著者
井ノ口 順一
出版者
宇都宮大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2004

1)2003年に発表した論文Minimal surfaces in 3-dimensional solvable Lie groups, Chinise Annals of Mathematics B24(2003),73-84において3次元ユークリッド空間・3次元双曲空間・双曲平面と直線の直積,これらをすべて含む3次元等質空間の2径数族を構成した。族内の空間はすべて可解リー群である。この2経数族に属する各空間内の極小曲面に対するガウス写像の満たす積分可能条件を求めた.この積分可能条件を用いて,ガウス写像とある複素数値函数の組が極小曲面を定めるための必要十分条件である偏微分方程式系を導出した.その偏微分方程式の解から極小曲面を与える積分表示公式を与えた。この公式はユークリッド空間内の極小曲面に対するWeierstrass-Enneper公式を一般化したものである。論文:Minimal surfaces in 3-dimensional solvable Lie groups IIとしてBullentin of the Australian Mathematical society誌に掲載が決定した。2)極小はめこみ・調和写像の拡張概念である重調和写像・重調和はめ込みの具体例の構成を研究した。3次元双曲空間・3次元ユークリッド空間には極小でない重調和曲面が存在せず,3次元球面には極小でない重調和曲面は特定の半径をもつ小球のみであることが知られている。これらの事実に立脚し,極小でない重調和曲線・重調和曲面を許容する3次元等質空間を考察した。とくに3次元既約標準簡約等質空間内の重調和曲線を分類した。この成果はJong Taek Cho氏,Jin-Eum Lee氏との共著論文Biharmonic curves in 3-dimensional Sasakain space formsとしてAnnali di Matematica et pura Applicata誌に掲載が決定した。
著者
小林 優 間藤 徹
出版者
京都大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

ペクチンは植物細胞壁を構成する主要成分のひとつであり,荷電した親水性ゲルとしてプロトプラストを取り巻く微小環境の維持,外部環境からの養分吸収等に重要な役割を果たすと考えられている.本研究ではペクチンの生理機能をより詳しく理解するため,ペクチンの部分領域であるラムノガラクツロナンII(RG-II)に構造変異を導入しその表現型を解析することを試みた.変異導入部位としてRG-IIの特異的構成糖KDOに着目し,その生合成に必要な酵素CTP:KDOシチジル酸転移酵素(CKS)のT-DNA挿入変異株を探索したが,ホモ変異株は得られなかった.今年度はこの原因について解析を進めた結果,cks変異は花粉の形成・発芽には影響しない一方,花粉管伸長を著しく阻害することを明らかにした.In vitro発芽させた変異型花粉は花粉管が短く径方向に膨れていた.この結果は,通常の細胞分裂・伸長過程では変異型RG-IIでも致命的な機能欠損が起こらないが,花粉管のように急速に伸長する組織ではKDOを含む完全なRG-IIが必須であることを示唆し,生殖成長過程におけるペクチンの重要性が示された.ペクチンと結合する受容体型キナーゼの一種,細胞壁結合型キナーゼ(WAK)の機能研究を行った.タバコのWAKホモログNtWAKL1にアフィニティ精製タグを付した融合タンパク質をタバコ培養細胞で発現させ,界面活性剤で可溶化・アフィニティ精製した標品をblue native PAGEに供した.NtWAKL1の見掛けの分子量は500kD程度となり,複合体として可溶化されていることが示唆された.この標品を二次元電気泳動に供し検出されたスポット1種類の質量分析を行った結果,機能未知のタンパク質が検出された.今後より多くのスポットを分析することでWAKの相互作用分子が明らかとなり,機能に関する手がかりが得られると期待される.
著者
大丸 利沙
出版者
国際医療福祉専門学校
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2011

○研究目的:片脚落下着地動作時の膝関節外反および内旋は,膝前十字靭帯(ACL)損傷の危険肢位とされるが,足部の状態と膝関節の関係を検討した報告は少ない.そこで,足部回内可動性の評価であるnavicular drop test(NDT)と着地動作時の膝関節との関係および内側アーチサポート(アーチサポート)による着地動作時の膝関節への影響を検討した.○研究方法:対象は健常成人女性14名とした.まず,非荷重時と荷重時の舟状骨高の差を値とするNDTを測定し,得られた中央値を境に高値群(8名)と低値群(6名)に分類した.着地動作の課題は,30cmの台上より左片脚にて台の前方へ着地することとし,アーチサポートの影響を検討するため,裸足とアーチサポート装着の2つの試行条件で測定を行い,それぞれ3回の成功試行を採用した.動作中の各関節角度は三次元動作解析装置を用い,着地直後より52ms間の股関節内外転・内外旋,膝関節内外反・内外旋,足関節回内外の角度変化量を算出し,3回の平均値を解析値とした.各関節にかかる外力によるモーメントは床反力計を用いて測定し,解析項目は膝関節内外反・内外旋とした.統計学的分析は同一被験者のアーチサポートによる影響にはt検定を行い,NDTの群間比較には等分散の検定を行った後,対応のないt検定あるいはWelchの検定を行った.有意水準は,0.05未満とした.○研究成果:アーチサポートの有無による比較では,NDTの低値群においてアーチサポートを装着した方が着地後32ms~52ms間の膝内反モーメントの最小値が有意に大きくなった.NDTによる比較では,高値群が低値群に比べて着地後52ms間の膝関節内旋角度変化量が有意に大きく,膝関節内旋角度変化量が有意に小さくなった.本研究の結果から,片脚落下着地動作においてNDTの値が小さい場合,アーチサポートを装着することで外反モーメントの発生を回避できる可能性があることが示唆された.またNDTの値が大きい場合,片脚落下着地動作においてACL損傷リスクが高くなることが示唆された.
著者
浜岡 隆文 伊坂 忠夫 藤田 聡 高波 嘉一
出版者
立命館大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010

筋不動化(21日間の上肢ギプス固定)期間中の運動トレーニング(握力の30%強度の持久トレーニングと握力の70%での筋力トレーニング)やサプリメント投与(クレアチン10g/日)が、筋および血管の形態・機能に及ほす効果の検討を目的とした。測定の結果、運動トレーニングにより筋不動化中の各機能の低下は抑制できたが、クレアチン投与は、固定による各種機能の低下を改善することは確認てきなかった。最大下運動時のクレアチンリン酸の回復には筋血流は関与しなかった。
著者
内藤 林 森 淳彦 箕浦 旨彦 高木 健 別所 正利 一色 浩
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2000

次の研究成果を得た。1)船首可動翼の制御について考察を深め、可動翼を制御するための入力信号を明確にすることが必要であることから、船首船底圧力を制御信号に選定することにし、その可能性を調べる実験を行った結果、船首船底圧力と、翼への流入迎角の間には明確な相関関係があることが実験的にも明らかになった。船首船底圧力の計測は容易であり、圧力計測装置は安価なことから、良い制御信号であるとの結論を得た。2)船首船底圧力と、翼への流入迎角の間の周波数応答関数(A)を求めた。更に、その結果を使い時間領域のインパルス応答関数(A)を求めた。それを使い、規則波中で予測した流入迎角と、その実測値を比較し、船首船底圧力を使って船首翼への流入迎角を十分な精度で予測できることを示した。3)船首船底圧力を使って不規則波中における船首翼制御の初歩的な検討を、下記の手順で計算機シュミレーションを行い、検討した。(1)船首翼が最も推力を出す場合の、船首船底圧力と翼への流入迎角の間の周波数応答関数(B)を求める。(2)それの時間領域の表現である、インパルス応答関数(B)を求める。(3)船首船底圧力の実測値とインパルス応答関数(B)から求められた信号をリファレンス信号とし、船首船底圧力の実測値とインパルス応答関数(A)から求められた信号の差を補償する制御回路を設計した。(4)船首固定翼の場合と可動翼の場合について推力を計算比較した所、可動翼にすることで固定翼が発生する推力の1.5倍以上の効果があることがシミュレーション上で確認できた。(5)翼への流入迎角が15度以上になった時、翼は失速するが、その影響は統計的等価線形化手法を使って考慮した。本来、失速しないように制御することが可能であり、今後その制御法を考察する。4)船首翼を制御することで、推力発生だけでなく大幅な横揺れを軽減できることを昨年の研究で示した。更に、コンテナー船等の場合、ラッシングレスコンテナーにすることの可能性について検討を行い、その可能性が大きいことを示した。これはアンチローリングフィンは船体中央に設置することよりは、改良を加えて船首に設置する方が、よりフィンの有効性を拡大することになり、効果的であることを示すものである。5)波エネルギーの有効利用の可能性をより一層広げるために、船首にムーンプールを作り、そこに設置したウェールズタービンでエネルギーを吸収し、それを船内電源に利用する方法に関する基礎的検討を行った。ムーンプールを作るために船内空間を一部使用することになる経済的損失との兼ね合いがあるが、一つの大きな可能性を示すものである。
著者
北原 理雄 宮脇 勝 郭 東潤
出版者
千葉大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

魅力的な都市には人々の生き生きとした活動がある。物的空間だけで魅力ある都市景観を形成することは困難であり、活気あるアクティビティが存在して初めて都市は輝きを増し、都市活性化にも資する成果を生むことができる。街路、広場などの公共空間は、都市におけるアクティビティの主要舞台である。従って、都市景観形成に当たっては、公共空間の物的改善に加えて、その利活用を適切にコントロールする手法の確立が必要不可欠である。上記のような課題意識に立ち、本研究は次の2点を目的として進められた。・この領域で一日の長を有する欧米諸都市において公共空間の利活用に関してどのような制度が用意されているか、またどのような体制のもとで公共空間の利活用がどのように規制・誘導されているか調査し、コントロールの制度とその運用実態を明らかにする。・わが国における実験的取り組みに基づき、現行制度のもとにおける成果と課題を明らかにし、今後の方向性を見いだす。その結果、次のような成果が得られた。(1)既調査6都市(パリ、コペンハーゲン、ミラノ、サンフランシスコ、ポートランド、シアトル)の資料を再整理するとともに、新たにロンドン、ヘルシンキ、ストックホルム、ニューヨーク、クリチバの調査を行い、公共空間の利活用を図る制度とその運用実態を明らかにした。(2)広島、横浜、名古屋など、国内の先駆的都市について追加調査を行うとともに、韓国(ソウル、清州)の調査を行い、アジアにおける公共空間利活用の視点で、現状と課題を検討した。(3)千葉市におけるオープンカフェとパラソルギャラリーの実験を継続し、公共空間の利活用が生み出す賑わいの実態と都市活性化に対する効果を分析した。
著者
佐藤 篤司 和泉 薫 力石 國男 高橋 徹 林 春男 沼野 夏生
出版者
独立行政法人防災科学技術研究所
雑誌
特別研究促進費
巻号頁・発行日
2005

日本各地に甚大な被害をもたらした平成18年豪雪について、本研究では、大気大循環場と降雪特性、積雪特性の広域分布と雪崩災害、生活及び建築関連雪害、予測技術と軽減方策の四つの研究課題を設定し調査研究を実施した。大気大循環の調査からは、寒気の南下は38豪雪に次ぐ規模であり、特に12月は冬季モンスーン指標が過去50年で最大となったこと、それには熱帯域の影響も示唆されることなどの特徴が明らかになった。その結果、1月初旬に既に最深積雪に近い積雪を各地で記録した。この時点の広域での積雪分布を調査したところ、新潟県上中越から長野、群馬両県境にかけての山間部を始め、東北、中部、中国地方でも特に山間地域に多量の積雪が集中していたことがわかった。山間地での降積雪は必然的に雪崩を誘発し、数多くの乾雪表層雪崩の発生をみた。本研究では死者の出た秋田県乳頭温泉での雪崩を始め、多くの現地調査を行いその発生要因を調査した。また、広域の一斉断面観測により、早い時期からの積雪増加が高密度で硬い雪質をもたらしたことが観測され、それが生活関連雪害にも反映したことが推測された。生活関連雪害では、死者(交通事故を除く)の圧倒的多数(3/4)は雪処理中の事故によるものであった。その比率は56豪雪時(1/2)と比べて増加していること、多くは高齢者で全体の2/3をしめ、70歳代が群を抜き、高齢者が雪処理に従事せざるを得ない状況などが読み取れた。また、56豪雪と比べて家屋の倒壊による死者が多く、老朽家屋に高齢者が住んでいて被害に遭遇するという構造がうかがえた。さらに本研究では、積雪変質モデルを使った雪崩危険度予測を行い、実際の雪崩発生と比較検討するとともに雪崩の危険性によって長期間閉鎖された国道405号線に適用する試みや冬季のリスクマネジメントに関する調査等を実施し、雪氷災害の被害軽減に有効な手法についての研究も行った。
著者
山内 恭 和田 誠 塩原 匡貴 平沢 尚彦 森本 真司 原 圭一郎 橋田 元 山形 定
出版者
国立極地研究所
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2004

両極におけるエアロゾルの航空機集中観測を通じ、極域のエアロゾルにとって、南極・北極ともに,大気の長距離輸送過程が支配的であることが明らかになり、気候影響の大きい黒色炭素の問題等も興味ある発展が期待される。1.16年度5〜6月に、ドイツ、アルフレッド・ウェーゲナー極地海洋研究所(AWI)と共同で、同航空機2機を使った「北極対流圏エアロゾル雲放射総合観測(ASTAR 2004)」を実施した。航空機による散乱係数,吸収係数とも汚染の度合いの高かった北極ヘイズの活発な時期であったASTAR 2000の3〜4月の結果に比べいずれも低めの値が示されたほか、黒色炭素粒子が硫酸液滴に取り込まれた内部混合粒子が卓越することが明らかにされた。また、地上では降水に伴うエアロゾルの除去過程が観測され、エアロゾルと雲の相互作用が類推された。2.18年12月から19年1月にかけて、引き続きAWIの航空機による南極域での「日独共同航空機大気観測(ANTSYO-II)」を実施した。大西洋セクターではノイマイヤー基地を中心に内陸のコーネン基地まで、合計22フライトを実施し、インド洋セクターの昭和基地側では大陸上S17拠点をベースに内陸、海洋上水平分布と鉛直分布を取得する観測飛行を合計15フライト実施した。エアロゾルの物理、光学、化学特性の3次元分布を得たと共に、温室効果気体の鉛直分布を得るための大気試料採取も行った。南極大陸沿岸域でも、西経側に位置するノイマイヤー基地周辺では、大気が南極半島側から輸送されることが多く、一方東経側に位置する昭和基地では、南大洋を越え南米大陸からの輸送が多いことが、エアロゾルの性質を特徴づけていること、さらに昭和基地近傍で内陸からの大気の中にも黒色炭素の多いエアロゾルが見られることが明らかになった。そのほか、昭和基地観測、海鷹丸観測と併せ、海洋起源物質の寄与の解明も期待される。
著者
石澤 良昭 VELIATH Cyril 片桐 正大 上野 邦一 菱田 哲郎 後藤 章 青柳 洋治 村井 吉敬 中尾 芳治 荒樋 久雄
出版者
上智大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2002

ミャンマー・マンダレー管区パガン地域およびマンダレー地域の調査研究旅行経路:成田(関空)-バンコック-ヤンゴン-パガン-ヤンゴン-バンコック-成田(関空)<国内における準備活動>(1)ミャンマーに関する水利灌漑関連の文献資料、農業関係資料(特にJETROアジア経済研究所図書館)の調査、収集、(2)パガン遺跡調査、エーヤーワディ川に関するビルマ語文献、英領時代のチャウセー地方の灌漑調査報告書、農機具調査報告書、灌漑水路による乾季作調査などに基づき調査方法の確定、など。<現地における調査・研究活動>1)ミャンマー文化省を表敬訪問、考古局長U Nyun Han氏と打ち合わせ会議:担当官の同行による現地調査地点の確認と調査地の事前通告の再確認。マンダレー・チャウセー灌漑局と打ち合わせ。2)ビルマ語の灌漑地図:地図および報告書の収集と同時に検分。チャウセー農業報告書の主要部分の英訳作成。3)マンダレー、チャウセーおよびパガン調査:(1)乾燥地帯と在地灌漑技術の痕跡調査。(2)シャン高原に源を持つ水量豊かな複数の河川とチャウセーとの複合扇状地調査。(3)古い形の集住社会(カヤイン)単位の検証と灌漑稲作の関係調査。(4)パガン王朝諸王の灌漑施設建設、大人口の集中と寺院建設の検証(5)当時の河川交通による交易とコスモポリタン的パガン文化の調査。(6)寺院仏塔のレンガ材と水利構造物の建築方法調査(建築班、考古班):一部オーガによるボーリング(7)チャウセー地方の河川取水による古水利網調査(灌漑工学班):往時の生産高と村落配置の考察(8)パガン都城と内陸交易物産と村落経済調査(社会経済班)(9)修復中の仏塔・寺院調査(歴史・考古班)4)研究協力者:U Nyun Han(ミャンマー文化省・考古局長)パガン保存修復担当
著者
多田 隆治 SUN Youbin
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2004

中国内陸乾燥域から飛来する風成塵は、北半球の気候や北太平洋域の生物生産に大きく影響している。こうした影響を評価する上で、風成塵の発生,運搬、堆積過程を知る事は重要であり、そのためには風成塵の供給源を知る必要がある。そこで、風成塵の鉱物・化学組成を利用し供給源を推定する試みが行われてきたが、未だに有効な手段は確立されていない。我々は、その原因が、鉱物・化学組成の粒度依存性や、風化・変質の影響が十分考慮されていない事にあると考え、風成塵の主要構成鉱物であり、風化・変質にも強い石英に的を絞り、その形成年代、晶出温度/速度という2つの指標で特徴づける事を考えた。石英の電子スピン共鳴(ESR)信号強度は母岩の形成年代を反映し、結晶化度(CI)は晶出温度や速度を反映する。そこでまず、中国、モンゴルの9砂漠について表層試料を採集し、5つの粒度区分に分画して、各粒度区分中の石英のESR信号強度とCIを測定した。その結果、16μm以下、32-64μ、64μm以上の3つの粒度区分が、それぞれ異なるESR信号強度とCIで特徴付けられ、異なる運搬様式に対応する事がわかった。特に16μm以下は、風による高高度運搬によると考えられた。そこで、9砂漠から採取された37試料について、特に、16μm以下の石英についてESR信号強度とCIを測定し、ESR信号強度対CI図上にプロットした結果、9砂漠全てが図上の異なる領域にプロットされ、明確に識別出来る事が明らかになった。全データは、タクラマカン、テンガー、グルバンチュンギュット、ゴビ(モンゴル)の4砂漠に対応する領域を結んだ4角形の中にプロットされるが、これら4砂漠はそれぞれクンルン、キリアン、アラタウ、アルタイ山脈の麓に位置し、それら山脈から供給された土砂を起源とすると考えられる。それに対し、他の5砂漠は、これら4砂漠起源の砕屑粒子の混合で説明出来る。
著者
高岸 治人
出版者
北海道大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

2010年度は6月に京都市内にある私立小学校にて、小学生を対象とした分配ゲーム(独裁者ゲーム)を実施し、他者が見ている状況と他者が見ていない状況という2つの状況における分配行動を比較するという実験を行った。参加者は2年生から6年生までの児童約210名であり、自身とお友達の間で10枚のコインチョコレートをどのように分けるかという課題を行った。その結果、他者から見られている状況では、男女ともに学年が上がるにつれて友達への分配個数が増加するというパタンを見せた。特に、小学校低学年では、他者が見ている状況でも友達にお菓子を渡さない傾向が見られたが、小学校中学年以降では、友達にお菓子を渡す傾向が見られた。しかし、他者が見ていない状況では、女児は他者が見ている状況と同様のパタンを示したが、男児はいずれの学年においても友達に対してお菓子を渡さない傾向を示した。これらの結果は、他者が見ている状況では、小学校中学年以降になると他者の目を意識するようになるために、友達に対して利他的になること、そして、少なくとも男児においては他者が見ていない状況では、友達に対して利他的にはならないことが明らかになった。この結果を踏まえて、現在、何故、利他行動における他者の監視の効果に性差が見られたのかを調べる実験、そして、利他行動における他者の監視の効果を支える認知発達的な基盤(例えば心の理論の発達)を調べる追加実験を計画している。
著者
川嶋 紘一郎 西村 尚哉 林 高弘 伊藤 智啓 古村 一朗 三留 秀人 杉田 雄二
出版者
名古屋工業大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2000

本研究は,構造物内部あるいは接合界面に存在する、線形超音波あるいは放射線等で検出不可能な、微細な不完全結合部(マイクロクラック、キッシングボンドなど)を非破壊的に検出するため,大振幅超音波を入射し不完全接合部の繰返し打撃・摩擦により励起される,2次高調波(入射波周波数の2倍の周波数を持つ波)振幅を計測し,入射波振幅に対する比を2次元画像表示する装置の開発を目的とした.主な研究成果は以下の通りである.1)従来の固体の非線形超音波計測法と異なり,超音波素子を試験片に貼りつけることなく,市販の大振幅超音波発生装置,超音波センサーを用いて、0.4%以上の2次高調波振幅比(感度は0.1%)を測定する方法を開発した.これにより材料・構造の任意の位置での高調波計測が可能になる。2)水浸集束センサーを用いて固体接合部に超音波エネルギーを集中させ,発生した高調波を広帯域のハイドロフォンで検出する計測システムを開発し、線形超音波法では界面反射波が検出できない程度の、ごくわずかな拡散接合界面特性の変化を検出できることを実証した。これによって,従来法では不可能であった,高信頼性が要求される航空機ロケット,自動車などの高品位接合部の構造健全性評価が可能となる.3)閉口疲労き裂面で励起される漏洩表面波の2次高調波を測定することにより,深さが1-2mmのき裂深さを定量的に計測する方法を開発した。これにより圧力容器の開放点検時に閉口しているき裂状欠陥のその場非破壊寸法測定が可能となる。4)固体材料中あるいは表面に存在するナノメートル程度の隙間を模擬する接触要素を用いて,大振幅超音波によりそれら隙間で励起される2次高調波の発生・伝播状況を可視化する動的有限要素法を開発した.5)特許【非線形超音波による接合界面健全性評価法及び装置】の出願準備中である.6)本研究を契機に非線形超音波による材料評価に関する2件の民間との共同研究を実施している。
著者
山中 真人
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

素粒子物理・宇宙物理には説明困難な問題が残されており、それに伴い標準模型を超える模型が多数提唱されてきた。本研究の目的として、【標準模型を超える新模型の特定】、並びに、【その新模型が持つパラメーター値の決定】の2点を掲げる。本研究では、目的達成に向け、宇宙論的観測量と理論予測の整合性を課すことで直接的に、また、レプトンフレーバー数非保存過程に関する実験結果と理論予測の整合性の観点から間接的に攻めてきた。さらに、LHCにおける各模型の特徴的信号についても議論してきた。こういった統合的かっ相補的アプローチにより、異なる模型がもたらす同一実験結果が招く混乱等を回避し、新模型のパラメーター値の決定や、模型の確立を進めた。2009年度に行なった研究は、大きく分けて2つである。1つ目は、昨年末、CDMS実験により報告された暗黒物質の直接検出と思われるシグナルに応じた研究である。研究を通じ、CDMS実験の結果が超対称性模型、及び、模型における暗黒物質の性質にもたらす示唆を明らかにした。2つ目は、荷電レプトンフレーバー数非保存過程を通じた、標準模型を超える模型の探索である。我々は、荷電レプトンフレーバー数非保存を伴い、かつ、将来実験で十分な精度をもたらすことができる新たな反応【ミューオニック原子中におけるmu^-e^-->e^-e^-】を提案した。本反応の探索実験の実現化へ向け、今後も研究を進めていく予定である。
著者
池水 信二
出版者
熊本大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2011-04-01

インターロイキン(IL)-23は、Th17細胞の活性化を介して炎症性自己免疫疾患に関わる。IL-23の受容体は、IL-23RとIL-12Rβ1からなる。IL-23と受容体の結合を阻害すると、疾患の病状が緩和される。IL-23については、米国の2グループにより修飾糖を切除した試料、我々により糖修飾形状の蛋白質の構造が明らかにされた。本研究の目的は、IL-23と2つの受容体IL-23RおよびIL-12Rβ1との認識機構を構造生物学的に明らかにすることである。IL-23RおよびIL-12Rβ1の構造解析を目指して、GSTを融合させたIL-12Rβ1の細胞外ドメインを大腸菌を用いて発現させ、精製を行った。酵素を用いてタグの切除を行ったが、効率良くGSTを切り離すことに成功出来ていない。現在、GSTを切除する条件を検討中である。IL-23Rについては、細胞外に3つのドメイン(D)があるが、どの領域を介してIL-23と結合するのか、明らかにされていない。D1, D2-D3, D1-D3の発現を、大腸菌・動物細胞を用いて試みた。D2-D3について大腸菌を用いて発現させることに成功した。D1を含む試料については、大腸菌と動物細胞の両方で発現させることが出来ていない。調製したD2-D3を用いて結合実験を行ったところ、リガンドとの結合が確認出来なかった。現在、D1およびD1-D3の発現系の構築を進めているところである。IL-23/IL-12Rβ1複合体の調製・結晶化。精製したIL-12Rβ1とIL-23混ぜて複合体として精製を行った。その後、微量結晶化装置モスキートを用いて結晶化を行ったところ、微結晶を得た。現在、構造解析に適した質およびサイズの結晶を得るため、結晶化条件の精密化を進めているところである。
著者
岩田 好一朗 川嶋 直人 富田 孝史 水谷 法美 渡辺 増美
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1996

本年度は,非線形2方向波と非線形多方向波を対象として,斜面上に設置された大口径円筒構造物に作用する波力の発生機構と波変形の研究を行うと共に,3年間の研究のまとめを行った.平成8年度から平成10年度に亘って得られた成果は,次の様に要約される.1) 単円柱に作用する一方向不規則波の作用波力を,有義波や1/10最大波などのような代表波として,規則波換算して求めることには無理がある.2) 単円柱に作用する多方向不規則波の波力は,方向集中度パラメターにより変化する.しかし,主波向き方向の波力は,方向集中度パラメターが大きい方が大きくなるとは限らない.斜面上では、波の屈折により,沖波の方向集中度パラメターの変化に伴う,発生波力の変化特性は,一定水深の場合と異なる3) 二円筒構造物の場合の作用波力は,波の方向集中度パラメターが小さいとき,方向集中度パラメターより,円筒構造物の設置間隔と波の周期に支配される.方向集中度パラメターが大きくなるにつれて,構造物どうしの回折波の影響は,明瞭でなくなる.4) 多方向不規則波浪場に複数の大口径円筒構造物を近接して設置する場合,外側円筒構造物の外側域の波高分布は,構造物の設置間隔に依存しないが,内側域では,部分重複波が形成されるので,円筒構造物の間隔が小さい程,波高は大きくなる.従って,円筒構造物表面の作用波力も,円筒構造物の設置間隔が狭くなるほど,大きくなる.一方,外側円筒構造物の外側域の波高は,波の方向集中度パラメターが大きい程,大きくなるので,外側円筒構造物の外側表面に作用する波力も,波の方向集中度パラメターが大きくなるにつれて,大きくなる.
著者
岩田 好一朗 川嶋 直人 富田 孝史 水谷 法美 IWATA Koichiro 渡辺 増美
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1996

平成10年度は,傾斜面に設置された潜堤を取り上げて研究を行った.多方向不規則波造波水槽に1/20の一様勾配斜面上に不透過潜堤を設置して,潜堤天端水深と作用波(多方向不規則波)を変化させた詳細な実験を行い,ヴィデオテープレコーダと本研究で開発した砕波水位計を使って,砕波限界を計測した.水理実験は,研究代表者と分担者が共同で行った.そして,水理実験値を解析して,多方向不規則波の砕波状況を考究すると共に,砕波限界の定式化を行った.そして,10年度の成果を含めて,3年間の研究成果のまとめを行った.平成8年から平成10年の3年間で得られた成果は,次のように要約される.1) 多方向不規則波の砕波を高精度で計測する水位計がなかったので,世界に先駆けて,12本のセンサーから構成される砕波水位計を開発した.2) 多方向不規則波の方向集中度パラメター,S_<max>が大きくなるにつれて,砕波相対波高、H_b/R(H_b:砕波波高,R:天端水深)が平均的に小さくなり,砕け易くなる.3) 多方向不親則波の限界波形勾配,H_b/L_o(L_o:深海波としての波長)は,H_b/L_o=0.107tanh(k_oR)で精度高く算定できる(k_oは深海における波数である).4) 砕波相対波高,H_b/Rの実験値はばらつくが,その分散度合は、方向集中度パラメター,S_<max>が小さくなるにつれて,大きくなる.5) 潜堤の横先端部での砕波波高は,急激な屈折の影響を受けるので,潜堤中央部での砕波波高より,一般的に大きくなる.
著者
西嶋 尚彦 長谷川 聖修 尾縣 貢 國土 将平
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2004

本研究は「子どもの体力低下要因について発育発達および社会生活的側面から体系的,総合的に調査研究し,体カ低下の要因」を究明することを目的とした先行研究プロジェクトを発展的に継承し,子どもの体力向上プログラムの実践的検証と,そのための運動,遊び,生活習慣改善に関する科学的根拠を総合的に解明するものであった.以下の4つのサブプロジェクトを実施した.課題a)走・跳・投などのスポーツに基礎的運動の成就と習熟を決定する主要動作実験協力校を依頼し,関連する単元で疾走向上プログラムを実践し,単元の前後に運動動作の成就と体力を測定した.構造方程式モデリングを適用して,小学生の疾走運動の成就と習熟を決定する主要動作と技能を分析した.課題b)健康のための体力つくり運動の運動特性と体力向上効果実験協力校を依頼し,体力つくりに関連する単元で体力向上プログラムを実践し,新体力テストを用いて体力測定を実施した.小学校と中学校での体力向上プログラムの効果を実践的に検証した.課題c)体力向上に有益な運動遊びの体力・運動特性基本運動の熟練者である体育専攻学生と未熟練者の一般学生男女を対象として,基本的運動遊びである蹴球の体力・動作・運動・戦術特性を検討するために,項目反応理論分析を適用して.蹴球動作・運動・戦術の成就と習熟のための達成度評価基準を分析した.課題d)体力向上のための主体的な生活習慣改善を決定する要因実験協力校を依頼し,体力つくりに関連する単元で体力向上プログラムを実践し,健康習慣,運動習慣,生活時間など健康生活に関する調査と体力測定を実施した.小学生と中学生の体力向上のための主体的な運動生活習慣の改善を決定する要因を分析した.
著者
高橋 信二
出版者
東北学院大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

本研究では,中高齢者の身体活動量を従来の方法(回帰法)と研究代表者が開発した方法(FCS法)の比較を行った.成果は以下の通りである.成果1:FCS法は回帰法よりも身体活動量を高く評価する.この結果は,生体の動的特性をFCS法が反映したものである成果2:一方,両方法の健康状態の変化に対する関係性はほぼ同等で低い値であった.分析手続きの複雑さを考慮すると回帰法の方が一般性に優れることが示唆された.
著者
畑 雅恭 井手口 哲夫 安川 博 内匠 逸 奥田 隆史 北村 正 足立 整治 山口 栄作 田 学軍
出版者
中部大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1999

1.大気環境で計測される放射電磁波の一部は、地殻からの放射である事が観測と研究を通じて明らかになった。高感度な観測機器システムを開発し、北海道釧路から九州熊本まで中部日本を中心に約40個所の観測点を配置し、3軸磁界6秒毎の観測を24時間体制で実施し、地震・火山噴火活動に対応した電磁波前兆を検出し、事象との対応の調査と取得データの解析を行った。2.2000年夏の三宅島火山噴火活動、2001年春の静岡県中部地震活動、秋から暮れにかけて富士山低周波地震活動、2002年春より伊勢湾周辺の潜り込むフィリピン海プレート境界での地震の多発、2002年2月中旬より宮城県北部や県沖での地震活動、2003年初めより東海道沖地震活動など多くの地殻活動イベントが発生したが、それらに対応した特異な電磁放射を観測でき、多くのデータを収集した。大規模な平成15年5月の三陸南地震M7.0では、宮城県北部で約1年3ヶ月の長期の電磁波前兆が観測され、事態の推移をフォローした。観測点周辺の地殻異常の判断が正しかったことと、1年程度の事前放射異常の存在が確認された。観測事象のネットワーク公開も平成13年秋より実施し多数の閲覧を得ている。3.電磁波の放射状態から地殻歪の集積状態やその移動・推移状態が推定できれば、事態を予測する上で意義が高い。音響学的解析により、放射特徴量の抽出とパターン化、およびそのデータベース化を行った。地震の前に標準パターンからの偏移異常が発生したことを確認した。また、デジタル信号処理による独立成分解析によって熱帯雷放射雑音の分離除去が可能となった。また主成分解析によって前兆放射の特徴抽出、電磁放射領域の特定について評価し成果を得ることができた。4.活動の予測される地域を垂直電磁放射波の検出範囲である約20kmメッシュ毎に詳細観測すれば、地震・火山噴火の規模と活動域のほか事態の推移について多くの情報が得られることがわかった。今後、関東南部、東南海等の活動の予測される地域において、電磁波前兆観測の性能と限界を評価する必要がある。