著者
酒井 弘憲
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.51, no.8, pp.790-791, 2015 (Released:2018-08-26)
参考文献数
2

昨年は年末に任期の半分というタイミングで衆院選挙が行われ,つい先日も統一地方選挙が行われたが,開票があまり進んでいないにもかかわらず,選挙速報で「当選確実」のクレジットが出るのを不思議に思われている方もいるのではないだろうか? 選挙では,よく出口調査をやっているのにお気付きだろう.結論を先に言えば,選挙速報での当確情報は,実際の開票状況と出口調査の結果に基づいている.そもそも,調べたい対象の全てのデータを得ることは,多くの場合,不可能である.そのため一部のデータ,つまり抽出サンプルから,全体の母集団を推定することが必要になる.一部から全体を予測する統計的方法として,「推定」という考えがある.推定の良さは,一致性や不偏性などによって決まってくる.一致性とは,データの数が多くなればなるほど,1つの値に収れんしていく性質のことである.つまり,少ないサンプルよりは多数のサンプルを集めた方が,良い推定が可能になるということである.不偏性とは,偏りのないことであり,推定値の期待値が真の値に限りなく一致してくるということである.説明を簡単にするために,出口調査で,ある候補者Aの得票率を推定することを考えてみよう.例えば,投票を済ませた任意の100人の有権者に投票した候補者を聞いたところ,そのうち45人がAに投票したと答えたとしよう.この場合,注目するAの得票率は45/100=0.45である.この値は一点決め打ちの推定値なので点推定値と呼ぶ.この値に基づいて,Aの真の得票率(これは全部の票を開票してみないと分からない)に対する区間推定,つまり,上で調査した0.45という得票率がどのくらいの信頼性を持っているのかということを調べてみる.ここでは,Aが立候補した選挙区で投票した有権者全体が母集団ということになり,出口調査の対象となった100人が標本ということになる.標本が100人で,調査結果としてAに投票した人数が45であるとすると,得票率45%の信頼度95%の信頼区間は,0.3525~0.5475となる(簡単な式なので提示しておくと,p±1.96√(p(1-p)/n)で計算できる).いま,Aに対立するB候補がいるとしよう.Bに投票したと答えた人数が100人中35人であったとする.そうすると,Aに投票したとする人よりも10%少ない.したがって,かなりの確率でAの方がBよりも得票率が高いと言えそうであるが,本当にそうだろうか? 実際にBの得票率について同じく95%信頼区間を計算してみると,0.2565~0.4435となる.これは,Aの信頼区間とかなり重なっている.つまり,Aの得票率は低ければ40%を切る可能性もあり,Bの得票率は高ければ40%を超えることも考えられる.したがって,この出口調査からだけでは,AがBを抑えて当選するとは言い切れない.これは出口調査の対象人数が少ないためである.もし,全投票者を出口調査対象とすれば答えは簡単であるが,そのような調査は不可能である.そうすると,どのくらいの人数が標本として適当なのかということになるが,出口調査の対象者を増やしてn人にしたとしよう.その場合でもAとBの得票率はそれぞれ45%,35%としておく.このとき,95%の確率で両候補の真の得票率に差があると言うためには,2つの信頼区間が重なり合わなければよいことになる.つまり,「Aの信頼区間の下端」>「Bの信頼区間の上端」であればよい訳である.信頼区間の公式に当てはめて計算すると,この場合,n>364.8となる.したがって,出口調査でAとBの得票率の差45-35=10%が信頼度95%で有意な差であると言うためには,365人以上の人に回答してもらう必要があるということになる.このように標本抽出して得られた結果を用いて,選挙速報で当選確実が出ている訳である(当然,本連載の去年の第1回に紹介したギャロップ調査のように,地域差,性別,年齢構成なども考慮して出口調査する投票所も選ばれているはずである).もし,接戦でB候補者の得票率が43%であったとすると,僅か2%の得票率の差を見いだすためには調査対象として9,462人が必要になってくる.読者の皆さんは論文などで,この「95%信頼区間」という記述を目にされたことがあるだろう.95%信頼区間であれば,その区間内にその推定値が存在する確率が95%であることを示していることになる.さらに,その区間幅はサンプルサイズ,臨床研究や治験で言えば症例数が増えれば,狭くなる.つまり推定精度が高まる訳である.医薬の世界では,5%有意であるか否かという二者択一の「検定」偏重のきらいがあるが,検定の弱点は,具体的にどのくらいの差があるのかとか,その試験がどのくらいの精度で実施されたのかというようなことが分からないことである.「推定」は,「検定」の弱点を補強する情報を提示してくれる方法なのである.
著者
柴田 直生 酒井 利信 大石 純子
出版者
身体運動文化学会
雑誌
身体運動文化研究 (ISSN:13404393)
巻号頁・発行日
pp.physicalarts.2023.007, (Released:2023-03-31)

As budo continues to develop internationally, questions of how practitioners abroad perceive budo and how budo-related terminology should be translated has become a pressing issue in recent years. This study focuses on the writings of Donn Draeger. Draeger contributed to the international understanding of budo and has exerted a major influence on non-Japanese practitioners. By investigating Draeger’s usage of the terms “bujutsu”, “budo”, “martial arts” and “martial ways”, all of which are used to indicate “budō”, we aim to clarify his views on Japanese martial arts. In his books Classical Bujutsu, Classical Budo and Modern Bujutsu & Budo, Draeger mainly used the words “bujutsu” and “budo” when describing the martial history, culture, and spiritual aspects he learnt in his study of martial arts. The terms “martial arts” and “martial ways” were introduced for the benefit of non-Japanese with no knowledge or experience of bujutsu or budo. These English terms do not have the same depth implied by “bujutsu” and “budo”. Draeger makes a distinction between “bujutsu” and “budo” in different periods, stating that the purpose differs between “classical bujutsu”, which was designed to kill, and “modern bujutsu”, which aims to subdue the opponent. On the other hand, Draeger considered “classical budo” with its strict sense of spirituality to be more ideal than “modern budo”, which has other objectives to spiritual training such as entertainment or sport. He also thought that classical bujutsu and budo have more value than its modern incarnations.
著者
渡辺 学 三堀 友雄 酒井 昇
出版者
一般社団法人 日本食品工学会
雑誌
日本食品工学会誌 (ISSN:13457942)
巻号頁・発行日
vol.6, no.4, pp.269-278, 2005-12-15 (Released:2010-06-08)
参考文献数
5

炒め調理過程の伝熱メカニズムについて検討した.モヤシを材料に用いて, 攪拌を行わない静止状態のバルクにおける温度分布の実測を行った結果, 加熱面に接触していないモヤシ片ではほとんど温度上昇がみられないことが明らかとなった.このことから, 炒め調理における攪拌とは, 強制的な物質移動によって熱拡散を代替するための操作であり, 伝熱という面でも非常に大きな役割を担っていることがわかった.以上の知見に基づき, 様々なバルクの伝熱特性を定量的に評価するために1層厚さ, 接触率という特性値を導入し, さらに攪拌頻度をパラメータとして攪拌に起因する熱拡散のモデル化を行うことにより, バルク温度の時間変化を計算で求める手法を構築した.計算結果の1例より, 加熱面とバルクの間の熱伝達率を推算したところ155W/m2Kとなり, 本モデルによりまずまず妥当な結果を得られることが確認できた.
著者
酒井 智弘 相川 充
出版者
日本社会心理学会
雑誌
社会心理学研究 (ISSN:09161503)
巻号頁・発行日
vol.36, no.3, pp.65-75, 2021-03-31 (Released:2021-03-31)
参考文献数
34

The purpose of this study was to examine the effect of gratitude-expression skills on the benefactor in a dilemma situation. The method experimentally employed a confederate who met participants for the first time and executed gratitude-expression skills on them in a “Prisoner’s Dilemma Game” (PDG). An experimental group in which the confederate executed the gratitude-expression skills was compared with a control group in which the confederate did not do so. The results showed the experimental group had higher average and medium or higher effect size regarding the participants’ cooperative behavior in a PDG, the state of reciprocity consciousness, and interpersonal attraction for the confederate than the control group. This study found the positive effect of gratitude-expression skills on motivating the benefactor’s cooperative behavior and enhancing reciprocity consciousness and interpersonal attraction for the confederate even in a dilemma situation.
著者
山田 祥徳 酒井 幹夫 水谷 慎 越塚 誠一 大地 雅俊 室園 浩司
出版者
Atomic Energy Society of Japan
雑誌
日本原子力学会和文論文誌 (ISSN:13472879)
巻号頁・発行日
vol.10, no.3, pp.185-193, 2011 (Released:2011-08-24)
参考文献数
21
被引用文献数
27 26

In nuclear engineering, fluid flows involving free surface were well studied, e.g., pipe thinning produced by liquid droplet impingement, and steam explosion triggered by molten metal immersed in water. The moving particle simulation (MPS) method was often used in past studies. In this method, the Poisson equation was solved to obtain the pressure field. Solving the Poisson equation becomes a dominant process. Reducing the time of calculation of the Poisson equation is important for using the CFD in the engineering fields. Thereat, we propose a new MPS method by which the pressure field is calculated explicitly. We call it the explicit (E-)MPS method. The E-MPS method was applied to a static water and dam break problem to show its adequacy. Besides, we compare the calculation time between the E-MPS method and traditional one.
著者
酒井 俊行
雑誌
聖学院大学論叢 = The Journal of Seigakuin University (ISSN:09152539)
巻号頁・発行日
vol.第32巻, no.第1号, pp.11-25, 2019-10-25

真逆に位置する2つのタイプの表現者平手友梨奈と川上奈々美を分析することによって,“黒い羊”問題を議論してみた。この二人の表現者は立ち位置は真逆であるが,実はその差は紙一重と思われる。にもかかわらず,一方が白で一方が黒。実際に社会で生起する“黒い羊”問題においても,白でも黒でもほとんどはっきりした差異は見られない。寸毫の差が白黒の分かれ目となってしまう。これが“黒い羊”問題の本質であり,それ故にここに独特の複雑性が醸し出される。
著者
春日 範樹 小川 祐二 本多 靖 谷口 礼央 酒井 英嗣 今城 健人 日比谷 孝志 米田 正人 桐越 博之 大橋 健一 中島 淳 斉藤 聡
出版者
一般社団法人 日本肝臓学会
雑誌
肝臓 (ISSN:04514203)
巻号頁・発行日
vol.61, no.10, pp.504-512, 2020-10-01 (Released:2020-10-08)
参考文献数
16

症例は45歳女性.急性骨髄性白血病に対して同種骨髄移植が行われ,移植後はタクロリムス,ステロイドによる免疫抑制療法を18カ月継続した.移植前はHBV既往感染の状態であったが,移植から38カ月後に肝機能障害,HBs抗原陽転化,HBV-DNA量上昇を認め,HBV再活性化と診断した.同種骨髄移植前後に赤血球濃厚液の頻回の輸血によりヘモクロマトーシスを合併していた影響もあり,血清フェリチン値は著明高値であった.肝生検では過剰な鉄沈着と急性肝炎の所見を認めた.ラミブジンにより治療を開始し,その後テノホビルアラフェナミドへ切り替えた.HBV再活性化とヘモクロマトーシスの関連性は不明であったが,HBV治療と鉄キレート剤により血清フェリチン値も漸減した.HBV既往感染状態での同種骨髄移植では,長期間にわたりHBV再活性化への注意が必要である.
著者
姫宮 彩子 中川 碧 酒井 大樹 重本 亜純 髙瀬 泉
出版者
山口大学医学会
雑誌
山口医学 (ISSN:05131731)
巻号頁・発行日
vol.71, no.2+3, pp.75-81, 2022-08-31 (Released:2022-11-02)
参考文献数
19

法医学講座では,主な業務の一つとして遺体の解剖・検案を実施し,死因等の鑑定を行っている.法医解剖が実施される事例は,医学的に死因が不明であるだけでなく,多くがその背景に社会的課題をもつため,死因究明に加えて死亡状況を検証することは,生きている者に重要な示唆を与える.よって,法医解剖によって得られた情報を関係各所と共有し,現場に携わる関係者同士が再発予防策について検討することの意義は高い.本稿では,山口大学医学系研究科法医学講座の法医解剖における死因究明の現状について2021年実施例の報告というかたちで示し,今後の法医解剖情報の活用について考察する.解剖数は157件で,男性が女性の2倍強を占めた.年齢階級別では10代が最も少なく,成人以降では年齢が上がるとともに漸増し,70代以上が約4割を占めた.死因の種類では内因死が3割,外因死が6割,不詳の死が1割で,内因死の約7割は循環器系疾患,外因死は外傷および溺没で約7割を占めた.全体の約2割が救急搬送され,その一部で臨床科医師による死因の言及がみられた.また,全体の約3割で画像検査データが死因判断に活用された.その他,世代別の外因死,自殺(疑い),医療関連死の事例の特徴を報告する.今後は個々の事例・課題について,関連する臨床科や医療,保健,福祉,行政,さらには医学系研究者の勉強会あるいは検討会等に参加しながら,近い将来の『死因究明により得られた情報を相互に共有・活用できる体制の構築』の実現をめざし,試行していきたい.
著者
酒井 美里
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.70, no.7, pp.355-359, 2020-07-01 (Released:2020-07-01)

本稿では,海外代理人の意見やテストコレクション評価の現状,また特許管理業務への導入例などを通して「AI(人工知能)系調査ツールとの付き合い方」を考察する。海外特許庁では,審査引例調査へのAI導入が積極的に検討され始めている。一方,無効資料調査などの場面では「どんな手段で調査をするかは依頼者の責任」という考え方もあり,AIは補助手段に留まる傾向が強い。今後,私たちサーチャーはAI系調査ツールとどのように付き合っていくべきなのだろうか。本稿では導入に対する費用対効果や,海外でのAI系調査ツール評価に関する話題,音楽配信サービス用のレコメンドAIなどの例を通して,AI系調査ツールについて考える「視点」を提案する。
著者
中村 和之 酒井 英男 小林 淳哉 小田 寛貴 浪川 健治 三宅 俊彦 越田 賢一郎 佐々木 利和 瀬川 拓郎 中田 裕香 塚田 直哉 乾 哲也 竹内 孝 森岡 健治 田口 尚 吉田 澪代
出版者
函館工業高等専門学校
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究の目的は、14~16世紀のアイヌ文化の状況を明らかにすることである。この時期は、近世のアイヌ文化の成立期であるが、文献史料と考古学資料が少ないため、状況がわかっていない。そのため、漢語・満洲語・日本語史料の調査を行うと同時に、遺物の成分分析や年代測定、それに遺跡の電磁探査など、さまざまな分析方法で情報を収集した。その結果、14~15世紀の北海道でカリ石灰ガラスのガラス玉が発見された。本州でほとんどガラス玉が出土しないので、アムール河下流域からの玉と考えられる。この時期は、元・明朝がアムール河下流域に進出した時期に重なるので、北方からの影響が強くアイヌ文化に及んだことが推定できる。
著者
門馬 久美子 前田 有紀 梶原 有史 森口 義亮 酒井 駿 野間 絵梨子 高尾 公美 田畑 宏樹 門阪 真知子 鈴木 邦士 千葉 哲磨 三浦 昭順 堀口 慎一郎 比島 恒和
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.530-543, 2020-05-24

●「考える内視鏡診断」のポイント・スクリーニング検査時に,良性腫瘍に関する予備知識があれば,腫瘍発見時の対応,適切な方法での組織採取が行える.・内視鏡検査にて隆起性病変を認めた場合は,存在部位,形態,表面性状,色調,硬さ,透光性,可動性,大きさ,個数,びらんや潰瘍形成の有無などを観察し,必要があればEUSの所見も加え,質的診断を行う.・最終的には,病理組織学的な診断が必要であるが,上皮が滑って生検しにくい場合は,ボーリング生検あるいはEUS-FNABにて,腫瘍本体を採取する.特に,2cmを超える腫瘍では良悪性の鑑別が必要である.・画像だけでは診断できないGIST,平滑筋腫,神経鞘腫の鑑別には,c-kit・desmin・S-100蛋白の3種類の免疫組織化学的検査が必要である.
著者
酒井 栄一 田中 勉 森 光子 中川原 寛一
出版者
Japanese Electrophoresis Society
雑誌
生物物理化学 (ISSN:00319082)
巻号頁・発行日
vol.45, no.1, pp.11-16, 2001-03-15 (Released:2009-03-31)

If I classify roughly for the quantification method of mRNA, there are the following 5 kinds. 1. Northern and dot hybridization, 2. RNase protection assay, 3. RT-PCR (the use of internal control), 4. competitive RT-PCR (the use of competitor), 5. real time monitoring PCR. In these methods, 3-5 employ PCR. Though 3, 4 are a method to quantify at an exponential increase term, it is different point that 5 is quantification method by means of PCR cycle number to exceed a detection limit of PCR product, just before entering an exponential increase term. Recently, a quantification method by the real time monitoring PCR basks in attention. Not only this method isn't necessary to confirm a cycle number of an exponential increase term in advance but have the wide quantification range in comparison to the method to quantify at an exponential increase term, there are many merits. I introduce LightCyclerTM system (Roche Diagnostics) with this draft as an equipment to be able to do a realtime monitoring.
著者
大江 啓介 酒井 良忠 上羽 岳志 新倉 隆宏 三輪 雅彦 黒坂 昌弘
出版者
公益社団法人 日本リハビリテーション医学会
雑誌
The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine (ISSN:18813526)
巻号頁・発行日
vol.50, no.3, pp.195-201, 2013 (Released:2013-05-31)
参考文献数
19
被引用文献数
1

目的:炭酸ガス療法は炭酸ガスを経皮吸収させることで血流増加やボーア効果による組織酸素分圧を上昇させる作用によって生体に効果を及ぼすものと考えられている.本稿では,炭酸ガスの経皮吸収がラットの運動パフォーマンスへ及ぼす影響とそのメカニズムについて検討した.方法:ラット(Wistar系)を回転かごで1 週間の走行テスト後,炭酸ガスを経皮吸収させる群(炭酸ガス群,8 匹),運動のみを行う群(運動群,8 匹),運動も炭酸ガスも行わない群(コントロール群,8 匹)の3 群に分け,運動群と炭酸ガス群に毎日(5 日/週)30 分間の運動を4 週間実施した後で,すべての群の前脛骨筋を摘出し組織学的・生化学的に筋線維を解析した.結果:炭酸ガス群でコントロール群と比べて有意に運動パフォーマンスが向上した.また,筋線維の解析では炭酸ガス群でIIB線維からIID線維,IIA線維への移行やミトコンドリア数および血管密度の増加を認めた.結論:炭酸ガス経皮吸収はリハビリテーション後やスポーツ後の疲労回復効果などの臨床においても応用が期待される.
著者
内田 立身 国分 啓二 酒井 一吉 五十嵐 忠行 鈴木 照夫 樋口 利行 木村 秀夫 松田 信 刈米 重夫
出版者
The Japan Society for Clinical Immunology
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.7, no.3, pp.146-153, 1984-06-30 (Released:2009-01-22)
参考文献数
24

慢性関節リウマチの鉄代謝異常を,血清鉄,総鉄結合能,血清フェリチン,フェロキネティクス,網内系細胞内鉄代謝の面から検討した.対象42例中57.1%に貧血があり,そのうち63%が正色性, 24%が低色性, 13%が高色性であった.血清鉄は66%が低値をとり総鉄結合能は82%が正常または低値,血清フェリチン値は83%が正常または高値を示し,鉄欠乏性貧血のそれと異なっていた. 15例のフェロキネティクスでは, PID T〓の短縮, PIT, RITの低値があり,これらは血清鉄低値,骨髄赤芽球系細胞の低形成の所見に見合うものであつた.59Fe標識コンドロイチン硫酸鉄を用いた網内系細胞の鉄動態の検索では,投与4, 6時間目に網内系細胞より動員される鉄量が正常に比し少なく,網内系細胞よりの鉄の動員の障害,いわゆるRE iron blockがあることが示唆された.この動員の障害により,血清鉄低値をきたし,骨髄への鉄供給不足,これに伴う無効造血の存在が病態として観察された.他方,骨髄では,造血幹細胞レベル,赤芽球細胞レベルでの低形成があり,これがPIT, RITの低値と関係していると思われ,貧血の主たる成因であることが類推された.
著者
酒井 弘憲
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.50, no.6, pp.558-559, 2014 (Released:2016-07-02)
参考文献数
1

爽やかな春も終わり,梅雨が近づいてきた.6月と言えば,ジューンブライドで結婚式の季節というイメージがあるのではないだろうか? 2012年のぐるなびウエディングのアンケート調査結果を見てみよう.まず既婚者(男性700名,女性432名)に「どの時期に結婚したか」という質問に対して,春~初夏(4~6月)が1番多く28.7%,続いて秋(10~11月)が23.9%と続く.結婚の意思のある未婚者(男性161名,女性178名)に「どの時期に結婚したいか」を尋ねると,秋が1番多く,53.1%,続いて春~初夏の41.0%となる.親族や友人など式への出席者側(男性1029名,女性703名)の意識では,「いつ出席したいか」という質問に対して,こちらも秋が41.0%で,続いて春~初夏の27.0%という回答であった.つまり,6月に結婚式が1番多いというわけではないのである.もっと詳細に示せば,未婚者の結婚希望時期は10月が1位で6月は4位なのである.既婚者の結婚時期でも1位は11月で,6月は6~7位なのである.例外的に6月に挙式が増えた年があったが,それは,1990年と1993年である.それぞれ6月に秋篠宮,皇太子のご成婚があり,それにあやかっての挙式増加であった.現実的な話をすれば,梅雨時期で稼働率の下がるホテルや式場が欧米のロマンチックな言い伝えを利用し,ジューンブライドとぶち上げて6月の集客を回復しようと画策したのが始まりらしい.ヴァレンタイン・デーを利用してチョコレートの売り上げを伸ばそうとした製菓業界とまったく同じ構図なのである.こういうキャンペーンはそのまま鵜呑みにせず,数字の裏付けを確認することが大事である.ところで,この時期になると決まって懐かしくなるのがロンドンの清々しさである.この時期のロンドンは夜も21時過ぎまで明るく,空気もカラッとしていて実に過ごしやすい.著者がロンドンを訪問する際に必ず立ち寄る場所がある.根っからのシャーロキアン(英国ではホーメジアンと呼ばれるらしい)としては,チャリングクロスのパブ・シャーロック・ホームズと言いたいところだが,同じパブでもそれはジョン・スノウ・パブなのである.と言っても読者のなかでそれを知っている人がいれば奇跡に近い話であろう.有名なエロス像のあるピカデリーサーカスからリージェント・ストリートを北に進み,ブルックス・ブラザーズの店舗の角を右手に曲がって5分ほど進み,さらに左に折れて進んだ先のブロードウィック・ストリートの左角に目指すパブは佇んでいる.別に危険な場所ではないが,普通の観光客は絶対にこんな路地裏までには入ってこないだろう.ここが生物統計学の源流の一つである疫学の“聖地”なのである.