著者
村田 希吉 大友 康裕 久志本 成樹 齋藤 大蔵 金子 直之 武田 宗和 白石 淳 遠藤 彰 早川 峰司 萩原 章嘉 佐々木 淳一 小倉 裕司 松岡 哲也 植嶋 利文 森村 尚登 石倉 宏恭 加藤 宏 横田 裕行 坂本 照夫 田中 裕 工藤 大介 金村 剛宗 渋沢 崇行 萩原 靖 古郡 慎太郎 仲村 佳彦 前川 邦彦 真山 剛 矢口 有乃 金 史英 高須 修 西山 和孝
出版者
一般社団法人 日本外傷学会
雑誌
日本外傷学会雑誌 (ISSN:13406264)
巻号頁・発行日
vol.30, no.3, pp.341-347, 2016-07-20 (Released:2016-07-20)
参考文献数
26

【目的】重症外傷患者における病院前輸液と生命予後, 大量輸血および凝固異常との関連について明らかにする. 【対象と方法】Japanese Observational Study of Coagulation and Thrombolysis in Early Trauma (J–OCTET) で後方視的に収集したISS≧16の外傷796例について, 28日死亡, 大量輸血 (24時間Red Cell Concentrate : RCC10単位以上), 外傷性血液凝固障害 (Trauma–Associated Coagulopathy : TAC : PT–INR≥1.2と定義) の3つを評価項目として, 病院前輸液施行の有無の影響を検討するために多変量解析を行なった. さらに年齢 (65歳以上/未満), 性別, 重症頭部外傷合併の有無, 止血介入 (手術またはIVR) の有無により層別化解析した. 【結果】病院前輸液施行85例, 非施行711例であり, 両群間における年齢, 性別, 28日死亡, 大量輸血, 止血介入に有意差を認めなかった. 病院前輸液群ではISSが高く (中央値25 vs. 22, p=0.001), TACが高率であった (29.4% vs. 13.9%, p<0.001). 病院前輸液は28日死亡, 大量輸血の独立した規定因子ではなかった. TACの有無を従属変数とし, 年齢・性別・病院前輸液の有無・ISSを独立変数とするロジスティック回帰分析では, 病院前輸液 (オッズ比 (OR) 2.107, 95%CI 1.21–3.68, p=0.009) とISS (1点増加によるOR 1.08, 95%CI 1.06–1.10, p<0.001) は年齢とともに独立したリスク因子であった. 層別解析では, 65歳未満 (OR 3.24, 95%CI 1.60–6.55), 頭部外傷合併 (OR 3.04, 95%CI 1.44–6.42), 止血介入例 (OR 3.99, 95%CI 1.40–11.4) において, 病院前輸液は独立したTACのリスク因子であった. 【結語】ISS≧16の外傷患者に対する病院前輸液は, 28日死亡および大量輸血との関連は明らかではないが, TAC発症の独立したリスク因子である. 特に65歳未満, 頭部外傷合併, 止血介入を要する症例に対する病院前輸液は, TAC発症のリスクとなる可能性がある.
著者
後藤 大地 田中 裕二 藤田 水穂
出版者
日本看護技術学会
雑誌
日本看護技術学会誌 (ISSN:13495429)
巻号頁・発行日
vol.11, no.3, pp.19-27, 2013-01-20 (Released:2016-07-08)
参考文献数
10

本研究は,心臓外科手術前後における適切な呼吸訓練のあり方についての知見を深めるため,スーフル®による呼吸訓練に着目し,その訓練が循環動態,自律神経活動,中枢神経活動に及ぼす影響を検討したものである.年齢や既往歴,治療方針の影響を防ぐため健康な成人10名を被験者とし,安静時,呼吸訓練時 (5分間),その後の回復時について循環動態,自律神経活動 (訓練時をのぞく),脳波等を連続的にモニターした.その結果心拍数,血圧変動,大脳皮質活動は,呼吸訓練時において,安静時および回復時,もしくは一方と比して有意に上昇,活性化し,副交感神経活動は訓練終了5分後に比して20分後で有意に低下した (p<0.05).また,心拍数は訓練開始後3分で最大値に達し,回復するのに15~20分を要した.この結果より,今回の呼吸訓練は心負荷を生じること,交感神経活動の興奮および副交感神経活動の抑制を引き起こすこと,大脳皮質を賦活化し,特にα波の発現になんらかの影響を及ぼすこと,さらに術前訓練においては訓練方法を1回につき3分以内にし,15~20分以上の間隔をとったのちに訓練を再開するという方法が適切であると示唆された.
著者
田中 裕貴 加藤 博明
出版者
公益社団法人 日本化学会・情報化学部会
雑誌
ケモインフォマティクス討論会予稿集 第31回情報化学討論会 東京
巻号頁・発行日
pp.P14, 2008 (Released:2008-11-06)
参考文献数
3

化学物質の種々の性質はその化学構造と密接に関連していることがよく知られている。本研究では、分子におけるヘテロ原子の局所的な空間配置に注目し、ヘテロ原子間の三次元距離情報をもとに生成した最小全域木(ヘテロツリー)を定義した。CSDから抽出した一群の化合物データに対してヘテロツリーの生成を行い、その出現頻度を求めるとともに、特徴的なヘテロツリーパターンと活性との相関についても調査を試みている。
著者
MENN Lise 田中 裕美子 荻野 恵
出版者
日本コミュニケーション障害学会
雑誌
コミュニケーション障害学 (ISSN:13478451)
巻号頁・発行日
vol.22, no.2, pp.127-138, 2005

言語障害をもつ人々の言語産生能力を,ナラティブで評価するのは難しい.しかし,ナラティブ能力の測定法は,言語障害が一次的なものか認知障害と合併しているものかにかかわらず,また発達性(SLI,精神遅滞,自閉症)であっても,後天性(流暢・非流暢性失語,認知症,脳外傷等)であっても,コミュニケーション能力の全体像を把握する過程において欠かせないものである.今回の発話サンプルには,語彙や統語能力の問題を含む幅広い言語の問題がみられる.また,いくつかの物語の内容を混ぜ合わせたり,必要な情報を提供しようとしないなど,認知/情動障害から二次的に生じていると思われる問題もみられる.現在使われている一面的な測定法は,このような問題を把握するためには十分でない.それぞれの言語において,研究者は信頼性・安定性・感度・妥当性のある多面的な測定法を開発することが必要である.
著者
清水 健太郎 小倉 裕司 後藤 美紀 朝原 崇 野本 康二 諸富 正己 平出 敦 松嶋 麻子 田崎 修 鍬方 安行 田中 裕 嶋津 岳士 杉本 壽
出版者
Japanese Association for Acute Medicine
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.17, no.12, pp.833-844, 2006-12-15 (Released:2009-03-27)
参考文献数
53
被引用文献数
2

腸管内には多彩な細菌群がバランスを保ち共存しており,腸内環境を整えると同時に生体へ豊富なシグナルを送り続けている。腸管は,侵襲時の主要な標的臓器(target organ)であり,腸内細菌叢の維持は腸上皮におけるバリア機能の維持と感染防御の点で極めて重要と考えられる。しかしながら,急性期重症病態の腸内細菌叢や腸内環境に関する検討はほとんどされていない。われわれは,SIRS患者の腸内細菌叢と腸内環境の変化を明らかにし,近年注目されているシンバイオティクス(synbiotics)療法(“善玉”生菌+増殖物質)の有効性を評価した。研究結果を含め,侵襲時の腸管機能と腸管内治療に関して総説する。(1) SIRS患者において,腸内細菌叢および腸内環境は著しく崩れる。「善玉菌」であるBifidobacteriumとLactobacillusは健常人の1/100-1000程度に減少し,「病原性」を有するブドウ球菌数は,健常人の100倍程度に増加した。腸内細菌叢の崩壊と同時に,短鎖脂肪酸の産生は減少し,腸管内pHは上昇した。このような腸内環境の悪化は腸内細菌叢をさらに崩す(“腸内環境の悪循環”)と考えられる。(2)シンバイオティクス療法は,SIRS患者の腸内細菌叢および腸内環境を維持し,経過中の感染合併症を減少させる。シンバイオティクス投与により,BifidobacteriumとLactobacillusが高く維持され,腸管内の短鎖脂肪酸,pHも保たれた。また腸炎の発生だけでなく,肺炎や菌血症の合併を有意に減らした。シンバイオティクス療法が感染症の合併を防止するメカニズムに関しては,今後の検討を要する。(3)現在,急性期重症病態に対する標準化された腸管内治療は存在しない。シンバイオティクス療法は,腸内細菌叢を保持し,腸内環境と腸管機能を保つ点で生理的であり,重症患者の臨床経過を改善する有望な腸管内治療法と考えられる。
著者
川幡 穂高 氏家 宏 江口 暢久 西村 昭 田中 裕一郎 池原 研 山崎 俊嗣 井岡 昇 茅根 創
出版者
Japan Association for Quaternary Research
雑誌
第四紀研究 (ISSN:04182642)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.19-29, 1994-02-28 (Released:2009-08-21)
参考文献数
31
被引用文献数
4 4

海洋における炭素循環の変動を調べるために, 西太平洋に位置する西カロリン海盆の海底深度4,409mから堆積物コアを採取して, 過去30万年にわたり平均1,000年の間隔で無機炭素 (炭酸カルシウム) と有機炭素の堆積物への沈積流量を詳細に分析した. その結果, 炭素カルシウムの沈積流量は過去32万年にわたって大きく変動し, 極小値が約10万年の周期をもっていることが明らかとなった. また, 有機炭素の沈積流量は, 主に氷期に増大したが, これは基礎生物生産が高くなったためであると考えた. 無機炭素と有機炭素の形成・分解は, 海洋と大気間の二酸化炭素のやりとりに関しては, 逆の働きをしている. そこで, 堆積粒子に含まれる両炭素の沈積流量の差を用いて, 大気中の二酸化炭素の変動と比較した. その結果, 約5万年前の炭酸カルシウムの沈積流量が非常に増加した時期を除いて, 大気中の二酸化炭素濃度の変動と堆積粒子中の有機・無機炭素沈積流量の変動は第一義的に一致しており, 大気中の二酸化炭素の変動と海底堆積物とが何らかの関連をもっていたことが示唆された.
著者
原田 晋 森山 達哉 田中 裕
出版者
金原出版
雑誌
皮膚科の臨床 (ISSN:00181404)
巻号頁・発行日
vol.60, no.13, pp.1969-1974, 2018-12-01

35歳,男性。春季花粉症あり。ジョギング後に大豆プロテイン飲料を初めて摂取した直後より,呼吸困難・全身性膨疹などのアナフィラキシー症状をきたして,救急搬送された。プリックテストで大豆プロテインおよび原料の脱脂大豆蛋白で陽性をきたし,また血液検査・immunoblot・ELISAによる検索の結果,Gly m 3およびGly m 4の両者の感作が認められたため,自験例をクラス2大豆アレルギーと診断した。これまで豆乳アレルギー症例は数多く報告されているのに反して,大豆プロテイン飲料によるクラス2大豆アレルギーの報告は過去には存在していないが,今後大豆プロテイン飲料によるクラス2アレルギーの発症にも留意する必要がある。
著者
田中 裕明
出版者
公正取引協会
雑誌
公正取引 (ISSN:04256247)
巻号頁・発行日
no.817, pp.47-54, 2018-11
著者
田中 裕
出版者
日本哲学会
雑誌
哲学 (ISSN:03873358)
巻号頁・発行日
vol.1997, no.48, pp.97-114, 1997

Tanabe's concept of &ldquo;Philosophy of Science&rdquo; after <I>Metanoetics</I> is unique and original : it is an unflinching inquiry into the <I>Koan</I>, i.e. insoluble paradoxes and antinomies of reason where science meets religion. It is radically different from logical positivists' idea of &ldquo;scientific philosophy&rdquo; which repudiates religion as irrelevant to philosophy. Metanoetics means both our death/resurrection through repentance (<I>metanoia</I>) by Amida's grace (Other Power), and the transcendence of our theoretical reason (noesis) through paradoxes met in the historical practice.<BR>To retrieve the importance of the philosophy of science in Tanabe's sense, the present writer first shows that Tanabe's criticism of Nishida's logic of place will be most clearly understood when we compare it with the historical development of mathematical philosophy since George Cantor ; mathematical paradoxes discovered by Russell, and the breakdown of mathematical Platonism followed by G&ouml;del's incompleteness theorem.<BR>Secondly, the present writer discusses Prof. Sueki's analysis of Nishida's theory of place (<I>basho</I>) on the basis of Cantor's infinite set theory. Tanabe's criticism proves to be valid in so far as it points out the ploblematics of holistic approach of Nishida's logic of place. If we interpret, as Sueki and Tanabe did, the concept of Absolute Nothingness as the Infinite Self-Predicative Whole, then the set-theoretical consideration shows that we cannot consistently conceive the set of non-self-predicative sets as the self-determination of the whole in the place of Absolute Nothingness.<BR>Thirdly, the present writer discusses Tanabe's paper &ldquo;the historicity of the spatio-temporal world&rdquo;. The concept of a &ldquo;differentiable but non-integrable&rdquo; system, originally discovered by contemporary physics, is generalized by Tanabe to the philosophical concept of the dynamic historical world which is unpredictable even by omniscient beings.<BR>In Nishida's logic of place human subjectivity is grounded on the place of Absolute Nothingness as its contradictory self-identity in the Eternal Now. This logic must be complemented by the dynamic creative principle of the historical world. In this respect the examination of Tanabe's philosophy is necessary, because Tanabe reformulates Nishida's concept of Nothingness from our limited existence essentially related to the historical practice.
著者
田中 裕
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.69, no.1, pp.72-87, 2018 (Released:2019-06-30)
参考文献数
40

本稿は空間における抵抗の契機を考察することを目的とする. アンリ・ルフェーブルによって提出された不生産的消費という概念を出発点に, 空間の領有に向けた身体的実践のあり方を論じた. この概念はモノの生産や交換を目的とする生産的消費とは異なり, 断片化された空間を「生きられた経験」によって再編することを狙いとしている. また, 不生産的消費は使用価値に基づいており, 語りや聴取などの身体的行為として想定される. それゆえ不生産的消費は, 身体を媒介した対象の把握とその日常的実践として措定可能である. この行為のプロセスを明らかにするため, ドイツの哲学者マルクス・ガブリエルの「感性的知覚の界」を援用し考察を進めた. それにより, 私たちはその時々に応じて複数の感性的知覚を関連させることで対象を理解しているが, その対象は以前と異なる対象として立ち現れる可能性を潜在的に有していることが明確となった. ただし, このプロセスでは特定の理解を排除ないし無効化する権力的な秩序が背後で作動している. そこで, これらの感性的知覚を異なった2つの実践として捉え直し, 権力的秩序に基づく理解を受動的な「翻訳的実践」, 新たな理解の創出を能動的な「翻訳的実践」と位置づけた. ここから, 物理的空間としての場所を想像力に富む感性的知覚の1つとするならば, 翻訳的実践は空間領有の可能性を有するものとして考えられることが明らかになった.
著者
田中 裕之
出版者
立正大学経済学会
雑誌
経済学季報 (ISSN:02883457)
巻号頁・発行日
vol.65, no.3, pp.143-156, 2016-03

本稿の主題は,世界経済の実体的基礎を担ってきた現代製造業を中心とする産業再編である.特に中国・アジアシステムにおける産業構造の転換とその世界市場的意味である.中国は,21 世紀に入り世界経済の実体過程を担うアジアシステムの基軸となり,現在製造業を中心として労働力不足と賃金上昇による生産システムの転換に直面している.中国経済の実体過程は同時に世界市場の実体過程の基軸となっており,既に自動車産業を中心として機械機器産業は,国際競争市場である.その生産システムにおける自動化やロボット化,あるいは作業現場単位の情報ネットワーク化の進展がもたらす産業構造の転換は,欧米製造業にとっても最大の再編課題となり,製造業を超える問題と言える.実際に,IoT(Internet of Things),情報データの分析の自動化(AI)の登場は,建設・インフラから医療や新産業のヘルスケア・バイオを中心に,研究開発投資(R&D)が拡大している.その中国・アジアシステムを軸とする世界的な産業再編とその 21 世紀前半世界における地位と方向性の考察が最終課題となる.
著者
屏 貴文 田中 裕人 水町 光徳 中藤 良久 松井 謙二
出版者
一般社団法人 産業応用工学会
雑誌
産業応用工学会全国大会講演論文集
巻号頁・発行日
vol.2013, pp.24-25, 2013

近年,喉頭摘出者のための電気式人工喉頭(以下電気喉頭)による音声の音質改善の検討が行われており,中村らにより肉伝導人工音声によるコミュニケーション支援システムが提案されている。現在我々は,電気喉頭を用いて発声された音声をマイクで収音し,スピーカで拡声する発声補助システムを検討している。本稿では,電気喉頭音声よりも音質の良い音源の検討を行った。ケプストラム分析により声道特性を比較するとRosenberg波音源が低域でも通常の声帯振動に近い音源であることがわかった。また,ケプストラムのケフレンシー幅に着目し,声帯特性を比較するとRosenberg波の声帯特性が最も通常発声のケフレンシー幅に近く,約96%の幅であった。以上のことより,電気喉頭の音源にRosenberg波を用いることで,電気喉頭音声の音質の改善が行える可能性があることがわかった。
著者
田中 裕
出版者
科学基礎論学会
雑誌
科学基礎論研究 (ISSN:00227668)
巻号頁・発行日
vol.19, no.4, pp.177-184, 1990

1982年のアスペによるベルの定理の実験的検証は, 遅延モードを採用する事によって量子力学的相関が光速度以下の因果作用によって引き起こされたものでない事を示す点で画期的なものであったが(1), この検証実験に対するベル自身のコメント (1986) は「何かがベールの陰で光速度以上の速さで伝達されている」こと, 即ち遠隔作用の実在性と「相対性理論をアインシュタイン以前の問題状況に戻す必要性」即ち「ローレンツ不変性を持つ現象の背後にローレンツ不変性を持たない深層レベルがあり, このレベルでは絶対的な同時性と絶対的な因果の順序があると想定する」ことによって量子論的遠距離相関 (EPR相関) を説明する可能性に言及している(2)。またエーベルハード (1989) のEPR問題の歴史的回顧と様々な解釈の包括的要約も, 冒頭に「光速度を越える遠隔作用は (アインシュタインにとって受入れがたい観念であったが) 今日では様々な実験結果と理論的な分析によって実在的な効果である可能性が強い」という視点を提示し, この遠隔作用が, いかなる意味で「実在的」であるかをめぐる様々な解釈の違いを分析している。量子力学を「観測者に言及せずに」実在論的に解釈するポパー (1982) は, 「遠隔作用があるならば何か絶対空間のようなものがある」ことを理由に「量子論に絶対的同時性を導入すべき理論的理由があるとするならば, 我々はローレンツの解釈に戻らなければないだろう」と言っている。
著者
田中 裕
出版者
科学基礎論学会
雑誌
科学基礎論研究 (ISSN:00227668)
巻号頁・発行日
vol.19, no.3, pp.117-122, 1989

1964年に発表されたベルの不等式の実験的検証は1970年代から複数の科学者グループによって遂行されたが, 1982年にフランスの物理学者アラン・アスペによって行なわれた光子対の偏極相関の範囲を測定する実験は, 実験の精度の高さと遅延選択の採用による非局所的相関の確認によって, 量子物理学の解釈をめぐる原理的諸問題の考察に新しい局面を拓いたといえる(1)。嘗ては思考実験にすぎなかったものが技術の進歩によって現実の実験となることによって, 1930年代にボーアとアインシュタインの間でなされた量子力学の完全性をめぐる哲学的論争が新しい姿で甦ることとなった。この論文は二部に分かれる。第一部ではEPRの議論に要約されるアインシュタインの量子力学批判を適切な形で再定式化することによって, ベルの定理との論理的な関係を明らかにすることを目的とする。ベルの不等式の実験的反証によって明らかとなった「分離不可能性」の事実を確認したあとで, 第二部ではEPR相関と相対性理論の基本思想との関係を主題とする。
著者
宮崎 綾子 田中 裕子 牧野 里美
出版者
札幌医科大学
巻号頁・発行日
2008-12-01

ひとりで耳鼻科受診時の椅子に座れない5歳児へ、キワニスドールとアンパンチ遊びによるプレパレィションを実施したところ、ひとりで座れるようになった。アンパンチ遊びとは、キワニスドール(5歳児が描き名前をつけた)の耳や鼻にバイキンマンシールを貼り、スプーンの柄にアンパンマンシールを貼り、このスプーンでバイキンマンシールを叩き、その時に筆者らが『あれ一』といいながら、バイキンマンシールをはがし、新しいバイキンマンシールを貼り付けることを繰り返す遊びである。今回、キワニスドールが「お守り」、つまり移行対象の役割を担い、アンパンチ遊びが5歳児へ診察の意味を伝え、「やらなくてはならない」と認知され、診察時の具体的な対処行動を児自身が考え出し、その行動によって自身をコントロールすることができたので報告する。
著者
田中 裕 杉原 麻理恵 津曲 俊太郎 高松 伸枝 栗原 和幸
出版者
一般社団法人 日本アレルギー学会
雑誌
アレルギー (ISSN:00214884)
巻号頁・発行日
vol.66, no.8, pp.1011-1015, 2017 (Released:2017-09-14)
参考文献数
26

症例は12歳の女児.食物摂取後の運動負荷によるアナフィラキシー症状を繰り返したため, 食物依存性運動誘発アナフィラキシー(food-dependent exercise-induced anaphylaxis, FDEIAn)を疑い原因食物の精査を行った.症状誘発時に摂取頻度の高かった卵・乳・大豆と, FDEIAnの原因食物として頻度の高い小麦について, それぞれの食物摂取後の運動負荷試験を施行したが全て陰性であった.詳細な問診から4回のエピソードで温州みかんを摂取していたことや, 同じ柑橘類であるオレンジ・グレープフルーツの特異的IgEが陽性であったこと, スキンプリックテスト(skin prick test, SPT)が陽性であったことから温州みかんを原因食物として疑い, アスピリンを併用した温州みかん摂取後の運動負荷試験を行ったところアナフィラキシー症状が誘発されたため, 温州みかんによるFDEIAnと診断した.多数の柑橘類でSPT陽性を示したため柑橘類の完全除去を指示したところ, それ以後アナフィラキシー症状は認めていない.FDEIAnの原因食物として柑橘類も認識しておく必要がある.
著者
田中 裕久 大石 保徳
出版者
The Japan Society of Mechanical Engineers
雑誌
日本機械学会論文集 C編 (ISSN:03875024)
巻号頁・発行日
vol.65, no.637, pp.3804-3810, 1999
被引用文献数
1

A double cavity half toroidal contimlously variable power transmission transmits input torque through a pair of variable units and changes its speed ratio by controlling attitude angels of four power rollers. One power roller among them is controlled by a hydraulic servomechanism and the others are followed it under the control principle of equal force transmission. Synchronization of four power rollers is guaranteed by safety wires, however nonlinearities of friction force on the control pistons or pressure delay in hydraulic lines due to air mix or pipe length cause instability of the speed ratio servomechanism through the safety wires. This paper focuses the relation between the synchronization and stability of the CVT by making bond graph analyses and experiments, and shows design guidelines on the stabilization of the double cavity half toroidal CVT.
著者
田中 裕士 本間 伸一 今田 彰浩 菅谷 文子 阿部 庄作 西 基
出版者
一般社団法人 日本アレルギー学会
雑誌
アレルギー (ISSN:00214884)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.64-69, 1995
参考文献数
25
被引用文献数
1

霧の発生が気管支喘息患者に及ぼす影響について検討する目的で, 45歳, 女性の喘息患者のピークフロー値と, 霧などの気象条件との関係について検討した. 患者は以前より, 香水, 野焼き, 工場からの煤煙などの臭気で発作が誘発されていたが, 2年前に転居してから発作が頻発するようになり, 霧との関係が疑われた. 平成6年6月から71日間のピークフロー値 (n=251) の中で, 霧と臭気のない時間帯 (n=195) の値は403±40L/分 (平均±標準偏差) であった. 霧の発生時間帯 (n=40) では347±60L/分, 臭気のあった時間帯 (n=5) では333±60L/分, 霧および臭気が同時に発生した時間帯 (n=11) では340±53L/分であり, いずれも有意(p<0.01)に低下していた. また, 1日の平均気温, 最低気温, 平均相対湿度, 気圧, 風向きとは有意な関連性はなかった. 気管支喘息患者において, 霧の吸入によりピークフロー値は低下し, 発作誘因の一つとなりうることが示唆された.