著者
西 真弓 坂本 浩隆
出版者
京都府立医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

脳内コルチコステロイド受容体にはグルココルチコイド受容体(GR)とミネラルコルチコイド受容体(MR)の2種類が存在し、いずれもホルモン誘導性の転写制御因子であり、低分子脂溶性ホルモンのコルチコステロイドとの結合により活性化され、細胞質から核へ速やかに移行し、脳内で発生、分化、ストレス応答など多彩な作用を発揮することが知られている。また共通のリガンドであるコルチコステロイドに対して、MRはGRよりもおよそ10倍親和性が高いことも知られており、この親和性の差を反映して恒常状態ではMRが主として活性化されるのに対し、ストレス状況下などコルチコステロイドの分泌が増加した状態ではMRに加えてGRも活性化されると考えられている。しかしながら、ストレスやサーカデイアンリズムなどに伴いダイナミックに変動するホルモン環境に対し、これら2つの受容体がいかにして神経細胞の突起、細胞質から核へ移行し、標的遺伝子の転写を調節するのか、という生物学にとって極めて基本的かつ重要な問題が未だ明確にされていないのが現状である。本研究では、これら受容体が核局在化シグナル(nuclear localization signal ; NLS)を有することから、このNLSを認識する輸送因子であるインポーチンαおよびβに着目した。平成17年度は、海馬培養神経細胞にCFP-GRあるいはCFP-MRとYFP-インポーチンαの種々のサブタイプを共発現させ、コルチコステロイドを投与した際に受容体とインポーチンαが同時に核内へ輸送されるかを、live cell imagingの手法を用いて解析した。その結果サブタイプにより、核輸送に違いがあることが明らかになった。平成18年度は、GRとインポーチンα1あるいはα3は結合するが、これら複合体は樹状突起から細胞体、核の方には輸送されない、という2点に必要な部位の決定を行い、ミュータントを作成した。現在、受容体とインポーチンαとの複合体を核へ輸送するモーター分子を探索する実験が進行中である。
著者
塩野 清治 升本 眞二 八尾 昭
出版者
大阪市立大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1996

本研究の目的は,地下構造を探求する地質学的原理の定式化を通じて,地質調査データにもとづいて3次元地質構造を推定する計算機処理システムを具体化することである。地質学の原理に関する理論面での研究では,地層の分布域,地層・化石・地質年代の関係,地層の対比・区分など地質学の基礎概念が集合,関数,関係,同値関係,順序関係,ブール代数など離散数学の初歩的概念で表現できることを示した。また,地質学の基本原理である「地層累重の法則」に対して数学表現を与え,この法則が地層の形成順序や層序区分の基礎であることの理論的根拠を明らかにした。これは地層学的対象の計算機処理の原理を提示するとともに,「地質学の数学的基礎」という従来にない新しい研究分野への展望を与える重要な成果である。また,堆積作用と侵食作用で形成される地質構造に対する数学モデルにもとづいて,地層の分布域と体積面や侵食面に相当する曲面との間に成り立つ論理的関係(論理モデル)を一般表現する方法を導いた。論理モデルとの曲面の具体的形状が与えて地層の分布域が確定するという立場から,地質調査データから地質図を作成する過程を一連の数学的手続きとして形式表現した。これは地質図の計算機処理に対する理論的基礎を与えるものである。計算機処理の面では、露頭での観察データを入力して3次元地質構造を出力するアルゴリズムを研究した。処理システムは空間情報の入力・管理・解析・モデリングの標準基盤として多くの分野で実用されているGIS上で開発した。処理システムの有効性は既存の平面地質図を入力データとして、3次元地質構造を推定することによって検証した。2次元の空間情報を対象としたGIS上で3次元の地質構造を処理できる道を開いたことは3次元GISの発展や地質情報の活用を促進する上で重要な意義を持つ。
著者
松三 昌樹 溝渕 知司 高橋 徹
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

敗血症(Sepsis)に脳症(Encephalopathy)を合併するとその予後が悪化することは良く知られているが、敗血症性脳症(Septic encephalopathy)の病態生理は未だ完全に明らかでない。低分子モノオキシドである一酸化窒素(NO)は、神経伝達物質でもあることから敗血症性脳症にも関連することが推察されるがその役割には未だ不明な点が多い。一方、同じ低分子モノオキシドである一酸化炭素(CO)も神経伝達物質として機能する可能性が報告されている。我々は、内因性のCOが敗血症性脳症の病態に関与するのではないかと考え、生体内のCO産生酵素であるヘムオキシゲナーゼ(Heme Oxygenase ; HO) mRNAの発現をラット脳初代培養細胞用いて検討した。その結果、HOはLPSによりグリア細胞には誘導されるが、神経細胞には誘導されないことを明らかにした(Res.Commun.Mol.Pathol.Pharmacol.2000)。昨年、COがヒトの敗血症性にも関与するのではないかとの着想のもとに、ヒト培養グリア細胞7エンドトキシン(Lipopolysaccharide : LPS)を投与し、HOの発現を検討した。その結果、HOのprimary inducerであるHemeによっては、ヒトグリア培養細胞にHOが著明に誘導されたが、LPSでは量、時間両者を変化させて検討したが、HOは誘導されなかった。そこで、脳症には、脳だけではなく、敗血症性多臓器障害が関与するのではないかと考え、bacterial translocationを介して脳症の発展に関与する腸管に焦点をあてて、エンドトキシン投与による敗血症性多臓器障害モデルにおける腸管HOの発現を検討した。その結果、腸管には著明にHO-1が誘導されたことから、敗血症性脳症には、腸管で産生されたCOが脳に運ばれ、神経伝達物質としてその病態生理に関与している可能性が考えられた。
著者
野口 宏 武山 直志
出版者
愛知医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

集中治療室に敗血症にて入室患者の、血中一酸化炭素(CO)濃度(ガスクロマトグラフィー)、単球中ヘヘムオキシゲナーゼI蛋白量(フローサイトメトリー)、血液中酸化ストレス度(分光高度計)、炎症性サイトカイン(ELISA)等を測定することにより、侵襲による酸化ストレス、ヘムオキシゲナーゼI発現、CO濃度の相関を検討した。その結果、ヘムオキシゲナーゼI蛋白発現と血中CO濃度間に正の相関が認められた。COはNOとともにグアニールサイクラーゼ活性化による血管拡張作用を有するが、それ以外に抗炎症作用も有する。内因性COの起源は、その代謝経路からヘムオキシゲナーゼ系由来と推察されていたが確証はなかった。今回の結果は、内因性のCOとヘムオキシゲナーゼ経路との関連性を強く推察するものである。次にヘムオキシゲナーゼ1を調節する要因として酸化ストレスをはじめとした生体侵襲が重要視されている。今回、APACHE IIによる重症度スコアー、酸化ストレス度、およびヘムオキシゲナーゼI発現間に正の相関が認められた。この結果は、強い侵襲が生体に加わり酸化ストレス度が増加した状態下で、抗炎症作用を有するヘムオキシゲナーゼ1蛋白質が増加している可能性を強く示唆する。ヘムオキシゲナーゼIの上昇しない敗血症患者は予後が悪いことも今回の検討から明らかになっており、ヘムオキシゲナーゼI-CO系は生体防御系として重要な役割を果たしている可能性が示唆された。
著者
深井 有 斎藤 好雄
出版者
中央大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1991

本年度は、当初の研究計画に基づいて平成二年度より引き続き、酸化物超伝導体に捕獲されたフラクソイド動特性の研究および高圧合成の可能性について研究を推進した。前者に対しては、特に粒間と粒内電流密度の評価法の確立およびビスマス系(2212相)単結晶の不可逆磁化の磁場及び温度依存性の研究を行った。一方、高圧合成については、銀添加されたイットリウム系にたいして高温(RT〜1000℃)高圧(1〜5GPa)下の処理効果の研究を行った。フラクソイド動特性の研究は、これまで研究成果を逐次JJAP、物理学会、応用物理学会等で報告してきたが、今年度は焼結体の粒間電流と粒内電流を分離する事に成功したので、その成果をM2SーHTSCで報告した。これは従来の方法に加えて、本年度購入したクライオスタット中でホ-ル素子を用いた局所磁化の測定を行うことによって分離を確実に行えるようになったものである。その結果、焼結体の電流密度の磁場及び温度依存性をより明確にする事が出来た。さらに、ビスマス系(2212相)単結晶について高温超伝導体におけるフラクソイド動特性の特徴のひとつである、不可逆磁化の温度依存性及び磁場依存性を限られた磁場温度領域ではあるが明らかにすることができ、本研究で開発した局所磁化及び局所残留磁化の測定法が有効であることを示すことが出来た。これらの成果については、上述のプロシ-ディングズ(Physica C)に一部が報告され、現在論文準備中である。一方、高圧合成は、種々の物質にたいして試みられているが、最近になってようやく興味ある結果が得られつつある。すなわち、高圧高温処理を施した銀添加イットリウム系試料についてインダクタンス測定などを行った結果、超伝導の体積分率が広い温度範囲にわたって、温度減少とともに直線的に増加することを見いだした。これは、粒界講造(及び粒径分布)やピンニング機構への銀添加効果によるものと考えられる。しかしながら、本研究の本来の目的である1)イットリウム系における粒間電流の増加や、2)ビスマス(2212相)へのピンニング中心の導入という観点からは、未だにめざましい成果は得られておらず今後の課題となっている。
著者
田中 駿
出版者
名古屋大学高等教育研究センター
巻号頁・発行日
2011 (Released:2011-06-24)

2010年度名古屋大学学生論文コンテスト優秀賞受賞
著者
山形 積治 奈良 慎一 深井 一郎 安田 一次
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 A (ISSN:03736091)
巻号頁・発行日
vol.J62-A, no.7, pp.436-443, 1979-07-25

先にplano-convex AT-cut水晶振動子の振動モードをx′-y′断面について実測し,有限要素によってシミュレーションを加えた.その結果,特に厚み方向(y′軸)の応力の分布を明らかにした.今回は前述の結果,すなわち,y′軸方向の厚みすべりの応力T′6の分布が正弦関数状(厚みすべりの変位U′1は余弦関数状)になる,事実に基づきx′-z′平面(主平面)における厚みすべり振動の変位振幅U′1(x′,z′)分布の解析を行った.AT-cut水晶振動子を無限障壁を有するボテンシャル井戸と考えると,U′1に対する振動方程式はシュレーディンガー方程式となる.筆者らはこの方程式を原形のまま有限要素法を用いて解くことを試みた.その結果,共振周波数,振動モード共に実測値と極めて高い精度で一致することが明らかとなった.先にウィルソンが振動子を放物面障壁を有するポテンシャル井戸と仮定して解いた近似解よりも1けた以上も精度が高い点に本解析法の特色がある.
著者
熊丸 尚宏 藤原 照文
出版者
広島大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1996

これまでのICP発光分析法でも予備検討を踏まえて、酸分解などを行わず、まず手始めに固体試料のままでPbを定量する方法を検討した。Pbの含有量既知の試料として、NIESやNISTの「環境標準物質」を取り上げ、これを紛砕して使用した。その結果、これらをサンプルキュベット反応容器に取り、徐々にこの温度を上昇させ、最終的には約850℃に保ちながら炭化と灰化を連続的に行って、有機物を完全に揮散させ、その後、急激に温度を約2500℃まで上げてPbを気化させ、そのままオンラインでICP-MS装置へ導入する手法が確立できた。固体試料の直接定量において最も煩雑で精密さを要する操作は、その試料の秤量である。数mgの試料を直接秤取するには、特殊なミクロ天秤を用いる必要がある。ここでは灰か段階までには、ほぼ完全に揮散し、かつ目的成分の気化段階には影響を与えない有効なリン酸水素アンモニアを固体希釈剤として用い、約2倍程度に試料を希釈して通常の化学天秤でも容易に秤取できる方法を開発した。本研究の最大のポイントは、固体試料を、短時間にしかも完全に分解することが出来るか否かにある。通常は、試料を硝酸-硫酸ーリン酸などを用いて分解を行うが、これらの酸はタングステン製サンプルキュベットを腐蝕させるので、使用できない。ここでは、これまでの酸分解用の試薬に代わる分解試薬を検索した結果、(CH_3)_4NOHが好結果を与えることを見い出した。この添加剤は、灰化してもなお分解・揮散することなく残存する成分による干渉を防ぎ、気化段階における目的成分化学種を同一に揃えて気化させるマトリックス修飾剤としても働くことを明らかにした。また、検出器としてICP-MSを使用することにより、^<207>Pbと^<208>Pbの同位体比の測定も可能となった。
著者
兼松 明弘 清川 岳彦 筧 善行 竹内 秀雄
出版者
泌尿器科紀要刊行会
雑誌
泌尿器科紀要 (ISSN:00181994)
巻号頁・発行日
vol.39, no.7, pp.645-648, 1993-07

A case of multiple urinary stones in a patient with glycogen storage disease type 1 (GSD-1) is reported. In spite of the presence of hyperuricemia, these stones did not consist of uric acid, but mainly of calcium oxalate. Laboratory studies revealed distal renal tubular acidosis and hypocitraturia, but no significant abnormality in calcium metabolism. We discussed the mechanism of calcium stone formation in our case, and its prophylactic treatment by oral administration of citrate compound.
著者
入澤 篤志 高木 忠之 渋川 悟朗 佐藤 愛 池田 恒彦 鈴木 玲 引地 拓人 佐藤 匡記 渡辺 晃 中村 純 阿部 洋子 二階堂 暁子 宍戸 昌一郎 飯塚 美伸 鈴木 啓二 小原 勝敏 大平 弘正
出版者
日本膵臓学会
雑誌
膵臓 (ISSN:09130071)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.29-36, 2011 (Released:2011-03-07)
参考文献数
27
被引用文献数
2

慢性膵炎の予後は芳しくなく,より早期での慢性膵炎診断の重要性が認識されていた.早期慢性膵炎は微細な膵実質・膵管変化のみが伴うと考えられ,従来の画像診断(体表超音波検査,CT,内視鏡的逆行性胆膵管造影:ERCP,など)では異常を捉えることは困難であった.近年,超音波内視鏡(EUS)による慢性膵炎診断が提唱され,その有用性は高く評価されてきた.EUSは経胃もしくは経十二指腸的に,至近距離から高解像度での観察が可能であり,他の検査では捉えられない異常が描出できる.2009年に慢性膵炎診断基準が改定され早期慢性膵炎診断が可能となり,この診断基準にEUS所見が明記された.より早期からの医療介入のためにも,慢性膵炎診療におけるEUSの役割の理解はきわめて重要である.特に,上腹部痛や背部痛を訴える患者で,明らかな消化管異常が認められず慢性膵炎が疑われる症例においては,積極的なEUS施行が推奨される.
著者
小椋 康宏 董 晶輝
出版者
東洋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

本研究では、ベンチャー・キャピタルがベンチャー企業への投資を通して、ベンチャー企業の企業価値創造に関する投資評価基準を明らかにした。本研究に関する先行研究を整理・分析し、これまでの財務的側面での研究の不足に対し、アンケート調査を行った。この調査では、次の4つ領域に焦点をあわせ、ベンチャー・キャピタル会社の財務担当者からの回答を通して、その投資評価基準の実情および問題点を明らかにした。(1)ベンチャー企業への出資の審査基準についてでは、最も関心を持つ点は出資審査基準として「ビジネス・プラン」が第一に挙げられたことである。これは、以前の調査において「経営者資質」が最大であったものから考えると、ベンチャー・キャピタルはベンチャー企業自体の事業内容が重要であると判断している新しい流れができている。(2)出資先企業に対する評価について、最も関心を持った点は評価方法である。ベンチャー・キャピタルが「ベンチャー・キャピタル法」、「DCF法」、「マルチプル法」、「リアル・オプション法」を取り上げたことについては投資決定において新しいファイナンス理論による方法を積極的に利用しようとしていることが理解できる。(3)投資期間と出資ポートフォリオについて、最も関心を持った点は資金回収の方法である。資金回収の方法として「株式公開」をベンチャー・キャピタルが第一義的に考えていることは評価してよい。(4)出資先企業への経営関与について、最も関心を持った点は、ベンチャー・キャピタルが経営関与を行うこと、およびベンチャー・キャピタルが必要な人材を必要なときに派遣する実態が明らかになった。
著者
山元 寅男 中村 桂一郎 和佐野 公二郎
出版者
九州大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1987

血管内皮細胞は、血液と直接に接する内皮層を構成し、細胞間は接着しており、連続する細胞層をなす。このために、血液と内皮外組織との物質交換のバリアーの役割を果している。一方、血液に対しては、その凝固防止の他に種々の機能を行っている。これらの機能がどのような構造的基盤に基いて営まれているかを明らかにする目的で本研究を行った。内皮細胞に見られる小胞は、大部分は連続する小胞管として存在しており、自由小胞は非常に少いことがわかった。したがって、小胞による物質輸送よりは、胞体を貫く小胞管を通る輸送が主要なものと考えられた。また、これら小胞は、一般に滑面小胞であるが、新鮮急速凍結割断エッチングレプリ力法で観察すると、小胞の細胞質側膜表面にアクチン分子と思われる縞構造が認められた。この構造から、小胞は可動性を持ち、隣接小胞と結合し小胞管を形成するものと考えられた。内皮細胞の内腔側細胞膜の凍結割断レプリ力像を観察すると、P面膜内粒子の配列に一定の規則性は見られなかった。これらの膜内粒子は、膜タンパク質を表すものと考えられているから、膜に局在するレセプターや酵素の分子配列にも特異性はないものと思われた。内皮細胞に見られる小胞陥入と膜内粒子の配列との特別な関連性は認められなかった。内皮細胞に、特に、有窓毛細血管に見られる窓構造は恒常的なものではなく、たとえば、糖尿病などの場合には、小腸の有窓毛細血管で窓構造は著しく減少することが明らかとなった。内皮細胞の細胞骨格であるアクチンは、蛍光顕微鏡的に平滑筋細胞のアクチンとは異なる性質が明らかとなった。超薄切片法で多数の中間径細糸の存在を認めたが、細胞内での分布様式を蛍光顕微鏡的に検索したが成功しなかった。細胞骨格と内皮細胞機能との関連を今後、電顕的、光顕的に解明していきたい。
著者
山口 拓 富樫 広子 松本 真知子 吉岡 充弘
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.126, no.2, pp.99-105, 2005 (Released:2005-10-01)
参考文献数
43
被引用文献数
2 11

高架式十字迷路試験は,抗不安薬をスクリーニングするための不安関連行動評価法として開発され,広く用いられている.また,薬効評価のみならず,遺伝子改変動物や疾患モデル動物の情動機能,特に不安関連行動の行動学的表現型を検索するためのテストバッテリーの一つとしても応用されている.本試験は特別な装置や操作を必要とせず簡便であるが,実験環境の設定条件が結果に大きく影響することから,その結果の解釈には注意する必要がある.重要な実験条件として,(1)実験動物の飼育環境および実験前の処置,(2)照明強度,(3)実験装置の形状が指摘されている.特に照明強度は,定量的に条件を変化させることが可能な設定条件の一つであり,目的に応じた条件設定を行うことによって感度よく不安水準を評価することが可能である.高架式十字迷路を不安誘発のためのストレス負荷方法として利用し,不安惹起中の神経生理・生化学的な生体内変化を自由行動下にて測定する試みがなされている.その一例として,皮質前頭前野におけるセロトニンおよびドパミン遊離の増加が,高架式十字迷路試験試行中の不安誘発に関連した脳内神経伝達物質の変化として部位特異的な役割を演じている可能性が考えられる.このように高架式十字迷路試験は,不安水準の評価法として薬効評価やモデル動物の情動応答を適切に,かつ,簡便に測定できる方法として有用である.また,不安関連行動中の行動変容と生体内変化を同時に解析することは,不安・恐怖・ストレスの神経科学的基盤の解明のみならず,不安障害に対する治療薬の開発に向けての新たな情報が提供されるものと期待される.
著者
岡ノ谷 一夫
出版者
千葉大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2004

鳥類のうち、鳴禽に属する種は、種間コミュニケーションに使う音声を2段階の学習によって獲得する。まず、成鳥の歌を聴き、聴覚的記憶を形成する時期があり、それに続いて、自分で発声しながら、発声パターンと聴覚記憶とを照合させる過程である。こうした過程を経て学習された歌はある程度定型的だが、鳴禽類の一種、ジュウシマツにおいてはある種の文法規則で表現できる可塑性を持っている。ジュウシマツは東南アジアの野鳥コシジロキンパラを家禽化した種である。コシジロキンパラの歌は、ジュウシマツとは異なり線形で定型的である。2種を使って親を入れ替える実験を行った結果、この2亜種間の歌の違いは、学習のちがいのみならず、生得的な学習可能性の違いであることが、私たちの研究でわかってきた。さらに、ジュウシマツの歌制御神経系の一部(NIf)を破壊することで、複雑な歌が単純化することから、この部位が文法生成に関連していると予測される。ジュウシマツとコシジロキンパラのNIfは、光学顕微鏡のレベルでは違いが見られず、容量にも差がない。このことから、分子レベルで違いを検出する必要がある。NIfの遺伝子発現の違いが、文法のありなしを決めているとの仮説を立て、マイクロアレイを使ったスクリーニングを行うことにした。初年度は、ジュウシマツとコシジロキンパラの成鳥オスの脳を薄切し、それぞれの切片から5つの歌制御神経核を切り出し、cDNAライブラリーを作成した。
著者
伊藤 俊一
出版者
名城大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

・室町幕府は、設立当初より寺社本所領や遠隔地武家領の保護という土地所有秩序の維持・再建を目指していたが、内乱の継続により、前線の守護に権限を与えざるを得ず、政策が実施されないという問題を抱えていた。・守護の在京は南北朝内乱期当初より断続的に見られるが、貞治年間以降の在京は、在京が継続すると共に、在京奉行人の登場に象徴される守護の在京政務機構の整備を伴っており、それ以前とは質が違う。・在京奉行人は、人夫や兵根米の徴収、役夫工米や即位段銭の徴収、寺社本所領をめぐる紛争処理などの業務を担当した。・在京奉行人の登場により、寺社本所領主はこのルートを通じて、所領・所役の問題を直接に守護へ訴えることができるようになる。守護関係者と寺社本所関係者との間の日常的な接触も増える。・守護の在京政務機構の登場により、室町幕府の命令が守護によって遵行されないという問題に一定の解決がもたらされ、室町期荘園制の秩序が安定した。・守護在京制の確立により、京都は幕府を中心に、寺社・貴族などの諸権門、各地方への足がかりを持つ守護とその配下が集住し、利害を調整する場となった。そのような「在京人」社会を統御する存在として「室町殿」が立ち現れたと考えられる。・以上の成果は、室町期荘園制の成り立ちと室町幕府の性格を再考する重要な契機と成り得る。
著者
鈴木 宏昭 薬師神 玲子
出版者
青山学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

人は意識的に把握できる情報以外の情報を積極的に活用して認知活動を行っている。しかしながらこの知見は主に知覚レベルの実験から得られたものであり、問題解決における潜在的情報の利用についての知見は少ない。本研究では、問題解決などの高次認知における無意識的な情報の利用についての検討を行った。2006年度は問題解決中にサブリミナル画像を提示し、それによる行為の変化を分析したが、実験群、統制群の間に有意な差が見られなかった。そこで2007年度はサブリミナル画像を視野のどの部分提示するかをコントロールした実験を行った。中心視野に収まる範囲、それを越える範囲、の2条件でサブリミナル画像を提示した。しかしながら双方の群ともに問題解決の促進は見られなかった。またサブリミナル画像の提示が被験者の意識しない眼球運動に現れる可能性を検討するため研究を行った。しかしながら実験群、統制群間に有意な差を検出することはできなかった。洞察問題とは異なる認知活動における潜在的な情報の利用を検討するために、ジェスチャーを用いた問題解決の分析も行った。その結果、問題解決者は問題解決の初期と後期に半ば無意識的にジェスチャーのタイプを変化させ、有用な情報を生み出していることがわかった。さらにスキル学習に無意識的な行為の変化を分析した。その結果、半ば自動的に生じる行為の熟達において、環境のセッティングの変化が重要な役割を果たすことが明らかにされた。
著者
米田 雅彦
巻号頁・発行日
1989-01-28 (Released:2009-04-14)

名古屋大学博士学位論文 学位の種類:理学博士 (課程) 学位授与年月日:平成1年1月28日
著者
張 憲栄 真田 英彦 手塚 慶一
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:09135713)
巻号頁・発行日
vol.J67-D, no.5, pp.599-606, 1984-05-25

活字のような非個性的文字ではなく,個性のある美しい文字による表現手段を,柔軟に且つ容易に可能にするために,漢字毛筆字体の計算機によるパターン合成を試み,一応満足すべき成果を得た.毛筆字体では筆触の形と大きさは運筆によって様々な変化があり,運筆は書道のきまりに従って,起筆,行筆,収筆などの変化がある.本方式は,(1)運筆に従って,形と大きさがコントロールされ,毛筆の動きを正確に捉えることのできる筆触を工夫し,(2)書道のきまりに従って異なった起筆,行筆,収筆などから成り,骨格関数および肉付け関数によって,行筆部が修飾できる画を考察し,すべての画を40余種類に分け,6乃至12のパラメータ,すなわち始点の座標,方向,長さ,太さ,曲度の入力により,画を発生するプログラムをそれぞれ作成しておき,(3)これらの画発生プログラムの組み合わせにより,趣味に合った毛筆漢字パターンを会話形式で合成するものである.本研究により勢いまで表現された漢字パターンの情報圧縮としては極限まで達成されたと考えられる.