著者
相原 隆貴 小林 慧人 髙野(竹中) 宏平 深澤 圭太 中園 悦子 尾関 雅章 松井 哲哉
出版者
日本景観生態学会
雑誌
景観生態学 (ISSN:18800092)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.137-146, 2020 (Released:2021-09-15)
参考文献数
51
被引用文献数
1

マダケ属のタケ(Phyllostachys spp.)は産業管理外来種に指定され,放置竹林の拡大は日本の里地里山管理で最大の問題点とも言われるが,人口減少や温暖化によって今後さらに加速する恐れがある.本研究では,長野県生坂村で無居住化した集落の一つを対象に,無居住化前後の1977年と2014年の空中写真から植生や土地利用を判読し,その変化を解析した.2017年,2018年,2020年には現地を調査した.その結果,1977年から2014年にかけて集落全体の竹林面積は1977年の3林分0.26 haから2014年の17林分3.52 haへと13.54倍に増加し,年間拡大率は1.073 ha·ha-1·year-1と推定された.現地調査の結果,2014年の空中写真で判読できた17林分はハチクP. nigra var. henonis(14林分)とマダケP. bambusoides(3林分)だった.1977年と2014年で比較可能な3林分の個別の年間拡大率はハチク2林分がそれぞれ1.016,1.056,マダケ1林分が1.036 ha·ha-1·year-1だった.これらの推定値は,西日本のモウソウチクを中心に報告されてきた値(平均1.03)に近く,年平均気温が11.2℃と比較的涼しい地域のマダケやハチクであっても,同程度の拡大リスクがある可能性を示している.
著者
古村 健太郎 松井 豊
出版者
弘前大学人文社会科学部地域未来創生センター
雑誌
地域未来創生センタージャーナル (ISSN:24341517)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.15-25, 2020-02

本研究は、マッチングアプリの利用経験とリスクのある性交経験との関連を検討することと、マッチングアプリ利用の心理的背景を検討することを目的としたWebパネル調査を行った。調査対象は、18 - 29 歳の484 名(男性239名、女性245名)であった。分析の結果、男女ともに恋人がいる人との性交、恋人以外の人との性交、見知らぬ人との性交の経験といったリスクのある性交経験は、アプリ利用経験がある場合に多かった。また、男性では金銭を支払った性交が、女性では既婚者との性交、首締めなどの危険な性交、金銭を受け取った性交、性病の感染経験が、アプリ利用経験がある場合に多かった。心理特性については、アプリ利用経験がある人は、賞賛獲得欲求やぬくもり希求の得点が高かった。これらの結果から、マッチングアプリの利用経験とリスクのある性交との関連について議論した。
著者
後藤 春彦 松井 勝紀
出版者
一般社団法人 日本建築学会
雑誌
日本建築学会計画系論文報告集 (ISSN:09108017)
巻号頁・発行日
vol.454, pp.145-154, 1993-12-30 (Released:2017-12-25)
参考文献数
18

This paper alms to clear the present situation and problem of the signboards set up along Tokaido-Shinkansen between Tokyo and Shin-Osaka. The conclusions in this paper are as follows ; 1) A large number of signboards set up along the Shinkansen on the outskirts of the big city. And they are not in good condition on the landscape. 2) The social consensus has to be against setting up them. 3) The local governments have to pull down illegal signboards positively. 4) The sponsors have to take moral principles responsibility for their own signboards. 5) The advertising agency union has to keep under selfcontrol of setting up them.
著者
植田 睦之 岩本 富雄 中村 豊 川崎 慎二 今野 怜 佐藤 重穂 高 美喜男 高嶋 敦史 滝沢 和彦 沼野 正博 原田 修 平野 敏明 堀田 昌伸 三上 かつら 柳田 和美 松井 理生 荒木田 義隆 才木 道雄 雪本 晋資
出版者
特定非営利活動法人バードリサーチ
雑誌
Bird Research (ISSN:18801587)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.F3-F11, 2014-10-01 (Released:2014-10-15)
参考文献数
29

2009年から2013年まで,全国21か所の森林で繁殖期の鳥類の個体数変化についてモニタリングを行なった.98種の鳥が記録され,そのうち10地点以上で記録された25種を対象に解析を行なったところ,薮を生息地とするウグイスとコルリが減少しており,キビタキが増加していた.ウグイスとコルリはシカの植生への影響が顕著な場所で個体数が少なく,シカによる下層植生の減少がこれらの種の減少につながっていることが示唆された.しかし,シカの影響が顕著でない場所でも減少傾向にあり,今後のモニタリングにより減少の原因のさらなる検討が必要である.
著者
安藤 彰男 今井 亨 小林 彰夫 本間 真一 後藤 淳 清山 信正 三島 剛 小早川 健 佐藤 庄衛 尾上 和穂 世木 寛之 今井 篤 松井 淳 中村 章 田中 英輝 都木 徹 宮坂 栄一 磯野 春雄
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会論文誌. D-II, 情報・システム, II-パターン処理 (ISSN:09151923)
巻号頁・発行日
vol.84, no.6, pp.877-887, 2001-06-01
被引用文献数
57

テレビニュース番組に対する字幕放送を実現するためには, リアルタイムで字幕原稿を作成する必要がある.欧米では特殊なキーボード入力により, ニュースの字幕原稿が作成されているが, 日本語の場合には, 仮名漢字変換などに時間がかかるため, アナウンサーの声に追従して字幕原稿を入力することは難しい.そこで, 音声認識を利用した, 放送ニュース番組用の字幕制作システムを開発した.このシステムは, アナウンサーの音声をリアルタイムで認識し, 認識結果中の認識誤りを即座に人手で修正して, 字幕原稿を作成するシステムである.NHKでは, 本システムを利用して, 平成12年3月27日から, ニュース番組「ニュース7」の字幕放送を開始した.
著者
武田 健一 菊池 大輔 飯塚 敏郎 布袋屋 修 三谷 年史 黒木 優一郎 松井 啓 山下 聡 藤本 愛 中村 仁紀 貝瀬 満
出版者
一般社団法人 日本消化器内視鏡学会 関東支部
雑誌
Progress of Digestive Endoscopy (ISSN:13489844)
巻号頁・発行日
vol.77, no.2, pp.76-77, 2010-12-10 (Released:2013-07-25)
参考文献数
2
被引用文献数
1 1

In the case of gastric cancers, it is essential to determine the extent and depth of the tumor accurately for deciding on courses of treatment. We have sometimes experienced the cases that pre-therapeutic diagnosis of those factors were difficult. In this report, we describe a case of gastric linitis plastica, which was diagnosed based on the ESD and additional surgical specimens. The patient was 60 years old man. A depressed lesion was pointed out at the greater curvature of middle gastric body. Biopsy revealed pooly differentiated and signet ring cell adenocarcinoma. Using magnification and EUS, this lesion was diagnosed as intramucosal cancer and 20mm in size. After informed consent, ESD was performed and the lesion was resected in en bloc fashion. However pathological examination showed incomplete resection of margin positive in endoscopic specimen and isolated cancer cell remained in the muscle layer in surgical resected specimen. Finally, this case was diagnosed of gastric linitis plastica based on the pathological examination.
著者
松井 直人
出版者
公益財団法人 史学会
雑誌
史学雑誌 (ISSN:00182478)
巻号頁・発行日
vol.131, no.4, pp.1-26, 2022 (Released:2023-04-20)

室町幕府にとって、都市京都、及び京都を包含する山城一国の支配を実現することは、政権の存立基盤を維持してゆくうえで重要な意味を持った。そのため、当該地域の支配の様相を探ることは室町幕府論に不可欠な課題といえる。しかし、京都支配に比して山城国支配に関する研究は停滞著しく、基礎的な点を含め、改めて総合的な検討を行う必要がある。そこで本稿では、領域支配の担い手であった山城守護を通じた幕府の山城国支配の展開を論じるとともに、同国を拠点とした室町幕府の特質に迫ることを目指した。 本論では、幕府開創期から応仁・文明の乱前後を主な検討期間として山城守護の機構や支配方式の展開を跡づけた。14世紀中葉以降、山城国では幕府の軍事統括者であった侍所が所領問題の対処にあたっていたが、14世紀末に幕府による隣国大和国に対する統制の実現を契機に、侍所権限の分割と山城守護の新設が行われ、国内支配機構の充実が図られた。また、足利義満の権勢が確立すると、義満は将軍直臣(結城満藤・高師英)を山城守護に任じ、彼らを手足として諸勢力との取次や諸役の徴収を担わせた。その後、15世紀前半には在京大名が守護職を巡役で担当する仕組みが定着する。しかし、15世紀中葉を境に、畠山氏が独自に守護権を行使して国内支配を進めたことで、幕府による国内支配の体制は衰退へと転じた。 以上からは、①将軍の直臣か、あるいは大名かという守護就任者の属性の違いが、幕府による山城国支配の方式に大きな影響を及ぼしたこと、②幕府の山城国支配は国内寺社本所領の保護を基調とし、守護自身による恣意的な国内支配は、15世紀中葉以降に本格的に進展したことなどが明らかとなる。このような幕府の山城国支配の様態からは、公家・武家・寺社勢力が並立する同国を拠点としたことで、彼らの間の複雑な利害関係を丸抱えする形で政権を成り立たせることとなった幕府権力の特質が見て取れる。
著者
高井 ゆと里 松井 健志
出版者
日本生命倫理学会
雑誌
生命倫理 (ISSN:13434063)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.29-36, 2021-09-28 (Released:2022-08-01)
参考文献数
45

COVID-19パンデミック下において、研究者たちは新型コロナウイルスと対峙するための治療法やワクチン の開発に挑んでいる。しかし、そうした治療薬やワクチンの殆どすべては、妊婦に使用されることを想定していない。それらが妊婦に使用される場合の有効性や安全性は、研究されていないのである。妊婦という集団 は、COVID-19関連研究から排除されることによって、COVID-19に対処するための治療やワクチンから遠ざ けられている。歴史的に、妊婦は臨床研究から排除されてきた。それは妊婦と胎児を守るという「倫理的な理由」に基づくものであった。本論文では妊婦が研究から排除されてきた歴史を整理したのち、妊婦の積極的な研究包摂を説く議論や運動が近年急速に高まっている米国の状況を確認する。その作業を通じて、妊婦の研究包摂を積極的に支持する議論を正当化するにあたって「正義」の概念が重要な役割を果たすことを確認する。
著者
松井 彩子
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.40, no.3, pp.67-77, 2021-01-07 (Released:2021-01-07)
参考文献数
41

ソーシャル・ネットワーキング・サービス(以下,SNS)において,一時的に多くのユーザーが話題にしている状態はバズや炎上と呼ばれ,注目を集めている状態がさらに別の人の注目を集めるという,正のフィードバックが働く。この背景には,影響力の強い発信者だけではなく,情報拡散者(Information Diffuser)や仮想的な存在(MVP: Mere Virtual Presence)と呼ばれる大多数の他者の存在があり,彼らがSNS上で「いいね」による態度表明や「シェア」による情報伝達を行うことで,その他のユーザーの消費者行動に影響を及ぼすと考えられる。本論の目的は,社会的影響研究の視点から,大多数の他者,特にSNS上の大多数の他者が,他のユーザーに影響を及ぼす現象のメカニズムについて既存研究を整理し,研究課題を提示することにある。具体的には,社会的影響の定量的な議論を可能にした社会的インパクト理論を,SNSの文脈において援用することの意義を検討し,先行研究において他者の存在が及ぼす影響の実証結果が一致しない原因を考察する。
著者
松井 大
出版者
日本基礎心理学会
雑誌
基礎心理学研究 (ISSN:02877651)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.43-49, 2021-09-30 (Released:2021-12-14)
参考文献数
22

Streams of operant behaviors emit not in a temporally homogeneous manner, but are arranged in bouts separated by pauses of responses between them. The temporal organization of these patterns, however, had been not successfully described. The present article introduces time-series modeling attempt for bout-pause pattern, which was presented in Matsui, Yamada, Sakagami, & Tanno (2018). Furthermore, the author argued that unsolved problems concerning bout-pause literatures, concerning quantification and modeling of bout-pause patterns. As remedies for these issues, the author discusses the utilities of reinforcement learning model and computational ethology for operant studies.
著者
清水 いと世 舟場 正幸 松井 徹
出版者
日本ペット栄養学会
雑誌
ペット栄養学会誌 (ISSN:13443763)
巻号頁・発行日
vol.19, no.Suppl, pp.suppl_32-suppl_33, 2016-06-30 (Released:2017-04-10)
参考文献数
3

アンケート調査により得たイヌの手作り食レシピと成書におけるイヌの手作り食レシピの食材と量より、食品成分表を用いて栄養素量を算出し、AAFCO養分基準(2016)の最小量及び最大量と比較した。8割以上のレシピがCa、Cu 、Zn、ビタミンAの最小量を下回り、一方ヨウ素やビタミンDの最大量を上回るレシピがあった。本試験の結果より、AAFCO養分基準を満たすように手作り食を調製する際には、上記の不足しがちな栄養素を多く含む食材を用い、過剰となりがちな栄養素を多く含む食材の量に配慮する必要があることが示された。
著者
丹下 吉雄 松井 哲郎
出版者
一般社団法人 電気学会
雑誌
電気学会論文誌C(電子・情報・システム部門誌) (ISSN:03854221)
巻号頁・発行日
vol.144, no.1, pp.21-27, 2024-01-01 (Released:2024-01-01)
参考文献数
25

In this paper, we propose a self-tuning algorithm by which we can achieve autonomous engineering including model identification and control parameter tuning on the edge-type MPC (Model Predictive Control). In the model identification algorithm, offset estimation is introduced in order to replace step response tests. We compare the control performance of the self-tuning edge-type MPC with those of PID control and offline-tuned edge-type MPC for a MIMO stir process model. As a result, the proposed self-tuning edge-type MPC achieves faster tracking performance without any pre-tuning.
著者
佐藤 真理子 松井 有子 小野 花織 西村 愛 高木 美希 光畑 由佳
出版者
人間‐生活環境系学会
雑誌
人間‐生活環境系シンポジウム報告集 第42回人間-生活環境系シンポジウム報告集 (ISSN:24348007)
巻号頁・発行日
pp.65-66, 2018 (Released:2021-04-23)
参考文献数
2

頭部被覆時の衣環境として,ムスリム女性の衣服,授乳ケープ,ベビーカーカバーに着目し,被験者実験 により,衣服内温湿度・CO2濃度・唾液アミラーゼ活性の計測を行った.ムスリム女性の衣服 4 種(ブルカ,ヒマ ール・ニカーブ,ヒジャブ・ヒジャブキャップ,ドゥパタ)の比較では,頭部近傍の湿度上昇が,ヒマール・ニ カーブで大,ドゥパタで小であり,唾液アミラーゼ活性値も同様の傾向であった.頭部近傍の湿度が快不快に影 響している可能性が示された.授乳ケープとベビーカーカバーでは,衣服内温湿度,CO2濃度共に,ケープ内,ベ ビーカー内で高い値を示し,特にレインカバー内の CO2濃度が顕かに高く,注意を要する実態が示された.
著者
松井 琴世 河合 淳子 澤村 貫太 小原 依子 松本 和雄
出版者
関西学院大学
雑誌
臨床教育心理学研究
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.43-57, 2003-03-25
被引用文献数
2

本研究は,編曲の異なる3曲のパッフェルベルのカノンを被験者に呈示することによって,音楽聴取時における心身の変化を観察するものであった。それぞれのカノンについて音楽分析を行うと共に,生理反応と心理指標を用いて評定を行うことにより,編曲の違いによって生じる聴き手の生理的・心理的影響の変化を検討し,音楽刺激の精神生理学的研究を行うことを目的とした。本実験は,K大学の学生28名,音楽系大学の学生5名(平均年齢21.4歳)を対象とした。実験では,編曲によってポップな感じが与えられるカノン,カノン演奏に並行して波の音が流れるカノン,最も原曲に近い弦楽合奏によるカノンの3曲を呈示し,それぞれの音楽刺激聴取時と,安静(無音状態)時における生理反応を測定した。実験で測定されたのは脳波・筋電図・心拍・呼吸・皮膚電気反射・血圧・皮膚温・重心動揺からくる身体のふらつきの程度であり,本研究では,脳波,皮膚電気反射,呼吸,心拍,重心動揺からくる身体のふらつきの程度の指標を用いた。また各音楽刺激呈示後に,音楽を聴いているときの気分について12項目,音楽を聴いているときの心身の自覚について10項目,音楽の印象について7項目の評定を求めた。音楽刺激による生理反応について,中枢神経系である脳波は,いずれの音楽刺激聴取時においても安静状態に比べて覚醒水準の低下が認められた。また,重心動揺による身体のふらつきについては,音楽刺激聴取時における開眼時の重心動揺総軌跡長が顕著に減少したことによって,ロンベルグ率の増加が導かれた。このことより,音楽刺激が視覚性の姿勢制御機能を高める上で効果的に作用したと考察された。また自律神経系では音楽刺激聴取時の呼吸数の増加に有意差が認められた。次に,本研究で呈示された3曲の音楽刺激別に考察を行うと,ドラムを用いてビートを刻んだポップな感じのカノンでは心理評定において軽い興奮状態が示された。また生理反応においても,心拍・皮膚電気反射の反応回数・呼吸数の増加といった興奮性の刺激的な音楽によってもたらされたと推察される結果が得られた。また,評定に騒々しさが認められるなど,原曲と大きく異なった編曲に抵抗が感じられたことも推察された。しかし,心理評定において他刺激と比較すると興奮状態を示す有意差が認められたものの,それらの項目の得点が顕著に高くはなかった。そのため,原曲のクラシック音楽がもたらした効果と,微量の興奮をもたらす音楽刺激が生体に適度な睡眠導入刺激となって受容されたことにより,脳波において覚醒水準の低下が認められたと推察された。次にサブリミナル効果として波の音が並行して流されたカノンでは,波の音の影響として,評定により鎮静効果が認められた。また,重心動揺によるロンベルグ率が健常平均値と最も近づいたことについて,波の音がもたらす1/f型ゆらぎが,クラシック音楽であるカノン自体が有する1/f型ゆらぎと調和したことによって,重心動揺によりよい刺激となって作用したためであると推察された。脳波においては覚醒水準が低下したが,これは心地よさの指標とされる1/f型ゆらぎが大量に作用したために,睡眠が促されたと推察された。また波の音がカノンに並行して流れたこの曲では,カノンを聴きたい被験者にとって波の音が耳障りとなったことも考察され,さらに波の音による影響をより明確にするため,波の音がもたらす作用について追及する必要性が感じられた。最も原曲に近い弦楽合奏によるカノンでは,他の2曲に比べて多くのα波が誘発されたものの,その程度についてはさらに調査する必要があると推察された。また,原曲のカノンに馴染みがある被験者にとって,この曲が最も聞き慣れた音楽として受容されたために心地よさがもたらされたと推察された。重心動揺においては,ロンベルグ率が最も増加したことが開眼時の総軌跡長の減少によるものと示唆されたため,本音楽刺激聴取時に視覚性の姿勢安定維持機能が最も高まった状態であったことが推察された。以上のように,編曲されたそれぞれの音楽の特徴的な要素を取り上げて考察を行ったが,本研究で用いた音楽刺激は音楽の3要素であるメロディ・和声・リズムの全ての要素において多くの相違点が認められた。そのため,特徴的な要素以外にさまざまな要素が影響し合ったことで反応が導かれたと指摘された。また,より深い音楽分析による検討を行い,多岐にわたるジャンルの音楽を用いて同様の研究を実施することによって,より一般化された音楽における編曲の違いから生じる生理的・心理的反応の変化を検討,考察することが可能となるであろう。