著者
金原 俊輔 Shunsuke Kanahara 長崎ウエスレヤン大学現代社会学部福祉コミュニティ学科 Faculty of Contemporary Social Studies Nagasaki Wesleyan University
出版者
長崎ウエスレヤン大学
雑誌
長崎ウエスレヤン大学現代社会学部紀要 (ISSN:13481142)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.21-28,

行動療法は、インフォームド・コンセントを重んじ、実験を通して有効性が確認されたエビデンス・ベーストの技法を用い、クライエントが望む介入結果に至ることがめずらしくない、心理療法である。しかし、研究者や実践者たちにおけるこの療法への敬意は必ずしも高くはなく、とりわけ日本においてその傾向が強い。本論文は、文献などに見られる「行動療法は人間をネズミあつかいする」「クライエントの過去の経験を重視しない」「冷たい」といった諸批判を検討するものである。まず、行動療法の母体である行動心理学を解説する。続いて行動療法を概観し、特にその技法を詳述する。以上を通して行動療法の位置と性格を明らかにした後、これまで行動療法に与えられてきた19種類の典型的な批判を紹介して各批判に検討を加える。検討は「批判への回答」形式でおこなうが、その内容は、科学というアプローチに対する誤解の指摘、行動心理学と行動療法を混同していることの指摘、ヒューマニスティックという語の定義の再考、などから成り立っている。
著者
府中 明子
出版者
家族問題研究学会
雑誌
家族研究年報 (ISSN:02897415)
巻号頁・発行日
vol.41, pp.41-57, 2016

<p>&nbsp;&nbsp;&nbsp;&nbsp;本論文は、結婚意欲のある未婚女性たちが実際に特定の相手と結婚するかどうか悩み、結婚に踏み切らない状態でいることについてインタビューし、その内容を分析・考察したものである。結婚に関する領域では、これまで意欲の側面、出会いの側面、恋人の有無やコミュニケーションに関する側面、そして結婚後の夫婦間の平等や家事分担、男性の育児参加について研究、検討されてきた。結婚において経済的な側面と恋愛感情の2 点が重要視される点について変化はないが、それに追加して「男性の子どもに対する態度や意識」が未婚女性たちに問われているという点が浮かび上がってきた。その意識が、恋愛感情に関係する魅力として認識されていることも示唆された。そこでは子育てに従事するかどうかは問われていない。「役割意識の個人化」として「男性の子どもに対する態度や意識」が結婚前に問われ、未婚女性の結婚の決め手の一つの条件となっている可能性が示唆された。</p>
著者
小野 貴大 飯澤 勇信 阿部 善也 中井 泉 寺田 靖子 佐藤 志彦 末木 啓介 足立 光司 五十嵐 康人
出版者
公益社団法人 日本分析化学会
雑誌
分析化学 (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.66, no.4, pp.251-261, 2017-04-05 (Released:2017-05-13)
参考文献数
15
被引用文献数
11 32

2011年3月の福島第一原発事故により,1号機由来の放射性物質が飛来したと考えられる原発北西地域の土壌から,強放射性の粒子を7点分離した.分離された粒子は100 μm前後の大きさで歪いびつな形状のものが多く,2号機から放出されたとされる直径数μmの球形粒子(Csボール)とは明らかに異なる物理性状を有していた.これらの粒子に対して,大型放射光施設SPring-8において放射光マイクロビームX線を用いた蛍光X線分析,X線吸収端近傍構造分析,X線回折分析を非破壊で適用し,詳細な化学性状を解明した.1号機由来の粒子はCsボールに比べて含有する重金属の種類に富み,特にSrやBaといった還元雰囲気で揮発性が高くなる元素が特徴的に検出され,粒子内で明確な元素分布の不均一性が見られた.粒子本体はCsボールと同様にケイ酸塩ガラスであったが,Feなど一部の金属元素が濃集した数μm程度の結晶性物質を含有していた.これらの粒子は3月12~13日に大気中に放出されたものであると考えられ,核燃料と格納容器との熔よう融がかなり早い段階で進行していたことが示唆された.さらに放出源の推定において,放射性物質自体の化学組成情報が放射能比に代わる新たな指標となることが実証された.
著者
小塩 真司 市村 美帆 汀 逸鶴 三枝 高大
出版者
公益社団法人 日本心理学会
雑誌
心理学研究 (ISSN:00215236)
巻号頁・発行日
pp.90.19003, (Released:2019-11-15)
参考文献数
33

The present study examines changes over time in 12 traits of the Yatabe-Guilford Personality Inventory that has been commonly used in Japan. A cross-temporal meta-analysis was conducted on 245 samples (95 papers) of Japanese people who completed the scale between 1954 to 2012 (total N = 50,327). Most of the traits showed curvilinear changes with survey year. Especially in recent years, Emotional Instability traits tended to increase with time whereas Dominance and Non-reflection traits tended to decrease. Changes to Thinking Extraversion and Nervousness correlated strongly with the changes to self-esteem between 1984 and 2009. Implications of the changes in the personality traits with survey year are discussed along with future research directions.
著者
伊藤 康弘 宮内 昭 木原 実 小林 薫 廣川 満良 宮 章博
出版者
日本内分泌外科学会・日本甲状腺外科学会
雑誌
日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌 (ISSN:21869545)
巻号頁・発行日
vol.30, no.4, pp.294-298, 2013 (Released:2014-01-31)
参考文献数
10

年齢は甲状腺乳頭癌の予後を規定する重要な因子である。特に高齢者乳頭癌が生命予後不良であることは,よく知られている。ただし,生命予後とリンパ節再発予後,遠隔再発予後とは必ずしも一致しない。今回われわれは小児(20歳未満)乳頭癌110例の予後および予後因子について検討した。8例に術前から遠隔転移を認め(M1),これらはM0症例に比べてaggressiveな臨床病理学的所見を示した。M0症例における10年リンパ節および遠隔再発率はそれぞれ16%,5%であった。多変量解析において3cm以上のリンパ節転移,16歳以下が独立したリンパ節再発予後因子であり,3cm以上のリンパ節転移と被膜外進展が遠隔再発予後因子であった。M1症例およびM0症例各1例が癌死した。小児乳頭癌の生命予後は良好であるが,再発率はかなり高い。特に3cm以上のリンパ節転移,16歳以下,被膜外進展のある症例に対しては慎重な治療と経過観察が必要である。
著者
田谷 修一郎
出版者
大正大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2012-08-31

観察者の両眼間距離(右眼と左眼の水平方向の離れ具合)が立体視(網膜像差に基づく奥行きの知覚)に及ぼす影響について検討した。約50名の観察者について,ランダムドットステレオグラムの観察時に知覚される奥行き量を測定した。刺激はPCディスプレイ上に呈示され,アナグリフを通して観察された。観察者の両眼間距離は瞳孔間距離計を用いて計測された。実験の結果,知覚奥行き量の平均値と両眼間距離,および知覚奥行き量のばらつきと両眼間距離の間に負の相関関係が認められた。この結果は,視覚系が網膜像差に基づいて奥行き量を復元する際に両眼間距離情報を利用していることを強く示唆する。
著者
有賀 寛芳 有賀 早苗
出版者
北海道大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2006

1)DJ-1の機能解析-ドパミン生合成におけるDJ-1の機能DJ-1はTH, DDCに直接結合し、活性を正に制御することを明らかにした。パーキンソン病患者で見られるDJ-1変異体にはその活性がない。また、ヘテロ変異体は野生型DJ-1に対し、dominant negative効果を示し、ヘテロ変異も発症の一因となることが示唆された。H_2O_2, 6-OHDAなどで細胞に酸化ストレスを与えると、DJ-1の106番月のシステイン(C106)が、-SOH, SO_2H, SO_3Hと酸化される。軽度のC106酸化はTH, DDC活性を上昇させ、過度の酸化は逆に活性抑制を示したことにより、弧発性パーキンソン病発症におけるDJ-1機能が類推された。2)DJ-1とDJ-1結合化合物による神経変性疾患治療薬への応用虚血性脳梗塞モデルラット脳へのDJ-1注入により顕著に症状が抑制された。DJ-1結合化合物は、DJ-1のC106への過度の酸化を抑制することで、DJ-1活性を維持することを明らかとした。更に、DJ-1結合化合物の更なる活性上昇を狙って、in silicoで構造改変した。また、250万化合物ライブラリーを使ったin silico大規模スクリーニングで、DJ-1結合化合物を複数単離した。
著者
岩永 竜一郎 仙石 泰仁 加藤 寿宏
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.41, no.6, pp.631-639, 2022-12-15 (Released:2022-12-15)
参考文献数
63
被引用文献数
1

近年,作業療法の対象患者のなかに注意欠如・多動症(Attention Deficit Hyperactivity Disorder;以下,ADHD),自閉スペクトラム症(Autism Spectrum Disorder;以下,ASD),発達性協調運動症(Developmental Coordination Disorder;以下,DCD)など,いわゆる神経発達症のある子どもや大人が増えてきている.
著者
堀 雅明 中井 斌
出版者
Japan Health Physics Society
雑誌
保健物理 (ISSN:03676110)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.1-11, 1976 (Released:2010-02-25)
参考文献数
37
被引用文献数
1 1

Genetic risk assessment for potential hazard from environmental tritium to man becomes important with increasing nuclear-power industry. The purpose of this short review is to discuss the possible genetic effects of tritium from a view of genetic risk estimation.The discussion is based mainly on our experimental results on the chromosome aberrations induced in human lymphocytes by tritium at the very low-level. The types of chromosome aberrations induced by radiation from tritium incorporated into the cells are mostly chromatid types. The most interesting finding is that the dose-response relationship observed in both tritiated-water and tritiated-thymidine is composed of two phases. The examination on the nature of two-phase dose-response relationship is very important not only for the mechanisms of chromosome aberrations, but also for the evaluation of genetic risk from low-level radiation.
著者
渡辺 貴介 ラプキタロウ スントン
出版者
Japan Society of Civil Engineers
雑誌
日本土木史研究発表会論文集 (ISSN:09134107)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.143-150, 1984-06-25 (Released:2010-06-15)
参考文献数
5

The paddy field reclamation work in the Edo period was usually made through the construction of irrigation system and the extensive implementation of cropping program. The project of Sarmtongi, being started in 1854, was initiated from theagricultural waterpaths operated under a relatively distinctive construction technology of the time. Furthermore, the new town and regional planning idea was peerlessly and successfully conducted. This historical performance is verified to be in close consistency with our contemporary theory for regional planning and is still the principle for the development of Towada City nowadays.
著者
桂木 健次
出版者
富山大学経済学部
雑誌
富山大学紀要.富大経済論集 (ISSN:02863642)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.141-154, 2016-07

国債の償還は,「未来世代のGDP(付加価値)」によってされているというのではなく,経済実体が消費を通して将来に向けて最終的な付加価値であるGDPを生み出すための中間消費とみなされる金融(通貨価値)の「シャドー・プライス」を意味する通貨発行益から償還させられていく。一般予算からの税収や借金(国債)を財源として歳出されている「国債費」は,定率繰入として主に償還される債券に裏書されている「付利」の支払い並びにその償還の会計運用積立に充てるためである。つまり,将来世代なる近未来が税金から負担するのは,「利払」分並びに特別会計運用経費である。