著者
大庭 哲治 松中 亮治 中川 大 工藤 文也
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集D3(土木計画学) (ISSN:21856540)
巻号頁・発行日
vol.72, no.5, pp.I_1047-I_1056, 2016 (Released:2016-12-23)
参考文献数
9

厳しい経営状態にある地域鉄道を維持するにあたっては,むやみに運行費用の削減をするのではなく,事業者ごとに路線特性を考慮し,運行費用の適正化を目指すことが必要である.そこで本研究は,平成23年度に運行されていた日本全国の地域鉄道事業者を対象に,運行費用の相違が生じる要因を明らかにすることを目的として,運行費用と路線特性の関連性について分析した.その際,従来から作業量の指標として用いられている鉄道車両の走行距離に加え,時刻表に基づいて算出した鉄道車両の走行時間を新たに分析指標として加えた.その結果,線路保存費,電路保存費,車両保存費,運転費,運輸費の5費用項目において路線特性と運行費用の関連性について統計的に明らかにし,また鉄道車両の走行時間が運行費用を分析するにあたって有効であることを示した.
著者
大石 匠 深谷 千絵 笠井 俊輔 太田 淳也 国分 栄仁 齋藤 淳 石原 和幸 中川 種昭
出版者
特定非営利活動法人 日本歯周病学会
雑誌
日本歯周病学会会誌 (ISSN:03850110)
巻号頁・発行日
vol.56, no.4, pp.406-413, 2015-01-30 (Released:2015-02-18)
参考文献数
33
被引用文献数
1 1

本研究は,in vitro バイオフィルムに対するシタフロキサシン(STFX)の効果を検討することを目的とした。歯周病においてバイオフィルムは複数菌で構成され,抗菌薬に耐性を示すことが知られている。 STFX はニューキノロン系経口抗菌薬であり嫌気性口腔細菌を含む幅広い抗菌スペクトラムを示す。我々は微量流体デバイス BioFlux を採用した。BioFlux は嫌気条件下で自動的に培地を排出可能であり,本研究に有用と考えた。Porphyromonas gingivalis ATCC33277 および Streptococcus gordonii ATCC35105 の 2 菌種混合液を用い,37℃,2 時間かけバイオフィルムを形成させ,顕微鏡にて確認した。STFX または対照薬アジスロマイシン(AZM)を添加後,嫌気条件下で 5 日間作用させた。薬剤濃度は経口常用量投与時の歯肉組織および歯肉溝滲出液中濃度に基づき,STFX は 0.65 および 1.30 μg/ml,AZM は 2.92,3.95 および 7.90 μg/ml とした。薬剤作用後の生存率は,染色後の画像解析にて定量した。 その結果,抗菌薬作用群すべてにおいて,生存率の減少を認めた。STFX 作用後の生存率は,AZM 各群と比較して有意(p<0.05)に少なかった。以上の結果より,STFX はバイオフィルム中の歯周病原細菌に対して破壊効果を有することが示唆された。 日本歯周病学会会誌(日歯周誌)56(4):406-413,2014
著者
高橋 礼子 近藤 久禎 中川 隆 小澤 和弘 小井土 雄一
出版者
一般社団法人 日本臨床救急医学会
雑誌
日本臨床救急医学会雑誌 (ISSN:13450581)
巻号頁・発行日
vol.20, no.5, pp.644-652, 2017-10-31 (Released:2017-10-31)
参考文献数
11

目的:大規模災害時には巨大な医療ニーズが発生するが,被災地内では十分な病床数が確保できず被災地外への搬送にも限界がある。今回,実際の地域での傷病者収容能力の確認を行うべく災害拠点病院の休眠病床・災害時拡張可能病床の実態調査を行った。方法:全災害拠点病院686施設に対し,許可病床・休眠病床・休眠病床の内すぐに使用可能な病床・災害時拡張可能病床についてアンケート調査を実施した。結果:回収率82.1%(許可病床258,975床/563施設),休眠病床7,558床/179施設,すぐに使用可能な休眠病床3,751床/126施設,災害時拡張可能病床22,649床/339施設であった。考察:いずれの病床使用時にもハード面・ソフト面での制約はあるが,被災地外への搬送に限界があるため,地域の収容能力を拡大するためには,休眠病床・災害時拡張可能病床は有用な資源である。今後,休眠病床の活用や災害拠点病院への拡張可能病床の普及を進めると共に,各種制約も踏まえた医療戦略の検討が課題である。
著者
中川 栄二 石川 充 山内 秀雄 花岡 繁 須貝 研司
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.25, no.6, pp.571-573, 1993-11-01 (Released:2011-08-10)
参考文献数
6
被引用文献数
2

経管栄養を受け血清亜鉛値が低値であった重症心身障害児 (者) 8名に亜鉛欠乏症の治療を目的とし, 硫酸亜鉛, きなこ, ココアを投与してそれぞれの投与前後の血清亜鉛値の変化を検討した. 投与量は, 硫酸亜鉛は金属亜鉛として1~2mg/kg/日, きなこは15~259/日 (亜鉛としては0, 7~hng/日), ココアは6~129/日 (亜鉛としては0.7~1mg/日) とした. 投与前後の血清亜鉛値は, 硫酸亜鉛では45.5μ9/dl±8.1から76.5μ9/dl±4, 5に, きなこでは53.5μ9/dl±6.4から67.6μ9/dl±9.4に, ココアでは53.7μg/dl±7.2から66.4μg/dl±59にそれぞれ変化し, 硫酸亜鉛, きなこ, ココアのいずれも投与後に, より有意に亜鉛値を改善維持した. また, きなこおよびココアは硫酸亜鉛より少ない亜鉛投与量で同等の効果が認められた。さらにココアはきなこより少ないカロリーと投与回数で亜鉛値を改善維持することができた. 以上の点からこの三者の中では, ココアが亜鉛欠乏症改善剤として最も優れていると考えられた.
著者
福林 靖博 奥田 倫子 中川 紗央里
出版者
デジタルアーカイブ学会
雑誌
デジタルアーカイブ学会誌 (ISSN:24329762)
巻号頁・発行日
vol.4, no.s1, pp.s80-s83, 2020 (Released:2020-10-09)
参考文献数
3

国立国会図書館は、2020年内に公開を予定している「EAST ASIA DIGITAL LIBRARY(EADL)」構築プロジェクトに参画している。EADLは、漢籍など東アジア諸言語で記されたパブリックドメインの書籍等のデジタル化データ(画像データ及びメタデータ等)のコンテンツの検索・閲覧を可能とするポータルサイトである。本プロジェクトは、2010年に国立国会図書館、韓国国立中央図書館及び中国国家図書館との間で締結された「日中韓電子図書館イニシアチブ」の下、3か国共同で開発を進めてきたものであるが、現在は日韓2か国でプロジェクトを進めている。本発表では、機能やコンテンツといった概要の紹介だけでなく、構築に至る背景や構築のプロセス、今後の展望等についても報告する。
著者
櫻井 秀彦 恩田 光子 高木 美保 中川 明子 我藤 有香 荒川 行生 早瀬 幸俊
出版者
医療の質・安全学会
雑誌
医療の質・安全学会誌
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.3-21, 2011

<B>目的</B>:保険薬局に勤務する薬剤師と事務職の組織や職務に対する意識と安全意識を調査し,それらの関連性を職種や他の属性で比較検討した.<br><B>対象と方法</B>:関西圏に基盤を置くチェーン薬局41店舗でアンケート調査を実施した.非管理職の薬剤師(n=180)と事務職(n =127)を対象とし,組織や職務に関する30の質問項目とミス対策などに関する38の質問項目を設定,それぞれ5件法で回答を求めた.職種別に因子分析を行い,抽出された因子を比較検討した後,共分散構造分析と重回帰分析で組織や職務に対する意識と安全意識の関連性について検討した.重回帰分析では,過誤対策委員経験の有無や雇用形態による影響を,ダミー変数を用いて確認した.<br><B>結果</B>:因子分析では,組織や職務に関する設問から5因子が,安全意識に関する設問から5因子が抽出された.薬剤師と事務職では因子の構成項目が若干異なった.共分散構造分析では,薬剤師と事務職ともに組織や職務に対する意識が安全意識に影響を与えていることが明らかとなった.重回帰分析では個々の因子およびダミー変数で影響に違いがあることが明らかとなった.<br><B>考察</B>:安全意識を高めるためには,まず良好な職場風土を醸成し,組織への評価を高めること,次いで職種,雇用形態,過誤対策委員の経験の有無などの違いを考慮した組織管理姿勢を検討する必要性が裏付けられた.
著者
光山 和彦 神原 浩平 鵜澤 史貴 中川 孝之 池田 哲臣
出版者
一般社団法人映像情報メディア学会
雑誌
映像情報メディア学会技術報告 (ISSN:13426893)
巻号頁・発行日
vol.34, no.5, pp.13-16, 2010-02-10
被引用文献数
4

800MHz帯FPUの高度化を目指した研究を行っている.これまで伝送容量の増大と回線信頼性の向上を目的として,MIMO-OFDM伝送技術とLDPC符号を用いた誤り訂正技術を組み合わせた伝送装置の開発を行ってきた.今回実際の広島駅伝コースや長野マラソンコースの一部区間において,試作装置を用いた移動伝送実験を行い,MIMO検出器として実装したMMSEウェイトを算出するRLSアルゴリズムやLDPC復号の繰返し回数など受信システムの基本パラメータを最適化した.また,受信アンテナ数をパラメータとしてMIMO-OFDM伝送の回線信頼性をビット誤り率の累積確率分布を用いて比較評価したので報告する.
著者
中川 淳一郎
出版者
大阪大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

我々はクラッシュ症候群の多臓器不全にいたるメカニズムに活性酸素種が強く関与していると考え、活性酸素種を制御するために抗酸化物質ETS-GSを用いて本研究を行った。その結果、抗酸化物質を経静脈的に投与することにより活性酸素種や炎症性サイトカインの産生が抑制され、引き続き生じる遠隔臓器障害が軽減し、生存率改善効果が得られた。活性酸素種はクラッシュ症候群において病態進行を誘導する一因であることが示唆された。
著者
中川 恭彦
出版者
一般社団法人日本音響学会
雑誌
日本音響学会誌 (ISSN:03694232)
巻号頁・発行日
vol.64, no.2, 2008-02-01

秋晴れの気候に恵まれた山梨大学甲府キャンパスで,2007年秋季研究発表会が開催されました。秋季研究発表会の概要は,日程は9月19〜21日,発表件数557件,参加登録者数1,009名,実行委員会委員数10名,アルバイト学生23名,LAN申込者数262名,瞬時アクセス数最大80程度,懇親会参加者213名でした。本学で3回目の音響学会秋季研究発表会開催を引き受け,少人数の実行委員会を立ち上げました。少人数でしたから準備も大変でしたが,音響学会事務局の絶大な支援と指導をいただき無事に何事もなく研究会を終了することができました。
著者
中村 健太郎 中川 貴史 笠岡 祐二 村田 将光 西村 健二 瀬崎 和典 野田 誠 速水 紀幸 村川 裕二 鈴木 文男
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.44, no.SUPPL.3, pp.S3_117-S3_122, 2012 (Released:2013-09-25)
参考文献数
9

われわれは,冠静脈洞(CS)pacingによる反時計回転(ccw)型心房粗動(AFL)の誘発時に,右房峡部領域において一方向性伝導ブロックの出現がみられることを報告してきた.他方,頻度の稀なclockwise(cw)型AFLの誘発機転は十分には検討されていない.今回cw-AFLが誘発された症例においてその誘発様式を検討した.症例:心房粗細動を有する80歳,男性.CS近位部~三尖弁輪周囲に20極電極カテーテル(先端A1,極間5mm)を留置し,低位外側右房(A19-20電極)より頻回pacingを行って峡部の伝導様式を検討した.周期250msにおけるpacingの際,pacing部位近接部を起源とする反復性心房興奮(RAR1+RAR2+RAR3波)が誘発された.3発のRAR波はおのおのCS開口部領域にて分裂電位を形成し,Wenckebach型伝導遅延を示しながら峡部をccw方向に伝導した.3発目のRAR3波の伝導の際,CS開口部領域における伝導遅延が十分となり,cw方向に反転するmicro-reentry性 echo-wave が同領域に出現した(U-turn現象).出現したecho-waveは,そのままcw方向に三尖弁輪周囲を旋回し,cw-AFLへと移行した.
著者
山本 圭彦 坂光 徹彦 堀内 賢 中川 朋美 林下 知惠 福原 千史 浦辺 幸夫
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.33 Suppl. No.2 (第41回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.A0796, 2006 (Released:2006-04-29)

【目的】 骨粗鬆症などによる高齢者の円背姿勢に対し、運動療法の効果を確かめることは重要である。本研究の目的は運動療法介入により円背姿勢が変化するかを明らかにすることである。【方法】 対象は、65歳以上の高齢者20名とした。安静立位にて明らかに円背姿勢を呈しているものをエクササイズ群(Ex群)、円背姿勢を呈していない高齢者をコントロール群(C群)として10名ずつ2群に分けた。年齢はEx群(男性2名、女性8名)で80.9±5.2歳、C群(男性4名、女性6名)で79.4±5.5歳であった。Ex群は20分の運動療法を週に2回の頻度で6ヶ月間、筋力増強エクササイズと脊椎の可動性を向上するエクササイズを行った。筋力増強エクササイズは腹臥位での上体反らし運動、脊椎の可動性を向上するエクササイズは腹臥位でのOn hands push upによる上体反らし運動を実施した。胸椎と腰椎の彎曲角度の測定にはSpinal Mouse(Idiag AG,Switzerland)を用いた。測定肢位は立位と腹臥位での安静位および最大体幹伸展位の3肢位とした。胸椎と腰椎の彎曲角度はそれぞれの各椎体間がなす角度の和を胸椎角と腰椎角として求めた。さらに前傾姿勢の指標としてTh1とS1を結ぶ線と床からの垂線がなす角度(全体傾斜角)を求めた。脊椎の可動性は腹臥位での安静位からのOn hands push upによる最大体幹伸展位で求めた。体幹伸展筋力の測定はGT-350(OG技研)を用いて体重比で求めた。統計学的分析にはEx群とC群の比較とエクササイズ前後の比較にはwilcoxon順位符号検定を用いた。エクササイズによる立位姿勢の角度変化と脊椎の可動性および体幹伸展筋力の変化量をそれぞれPearsonの相関係数を用いた。【結果】 6ヵ月後C群では胸椎角で1.5°、腰椎角で1.7°、全体傾斜角で0.5°屈曲方向へ変化した。Ex群は胸椎角で11.4°腰椎角で10.4°、全体傾斜角で1.6°伸展方向へ変化した(p<0.05)。Ex群はすべての角度でC群と比べ有意に角度変化を認めた(p<0.05)。エクササイズ前の脊椎の可動性が大きい対象ほどエクササイズにより立位姿勢は大きく変化した(r=0.55、p<0.05)。体幹伸展筋力はC群で0.32N/kg減少し、Ex群で0.84N/kg増加した(p<0.05)。エクササイズによる体幹伸展筋力が増加するほど立位姿勢は大きく変化した。(r=0.61、p<0.05)。【考察】 6ヶ月間の運動療法において脊椎の伸展は促され、前傾姿勢も改善された。視診および本人の自覚から十分に円背姿勢の改善を認め運動療法の効果を確かめることができた。安静立位の脊椎を伸展させるには脊椎の可動性を向上させ、体幹伸展筋力を増加させることが重要であると考えられた。【まとめ】 今回、運動療法介入により円背姿勢が改善するかを検討した。6ヶ月間のエクササイズにより脊椎は伸展し、円背姿勢が改善された。
著者
安藤 寿浩 中川 清晴 蒲生西谷 美香
出版者
公益社団法人 応用物理学会
雑誌
応用物理 (ISSN:03698009)
巻号頁・発行日
vol.70, no.12, pp.1447-1451, 2001-12-10 (Released:2009-02-05)
参考文献数
17

気相合成法によるダイヤモンド薄膜の倉成が行われるようになっZ以来,ダイヤモンド薄膜の応用覇究が盛んになり,また不純物の制御による半導体ダイヤモンド結aeqを利用した実用化研究も注目されZいる1,2).ダイヤモンド半導体はそのバンドギャップの広さゆえ表面伝導性,表面の負性電子親和性などの特異な性質を発現する.QVO法による不純物のh一ピング,ホモ/ヘテQエピタキシー,表面伝導,電子親和性の制御,すべてダイヤモンド表面の関わる重要な研究課題である.また最近Zは電気化学分野での電極応用,DNAの固定などの生体関連材料との融合,触媒担体への応用,カーボンナノチューブとの複合化といった新たな分賢で材料としてダイヤモンドを用いる場合のダイヤモンド表面の重要性が増している.ダイヤモンドはいうまでもなく炭素単体の典型的な結最であり,炭素原子;を中心とする有機化合物の延長でもある.本稿では,ダイヤモンド,特にその表面を無機結晶固体と有機化合物のインターフェースであるとの考えから,ダイヤモンドの結晶成長および表面科学の研究の一部を紹介する.
著者
中川 幹子
出版者
大分大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

心臓の冠動脈の太い血管には狭窄がなく、微小な血管の循環障害により起こると考えられている微小血管性狭心症は、中年女性の胸痛の原因として注目されているが、確立された診断法や治療法はない。若年健常男女を対象に、心エコー法を用いた冠血流予備能の測定を行い、漢方薬の桂枝茯苓丸の効果を検討した。桂枝茯苓丸の内服後に冠血流および冠血流予備能は有意に増加した。桂枝茯苓丸は冠血流予備能を増加する可能性があることより、微小血管性狭心症の治療薬としての有用性が期待される。
著者
宮崎 哲治 中川 彰子 青木 省三
出版者
一般社団法人日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.57-66, 2014-01-31

妊娠中の強迫性障害に対し、薬物療法は行わず曝露反応妨害法を中心とする行動療法のみで奏効した患者を経験したので、若干の考察を加え報告する。患者は28歳女性。結婚後、トイレを汚したのではないか、自分が歩いた所は汚れてしまったのではないかという強迫観念が生じ、夫や実母に何度も汚くないとの保証を要求するようになった。妊娠後さらに強迫症状は悪化した。妊娠28週でA精神科診療所を初診したが、トイレに行った際には、除菌シートで足やトイレの床を拭き、トイレでの行動を克明にメモし、携帯電話のカメラで自分の行動などを撮影し確認していた。また、汚れやばい菌をまき散らしてしまうという強迫観念のため料理などの家事もできない状態であった。曝露反応妨害法を中心とする行動療法を開始したところ、強迫症状は徐々に改善していった。出産後は家事も育児も本人が行えるようになり、約半年後の受診時にも強迫症状は認めなかった。
著者
澤田 晶子 西川 真理 中川 尚史
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement
巻号頁・発行日
vol.34, pp.36-37, 2018

<p>群れで生活する霊長類は,他個体との親和的な関係を維持するために社会的行動をとる。複数の動物種が同所的に生息する環境では,異種間での社会的行動も報告されており,ニホンザルとニホンジカが高密度で生息する鹿児島県屋久島や大阪府箕面市においても,両者による異種間関係(以下,サル-シカ関係)が報告されている。サル-シカ関係の大半は,シカによる落穂拾い行動(樹上で採食するサルが地上に落とした果実や葉を食べる)であるが,稀に身体接触を伴う関係もみられる。本発表では,これまでに発表者らが西部林道海岸域で観察した異種間交渉の事例を報告する。敵対的行動(攻撃・威嚇)と親和的行動(グルーミング),いずれの場合でもサルが率先者になることが多かった。シカへのグルーミングはコドモとワカモノで観察され,サルとシカの組み合わせに決まったパターンはなかった。シカがグルーミングを拒否することはなく,シカからサルへのグルーミングは確認されなかった。コドモとワカモノによる「シカ乗り」も数例観察された。ワカモノのシカ乗りは交尾期(9月~1月)に起きており,前を向いて座った状態でシカの背中や腰に陰部を擦りつける自慰行動がみられた。実際に交尾に至ることはなかったものの,ワカモノにとってはシカ乗りが性的な意味合いをもつことが示唆される。一方のコドモは,非交尾期でもシカに乗ることがあった。その際,シカの首に座ったり背中にぶら下がったりと体位や向きにバリエーションがみられたこと,自慰行動を示さなかったことから,コドモにとってのシカ乗りは遊びの要素が強いと考えられる。先行研究との比較を通して,サル-シカ関係について議論し情報を共有したい。</p>