著者
物部 博文 生野 晴美 村山 雅己
出版者
横浜国立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

消防士の熱中症を予防するためのヒートストレスアラームを開発・実証データを収集し、実際の火災現場での実用可能性を検討するために東京消防庁にヒアリングをした。その結果、さまざまな課題が提示される一方でその有用性も示唆された。一方で、換気型消防服の場合、粉塵や火炎による影響を防ぐための手立てを講じたが、粉塵や火炎による熱傷の可能性の完全な除去が難しかった。したがって、水冷服による体温調整システムを検証し、密閉系における体温調整の可能性について再検討した。
著者
竹内 洋
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1994

本研究はまず旧制高校とパブリック・スクールの誕生の経緯と発展の概観をなし、とくに明治時代の旧制高等学校とビクトリア朝時代のパブリック・スクールにさまざまな点で類似性があることを指摘し、つぎに両者の類似と差異について学籍簿などのデータを集計、分析し実証的に比較研究している。知見のひとつは、旧制高校がかならずしも貧困層に開かれていたわけではなく、逆にパブリック・スクールが上流階層の独占学校でもないことである。旧制高校に社会的再生産の、パブリック・スクールに社会移動のメカニズムが働いている。もうひとつの知見はつぎのようなものである。パブリック・スクールは政治家や行政官などのジェネラリスト・エリートとくに父権的指導者を育成するのに成功したが、科学者などのスペシャリスト・エリートを育成するのに失敗した。旧制高校は自然科学や知識志向が強かったぶんいずれのエリートの育成にも対応できた。パブリック・スクール・エリートは伝統文化(ジェントルマン文化)と接続することによって安定したエリートであったが、革新能力を欠いた。一方、旧制高校の「教養」は西洋文化の吸収にあったから、伝統文化から切断され、そのぶん旧制高校エリートは軍国主義時代のショービニズム=伝統の創造の対抗力となりえなかった。これからの日本のエリート教育を考えるには、現在もサバイブしているパブリック・スクールの戦後社会の変貌を参考にしながら、もし戦後日本社会に旧制高校が存在したら、日本社会はどのようになっていただろうか、という思考実験をすることがよいだろう。
著者
大橋 英寿 桐田 幸子
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

沖縄シャーマニズム現象についての社会心理学の立場からのフィールドワークから以下のような研究成果がえられた。1. 沖縄シャーマニズムには一種の「信仰治療」が内在しており、今日も、現代医療と拮抗して機能している。本研究では、(1)シャーマン「ユタ」の治療儀礼の観察によってシャーマニズムの治療メカニズムを明らかにし、(2)クライエントの対処行動の事例研究によって現代医療と信仰治療が地域社会で機能している実態を明らかにすることができた。2. 地域社会でユタがはたしている役割を、戸別訪問による主婦50名の面接調査の結果をもとに分析した。その結果、(1)主婦のユタ依存は女性のライフサイクル全体の社会化過程と密接に関連していること、(2)土着シャーマニズムは沖縄の伝統文化の3側面、すなわち、(1)宗教,(祖先崇拝)、(2)相続法(慣習法)、(3)治療(信仰治療)を内包しており、それらが、外来文化、すなわち(1)外来の諸宗教、(2)新民法、(3)現代医療と拮抗関係にあることを確認できた。3. 沖縄県が移民を多く出していることに注目して、ブラジルにおける沖縄シャーマニズムの実態を調査した結果を分析した。ブラジルで活動しているユタの巫業形態は、沖縄シャーマニズムを継承している度合いと、ブラジルの宗教要素を取り込んでいる様態から、ユタを、(1)伝統型、(2)折衷型、(3)融合型の3型に分けられる。要するに、シャーマニズムは「危機や問題場面への文化的対処システム」であり、シャーマン「ユタ」は「野のカウンセラー」あるというのが、沖縄シャーマニズム研究からみちびかれた本研究の結論である。
著者
嶋田 正和 鷲谷 いづみ
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

カワラノギクの3階層のメタ個体群構造(全体個体群/地域個体群/局所個体群)をセル状格子モデルで表現し、セル間の相互作用としては3段階の種子散布を考慮した。また、洪水の時空間特性として、規模・頻度・地域間同期性・地域内での洪水の生起位置を考慮した。各セルの中の個体数動態は、3つのステージ(小ロゼット・大ロゼット開花個体)に分けた推移行列モデルで記述した。種子の発芽・定着率は、丸石河原が生成されてからの経過年数に伴い侵入する多年草の被陰によって減衰するものとし(パラメータは被陰速度β)、さらにある一定の年数(パラメータは生息地劣化時間dtime)を経過すると全く定着できなくなるとした。行列モデルのパラメータ推移は本研究による野外調査、及び様々な先行研究によって報告されているデータを用いて推定した。絶滅リスクの評価基準には100年後の絶滅確率(全試行回数のうち、絶滅が生じた割合)を用い、感度分析によって、それぞれのパラメータが絶滅リスクに与える効果を評価した。解析の結果、本モデルは実際の局所個体群の動態データをよく記述した。さらに、被陰速度β、生息地劣化時間dtimeの効果が絶滅リスクに大きく影響することが確認された。また、洪水の時空間特性として、洪水の生起位置の変動が絶滅確率に非常に大きな影響を及ぼし、洪水の位置が固定化すると絶滅確率は顕著に高まった。このように、本研究により、カワラノギクメタ個体群の存続に特に重要と思われる要因が明らかにされた。
著者
塚原 康子 平高 典子
出版者
東京藝術大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

海軍軍楽長・吉本光蔵(1863~1907)の日記を精読し、以下の研究成果を得た。(1)ベルリン留学時代の日記(1900~1902年)から吉本のベルリンでの音楽体験を把握した。海軍軍楽隊が1908年に始める東京音楽学校への依託生制度はベルリン音楽院の軍楽学生制度をモデルにした可能性が高い。20世紀初頭のヨーロッパには、川上音二郎一座らの興行や吉本が作成した五線譜を通して日本音楽の情報が流布した。(2)日露戦争中の日記(1904~1905年)から第二艦隊旗艦・出雲に乗艦中の軍楽隊の活動状況を把握した。軍楽隊は定例の奏楽以外に作戦遂行や戦死者追弔にも奏楽し、兵員による琵琶・尺八の私的演奏もあった。
著者
小野 恭靖
出版者
大阪教育大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

ことば遊びにかかわる文献資料の収集を精力的におこない、多くの貴重な資料を収集した。その結果、これまで未紹介であった「鈍字」や「文字絵」にかかわる複数の資料を紹介し、位置付ける複数の論文を発表した。また、幼児向けの絵本『さかさことばのえほん』、中学・高校生向けの入門書『ことばと文字の遊園地』の他、文学作品中に見られることば遊びに言及した『戦国時代の流行歌』を刊行するとともに、多くの講演や講義によってことば遊びについて話す機会を持つこともできた。
著者
瓜生 淑子
出版者
奈良教育大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

幼児に対して、ヒーローを救うために悪者にウソをつけるかという欺き課題と「心の理論」の獲得を見る標準的な誤信念課題を実施し、あわせて行った母親のアンケート調査の結果を含めて、子どものウソの出現時期の確認とウソを可能にする認知的・人格的要因を検討し、子どもの心的世界の形成にとっての子どものウソの持つ意味を考察した。研究は、1)幼稚園児の個別実験と2)母親に子どものウソに気づいているかを問うアンケート調査からなった。その結果、個別実験からも親の調査からも、効果を意図したウソの年齢下限は、満4歳頃であることが確認された。しかし、非第一子的性格であると見られたパーソナリティの「のびやかさ」尺度得点が実験場面でのウソの出現を早めるという仮説は検証されず、むしろ「慎重さ」尺度と逆転させて名付け、この尺度得点が正の影響力を持つとして仮説とは逆に解した方が適合する結果が示された。この尺度が認知的能力の代替変数になった可能性がある。また、前研究に比べ、ウソが可能になる年齢や「心の理論」獲得の年齢がやや遅かったことについては、対象児の保育経験(幼稚園児か保育所児か)の違いが自他の分化に影響している可能性が示唆された。この点については、今後、年長児のデータも加えて分析し、検討したい。
著者
永井 睦 岡田 尚巳
出版者
自治医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

(目的)HSV-tk/GCVを用いた遣伝子治療と同時に各種サイトカイン遣伝子を導入することによる治療研究を行う。導入する遣伝子として炎症性サイトカインであるMCP-1を用いた。in vitroでヒト悪性神経膠腫細胞にヒトMCP-1遺伝子を遺伝子導入し、これを同じ悪性神経膠腫細胞の担癌マウスにワクチンとして接種したときの治療効果を検討した。平成13年度はヌードマウスを担癌マウスとした。結果は腫瘍の縮小を認めず、治癒には至らなかった。しかし組織学的に検討した結果ワクチン接種の部位にmacrophageの漫潤を強く認め腫瘍部位にNK細胞とmacrophage両者の浸潤を認めた。このことからMCP-1遣伝子導入腫瘍細胞を用いたワクチン接種は宿主の抗腫瘍免疫を賦活させるものと考えられた。平成14年度はSCIDマウスを担癌マウスとした。この実験では腫瘍増殖が抑制され、治療効果を認めた。組織学的検討ではNK細胞の局所浸潤を認めた。ヌードマウスとSCIDマウスの系統の違いによる免疫応答の差を考慮すると、担癌マウスとして使用するマウスの系統による治療効果の違いにはB-cell機能の有無が重要な因子の一つであると考え、さらに追試を行っている。(目的)SCIDマウス疑似ヒト環境モデルの作製。すでに報告されている通りに6週齢のSCIDマウスに2Gyの放射線照射を前処理として行った。その後ヒト末梢血から単核球を精製し、その1×10^7個をマトリゲルとともにSCIDマウスの腹腔内に投与し、経時的にマウス血液中のヒト単核球の割合をFACScanを用いて計測した。マウス血液中にヒト単核球が確認された。しかしマウスはヒト末梢血接種後10〜14日後に殆どが死亡するためこれをヒト環境モデルとして使用可能にするために放射線照射量を減量するなどの対策を講じている。
著者
長 宗雄 富山 淳
出版者
神奈川大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

位相力学系に対応する作用素環としては通常はC-クロス積が考えられているがその前にもっと密接に関係するBanach-algebraクロス積がある。これらはXが1点のときはそれぞれl^1(Z), C(T)(Zは整数群、Tはトーラス)となり両者の大きな違いは前者には自己共役ではない閉イデヤルが存在することがある。交流理論としてはこの非可換l^1-algebraの構造が大きな研究課題になるべきであるがこれまでこのクロス積の研究は殆どなかった。主要結果の一つは上の差異を踏まえた次の結果である。定理:lの閉イデヤルが全て自己共役になるのは力学系がfree(周期点がない)の時のみに限る。次に、上の二つのalgebraのなかでC(X)と可換な元の全体(C(X)のcommutant)を考えるとこれ等はともに極大可換なBanach-algebraになりそれぞれのnon-zero閉イデヤルとはnon-zeroな共通部分を持つ。この重要な性質はCについては証明されているが、characterの空間の詳細な解析を行い、合わせて上記の二つのmaximal abelian subalgebraへのバナッハ空間としての射影が存在するための必要十分な力学系の条件をもとめた。Semi-hyponormal作用素がconvexoidであるかどうかは、これまで約20年間解決できずにいた。この問題について、Linear and Multilinear Algebraから発表した論文「A remark onnumerical range of semi-hyponormal operators」においてunilateral shift UからT=aU+bUとしS=T^2として作る作用素はすべてconvexoidであることを示した。この結果はこの問題の一つの決定的な結果であり、ほぼ達成できた。次に、バナッハ空間上の作用素について、Polaroid作用素を研究し、この作用素がsingle value extension propertyをもつなら、Weylの定理が成立することを示した。また、quasi-similarな作用素については、Bishoppropertyをもつ作用素であればPolaroid性が同値であることを示した。これらの結果は、Journal of Mathematical Analysis and Applicationsから「Polariod type operators underquasi-affinities」として発表し、作用素論の指導的数学者であるRaul Curto氏から高い評価をいただいた。ヒルベルト空間上の作用素の特性関数の研究においてはp-hyponormal作用素に特性関数を導入し、スペクトルの特長付けを行った。さらにdeterminantの積分表示を得ることができた。この結果はMath. Proc. Royal Irish Academyから「Determinants ofcharacteristic functions of p-hyponormal operators」として発表した。
著者
高瀬 保晶 平井 義人 石川 達也 牛木 猛雄
出版者
東京歯科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

金型と同一試料模型の光学式三次元座標入力装置にて得られた三次元点群データとを比較検討した結果,三次元計測では傾斜の大きな軸面部,また鋭角な隅角部の計測精度は劣り,形状計測装置の計測ステップ,また照射,受光素子を配した光学系の配置にも影響を受けていると思われた.ニューロの応用により平滑面での誤差は移動平均に比較してほぼ全体にわたり良好な補正が可能であることが分かったが,ショルダータイプマージンから軸面への立ち上がり部分,'また軸面から咬合面部への移行部分では両者の差は認められず,学習効果による補正効果が認められない症例も多かった.ただし,移動平均法ではどの症例でも丸みを帯びて補正しているのに比較し,誤差は含むものの明瞭なエッジを形成する傾向を示した.H-NeTを用いた曲線補間においても,部分的な精度の向上が認められない場合もあり,パラメータの変更を行い,解析を行う必要性が示唆された.さらに光学読みとり装置,読みとり方法などの改善が必要であると考えられた.
著者
福島 みどり
出版者
和光大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

本研究では、話しことば資料を中心に、小説・新聞・広告などの書きことば資料も加え、広く他動文の用例を収集し、逸脱的特徴を持つ(1)接続助詞的なヲの文(2)状況を表すヲの文(3)とがめだてを表す「何ヲ」文(4)(3)と似た意味を表す逸脱的な「何ガ」文について考察した。その結果、それらの文の意味解釈には、同じ形式を持つ他動文のうちのあるタイプをベースとした類推が働き、ベース構文の意味を写像して創造的に変容解釈・補充解釈を行うことにより成り立つことを主張した。特にAガBヲVという形式を持つ他動文について、(1)~(3)の逸脱的特徴を持つ他動文がベースとする他動構文は、他動構文の中でも、使用頻度が十分であり、また、典型的他動性の意味を持つタイプの構文であることを主張し、実際の言語使用において構文が重要な役割を果たすことを示した。
著者
小笠原 奈保美 Heo Younghyon Ginsburg Jason D.B Anna 桑田 カツ子
出版者
群馬県立女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

(1) 避難伝達文の言語学的分析と(2)避難伝達文発話の際の音響的特徴の影響を調べた。(1)について、津波避難伝達文と水害・土砂災害避難伝達文をデータとして集め言語学的分析を行った。その結果、津波避難伝達文より水害・土砂災害避難伝達文の方が言語量が多い、避難準備から勧告・指示へと緊急性が増すにつれて、複雑な構文が増えることなどが明らかになった。(2)について、声の音響的特徴(性別、ピッチ、発話速度)が、聞き取りやすさ・信頼性・緊急性の評価に影響するかを調査した。実験の結果、女声でピッチや速度を変化させない場合が総じて評価が高かったが、緊急性においては速い発話が効果的であることがわかった。
著者
齋藤 ひろみ 市瀬 智紀 河野 俊之 徳井 厚子 浜田 麻里 上田 崇仁
出版者
東京学芸大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

教員養成課程に在籍する学生及び現職教員へのアンケート調査、外国人児童生徒教育歴の長い教員へのインタビュー、プロジェクトメンバーの所属大学における教育実践を通して、学校の多文化化に対応するための教員の日本語教育等に関する資質・能力として、「教育実践力」「教師として成長する力」「社会的実践力」という3層からなる資質・能力モデルを提案し、そのモデルに基づき、教育課程の試案を策定した。
著者
岡崎 桂一
出版者
新潟大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

倍数性および種間交雑育種法は園芸作物の育種として極めて重要である。そこで,本研究では,染色体倍加の新技術として,笑気ガス処理による花粉の染色体を倍加する方法や種間雑種の不稔性を回復する技術を開発した。また,ゲノムや染色体の同定を行うため,rDNAを用いたFISH解析やGISH解析により,雑種のゲノム構成を明らかにする技術を開発した。これらの技術は,ユリおよびチューリップの染色体同定に有効であるとともに,不稔性種間交雑種の稔性を回復させ交配母本とし利用できることを示した画期的な育種法を提示するものである。
著者
中野 幹夫 本杉 日野
出版者
京都府立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

わが国では一般に,同じ果物でもより大きな果実が好まれるため,生産者は果実肥大に努める.しかし,果実の肥大を促すと,モモでは核割れを誘発し,生理落果や品質低下を招く.これまでに,1.核割れは果肉組織の発育に伴って生じた引張力が核を引き裂くことによって起こり,2.未熟な種皮は外気に晒されると大量のエチレンを急速に生成することから,3.果柄基部にまで及ぶ激しい核割れを生じた場合は,大気の流入によりエチレン生成が起こり,落果が誘導される恐れがあるが,4.通常の核割れではエチレン生成、はみられないが,成熟は促され,収穫期直前落果がやや多くなること,等を明らかにした.本研究では,果実発育に伴う果肉と核の物理的強度の変化を調査し.肥大促進した果実の特性を明らかにした.核の硬度は果実発育第1期から第3期に掛けて増し続けたが,核割れの起こる第2期には,弾性が小さく脆いため,外圧が加わると核は破壊され易く,果実肥大を促すとその特性が助長されることを明らかにした.果実基部から核内腔へ色素溶液を加圧注入して核割れ症状を人為的に起こしたところ,核の耐圧力は果実発育に伴って一増加し続けたが,肥大促進区の第2期の耐圧力は対照区のそれに比べ低く,また,果実径と耐圧力との間には負の相関が認められた.摘蕾を主体とした管理によって果実肥大の促進を図ったところ,商品として十分な大きさの果実が得られた.若干の核割れは発生したものの従来の摘果主体の管理に比べて,核割れの発生を大幅に減らすことが出来た.以上から,第2期初めに摘果するよりも,摘蕾や摘花によって細胞数の増加に努め,核の硬化が完了した第2期後期に摘果して肥大を促す方が得策であると判断した.なお,摘蕾を行うと奇形化した種子が増え,胚のうの核DNA量に異常が認められた.その原因究明と生理落果との関係を精査する必要がある.
著者
澤田 英三 一丸 藤太郎
出版者
安田女子短期大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

本研究は、わが国の伝統的地域社会に存在していた青年期発達を支援する社会システムや民俗慣行の特徴と機能を、心理学的に吟味することを目的とした研究である。本年度は、次の観点からの研究を行った。研究1 「豊島と姫島における青年宿と青年期慣行の特徴と発達支援機能の比較研究」では、特に大分県姫島にかつて存在していた倶楽部や夜這いについての回想的な聞き取り調査を行うと同時に、現在も多くの住民が参加する盆踊りの観察を行った。その結果、(1)倶楽部での男女交際は、盆踊りや祭などの準備として集まった際の地区ごとの集団的な交際であるのに対して、夜這いでの交際は、地区の枠を越えて気の合う仲間と行う能動的な男女交際であった。(2)女性は、夜這いが自分の気に入った男性との交際の場となるだけでなく、気に入らない男性に対する接し方が自分に対する世間の評価につながることを心得て接していた。(3)自分らしさを表現する盆踊りでは、男型・女型の踊りをマスターした上で、いかに個性的に踊るかが目標になっていた。研究2 「答志島における青年宿と青年期慣行の特徴と発達支援機能の実際」では、三重県答志島に現存する青年宿(寝屋)やかつて存在していた娘遊びについての聞き取り調査と、御木曳祭における青年と他世代との交流の観察を行った。その結果、(1)相互浸透的な青年宿の部屋の物理的構造は、家族と青年の相互作用を高めるのに一役かっているが、青年は守るべきプライバシーの意識をもっている。(2)娘遊びは、男子青年がまず女性の親と会話をした後に女性の部屋に通される点で姫島の夜這いとは異なり、それを通して地域での年長者とかかわる術を身につけていく機能をもっていた。(3)約100日間の厳しい練習を経て行われた20年ぶりの御木曳祭では、主役となった威勢のよい青年が、地域住民に対して期待のもてる将来を提示する機能があった。
著者
佐々木 茂 渡辺 博芳
出版者
帝京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

著者らは,質の高い Web 教材開発のため,インストラクショナルデザインのモデルに沿って授業全体の構成や流れを記述した「授業アウトライン」を作成するとともに,教材そのものの設計に特化した「コンテンツアウトライン」を作成する手法を提案している.本研究では,この手法をシステム的なプロセスと考え,この手順に沿った授業・教材設計を支援するツールを開発した.また本ツールを用いた教材コンテンツの設計・開発を実践した.
著者
梅田 素博
出版者
熊本大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

芸術教科である美術科を表現教育としてとらえ、これを基盤とした総合的な教育内容と教育方法を研究した。表現教育として、芸術教育の一つである「音楽」の要素を取り入れ融合する研究を行った。また、情報化社会に対応するための映像メディアに関する研究を行った。そして総合的な学習における表現教育として、美術を基盤として音楽と映像メディアを統合した具体的な教材の制作を行い、そのカリキュラムの研究を行った。
著者
前川 宣子 川口 淳 野島 敬祐 穴吹 浩子 岩山 朋裕 上山 晃太朗 江間 祐恵
出版者
京都橘大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

自然災害の多いわが国では防災・減災に向けた取り組みが必須である.また,高齢少子化が進行する中,災害時要援護者対策が重要な課題となっている.各地域においては,災害時要援護者対策で取り組むべき課題を明確にし,非常時への対応強化が求められている.本研究では特に高齢・過疎化の進行する地域における災害時要援護者対策について検討した.災害時要援護者とその家族への防災・減災対策を実施する上で,どのような理論的基盤が必要かを検討した.その結果,災害の備えにおける家族レジリエンスへの働きかけの有効性が示唆された.さらに,訪問看護ステーションを拠点とした災害対策マニュアルの改訂版を作成したので報告する.
著者
森 郁惠 都築 和代
出版者
産業技術総合研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

本研究は、人体と環境変化に対して体温調節を補う役割を果たす寝具を1つの系とした寝具-人体熱収支モデルを構築することにより、睡眠時の人体周りに形成される寝床内温熱環境を予測・評価する手法を開発することを目的としている。平成23年度は、寝具の使用量が少なく変数が単純な夏季を対象として、サーマルマネキンを用いた測定を実施した。実験条件は、実生活に即した環境温度、空調制御の方法および寝具と着衣を用いた既往の睡眠に関する被験者実験を参考に、寝具としてベッドの上に敷布団とタオルケット、着衣は夏用のパジャマ、空調制御はエアコンとパネル冷房および冷房なしの組み合わせで設定した。測定項目は、マネキンの皮膚表面温度および発熱量、寝具や着衣の表面温度と表面熱流とした。マネキンによる計測データと、先に行われた被験者実験の結果と比較して用いることにより、モデル構築の一段階において、皮膚温や深部温のセットポイントや代謝量、寝具の総合的な断熱性能等の変数や係数をチューニングすることが可能である。本研究は、事業機関の初年度早期に廃止となったため、サーマルマネキンを用いた基礎的データの測定実験を行うに止まったが、得られた計測データは、寝具-人体熱収支モデル構築の基礎資料として有用である。今後、設定する条件を拡大して測定を行うことで、モデルの適用範囲を拡大するとともに、被験者実験の結果と比較検討することにより再現性を確認し、精度の高い有用なシミュレーションモデルを構築し、健康で快適な睡眠環境の形成に資することが出来ると考える。