardship. Survey experiments we conducted in August and December 2012 support this hypothesis, showing that the level of willingness to assist others is affected most significantly by the location of the hardship. The findings also suggest that the sentiment of pity motivates our willingness in the context of foreign countries, while the feeling of compassion dominates our intuition and ironically constrains our willingness in the case of the hardship taking place in our own country. The paper discusses the normative implications drawn from these empirical findings and concludes that the two areas of political science, normative theory and positive analysis, must be more integrated in future research.