著者
嶋武 博之 青木 継稔
出版者
東邦大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1992

myc系がん遺伝子としてC-myc遺伝子が多くの腫瘍や正常組織で発現しているのに対し、N-myc遺伝子は、特定の小児がんのみ発現しており、その発現の有無を調べることにより、がんの診断が可能になる。そこで本研究は、小児がん診断に役立てるためN-mycタンパクの定量測定法を可能にし、更に、早期発見のための方法を確立しようとするものである。神経芽腫においては、N-mycの遺伝子増幅について数多く調べられており、遺伝子増幅と神経芽腫の予後との関係が明らになっている。しかし、遺伝子増幅を伴わない予後不良例も報告されており、遺伝子レベルでの解析だけでは不十分であることが最近、指摘されている。また、網膜芽腫では、調べられた殆ど全症例においてN-myc遺伝子が増幅していないにもかかわらずN-mycタンパクの発現が見られるため、これらのがんの診断・予後の判定のためには、N-mycタンパクを検出し定量測定することが望まれる。この目的のために、N-mycタンパクの免疫学的定量法に必須の道具となる六種類の人工タンパクを、大腸菌発現ベクターを用い遺伝子工学的に作成し大量精製した。《1)N-myc特異抗原 2)pan-myc特異抗原 3)N-pan-myc特異抗原 4)抗ヒトN-mycタンパク特異抗体 5)抗pan-mycタンパク特異抗体 6)抗体吸収用cII-Nタンパク》 これらのタンパクはいずれも、N-mycタンパクの免疫学的定量を行うにあたり、特異性・力価が充分であることを確かめた。N-mycタンパクのサンドイッチ型ELISA法による免疫学的定量には、抗N-mycタンパク抗体を第一抗体とし、抗pan-mycタンパク抗体を第二抗体とした方が、その逆の場合よりも反応の特異性および効率の点で優れていることが明かとなった。この方法により、現在、培養細胞株および臨床材料を用いてN-mycタンパク量の定量測定を行いつつある。
著者
近藤 孝晴 成瀬 達
出版者
名古屋大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1990

身体運動が消化吸収に及ぼす影響について検討した。1)イヌを用いた実験では、イヌに慢性胃・大腸瘻を造設し、運動が食物の消化管通過時間,胃、小腸、大腸運動機能などに与える影響を検討した。牛乳は運動の有無に関係なく小腸ですべて吸収され、消化管通過時間の測定が不能であった。固型食(肉)の消化吸収は血中脂質を測定して検討した。固型食の消化吸収は運動により遅延した。運動によって固型食の胃排出が遅延するためと推定された。胃、小腸、大腸運動は身体運動により亢進した。これは空腹時でも食後でも同様であった。2)ヒトを対象とした実験は、運動によって食物の通過時間が変化するか否かを、消化管機能が低下していると考えられる高齢者9名(平均年齢71歳)を被験者として行った。一日平均3700歩の安静と、12800歩の運動をそれぞれ2週間続け、小腸、大腸、全消化管通過時間を測定した。小腸通過時間はラクツロ-スによる呼気中水素の測定(クイントロン社マイクロライザ-,新規購入)によった。大腸通過時間はX線非透過性のマ-カ-を服用させ,一定時間後に腹部のX線写真を撮影して、残存するマ-カ-の数から推定した。全消化管通過時間はカルミン服用後、便が着色するまでの時間とした。小腸通過時間は安静時、運動時とも差がなかった。大腸通過時間は、安静時19.5時間であったが運動により11時間と短縮した。全消化管通過時間は安静時26時間に対し、運動時22時間と短縮した。 3)運動が微量元素の吸収に与える影響を、血中亜鉛を測定して検討した。血中亜鉛は身体運動によって変動しなかったが、断眠下の身体運動という強いストレスでは低下した。以上、身体運動は消化管機能を変化させるとともに、種々の食物の消化吸収に影響を与えることがわかった。
著者
岡嶋 裕史
出版者
中央大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

自習から離脱してしまう主要因である飽きによるモチベーションの低下を、VRの没入感で補うことに成功した。筆者はこれまでにも、萌えキャラクタを用いた教育コンテンツを作ることによって、モチベーションの低い学習者を学習へ導くしくみを築いてきた。その知見にVRキャラクタと、VR特有の場を共有した教育方法を加えることで、さらに離脱率が低く、継続した学習が可能になることを実証した。アニメーションの弱点である制作コストの高さも、vTuberの技術を投入することである程度抑制できることが確かめられた。ただし、vTuberのコンテンツは事前に作り込んだコンテンツより見劣りするため、その向上が今後の課題である。
著者
金沢 創 山口 真美 和田 有史
出版者
日本女子大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究では、高砂香料と食品総合研究所の協力の下、乳児の視覚と嗅覚の連合学習について検討した。嗅覚刺激は日本でなじみの少ない香辛料のスターアニスを用い、嗅覚(オモチャのにおい)と視覚(オモチャの外形)の学習過程を検討した。被験者は5-8ヶ月の乳児であった。その結果、女児のみアニスのニオイとオモチャの連合が成立する結果が得られた。さらにこの視覚と嗅覚の連合学習を検討する目的で、1歳前後の乳児を対象に、同じオモチャを用いて、リーチング行動を指標にした実験を計画した。また、食物の選好を決定する過程に対して視覚が果たす役割も検討した。これらの結果を学会発表を経て論文化し、現在投稿中である。
著者
片岡 栄美 村井 重樹 川崎 賢一 廣瀬 毅士 瀧川 裕貴 磯 直樹
出版者
駒澤大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

日本版の文化の差異化・卓越化(ディスタンクシオン)研究を計画に沿って推進し、平成29年度は以下の成果をえた。(1)次年度予定の本調査の予備調査として大学生調査を実施した。有効サンプルは383票で、首都圏4校と地方大学1校で実施した。音楽、ファッション、スポーツ、メディア、価値観等の各領域で分析した結果、若者の文化実践やテイストの測定方法や仮説設定に関しての知見が得られた。(2)文化実践を方向づけるハビトゥスの複数性・多次元性に関する研究を推進するため、デプス・インタビュー調査を10名に実施した。対象者が大学生の場合と社会人の場合でのインタビューの工夫を行い、実践の多様性とハビトゥスの一貫性および分化について一定の予備的知見が得られた。(3)片岡は過去に実施した調査データの再分析を行い、文化的オムニボアを理論的・実証的に再考する研究を行った。文化実践の多重対応分析(MCA)を行い、文化の差異化が生じやすい文化実践と社会的地位変数との関係性を明らかにした。文化テイストは性と年齢で大きく分化するとともに、学歴や所得の地位変数のほか、子ども時代の文化資本(家庭環境)とも強く関連する。また(4)文化実践を始めるきっかけを「文脈」概念を用いて分析し、文脈効果の時代的変容を明らかにした。これらは日本社会学会で研究発表し、また論文として活字化した。(5)グローバル化による文化の変容と文化政策の関連について、シンガポールを題材に川崎が検討し論文を発表した。(6)ヨーロッパを中心に新しい研究動向・情報を入手し、複数の海外研究者との協力関係を開始した。(7)村井と片岡は食に関する海外研究書の翻訳作業を行った。(8)新しい研究メンバーが3名(連携協力者)加わり研究組織を充実させ、分析方法や研究方法についての検討や学習会を行うことで、次年度の研究計画推進にむけての具体的な準備を進めることができた。
著者
倉田 毅 田村 慎一 小島 朝人 岩崎 琢也 佐多 徹太郎 山西 弘一
出版者
国立予防衛生研究所
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1989

HIV感染後、エイズ発症に至るまでの体内での動態についてはよくわかってはいない。in vitroでみると、HIVと突発性発疹の病原体であるヒトヘルペスウイルス6(HHV6)は、CD4陽性Tリンパ球を標的とする。エイズ発症初期の全身リンパ節の系統的腫脹(PGL)の特徴は異常なリンパ濾胞の過形成と樹状突起細胞の腫大であり、B細胞の増生である。悪性リンパ腫として疑われて生検されたPGL初期のリンパ節で抗原の分布を免疫蛍光法、ABC法でみると、HIVは主として胚中心を中心として濾胞内に大量に存在するのに対し、HHV6は濾胞周辺領域に大量に検出された。両ウイルスは、23例でみるとエイズの症状の進行と共に、萎縮期の全身リンパ節における検出率が減少した。HIV抗原は樹状突起細胞を中心にその周辺に網状に、HHV6抗原はマクロファ-ジおよびリンパ球にみられ、両者の分布域と細胞は明らかに異なっている。今回の事実から、HHV6は、HIVがリンパ節内において活性化されると共に、異なった領域で活性化され相互に作用しながらCD4陽性細胞を破壊するものと推定される。他のウイルスが日和見感染としてエイズの後期において活性化されるのに対し、この2つのウイルスはPGL期において重要な役割を担っていることが明らかになった。AC患者の末血20名をみると、両抗原が検出されることはないが4ー7日の培養で、6名でHIV、7名でHHV6が検出されてきた。この時期においては両ウイルスは活性化されているとはいえず、ACからPGLへの進展の要因が何であり、それがどのようにHIVとHHV6動かすかについての検討が次の課題である。
著者
菊谷 まり子 池本 真知子
出版者
金沢大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2018-04-01

本研究では感情の定義に文化差が見られるかを検証するため、様々な国の人々に特定の感情を感じる状況を書き出してもらい比較している。研究では喜び、悲しみ、熱い怒り、冷たい怒り、驚き、興奮、眠気、リラックス、満足、恐怖の10感情それぞれについて、それらを感じる状況を参加者に書き出してもらった。分析では回答された状況を感情に関係なく似たような内容ごとに分類およびラベリングをし、どの感情にどのラベリングの状況がいくつ回答されたかを数え、感情ごとの類似性を計測した。現在、日本、台湾、スウェーデン、ベラルーシ、カンボジア、韓国のデータがそろっている。感情の概念構造は全体的に共通の枠組みが見られたが、細かいところが異なり、特に恐れの認識が各国でかなり違うことが見出された。さらに詳しく分析するため、テキストマイニングという手法でデータを解析しなおしている。計画ではポーランド、アメリカ、イギリスからもデータを取得する予定であったが、コロナウイルスに関連して回答が大きくゆがむと考えられ、コロナウイルス流行前に取得した他国とのデータとの比較が不可能であると考えられたため、令和二年度はデータの取得を見合わせた。その代わり、韓国と日本の感情概念の比較に関して協力研究者の朴氏と共同研究を行い、それぞれの文化や歴史的背景が感情の定義や評価(感情同士の類似性など)に関係するのかを調べた。このテーマで執筆した研究論文2本が現在査読中である。さらに同テーマのレビュー論文も執筆中で、学術雑誌Languagesの特別号(2022年発行)に掲載予定である。加えて中国人と日本人の感情がうつに及ぼす影響についての研究も別の協力研究者と行った。また、人間が声や発話内容から感情をどのように読み取るかに関する実験を日本人に対して行い、それに関する論文を執筆、投稿した(現在査読中)。
著者
鍋島 茂樹
出版者
福岡大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2019-04-01

RSウイルス感染症は、小児においてインフルエンザとともに呼吸器疾患による入院あるいは死亡の原因となる重要感染症であるが、いまだ特異的治療薬はない。申請者らは、これまで麻黄湯が抗インフルエンザ作用を有することを報告してきたが、さらに麻黄湯にはRSウイルスに対する抗ウイルス作用もあることがわかってきた。その機序として、ウイルスが宿主細胞膜に進入する過程を阻害している可能性が高いが、詳細は不明である。本研究では、培養系およびマウスへの感染により、麻黄湯による抗RSウイルス作用の機序を解明し、その有効成分を同定する。また、あわせて麻黄湯が宿主の自然免疫系に与える影響についても解析する。
著者
鈴木 秀次
出版者
早稲田大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2003

我々は小山裕史が開発した初動負荷トレーニング動作の特徴を解明するために、ラットプルダウン動作を用いて検討した。初動負荷トレーニングにおける動作は、動作の切り換えしが素早く、短時間で最大パワーの発揮が可能であることが明らかとなった(平成15年度)。そこで平成16年度は、本動作の特徴である「かわし動作」(伸展-屈曲で動作が切り換わるときにひねりを加える動作)について筋活動とキネマティクスをしらべ、検討した。動作はラットプルダウンを用いた。筋活動は、僧帽筋、広背筋、大胸筋、上腕二頭筋、上腕三頭筋から記録し、解析した。その結果、かわし動作を行うことによって、伸筋から屈筋へと動作が切り換わる時に回旋筋群が協力筋として位相のタイミングをずらしながら活動することが明らかとなった。すなわち、これらの活動は伸筋と屈筋だけで賄う筋張力を分担することとなり、主動筋への負担を軽減する機能ともなっていた。「かわし動作」は体幹筋から末端部へ力を合目的的に伝達させ、負荷を持ち上げるのを助け、動作をストレス無く起こさせるように働くことが示唆された。本成果は、国際電気生理運動学会で発表し、アメリカスポーツ医学会で発表する。論文としては、バイオメカニクス研究9巻1号で報告した(印刷中)。本初動負荷トレーニングは、関節への外乱に対する抵抗力と筋の柔軟性を高め、怪我の予防と健康の維持増進につながる。この特徴を活かし、マシンなしでも効果が可能な連鎖反射ストレッチング体操を考案した。現在のところ42種類の体操を考案、実践し、映像化した。この成果の一部はホームページ(http://www.f.waseda.jp/shujiwhs/index-j.htm)に開示した。
著者
加藤 雅也 張 嵐翠 馬 剛 本橋 令子
出版者
静岡大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2020-04-01

「回青(かいせい)」とはカンキツ特有の現象であり、樹上で一旦成熟した橙色の果実が緑色の果実へと戻る現象である。本研究課題では、「回青」の認められるカンキツ果実における二次代謝産物および果実品質に関わる糖、有機酸、栄養成分の代謝変動を調査し、「回青」現象の発生や果実成熟を調節する遺伝子を同定する。以上のような研究を行うことにより、カンキツ果実における「回青」現象の発生メカニズムを解明し、カンキツ果実の成熟を制御する栽培および収穫後の技術の開発に繋げる。
著者
今西 規 木村 亮介 瀧 靖之 安藤 寿康 中川 草
出版者
東海大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2016-04-01

一卵性双生児は非常に類似した顔をしていることから、ヒトの顔形状はほぼ遺伝的に決定されていると考えられる。そこで本研究では、双生児を中心とする約250組の日本人ボランティアからゲノム情報と顔形状データを取得し、計算機による大規模な関連解析を実施することにより、顔形状の個人差を規定する遺伝要因を解明する。これと並行して、東北メディカル・メガバンクが収集した約1000人分の頭部MRIデータとゲノム情報を解析し、顔形状に関わるゲノム多型の特定を試みる。以上の結果を利用して、個人のゲノム情報から顔形状を予測するためのソフトウエア「ゲノム・モンタージュ」を開発し、生命情報学における新分野の開拓をめざす。平成29年度は【課題1】顔形状の遺伝性推定と関連ゲノム多型の探索について、前年度に引き続いてゲノム情報と顔形状データの収集を進め、その解析に着手した。慶應大学、琉球大学、東海大学が参加して、双生児ボランティアに対する測定会を3回にわたり開催した。その結果、前年度の68名に加えて新たに94名の測定を完了し、合計で162名の顔形状データおよび口腔内細胞試料を取得できた。得られた顔形状データについては琉球大学でのデータ解析を開始し、口腔内細胞試料については東海大学でDNA抽出およびSNP解析を開始した。【課題2】MRIデータを用いた頭顔部形状解析と全ゲノム関連解析については、東北大学、琉球大学、東海大学が参加して解析の準備を進めている。このほか、【課題3】「ゲノム・モンタージュ」の開発についても、テストデータを用いた解析ソフトの開発を進めている。
著者
鈴木 卓弥
出版者
広島大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

メタボリックシンドロームにおける、消化管バリア機能低下の要因を究明するため、動物モデルと培養細胞を用いて研究を実施した。メタボリックシンドロームモデルラットでは、小腸でタイトジャンクションタンパク質の発現低下に伴い、消化管バリア機能の低下が引き起こされた。これは、肥満のそのものではなく、食事由来の過剰な脂質とそれに伴う胆汁の分泌の増加によることが証明された。
著者
善教 将大 宋 財泫
出版者
関西学院大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

本研究の目的は、維新の会に対する有権者の意識や行動を、実証的に明らかにすることである。維新はなぜ、大阪において多くの有権者に支持されているのか。この問いに対して本研究は、政党ラベルとしての「維新ラベル」を、維新がうまく機能させたことが重要であることを明らかにした。では、そのような現状であったにもかかわらず、なぜ特別区設置住民投票で大阪市民は、都構想を否決したのか。この問いに対する解答として本研究が提示したのは有権者の批判的志向性の強さであり、これが住民投票で賛成への投票を「踏み止まらせた」ことを、本研究では明らかにした。
著者
宗像 和重 十重田 裕一
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

本研究は、出版書肆金星堂を中心として、大正・昭和期の出版と文学の動向を総合的に把握しようとする試みである。福岡益雄が大正半ばに設立したこの出版社は、大正期の特色ある叢書類や、雑誌「文藝時代」の発行などを通して、同時代の文学や作家と深いかかわりをもった。その実態を把握するために、まず金星堂の出版物についての基礎的データを蓄積し、図書館や古書店等を通して調査と収集の作業に従事した。そして、その書誌データを集約して、「金星堂出版物目録データベース」を作成した。もとより未定稿の状態で、今後引き続き増補訂正を必要とするが、金星堂の出版活動の輪郭を明らかにし、今後研究を継続するための基礎資料としての意味を有すると考える。またこれと並行して、創業者の福岡益雄と金星堂の出版活動に関する同時代の消息や評価等を、できるだけ収集することに務めた。出版物のデータベースとあわせて、金星堂の足跡を総合的・多角的に検討する新しい材料を発掘することで、その実態をより明らかにすることができた。こうした調査の集約の一方で、金星堂や大正・昭和期の出版と文学をめぐる論考を積極的に発表することに務めた。とくに大正から昭和期にかけての「文壇」と文芸時評をめぐる諸問題や、横光利一らのいわゆる新感覚派と金星堂を中心とするメディアの問題については大きな収穫があり、このテーマの有効性を再認識させられた。今後は、未定稿の書誌データベースを充実させるとともに、金星堂社史・福岡益雄伝をとりまとめることで、金星堂と同時代の文学・作家との関係をより明らかにする一方、同時代の出版社・出版人へと調査・研究を広げていくことが、重要な課題であると考えている。
著者
橋本 貴美子 森本 繁雄
出版者
慶應義塾大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2013-04-01

フランスとポーランドで起こったTricholoma equestreによる中毒事故は、致死的な横紋筋融解症を引き起こした。この原因物質を研究するために、材料となるキノコの入手が可能かどうかを調べた。日本ではT. equestreはキシメジ(T. flavovirens)と同一とされるが、キシメジと食菌シモコシ(T. auratum)の区別が曖昧であり、他にも類似した菌が分布しているため、同定は混乱を極めている。調査の結果、キシメジ、シモコシ、カラキシメジ(T. aestuans)の3種をきちんと同定することが重要であり、宿主植物、発生時期、味等で分別可能であることがわかった。
著者
松谷 満
出版者
中京大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011

本研究では、大都市部で圧倒的な支持を得るようなポピュリズム政治が台頭しているという状況に着目し、河村たかし名古屋市長、橋下徹大阪市長について有権者意識調査からその支持構造を実証的に明らかにした。両者の共通の支持要因は、公務員に対する不信感などであり、社会的属性や価値観は違いも大きいことがわかった。他に、名古屋の住民運動は無党派層が中心とはいえないこと、ポピュリズムの支持には地域要因が影響していることなどが明らかになった。
著者
永井 伸夫 佐伯 由香
出版者
文化女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

本研究の目的は,足浴操作が免疫機能および自律神経機能におよぼす効果を明らかにし,身体への効果を総合的に検討することである。健康な20歳前後の女子学生(21〜24歳)を対象者として,足浴操作は椅座位にて42℃の湯に足を浸けて10分間行うことを基本とし,その他に足を湯に浸けた状態で足底部への刺激として気泡刺激と振動を加える操作を行った。自律神経機能の評価は心拍変動の周波数解析を行い,免疫機能については,白血球分画,リンパ球サブセットをフローサイトメトリーにて解析し,またナチュラルキラー(NK)細胞の細胞障害活性を測定した。さらに足浴によるストレス軽減の有無等を検討するため,血漿中のTh1細胞産生サイトカイン(IL-2,IFN-γ,TNF-α),Th2細胞産生サイトカイン(IL-4,IL-6,IL-10)の測定を行い,Th1/Th2バランスについて検討した。足浴を行うことにより,副交感神経系の機能が亢進する傾向が認められ,これによって免疫機能においてもNK細胞障害活性が有意に増加し,これらの効果は足浴による温熱刺激に足底部への触・圧刺激が加えられることによって増強された。白血球分画においては,足浴後に好中球の増加が認められたが,これも自律神経系の変化によることが推察された。足浴の効果が,足底部への体性感覚刺激によるものなのか,温熱刺激が加わることによってもたらされた効果なのかを明らかにするために足底刺激のみを行った場合と,膝下まで湯につけた場合とを比較検討したところ,足底部への触・圧刺激と温熱刺激の両方が存在することで効果が現れることが確認された。足浴を一定期間(7日間)実施し,その前後における免疫機能,自律神経機能の評価を行ったところ,自律神経機能では副交感神経系の機能が亢進し,このことによりNK細胞障害活性が増加し,免疫機能を高める傾向が得られた。またTh1/Th2バランスを示すサイトカインについては,足浴により大きな変化を示すことはなく,概して低値を示していた。足浴によりリラクゼーション効果がもたらされ,副交感神経系が優位になることで免疫機能を高めることが推察された。これらのことから免疫機能の低下した患者や高齢者などを対象に気泡・振動付きの足浴を行うことによって,身体機能の改善が期待できることを示唆し,足浴を用いた効率的ケアに貢献するものと考えられた。
著者
高橋 仁大
出版者
鹿屋体育大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

本研究は,筆者らが開発したテニスの電子スコアブックの機能としてのパフォーマンス評価プログラムを開発し,実際の指導場面での活用結果からその有効性について検討するものである.本研究の結果,performance profiling手法を用いたパフォーマンス評価は,試合のセット取得と関連があり,セットを取得したプレーヤーは相手プレーヤーよりも高い評価結果となることが明らかとなった.
著者
佐川 英治 小宮 秀陵 河上 麻由子 小尾 孝夫
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2018-04-01

本年度はまず6月に第3回の国内研究会を開き、研究分担者の河上麻由子『古代日中関係史』、研究協力者の河内春人『倭の五王』(ともに中公新書)の合評会をおこなうとともに、ビザンツ史の井上浩一大阪市立大学名誉教授を講師に招き「古代帝国の相続人―東西比較のために―」のテーマで講演していただき、ビザンツ史における古代末期論の意義ならびにローマ帝国と古代中国の比較に関する西洋史側からの視点について貴重な示唆を得た。続いて、9月に第4回の国内研究会を開き、小宮秀陵「6世紀中葉新羅の領土拡大と信仰」、河上麻由子「南北朝時代の王権と仏教」、小尾孝夫「六朝建康の仏教受容と寺院空間―梁代建康の全盛とその歴史的背景―」、佐川英治「漢帝国以後の多元的世界」の報告をおこない、これらの成果をもって10月にパリで開催された“Beliefs and Cultural Flows of East Asia in the Late Antiquity and Medieval Period” (College of France)に参加した。この会議は我々の知る限り、「東アジアの古代末期」をテーマに掲げた初めての国際学会であり、この会議において我々は、5~6世紀の東アジアの歴史的展開ならびにその意義を考えていくうえで、信仰とくに仏教の国際的な広がりや社会への浸透が重要な意味をもつことを明らかにした。また佐川英治は古代末期の議論を組み込んだ東部ユーラシアの視野からする新しい中国史の概説書『中国と東部ユーラシアの歴史』(杉山清彦・小野寺史郎と共著、放送大学出版会)を出版した。その他、研究代表者と分担者は、国内外での論文執筆や学会報告を通じて積極的に研究を推進し、その成果を広める活動をおこなった。
著者
山本 浩史 成田 卓也 山浦 玄武 石橋 和幸 山本 文雄 山本 浩史 千田 佳史 向井田 昌之
出版者
秋田大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2005

平成19年度の研究計画として(1)血流量と電磁誘導効果によって発電された電流量の研究(2)電磁誘導コイルの作製(3)電磁誘導コイルの挿入手技の開発とした。しかし進行の遅れと変更が生じた。誘導起電力が極めて小さく、蓄電およびペースメーカー電源としては不充分な電力しか得られないことが根本的な問題であった。また高冠動脈圧での大動脈圧の加速度的変動が起電力の源となるが、かなり高い大動脈圧では、冠動脈の圧力により心筋コンプライアンス(主として拡張機能)が大きく影響を受けることがわかってきた(coronary turgor effect)。さらに開心術中に心筋が受ける虚血再灌流傷害は、冠動脈内圧力が心筋に与える影響を増強するらしいこともわかってきた。そこで日常、遭遇する肥大心筋の場合はどうような影響を受けるかを調べることにした。これは高い圧力(高血圧)が加速度的に生じる場合の起電力評価の前に、心機能に与える影響を評価することを意味している。ラットの肥大心モデルを作成し、ランゲンドルフ摘出灌流とし、逆行性冠灌流の圧力を変化させた。左室内に留置したバルーンを用いて左室拡張末期圧(心筋コンプライアンスとしての指標)を虚血再灌流の前後で測定した。冠動脈内圧が100mcmH_2Oと150cmH_2Oおよび冠動脈遮断(0cmH_2O)下の左室拡張末期圧を測定した。冠動脈圧の変化は肥大心筋でより大きな影響を受けるが、特に虚血再灌流後ではその影響が著しく大きいことがわかった。電磁誘導を利用した起電力を得るための血圧の加速度的変化は高血圧下では心機能に悪影響を与える可能性が出てきた。