- 著者
-
宮崎 あゆみ
- 出版者
- 社会言語科学会
- 雑誌
- 社会言語科学 (ISSN:13443909)
- 巻号頁・発行日
- vol.19, no.1, pp.135-150, 2016-09-30 (Released:2017-04-12)
- 参考文献数
- 51
- 被引用文献数
-
4
本稿では,日本の中学校における長期のエスノグラフィを基に,どのように生徒たちが,ジェンダーの境界を越えた一人称を使用し,どのように非伝統的一人称実践についてのメタ語用的解釈を繰り広げていたのかについて分析する.生徒たちのメタ語用的解釈の分析からは,支配的なジェンダー言語イデオロギーから距離を置く創造的なジェンダーの指標性が浮かび上がった.その三つの例は以下の通りである.1)女性性に対する低い評価に伴い,「アタシ」よりも,中性的でカジュアルとされる「ウチ」が好まれる,2)女子が男性一人称「オレ」「ボク」を使用することが正当化される,3)一方,男性語であるはずの「ボク」を男子が使用する場合,望ましくない男性性を指標する.このようなジェンダー言語実践へのメタ語用的解釈は,社会的ジェンダー・イデオロギーの変化と結びついて,ジェンダー言語イデオロギーの変容に繋がった.ジェンダーを巡る「メタ・コミュニケーション」は,このように,言語と社会,ミクロとマクロ,言語とアイデンティティの関係を読み解く貴重な研究材料である.