著者
境 毅
出版者
東北大学
雑誌
若手研究(スタートアップ)
巻号頁・発行日
2007

地球の核に相当する数100万気圧での実験を可能にするために集束イオンビーム加工機を利用した技術開発を行った。この技術を用いて核を構成する鉄-軽元素系合金について地球中心圧力を超える373 GPaまでの実験に成功し、極限状態での結晶構造、密度、圧縮率といった物性を測定した。またマントル鉱物間の鉄-マグネシウム元素分配関係について圧力依存性および組成依存性をマントル最下部条件まで明らかにした。
著者
伊藤 敬雄 大久保 善朗 須原 哲也
出版者
日本医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

本邦における自殺者は3万人を10年連続で超え、自殺率は先進国の中においても極めて高し状態で推移している。本研究において、睡眠の量的不足と不規則な睡眠習慣が、直接的もしくは間接的に自殺企図・自殺衝動のリスクを増大させる可能性があると報告した。まず、われわれは認知症高齢者での自殺研究で、画像解析から血管性認知症では基底核の多発性梗塞、アルツハイマー型認知症では左側前頭葉の萎縮が、自殺衝動性との関連性を伺わせる報告をした。次に、われわれは、救命救急センターに搬送された自殺企図者を対象に再自殺率の調査を行った。自殺企図の背景には、その時代を反映した心理的、環境的、社会的、文化的精神病理と家族内関係の問題が複雑に絡み合って存在している。自殺の背景因子把握と精神症状評価をしたうえで、長期に渡るケースマネジメントを行うことが自殺企図者に対して必要であることを報告した。また、気分障害圏、統合失調症圏、そして中高年者の自殺企図の特徴として、致死性の高い自殺企図手段を選択する場合が他群に比して多く認められた。うつ病と中高齢者における自殺企図と衝動性の関連において、脳器質的要因、とくに左側前側頭葉の萎縮と、そのほか、気分障害の既往歴、睡眠障害の既往、そしてアルコール乱用・依存者に強い関連性を指摘した。しかし、当初考えられていたセロトニン系の問題を検討したが、本年度の研究ではそれ以上の生物学的関連を見出すことは出来なかった。自殺率が一向に減少しない本邦において、今後、心理社会学的な自殺予防の取り組みとともに、中高齢者の症例数を重ねることで、自殺企図・自殺衝動と生物学的要因の関連について解明を図って行く必要性がある。
著者
井上 浄
出版者
北里大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

LPSのシグナル伝達はMyD88とTRIFの2つを介した経路が存在する。本研究で新たに開発したLPS-liposomeがTRIF経路のみを活性化することを明らかとし、さらにその活性化にはクラスリン依存性のエンドサイトーシスが重要であることを示した。このLPS-liposomeによる活性化は、これまでTRIF経路活性化に必須とされているCD14を必要としないことから、通常のLPSの認識においてCD14がクラスリン依存性エンドサイトーシスと強く関連することが予測される。
著者
藤原 信行
出版者
立命館大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

1.研究者(以後「私」とする)はまず,日常生活世界における自殺現象の統制・合理化活動の根幹をなす動機付与活動を,エスノメソドロジーにおける「カテゴリー分析」を参照に再検討した.その結果として当該活動が「再帰性」「文脈依存性」を特徴とする再現性のない「個性的な」活動であること,そしてその活動において「因果的説明」と「責任帰属」は相互補完的な関係にあり,分析上両者は不可分であることを確認した.2.次に私は近年自殺現象の統制・合理化活動に大きな影響を与えていると考えられる,自殺とその予防をめぐる精神医学的知識を「医療化」の観点から検討した.その際,当該年度においてはさしあたり,自殺対策のために公的機関が公表・発行している印刷物およびウェブ上での情報を検討の対象とした.その結果として,それらは「自殺対策の医療化」を象徴する印刷物・情報であること,そして自殺をめぐる責任帰属をより明確にし,それをめぐる争いを不可避なものとさせうる潜勢力を有している--誰が,いかような過失・不作為を犯したかを詳らかにする「マニュアル」としてはたらく--ことが明らかとなった.3.さらに私は,うつ病患者家族2名へのインタビュー調査も実施した.いずれの対象者も自殺とその危険因子であるとされるうつ病にかんする知識を欠いていた.当該知識の欠如は,自殺予防のためのうつ病患者の「見守り」にかんする負担をめぐる争いにおいて,当該知識を少しでも有する--精神保健専門職からみて「適切」か否かはともかく--者の状況定義や利害が優先される結果を招来していた.
著者
高橋 大輔
出版者
独立行政法人理化学研究所
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2006

回転下において超流動Heの循環は量子化され、各々の渦が全て同一の循環を持つ安定な位相欠陥である量子渦として存在する。量子渦は液体自由表面において終端する際にエクボを形成するが、その終端点近傍の状態の詳細は実験の困難さより明らかにされていない。量子渦が形成するエクボは液体表面上に形成される2次元電子系に対し散乱体となり、その移動度に影響を及ぼすことが予想される。加えて、渦芯周りの流れは自由表面に励起された表面波の分散関係に影響を与える可能性がある。よって、回転下において2次元電子系の移動度測定および、表面波(重力波)測定を行なった。実験で制御した量子渦密度の上限は〜10^8/m^2である。回転超流動He上2次元電子系の移動度測定の結果について述べる。実験に用いた2次元電子密度は〜10^<12>/m^2である。超流動4He上での実験において、回転速度の増加に伴い移動度が減少する様子が観測された。一方、同様の回転速度依存性は常流動3He上でも確認された。このことは観測された回転速度依存性が量子渦に起因するものではないことを示唆する。移動度に量子渦の影響が反映されなかった原因は、4Heの渦一つ一つが自由表面において形成するエクボの大きさが小さい(深さ〜70Å、半径〜4μm)こと、および渦密度が2次元電子密度に対し非常に小さいことに起因すると考えられる。表面波の実験について述べる。本研究では波長が毛細管長より長い重力波について、共鳴周波数の回転速度依存性を調べた。測定は〜7mKで行なった。この温度では超流動中の粘性成分は完全に無視できる。共鳴周波数は回転角速度の自乗に比例し増加することが明らかになった。この変化は回転流体における慣性波の理論により説明される。一方、定量的には比例係数が古典理論に対しおよそ半分であり、量子渦による何らかの影響を反映していると考察される。
著者
高橋 大輔
出版者
長野大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

雄性ホルモンの免疫抑制効果とハンディキャップ原理を組み合わせた性的二形の進化モデルである免疫適格ハンディキャップ仮説を魚類において検証した。その結果、コイ科魚類オイカワでは、本仮説を構築する3つの仮定[1)雌は顕著な二次性徴形質を持つ雄を好む、2)雌の配偶者選択に関わる雄の二次性徴形質の発現は雄性ホルモンに制御される、3)雄性ホルモンは免疫機能を抑制する]が全て成立し、魚類の性的二形の進化モデルとして本仮説が有効であることが示唆された。
著者
高橋 大輔
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

本研究の目的は、土地利用型農業の再生のための農業政策を立案するための実証的分析、特に米政策と農地政策についての分析を行うことで、日本農業の発展について国民経済的視点から検討を行うことである。また、日本の土地利用型農業の存在意義となる食料安全保障政策についても分析を行う。今年度の研究成果は以下のとおりである。まず、米政策の影響を評価する独自の数理モデルを構築した上で、1986年から2010年までの米政策の経済効果を分析した。分析結果からは、政府が生産調整を中心としたポリシーミックスを採用してきたことがわかり、その背景にある政府の行動様式が示唆された。分析結果は国際ジャーナルに投稿され、レフリーのコメントを受けた改訂を終えたところである。また、現行の価格政策を中心とした農業政策から、環境支払いを中心とした農業政策へ転換するための理論的考察を行うとともに、オークション型環境支払いに関する実証研究を行った。農地政策については、昨年度に刊行されて日本農業経済学会学会誌賞を受けた研究論文を英文化し、数理モデルに改善を行った論文が同学会の英文誌に受理された。また、2010年農林業センサスの公表を受けて、近年において農地流動化や経営規模拡大などの構造変化が急速に進んだ要因を統計分析から明らかにした。さらに、食料安全保障政策との関連で、日系食品関連産業による海外進出と撤退の動向を整理した論文が学会論文集に受理された。また、食品関連産業の海外進出と食品輸入の関連性についての計量分析を行い、日本農業経済学会大会にて口頭報告を行った。分析結果からは、食品関連産業の海外進出と食:品輸入の関連性が弱まっていることがわかり、国内において一定の水準で土地利用型農業を維持する必要性が示唆された。
著者
出口 寛文 中山 康 田中 孝生 北浦 泰 河村 慧四郎
出版者
大阪医科大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1986

【I】.ヒト心筋症心筋炎の研究:11例の拡張型心筋症患者の生検心筋insituではLeu【1^+】のT細胞の浸潤を認める。T細胞サブセットの中、Leu【2a^+】のCytotoxic/suppressonT細胞(Tc/s)は8.7±3.5%,Leu【3^+】のHelper/inducer T細胞(Th/i)は5.5±3.6%であり、T4/T8比は0.7±0.6であった。またT4/T8比は11例中9例で1以下を示した。一方、4例の特発性心筋炎ではLeu【2a^+】,Leu【3^+】のリンパ球浸潤の程度は様々であり、T4/T8比は0.1〜2.5と一定の傾向を示さなかった。症例中にはLeu7のNK細胞の浸潤の多いものもみられた。心筋生検組織像とリンパ球浸潤の程度との対比:拡張型心筋症患者の生検心筋光顕像を筋原線維の疎少化,心筋細胞の錯綜配列核の変化,線維化について0〜4+のスコアで半定量化して、各症例のリンパ球浸潤の程度との相関を求めたが、有意な結果は得られなかった。NYHAの心機能分類と単核細胞浸潤の程度を対比するとNYHAの【III】〜【IV】群は【I】〜【II】群に比して単核細胞浸潤が多い傾向を示した(P<0.1)。【II】.マウスの実験的Coxsackie B3 visus性心筋炎:ウイルス接種第5日より細胞浸潤が出現し、第9日で最も広範囲であった。T細胞は第9日,14日,3カ月,12カ月では各々90±29,113±22,16±3,6±1/0.2【mm^2】,Lyt【1^+】のTh/iは79±23,101±19,14±4,6±2,Lyt【2^+】のTc/sは15±3,12±4,4±1,2±1であった。Lyt1/Lyt2(T4/T8比と相同)は第14日で最も高く、9.1±3.6を示し、概して高値であった。ウイルス性心筋炎ではリンパ球数の上からはTh/i細胞が優位であった。免疫電顕ではLyt【2^+】のリンパ球が心筋細胞の筋鞘に付着し、心筋細胞をin vivoで傷害していると考えられる像が観察された。また、Lyt【1^+】のリンパ球がマクロファージと接合する所見もみられ、helper T細胞の活性化に関係する像と考えられた。以上のごとく、心筋症心筋炎の心筋in situではリンパ球による細胞性免疫機構が極めて重要な役割をはたしていることが明らかとなった。
著者
田中 聡
出版者
県立広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

本研究はバーチャルリアリティ(VR)技術を利用し仮想環境内で運動療法を行い,健康心理学的にその影響を検討することである。VR運動療法とは,テニスや卓球,スノーボード,空手(瓦割り)時の各動作を利用し,スクリーンに映し出される仮想のスポーツ場面に対して身体運動を行うものである。対象は健常大学生30名(平均年齢22歳)と高齢者10名(平均年齢81歳)とした。大学生群は「VR卓球を用いたラケットスイングを行う上肢運動」と「単調な肩関節の反復運動」(両運動の関節運動方向と可動域は近似)時のPOMS(profile of mood states)及びストレスの定量評価として唾液アミラーゼ活性値測定と心拍数変動(R-R間隔)を計測した。高齢者群はVRスポーツを3ケ月間(1ケ月平均12回施行)行い,改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R),抑うつ、不安評価としてHADS(Hospital anxiety and depression scale),気分評価としてPOMSを測定し,加えて身体機能として筋力,立位バランス,重心動揺,歩行能力を計測した。その結果,大学生群では唾液アミラーゼ活性値は両運動とも有意な変化を示さなかった。R-R間隔変動では,反復運動時交感神経系の活動が有意となり心理的ストレスを与えている可能性が示唆されたが,VR卓球では自律神経活動の大きな変化は示さなかった。POMSではVR卓球を行った場合に正の気分が高く,負の気分が低い傾向を示し,VR環境下での運動はストレス発生を抑制できる可能性が示唆された。高齢者を対象にした16週間のVR運動療法の影響は,身体機能には大きな変化は認めなかったが,抑うつ感や不安感は平均点が改善しHDS-Rスコアは有意に改善した。VRを用いた運動療法はアミューズメント性を有し,かつ不安感や抑うつ感,軽度の認知症の改善に働きかける可能性が示唆された。
著者
澁谷 博孝 北村 千浪 大橋 一慶 石津 隆 スダルソノ リスワン パルトムアン シマンジュンタク
出版者
福山大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1999

本学術調査は、インドネシアのバリ島及びロンボク島に生活するヒンズー教徒が伝承する、薬物治療に関する古文書「ウサダ・ロンタール」の実態調査を行い新しい天然薬物の発掘を指向するとともに、日本・インドネシア両国間の共同研究による学術交流における発展に寄与することを目的としている。バリ島及びロンボク島各地に散在している「ウサダ・ロンタール」の実態状況の把握のため、ヒンズー教徒の集落を訪ねるとともに、バリ島の北部のシンガラジャ市にある「ロンタール博物館」、及びロンボク島のマタラム市にある「西ヌサ・テンガラ州立博物館」のそれぞれの学芸員に協力を依頼し、「ウサダ・ロンタール」の保存状況を含めた実態を詳細に調査した。その結果、各地で重複する「ウサダ・ロンタール」の存在が明らかになるものの、これまで各研究機関が別個に情報収集を行ってきたために判らなかった「ウサダ・ロンタール」の全体像が明らかになり、所在を記した一覧表の作成を行うとともに、数種の復刻判を入手した。また、古代バリ語からインドネシア語への翻訳及び、インドネシア語から英語への翻訳を行い、数種のウサダ・ロンタールに関する翻訳資料を作成した。さらに、翻訳したウサダ・ロンタールに記述された薬用植物名と、現在バリ島に自生する植物との比較を、植物学及び民族学的な見地から同定するとともに、それらの用法について検討を行い、種々の知見を得た。
著者
関矢 寛史
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

本研究の第1の目的は,プレッシャーが運動制御に及ぼす影響を調べることであった.また,第2の目的は,プレッシャー下における意識的処理や注意の処理資源不足などの認知的変化ならびに生理的情動反応が運動制御に及ぼす影響を解明することであった.実験1では,大学生24名を実験参加者として,プレッシャーがゴルフパッティング課題に及ぼす影響を調べた.実験2では,大学生30名を実験参加者として,プレッシャーが卓球フォアハンドストローク課題に及ぼす影響を調べた.両実験において,低強度のプレッシャーが実験参加者に負荷された.パフォーマンスの得点はプレッシャーによる影響を受けなかったが,ボールの停止位置やバウンド位置はプレッシャーによって偏向した.また,身体運動ならびに身体運動以外の対象への注意がプレッシャーによって増加した.実験1では,テイクバック期及びフォロースルー期の運動変位の減少ならびにダウンスイング期の運動速度と加速度の減少という運動学的変化が生じた.また,テイクバック期におけるグリップ把持力の増加という運動力学的変化が生じた.そして,注意散漫度が増加した実験参加者ほどインパクト時のクラブヘッドの向きがターゲットに向かって右に偏向し,心拍数の増加という情動反応が生じた実験参加者ほどダウンスイングの速度と加速度を増加させた.実験2では,プレッシャーによって打点が前方に移動し,インパクト時のラケット面がターゲットに向かって左を向いた.さらにフォワードスイング期の運動速度が低下し,ボール速度も低下した.また,注意が増加した実験参加者ほど運動の変動性が増加した,これらのことから,課題によって,プレッシャーが運動制御に及ぼす影響は異なるが,プレッシャー下で生じる認知的変化ならびに情動反応の変化によっても運動制御に生じる変化が異なることが明らかとなった.
著者
吉田 和人 杉山 康司 村越 真
出版者
静岡大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

本研究では,卓球選手を対象に,スイングの回転半径の大小が異なる2つの打法(フォアハンドによるドライブ打法とフリック打法)における,打球直前の動作修正時のスイング様式を検討した.その結果,いずれの打法でも,イレギュラーバウンドにより打球までの時間が短くなった場合,遂行中のスイングの慣性モーメントを小さくするなどの動作修正がみられた.こうした素早い動作制御の検討では,動作の力学的特性に着目することが重要であると考えられた.
著者
吉田 和人 村越 真 杉山 康司
出版者
静岡大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

本研究の目的は,ボールの視覚情報による卓球一流選手の瞬時の動作修正における反応のメカニズムについて,実験的に検討することであった.卓球選手2名を対象に、フォアハンドによるフリック打法とドライブ打法における,上肢の筋活動、手関節の動き,および動作に関する内観を測定した.試技は,配球者から送られる4m/s程度のスピードの無回転のボールに対する強打とした.配球には,公式ボール(レギュラーバウンド条件)と,イレギュラーバウンドが発生しやすいように表面を凹凸に加工したボール(イレギュラーバウンド条件)を用いた,加工ボールの存在については,被験者に事前に告知しなかった.結果および考察は以下の通り.(1)レギュラーバウンド条件において,被験者コートでのボールバウンドからインパクトまでの平均時間は,フォアハンドフリック打法の場合,被験者Aが205ms,被験者Bが208ms,フォアハンドドライブ打法の場合,被験者Aが243ms,被験者Bが303msであった.(2)イレギュラーバウンド条件における,被験者コートでのボールバウンドからインパクトまでの時間や,動作に関する内観から,手関節を中心とした小さな動きが主なフォアハンドフリック打法は,肩関節を中心とした大きな動きが主なフォアハンドドライブ打法と比べ,短時間での動作修正に適していると考えられた.このことから,動作修正に要する時間は,動作の力学的特性と関連していると推察された.(3)イレギュラーバウンド条件において打球直前の動作修正が知覚された場面では,上肢骨格筋に動作修正への関与が推察される放電パターンの観察される試技と,観察されない試技とがみられた.この筋放電パターンの観察されない試技については,瞬時の動作修正における筋の作用機序のさらなる検討が必要であると考えられた.
著者
今村 文彦 後藤 和久 松本 秀明 越村 俊一 都司 喜宣 牧 紀男 高橋 智幸 小岩 直人 菅原 大助 都司 嘉宣
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2010-04-01

千年に一度程度発生する低頻度巨大津波災害であるミレニアム津波ハザードの事例を取り挙げ,災害史学から明らかにされる史実に加え,地質学・堆積学・地形学・地震学など科学的な手法に基づいて補完することで,沖縄および東北地方でのミレニアム津波ハザード評価を検討した.まず,八重山諸島において津波で打ち上がったサンゴ化石(津波石)の分布調査および解析により,1771年明和津波に加え,850,1100 yrBPの2期存在する可能性が示された.さらに,仙台平野でも学際的な調査を行い,869年貞観地震津波に加え,1260や2050yrBPされた.2011年東日本大震災で得られた津波被害関数などの検討も実施した.
著者
箕浦 幸治 今村 文彦
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

大規模な砂の堆積・移動現象がみられた2011年東北日本太平洋沖地震津波(以下3.11津波)による堆積物運搬の様式を粒度組成と堆積相および珪藻群集から類推し,津波による上げ波と戻り流れの水理作用を解明するための堆積学的条件を解明した.3.11津波発生直後に仙台湾沖の海浜と沖浜で採取した多くの採砂泥試料の組成解析により,系統的な海側細粒化と淡水汽水珪藻類の沖浜での再堆積が認められた.この現象は堆積物の移動と集積を試行する水槽実験装置の再現結果と調和しており,溯上津波のエネルギー散逸を反映する重要な基準として扱い得る可能性が明らかとなった.
著者
梶原 景昭 望月 哲男 佐藤 研一 小山 皓一郎 天野 哲也 宮武 公夫 西部 忠 権 錫永 国広 ジョージ 越野 武
出版者
国士舘大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2000

調査研究の結果、得られた知見は以下の通りである。1.「北方」を地理的に定義するのではなく、わが国との関わりを中心に文明論的に、そして近年の国際関係、地域連繋の点から定位すると、極東ロシア、北東アジア、中央アジアを含む、北西ユーラシアの拡がりに21世紀的な意味を見出すことができる(「北方」といえば北米、スカンディナヴィア、極北、ロシア北部等を含むが、ここでは上述の積極的な定義が重要である)。2.1で定めた「北方」地域に関しては、その大半が社会主義の洗礼を受けたことも含め、ロシア語、ロシア文明のきわめて強い影響下にある(学術制度から日常生活にも到る)。3.しかしながらこうした文明・文化の状況は現在あくまでグローバル化の渦中にあり、いわゆる従来のロシア文明ととらえることは妥当でない。4.中央アジア、極東ロシアにおける韓国の存在は極めて大きい。それに反し、歴史的にはさまざまな関わりがあるもののわが国の存在感は弱い。5.上述の域内でのヒト・モノの移動は想像以上に進行している(アゼルパイジャン、チェチェン人が極東ロシアに多数移住していること、またスターリン時代の強制移住による中央アジアの朝鮮人の存在など)。6.この地域を概観すると、周辺地域である日本、韓国などの相対的な経済先進地域が北方中心域に刺激を与えているようにみえるが、こうした経済的インパクトが社会変化を支配するところまではいっていない。7.ユーラシア鉄道計画等の北方地域に関わるプロジェクトに対し、日本の関心と関与が圧倒的に少ない。
著者
高田 時雄 BATTAGLINI M VITA Silvio 森賀 一恵 井波 陵一 MARINA Batta SILVIO Vita
出版者
京都大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1995

十六世紀末葉から、イエズス会をはじめとするカトリック各会派は精力的に中国布教を開始した。ローマ及びイタリア各都市には彼ら宣教師によって中国からもたらされた、明清代の漢籍が数多く保存されている。しかしこれらはほとんど手つかずのまま放置されているのが実状である。これらの書物は、それ自身が東西文化交流史の貴重な財産であるばかりか、中には学術的価値の高い資料も含まれ、その調査は、中国学の各方面に新たな材料を提供するものであることは確実である。今回の国際学術研究のプロジェクトにおいては、主としてイタリアの公共図書館に所蔵される中国書を調査し、それを目録化するための基礎研究を行うことであった。ローマの国立中央図書館をはじめとして、全国に散在する中国書を徹底して調査するため、アンケート調査を行いつつ、カード採取を実施した。その結果、公共図書館の所蔵漢籍については、ほぼすべての調査を完了し、現在コンピュータ入力中である。その作業の終了を待って、冊子目録の刊行の運びとなる。調査によって明らかになった要点は以下のごとくである。(1)16世紀末あるいは17世紀初頭にヨーロッパにもたらされたと思われる明版本が少数ながら存在する。これらのほとんどが未報告の書物で、研究に資するところが大きい。(2)ローマ国立中央図書館には、義和団事件の時にイタリア軍によって持ち帰られた殿版が相当数存在することで、これも今まで知られなかった事柄である。(3)同じくローマの図書館には広東の曲本の古い刊本が大量に存在し、俗文学研究の上に貴重な資料を提供する。(4)古く伝来した書物の中には、宣教師による書き込みが見られ、ヨーロッパにおける中国学の発展史を知る上での参考となる。
著者
川口 敦子
出版者
長崎大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

前年度にイエズス会ローマ文書館(ローマ、イタリア)で調査収集した資料のうち、日本巡察師ジェロニモ・ロドリゲス宛の書簡2点(Jap.Sin.34,180r-181v,188r-189v)のローマ字書き日本語の本文を翻刻・翻字し、考察した。発信年は不明であるが、発信者とその内容から、1621年頃に書かれたものであると推定した。全体的にキリシタン版の規範にほぼ則った表記であるが、188r-189vの書簡では、版本では二重母音イイを示す表記ijをジの表記とする、特異な表記が見られる。この研究成果は「国語と教育」(長崎大学)第32号に発表した。2007年9月にはポルトガルのアジュダ図書館、リスボン国立図書館、リスボン科学アカデミー図書館(以上リスボン)、エヴォラ公共図書館(エヴォラ)、マヌエル2世図書館(ヴィラ・ヴィソーザ)において、キリシタン関係の写本・書簡類およびキリシタン版を閲覧・調査し、資料の保存状態についての意見交換、先方の書誌情報の修正等の学術的交流を行った。このうち特に重要と思われる資料10点の複写を収集した。ポリトガルでの調査では、ローマ字書き日本語文の文書を探し出すことは困難で、このことからも、イエズス会ローマ文書館に所蔵されているローマ字書き日本語文の書簡は希少なものであり、資料的価値が高いと言える。平成17年度からの研究成果を総合してみると、キリシタンの写本・書簡類におけるローマ字書き日本語の表記は概ね版本の規範に準しており、活用語尾のcuとquの書き分けも守られている。その一方で版本には見られない特異な表記も散見し、年代による傾向も認められるが、個人の癖に拠るものもあるかと思われる。反復記号「.y.」のようなポルトガル語の古文書でも見かけない表記もあり、これらの特異な表記が何に由来し、日本のキリシタン社会でどのような広がりを見せていたのか、今後追究すべき課題である。
著者
五十殿 利治 井上 理恵 渡辺 裕 上村 清雄 木下 直之 古川 隆久 京谷 啓徳 大林 のり子 阿部 由香子 日比 嘉高 寺門 臨太郎 川崎 賢子 菊池 裕子 江 みなみ
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

芸術の受容者の鑑賞行動に関する史的な研究については、たとえば近代文学史におけるアンケートに基づく読者調査のような基礎的な資料を欠くところから、研究対象にどのようにアプローチするのか、学術的な方法論が問題である。これに関連して研究対象である受容者の様態を検証することも重要である。本研究においては、共同研究により、従来に顧みられなかったカメラ雑誌の月評など、資料の発掘を含めてその方法論が多様であることが明らかとなり、むしろ研究として今後十分な展開の可能性があることが明らかになった。
著者
須田 燕 徳永 幸之 湯沢 昭
出版者
東北大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1988

本研究は、昭和62年7月に開業した地下鉄南北線により、仙台市の交通形態の変化、及び土地利用の変化を実証的に調査し、地下鉄の影響を総合的に把握することを目的とした。そのため地下鉄開業前(昭和62年6月)に交通実態調査を行い、また開業後1年を経過した昭和63年6月にも同様な調査を実施した。また土地利用の実態調査としては、地下鉄沿線の商業、住宅の床面積の変化、及び地価についても行った。その結果、自家用車利用者の地下鉄への転換は、地下鉄駅周辺の徒歩圏で、かつ目的地が都心部の場合は若干見られたものの、全体としては数パ-セントの値となっている。従って、地下鉄利用者の大部分はバス利用者からの転換であり、結果的にバスと地下鉄との競合関係となっている。土地利用の変化としては、特に地下鉄の両端のタ-ミナル周辺の土地利用が急激に変化し、また地価も高い水準となった。また長町周辺ではマンションの建築も進んでおり、今後もこの傾向は続くものと思われる。地下鉄開業による商業立地への影響を定量的に検討するため、Huffモデルによる商業地選択モデルを作成した。これは旧仙台市、旧泉市を73ゾ-ンに分割し、各ゾ-ンの人口、小売業床面積、年間小売業販売額のデ-タを用い、地下鉄開業による時間短縮効果が商業施設の立地に与えた影響をインパクトスタディを使用して検討を行うものである。その結果、地下鉄開業による正の効果が地下鉄の両端タ-ミナルに顕著に表れ、また都心部を含む沿線においても小売販売額の増加が見られた。さらにその開発したモデルにより、現在建設中の地下鉄の延長、計画中の地下鉄東西線についても検討を行った結果、MRTの整備により地下鉄沿線への商業施設の集中がさらに進み、地域内の隔差が今まで以上に進むことが予測された。