著者
川端 二功 辻 智子
出版者
日本補完代替医療学会
雑誌
日本補完代替医療学会誌 (ISSN:13487922)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.55-60, 2011 (Released:2011-10-19)
参考文献数
14
被引用文献数
2 2

魚肉ソーセージは魚肉タンパク質を高含有する食品である.実験動物において魚肉タンパク質は血中の総コレステロール,LDL-コレステロール,中性脂肪を低下させることが報告されているが,ヒトにおいて魚肉タンパク質が血中コレステロール値を改善するかどうかについては明らかではない.本研究では,空腹時血中 LDL-コレステロールが 140–179 mg/dL の男性 20 名を被験者とした.各被験者に一日当たり 225 g の魚肉ソーセージを 8 週間摂取させた.摂取させた魚肉タンパク質は一日当たり 13.5 g に相当する.結果,魚肉ソーセージの摂取により,摂取後 4 週又は 8 週において血中の総コレステロール,LDL-コレステロール,動脈硬化指数は有意に減少し (P < 0.01, P < 0.05, P < 0.01),HDL-コレステロールは摂取後 4 週及び 8 週に有意に増加した (P < 0.01).投与期間中,副作用は特に観察されなかった.これらの結果より,魚肉タンパク質を含有する魚肉ソーセージの反復摂取は高コレステロール血症患者のコレステロール値を改善させる可能性が考えられた.
著者
野田 和彦 片山 英樹 升田 博之 小野 孝也 田原 晃
出版者
Japan Society of Corrosion Engineering
雑誌
Zairyo-to-Kankyo (ISSN:09170480)
巻号頁・発行日
vol.54, no.8, pp.368-374, 2005-08-15 (Released:2011-12-15)
参考文献数
55
被引用文献数
3 5

材料の実用に際し, 大気腐食は身近にして多くの課題を有する問題であるが, 一般的な電気化学測定による評価が困難であるため, 大気腐食評価法に関して多くの取り組み, 試行がなされている。ここでは, 大気腐食性評価におけるモニタリング技術と表面観察法を中心とした大気腐食評価法を紹介した。モニタリングにおいては, 大気暴露試験, ACMセンサ, 交流インピーダンス法, QCMについて解説し, その有効性と適用範囲を整理した。鉄鋼材料の大気腐食性評価に用いたさび膜のイオン透過抵抗測定およびイオン選択透過性評価について, 試料作製から解析の一部を紹介し, 腐食生成物の物性評価の重要性を説明した。さらに, 表面観察法としてケルビン法や原子間力顕微鏡を用いた表面電位測定, 表面pH分布測定の有効性を解説することで, 表面可視化技術の発展と大気腐食性評価への適用の期待を示した。
著者
小松原 正吉
出版者
Okayama Medical Association
雑誌
岡山医学会雑誌 (ISSN:00301558)
巻号頁・発行日
vol.90, no.1-2, pp.101-119, 1978-02-28 (Released:2009-03-30)
参考文献数
37

A pertinent procedure for preserving postoperative urinary and sexual functions was searched in the radical surgery for rectal cancer, from a neuroanatomical point of view, and the clinical status about disturbances of these functions was analized in relation with a mode of preservation of the lower hypogastric and/or the pelvic nerve among the patinet undergone the surgery applied this procedure. The result of the operation was also evaluated as for the influence of this procedure on the curability of the cancer.Results obtained were as follows:1. In the anatomical study with 17 necropsy cases, it was found that the most preferable mean for identifying the lower hypogastric nerve, pelvic plexus and pelvic nerve was to begin with isolating the upper hypogastric nerve dividing the posterior peritoneum along the lower abdominal aorta, and to follow the bilateral lower hypogastric nerves on the inner surface of the pelvic cavity down to the pelvic plexus, from which the pelvic nerves were able to explore by the retrograde approach to the sacral foramina. Since this procedure was able to be progressed in accordance with that of the radical operation by Miles, technical troubles were of eliminable.2. Urinary functions were examined on 47 cases out of 60 patients received the surgery with the nerve-saving procedure above.a) The period before the spontaneous urination occurred after the surgery was prolonged significantly by the bilateral injury to the pelvic nerve and this was not observed in the patient whose pelvic nerve was unilaterally injured, as well as in the patient whose lower hypogastric nerve was uni- or bilaterally injured.b) The result of cystometry and catheterization study showed that cystic hypotonia and urinary retention prolonged as long as 40 days or more, and 23 days in average in the patient with injury to the bilateral pelvic nerves, as compared to 8 days in average in the patient with bilateral denervation of the lower hypogastric nerve and also in the patient with unilateral injury to the pelvic nerve. Duration of sensation as to urinary retention was quite accorded with these results.3. Sexual function was surveyed making inquiries by the letter to 48 subjects and was summarized on 43 including 19 female with satisfactorily recorded answers.a) Ability of the erection was preserved in about 60 to 70% of the patient regardless of presence or absence of the denervation of the lower hypogastric nerve. However, it was impaired in all patients with bilateral injury to the pelvic nerve, although even the unilateral preservation saved the ability in all.b) Ability of the ejaculation was satisfactorily kept only in the subjects whose lower hypogastric nerve was bilaterally saved. Among those who had injury to bilateral pelvic nerve, only the patient whose lower hypogastric nerve was bilaterally saved preserved the ability, suggesting a close participation of the hypogastric nerve to the ejaculation.4. The decrease in the curability of the cancer under this procedure was not observed, compared with that in patients undergone the surgery performed without the positive intention to save the nerve but with the aim to eradicate the cancer.
著者
大喜多 紀明
出版者
大妻女子大学人間生活文化研究所
雑誌
人間生活文化研究 (ISSN:21871930)
巻号頁・発行日
vol.2019, no.29, pp.676-681, 2019-01-01 (Released:2020-01-24)
参考文献数
13

本稿では,明治以降,恣意的におこなわれた迷信打破が,迷信を排除する方向に世論を導いたのみならず,結句,日本人の心性を制限する方向へと導いた可能性があることを,迷信と述語論理の関連性の観点から論じた.

2 0 0 0 OA 麻疹ウイルス

著者
中山 哲夫
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.98, no.1, pp.159-166, 2009 (Released:2012-08-02)
参考文献数
16

麻疹ウイルスが分離されて50数年経過し分子生物学の進歩により麻疹ウイルス感染の分子機構が解明されつつある.麻疹ウイルスに感受性の高いB95a細胞が発見され野生株の分離が容易になり麻疹ウイルスreceptorがSLAM(signaling lymphocytic activation molecule;SLAM)であること,細胞融合,転写・複製機構の解明が進んできた.ワクチン接種の拡大により麻疹はコントロールされてきているが,我が国においては2007年に成人麻疹の増加が社会問題となり2008年からはCatch-up campaignが中学1年生,高校3年生を対象に始まり2012年麻疹排除を目指している.麻疹ウイルスの最近の知見と病態の解析,分子疫学等の知見を紹介する.
著者
フォンガロ エンリーコ
出版者
イタリア学会
雑誌
イタリア学会誌 (ISSN:03872947)
巻号頁・発行日
vol.59, pp.53-70, 2009-10-17 (Released:2017-04-05)

本稿は三部から成る。第一部は、Introduzione bio-bibliograficaとし、カルロ・ミケルシュテッターの生涯と著作について、短くとも出来る限り情報量を損なわないように略述することを試みた。まず生まれ育った環境-ユダヤ系家庭、ゴリツィアの典型的な中央ヨーロッパ文化社会、ドイツ系の学校教育そして、特に後世のミケルシュテッターに非常に大きな役割を果たしたゴリツィアでの友人関係についてまとめた。次に、彼が大学時代を過ごし、著作を著し、自ら命を絶つまでの短い生涯の最後の期間を過ごしたフィレンツェでの生活について記した。最後に、死後の彼の思想の受容について、パピーニの新聞記事とジェンティーレの批判をはじめ、カピティーニのPersuasioneの解釈、カッチャーリ、マグリスなどの著作の影響で、80年代から現在まで続くミケルシュテッターの思想の再発見と再評価の概要について述べた。第二部は、Il mondo della Rettorica,la morte e la Persuasioneとし、ミケルシュテッターの思想の最も重要な概念を概説した。つまり、ショーペンハウアーとレオパルディから受けた影響がはっきりと読み取れるRettoricaの概念、そしてそれよりも難解なPersuasioneの概念である。Rettoricaの概念を用いて、ミケルシュテッターは、ブルジョワ社会とその世界観の徹底的な批判をするのみならず、「意志の形而上学」がもたらした近代ヨーロッパ文化のニヒリズムの衰退を明らかにした。さらに、ミケルシュテッターは、Persuasioneの概念を用いて、Rettoricaの世界観とは違う存在のあり方の可能性を思索したが、このPersuasioneの解釈をめぐっては現在も議論が続いている。第三部は、Tempo rettorico,tempo persuaso,tempo risvegliatoとし、ミケルシュテッターのPersuasioneの意味の問題を文化間的視点から考察した。Persuasioneの解釈の中では、カッチャーリによるルカーチの日記のイタリア語版に付した論文の中で行なったものがよく知られているが、カリオラート・フォンガロによる著書「カルロ・ミケルシュテッター:パルメニデスとヘラクレイトス.エンペドクレス(Carlo Michelstaedter:Parmenide ed Eraclito.Empedocle)」の中に収められている共著論文Figure dell'infigurabileにおいては、Persuasioneをルカーチ的なプラトニズムから脱却させ、Persuasioneの創造性と有限性という観点から説明がなされた。本稿では、カリオラート・フォンガロによるPersuasioneの解釈をさらに、非ヨーロッパ的な視点から分析し、新しい解釈を試みた。それに際して、友人のムロイレ(Enrico Mreule)がミケルシュテッターの死後、新聞記事においてミケルシュテッターを「ヨーロッパの釈尊」と評したことを手がかりとした。ミケルシュテッターのRettoricaとPersuasioneの背景にある時間性の分析を行なったうえで、ミケルシュテッターの「有の完全無欠」としてのPersuasioneの瞬間を、東洋的な無の概念と密接に結びついた西田幾多郎の瞬間と比較した。無の自己限定として現在と瞬間をとらえる西田の思考を参照することにより、ミケルシュテッターのPersuasioneは、西洋的な有、つまり、ギリシャのパルメニデス的な「現前性としての有」の概念から派生するという結論が導き出された。このように、ミケルシュテッターのPersuasioneの概念は西洋的形而上学の極限にあるものであるが、同時にそれを越え、形而上学からの出口を示しているものと思われる。ここに示されたように、ヨーロッパの思想の他の文化、特に仏教的文化との出会いは、実りある文化間的対話・思想の「場所」を示すものである。
著者
奈良原 英樹
出版者
公益財団法人 日本醸造協会
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.89, no.11, pp.873-881, 1994-11-15 (Released:2011-09-20)
参考文献数
20
被引用文献数
6 7

我々醸造家は, 製造工程中に何か思わしくないような現象などをみると, それが麹菌の特質や生育特性に適していないことをしていながら, 時として種麹に原因を擦りつけるようなことがある。本稿は, それらの誤解をもう一度, 見直し一層優れた製品を安定して生産するよう, 種麹を供給する側から解説していただいた。
著者
黒川 徹
出版者
認知神経科学会
雑誌
認知神経科学 (ISSN:13444298)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.45-51, 2021 (Released:2022-01-15)
参考文献数
9

【要旨】遠城寺式乳幼児分析的発達検査法は1960年に発表され、1975年に九州大学小児科改訂版が出版された。本検査法は運動、社会性、言語の各々の領域の発達を評価し、その凹凸をグラフで示し、しかも経過も分りやすく表示され、発達の特徴が一見して分かる。検査に多くの時間を要しない、設問が日常生活に密着し、特別な用具も不要であるところから、小児を専門とする者であれば、比較的容易に検査ができる。それ故、本検査法は小児保健、小児医療、教育、発達学等幅広い分野で、全国津々浦々で長年に亘って用いられて来た。
著者
向井 大喜 村上 忠幸 松本 伸示
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.455-464, 2019-11-29 (Released:2019-12-20)
参考文献数
19
被引用文献数
2

本研究では,高校生の探索的な科学的問題解決における,仮説形成の到達段階を評価する指標の開発を目指した。そこで,仮説形成プロセスのモデルを設定して評価指標を作成し,高校生に実践された探索的な科学的問題解決を実際に評価した。その結果,活動が進展している学習グループには以下の(1)~(3)が認められた。(1)実験素材への「操作」を通して「要素の抽出」が生じた。(2)要素に説明付けすることで「説明仮説の生成」が生じた。(3)説明仮説から演繹することで「作業仮説の生成」が生じた。しかし,停滞している学習グループでは,「要素の抽出」が繰り返され「説明仮説の形成」へ進まず,演繹的探究への移行が起こらなかった。このことより,本研究で提案する指標には,仮説形成の段階を評価できる可能性があることが明らかになった。
著者
浜谷 越郎
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.155, no.4, pp.258-267, 2020 (Released:2020-07-01)
参考文献数
49
被引用文献数
1 1

ロモソズマブ(イベニティ®)は,スクレロスチンをターゲットに創薬されたヒト化抗スクレロスチンモノクローナル抗体である.スクレロスチンは,骨細胞によって産生される糖タンパク質で,骨芽細胞系細胞でWntシグナル伝達を抑制することにより,骨芽細胞による骨形成を抑制するとともに破骨細胞による骨吸収を促進する.ロモソズマブはスクレロスチンに結合することでその作用を抑制し,骨形成の促進,骨吸収の抑制を示す.ロモソズマブの骨形成促進作用は主にモデリングに基づくとされる.ラットおよびカニクイザルの卵巣摘出(OVX)モデルを用いた検討において,ロモソズマブは骨量および骨強度を用量依存的に増加させた.また,ロモソズマブは継続投与により,骨形成促進作用の減弱が認められた.ロモソズマブはラットにおいて骨芽細胞の過形成や良性骨腫瘍,悪性骨腫瘍の発生がほとんどみられず,これは時間依存的な骨形成促進作用の減弱が要因と考えられる.臨床試験では,投与12ヵ月の時点で新規椎体骨折抑制効果が認められ,6ヵ月時点で骨密度増加が認められている.骨形成促進作用と骨吸収抑制作用のデュアル・エフェクトを有するロモソズマブは,新しい治療の選択肢となると期待しており,2019年1月に「骨折の危険性の高い骨粗鬆症」を効能・効果として承認された.
著者
大槻 敦巳 大島 成通
出版者
日本ばね学会
雑誌
ばね論文集 (ISSN:03856917)
巻号頁・発行日
vol.2019, no.64, pp.23-31, 2019-03-31 (Released:2019-10-01)
参考文献数
10

Traditional Japanese bows have a laminated structure made up of highly flexible bamboo and wood. Each bow is composed of multi arcs having different cross sectional areas along the length and also with different radii of curvature. Three stages setting procedure is required before shooting a Japanese bow. At first the bow is standing free, then, it is bent and constrained to have negative curvature using the bow string (chord), and finally formed into various shapes having positive curvature. Japanese bows does not have a symmetrical shape, and the position of the grip is also shifted from the center of the bow. Therefore, the deformation characteristics and the dynamics to analyze Japanese bows are very complicated. In recent years, large deformation analyses of the flexible bows have attracted attention considerably because of both analytical and technological interests in the design of bows and arrows. This study presents the details of the theoretical analysis results of Japanese bows obtained by using a simplified model consisting of multi arc segments. Each segment is treated as a large deformable nonlinear flexible beam and deformation analysis of individual arc segments is done by using the elliptic integral derived from Elastica theory. Furthermore, in order to confirm the applicability of the proposed large deformation theory, a large deformation experiment is performed. As a result, the theoretical analysis shows a very good agreement with the experimental results for the large deformed shape of the bow, which was restrained and loaded on the string. Moreover, the dynamic characteristics of Japanese bow and arrow with regard to the parameters such as the radius of curvature and bow arc ratio is evaluated.
著者
脇田 和美 杉野 弘明 鈴木 崇史 森本 昭彦
出版者
日本沿岸域学会
雑誌
沿岸域学会誌 (ISSN:13496123)
巻号頁・発行日
vol.35, no.4, pp.55-67, 2023-03-31 (Released:2023-04-17)
参考文献数
47

2015年、瀬戸内海の目指す姿が「きれいな海」から「豊かな海」へ転換され、各地域が目標を設定して取り組むことが求められている。本研究は、瀬戸内海の将来像を描く上で最も基礎的な情報の一つとして、沿岸住民の持つ瀬戸内海の望ましい姿を明らかにした。兵庫県・香川県住民880名を対象にWEBアンケート調査を行い、自由連想法により得られた回答をテキスト分析し、上位頻出語について年代別・県別にコレスポンデンス分析した。その結果、①瀬戸内海がこのままきれいな海で、住民に海の恵みを与え続け、それを基盤とした地域の発展を望むこと、②20~30代は地域の発展を、50~60代は現状の環境維持を、40代はその中庸を望む傾向があること、③兵庫県回答者は食料供給サービスとしての海産物の豊かな海を、香川県回答者は文化的サービスとしてのゴミのないきれいな海を望む傾向があること、が明らかとなった。「きれい」は主に景色、水質、ゴミのない、の3つを意味すること、「豊か」は主に食料資源としての海産物を意味することも確認された。今後は、幅広い関係者が合意できる目標設定に向け、多様な利害関係者がそれぞれに望む「豊かな海」のさらなる具体化が必要である。
著者
矢尾 幸三 曽根原 裕介 永濵 文子
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.158, no.5, pp.408-418, 2023-09-01 (Released:2023-09-05)
参考文献数
40

ダルビアス®点滴静注用135 ‍mgの有効成分であるダリナパルシンは,グルタチオン抱合体構造を有する有機ヒ素化合物である.腫瘍細胞内でミトコンドリアの機能障害(膜電位の低下等)や細胞内活性酸素種の産生促進等を引き起こすことにより,アポトーシス及び細胞周期停止を誘導し,腫瘍増殖抑制作用を示す.ダリナパルシンの一部は,細胞膜表面に発現するγ-グルタミルトランスペプチダーゼ(γ-GT)を介してジメチルアルシン酸-システインに変換され,シスチントランスポーターによって細胞内に取り込まれる.多くの腫瘍細胞は,酸化ストレスを回避するためグルタチオンの細胞内レベルを高く維持しており,そのためγ-GTとシスチントランスポーターが高発現している.ダリナパルシンは,腫瘍細胞のこの特性を利用し,腫瘍細胞に効率的に取り込ませることで増殖抑制作用を示すよう設計された新規の抗悪性腫瘍薬である.再発又は難治性の末梢性T細胞リンパ腫を対象とした国際共同第Ⅱ相試験(ピボタル試験)において,主要評価項目である効果安全性評価委員会の中央判定による奏効率は19.3%(11/57例,90%信頼区間:11.2~29.9%)であり,ダリナパルシンが投与された患者65例のうち発現頻度が5%以上のGrade 3以上の副作用は,好中球減少(9.2%,6例),貧血(6.2%,4例)及び血小板減少(6.2%,4例)であった.国際共同第Ⅱ相試験で再発又は難治性の末梢性T細胞リンパ腫に対する一定の有効性及び許容可能な安全性が示されたことを受け,「再発又は難治性の末梢性T細胞リンパ腫」を効能・効果として2022年6月にソレイジア・ファーマ株式会社が承認を取得し,同年8月に日本化薬株式会社から発売された.当該疾患の新たな治療選択肢の一つとして臨床現場に寄与し得ることが期待される.