著者
山下 まり
出版者
東北大学
雑誌
特定領域研究(A)
巻号頁・発行日
2000

中南米に生息するAtelopus(ヤセヤドクガエル)属のカエルの多くは、主に皮膚に水溶性毒を有する。1975年にコスタリカ産のAtelopus属のカエルからtetrodotoxinが同定されたが、zetekitoxinはすでに1969年に、Furman,Mosherによってパナマ産のA.zetekiに存在する新規の水溶性低分子毒として報告された。しかし、zetekitoxinは、その後、A.zetekiが保護条約下に置かれ、試料が入手出来なくなったことから、その構造は発見から約30年間未定であった。韓国科学技術院のY.H.Kim教授から規制前に精製された半精製品及び精製品のzetekitoxinを供与された。本研究は立体構造を含めたzetekitoxinの構造決定を行うことを目的とした。1.精製Biogel P-2,BioRex70,Hitachi gel3011Cを用いたHPLCで半精製品のzetekitoxinを精製し、純品を約300-400μg得た。2.性状FT-IR(ZnSe)1702,1561,1421,1338,1268cm^<-1>;HR-ESIMS[M+H]^+m/z553.1369(calcd for[C_<16>H_<25>N_8O_<12>S_1]^+m/z553.1313.[M-SO_3+H]^+m/z473.1725(calcd for[C_<16>H_<25>N_8O_9]^+m/z473.1744.この結果から、硫酸エステルの存在が示唆された。TLC(Silica gel 60)Pyr-EtOAc-AcOH-H_2O(15:7:3:6)Rf0.57(tetrodotoxin:0.50,saxitoxin:0.36).saxitoxinと同様に1%H_2O_2/H_2O(v/v)噴霧、加熱後にUV365nmで蛍光スポットとして検出された。3.NMRスペクトルと平面構造の推定NMRスペクトルは全て4%CD_3COOD/D_2O中、20℃か30℃で測定した。^1H-^1HCOSY,TNTOCSY,HSQC,HMBC,NOESY,NOE差,^<13>C NMRスペクトルの解析から、saxitoxin骨格を部分構造にウレタン、N-OHをもつ、非常に特異な新規構造を推定した。
著者
常田 聡 奥田 修二郎
出版者
早稲田大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2015-04-01

代謝活性を止めている休止細菌は,抗生物質存在下において生存できるため,感染症難治化の原因となる。本研究では,細菌の細胞骨格であるFtsZに着目し,細胞分裂時のZ-ringの形成を蛍光共鳴エネルギー移動で検出する遺伝子組換え大腸菌株の開発を行った。その結果,セルソーターを用いることで休止細菌と分裂細菌の分離に成功し,休止細菌は抗生物質(オフロキサシン)に対して高い抵抗性を持つことがわかった。また,トランスクリプトーム解析の結果,休止細菌は乳酸デヒドロゲナーゼの遺伝子発現を亢進させていることがわかった。さらに,マイクロ流体デバイスを用いたシングルセル観察によっても上記の結果が支持された。
著者
畠山 昌則
出版者
東京大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2005

ヘリコバクター・ピロリはIV型分泌機構を介して病原タンパク質CagAを胃上皮細胞内に注入する。本研究では、胃上皮細胞内に侵入したピロリ菌CagAが、SHP-2がんタンパク質ならびに細胞極性レギュレーターPAR1/MARKを脱制御することにより細胞を悪性化させることを明らかにした。さらに、ピロリ菌cagA遺伝子をゲノムに組み込んだ遺伝子改変マウスを用い、ピロリ菌CagAが初の細菌がんタンパク質であることを他に先駆けて証明した。さらに、CagAの分子多型と発がん活性の連関を試験管内ならびに個体レベルで明らかにした。
著者
吹原 豊 助川 泰彦
出版者
フェリス女学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

本研究ではまず、インドネシア人コミュニティ形成の経緯について明らかにした。続いて、そのコミュニティの成員中100人を対象とした日本語のOPI(Oral Proficiency Interview)を行った結果、中級以上の話者が5人(5%)にとどまっていることが分かった。さらに、そうした現況の背景を探るために個人の生活史を聞き取り、日本語習得と関連付けて分析したところ、習得を促進する要因が見えてきた。比較対照のために行った韓国における調査においても似通った要因が見られた。
著者
藤井 勝紀
出版者
愛知工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

女子スポーツ選手の初経遅延におけるメカニズムについての仮説は一様構築されている。つまり、トレーニングにより体脂肪量に対する除脂肪量の割合を上げることにより、性腺刺激ホルモンや卵巣ホルモンの血中循環レベルを変化させることが初経遅延のメカニズムと仮説されるのである。しかしながら、この証明はまだ成されていない。そこで、女子個人の身体的成熟度の指標年齢と初潮年齢の差を求め、その差を非運動選手群(対照群)と比較することにより初経遅延の立証を試みるものである。本研究は、基本的には以上述べた女子スポーツ選手の初経遅延の立証を、ウェーブレット補間法を適用することにより客観的に導こうとしたものであるが、個人差の要因により初経遅延の構図は大きく異なることが予想される。そのために個人差を考慮に入れた初経遅延の評価基準を構築し、個々人の初経遅延を評価することにより女子スポーツ選手の初経遅延を検証しようとするものである。そして、女子スポーツ選手における月経不順、無月経等との関わりに対して、学校保健上の問題へ提言する意味を持つ。以下に得られた知見を示す。先ず、運動選手群の初経年齢は12.75歳(SD=1.23)、対照群の初経年齢は12.11歳(SD=1.09)で両群においては有意差(P<0.05)が認められた。つまり、運動選手群の方が初経年齢は遅いことが示された。次に、身長のMPV年齢を両群で見ると、運動選手群は11.13歳(SD=1.04)、対照群は11.0歳(SD=0.96)で有意差は認められなかった。そして、このMPV年齢と初経年齢の差を両群で比較したところ、運動選手群で1.62歳(SD=1.25)、対照群で1.08歳(SD=0.74)となり明らかに有意(P<0.05)が認められ、運動選手の初経遅延が示唆された。さらに身長のMPV年齢に対する初経年齢の回帰評価をスポーツ種目別選手に適用したところ、50%以上の正の得点を示した種目はソフトテニス、ホッケー、陸上競技、バレーボールでありこれらの種目は特に強い初経遅延を生起していると推察された。これら種目の選手の中には月経不順、無月経の者が含まれていることが推測される。
著者
堀内 正昭
出版者
昭和女子大学短期大学部
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

筆者は本研究課題に対して、法務省旧本館を取り上げ、とくに構法に関する研究を行った。まず、法務省旧本館(1888〜1895)に採用された碇聯鉄構法は、わが国において明治10年代にフランス人技師レスカスによって導入された。このレスカスの業績は地震国の耐震構法としてドイツでも知られ、ドイツ人建築家エンデ&ベックマンは、碇聯鉄構法を煉瓦造を前提にした場合に、セメント・モルタルとの併用で最強の耐震性を発揮する構法として旧本館に採用したのだった。従来、碇聯鉄構法は帯鉄を煉瓦壁の中に挿入して用いたと考えられていたが、旧本館では煉瓦壁中のみならず、火打ち梁のように建物のコーナーを固めていたことがわかった。なお、旧本館は現存最古の採用例となる。また、旧本館の廊下には防火床構法であるヴォールト煉瓦床が採用されたほか、3階床には煉瓦で被覆した鉄梁、さらに鉄筋コンクリートで補強した梁が用いられた。このように、旧本館は、1890年代以降に普及したとされる耐震ならびに防火床構法をすべて備えた先駆的な建物であった。次に、旧本館の床組は、建築仕様書によると、振れ止めで補強され、響き止めのために石炭殻が敷かれていたという。この種の床組は当時ドイツ式と呼ばれた。19世紀末のベルリンでは、根太に長さ6m以上の梁を用いた場合、90cmの間隔で根太を入れ、振れ止めで補強された。旧本館の根太の長さは762cmで、約92cmの間隔で配置されていたことから、床組の構法をドイツ式としてよい。さらに、旧本館の小屋組は、束を左右から方杖で支えたり、数多くの斜柱で支えている点でドイツに類例のないものであり、そこで用いられた部材はドイツのものよりも大きかった。そうなった理由は、日本では小屋裏を積極的に使用する必要が無かったことと、日本の耐震技術の発達を促したとされる濃尾地震(1891)を工事中に経験したことで、小屋組の耐震設計が強化されたからだと考えられる。
著者
越田 久文 酒井 亨 吉田 一誠
出版者
金沢学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

「ニコニコデータセット」のコメント解析から得られるアニメ作品に対する評価と、その作品舞台地を訪問する「聖地巡礼」を核とした観光客入り数との関係を調査した結果、作品評価と観光客入り数の間には明らかな正の相関関係にあるとは言い難い結果となった。ニコニコ動画では独特のネットスラングや、アニメ視聴者同士のみが共有できる意思疎通など、ニコニコ文化圏ともいえる言語空間が存在し、コメントから作品に対する評価・好感度等を推し量ることが困難であった。一方、アニメ作品に依存した観光振興を目論んだ自治体では、アニメファンからの共感を得られず、観光振興自体失敗に陥るケースが見られた。
著者
池田 譲
出版者
琉球大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

巨大脳をもち高次脳機能を示すイカ類について、同種集団の社会構造を複雑ネットワーク分析により読み解く試みを行った。その結果、アオリイカでは群れ内にネットワークが作られていること、その形成に関わる脳の発達には、同種個体との共存という社会環境が関係すること。トラフコウイカ集団でもネットワークが形成されるが、その構成はアオリイカと異なることから、社会構造に種間変異が認められることが明らかとなった。
著者
本庶 佑 中西 重忠 湊 長博 北 徹
出版者
京都大学
雑誌
特別推進研究(COE)
巻号頁・発行日
2000

本庶グループは、AIDの突然変異体を用いてAIDのN末端が体細胞突然変異に、C末端がクラススイッチ組換えに必要な機能特異的ドメインであることを証明した。一方、DNA deamination学説において、中心的な役割をすると考えられているウラシルDNAグリコシラーゼ(UNG)がDNAの切断には関与せず、この酵素の役割は酵素活性を通じてではなく、そのタンパク質として関与することを明かにした。一方、PD-1の自己免疫制御についてはPD-1欠失が自己免疫性糖尿病の発症を著しく促進し、この実験系を用いてNODマウスの糖尿病感受性遺伝子座の解析が可能であることを示した。湊グループは、SPA-1 KOマウスの新しい病態形質として、抗DNA抗体・抗核抗体の産生とそれによる典型的なループス腎炎の発症を確認した。これは異常な自己反応性B1細胞の出現とその抗原特異的免役応答によるもので、構成的Rap1シグナルによる転写共因子OcaBの過剰発現による免疫グロブリンL鎖の編集(レセプター・エディション)異常に起因することが示された。レセプター・エディションの異常による自己免疫病の発症は従来、自己抗体遺伝子トランスジェニック・モデルを用いて精力的に研究が進められてきたが、今回の結果により、通常の動物のシグナル遺伝子変異によるレセプター・エディションの異常が確かにヒトのループスに相当する自己免疫病態に至りうることが示された。中西グループは、グルタミン酸受容体と共役するイオン・チャンネル及び新たな足場蛋白質(GIRK・K+チャンネル、ubiquitin ligase、tamalin等)を明らかにし、これらの複合体形成がグルタミン酸伝達の制御に重要な役割を果たしていることを示した。さらに小脳発達期の顆粒細胞の増殖、移動、分化、シナプス形成にカルシニュリン・シグナル系が重要な役割を果たし、BDNFとCa2+シグナルの協調的作用がグルタミン酸系シナプス成熟に必須であることを示した。また、大脳皮質の構築を制御するCaja1-Retzius(CR)細胞の特異的遺伝子を同定し、CR細胞が細胞増殖、分化、シナプス成熟に特異性を持って作用していることを示した。北グループは、彼らが同定した酸化LDL受容体LOX-1の血清濃度が急性冠症候群で上昇しており血清LOX-1値は急性冠症侯群の予知因子となる可能性を示した。北らが同定した別の酸化LDL受容体SR-PSOX(CXCL16と同一)は感染性心内膜炎等で心臓の弁内皮細胞に強発現しCD8T細胞のVCAM-1への接着を促進し、IFNγの産生を増加さることを発見した。GFP発現マウスの骨髄移植マウスで実験的動脈硬化を解析し血管平滑筋様細胞も含めて浸潤した多くの細胞が骨髄由来であることを見出した。アダプター蛋白ShcAがインテグリンβ3のチロシンリン酸化依存的に結合し、血小板凝集に重要であることを証明した。
著者
伊東 弘文
出版者
九州大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1991

第1に,統一後のドイツの財政・租税制度がどうなるかという点である。これはさしあたり,三つの局面に分けられる。ひとつは,ドイツ統合は制度面からみれば東ドイツの5州が西ドイツ11州からなる連邦共和国に加入する形をとったので,西ドイツの財政・租税制度が東ドイツに拡大して適用されるという局面である。西ドイツの財政・租税制度はドイツ特有の連邦主義の国家構造を支えるものであることが明らかにされた。ふたつめの局面は,それにもかかわらず,1990年8月31日の第2国家条約(統一条約)において東ドイツの5州に対して各種の例外措置が認められたことである。州相互間の水平均財政調整への不参加等がその例である。これらの例外措置は1994年をもって廃止されることになっている。三つ目の局面は,1991予算年度からどのような手直しが財政・租税面からおこなわれたかということである。これは現在進行中であるから今後も追う必要がある。第2に,地方財政・地方税制の次元でドイツ統合はいかに進行しているかを分析する点である。地方税制が安定し,これに支えられて地方財政(具体的には,毎年度の予算循環)が順調に経過するようになった時,東西ドイツ統合に伴う財政・租税問題が絡結する。なぜなら,財政の資源配分に係わる機能は,地方財政において主として実行されているからである。この見地から,東西ドイツの市町村を対比した財政構造と各種の財政指標の推移が分析された。さらに,地方税の基幹である営業税の改革の進行状況がサーウェイされた。
著者
青木 健一
出版者
東京大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1991

遺伝子と文化の共進化の事例研究を3つ行った。1.成人乳糖分解者が多い人類集団で家畜の乳を飲む習慣が普及していることを説明するため、3つの仮説が提唱されている。乳糖分解者と飲乳者の共進化を集団遺伝学のモデルに基づいて理論的に研究し、それぞれの仮説の妥当性を検討した。まず、文化歴史的仮説あるいはカルシウム吸収仮説が成り立つためには、従来言われているよりはるかに強い自然淘汰が要求されることを示した。また、乳に対する好みの効果を検討し、逆原因仮説が成り立つためには乳糖分解者と分解不良者の間で好みに違いがあることが必要で、しかも文化伝達係数がある不等式を満足しなければならないことを示した。逆に、好みの違いが大きすぎると、前者2仮説が成り立ちにくいことも分かった。2.手話とは聾者の自然言語であり、文化伝達によって維持されている。一方、重度の幼児期失聴の約1/2が遺伝性であり、その約2/3が複数の単純劣性遺伝子によって引き起こされている。劣性遺伝の特徴として聾者が世代を隔てて出現する傾向にあるため、親から子への手話の伝達が阻害される。遺伝子と文化の相互作用の観点からこの問題を解析し、劣性遺伝子が2つ存在する場合、手話が失われないためには聾者同士の同類結婚が重要であることを示した。実際、日本や欧米で約90%の同類結婚率が報告されており、手話という特殊な文化現象の存続が聾に関する同類結婚によって可能になっていることが暗示された。さらに、聾学校などで家族以外の者から手話を学習する機会がある場合について検討を加えた。3.文化伝達能力と父親による子育てが共進化する可能性を理論的に検討した。有性一倍体モデルを完全に記述し、平衡点の同定と安定性解析を行った。その結果、母親からの文化伝達の効率がよく、父親からの文化伝達に補助的な意義しかない場合、文化伝達能力と父親による子育てがほぼ独立に進化することが分かった。一方、父親からの文化伝達が特に重要である場合には強い相互作用が見られ、文化伝達能力と父親による子育ての共進化が促進される。また、より現実的な二倍体モデルを部分的に解析したが、本質的な結果において一倍体モデルと一致した。さらに、父性信頼度の低下による効果も検討した。
著者
古荘 真敬 野矢 茂樹 信原 幸弘 高橋 哲哉 梶谷 真司 石原 孝二 原 和之 山本 芳久
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

「感情」現象をあらためて哲学的に吟味することを通して、倫理的価値の発生する根源的な場所を明らかにし、ひいては新たな価値倫理学の基礎づけを試みること、それが本研究の目標であった。われわれは、現象学、中世哲学、心の哲学、分析哲学、現象学的精神病理学、精神分析という、各研究分担者の専門的視座から持ち寄られたたさまざまな「感情」研究の成果を相互に批判的に比較検討することを通じて、人間存在にとっての感情現象の根本的意義(謎にみちたこの世界において行為し受苦するわれわれにとっての感情現象の根本的意義)を明らかにする多様な成果を上げることができた。これにより上記目標の核心部分は達成されたと言いうるだろう。
著者
井上 隆信 永淵 修 山田 俊郎
出版者
豊橋技術科学大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

インドネシアのカリマン島のカハヤン川流域では金採掘が活発であり、下流に位置する中央カリマンタン州の州都のパランカラヤ市では、金採掘に伴う水銀汚染が社会問題となっている。本研究では、カハヤン川と主な支川であるルンガン川について、河川水、底質、魚の水銀濃度の調査を行い、汚染レベルの調査を実施した。カハヤン川ではパランカラヤの上流約100kmのツバングミリまで、ルンガン川ではカハヤン川流入地点から約50km上流のムングクバルまでの問で、本川と支川で行った。河川水の総水銀濃度は、200ng/L以下であり、インドネシアの環境基準の1000ng/Lよりは低かった。濃度の高い場所は、金採掘の盛んな地域の支川であり、金採掘近傍の地域では高濃度になる可能性があることがわかった。河川底質の総水銀濃度は0.01〜0.1mg-Hg/kg-DWであり、他の汚染地域と比べて高くなかった。魚中の濃度は0.02〜0.5mg-Hg/kgであり、特に底生魚のナマズの一種で高かった。最高濃度は、厚生労働省が発表した「妊婦への魚介類の摂食と水銀に関する注意事項」で2週に一度の摂食が望ましいとされる魚と同程度の濃度(注意が必要な魚の4段階のレベルで上から3番目)であった。カハヤン川沿いには部落が点在し、農業と漁業により自給自足的な生活をしている。イスラム教徒の割合が高く豚肉と牛肉は食べないため、魚は鶏肉とともに重要なタンパク源となっている。これらのことから、現時点では金採掘に伴う水銀排出による河川の水銀汚染が深刻な状況までに至っていないと考えられるが、魚を通して、人体への影響が懸念される状況であり、今後のさらなるモニタリングが必要な状況であった。
著者
栗原 伸公 橋本 弘子
出版者
神戸女子大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

Heterocyclic amines (HCA)の一つであるTrp-P-1(3-amino-1,4-dimethyl-5H-pyrido[4,3-b]indole)は、食事由来の強力な変異原性物質であり、ラットに投与すると様々な臓器に腫瘍を生じることが報告されている。近年、山根らはin vitroにおいてHCAを食物繊維が吸着することを観察したが、私たちの知る限りin vivoにおける食物繊維によるHCA吸着の検討は報告されていない。本研究では、不溶性食物繊維の一つであるセルロースと、HCAの中でも強い変異原性を示すTrp-P-1を用いて、in vitroで起こる食物繊維のHCA吸着がin vivoでも起こる結果、HCAの腸管吸収が抑制され排泄促進につながる可能性について検討した。まず10週齢SD系雄ラットに、セルロース除去食、5%セルロース含有食(通常食)または10%セルロース含有食を3日間投与した。投与後、麻酔下において十二指腸起始部と回腸末端部をそれぞれ結紮して小腸ループを作成し、ループ内にTrp-P-1溶液を注入して一定時間(5〜20分間)保持した。保持後、門脈および腹部大動脈から採血して、小腸と肝臓を摘出し、血漿、小腸内溶液および肝組織中のTrp-P-1を抽出し、HPLCにより定量した。その結果、セルロース除去食投与ラットに比べて5%セルロース含有食投与ラットでは、血漿中、小腸内溶液中および肝組織に取り込まれたTrp-P-1濃度は有意に低かった。また、10%セルロース含有食投与ラットでは、これらTrp-P-1濃度はさらに低かった。以上より、セルロース含有食を摂取することでTrp-P-1は消化管内においてセルロースに吸着され、小腸から体内への吸収が抑制さ
著者
西條 剛央
出版者
早稲田大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011

本研究では、多様なタイプの研究を妥当に評価可能な質的研究の一般評価法の構築を行うことを研究課題とした。この目的を達成するために、以下の3つを柱に研究を行った。まず、質的研究の評価に関する先行研究をレビューすることで従来の方法論の限界や問題点を確認した。次に、多種多様な質的研究を用いた論文を妥当に評価可能な「質的研究論文の一般評価法」を構築した。第三に、質的研究のワークショップなどのアウトリーチ活動や,研究報告書作成,他の研究報告書を吟味する際にこの評価法を適用することで,それらの有効性と限界を明らかにした。
著者
渕田 孝康
出版者
鹿児島大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2002

離散ボロノイ分割を利用したフラクタル画像圧縮においては、一般にレンジの形状が多角形となるためドメインからレンジへの最適なアフィン変換を求めるための計算に膨大な時間がかかり、この時間が、画像圧縮における時間短縮のボトルネックとなっている。この問題を回避するために、我々は昨年度に引き続いて縮小画像を利用したドメイン探索についての研究を行った。昨年度の研究結果より、母点数(=レンジ数)が10000を越えたあたりから急激に所要時間が増えてしまうという問題が指摘されていたが、この点を、アルゴリズムを見直すことによって改善し、すべての母点数範囲において従来の方法よりも1/2〜1/4に高速化された圧縮を実現できた。さらに、これまでのレンジ分割は、最適ドメインとの誤差値の大きいレンジに対してランダムに2つの母点を生成することによって行っていたが、これに代わる新しい方法として、レンジの重心座標を利用する2種類の方法を提案し、計算機シミュレーションによってその有効性を確認した。その結果、重心を利用した方法が、従来法と比較して高速なレンジ分割を行えることが示された。さらに、分割後の後処理として誤差値の標準偏差を利用した分割を行うことで、圧縮時間をほとんど増やすことなく画質、圧縮率の両方を改善できることも示した。しかし、この分割法は圧縮時間の短縮は実現できたが、復元画像の画質の改善にはならないことも同時に判明し、原画像情報を利用したレンジ分割の方法の必要性も指摘された。
著者
水谷 雅彦 芦名 定道 出口 康夫 八代 嘉美 海田 大輔 伊勢田 哲治 児玉 聡
出版者
京都大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2015-04-01

本研究では、日本の教育・研究の風土をふまえた上で、研究倫理・研究公正について根本的な問いかけに基づく基本理念を検討し、不正の起きない研究の制度設計、効果的な研究公正教育の枠組みの提案を行った。具体的には、倫理学や宗教学などの価値論的側面および科学論的側面からみた関連分野のサーベイ研究、構築した研究ネットワークを基に、当該分野の研究者の招へい、国際学会への研究者派遣、定期的な研究討議を通じた共同研究体制の強化を図った。その研究成果として、国内外の研究者を交えたシンポジウムの開催、複数の学会発表、関連論文の出版を行った。
著者
稲上 誠
出版者
東京工業大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011

本研究では、枯山水庭園の魅力を科学的に解明するため、全体的な空間構成と鑑賞者の印象評価との関係を調べた。始めに、京都にある18の庭園を対象として、3Dレーザースキャナーによる実測調査を行った。続いて、バーチャルリアリティ装置を用いて、それらの庭園の評価実験を行った。その結果、周囲の環境による包囲が、鑑賞者が感じる印象を向上させることが明らかになった。この結果は、庭自体のデザインだけでなく、庭園全体のデザインも、その空間の魅力に寄与していることを示唆している。
著者
土田 修一
出版者
日本獣医畜産大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

被毛や虹彩の退色を伴う症候性難聴がいくつかの犬種で報告されている。当施設で維持されている症候性難聴症例について、人での類似疾患であるワーデンブルグ症候群2型の原因遺伝子であるメラニン合成経路に働く遺伝群(MITF,PAX3,SOX10)に着目し、それらの遺伝子の発現ならびにタンパクコード領域の塩基配列について検討した。犬のMITF遺伝子では2つのアイソフォームが報告されているが、今回健常犬で従来報告されているMITF-MおよびMITF-Hの2つのアイソフォームに加え、新たに人のMITF-Aに相当するアイソフォームが検出された。MITF-HおよびMITF-A沼は多くの臓器に広く発現が認められたが、MITF-M腎臓、大脳、小脳、心臓、上部消化管などで顕著な発現が認められ、臓器特異性が観察された。症例犬のMITFの3つのアイソフォームの発現と塩基配列を解析したが健常犬との間に差異は検出されなかった。次いでPAX3遺伝子の構造解析を試みた。健常犬のPAX3遺伝子構造を確認後、各エクソン領域を増幅するためのプライマーを作成し、PCR増幅後、塩基配列を決定した。しかし、症例犬のPAX3遺伝子にも疾患に関連する変異を見出すことはできなかった。さらに健常犬のSOX10 cDNAをクロニングして塩基配列を決定した後、ゲノム構造を解析してタンパクコード領域のPCR増幅を可能とした。症例犬のSOX10遺伝子のタンパクコード領域の塩基配列は健常犬と一致し、変異は検出されなかった。本研究で対象とした先天性難聴の症例では解析した3つの遺伝子に変異は検出されなかったが、本研究で人のワーデンブルグ症候群に関連する遺伝子の犬における構造解析と解析方法が確立されたことより、今後他の犬種の先天性難聴症例についても解析を進め、関連遺伝子の同定を試みたい。
著者
山根 信二 玉木 欽也 権藤 俊彦 半田 純子 齋藤 長行 新目 真紀 長沼 将一 長沼 将一 新目 真紀
出版者
岡山理科大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2014-04-01

多業種にまたがりソーシャルメディアを活用できる人材の育成プログラムを確立した.ソーシャルメディア/デジタルコンテンツの適切な利用環境をデザインしさらにアセスメントできる専門家を「ソーシャルコミュニティデザイナ」として定義し、平成26年度に(1)ソーシャルコミュニティデザイナに必要なコンピテンシの体系化を行い、平成27年度に(2)コンピテンシにもとづく人材育成プログラムの作成と領域横断型授業の試実装と(3)産学による成果の戦略的な共有と評価を実施した.