著者
信迫 悟志 坂井 理美 辻本 多恵子 首藤 隆志 西 勇樹 浅野 大喜 古川 恵美 大住 倫弘 嶋田 総太郎 森岡 周 中井 昭夫
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2016, 2017

<p>【はじめに,目的】発達性協調運動障害(Developmental Coordination Disorder:DCD)は,注意欠如多動性障害(Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder:ADHD)の約50%に併存し(McLeod, 2016),自閉症スペクトラム障害(Autism Spectrum Disorder:ASD)にも合併することが報告されている(Sumner, 2016)。一方,DCDの病態として,内部モデル障害(Adams, 2014)やmirror neuron systemの機能不全(Reynolds, 2015)が示唆されているが,それらを示す直接的な証拠は乏しい。そこで本研究では,視覚フィードバック遅延検出課題(Shimada, 2010)を用いた内部モデルの定量的評価と運動観察干渉課題(Kilner, 2003)を用いた自動模倣機能の定量的評価を横断的に実施し,DCDに関わる因子を分析した。</p><p></p><p></p><p>【方法】対象は公立保育所・小・中学校で募集された神経筋障害のない4歳から15歳までの64名(男児52名,平均年齢±標準偏差:9.7歳±2.7)であった。測定項目として,Movement-ABC2(M-ABC2)のManual dexterity,視覚フィードバック遅延検出課題,運動観察干渉課題,バールソン児童用抑うつ性尺度(DSRS-C)を実施し,保護者に対するアンケート調査として,Social Communication Questionnaire(SCQ),ADHD-Rating Scale-IV(ADHD-RS-IV),DCD Questionaire(DCDQ)を実施した。MATLAB R2014b(MathWorks)を用いて,内部モデルにおける多感覚統合機能の定量的指標として,視覚フィードバック遅延検出課題の結果から遅延検出閾値(delay detection threshold:DDT)と遅延検出確率曲線の勾配を算出し,自動模倣機能の定量的指標として,運動観察干渉課題の結果から干渉効果(Interference Effect:IE)を算出した。M-ABC2の結果より,16 percentile未満をDCD群(26名),以上を定型発達(Typical Development:TD)群(38名)に分類し,統計学的に各測定項目での群間比較,相関分析,重回帰分析を実施した。全ての統計学的検討は,SPSS Statistics 24(IBM)を用いて実施し,有意水準は5%とした。</p><p></p><p></p><p>【結果】DCD群とTD群の比較において,年齢(p=0.418),性別(p=0.061),利き手(p=0.511),IE(p=0.637)に有意差は認めなかった。一方で,DCD群ではTD群と比較して,有意にSCQ(p=0.004),ADHD-RS-IV(p=0.001),DSRS-C(p=0.018)が高く,DCDQが低く(p=0.006),DDTの延長(p=0.000)と勾配の低下(p=0.003)を認めた。またM-ABC2のpercentileとSCQ(r=-0.361,p=0.007),ADHD-RS-IV(r=-0.364,p=0.006),DCDQ(r=0.415,p=0.002),DDT(r=-0.614,p=0.000),勾配(r=0.403,p=0.001)との間には,それぞれ有意な相関関係を認めた。そこで,percentileを従属変数,これらの変数を独立変数とした重回帰分析(強制投入法)を実施した結果,DDTが最も重要な独立変数であった(β=-0.491,p=0.002)。</p><p></p><p></p><p>【結論】本研究では,内部モデルにおける運動の予測情報(運動の意図,遠心性コピー)も含めた多感覚統合機能不全(DDTの延長)が,DCDに最も重要な因子の一つであることが示された。</p>
著者
星原 徳子 岡 真由美 通堂 小也香 橋本 真代 森 壽子 長島 瞳 河原 正明 藤本 政明
出版者
公益社団法人 日本視能訓練士協会
雑誌
日本視能訓練士協会誌
巻号頁・発行日
vol.46, pp.119-128, 2017

<p><b>【目的】</b>言語聴覚士(ST)が所属する医療機関より精査目的で受診した発達障害児の眼科的評価および治療法を分析し、視能訓練士(CO)の発達障害児に対する視能評価を通した医療連携と発達支援について検討した。</p><p><b>【対象・方法】</b>対象は、発達障害児17例(未就学児9例、就学児8例)で、初診時年齢は2歳8か月~12歳9か月(中央値6歳1か月)であった。発達障害にかかわる診断名は、自閉症スペクトラム障害、注意欠如多動性障害、学習障害、発達性協調運動障害、言語発達障害、構音障害、これら合併例であった。</p><p><b>【結果】</b>STからの紹介理由は、視覚的問題12例、視行動の問題6例、家族歴に伴う精査目的3例に大別された(重複例を含む)。視覚的問題の内訳は、眼位異常4例、頭位異常3例、片目つぶり2例、注視・追視困難1例、眼鏡装用不十分3例であった。これら12例中11例が弱視または斜視等による視能障害があると診断された。視行動の問題を有していた6例全例が、弱視または斜視と診断された。治療は、外斜視手術施行2例、健眼遮閉法1例、両下眼瞼内反症手術1例(重複例を含む)であった。また、全例に屈折異常があり、等価球面値±0.75D以上の症例14例(82%)において屈折矯正を行った。</p><p><b>【結論】</b>COとSTの医療連携により、COは早期に視能評価と視能矯正を実施することが可能であった。COは、視知覚認知課題の遂行に視覚入力系を整える役割があった。</p>
著者
森本 亮祐 阪上 綾 中垣 剛典 隅谷 栄伸 伊勢川 裕二
出版者
Japan Society of Nutrition and Food Science
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.71, no.4, pp.161-166, 2018 (Released:2018-08-21)
参考文献数
25

黄色ブドウ球菌は, 健常者における常在菌である。しかしながら, 黄色ブドウ球菌の産生するエンテロトキシンによる食中毒や院内感染症の主要な起因菌であるメチシリン耐性黄色ブドウ球菌 (MRSA) が問題となっている。本研究ではアロニア (Aronia melanocarpa) が有する機能性に注目し, これらの問題点を打開するため抗黄色ブドウ球菌効果を示す有効成分の検索を行った。有効成分の大まかな見当をつけるため, 異なる抽出方法でアロニア試料の抗菌活性を測定した。その結果, アロニアジュース凍結乾燥後の水溶性成分において試験菌株すべてに強い抗菌効果が確認された。抗菌成分の検索のために行った分画・細分取では逆相クロマトグラフィー非吸着・アセトニトリル20-30%溶出画分に強い抗菌効果を確認した。質量分析の結果, アロニア中の抗黄色ブドウ球菌効果を示す成分として, クロロゲン酸, プロトカテク酸やゲンチシン酸のような, 数種の低分子化合物を同定した。
著者
小島 慎也 佐藤 香枝 前田 亮太 呉 宏堯 矢田 拓也 森田 敏明 岩崎 博之
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2014年大会
巻号頁・発行日
2014-04-07

明星電気株式会社は、小型気象計POTEKA Sta.(ポテカ:Point Tenki Kansoku、以下POTEKA)を開発した。POTEKAは気温・湿度・気圧・感雨・日照を1分間隔で測定でき、従来気象計と比較して安価で、設置が容易なため稠密な設置及びデータ収集が可能である。そのPOTEKAを用いて、伊勢崎市内小中学校及び同市周辺のコンビニ(SAVE ON)に約1.5~4km間隔で計55ヶ所に設置した。本稿では、顕著な観測事例として8月11日に高崎市・前橋市で発生した突風現象の観測結果について紹介する。8月11日18時頃に高崎市から前橋市にかけて突風が発生し、住家の屋根の飛散などの被害がみられた。POTEKAの気温1分値を見ると、最大12分間で-13.9℃の気温低下がみられた。前橋地方気象台発表の突風経路に近いPOTEKAの海面補正した気圧の1分値時系列を下図に示す。気象台の10分値の気圧は徐々に増加していく傾向しか見られないが、POTEKAの1分値では、1~2hPa程度の一時的な上昇がみられた。これはダウンバースト発生時の下降流による一時的な気圧上昇であると示唆される。さらに詳しく見ると、気圧の上昇は2回発生している地点もあり、1回目はガストフロントによるもの、2回目はダウンバーストによる上昇と考えられる(詳細は「地上稠密観測POTEKAによるダウンバーストとガストフロントの識別」を参照のこと)。今回の稠密観測のようなダウンバースト・ガストフロント発生時の地上における気圧変化を、これほど細かい時間的・空間分解能で観測した事例はほとんど見られない。このような稠密観測をすることによって、突風の種類の判別や突風に対する事前の注意喚起が出来る可能性がある。謝辞:本プロジェクト始動にあたり、サンデン(株)殿、(株)セーブオン殿、伊勢崎市教育員会殿にはPOTEKA設置のご協力を頂きました。ここに御礼申し上げます。
著者
久我 龍一郎 森 寛晃 小川 彰一
出版者
一般社団法人 セメント協会
雑誌
セメント・コンクリート論文集 (ISSN:09163182)
巻号頁・発行日
vol.66, no.1, pp.34-40, 2013-02-25 (Released:2013-12-02)
参考文献数
21
被引用文献数
1

CaCl2による化学的劣化の一要因と考えられている3CaO・CaCl2・15H2Oについて、セメント硬化体における3CaO・CaCl2・15H2O生成におよぼすCaCl2溶液濃度、および環境温度の影響を、実験的検討と熱力学的相平衡計算から検討した。CaCl2溶液へのセメント硬化体の浸漬では、より高い濃度CaCl2溶液への浸漬と、より低い温度環境で、Ca(OH)2は消失し3CaO・CaCl2・15H2Oが生成した。熱力学的相平衡計算から求めた構成相の変化は実験結果と概ね一致し、計算結果から3CaO・CaCl2・15H2O生成に伴って水和物の総体積が増大した。セメント硬化体の浸漬試験から、3CaO・CaCl2・15H2O生成が体積膨張の原因と推定した。
著者
有島 俊治 鷺 信雄 青山 敏明 森 弘之
出版者
Japan Oil Chemists' Society
雑誌
油化学 (ISSN:18842003)
巻号頁・発行日
vol.44, no.10, pp.902-910, 1995-10-20 (Released:2010-01-29)
参考文献数
41

Triacylglycerols have specific properties which are useful for processing and/or modification of food systems according to their polymorphism, hydrophobic/hydrophilic balance, digestibility, and so on. These phenomena are mainly governed by the structure. Interfacial properties of 3-butyryl-1, 2-dipalmitoylglycerol at O/W emulsion, specific anti-bloom effect of 2-oleoy1-1, 3 dibehenylglycerol and restriction of absorption for 2-stearoyl-1, 3-dihexanoylglycerol are good examples. In the present study, we intend to summarize the relation between the structure and their specific properties.
著者
田村 恵理 谷口 義典 西山 充 矢田部 智昭 井上 紘輔 荒川 悠 森 正和 池添 隆之 寺田 典生 藤本 新平
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.105, no.6, pp.1041-1050, 2016-06-10 (Released:2017-06-10)
参考文献数
10

65歳,女性.高血圧,肥満症で加療中であったが,全身倦怠感,尿閉のため当院受診した.両側水腎症を認め,腎後性腎不全に対し経皮的腎瘻造設術を施行したが,腎障害改善なく,原因不明の遷延性乳酸アシドーシス,無症候性低血糖も認められた.持続的血液濾過透析を施行下に腹部造影CT検査を施行し,腹壁皮下結節および腹直筋の不整肥厚などを確認した.皮下結節およびリンパ節の生検にて形質芽球性リンパ腫と診断した.化学療法を開始し,乳酸アシドーシスや低血糖は速やかに改善した.悪性腫瘍,特に血液系腫瘍ではWarburg効果がみられることがあり,原因不明の乳酸アシドーシスでは,原因として悪性腫瘍の可能性を念頭に精査する必要がある.
著者
山口 正隆 大福 学 日野 幹雄 畑田 佳男 森 正憲 野中 浩一
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
海岸工学論文集
巻号頁・発行日
vol.53, pp.116-120, 2006
被引用文献数
1

伊勢湾を対象として, 沿岸部と海上部で取得された風観測資料を用いて1時間ごとの海上風分布のデータセットを9年間にわたり作成し, その平均特性を調べるとともに, これと1点浅海モデルおよび波候解析モデルを組み合わせた波浪の長期推算システムを構築し, その精度を検討した. この結果, 1) 伊勢湾では湾奥から湾外に向けて平均風速が増大するが, 夏季にはSE方向, それ以外の季節ではNW方向の風が卓越し, 湾軸が風の通り道になっていること, 2) 本システムによる外洋性波浪資料はECMWF-WAM解析資料より高い精度をもつことや, 本システムは伊勢湾内外の観測地点の波浪に対して良好な再現能力を有すること, を明らかにした.
著者
新阜 義弘 森 一成
出版者
日本ロービジョン学会
雑誌
日本ロービジョン学会学術総会プログラム・抄録集
巻号頁・発行日
vol.6, pp.40, 2005

未曾有の被害をもたらした阪神・淡路大震災から10年を目前に控えた平成16年12月4日、震災メモリアルイベント『視覚障害被災者の10年』が神戸で開催されました。当日は大変寒い中にも関わらず中央区の中華会館東亜ホールには、当時被災された視覚障害者をはじめ、救援活動に従事されたボランティアや関係団体の方々が会場一杯に詰めかけていただきました。この集いでは、被災された視覚障害者の方々のほんとうに生々しい体験を聞くことができました。また、大混乱の中で視覚障害被災者支援対策本部(ハビー)を立ち上げ、厳寒の中で視覚障害者の救援活動に従事された川越氏の基調講演、「視覚障害被災者1000人アンケート」に取り組まれた神戸視力障害センターの久保氏による基調報告、そして、「語り継ごう、震災体験」をテーマに熱く語られたパネルディスカッション。改めて、地震の恐ろしさと肉親を失った悲しみ、困難を極めた救援活動の様子が語られるとともに、貴重な教訓や数々の提言が明らかにされました。これからも起こるであろう地震をはじめとする自然災害に対して、視覚障害者のセルフディフェンスや救援活動、復興支援のあり方に一石を投じたものとして、多くの視覚障害者の皆さんや関連団体、ボランティアの皆さん、また行政関係各位に考えていただけますことを心より念願いたします。
著者
磯崎 隆徳 森野 博章
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告 = IEICE technical report : 信学技報 (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.114, no.479, pp.157-162, 2015-03-02

コミックマーケットなど大規模イベントでは参加者が会場内でWebから関連コンテンツを受信することが多く,この場合セルラー網の受信速度が急激に悪化する.この問題に対処する方法として会場内に無線メッシュ網を設置し,メッシュ網を有線でインターネットアクセス回線に接続して参加者にこの無線メッシュ網からコンテンツを受信させることが挙げられる.参加者は一般に趣向が似ており,受信するコンテンツも互いに類似性が高いと考えられるため,網の各APにコンテンツキャッシュを置くことで受信速度がより向上すると考えられる.本研究では,この想定の下で各コンテンツは会場内に設営される特定のブースから局所的に高い頻度で受信される傾向があるものとして,受信頻度の局所性を考慮したキャッシュ置換ポリシーを用いることで,各ユーザの受信速度を向上させる方式を提案する.
著者
青森県考古学会
出版者
青森県考古学会
巻号頁・発行日
1984
著者
森 慎一 山下 浩之 有馬 眞 藤岡 換太郎
出版者
一般社団法人 日本鉱物科学会
雑誌
岩石鉱物科学 (ISSN:1345630X)
巻号頁・発行日
vol.41, no.3, pp.67-86, 2012 (Released:2012-06-28)
参考文献数
185
被引用文献数
2 3

We determined K-Ar ages of the late Miocene to Pliocene andesitic to basaltic dykes and lavas distributed in the Tanzawa-Oiso area in the southern Fossa Magna region, central Japan. Our data indicate two distinct periods of volcanic activity in this region; one took place during the middle Miocene (about 15 Ma) and another during the late Miocene to Pliocene (7.5-4.2 Ma). Combined the present results with the age data reported previously from volcanic rocks in the southern Fossa Magna region, the present study suggests that the volcanic front in this region during 8 to 4 Ma was located at about 40 km east of the present-day volcanic front. The volcanic front began to migrate westward to the present-day location at about 4 Ma. The westward migration of volcanic front was probably associated with an abrupt change of lateral motion of the Philippine Sea Plate from north- northwestward to northwestward occurred between 4 and 2 Ma.
著者
田多 英興 大森 慈子 廣川 空美 大平 英樹 友永 雅己
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement
巻号頁・発行日
vol.20, pp.57, 2004

ヒトにおける瞬目の行動研究はある程度知見が蓄積されており、発達的変化や、認知情報処理過程、さらにはストレスとの関連なども検討されている轣Aヒト以外の霊長類ではその知見は極めて限られている。そこで本研究では、瞬目行動の諸側面の比較研究の端緒として、まずヒト以外の霊長類における自発性瞬目の諸指標の系統比較を行なった。日本モンキーセンターで、ケージの中で自由に行動している個体を外からデジタルカメラ(30フレーム/秒)で撮影した。ビデオ記録をおこなった種は計84種であった。個体を特定できる種もあったが、集団で行動する小型の種では個体識別が困難であった。このような場合は複数の個体からのデータをプールした。瞬目が計数できる総観察時間が最低5分間になるように記録した。本発表では、予備的解析の終了した54種について報告する。瞬目率の平均については、最大でボンネットモンキーの20回/分であった。この値はヒトとほぼ同じであった。ついでトクモンキー(17.0)、ニホンザル(15.1)と続いた齦似宗5分間一度も瞬目をしなかったポト(0)、ついでレッサースローロリス(0.2)、オオギャラゴ(0.3)、ショウギャラゴ(0.3)、ワオキツネザル(0.4)と続いた。これらの種では数分間に1回という極めて少ない瞬目頻度を示した。興味深いことに、ヒト以外の霊長類では、瞬目が眼球運動または頭部運動と連動して生じることが非常に多く、54種の平均でみると、眼球/頭部運動なしで生起した瞬目はわずかに27.1%で、残りの多くは水平または垂直の頭部運動と連動して生じた。特に水平の運動と連動する瞬目は全体の50%に達した。さらに、眼瞼の運動速度もまたヒトと比べて非常に速いことが明らかとなった。平均すると194.2ms±44.6となり、ヒトの約半分の時間で眼瞼の開閉が行われている。最長でも323.4ms(エリマキキツネザル)で、ヒト (約400ms) に比べても速いことがわかる。最短は138.6ms(トクモンキー)で、これはヒトの閉瞼の時間に相当する。今後は、種間比較をさらに進めるとともに、上記の結果の成立要因について検討していく予定である。
著者
中川 尚史 後藤 俊二 清野 紘典 森光 由樹 和 秀雄 大沢 秀行 川本 芳 室山 泰之 岡野 美佐夫 奥村 忠誠 吉田 敦久 横山 典子 鳥居 春己 前川 慎吾 他和歌山タイワンザルワーキンググループ メンバー
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement
巻号頁・発行日
vol.21, pp.22, 2005

本発表では,和歌山市周辺タイワンザル交雑群の第5回個体数調査の際に試みた無人ビデオ撮影による群れの個体数カウントの成功例について報告する。<br> カウントの対象となった沖野々2群は,オトナ雄1頭,オトナ雌2頭に発信器が装着され群れの追跡が可能であった。またこれまでの調査からこの群れは,小池峠のやや東よりの車道を南北に横切ることが分かっていた。<br> 今回の調査3日目の2004年9月22日にも,一部の個体が道を横切るのを確認できた。しかし,カウントの体制を整えると道のすぐ脇まで来ていてもなかなか渡らない個体が大勢おり,フルカウントは叶わなかった。この警戒性の高まりは,2003年3月から始まった大量捕獲によるものと考えられる。翌23日も夕刻になって群れが同じ場所に接近しつつあったのでカウントの体制をとり,最後は道の北側から群れを追い落として強制的に道を渡らせようと試みたが,失敗に終わった。<br> そこで,24日には無人ビデオ撮影によるカウントを試みることにした。無人といってもテープの巻き戻しやバッテリー交換をせねばならない。また,群れが道を横切る場所はほぼ決まっているとはいえ,群れの動きに合わせてある程度のカメラ設置場所の移動は必要であった。そして,最終的に同日16時から35分間に渡って27頭の個体が道を横切る様子が撮影できた。映像からもサルの警戒性が非常に高いことがうかがわれた。<br> こうした成功例から,無人ビデオ撮影は,目視によるカウントが困難なほど警戒性の高い群れの個体数を数えるための有効な手段となりうることが分かる。ただし,比較的見通しのよい特定の場所を頻繁に群れが通過することがわかっており,かつテレメーター等を利用して群れ位置のモニタリングができる,という条件が備わっていることがその成功率を高める必要条件である。