著者
森部 豊
出版者
関西大学
雑誌
関西大学東西学術研究所紀要 (ISSN:02878151)
巻号頁・発行日
vol.41, pp.137-188, 2008-04

This paper explains with the analysis of newly found stone record that the military power of Sogdian soldiers was one of the reasons why the Three Commands of Heshuo (Heshuo Sanzhen 河朔三鎮), which were established after the rebellion of An Lu-shan, remained semi-independent against Tang dynasty all the time. The Sogdian soldiers, who played big rolls in the Three Commands of Heshuo, are often said that they worked for An Lu-shan. However, the close analysis of their detail action reveals that they moved to Hebei from Ordos even after the rebellion of An-lushan was over. These Sogdian in Ordos were originally from Tuque(突厥) in the North Asia in the 7th century, and they had become semi-nomad-troopers. After the fall of Tuque, they were moved to Ordos and controlled by Tang dynasty. Still they were active in various districts because they were skilled troopers thus made great soldiers, and also they kept ties among Sogdian people by marriage relations and spatial connections. One of such cases was the military clique in the Three Commands of Heshuo. Among them, the Sogdian soldiers had power in the military clique called Weibo (魏博)and finally made a Sogdian Military Commissioner. However, their move to Hebei was disturbed by political reasons and unions with other ethnic groups. The military power of Hebei's Sogdian soldiers were comparatively decreased, thus the military power of the Three Commands of Heshuo declined as well. Then, they were used or merged by three powers of Shatuo (沙陀), Qidan(契丹), Zhu Quanzhong (朱全忠) toward the end of Tang dynasty and the period of Five Dynasties.
著者
有山 愛 森 由佳 稲野 美穂 灘本 知憲
出版者
日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 : Nippon shokuhin kagaku kogaku kaishi = Journal of the Japanese Society for Food Science and Technology (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.56, no.12, pp.628-638, 2009-12-15
参考文献数
30
被引用文献数
2

ココア摂取がヒト体表温を上昇させる影響を検討した.被験者は健康な女子学生(18-24歳)とし,体表温と抹消部の血流量を測定指標とした.測定は22℃&plusmn;0.5℃,湿度50%&plusmn;5%の恒温恒湿環境下,4通りの異なった条件で行った.結果は次の通りである.<BR>(1) 実験1では,60℃に加温されたピュアココア飲料による影響を,栄養組成を揃えた飲料,水と比較した.ピュアココアは手首,足首,足指先に,体表温上昇傾向を示した.<BR>(2) 実験2では,37℃に維持したピュアココア飲料と栄養組成を揃えた飲料を比較した.その結果,ピュアココアは手首に体表温維持傾向を示した.<BR>(3) 実験3では,60℃脱脂ココア飲料と栄養組成を揃えた飲料を比較した.脱脂ココアは額における体表温上昇作用(<I>p</I><0.05)と手指における体表温維持作用(<I>p</I><0.05)を示した.また,同様の傾向は,腹と腰にも示された.<BR>(4) 実験4では,実験3と同じ飲料を用いて就寝前状況を想定した実験を行った.脱脂ココアは栄養組成を揃えた飲料と比較し,腰・足首・足指先で体表温上昇作用(<I>p</I><0.05)を示した.<BR>以上の結果より,ココア摂取はヒト体表温上昇作用または維持作用があることが示された.また,その効果は脱脂ココアで特に顕著に観察された.
著者
木ノ内 勝士 森田 紀代造 橋本 和弘 野村 耕司 宇野 吉雅 松村 洋高 中村 賢 阿部 貴行 香川 洋 佐久間 亨
出版者
特定非営利活動法人 日本心臓血管外科学会
雑誌
日本心臓血管外科学会雑誌 (ISSN:02851474)
巻号頁・発行日
vol.35, no.6, pp.328-332, 2006-11-15 (Released:2009-08-21)
参考文献数
18
被引用文献数
1 1

総肺静脈還流異常症(TAPVR)修復術術後の肺静脈狭窄(PVO)は重篤な合併症であり,術後の再燃も希ではない.今回われわれは,TAPVR1a+2a混合型術後PVOをくり返した14ヵ月,男児に対してsutureless in situ pericardial repair,および,左心耳-左肺静脈吻合を施行した.術後経過は良好であり,術後2年9ヵ月時に施行した心臓カテーテル検査では,右肺静脈に有意な再狭窄所見は認めず,左肺静脈に軽度再狭窄所見を認めた.また,術後3年1ヵ月時に施行したmultidetector computed tomography (MDCT)による3次元再構築像では,良好なPVO解除が長期に得られていることが示された.
著者
森内 浩幸
出版者
長崎大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

牛白血病ウイルス(BLV)はヒトT細胞白血病ウイルス(HTLV)の近縁のウイルスであり、多くのウシが感染していることから、ヒトへの感染の有無が心配される。(1)BLVのプロウイルスDNA(pDNA)の検出末梢血単核細胞(PBMC)からのBLV pDNAの検出を、PCR+Southern blotting(SB)またはreal-time PCRを用いて行った。一部の検体からごく僅かのBLV pDNAが検出されたが、確認実験の成績は不安定であった。閾値ギリギリの微量であることが予想し、検出感度を高めるためにウイルス感染細胞と推測されるB細胞をEBウイルス感染によって不死化させ増殖させた上でDNAを抽出し検索したところ、一名の健常人検体ではSB法でtax・env遺伝子で陽性、pol遺伝子もPCR法で陽性となった。この健常人検体より増幅されたBLV env遺伝子の配列を解析し、既知のBLV遺伝子配列と共に系統樹解析を行ったところ検体中のenv遺伝子は米国や豪州のBLVと近縁で、本邦の牛のBLVと同一グループに属した。しかし、pDNAの全域の増幅と塩基配列の決定を試みたが、増幅困難な箇所が多々みられ未だ確認に至っていない。(2)抗BLV抗体の検出BLV持続感染細胞の細胞抽出液や培養上澄液に存在するBLV蛋白や、GSTとの融合蛋白としてBLVのEnvやTaxなどのウイルス蛋白を実験室内で精製した。これらを抗原として研究対象者の血清中の抗BLV抗体の有無をWB法で調べたところ、健常人で陽性1/11(9%)・保留1/11(9%)、乳癌患者で陽性1/32(3%)・保留3/32(9%)であったが、BLV pDNA検出結果との一致は明らかではなかった。【考察】過去の報告に比し人におけるBLV抗体保有率は低く、また現段階ではこれが真の感染を示唆するものかどうかの確証は得られなかった。一検体において複数のウイルス遺伝子配列が検出されたが、検出範囲は短くpDNAが全域存在する確証は得られていない。以上の結果からBLVの人への感染はあっても比較的稀であることが推察された。
著者
中野 泰至 下条 直樹 森田 慶紀 有馬 孝恭 冨板 美奈子 河野 陽一
出版者
一般社団法人 日本アレルギー学会
雑誌
アレルギー (ISSN:00214884)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.117-122, 2010
参考文献数
12

【目的・方法】今回小児牛乳アレルギー患者における主要アレルゲンを明らかにすることを目的として後方視的な解析を行った.牛乳特異IgE値陽性で牛乳摂取により何らかの即時型症状を呈した115名の患者を対象としてBLG,カゼインに対する感作率を解析した.特異IgEがクラス2以上を陽性とした.また牛乳アレルギーの主要抗原と他の食物アレルゲン,吸入抗原への感作の違い,寛解との関連についても解析を行った.【結果】牛乳特異IgE値がもっとも高値であった血清でのカゼイン特異IgE値は,BLG特異IgE値よりも有意に高値であった.カゼイン特異IgE陽性者は107人(97.3%),BLG特異IgE陽性者は51人(46.4%),両方とも陽性だった者は48人(43.6%)であり,カゼイン単独感作群(C群)とカゼイン,BLG両方感作群(C/B群)に大別された.C群とC/B群での鶏卵への感作率を比較すると,C群とC/B群では差がなかったが,特異IgE値はC/B群の方が有意に高かった.吸入抗原に関しては両群で感作率,特異IgE値ともに差は認められなかった.C群に比べてC/B群は,3歳の時点での牛乳アレルギーの寛解が有意に少なかった.【結語】今回の解析から,本邦の牛乳アレルギーにおいても主要アレルゲンはBLGよりもむしろカゼインであると考えられた.複数の牛乳アレルゲン感作は,経消化管感作の起こりやすさを反映する可能性が考えられた.また複数の牛乳アレルゲンへの感作は牛乳アレルギーの寛解のしづらさとも関与していると考えられた.
著者
森永 康子 坂田 桐子 古川 善也 福留 広大
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究
巻号頁・発行日
vol.65, no.3, pp.375-387, 2017
被引用文献数
11

「女子は数学ができない」というステレオタイプに基づきながら, 好意的に聞こえる好意的性差別発言「女の子なのにすごいね(BS条件)」(vs.「すごいね(統制条件)」)が女子生徒の数学に対する意欲を低下させることを実証的に検討した。中学2, 3年生(研究1), 高校1年生(研究2)の女子生徒を対象に, シナリオ法を用いて, 数学で良い成績あるいは悪い成績をとった時に, 教師の好意的性差別発言を聞く場面を設定し, 感情や意欲, 差別の知覚を尋ねた。高成績のシナリオの場合, BS条件は統制条件に比べて数学に対する意欲が低かったが, 低成績のシナリオでは意欲の差異は見られなかった。数学に対する意欲の低下プロセスについて, 感情と差別の知覚を用いて検討したところ, 高成績の場合, 低いポジティブ感情と「恥ずかしい」といった自己に向けられたネガティブ感情の喚起が意欲を低めていること, 怒りなどの外に向けられたネガティブ感情はBS条件の発言を差別と知覚することで喚起されるが, 数学に対する意欲には関連しないことが示された。
著者
高森 淳一
出版者
天理大学学術研究委員会
雑誌
天理大学学報 (ISSN:03874311)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.21-57, 2002

物語というメタファーから心理療法の諸相を顧みることが本稿の課題である。自己は物語的に展開する時間性と等価なものであり,心理療法の場で扱われる心理的問題も物語として理解されうることを示した。そして臨床場面でクライエントが治療者を聴き手として,自分自身を語ることが,いかに自己の主体性・能動性を恢復するよう寄与するかを論じた。一方,語りが孕む自己隠蔽性や自我防衛的側面を指摘し,語りのメタファーでは取りこぼされる,語り以前の体験や自己傾聴について合わせて論考した。また治療理論や文化・社会的文脈といった治療に作用する「物語」に関しても考察を加えた。
著者
三谷 章雄 大澤 数洋 森田 一三 林 潤一郎 伊藤 正満 匹田 雅久 佐藤 聡太 川瀬 仁史 高橋 伸行 武田 紘明 藤村 岳樹 福田 光男 稲垣 幸司 石原 裕一 黒須 康成 三輪 晃資 相野 誠 岩村 侑樹 鈴木 孝彦 外山 淳治 大野 友三 田島 伸也 別所 優 前田 初彦 野口 俊英
出版者
特定非営利活動法人日本歯科保存学会
雑誌
日本歯科保存学雑誌 (ISSN:03872343)
巻号頁・発行日
vol.55, no.5, pp.313-319, 2012-10-31

目的:欧米では,心臓血管疾患と歯周病には関連性がみられるというデータが得られているが,日本人における心臓血管疾患と歯周病の関連についてはほとんど報告がない.そこで今回われわれは,東海地方での心臓血管疾患の罹患状況と歯周病の指数を比較することで,日本人における心臓血管疾患と歯周病の関係を明らかにすることを目的とし,健診のデータを基にその関連性の検討を行った.対象と方法:2008年に豊橋ハートセンターのハートの日健診において,一般健診を受診した者でかつ歯科健診を受けた者549名についてのデータを分析対象とした.心臓血管疾患データとして,血圧,脈拍,動脈硬化・不整脈の有無,狭心症・心筋梗塞の既往の有無,手術歴を,歯周病データとして,現在歯数,Community Periodontal Index (CPI)を用いた.これらのデータを用いて,心臓血管疾患の有無と健診時点での歯周病の指数を比較し,統計分析を行った.結果:対象者の平均年齢は61.7±13.6歳であった.狭心症,心筋梗塞,手術(経皮的カテーテルインターベンション)のいずれかの既往のある者を冠動脈心疾患(coronary heart disease: CHD)群(82名:男性44名,女性38名)とし,それに該当しない者,すなわち非CHD群(467名:男性122名,女性345名)と比較検討したところ,女性ではCHD群の現在歯数が有意に少なかった.また男性では,糖尿病,BMI,中性脂肪,HDL,総コレステロールおよび年齢の因子を調整してもなお,CHD既往のあるオッズ比は,CPIコード最大値2以下の者に比べ,CPIコード最大値3以上の者が3.1倍(95%信頼区間1.2〜7.7)高かった.結論:CPIや現在歯数と,CHDの既往があることの関連性が認められ,日本人においても歯周病とCHDに相関がみられることが示唆された.
著者
辻森 樹 原 智美 進士 優朱輝 石坂 知裕 宮島 宏 木村 純一 青木 翔吾 青木 一勝
雑誌
日本地球惑星科学連合2019年大会
巻号頁・発行日
2019-03-14

Nunakawaite' (strontiojoaquinite) is an orthorhombic variety of strontiojoaquinite [Sr2Ba2(Na,Fe)2Ti2[Si4O12]2O2(O,OH)2·H2O]; it is a rare joaquinite group mineral that is only found in a riebeckite-bearing albitite in the serpentinite-matrix mélange of the Itoigawa–Omi area. The mineral was originally named after 'Princess Nunakawa' (nunakawa hime) in the Japanese Shinto mythology 'Kojiki'.'Nunakawaite' is characterized by remarkably high Ba, Zr, Nb, Zn, LREEs, MREEs, and enriched in U (35.8–721 µg·g-1), Pb (2.2–31 µg·g-1), and Th (7.42–2365 µg·g-1). LA-ICPMS analyses show highly variable U/Pb (238U/206Pb = 9.245–68.98) and Pb (207Pb/206Pb = 0.0758–0.756) isotope ratios, and the scattered trend define an isochron line with a lower intercept at 89.19 ± 1.07 Ma. The 'nunakawaite' U–Pb age confirms that the 'nunakawaite'-hosted riebeckite-bearing albitite formed at late Cretaceous. This implies that the serpentinite-matrix mélange unit with early Paleozoic jadeitites and late Paleozoic blueschist, eclogite and amphibolite was reactivated by a significantly younger tectonic event.In-situ Sr-Pb isotope analyses show two different isotope trends between Sr-rich accessory minerals in riebeckite-bearing albitite ('nunakawaite' and ohmilite) and those in jadeitite (itoigawaite, stronalsite, vesvianite, Sr-rich epidote). The Sr-Pb isotopes also support the idea that the riebeckite-bearing albitite formed by a fluid-induced metasomatic event different from the jadeitite-forming metasomatism at early Paleozoic. The formation of riebeckite-bearing albitite at ~90 Ma is coeval with late Cretaceous granitic intrusion of the Omi area (youngest zircon U–Pb: 90.8 ± 1.1 Ma: Nagamori et al. 2018). The granitic intrusion might have acted an important role in the formation of 'nunakawaite'. In other words, reactivation of metasomatic mineralization in the Paleozoic serpentinite mélange is recorded in the Cretaceous riebeckite-bearing albitite.
著者
森 雅裕 長山 博幸 斉藤 由佳
出版者
宇宙太陽発電学会
雑誌
宇宙太陽発電 (ISSN:24321060)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.1-7, 2016-04-01 (Released:2018-04-05)
参考文献数
4

宇宙太陽発電システム(SSPS)の開発を大きく前進させるために, 今なすべきことは何か. 世界のフロントランナー型プロジェクトの成功事例から, ビジョン及びイノベーションの重要性とプロジェクトを成功に導くクライテリアについて分析を行い, SSPSに期待されるビジョン(政策), 商用SSPSに求められる技術とコストを整理し, SSPSの開発の考え方や検討結果, SSPSの開発に向けての問題提起と考えるヒント等を紹介する.
著者
森田 健宏
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.31, pp.5-8, 2008
参考文献数
11
被引用文献数
2

3歳児と5歳児を対象に,立体パズルの作成過程を題材とした映像を視聴してもらい,その後,同一材料を用いて再現内容の査定を行った.実験1では,順序限定性の無いパズルを用いて映像と同一順序での再現を求めた.その結果,年齢及び順序教示の条件で有意差があった.ただし,本研究の結果が,従来の順序記憶に関する研究と比較して全体的に成績が低いことから,視聴時に順序記銘が不要と判断された場合,自発的に記銘解除される可能性が考えられた.そこで,実験2では,順序限定性の有る題材で同様の検討を行った.その結果,5歳児では完全再現率が増加するが,3歳児では変化が見られず,記銘方法や内容に発達差があることが示唆された.
著者
丸山 淳一 松原 崇充 Joshua G. Hale 森本 淳
出版者
一般社団法人 日本ロボット学会
雑誌
日本ロボット学会誌 (ISSN:02891824)
巻号頁・発行日
vol.27, no.5, pp.527-537, 2009 (Released:2011-11-15)
参考文献数
25
被引用文献数
3 3

This paper presents a method to learn stepping motions for fall avoidance by reinforcement learning. In order to overcome the curse of dimensionality associated with the large number of degrees of freedom with a humanoid robot, we consider learning on a reduced dimension state space based on a simplified inverted pendulum model. The proposed method is applied to a humanoid robot in numerical simulations, and simulation results demonstrate the feasibility of the proposed method as a mean to acquire appropriate stepping motions in order to avoid falling due to external perturbations.
著者
森 元幸
出版者
Institute of Radiation Breeding, Ministry of Agriculture & Forestry
巻号頁・発行日
no.47, pp.49-56, 2010 (Released:2011-07-19)

日本人のバレイショ消費量は一人あたり年間24kg弱であり、生いもを家庭で購入して調理する数量は4kg弱と少なく、総菜として購入するサラダやコロッケ、レストランでの外食、ポテトチップやフライドポテトなどの加工品の購入が合わせて13kg程度と主要な消費を占める。家庭外での消費が主力となった現状を受け、食品加工時の適性向上を主要な育種目標とし、成分特性の改良を伴う新品種の育成が進められている。生いもの皮を剥き空気中に放置するとフェノール類の酵素反応を経て褐色に変化し、数時間後には黒く変色する(剥皮後黒変)。生いもを調理加熱した時、冷めるにしたがいフェノール類の酸化反応が進み調理品の色がくすんで灰黒色が増す(調理後黒変)。早期出荷向けの「とうや」、サラダ原料の「さやか」、青果向けの「はるか」など近年育成された品種のほとんどは、「男爵薯」に比べ両黒変ともに少ない。原料いもの洗浄後に剥皮機(ピーラー)にかけて皮を剥くと、いもの目や尻に未剥皮箇所ができ、これと変色などの異常部分をあわせて特殊なナイフを用いて人手で除く(トリミング)。原料いもの凹凸が深いと未剥皮箇所が増加してトリミング作業が増え、製品の歩留りが低下し残渣処理費用も増加する。目が浅く大粒の「さやか」は、目が深い「男爵薯」に比べ、トリミング数は1/3以下となり、人件費の節減効果は大きい。収穫や輸送の際、いもが押されたり落下したりして傷や内部損傷(打撲痕)ができる。打撲による打撲痕は外観からは判別できないが、剥皮後に変色部位として認められ、トリミング作業の主要対象として歩留りに大きく影響する。「ホッカイコガネ」や「さやか」は、打撲発生が他の品種より少なく、加工原料として優れている。原料いもを低温で貯蔵すると芽の伸びを抑え消耗を抑制できるが、10℃以下の低温では還元糖が増加し、還元糖とアミノ酸がメイラード反応を起こし製品が褐色になる。低温で還元糖やショ糖の増加が起こりにくい糖量低推移型の「ホワイトフライヤー」を育成し、さらに改良を進めている。生いもが光に曝されると緑化し、同時にα-ソラニンやα-チャコニンなどのグリコアルカロイド(PGA)を生成する。このPGAは、生いも100gあたり15mgを越えると明らかなえぐ味(苦味)を感じる。サラダ原料用の「さやか」やフライドポテト用の「こがね丸」は、「男爵薯」に比べ曝光してもPGA含量の増加が少ない。アントシアニン色素を含有し、農業形質を改良した紫肉の「キタムラサキ」および赤肉の「ノーザンルビーを育成し、これを原料とするサラダや加工食品の販売が軌道に乗りつつある。また、色素濃度を向上させた紫肉の「シャドークイーン」を育成し、健康機能性成分を生かした利用が検討されている。バレイショのアントシアニン色素は強い抗酸化性を有することもさることながら、インフルエンザウイルスに対する増殖抑制効果やヒト胃ガン細胞に対するアポトーシス誘導活性などの優れた機能性が確認されている。業務向けと加工原料向け需要に品質の良さで応え、消費者を引きつける色彩と機能性により新しい需要を切り開き食生活を豊かにする。このために用途適性を向上させつつ、汎用性と安定性を拡大したバランスに優れる品種群を開発して、国産バレイショの振興を目指している。