著者
真島 秀行
出版者
お茶の水女子大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1998

1)多次元虹の発生と撮影.昨年度から行っている滑らかな凹凸のあるガラスに懐中電灯の光をピンホールで絞って照射し多次元虹を発生させる実験を続けた.デジタル一眼レフを購入し,それによるバルブ撮影を行った.撮影時間は通常の一眼レフより短縮でき,画質をすぐ確認できたので連続的な変化を捉えるのに役立った.初等カタストロフ理論における,双曲型の臍,梢円型の臍,放物型の臍の特異点集合がモノクロでなく分光し虹としてかつ過剰虹を伴って発生させ撮影でき,数理科学的解析するための実験資料を得ることができた.2)過剰虹の数理解析的研究.カスプ虹などの多次元虹の発生を表す関数は,初等カタストロフのポテンシャル関数を指数関数の肩に乗せ積分したいわゆる振動積分として与えられる.この多変数関数としての漸近展開は上の実験の結果を説明するような,ある方向では指数減少,ある方向では正弦関数的に振動するものとして計算できるはずである.カスプの場合はパーシー積分であり,また,一般エアリー関数の変数を適当に制限してやることによりにより,エアリー・ハーディーの関数に還元されることが以前の研究で分かっており,それを手掛かりにして行っているがまた完全ではない.3)視覚教材を作成.自然界や人口虹スクリーン上の過剰虹,カスプ虹などの多次元虹を撮影したものと数理解析学的理論を解説した教材を印刷物および計算機上にハイパーテキストとして完成させることも一つの目標としてきたが,この研究で得られた資料等を参考に大学院生が「虹を題材とした計算機支援教材の研究」を行い,ハイパーテキストによる教材例が作成された.
著者
向井 理恵
出版者
神戸大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2006

複数のパートナータンパク質と結合して細胞質に存在するアリール炭化水素受容体(以下、受容体はAhR、タンパク質との複合体はAhRcと略す)は、芳香族炭化水素が結合するとパートナータンパク質が解離し核へ移行する。さらに、Arntタンパク質と2量体を形成することで転写因子として働き、細胞内の代謝をかく乱する。本研究では、植物性食品成分がAhR形質転換を抑制することに着目し、その作用メカニズムならびに生体内での有効性について検討した。1、細胞内における、芳香族炭化水素が誘導するAhRシグナル経路に対してフラボノイドがどのような効果を示すか検討した。フラボノイドのサブクラスのうち、フラボン、フラボノールに属する化合物はAhRの核移行を抑制すると共にAhRcの解離を抑制した。一方、フラバノンあるいはカテキンに属する化合物に関しては、これらの抑制効果を示さず、AhRならびにArntのリン酸化を抑制し、両者の2量体形成が抑制された。これらの事から、フラボノイドのサブクラスごとにAhRの転写因子としての働きを抑制する機構が異なることが明らかとなった。2、フラボノイドの効果が動物体内で発揮されるか否か検討した。フラボノイドの一種ケンフェロールをマウスに経口投与した場合にAhRの形質転換が抑制された。フラボノイドはABCトランスポーターを介して細胞外へ排出されることが報告されている。トランスポーターの阻害剤を動物に作用させた場合にフラボノールの効果が高まる結果が得られた。また、培養細胞においても同様の効果が認められ効果の増強にはケンフェロールの取り込み量の増加が伴う事を明らかにした。
著者
ディビッド ウルフ 秋田 茂 泉川 泰博 岩下 明裕 遠藤 乾 松本 はる香 横手 慎二 エルドリッジ ロバート ロバート エルドリッジ 金 成浩
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2009

本研究では、歴史家と政治学者の連携のもと、冷戦期の北東アジア、特に日本側の役割と視点にたった多くの資料を収集・統合した。この4年の研究期間で研究メンバーは、ワークショップ、カンファレンスや様々な国際イベントにおいて、新たな資料と結論に基づく80回もの発表(半数が英語発表)を行い、約70もの論文・図書を執筆・刊行した。
著者
出口 智之
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

まず合山林太郎氏とともに、森鴎外旧蔵の『宗旨雑記』(現東京大学総合図書館蔵)に裏貼りされた、鴎外が小倉から東京の母に宛てた書翰を整理し、未翻刻の書翰に解題を附して「未翻刻森鴎外書翰紹介」(以下副題省略)として発表した。これにより、鴎外の伝記研究に有用な資料を公にするとともに、同時代の文人との関わりを明らかにできた。次に、第54回「書物・出版と社会変容」研究会で、「根岸党の旅と文学」と題して発表した。これは、文人サークルである根岸党の人々が明治25年11月に妙義山に旅したおりの紀行『草鞋記程』(同年12月)を取上げ、慶応義塾図書館蔵の稿本を手がかりに、その成立過程を考証したものである。この研究により、集団で旅する遊びの空気を描き取った本作の方法の考察を通じて、明治期の文人たちが持つ遊びの精神を明らかにできた。また、「夏目漱石「琴のそら音」の素材」では、これまで明らかでなかった漱石「琴のそら音」(明治38年)の材源について、幸田露伴「天うつ浪」其四十六以降との設定および主題の類似を指摘し、出発期の漱石が同時代の小説作品にも鋭敏に反応していたことを明らかにした。さらに、露伴の史伝「頼朝」(明治41年)を考察対象とした「幸田露伴「頼朝」論」では、執筆に用いられた資料を特定し、作中では雑多な資料が同列に扱われていることを指摘した。そのうえで、資料にない事実の捏造を嫌った露伴が、本作で用いた随筆に近い様式によって、個々の逸話の背景にある頼朝にまつわる広大な言説空間が浮かびあがり、小説形式では不可能な作品世界の広がりが生れたことを考察した。そして、露伴とおなじく明治20年代に出発した作家たちが、明治末期になって一様に、小説以外の形式で歴史を扱おうと試みていることに着目し、そこに逍遙の『小説神髄』など彼らの世代の積残した、文学はいかに歴史を扱うべきかという課題の解決法の模索を見た。
著者
朝尾 幸次郎
出版者
立命館大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

(1)日本語と英語を対応させたテキストをデータとして、日本語から英語を、英語から日本語を検索するパラレル・コーパスを構築した。構築したコーパスは日本国憲法、教育基本法など著作権がない公的なもののほか、『朝日新聞』の「天声人語」と「社説」、『エヌ氏の遊園地』(星新一)、『窓ぎわのトットちゃん』(黒柳徹子)など日英語でデータが得られるものである。(2)日英語で意味を対応させる方法として「最短一致の原則」を提案した。センテンスを単位に対応させてゆき、対応する意味のまとまりが最短になるように切り分ける方法である。(3)検索プログラムはコマンドラインから利用する研究用のものの他、Perl/CGIによりWebページから利用できる一般向けのものを開発した。テキストは両言語で対応がなされているものであれば、どのようなものでも利用可能な汎用パラレル・コーパス検索プログラムである。(4)パラレル・コーパスを用いた研究例として、「では」とthenの対応について調査を行った。「(それ)では」とthenは日英語で奇妙に入り組んでおり、これまでの辞書記述では十分でないことが知見として得られた。日本語で「(それ)では」と明示的に現れている場合でも英文テキストではそれが表に現れない場合が多い。英語でthenが用いられる場面ではそこに明確な根拠がある場合が多いようだ。(5)報告書ではパラレル・コーパス検索のさまざまな例を提示し、スクリプトを公開した。スクリプトには詳細な説明を付しており、改変を容易に行うことができる。報告書はスクリプトの解説と検索プログラムのマニュアルも兼ねている。(6)パラレル・コーパス関係で発表した成果を資料として添付した。
著者
松田 憲之
出版者
財団法人東京都医学研究機構
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

パーキンソン病はアルツハイマー病に次いで2番目に高い羅患率を示す老人性神経変性疾患である.病気が発症する仕組みの解明と,その知見を活かした根本的な治療法の確立が強く求められているが,その発症機構については諸説あって,定説が存在していなかった。われわれは本研究を通じて,「神経細胞内でミトコンドリアの品質管理が破綻し、膜電位に異常を持つミトコンドリアが細胞内に蓄積することによって,若年性のパーキンソン病が発症する」ということを明らかにした。また,MG53というユビキチンリガーゼが細胞膜の修復に関与することも明らかにした。
著者
朱 穎
出版者
九州大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

自動車エレクトロニクス技術の開発における社会的技術的要因の確定、および技術開発の不確実性に対して、システムインテグレーターの自動車メーカーとしてどのように認識しているのか、という二つの問題について考察を行った。技術革新の社会的要因について、既存研究の中で技術の社会構成論が取り上げられているが、こうした議論が広範であるため、イノベーション発生の特定要因を分析するには限界がある。それに対しては、本研究ではテクノロジカール・フレームという分析視点を導入し、技術革新における関連社会集団の認識枠組みの構造とその相互作用に注目した。さらに、自動車技術の電動化が企業能力に与えるインパクトについて、非連続的イノベーションの文脈から考察した。既存企業が新規技術に対応できる原因について、組織ルーティンと経営資源の依存性という既存研究に加えて、マネジメント認識という認識フレームの重要性に注目した。イノベーションの非連続性という文脈から企業能力の重要性を考える際に、経営資源の蓄積という従来のリソースベースト・ビューがもつ静態的観点ではなく、経営資源の「探索」活動と「活用」活動を両立できるような動態的観点が重要である。
著者
石橋 尚平
出版者
大阪産業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010-04-01

2014年度中には、論文を英文ならびに和文、両者の時間的な修正バージョンを複数作成し、内外の学会発表を行い、日本語での論文発表を行った。また翌年度の研究につなげるために、データの収拾作業に取組始めた。今回のテーマはわが国の非伝統的な金融政策であるが、これはマクロ経済学的な観点から、非伝統的な金融政策による貸出金利への影響を分析したかったからである。手法は共和分検定など、時系列データの実証分析手法を用いた。
著者
小池 吉子 浦田 芳重 小池 正彦
出版者
長崎大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1989

ヒトピルビン酸脱水素酵素(PDH)は、ピルビン酸の異化分解に与るピルビン酸脱水素酵素複合体の成分酵素の一つで、その初段階の酸化的脱炭酸反応を触媒する代表的なチアミン酵素で、α及びβサブユニット(鎖)から成りα_2β_2の四量体である。慢性酸血症を呈する代謝異常症の病因の一つに本酵素欠損症があげられているので、本酵素遺伝子の構造を明らかにし、欠損症の本体の解明を意図した。ヒトPDHα,β鎖cDNAをプロ-ブとして、白血球ゲノムライブラリ-からPDHα,β鎖遺伝子をクロ-ニングし、特性を調べた。1.ヒトPDHα鎖遺伝子ー全長17kbに及ぶ2個のクロ-ンを得、全塩基配列を決定した。本遺伝子は11のエクソンから成り、イントロン/エクソン境界は全てGT/AG則に従ってした。転写開始点は翻訳開始コドンより124bp上流のチミンと推定した。5'上流域にはCAATbox,TATA様box,2つのSpI結合領域が認められた。2.ヒトDPHβ鎖遺伝子ー18kbの1個のクロ-ンを単離し、その全塩基配列を決定した。本遺伝子は10のエクソンからなり、イントロン/エクソン境界は全てGT/AG則に従っており、転写開始点は翻訳開始コドンより129bp上流のアデニンと推定した。プロモ-タ-領域にCAATboxのみを認め、TATAbox及びSpI結合領域は認められなかった。Coding領域は3'側の9kbに存在していたが、α遺伝子との接合部は見出せなかった。3.制限酵素消化パタ-ンーPDHα及びβ鎖遺伝子の制限酵素消化パタ-ンに多型性は認められたが、本酵素欠損症患者DNAに特有なパタ-ンは認められず、本法をPDH欠損症の診断に応用することはできなかった。4.PDH欠損症患者遺伝子ーPDHα,β鎖遺伝子の各エクソン領域を患者遺伝子をテンプレ-トとし、PCR法で増幅し塩基配列を調べ、変異部位を解析中である。
著者
加藤 一郎 平賀 紘一 西条 寿夫 近藤 健男 武田 正利
出版者
富山医科薬科大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

本研究の目的は中枢神経系を含む全身で非ケトーシス型高グリシン血症・脳症の原因蛋白質であるH蛋白質を欠損するマウスを作製し、高グリシン血症・脳症の成因や病態を明らかにすることにある。平成16年度の研究は以下の通りに順調に進行した。1.マウスのグリシン開裂酵素系H蛋白質遺伝子のエキソン1周囲に2か所のloxP部位を導入したキメラマウスを5匹得た。うち2匹が変異遺伝子のgerm-line transmissionを示した。2.上記マウスとCre Recombinase遺伝子導入マウスを交配して、loxP間のエキソン1を含むゲノムDNA領域を欠損したH蛋白質遺伝子ヘテロ欠損マウスを得た。3.抗H蛋白質ポリクローナル抗体を用いたウエスタンブロット解析では、ヘテロ欠損体でH蛋白質が50%に減少していることが確認された。4.次にホモ欠損マウスを得るためにH蛋白質遺伝子ヘテロ欠損マウス同士を交配し、その子孫のgenotypeをPCR法およびサザンプロット法で解析した。ホモ欠損マウスは全く得られなかった。ヘテロ欠損体では出生直後に体内出血・体幹異常を示す異常個体が散見された。5.さらに胎生14日目までさかのぼって胎児を遺伝子解析すると、野生型26:ヘテロ欠損33:ホモ欠損0であった。ヘテロ欠損体はメンデル則で予想される数より少ない傾向が見られた。本研究の結果、H蛋白質遺伝子ホモ欠損マウスは全く発生できないか、極めて早期に胎生致死となっていることが示唆され、本蛋白質がマウスの正常発生に必須であることが、はじめて明らかになった。今後H蛋白質が50%に減少しているヘテロ欠損マウスを用いて、H蛋白質がさまざまな臓器ストレスに対する耐性獲得に果たす役割の検討が可能になった。さらに薬剤誘導可能な、あるいは臓器特異的なCre Recombinase遺伝子発現マウスとの組み合わせにより、条件特異的なH蛋白質欠損マウスを作製し肝臓や脳、心臓などの主要臓器におけるH蛋白質の生体内機能を深く探求することができる。
著者
佐藤 秀光 南 睦彦
出版者
横浜市立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

悪性グリオーマの免疫療法の開発を行った。当初の目的の1つのテモゾロミドによる免疫抑制環境の改善の方は結果を伴わなかったが、もうひとつの目的である悪性グリオーマに対するCTLを誘導しうるペプチドを新たに3種類見出した。さらにHDAC阻害薬のHLA発現増強作用に着目し、CTLの抗腫瘍免疫を強化する研究を行った。HDAC阻害作用のあるバルプロ酸をグリオーマ細胞に作用させるとHLAが増強しCTL活性も上昇した。今後の発展性によっては免疫療法の選択肢が広がる可能性も示唆される意義深い結果となった。
著者
吉田 彰宏
出版者
(財)野口研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2004

グリーンケミストリーを指向した環境調和型反応の開発が強く求められている昨今,グリーンな溶媒として知られるフルオラス溶媒とそれに固定化されリサイクル可能な触媒を用いる反応の開発は,重要な課題めひとつである。昨年度は,フルオラス二相系における三級アルコールのエステル化反応およびプリンス反応の開発,さらには新しいフルオラス溶媒の探索を行った。本年度は,フルオラスビスマス(III)触媒を用いたフランのDiels-Alder反応やフルオラスハフニウム(IV)触媒を用いたFriedel-Craftsアルキル化型反応の検討,さらにはフルオラスメソポーラスシリカゲルの開発を行った。また,新しいフルオラス溶媒の探索も引き続き行った。まず,フランのDiels-Alder反応であるが,原系の安定性が故に逆反応が起こりやすいため,3日〜1ヶ月ほどかけて反応させることが少なくないことが知られている反応である。そこで,反応時間の大幅な短縮を目的に種々のフルオラスルイス酸触媒を用いたフルオラス二相系反応を試みたところ,フラン溶媒中ビスマス(III)アミド触媒が高活性を示し,中程度の収率で付加環化体が得られた。副生物を減らすため,すなわち活性を制御するためにルイス塩基を共存させた系も検討したが,残念ながら収率の低下のみが観測された。メソポーラスシリカはゾル-ゲル法によりR_fCH_2CH_2Si(OEt)_3を用いて調製した。その結果,市販されているFluorous Technologies製のFluoroFlash^<【○!R】>よりおよそ1.5倍高いフルオラス親和性を示すことを見出した。フルオラス溶媒の探索では,DuPont製のKrytox Kシリーズ(K5〜K7)が高沸点且つ比較的低粘度であり,有機溶媒へのリーチングが検出限界以下という効果的な溶媒であることを見出した。
著者
吉田 英治
出版者
独立行政法人放射線医学総合研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

Positron Emission Tomography (PET)装置はガンの診断や神経伝達物質の画像化など高度な臨床や生体機能の解明に欠かせないツールになっている。また小動物を使った遺伝子発現などの分子イメージングの分野でも今後主導的な役割となることが期待されている。そのため、より高感度で信号対ノイズ比(S/N)が高いPET装置が求められている。本研究はPET装置におけるノイズ成分である偶発・散乱同時計数の割合を低減することでPET装置のS/Nを改善するために、結晶内多重散乱に対して消滅放射線の入射方向を大まかに特定することで偶発同時計数の低減する手法及び3次元検出器を用いて上層(被検者に近い方)のシンチレータを散乱線の吸収体とみなすことによって下層のエネルギーウィンドウを広げ、装置感度を高める手法(DEEW法)を検討した。256チャンネルの位置弁別方光電子増倍管の出力を独立して読み出せる検出器系によるモンテカルロによるシミュレーションの結果では約8割の結晶内多重散乱の識別能を達成した。全身用GSO-PET装置を模擬したシミュレーションの結果から、DEEW法を用いれば10から25%の感度向上を見込めることが期待される。
著者
大藪 多可志 木村 春彦
出版者
金沢星稜大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

植物は様々な環境要因を認識する能力を有している。また, 移動することは困難なため環境適応能力に優れている。本研究においては, 植物の環境認識能力を生体電位を用いて明らかにすると共にその癒し効果を表現するインタフェースを構築した。インターフェースとしては, 植物にとって良い環境状態であるとき微笑んでいることを顔表現で示す。暑さや寒さを顔表現で示し, 人間からの問いかけに対して環境状態を音声で知らせる。成果を書籍として出版した。
著者
前田 晴良
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

北海道・上部白亜系中の菱鉄鉱ノジュールを産する貧酸素環境の層準等から, Sphenoceramus naumanniのセンサス群集を発見した.これらは合弁で,非常に薄く壊れやすい後耳が保存されており,当時の個体群がそのまま埋没・固定された可能性が高い.底生生物の活動に不適な環境下で,逆に生態情報を保ったままの化石群が保存されるという逆説的な結果は,今後のイノセラムス類の古生態復元の上で重要なヒントとなる.
著者
椙村 春彦 森 弘樹 奥寺 康司
出版者
浜松医科大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2006

喫煙リスクの同定されている大腸癌、胃癌などで、喫煙歴を調整した症例対照DNA多型研究をおこなった。まず修復遺伝子MutYHのhaplotypeを構築し、約800対の中規模の相関関係研究で、大腸癌リスクを有意に上昇させるハプロタイプを見いだした。もっとも重要とおもわれる多型はプロモーター部位にみられた多型であったが、機能差を確認することはできなかった。胃癌についても、喫煙歴と食事歴を調整可能な150-300例の症例対照相関研究をおこなった。ひとつは、inconsistentなdataが続いていた、CDH1promoterの多型であるが、ハプロタイプ構築の結果、日本人の胃癌への寄与が確認された。これで、北欧のdataとあわせて、2集団で確認されたことになるが、ともに症例数、寄与度とも少ない。胃癌発生背景粘膜の炎症の活動度を病理学的に評価して、炎症が少ない(これは酸化的DNA障害が比較的少ないのではないかと予想した)にもかかわらず、DNA付加体である、80H guanineが、上皮細胞、リンパ球などに強染し、多くのDNA障害が存在するという症例を、200例以上の胃癌手術例より抽出した。これちは、酸化的DNA障害修復遺伝子になんらかの機能低下をおこすような多型あるいは変異があるのではないかと期待した。そこで、酸化的DNA障害修復遺伝子である、OGG1、MutYH、NTH1、MTH1の全エクソンの塩基配列を決め、異常な変異や多型が存在しないかどうか確認した。結果として、このような胃癌例に重大な結果を及ぼすような変異は見つからなかったが、いくつか、機能差の可能性のある多型候補が見いだされた。この点についてさらに検討を続けている。家族集積性のある胃癌の例のなかから,あらたなP53多型を発見した。試験管内での検討では、明白な機能差がみられるのであるが、発見された例における発症は60代でありpopulation studyが必要と考えられた。
著者
寺澤 敏夫 浅野 勝晃 天野 孝伸 羽田 亨 山崎 了
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

本研究では、宇宙空間・宇宙の極限環境におけるさまざまな粒子加速機構について、最新の理論と観測結果を用いた研究を行い、長年の謎である宇宙線陽子・電子比決定メカニズムに迫った。中心的に扱われたのは衝撃波加速機構、乱流統計加速機構であり、それらを共通のキーワードとして、地球定在衝撃波から超新星衝撃波、ガンマ線バーストに伴う相対論的衝撃波まで、広範なパラメタ領域における加速機構の描像の最新化に寄与した。
著者
山木 邦比古 近藤 功 中村 秀夫
出版者
秋田大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

私達は当該の科学研究費の交付を受け、melanocyteの不溶性抗原の解析をおこなってきた。この中で、melanocyteに特異的に発現しているtyrosinase family proteinの免疫によって白色ラットに実験的Vogt-Koyanagi-Harada(VKH)病を惹起させることができることは既に報告したが、今回は有色ラットに実験的VKH(EVKH)を惹起させることができた。有色ラットのEVKHは臨床的にはVKH diseaseに特徴的とされる夕焼け状眼底を呈するものも認められた。組織学的にはやはりVKH diseaseに特徴的とされる著名な脈絡膜の肥厚、Dalen-Fucks noduleなど肉芽腫性の炎症も広範にみられ、EVKHが惹起されたものと考えられた。またVKH患者リンパ球を分離し、melanocyteの不溶性抗原を抗原としてlymphocyte proliferation assayを行った。この結果tyrosinase family proteinを含む複数の不溶性成分に対して、VKH患者リンパ球が反応性を有していることが判明した。またVKH患者リンパ球をclone化し、VKH病に関与している免疫反応について更に検索すべく実験を行っている。これらの結果は現在投稿準備中である。
著者
今井 晋哉
出版者
帯広畜産大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1994

形成期の近代ドイツ市民社会における「市民的公共」の正と負の両面の解明を目指し、今年度は1840年代のハンブルクを例に、市民的公共の担い手としての啓蒙主義的市民結社「パトリオット協会」と、同結社の援助・指導の下、活動を始めた初期の「労働者教育協会」との相互関係を直接の対象として、文献・史料の蒐集・分析に取りかかった。この間、ハンブルクの文書館・図書館への史料情報の照会、先方からの返答など、発注段階での手続きに思いの外時間がかかり、注文した史料のなかには、なお現地でフィルム化を進めてもらっている最中のものもあり、したがって、今年度内における原史料の入手については計画通りいかなかった面もあるが、一方公刊史料や各種研究・参考文献については、本補助金のおかげで非常に充実した蒐集を行うことができた。パトリオット協会自身による協会史や労働者教育協会会員による新聞への寄稿などを読み進むうち、教育協会の活動についての両協会の交渉過程で鮮明になっていった両者の対立においては、協会構成員の経済的地位の相違に起因したという側面よりも、直接にはむしろ、行われるべき教育を、技術・職業教育や市民として修得すべき生活道徳の面に限定しようとするパトリオット協会と、歴史や社会問題についての講義や討論会をも求める教育協会の手工業職人との間の、教育プログラムをめぐる対立の方が中心的であったことが明らかになってきた。現在、この論点を中心とする論文の原稿を執筆中である。また、教育協会に参加した多様な「労働者」の状況を探るため、19世紀初め以来の社会下層民の、とりわけ手工業職人の状況についても勉強にも取り組んだ。この過程で、社会経済史学会からの依頼もあり、裏面の通り、ドイツにおける労働者階級形成を主題とする近年の歴史研究の動向についてまとめた論考を執筆、発表することとなった。