著者
福田 智子 駒木 敏 田坂 憲二 黒木 香 矢野 環 川崎 廣吉 竹田 正幸 波多野 賢治 岩坪 健 古瀬 雅義 藏中 さやか 三宅 真紀 西原 一江 日比野 浩信 南里 一郎 長谷川 薫
出版者
同志社大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

平安中期成立かといわれる類題和歌集『古今和歌六帖』約4500首を対象に、独自に開発した文字列解析システムを用いて、すべての和歌の出典考証を行った。また、複雑な書き入れに対応したテキストデータ作成のため、タグ付け規則を案出した。そして、六つの伝本のテキストファイルを作成した。それらを対象に、諸本の同一歌を横並びで比較対照でき、しかも、底本を自由に選択できる校本システムを開発した。さらに、伝本の原態、特殊な漢字表記、朱筆書き入れに関する基礎資料を作成した.
著者
日高 茂暢 室橋 春光 片桐 正敏 富永 大悟
出版者
佐賀大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2019-04-01

特別支援教育は個別の特別な教育ニーズに応えるよう発展してきた一方、家庭での育てづらさや学校での不適応があっても、知能検査によるIQが高い子どもや人(知的Gifted)は、公的な支援が受けにくい状況がある。知的Giftedの心理特性の1つとして、過度激動と呼ばれる自己内外の情報・刺激に対する感受性の高さがあげられる。本研究では、日本における知的Giftedの心理特性をアセスメントし、支援するために、日本版過度激動尺度の開発を行うことを目的とする。また過度激動と関連が予想される神経発達症傾向、および 自尊心等の関連について、調査を行い、知的ギフテッドの特性に関する知見を提供する
著者
細川 育子 中西 正 細川 義隆
出版者
徳島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

本研究では歯周組織構成細胞の一つであるヒト歯根膜由来細胞(HPDLC)を用い、ケモカインおよびMMP産生に及ぼすメラトニンの影響を明らかとすることを目的とし実験を行った。その結果、メラトニンはIL-1βが誘導したHPDLCのCXCL10およびMMP-1の産生を抑制することが明らかとなった。これらのことより、メラトニンは歯周炎病変局所でケモカインやMMP産生を抑制することにより、歯周炎の炎症を調整している可能性が示唆された。
著者
新村 洋一
出版者
東京農業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

本申請の目的は、強力な過酸化脂質分解力を持つ食品乳酸菌を開発し、その腸内導入による腸内過酸化脂質分解の促進化である。平成16年度で、過酸化物分解酵素を有する乳酸菌を分離するための培地を開発し、強力な過酸化物分解力を持つ有用菌株を分離した。17年度では、分離乳酸菌を同定後、過酸化物分解力を評価し、分解機構について考察した。1.分離菌株の簡易同定とグルーピング:分離株を簡易同定(乳酸菌マニュアル、朝倉書店)後、病原性乳酸菌の可能性のある株は除外し、食品に応用できる可能性の菌株を48株を選抜した。分離株のうち過酸化脂質分解力が高い4株を16sDNAシークエンス法と性状解析法により完全同定した。4株ともLactobacillus plantarumに属していた。2.分離株の過酸化脂質分解力の評価:分離株を過酸化脂質と2価鉄を含まない乳酸菌標準培地(GYP)を用いて、好気振とう培養後集菌し、37度Cで過酸化脂質分解力を測定した。過酸化脂質として過酸化リノール酸と活性測定のためのモデル化合物として過酸化クメンを用いた。また親水性基質として過酸化水素を用いた。最も過酸化脂質分解活性が高い株は、Lactobacillus plantarum Pan1-2株であった。この株は過酸化クメンを分解するが、親水性過酸化物の過酸化水素に対しての活性はその約半分であった。3.休止菌体による過酸化物分解機構解析:過酸化ブチルを用いてL.plantarum Pan1-2株における、反応産物を同定した。過酸化ブチルはブタノールに等量的に還元されており、同株が過酸化物を2電子還元することが示唆された。
著者
西藤 清秀 吉村 和昭
出版者
奈良県立橿原考古学研究所
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2016-04-01

パルミラ人は、紀元前2世紀から紀元後3世紀に海路にも隊商を編成し、東はインドまで進出し、バハレーンは格好の寄港地・基地として利用され、パルミラ人のティロス社会への進出も生み出している。本研究ではティロス期の墓の考古学調査と種々の学術領域や手法を用いて、パルミラ社会とティロス社会の交流を可視化する。2019年度、マカバ(Maqaba)1号墳の発掘調査、三次元計測、人骨・遺物の精査を実施した。発掘調査では4基の漆喰棺の完掘と5基の漆喰棺の検出を行い、少なくとも5点の成果を得た。第1は、未盗掘の漆喰棺F-0063を検出し、遺体にストライプ状の有機質を組み合わせた被せ物を施した埋葬状態と副葬品の位置と種類に特色があった。特に左手の甲付近から出土した革袋入り硬貨は、過去数百基も発掘されているティロス期の古墳では初例である。第2は、F-0056の棺長辺側にはパルミラで認められるような水鉢状の施設が付随する形で検出でき、さらに盗掘を受けているが、遺存状態の良好な若年から成人の男性の人骨を検出し、今後の理化学的な分析が楽しみな1体である。第3は、棺への供献土器である。F-0056、F-0062、F-0063の棺蓋石上から完形の施釉陶器碗が各1点、供献時の状態を保ち出土し、今後のティロス期の供献土器の在り方を探る上で重要な例となった。第4は子供を葬ったと思われるF-0064から10枚の真珠貝が出土した。既往の発掘例から真珠貝と子供がティロス期に密接に関係しているが、今回の例はその中でも最も多くの貝が副葬品された墓である。第5は、F-0049では棺外側に周壁を設けた新たな形態の墓の発見である。このように従来ティロスの墓ではあまり認められなかった5点の要素が今回の調査で確認できた。
著者
瀬尾 哲也
出版者
帯広畜産大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
2000

ウシ(子牛および成牛)の首輪にポケットベルを装着し、各牛にそれぞれ給餌可能時刻を設定し、その時刻になるとポケットベルにコンピュータから振動を与え、ドリンクステーションおよびフィードステーションに誘導するための方法を検討した。1.子牛の改良型ドリンクステーションへの誘導実験 従来のドリンクステーションへを子牛が前進しても退出できるように改良した。子牛8頭を1週齢から供試し、改良型ドリンクステーションを設置した群飼ベンで離乳まで群飼した。昨年度の実験では、ポケットベルの振動と代用乳を連合学習させるために専用のドリンクステーションが必要であったが、本年度ではそれがなくても学習可能であることが認められた。平均2日でウシはポケットベルが振動するとドリンクステーションを訪問することを学習した。さらに群からの全誘導のうち90%以上で代用乳を摂取することができた。2.成牛のフィードステーションへの誘導実験 乾乳牛10頭をフィードステーションのある群飼ベンに順々に導入した。昨年度の実験では、ポケットベルの振動と配合飼料を連合学習するための専用のステーションが必要であった。しかし本年度だはそれが必要でなく、フィードステーション前を仕切り、トレーニング牛のみ導入して学習させた結果、平均2.7日で学習させることができた。群からの全誘導のうち約80%で配合飼料を摂取することができた。3.まとめ ポケットベルの振動は、牛を群としてではなく1頭ずつ誘導するのに利用出来ることが明らかとなった。今後は一般的な畜産農家での飼養規模まで供試頭数を増やし実験する必要がある。また本システムは、搾乳ロボットへの誘導や放牧地における牛の誘導にも応用できることから更なる研究が必要である。
著者
宮川 昌久
出版者
千葉大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1999

多数の口腔扁平上皮癌組織と、同一患者の正常組織を用いて以下の実験を行った。1)第10番染色体上にマップされている多数のマイクロサテライト領域のうち、特にヘテロ接合性を示す確率の高い17ヵ所をPCR-microsatellite assay法により調べた。その結果、第10番染色体全体ではmicrosatellite instabilityは42.4%、loss of heterozygosityは72.7%と高率に検出され、口腔癌発生に第10番染色体異常が関与していることが示唆された。また、共通欠失領域として長腕上のD10S202領域(34.6%)とD10S217領域(28.6%)を同定した。さらに、PCR-SSCP-sequence法を用いてPTEN遺伝子を解析したところexon-1の上流に共通したmutationを検出した。mRNAの発現に対する修飾が行われている可能性が示唆された。2)第12番染色体上にマップされている多数のマイクロサテライト領域のうち、特にヘテロ接合性を示す確率の高い24ヵ所をPCR-microsatellite assay法により調べた。現在までのところ、第10番染色体全体ではmicrosatellite instabilityは26.2%、loss of heterozygosityは38.4%とあまり高い変異は検出されず、また、現在までのところ、共通欠失領域は同定できなかった。今後第12番染色体についてさらに詳細に検討を加えていく。
著者
竹本 浩典
出版者
独立行政法人情報通信研究機構
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

歌唱中のソプラノ歌手の声道を磁気共鳴画像法で計測し、声道の第1、第2共鳴の周波数(R1、R2)を、声帯振動の第1、第2倍音の周波数に一致させるフォルマント同調において、声道のどの部分を制御しているかを検討した。その結果、R1は咽頭腔と喉頭腔の接合する角度を調整することで、R2は口腔前部の大きさと口唇での狭めで調整していることが明らかになった。さらに、高音域では、R1を上昇させる声道形状の制御によって、喉頭腔の音響的な独立性が低下して歌唱フォルマントが生成されなくなることが示唆された。
著者
水町 龍一 川添 充 西 誠 小松川 浩 五島 譲司 羽田野 袈裟義 椋本 洋 御園 真史 寺田 貢 高安 美智子 高木 悟 落合 洋文 青木 茂 矢島 彰 藤間 真 森 園子 船倉 武夫 上江洲 弘明 松田 修 森本 真理 井上 秀一 山口 誠一 萩尾 由貴子 西山 博正 堀口 智之 渡邊 信 近藤 恵介
出版者
湘南工科大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

研究に着手後9か月で国際研究集会を行い,当初の研究目標である学士力の基盤となる数学教育を,モデリングを軸にしたリテラシー教育として行うことの可否・可能性を議論した。結論は,解釈の多義性があるので「高水準の数学的リテラシー」とすること,モデリングではなく概念理解の困難を緩和する方向で近年の数学教育は発展してきたこと,しかしいくつかの留意事項を踏まえれば十分な可能性があるということであった。そこで「高水準の数学的リテラシー」とはコンピテンスであると定式化し,教育デザイン作成に際して価値,態度,文脈を意識する必要を明らかにした。微分積分,線形代数,統計等の諸科目で教材作成・科目開発を実践的に行った。
著者
山下 俊一 高村 昇 中島 正洋 サエンコ ウラジミール 光武 範吏 鈴木 啓司
出版者
長崎大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2016-04-01

チェルノブイリ周辺の海外連携研究拠点並びに欧米共同研究機関と共に放射線誘発甲状腺がんの分子疫学調査を以下の項目で推進した。特に、国際社会における専門家交流と学術研究成果の新知見などの意見交換ならびに今後の調査研究推進について国際交流実績を挙げた。① 7月3~5日:ジューネーブにて開催されたThe 15th meeting of WHO REMPANに参加し、チェルノブイリと福島の教訓と今後の研究に向けた協議を行った。8月28~29日:カザフスタンでの第12回国際会議“Ecology, Radiation and Health”、11月22~23日:台湾での第32回中日工程技術検討会、平成30年2月3~4日:長崎での第2回3大学共同利用・共同研究ネットワーク国際シンポジウム、3月2日:ベラルーシにて開催された国際甲状腺がんフォーラム、3月5日:ロシアのメチニコフ国立北西医科大学での世界展開力強化事業に関する調印記念シンポジウム等に参加し、放射線と甲状腺に関する研究成果を発表した。② 共同研究者として平成29年5月~平成29年10月までベラルーシ卒後医学教育アカデミーよりPankratov Oleg先生を客員教授として招聘し、小児甲状腺がん全摘手術後の放射性ヨウ素内用療法の副作用研究を行い、平成29年11月~平成30年3月までロシア・サンクトペテルブルクより北西医科大学のVolkova Elena先生を客員教授として招聘し、内分泌疾患の臨床疫学研究と、日露両国における診断治療法の違いについての比較研究を行なった。チェルノブイリ周辺諸国より6名の研修生を7月13日~8月16日まで受け入れた。サンプリング収集と解析については、チェルノブイリ現地における大規模コホート調査研究を推進し、生体試料収集保存管理のバイオバンク構築維持を引き続き継続している。
著者
渡辺 智恵美
出版者
(財)元興寺文化財研究所
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1993

本研究では過去に収集した耳環のデータに基づき復原製作すると共に、配合比を変えた金・銀合金の標準サンプルを製作し(Au:Ag=97:3 W%〜 15:85 W%迄9種類)、実際の遺物との色調の比較検討を試みた。平成3年度の奨励研究において自然科学的手法を用いた耳環の製作技法の解明を通して古墳時代の鍍金技法の考察を試みたが、今回さらに調査を進めた結果、(1)金、銀以外に錫、鉛、鉄を素材とした耳環の存在が指摘されていたが、銅製や鋳造による青銅製の耳環が存在すること、(2)走査型電子顕微鏡およびX線マイクロアナライザーによる調査の結果、銅芯と表面層の間に中間層を持つものが多く、中間層に銀箔や銀板を使用したものが四国地方〜中部地方で確認でき、汎日本的に存在する可能性が窺える。(3)色調的には銀製品と思われるものの中に金の含有量の高い鍍金製品が存在すること、等を確認することができた(肉眼観察ではAu:Ag=50:50 W%位でほとんど銀製品に見える)。耳環の製作技法の解明および復原製作を通して鍛接や鑞付け、鍛金あるいは金・水銀アマルガムによる鍍金方法等、古墳時代の金工技術の一端を推定することができたが、中間層の銀板や中空耳環における地板の合わせ目の処理方法(中空耳環の場合、内面では合わせ目が確認できるが外面では全く確認できない)等、多くの疑問も残った。また器形的には単純であるが、その製作に当たっては専門的知識を多く必要とするものと推測され、土器等とは異なった流通経路(専門工人の存在)が考えられる。このことは先述の中間層を持つ耳環が汎日本的に存在かる可能性や住居址からの出土例が少ないことからも推測できる。今後は自然科学的調査と考古学的調査を総合的に行い、統計学的処理により全国的な集成を行うと共に製作技法や素材の差異により耳環に正確な呼称を与え、統一を図りたい。
著者
本間 道子 風間 文明
出版者
日本女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

本研究は組織体としての違反・不正行為(organizational transgressions)の生起を社会心理学、組織心理学から解明し、組織の不正行為の容認にいたる心的メカニズムを明らかにし、現代社会に広がりつつあるモラルハザードを抑制する要因を明らかにすることを目的とした。特にここでは、組織体としての不正行為(組織体犯罪、ホワイトカラー犯罪)に焦点を当てた。研究目的は不正行為の生起に影響を及ぼす組織集団に関する要因を軸としたモデルを構築し、それを検証しそれに基づいて抑止効果を検討することである。昨年度の2つの研究、文献研究、探索的調査の結果から、本年度は新たに組織性違反行為とし、組織内要因を精査し、公正観の低下、情報交換の少なさ、仕事の位置づけのなさ、仕事の排他性、役割認識、内集団志向、外集団認識の低下を仮定した。さらにこのような組織性としての違反行為の心的メカニズムのモデル構築に向け、その中心的概念として、集合罪悪感(collective guilt)を提起した。調査は、組織体犯罪を体験した企業従業員を対象にした。また直接組織体犯罪に関与した従業員に対しても面接調査をおこなった。その結果、まず集合罪悪感は下位概念として「社会に対する申し訳なさ」「共有した責務・償い」「不正行為の後悔」が明らかになった。これらを結果変数として組織要因を重回帰分析、さらにはパス解析した結果、集合罪悪感を規定した要因は外集団認識低下、公正観の低下、情報交換の低下であった。つまり、社会にたいして事の重大さの認識が低いことが集合罪悪感を低下させ、また犯罪を誘発させた。また面接調査から、当事者の罪悪感は内部に対するものであり、コミュニケーションの少なさ、成果志向が犯罪を誘発していた。これらの成果は日本社会心理学会45回大会、国際心理学会28大会で発表した。
著者
RIESENHUBE K. 長町 裕司 オロリッシュ J?C 荻野 弘之 川村 信三 佐藤 直子 大谷 啓治
出版者
上智大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1999

本研究は西欧ラテン中世盛期・後期スコラ学におけるアリストテレスの知性論・霊魂論の受容・解釈史を解明することを課題とした。方法的に、アリストテレス『霊魂論』解釈の手がかりとなったそのアラブ哲学註解、特にアヴィセンナとアヴェロエス、また多大な影響を及ぼした新プラトン主義的精神理解、特に『原因論』、さらにアウグスディヌスの意識論的精神論との関係を研究の視野に入れることになった。本研究では『霊魂論』の解釈史の中で以下の諸段階と諸学派を区別することができた。1.13世紀前半ではアリストテレスの知性論は、アヴィセンナに従って理解され、能動知性が拒否されることもあれば、アウグスティヌスの照明説と結びつけて能動知性が神と同一視される(オックフォード学派)など広く異なった試みが見られる。2.1250〜70年代、1252年パリ大学学芸学部で『霊魂論』が教材として採用される時点から始まるラテン・アヴェロエス主義の、そのパリでの禁令書に至る、この中心的な時期において、(1)アルベルトゥス・マグヌス、(2)ブラバンのシゲルス、(3)ボナヴェントゥラ、(4)特にトマス・アクィナスにおける能動知性・可能知性の諸解釈の発展と絡み合って身体と霊魂の差異がアウグスティヌス主義的に理解される一方、知性と霊魂が同一視され、霊魂と身体の実体的一致が積極的に新しい人間論に向かって展開されるが(アルベルトゥス、トマス)、その際アヴェロエスの新プラトン主義的な知性単一説との討論が原動力となった。3.1280〜1300年の過渡期においてラテン・アヴェロエス主義的知性論が至福論との関係において初めて体系的に発展する。4.1300〜30年ではアヴェロエス主義の知性論がパリからパドヴァとボローニャへと移り、知性単一説を基盤にした統一的なアリストテレス解釈が推し進められる一方、ケルンのドミニコ会学派でフライベルクのディートリヒによって能動知性論とアウグスティヌスの心理学的精神論が結びつけられた上、エックハルトが魂の造られざる根底という概念を基盤にドイツ神秘思想を知性論的に基礎づける。5.14世紀半ばから15世紀前半では形而上学的能動知性論の前提たる抽象説は、一方で唯名論的・経験論的に平面化され解消され、他方で15世紀前半のプラトン受容に伴って自己認識論によって乗り越えられ、近世の主体概念の先駆的形が見られる。6.16世紀前半のイタリアのアヴェロエス主義とトマス学派の間に霊魂不滅が議論の新しい焦点となる。
著者
宗 未来
出版者
東京歯科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2020-04-01

抑うつ者の大半は診断閾値未満の軽症である。人数が多く遷延しやすいため社会的損失はうつ病に匹敵するが、通常は医療の対象外である。認知行動療法(CBT)に期待が集まるが、治療者不足の上、費用対効果が悪い。効率重視のインターネットCBT(iCBT)やグループCBT(GCBT)では、前者は実地では不人気で広がらず、後者は費用対効果や脱落率で優れていても、参加人数に制限がある。就労者は平日昼間や遠隔地からの参加が難しい。赤の他人と同席する煩わしさも敬遠される。本研究では、ウェブ上のVR(仮想現実)空間で参加者がアバター(分身)となり参加するVR-GCBTによるiCBTの抗うつ効果増強を探索的に検討する。
著者
野崎 剛一
出版者
長崎大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2013-04-01

鶏卵の輪郭を観察すると卵の左右に差が生じていることが観察される。鶏卵の左右回転方向が雌雄に大きく関与しているという仮説を立てた。卵の歪み計測で卵の捩れを検出するために、卵の全輪郭を捉える3台のカメラ構成による計測システムを考案した。卵の捻れ方向を解析すると、卵の歪みや傾きは、振り子の強制振動と同じリミットサイクルと酷似している。この特性は、卵の回転方向が雌雄で逆、つまりメス卵は右に回転し、オス卵は左に回転しているものと想定される。3面撮影のプロトタイプシステムの構築と検証を行い、実現すれば、採卵鶏種のオスひな殺処分問題の解決につながり、鶏卵を孵化前に食料、ワクチン開発の需要に使える道が開ける。
著者
富樫 廣子 吉岡 充弘 佐久間 一郎
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

AD/HDに類似した行動学的特徴を有するモデル動物であるSHRSPを用いて、AD/HD患児に認められる男児優勢性の関連分子としての神経ステロイドの役割を脳微小血管構築の観点から追究した。すなわち、AD/HDの病因の一つとして、局所脳血流低下等の機能不全が報告されている大脳前頭皮質に焦点を当て、血管新生因子VEGFと関連分子[VEGF受容体(KDRおよびFlt-1);pAkt ; endothelial nitric oxide syntase]ならびにgonadal steroid受容体[エストロゲン受容体(ERαおよびERβ);アンドロゲン受容体(AR)]の発現様式と去勢後におけるSHRSPの行動変容との関連性を検討した。その結果、本モデルに雄優勢性に認められる不注意力を背景とした短期記憶障害が、睾丸摘出やエストロゲン投与あるいはアンドロゲン受容体拮抗薬投与といった抗アンドロゲン処置によって改善すること、睾丸摘出による行動変容がホルモン補充処置によって去勢前に復することを明らかにした。さらに、これら行動変容と大脳前頭皮質アンドロゲン受容体およびエストロゲン受容体の発現、さらにVEGF関連分子発現との関連性から、AD/HD患児における大脳前頭皮質機能不全の背景には脳微小血管構築に関わる分子機構の異常があり、そこにおいてアンドロゲンとエストロゲンが拮抗的役割を果たしていることを示唆する成績を得た。これら研究成果は、米国神経科学会議年会や日本精神神経薬理学会等、国内外の学会において発表し、論文としてまとめた。
著者
松島 永佳
出版者
北海道大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

福島原子力発電所の汚染水問題で、トリチウムの分離・回収技術の確立が急務とされている。本研究では、水電解と燃料電池を組み合わせた省エネルギ-型水素同位体分離法を研究した。実際に、固体高分子形燃料電池では生成水側に水素同位体が濃縮される同位体効果を発見し、水電解と併用することで、高効率かつ少ない電力消費量で水素同位体が分離・濃縮できることを実験的に証明した。
著者
福原 長寿
出版者
静岡大学
雑誌
挑戦的研究(萌芽)
巻号頁・発行日
2019-06-28

本研究では、産業プロセス排出のCO2を、CO2の分離操作なしに空気成分と混在したまま、25℃程度の常温域で高効率・高選択的に、かつ大量にCH4に変換する触媒反応場を創製する。そして、この反応場の触媒機構を解明し、CO2資源化技術の新学理を開拓する。研究のポイントは、構造体触媒反応場によってCO2を常温域で効率的なメタン変換を大量規模で行なうことである。通常の報告例では300℃程度で実施されるCO2のメタン化反応を、常温域で実施することは世界で未だ報告例はないことから、本研究で開拓する技術によって世界に先駆けたCO2の資源化ルートを開拓する。