- 著者
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杉原 名穂子
- 出版者
- 一般社団法人 社会情報学会
- 雑誌
- 社会情報学 (ISSN:21872775)
- 巻号頁・発行日
- vol.6, no.3, pp.19-33, 2018 (Released:2018-10-12)
- 参考文献数
- 15
- 被引用文献数
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本稿はジェンダー論の観点から社会関係資本(SC)の効果について実証的に検討するものである。SC研究はしばしばジェンダーブラインドであるという批判が寄せられてきた。それはSC生産活動が性別役割を強化・再生産することに無自覚であることへの批判である。本稿ではそれらの批判をふまえ,特に家族での活動およびそこでの権力作用に注目し,それらが個人が所有するSCにどのように関連しいかなる利益をもたらすか,都市の家族を対象にした量的調査から分析した。その結果,次のことが明らかになった。豊かなSCから多くの利益を得ているのは女性の方である。満足感,健康,娯楽活動,市民意識などとの関連をみると,男性にとっては本人が所有する経済・人的資本と家族が資産となっているのに対し,女性では自身と家族に加えネットワークが資産である。女性にとって特に,橋渡し型SCは満足感,娯楽,健康,市民意識の醸成といった利益をもたらしている。家族内SCは男女とも多くの面でプラスの効果をもたらしている。密な家族は家族内SCを用いてネットワークをつくる。ただし,密な家族とは協力行動を多くおこなう家族であり,女性のケア活動への大きな貢献を意味するのではない。ケア活動は女性の橋渡し型SCの構築を阻害する。つまり,家族内SCを増やすという提案は男性にはプラスの利益をもたらすが,女性の場合には橋渡し型SCの醸成を阻害しない途を探ることが必要である。