著者
近藤 寿人 濱田 博司 田中 亀代次 杉野 明雄 辻本 賀英 米田 悦啓
出版者
大阪大学
雑誌
特別推進研究(COE)
巻号頁・発行日
2000

本研究は、(1)それぞれの細胞が持つ核に与えられている一組の遺伝情報(ゲノム情報)がどのようにして読み出され、個体をつくるのか?(2)その個体では、ゲノムや細胞がうけるさまざまな損傷をどのように修復して健全な生命を維持するのか?という生命の基本問題に答えようとするものである。異体的な素機構(遺伝子複製・修復・転写、分化調節、アポトーシス、核 細胞質間輸送などに関するもの)の解析から出発しつつ、階層縦断的なアプローチからなる組織的な研究を実施して、個体の形成と個体生命の維持機構の全体像を示すことを目標とした。平成16年度には、以下に述べる研究の進展がみられた。1.分泌タンパク質Nodalとその阻害タンパク質の相互作用によって細胞内のSmad-FoxH1タンパク質複合体の活性が制御されて原始内胚葉領域が移動し、それが、胚の将来の脳(前側)部分を裏打ちして体の頭尾方向が決まることを示した。多系統のノックアウトマウスと高度の胚操作技術を駆使した。(濱田)2.その過程の後、神経誘導のプロセスによって、SOX2転写調節因子遺伝子が発現を開始して、胚の中の将来の脳を規定しながら頭部側より尾部側に向かって発現領域を広げる。神経誘導の開始、また、異なった脳部域を制御する5種類のエンハンサーを見つけて、神経誘導および脳の部域化の各ステップを分析した。SOX2は単独で作用するのではなく、PAX, POUファミリーの転写複合体をつくり、それらの複合体がもつDNA結合と活性の特異性にもとづいて遺伝子群を制御することを示した。(近藤)3.転写と共役したDNA修復に関与するXAB2蛋白質複合体を中心とした研究をすすめた。色素性乾皮症A群(XPA)蛋白質に結合する蛋白質であるXAB2を含む蛋白質複合体の精製を行い、分析した。XAB2蛋白質コア複合体は6種類の構成因子からなることがわかった。複合体構成因子の幾つかはスプライシング因子として知られているものであった。XAB2をノックダウンした細胞は、TCR能が低下し、紫外線高感受性となり、mRNAスプライシングにも異常を示した。XAB2が、TCR、転写、スプライシングに関与する多機能性蛋白質複合体の繋ぎめ的因子であることが示された。(田中)4.DNA複製開始に必須な新しい蛋白複合体GINS(Sld5-Psf1-Psf2-Psf3の複合体)を分析した。この蛋白複合体は染色体複製に必須なDNA polymerase εと直接相互作用して、染色体複製開始反応を行っていることをin vivo及びin vitroで明らかにした。一方、この染色体複製開始を厳密に制御しているCdc7/Dbf4 protein kinase複合体の複製開始反応における機能解析を行い、Cdc7/Dbf4複合体がMcm2-7複合体に定量的に結合することが重要であることを明らかにした(杉野)5.アポトーシス反応の惹起にかかわるミトコンドリア膜透過性の制御をノックアウトマウスを用いて解析した。ミトコンドリア膜透過性亢進に関わることが示唆されていたシクロフィリンDノックアウトマウスを作製した。このマウスのミトコンドリアは、Caなどにより誘導される膜透過性亢進現象を起こさないことを示した。また、ミトコンドリア膜透過性に関与する可能性を見いだした新規のミトコンドリア膜チャネルの機能の詳細な解析を実施した。(辻本)6.転写調節因子の核局在化シグナル受容体であり、importin βと核蛋白質の結合を仲介するアダプダー分子であると考えられていたimportin αが、importin βと関係なく、それ自身の能力で核膜孔を通過できることを示し、輸送機構の多様性を明らかにしてきた。また、importin βの変異体を利用することにより、核膜孔の核内外通過において重要なimportin βの核膜孔複合体相互作用領域を決定することができ、核膜孔通過の方向性決定の理解に向けた研究を進めることができた。(米田)
著者
石井 俊輔 田中 信之 浜田 博司 影山 龍一郎 山本 雅之 平井 久丸 安田 國雄 鍋島 陽一 垣塚 彰 佐竹 正延
出版者
理化学研究所
雑誌
特定領域研究(A)
巻号頁・発行日
1997

多細胞生物における高次生命現象の分子的基盤を理解するためには、転写因子レベルでの遺伝子発現調節機構を解明することが不可欠である。個体発生や細胞系列の分化などを分子レベルで理解するために、本研究では発生・分化を時間軸に沿った遺伝子発現カスケードの流れとして捉え、転写因子がそれぞれの細胞系列、発生時期で細胞増殖・細胞死・分化などにどのように関与しているかを検討した。具体的には、以下のような研究結果を得た。1.コリプレッサーSkiの関連遺伝子産物Snoの変異マウスを作製・解析し、もともと発がん遺伝子産物として見い出されたSnoががん抑制因子としても機能することを明らかにした。2.促進性bHLH型転写因子Math3とMash1はニューロンへの分化決定因子として機能することが明らかになった。両者はお互いに補いあって幹細胞からニューロンへの運命決定を行うことが明らかとなった。3.転写因子Pitx2の発現は左側でのみ発現するが、この左側特異的なな発現はNodalシグナル伝達経路によって誘導され、転写因子NkxZによって維持されることが明らかにされた。4.lRF-1は新規の高発がん感受性遺伝子であるが、癌抑制に関わるlRF-1及びp53の標的遺伝子の同定を進め、その過程でp53依存性に転写誘導される新規遺伝子Noxaを単離した。5.遺伝子制御領域内のGATA配列を認識するDNA結合蛋白GATA-3はそのアセチル化状態が変化することにより生体内でのT細胞の生存およびホーミングを制御することが示された。6.転写因子小Maf群因子が,その存在量により,MAREを介する転写を正にも負にも制御し得ることが,トランスジェニックマウスと遺伝子破壊マウスを用いて巨核球における小Maf群因子の発現量を操作することにより,証明された。
著者
藤田 尚志
出版者
九州産業大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2009

一年目は近現代フランスのさまざまな思想家の著作を読み、そこに現れる身体観を、愛・性・家族の諸問題を通じて解き明かすことに努めた。この準備作業を経て、二年目の秋に国際シンポジウム「結婚の脱構築-レヴィ=ストロース、ボーヴォワール、クロソウスキー、デリダ」を開催し、海外の研究者らとともに、20世紀フランス思想に現れる身体の諸問題を、「結婚」という具体的な例に即して思考することを試みた。
著者
片峰 茂
出版者
長崎大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2004

プリオン病病原体の実体にせまる手がかりとして多様なプリオン株(strain)の存在がある。プリオン株を遺伝的背景が同一の動物に接種した場合、それぞれの株に特異的な病態が惹起される。株の分子機構解明が病原体の実体解明に直結すると考えられる。先行するプリオン株感染が後続の異なるプリオン株感染を阻止するという現象が動物実験では報告されている。しかし免疫系の関与などその詳細は不明である。複数のプリオン株に感受性を示す培養細胞(GT1-7)を用いてプリオン株間の干渉現象を種々の株の組み合わせで検討した。とくに、感染細胞中にほとんどプロテアーゼ抵抗性の異常プリオンタンパク(PrP^<res>)の蓄積を来たさない弱毒株(SY)による強毒株(Chandler,22L, Fukuoka-1)感染阻止効果も検討したChandler感染細胞は後続のFukuoka-1感染に感受性であったが、22L感染はFukuoka-1感染を完全に阻止した。このことは、感染阻止現象が所謂ワクチン効果によるものではなく、感染細胞中での干渉機構によるものであることを強く示唆している。また、この干渉が株の組み合わせに規定されることも判明した。さらに、感染細胞中にほとんどPrP^<res>の蓄積を来たさないCJD由来弱毒株(SY)が強力にChandler,22L, Fukuoka-1など複数の強毒株(高レベルのPrP^<res>を有する)の感染を干渉することが明らかとなった。このことはPrP^<res>が干渉を規定する因子ではないことを意味している。干渉の分子機構解明を通してプリオン病原体の本体を明らかにすることが今後の課題となる。また、無毒化プリオン株を用いたBSEなどの強毒プリオン感染予防方策開発への途を開いた成果でもある。
著者
竹内 俊郎 吉崎 悟朗 酒井 清
出版者
東京水産大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1997

閉鎖生態環境という1つのモデルの中で、魚類を産卵・ふ化させるとともに、植物・動物プランクトンを用いた系により仔稚魚を飼育し、ひいては継代繁殖を目指す閉鎖型水棲生物複合飼育システム(閉鎖生態系循環式養殖システム、Controled Ecological Recirculating Aquaculture System;CERAS)を開発するための基礎的知見を得ることを目的とした。本研究では閉鎖型飼育システムの設計および製作、水棲生物飼育による水質維持評価実験、植物プランクトンによるティラピアの飼育実験を行い、成長や魚体に及ぼす影響を調べた。その結果、密閉式水槽を用いた実験では、ティラピアを密度20g/Lで17日程度飼育できることが明らかになった。この間、ティラピアの成長は順調であったが、水質の悪化は著しく、とくにアンモニアの増加が顕著であった。この原因としては、濾過槽の能力が魚のアンモニア代謝(排泄)量の6割程度しかなかったためと推察された。飼育日数の経過に伴い、流量の低下も招いた。これは、酸素供給ユニット内での目詰まりによるものであった。今後、ユニットの構造自体の改良が必要であろう。また、pHも6を下回る傾向を示し、この低下はアンモニアの分解能力を低下させることになる。次に、植物プランクトンとして今回はスピルリナを用いティラピアの飼育実験を行ったところ、ティラピアの成長は市販飼料区が優れていたが、乾燥スピルリナのみでも十分に生育させられることが分かった。また、6週間程度の飼育で魚体脂質中の脂肪酸組成が大きく変動することが明らかになった。本研究により密閉型循環式魚類飼育装置の開発に関する基礎的知見が得られるとともに、水棲生物の食物連鎖の一端を確立する目途が立つなど、CERAS構築に向けた萌芽的研究が遂行できた。
著者
小秋元 段
出版者
法政大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

本研究は、17世紀初頭の約40年間に流行した日本の活字出版(古活字版)の展開の様相を明らかにしたものである。主な研究成果は、第一に、慶長年刊の角倉家のネットワークが古活字版の出版活動に広く影響を与えたことを明らかにしたこと、第二に、高野山における古活字版出版の経緯を書誌調査を通じて明らかにしたことである。そして、第三に、近年、古活字版の起源をキリシタン版に求める学説が強まっているが、その問題点を学界に提起したことも、重要な成果であると考える。
著者
永井 伸幸
出版者
宮城教育大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011

本研究では、画面表示と印刷物における弱視者の読書の特徴について調べ、電子教科書を弱視児が使うという観点から考察することを目的とした。画面では顔を近づけても読む面が暗くならないことの影響について検討し、また、印刷物とタブレット端末の読書における視距離や頭、眼や手の動き、動かし方について比較検討した。その結果、弱視児者のタブレット端末による読書行動は、印刷物の場合と変わらないこと、つまり電子教科書でも従来の教科書同じように読書を行えると考えられた。さらに、読む面が暗くならないことにより、負担感無くより小さな文字サイズで読書を行えること、簡単に白黒反転できることの利点が考えられた。
著者
中島 一樹 藤田 紘也 池田 一生 飯國 高弘
出版者
富山大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究では設置した非接触マトリックス温度センサでトイレでの排尿量を測定する手法を提案する。マトリックス温度センサは便座下に設置した。落下中の尿からの放射熱から排泄量を評価する手法を開発した。37 °Cの水を落下させ、その放射熱を測定した。水量100, 200および300 ml を流速5, 10, 20, 30および40 ml/sで変化させて落下させた。推定した水量は流速の影響を受けなかった。
著者
渡来 仁 小岩 政照
出版者
大阪府立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

本研究は、免疫担当細胞への抗原提示能に優れるリポソームを、ウシ乳房炎の発症予防のための経鼻ワクチンに応用し、ウシの乳房炎予防に有効なリポソーム型経鼻ワクチンの開発を目指した基礎的研究を目的として行われた。1、経鼻ワクチン用リポソームの開発ならびに最適化:経鼻免疫用リポソームの脂質組成についてマウスを用い検討した。モデル抗原として卵白アルブミン(OVA)を封入した。その結果、ジパルミトイルフォスファチジルコリンとジオレオイルフォスファチジルエタノールアミン、モル比1:1の脂質組成に、サクシニル化ポリグリドールを全脂質の30%加えて作成したリポソーム(SucPGリポソーム)で経鼻免疫することにより、OVAに対する免疫応答が誘導できた。また、誘導される免疫応答について解析した結果、液性免疫のみならず細胞性免疫の誘導が確認された。2、粘膜吸着性リポソームによる免疫応答:SucPGリポソームを1.5%キトサンと反応させ、粘膜吸着性リポソーム(SucPG-キトサンーリポソーム)を作製し、免疫応答について検討した。モデル抗原としてOVAを封入した。その結果、SucPG-キトサン-リポソームでマウスを経鼻免疫することにより、OVAに対する免疫応答が強く誘導できることが示された。また、誘導される免疫応答について解析した結果、液性免疫ならびに細胞性免疫の誘導が確認された。3、ウシにおける免疫誘導実験:SucPGリポソームにOVA抗原を封入し、ウシに経鼻免疫を行った。その結果、乳汁中にOVA抗原に対するIgA抗体の有意な産生が確認された。さらに、粘膜吸着性リボソームにOVA抗原を封入し、ウシに経鼻免疫を行った。その結果、血清中ならびに乳汁中にOVA抗原に対するIgG、IgA抗体の有意な産生が確認された。このことから、ウシの乳房炎予防に有効なリポソーム型経鼻ワクチン開発の可能性が示された。
著者
八木 文雄 倉本 秋 瀬尾 宏美 大塚 智子
出版者
高知大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

成人型学習に対する取り組み,医療スタッフや患者さんとの円滑なコミュニケーションなどをはじめとして,医学部医学科に入学した学生に求められる態度・習慣領域の課題は数多く存在する。また一方では,入学後における態度・習慣領域の教育には大きな限界があることは,医学教育に携わる誰もが認識していると思われる。しかし,ほとんどの全国大学医学部・医科大学における現行の入学者選抜方式は,高校各教科の学習内容に関する記憶にもとづく知識(想起)偏重型であり,長期間にわたる家庭教育および自己の努力により獲得した,医師となるのに基本的に不可欠な態度・習慣領域の能力が,入学者選抜の段階でほとんど評価されていないのが現状である。このような観点から,本研究では,AO方式と学士編入学方式による入学者選抜において,態度・習慣領域の能力評価を目的とする評価尺度を新たに構築した。そして,これらの各方式で入学した学生を対象として、他の方式で入学した同学年の学生および教官によるピア・レヴューを実施し,入学後における態度・習慣領域の能力を,多変量解析にもとづき調査・分析することにより,この評価尺度の妥当性について追跡的に検討した。その結果,選抜段階と入学後における態度評価スコアとの間に有意な相関(r=0.7)が認められ,新たに構築した態度評価尺度の入学者選抜における有効性が検証された。なお,これらの入学者に関する追跡調査を,卒前6年間および卒後臨床研修段階まで長期的・継続的に実施することにより,この態度評価尺度の妥当性に関する調査・分析をさらに推進し,望ましい医師養成のための第一歩としての入学者選抜の更なる改善を図る予定である。医学科の入学者選抜における,このような態度・習慣領域評価の導入は,サイエンスとしての医学・医療の急激な発展に伴い,価値観の変動に直面している現代社会に対する説明責任を果たすものである。
著者
廣田 良夫 田中 隆 徳永 章二 清原 千香子 山下 昭美 伊達 ちぐさ
出版者
大阪市立大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1998

高齢者を対象にインフルエンザワクチンの有効性等を研究した。1997〜1998年のシーズンは流行規模が小さかったため、antibody efficacyの算出を行なった。ワクチン接種後ワクチン株A/武漢(H3N2)に対するHI価≧1:256では、≦1:128に比べてインフルエンザ様疾患(ILI)の発病リスクが0.14に低下した(antibody efficacy:86%)。接種前HI価≦1:128の者が接種後≧1:256に上昇する割合は71%であり(achievement rate)、これらの積(0.86×0.71)からvaccine efficacyは61%と算出された。1998〜1999年のシーズンは流行規模がある程度大きかったので、直接vaccine efficacyを算出することができた。発熱38℃以上のILIについてはウクチン接種の相対危険(RR)は0.74〜0.79、発熱39℃以上のILIについてはRRが0.50〜0.54、ILI発病者(38℃以上)における死亡についてはRRが0.43であった。1999〜2000年のシーズンは、流行を認めなかったので、老人保健施設の入所者を対象に、2回接種による追加免疫の効果を検討した。その結果、追加免疫による良好な抗体獲得は認めなかった。また、同施設の職員を対象に抗体応答を調べたところ、健常成人では追加免疫を行なわずとも、1回接種で抗体獲得は比較的良好である、との結果を得た。また日常生活動作(ADL)が低い者では発病リスクが6倍を超えた。接種後48時間以内に現れた有害事象は、38.0℃以上の発熱を呈した者が0.8〜2%、注射部位の腫れを呈した者が3.2〜4%であった。
著者
仲尾 周一郎
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2011

平成25年度は、2013年9月~10月に南スーダン共和国・ジュバに渡航し、現地調査を遂行した。この調査では、引き続きジュバ・アラビア語の文法調査・ドキュメンテーションを行った。まず、現地調査に際しては、ジュバ・マラキア地区に古くから在住する都市民を対象に加えたことで、これまでに得られていなかった古風な特徴を残すジュバ・アラビア語変種を発見するに至った。また、彼らの語りに注目することで、ジュバが建設され、南スーダンの首都へと発展していく社会史的背景の一部が明らかにし、論文としてまとめた。次に、研究発表に関しては、現地のジュバ大学において研究発表を行い、上で述べた現地調査の成果の一部を速やかに公表することで、研究者らと意見交換を行った。また、昨年度までに収集した文献資料や、本年度の現地調査をもとに、国際アラビア語方言学会(Association Internationale de Dialectologie Arabe)にて、ヨーロッパ人植民地行政官らの言語行為がジュバ・アラビア語の発生に影響を与えた可能性について発表し、反響を得た。さらに、本年度までに行ってきたドキュメンテーションの結果得られたデータをもとに、民話などの「語りの談話」に頻出する継起等を表す言語形式と、その文法化の過程を論文にまとめた。以上に加え、昨年度までの研究成果をもとに、ジュバ・アラビア語中層話体(Mesolect)の文法体系について発表した。また、ジュバ・アラビア語を含むアフリカで話されるピジン・クレオール諸語に関して、日本アフリカ学会編『アフリカ学事典』(近刊)に記事を執筆した。
著者
早川 浩
出版者
九州大学
雑誌
特定領域研究(C)
巻号頁・発行日
2001

酸化RNA(8oxoguanine-RNA)に特異的に、且つ強固に結合する蛋白を大腸菌およびマウス脳抽出液中に検出し、大腸菌についてはそのうちの1つがPolynucleotide phosphorylase(PNP蛋白)であることを同定、報告した。(Biochemistry 40,9977-9982 2001)。この遺伝子を欠損した変異株は、酸化ストレスを引き起こすパラコートに対して耐性となるが、遺伝子を導入すると感受性は元のレベルに回復した。このpnp遺伝子にホモロジーをもつ配列が、ESTデーターベース上に多数登録されていることが判ったので、pnp遺伝子情報を元に仮想配列を想定し、目的とするcDNAを決定し、そのDNAを入手した入手したものについて実際にDNA配列を決定したところ、ほぼ予想した配列に該当した。このcDNAからコードされると期待される蛋白の一次配列は大腸菌PNP蛋白と全域にわたってホモロジーがあった。これとは別に、直接結合活性を指標にヒト蛋白を生化学的に検索したところ、1ヶの蛋白を同定することができた。これは既知蛋白であるが、新たな結合活性を有することが明らかになった。
著者
桑木野 幸司
出版者
大阪大学
雑誌
若手研究(A)
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究は、初期近代のイタリアにおける芸術文化を、領域横断的なアプローチによって、より深く理解することを目的とした。ルネサンス文化が発展し、芸術や文芸、科学、思想の面で人類史上稀に見る成果を生み出したこの時期、テクストとイメージと空間は密接な関連をもって、創造の場面において融合していたが、これまでそうした側面には光があたってこなかった。本研究では記憶術を理論的中心に据えたうえで、百科全書主義やコモンプレイスの伝統、エンブレムやインプレーザといった文字と図像を融合させた領野を分析し、さらにそれらと建築・庭園・都市空間との関わりを考察することで、新たな知見を多数明らかにすることが出来た。
著者
杉谷 祐美子 白川 優治 小島 佐恵子
出版者
青山学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

本研究は、50%の進学率に達する現代日本の大学・大学生・大学政策へのイメージや社会的期待を明らかにするため、90年代以降の大学・大学生に関する雑誌記事の変遷を分析するとともに、一般市民を対象に大学・大学政策等に関する質問紙調査を行った。その結果、雑誌によって大学の問題点が過度に強調される反面、一般市民は大学の効用を認め、進学への潜在的需要に対応できるよう公的財政支援の増大を望むことを明らかにした。
著者
石川 冬樹 河井 理穂子
出版者
国立情報学研究所
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2012-04-01

法は様々な状況に対応するため曖昧な文言で記述されている.このため,法が定める権利や義務を考慮して組織運営や情報システム構築・運用を行う際には,判例などで後に与えられる具体的な解釈を適切に反映する必要がある.本研究では,組織やシステムが達成すべきゴールの具体化,分析や変更追跡を行う要求工学の考え方を模倣し,法やその解釈のモデル化・分析手法を構築した.この手法により,情報システム開発者など法の専門家ではない人も,既存の法解釈を踏まえ,具体的な要件に関する分析や判断をしたり,新たな判例が現れた際などにその影響範囲や必要な対応を定めることが容易となる.
著者
服部 亜由未
出版者
名古屋大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

本年度の研究計画に基づき、以下のように研究活動を実施した。1.出稼ぎ者送出地域の新聞(『遐邇新聞』『秋田遐邇新聞』『秋田日報』『秋田魁新報』マイクロフィルム版)の記事を収集した。記事の経年分析により、ニシン漁業出稼ぎ状況、ニシン漁業に対する考え方やその変化を読み取ることができた。今回は秋田県のみであったが、こうした出稼ぎ者送出地域における報道を、他の地域と比較分析することで、労働力の輩出構造とその展開が明らかになると考えられる。2.ニシン漁獲地域の新聞(『小樽新聞』マイクロフィルム版)の記事を収集した。特に、ニシン漁衰退期にいかなる報道がなされ、各関係者がどのような対策を講じたかを検討し、その結果を『歴史と環境』の1章で述べた。1.の出稼ぎ者送出地域の報道と組み合わせることで、両側面から重層的にニシン漁業を論じることが可能となる。本年度は、後志沿岸地域のニシン漁業転換期である1935・1936年に年代を絞って検討を加えた。3.ニシン漁家経営の衰退にともなう変容に関して、『人文地理』に掲載された中規模ニシン漁家の事例と比較し、より一般性を高めるために、本年度は大規模ニシン漁家青山家の事例について実証し、両漁家の結果を比較検討した上で『歴史地理学』にまとめた。4.最終年度にあたり、これまでの研究成果を、学位論文「近代北海道における鰊漁業の歴史地理学的研究-衰退期に注目して-」にまとめた。この論文は、近代北海道の発展の基となったニシン漁業を取り上げ、従来議論されることが少なかった衰退期に焦点をあてて、ニシン漁業従事者がいかにその危機を脱しようとしたのかを考察したものである。実証研究では、3年間特別研究員として取り組んできた「近代における北海道ニシン漁業出稼ぎ」を中心に、近代北海道のニシン漁業をニシン漁家やニシン漁獲地域のみならず、出稼ぎ者や出稼ぎ者送出地域側からも検討することで、立体的に分析する方法論を展開した。
著者
小口 高
出版者
東京大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1993

本研究では当初、野外調査による崩積土の記載を重点的に行い、崩壊の地形発達への影響を検討する予定であった。ところが計画提出後、現地調査を予定していた夏季に北米への出張が決まった。このため予定を変更し、空中写真判読・地形計測・データの電算機処理等の室内作業による研究を進めた。成果は以下の通りである。1.土砂災害データの解析による日本の崩壊の発生周期と平均崩壊土量の推定…従来、崩壊の発生周期や生産土量については個別の地域での検討が多く、日本全体での一般的傾向を調べた研究は少ない。約700の土砂災害事例の資料を用いてこの問題を検討し、平均的な崩壊発生様式とそれを規定する要因を明らかにした(H6年10月の斜面水文学に関する国際学会で発表予定)。 2.東北日本における最終氷期末期以降の崩壊による斜面発達と土砂供給…北上河谷西縁の4流域と山形盆地東縁の3流域の地形分類を行い、最終氷期末期以降の土砂供給量を推定し、その値と扇状地規模との間の関係を明らかにした。また、以前検討した松本盆地周辺の流域での事例との比較を行い、降水強度の地域差が崩壊の規模・頻度に影響することを見い出した(H5年10月の日本地理学会で口頭発表。Bull.Dept.Geogr.Univ.Tokyoに投稿準備中)。 3.扇状地の規模と上流域の地形特性との関係(昨年度奨励研究(A)からの継続課題)…日本と合衆国南西部の資料を解析し、扇状地の面積と上流域の流域面積・流域傾斜・崩壊等による土砂流出速度との関係を吟味し、扇状地規模の地域差の原因を明らかにした(H5年8月の国際地形学会議で口頭発表。Zeitschr.Geomorph.に印刷中)。 4.中近東地域の斜面発達史…以前の現地調査により入手した中近東の斜面地形に関する資料の解析を行った。また、中近東地域の地形研究をレビューした(前者は研究継続中。後者は財団法人中東調査会の報告書に掲載)。
著者
小口 高
出版者
東京大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1996

本研究では、河川流域の上流(山地斜面)から下流(湖沼・扇状地)における土砂の移動過程とそれに関連する諸問題を検討した。上流域での侵食については、日本全国の資料を用いて現在の崩壊による土砂の生産量と降雨プロセスとの関係を検討した。その結果、豪雨が多い東海・南海地域では、他地域に比べて1回の豪雨で生じる崩壊の規模が大きくなるが、崩壊の頻度は他地域と類似していることが判明した。また、野外では三方五湖周辺と松本盆地の斜面を調査し、崩壊地の分布を調べた。その結果、崩壊が斜面の遷急線付近とその下位の谷壁斜面で多発していることを見いだした。これらの知見は、土砂流出や崩壊による災害の防止のためにも有益と考えられる。次に、第四紀の長期的な斜面侵食過程を明らかにするために、山地流域の地形分類と地質層序の調査に基づく検討を行った。その結果に基づき、山地斜面の遷急線が最終氷期と後氷期の地形を区別する際の重要な指標であることを指摘した。この結果と、流域の地形に関する数値データに基づき、後氷期における流域の侵食量を算出した。一方、下流域での堆積については、湖沼や扇状地における堆積物層序の解析を行い、後氷期の堆積土砂量を推定した。その結果を上流域からの土砂供給量と比較した結果、供給土砂の大半が堆積域に残存していることが判明した。上記の研究の成果は、一部をすでに学会誌や国際学会で公表した。また、一部は現在学会誌に印刷中もしくは投稿中であり、平成9〜10年度中に公表される予定である。さらに、現地で収集した試料の一部は現在分析中である。なお、当初は研究経費に旅費を多く計上していたが、平成8年度東京大学大学院理学系研究科・特定研究のメンバーとなり、旅費はすべてそこから支給されたため、本科学研究費は旅費以外の用途に使用した。
著者
鳥居 和之 奥田 由法 久保 善司 川村 満紀
出版者
金沢大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

「泰平橋」(平成12年8月撤去)の解体では,PC・T桁の一般図及び配筋図(PC鋼線,スターラップ筋,横締め構造など)を完成するとともに「泰平橋」で使用したコンクリート及びPC鋼線(直径5nmのピアノ線)の品質を調べた.その後,平成12年10月に(株)ピー・エス七尾工場(現(株)ピーエス三菱)にて,PC桁の曲げ及びせん断載荷試験を公開試験として実施し,50年が経過したPC・T桁の耐荷力及び変形性能を明らかにした.次に「長生橋」(平成13年8月撤去)の解体では,「泰平橋」と同様にPCスラブ桁の一般図および配筋図を完成するとともに,「長生橋」で使用したコンクリート及びPC鋼線(直径3mmのピアノ線)の品質を「泰平橋」と比較検討した.その後,'平成13年10月に(株)ピーエス七尾工場(現(株)ピーエス三菱)にて,PC桁本体及び合成桁の曲げ及びせん断載荷試験を公開試験として実施した.「長生橋」は移設検討委員会(座長:金沢大学工学部川村満紀教授)が設置され,復元の方法および移設の場所が検討された,移設検討委員会の方針に従って,平成14年4月に建設当時の欄干や電気灯などを復元し,「長生橋」は七尾市の希望の丘公園に移設された.また,「泰平橋」,「長生橋」に関する調査資料を整理し,歴史的価値の高い両橋梁の記録を冊子としてまとめるとともに,平成14年11月に特別講演会「コンクリートは本当に丈夫で長持ちか」を主催し,「泰平橋」,「長生橋」の調査結果を多くの土木関係者に報告した.さらに,解体調査の記録を2本のビデオ(金沢大学工学部編集,(株)ピーエス三菱編集)にまとめた.