著者
石田 泰博 前野 隆司
出版者
日本創造学会
雑誌
日本創造学会論文誌 (ISSN:13492454)
巻号頁・発行日
vol.21, pp.22-41, 2018 (Released:2018-04-01)

モノからコト消費へのトレンド変化に伴い,商品やサービスを通した感動経験提供による差別化ニーズが高まっている.人を感動させる製品やサービスを設計する際には,ランダムではなく,時間軸上の配置を考慮した感動要素の設計が必要であると考えられる.このため,筆者らは,時間軸上の感動要素の配置を分析するためのフレームワークを提案した.すなわち,感動の対象となる感動要素を配置するタイミングの分析手法をフレームワーク化した.さらに,提案したフレームワークを実際に使用した結果の検証を行った.感情の高ぶり(Sense),知見拡大(Think),体験拡大(Act),関係性の拡大(Relate)のSTAR感動要素によって,どの時間軸で感動を喚起できるかの点から,歴代興行収入が高く多くの人に感動経験を提供した映画作品(アナと雪の女王)の感動事象を分析することで,本フレームワークの有効性を確認した.
著者
高橋 清 宗田 良 岸本 卓巳 松岡 孝 前田 昌則 荒木 雅史 谷本 安 河田 典子 木村 郁郎 駒越 春樹 谷崎 勝朗
出版者
一般社団法人 日本アレルギー学会
雑誌
アレルギー (ISSN:00214884)
巻号頁・発行日
vol.41, no.6, pp.686-692, 1992-06-30 (Released:2017-02-10)

自律神経系の機能異常に基づく各種アレルギー性肺疾患病態における肺肥満細胞の役割を解明する目的で, 酵素処理法, percoll遠心法, 付着細胞除去法によって得られた高純度ヒト肺肥満細胞のアセチルコリンに対する反応性を, ヒスタミン遊離率を指標として検討した. その結果, 肥満細胞からのヒスタミン遊離はアセチルコリンの濃度に依存し, 10^<-5>で有意に亢進していた (p<0.05). また, アセチルコリンは抗ヒトIgE家兎血清によるヒスタミン遊離を相対的に増加させた. なお, かかるヒスタミン遊離はアトロピンでは部分的にしか抑制されなかった. 一方, ヒト末梢血好塩基球はかかるアセチルコリンに対する反応性が認められなかった. 以上の結果より, ヒト肺肥満細胞はIgE受容体のみならず, アセチルコリン受容体を介する反応により自律神経系の標的細胞として各種アレルギー性肺疾患の発症機構の一端を担っていることが示唆された.
著者
物部 真奈美 池田 麻衣 江間 かおり 徳田 佳子 山本(前田) 万里
出版者
日本茶業学会
雑誌
茶業研究報告 (ISSN:03666190)
巻号頁・発行日
vol.2012, no.114, pp.114_29-114_36, 2012-12-31 (Released:2015-10-30)
参考文献数
10

緑茶冷水(4℃)浸出液を飲用することによる粘膜免疫系の活性効果は,マクロファージの活性上昇と正の相関が認められている。そこで,本報では,マクロファージ様細胞の貪食能を指標に,緑茶冷水浸出液による自然免疫系の活性化について,茶期及び品種による違いを調べた。その結果,緑茶冷水浸出液のEGC/EGCGが約2を超えていることが必要条件であり,かつEGC量が十分量含まれていれば,茶品種・年度に関わらず活性を得られることが示唆された。さらに,茶期が進むに従いカテキン含量が上昇するため,茶期の進んだ茶葉を利用すると効率良く成分を得ることが可能である。また,品種によっても茶葉中EGC含量に違いがあり,本報告の環境条件下で調べた茶品種の中では「ゆたかみどり」が全ての茶期でEGC含量比が高く,効率良く高EGC浸出液を得られる品種であった。
著者
永井 章夫 長沢 峰子 河村 泰仁 児玉 卓也 前花 淳子 南 新三郎 渡辺 泰雄 成田 弘和 清水 喜八郎
出版者
公益社団法人 日本化学療法学会
雑誌
日本化学療法学会雑誌 (ISSN:13407007)
巻号頁・発行日
vol.43, no.2, pp.200-206, 1995-02-25 (Released:2011-08-04)
参考文献数
15

Vancomycin (VCM) とarbekacin (ABK) 誘発性の腎毒性に対するpiperacillin (PIPC) の軽減作用についてラットを用いて検討した。ラットにVCM 160mg/kg (iv), ABK 16mg/kg (im) をそれぞれ4日間連続投与して腎毒性を誘発させた。VCMの160mg/kg単独群では腎尿細管腔の拡張などの軽度腎障害がみられた。ABKの16mg/kg単独群でも尿細管上皮の硝子滴変性が軽度にみられた。これらの変化はPIPCの320mg/kg投与により軽減された。また, VCMにABKを併用するとBUN, 血中クレアチニンの上昇, 尿中NAG, 尿中蛋白量, 尿中β2-マイクログロブリンの増加, 腎重量の増加がみられ, 組織学的には尿細管上皮の壊死などの腎障害像が観察され, 各単独群に比べ腎毒性は著しく増強された。これらの変化に対してもPIPCは軽減作用を示した。
著者
平野 実 宮原 卓也 宮城 平 国武 博道 永嶋 俊郎 松下 英明 前山 忠嗣 讃井 憲威 川崎 洋 野副 功 広瀬 肇 桐谷 滋 藤村 靖
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.74, no.7, pp.1189-1201, 1971-07-20 (Released:2010-10-22)
参考文献数
23
被引用文献数
1 1

研究目的: 歌唱に際して声区, ピッチ, 声の強さなどがどの様にして調節されているかを, 一流の声楽家について明らかにし, 発声法の訓練, 指導に資するとともに, 音声調節のメカニズムの解明にも寄与することを目的とした.研究方法: 本邦第一級のテノールとして活躍中の一声楽家を対象として, 種々の発声中の喉頭筋々電図記録, 呼気流率測定, 声帯振動の高速度映画撮影を行っ.研究成績および結論: 1. 声区は声帯筋によつて第一義的に調節される. 声帯筋はheavy registerでは強く収縮するが, light registerではほとんど収縮しない. 従つて, heavy registerでは声帯が厚く, 粘膜波動は著明で, 開放時間率が小さく, 開閉速度率は大きい. 呼気流率は一般にlight registerで大きい.2. ピッチの調節機構は声区によつて異なり, 前筋, 側筋, 声帯筋の関与はheavy registerで顕著である. 呼気流率の関与は何れの声区においても認められなかった.3. heavy registerでは声帯筋と呼気流率が声の強さの調節に関与する. light registerでは声帯筋は関与せず, 呼気流率と声の強さの関係が極めて緊密である.4. 声の調節機構はstaticなものではなく, 前後の発声情況によつて変化するdynamicなものである.
著者
前田 正信 羽野 卓三
出版者
日本医学教育学会
雑誌
医学教育 (ISSN:03869644)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.71-76, 2013-04-25 (Released:2015-07-06)
参考文献数
11
被引用文献数
2

背景 : 本研究の目的は,医学部学生の生理学筆記試験の成績がどのように変化しているかを調べ,試験の成績が入学定員増とどのような関係であるか明らかにし,入学定員増後の医学部学生の試験の成績よりみた学力低下が実際に生じている根拠を与えることである.方法 : 医学部の入学定員増以前の学年,定員増以後の学年の生理学筆記試験の成績の平均値,標準偏差,平均値+標準偏差,平均値–標準偏差,学生数,不合格者数,学生数に対する不合格者の割合を調べた.結果 : 医学部学生の試験の成績は入学定員増以後に有意に低下していることが明らかとなった.考察 : 医学部学生の試験の成績よりみた学力低下は入学定員増が関与していると考えられる.
著者
上田 周二 弓指 孝博 吉田 謙 前田 哲生 烏野 隆博 手島 博文 平岡 諦 中村 博行 正岡 徹
出版者
一般社団法人 日本感染症学会
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.71, no.5, pp.464-467, 1997-05-20 (Released:2011-09-07)
参考文献数
8
被引用文献数
2 2

Tsutsugamushi disease is widely spread throughout Japan. A case of tsutsugamushi disease was seen in October, 1996. A 64-year-old male developed typical symptons of tsutsugamushi disease with Rickettsia tsutsugamushi, after he returned to Japan from Cheju Island, Korea. Not only in Japan but also in other Asian countries including Korea, China, Taiwan, and Thailand, tsutsugamushi disease is one of the most important rickettsial diseases carried by ticks or mites.If a traveller returning from an Asian country has symptons such as high fever, skin eruption, and lymphadenitis, we should susupect that he is suffering from tsutsugamushi disease and should search if he has an eschar on any area of his body. We should not forget that tsutsugamushi disease is an imported disease. Patients of tsutsugamushi disease often have hematological disorders. They are sometimes referred to the hematological section of the hospital. Hematologists should be familiar with this disease.
著者
島谷 康司 沖 貞明 大塚 彰 関矢 寛史 金井 秀作 長谷川 正哉 田坂 厚志 前岡 美帆 遠藤 竜治 星本 諭 小野 武也
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.2007, pp.B1154, 2008

【目的】理学療法臨床場面においてジャングルジムなどの遊具をくぐる時に身体をぶつけることが観察されるが,軽度発達障害児が健常児と比較してどの部位をどのくらい多くぶつけるのかについて実証した報告は見当たらない.そこで今回,軽度発達障害児は健常児と比較して遊具などに身体がぶつかることがあるのかどうかを量的・質的に検証することを目的にくぐり動作を用いて実証実験を行った.<BR>【対象】 対象は健常幼児9名(男児3名,女児6名),軽度発達障害と診断されている幼児9名(男児6名,女児3名)であった.年齢は健常児・軽度発達障害児ともに6歳前半が2名,5歳後半が7名であった.なお,本研究は本大学の倫理委員会の承認を得た後,研究協力施設と被験児の保護者に研究内容を説明し,同意を得たうえで実施した.<BR>【方法】実験環境の設定は 7種類の遊具と高さの異なる6つのバーを設置した.また,遊具とバーの距離は約1mになるように一定に配置した.6種類のバーは各被験児の頭頂・肩峰・胸骨剣状突起・上前腸骨棘・膝蓋骨上縁に設定した.実験はスタート位置から7種類の遊具と6種類のバーを往復させ,「教示をしない(以下,教示なし条件)」,「ぶつからないようにバーをくぐること(以下,ぶつからない条件)」,「ぶつからないようにバーをくぐり,ゴールに速く帰ってくること(以下,ぶつからない+速く条件)」の3条件を各1試行実施した.検証は3台のビデオカメラを用いてくぐり動作を記録し,身体の一部が接触したバーの種類(6種)とその接触回数,接触した身体部位を抽出した.バーに接触した身体部位分けは頭部・肩甲帯・腰部・臀部・下肢の5箇所とした.なお,1種類のバーのくぐり動作で身体部位が2箇所以上接触した場合はその総数を記録した.<BR>統計学的処理については,各条件の比較は一元配置分散分析およびSceheffeの多重比較,軽度発達障害児と健常児間の比較はt-検定(Welchの検定)を用いた.なお,有意水準は5%とした.<BR>【結果】各条件ごとに接触回数を軽度発達障害児と健常児で比較すると,教示なし条件については有意差が認められた(p<0.05).また,身体が接触したバーの高さを比較すると,膝高の間には有意差が認められた(p<0.05).<BR>【考察】くぐり動作において教示しなければ軽度発達障害児は健常児と比較してバーに接触する回数が有意に多いということが実証され,普段遊具で遊ぶ時には健常児に比べて身体をぶつけることが多いという臨床上の観察と一致した.軽度発達障害児が接触するバーの高さは膝高が多く,身体部位は教示がない条件下では下肢,ぶつからないようにしかも速くという条件下では腰部・臀部をぶつけることが多かった.これらの原因として注意機能,知覚や運動能力,自己身体像の問題が考えられたため,今後検証していく予定としている.
著者
前田 恵一 Barrow John Gibbons Gary Starobinsky Alexei
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

一般相対性理論は多くの実験・観測により十分検証されているが、それにもかかわらずダークエネルギーなどの宇宙論最大の謎やミクロ・スケールでの重力の基本的問題などの解決のため新しい重力理論が次々と提唱されている。どの重力理論が本当に正しいかを判断するには、重力理論を個々に解析するより系統的な方法で検証するのがより適切であると考え、本研究では3つの系統的な手法(有効理論的アプローチ、基礎理論的アプローチ、一般相対論的アプローチ)を提案し、それらを有機的に組み合わせ、 宇宙の加速膨張の説明やインフレーションモデルの適否などの総合的な観点から様々な重力理論の検証を行った。
著者
竹下 正哲 中西 一弘 高橋 丈博 蓑原 隆 前山 利幸 戸祭 克 益満 ひろみ 後藤 元
出版者
日本農作業学会
雑誌
農作業研究 (ISSN:03891763)
巻号頁・発行日
vol.53, no.4, pp.183-194, 2018 (Released:2019-06-20)
参考文献数
50
被引用文献数
2

ドリップ灌漑はヨーロッパ,イスラエルなどを中心に世界に普及しているが,日本では全灌漑地の2%でしか使用されていない.その理由は,日本は四季を通じて十分な降雨があるため,露地栽培でドリップ灌漑は必須ではないとみなされてきたためと考えられる.本研究では,降雨が十分にある日本の露地において,ドリップ灌漑を導入することで,ピーマンの単位面積あたり収量を増加させることができるのではないかという仮説を検証した.「ドリップ灌漑の有無」「固形肥料・液体肥料の違い」の2要因を設定し,そのどちらが影響しているか,あるいは交互作用があるかを検証するために,ピーマンを用い,二元配置の分散分析実験を行った.結果は,「固形肥料・液体肥料の違い」に関わらず,ドリップ灌漑をした試験区の方が,ドリップ灌漑をしなかった試験区(天水のみ区)より収量(生重量),乾燥重量,着果数が増加した.とくに収穫量が落ちてくる9,10月の収量が,ドリップ灌漑区で多くなっていた.その差の要因は多頻度灌水にあると考えられ,日本の露地のように十分な降雨がある耕地においても,ドリップ灌漑により毎日定期的に灌水することで,ピーマンの着果数を増やし,収量を増加させることができることが示唆された.
著者
北 圭介 中田 研 前 達雄 樋口 周久 中村 憲正 名井 陽 吉川 秀樹
出版者
大阪大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2011

関節構成成分である半月の治療において、近年、人工材料や、生体由来材料の有用性が報告がされてきたが、免疫拒絶反応、感染制御等、克服すべき問題が存在する。これらの問題の最も効率的な解決策は、自己由来の材料を用いることである。フィブリンクロットは、静脈血より簡単に作成される網状構造をもつ構造体であり、自己由来であるため安全性が高い材料である。本研究では、このフィブリンクロットを用いた半月再生治療技術について検討した。
著者
財前 知典 小関 博久 小関 泰一 小谷 貴子 田中 亮 平山 哲郎 多米 一矢 川崎 智子 清川 一樹 川間 健之介
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.25, no.4, pp.615-619, 2010 (Released:2010-09-25)
参考文献数
13
被引用文献数
3 2

〔目的〕本研究は,入谷式足底板における長パッドが歩行および筋力に与える影響について,歩行時の骨盤加速度,大腿部筋活動,荷重応答期の時間的変化及び,静止時股関節内外転筋力変化を計測することにより明確にすることが目的である。〔対象〕健常成人男性15名(平均年齢25.1±3.2歳)を対象とした。〔方法〕表面筋電図,加速度計,Foot Switch,およびHand Held Dynamometerを用いて,歩行時大腿部筋活動,前額面上における加速度,並びに荷重応答期時間変化,股関節内外転筋力変化を自由歩行と長パッド貼付後で測定し,得られた測定値を対応のあるt検定を用いて分析した。〔結果〕長パッド貼付により,荷重応答期は早期に生じ,内側加速度の増大がみられ,立脚期初期における大腿二頭筋の活動減少,大腿直筋および大殿筋の活動増大,立脚期後半において長内転筋活動減少がみられた。また,長パッド貼付側の股関節外転筋筋力は増大した。〔結語〕長パッド貼付は,内側加速度及び歩行時大腿部筋活動を変化させ,股関節外転筋筋力を増大させる可能性が示された。
著者
財前 知典 小関 博久 田中 亮 多米 一矢 川崎 智子 小谷 貴子 小関 泰一 平山 哲郎 川間 健之介
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.AbPI1023, 2011 (Released:2011-05-26)

【目的】歩行は個人によって特徴があり、それは健常成人においても同様である。健常成人における歩行の特徴を把握することは運動器疾患の予防の観点からも大変重要であると考える。そこで今回、踵離地(以下HL)において早期群と遅延群に分類し、両群における歩行時下肢筋活動の違いについて調査し、中足骨後方部分の横アーチ挙上における下肢筋活動変化と主観的歩きやすさの変化について比較検討した。【方法】被験者は健常成人17名24脚(男性16脚、女性8脚、平均年齢24.7±2.2歳)とした。各被検者の自然歩行をFoot switchにて計測し、その信号を基に立脚期を100%として時間軸の正規化を行った。Perryの歩行周期を基に49%をHL標準値として、49%よりHLが早い群を早期群、遅い群を遅延群に分類した。入谷式足底板における中足骨後方部分の横アーチパッドの貼付位置に準じて、パッドなしから2mmまでを0.5mm刻みで貼付し、その時の下肢筋活動と膝関節及び骨盤前方加速度を多チャンネルテレメータシステムWEB7000(日本光電社製)にて測定した。なお、それぞれの歩行距離は40mとした。被検筋は腓腹筋内外側頭(以下GM・GL)・前脛骨筋(以下TA)・後脛骨筋(以下TP)・長腓骨筋(以下PL)・大腿直筋(以下RF)・内外側ハムストリングス(以下MH・LH)とした。サンプリング周波数は1kHzとし、得られた加速度波形ならびに筋電図波形をBIMUTAS-Video for WEB(キッセイコムテック社製)で取り込み、筋電図波形では30~500Hz、加速度波形は0~10Hzの周波成分を抽出した。また、各被検筋に対して最大等尺性随意収縮を行い、安定した2秒間の筋電積分値(以下IEMG)を基準として各筋における歩行中の%IEMGを算出した。各被検筋における%IEMGを1%階級に分割したうえで、HL前10%、HL後10%の%IEMGを比較検討した。なお、加速度に関してはHL前10%、HL後10%及びHL時の加速度も併せて算出した。また、早期群及び遅延群におけるパッドの高さによる主観的歩きやすさの違いに関してはマグニチュード推定法(以下ME法)を用いて比較検討した。統計処理にはJava Script-STAR version 5.5.4jを用いて2要因5水準の混合配置の分散分析を行い、有意確率は5%未満とした。【説明と同意】被験者にはヘルシンキ宣言に沿った同意説明文書を用いて本研究の趣旨を十分に説明し、同意を得たうえで実施した。【結果】 HL早期群と遅延群では、遅延群においてHL前10%でGLの筋活動増大がみられ〔F(1,20)=11.11〕、HL後10%でTP、PLの有意な筋活動増大がみられた〔TP:F(1,20)=5.75、PL:F(1,20)=5.99〕。膝関節前方加速度に関しては、HL後10%で早期群に比較して遅延群において有意な増大がみられたが〔F(1,20)=7.51〕、骨盤の前方加速度においては有意差がみられなかった。また、ME法における歩きやすさの主観的評価については、早期群と遅延群において有意な差はみられなかったものの早期群において1.5mm以上のパッドを歩きやすいと感じ、遅延群においては1mm以下のパッドが歩きやすいと感じる傾向にあった〔F(1,20)=2.35〕。【考察】本研究の結果により、HL遅延群ではHL前10%においてGLの筋活動が増大し、HL後10%においてTPとPLの筋活動が増大した。これは遅延群ではHLが遅く、下腿前傾が増大するために制御作用として働くGLの筋活動が増大するものと推察する。また、HL後に生じるTPとPLの筋活動増大は、HLが遅延することにより、その後の身体前方推進力を増大する作用としてTPやPLの筋活動を増大させた事が考えられる。このことは、遅延群においてHL後の膝関節前方加速度の増大がみられたことと関連があるものと思われる。 また、ME法における歩きやすさの主観的評価に関しては有意差がみられなかったものの早期群では高めのパッドが歩きやすいと感じ、遅延群では低めのパッドを歩きやすいと感じる傾向にあった。中足骨後方部分の横アーチパッドは高く処方するとHLが遅延し、低めに処方するとHLが早期に生じるとされている。早期群ではパッドの高さを高く処方することで、HLが遅延した結果、主観的歩きやすさが増大し、遅延群ではパッドの高さを低く処方することでHLが早期に生じ、主観的歩きやすさが増大したものと推察される。【理学療法学研究としての意義】本研究ではHLを基準に健常成人を早期群と遅延群に分類し、歩行時下肢筋活動の違いを検証し、かつHLの速さに影響を及ぼすと考えられる中足骨後方部分の横アーチパッドの高さの変化によって両群の主観的歩きやすさの変化を比較検討した。健常成人は今後運動器疾患になる可能性があり、健常成人の歩行の特徴を明らかにすることは、運動器疾患の予防を行う上で非常に重要であると考える。