- 著者
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柳沢 清久
- 出版者
- 日本薬史学会
- 雑誌
- 薬史学雑誌 (ISSN:02852314)
- 巻号頁・発行日
- vol.58, no.1, pp.36-51, 2023-06-30 (Released:2023-08-10)
目的:パッションフラワーには,穏やかな催眠・鎮静作用と抗不安作用があり,ヒステリー・ノイローゼの緩和,不眠の緩和・解消に使われてきた. 2000年になって,EPおよびBPに収載され,その規格・試験法が規定された.方法:1)EP3.0(2000)-EP10.3(2021),およびBP2000-BP2022に収載されたパッションフラワーの規格・試験法について調査した.2)EP,BPに収載のパッションフラワーの規格・試験法に規定された各種C-グリコシルフラボンの学術情報に関して,J-Globalで検索した.結果:1)EPおよびBPでは,薄層クロマトグラフィーによる成分定性分析によりビテキシン,イソビテキシン,オリエンチン,イソオリエンチン,スウェルチシンなどの各種C-グリコシルフラボンが検出できることが規定された.2)近年の研究では,パッションフラワーは成分化学的一貫性により従来のイソビテキシン化学種とスウェルチシン化学種の2つの化学種(タイプ)に種分けされる.3)C-グリコシルフラボンはポリフェノール類のフラボノイドに属する.パッションフラワーの抗うつ効果,抗不安効果は含有成分のC-グリコシルフラボンの(1)抗炎症作用,(2)抗酸化作用,(3)抗酸化ストレス作用に準じたものと考えられる.抗不安作用は中枢神経系のベンゾジアゼピン受容体への特異的結合,鎮静作用は脳内GABA受容体の結合によるGABAの活性化と考えられる.結論:パッションフラワーは抗うつ効果,抗不安効果,抗ストレス効果などの精神安定作用を発揮する.さらに(1)-(3)の生物学的活性効果に準じて,多種多様の幅広い生体利用が捻出されヒトの健康維持,恒常性維持への貢献に期待できるものと考えられる.今後,パッションフラワーが医薬品(生薬)としてのさらなる展開に期待したい.